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抗がん剤報告書:デキサメタゾン


1.報告書の対象となる療法等について

療法名 デキサメタゾン
dexamethasone
未承認効能・効果を含む医薬品名 デキサメタゾン(dexamethasone)、リン酸デキサメタゾンナトリウム(dexamethasone sodium phosphate)
未承認用法・
用量を含む医薬品名
デキサメタゾン(dexamethasone)、リン酸デキサメタゾンナトリウム(dexamethasone sodium phosphate)
予定効能・効果 抗悪性腫瘍薬(シスプラチンなど)投与に伴う消化器症状(悪心・嘔吐)
予定用法・用量 (使用する薬剤をすべて記載。適応外効能・効果、用法・用量を含む医薬品に下線。適応外用法・用量に下線。)
薬剤名 用法・用量
デキサメタゾン 内服  1日4〜20mg,1〜2回分服(最大20mgまで)
デキサメタゾン 注射  1回4〜20mg,1日1〜2回静注(最大20mgまで)

2.公知の取扱いについて

(1) 無作為化比較試験等の公表論文
1. Ioannidis JPA; Hesketh PJ; Lau J, Contribution of dexamethasone to control of chemotherapy-induced nausea and vomiting: a meta-analysis of randomized evidence J Clin Oncol 18(19):3409-22. 2000
(2) 教科書
1. Nausea and Vomiting, CANCER Principles & Practice of Oncology 6th Edition (Edited by DeVita VT Jr, Hellman S, Rosenberg SA) 2869-2880,2001
(3) peer-review journalに掲載された総説、メタ・アナリシス
1. Ioannidis JP; Hesketh PJ; Lau J, Contribution of dexamethasone to control of chemotherapy-induced nausea and vomiting: a meta-analysis of randomized evidence J Clin Oncol 18(19):3409-22, 2000.
(4) 学会又は組織・機構の診療ガイドライン
1. Gralla RJ, et at: ASCO Clinical Practice Guideline, Recommendations for the use of antiemetics: evidence-based, clinical practice guidelines. J Clin Oncol 17(9): 2971-2994, 1999
2. National Comprehensive Cancer Network (NCCN): Antiemesis Version 1, 2004
3. NCI PDQ (The U.S. National Cancer Institute), Nausea and Vomiting: http://www.cancer.gov/cancertopics/pdq/supportivecare/nausea/HealthProfessional/page1
(5) 総評
 抗悪性腫瘍薬投与に伴う悪心・嘔吐に対して、今までに報告された試験結果を考察し、以下の理由より、用法・用量がデキサメタゾン内服1日4〜20mg,1〜2回分服(最大20mgまで)、注射1回4〜20mg,1日1〜2回静注、の有用性は認められると考えられる。
1) 抗悪性腫瘍薬投与に伴う悪心・嘔吐に対して、5613例、32のtrialをまとめたメタ・アナリシスによると、デキサメタゾン投与群は、デキサメタゾン非投与群(プラセーボまたは無治療)に比べて、制吐効果が上回っていた(急性嘔吐でリスク比:1.26、遅発性嘔吐で1.29)(J Clin Oncol 2000 Oct 1;18:3409-22)。
2) 用法・用量がデキサメタゾン内服1日4〜20mg,1〜2回分服(最大20mgまで)、注射1回4〜20mg,1日1〜2回静注(最大20mgまで)の主な有害事象は、だるさ、頭痛、上腹部痛、発疹などである。国内においては既に十分な使用経験があり、デキサメタゾン使用においての安全性に関しては特に問題ないと考えられる。

3.裏付けとなるデータについて

臨床試験の試験成績に関する資料
1. Ioannidis JP; Hesketh PJ; Lau J, Contribution of dexamethasone to control of chemotherapy-induced nausea and vomiting: a meta-analysis of randomized evidence J Clin Oncol 2000 Oct 1;18(19):3409-22
 抗悪性腫瘍薬投与に伴う悪心・嘔吐に対するデキサメタゾンの効果を評価するメタ・アナリシスが行われた。1966年から1999年までのMEDLINE,Embase,Cancerlit,Derwent Drug File,Cochrane Libraryのデータベースから抗悪性腫瘍薬投与に伴う悪心・嘔吐に対するデキサメタゾンのランダム化比較試験の論文を検索した。論文は、英文に加えて、中国語、フランス語、ドイツ語、ギリシャ語、イタリア語も許容した。デキサメタゾン投与群対、デキサメタゾン非投与群(プラセーボ、無治療、または他の制吐剤)とのランダム化比較試験に限定した。
 1200論文がスクリーニングされ、82の論文が抽出された。そのうち、4つの論文が英語以外の言語であり、1つがフランス語、1つがイタリア語であったが、解析からは除外された。2つの日本語論文もあったが、手に入らなかった。MEDLINEになく、Embaseにのみ見つかった試験が3つあったが、そのうち、1つが今回の解析に入れられた。80の入手できた論文のうち、48の論文が解析から除外された。そのほとんどはサンプルサイズが少なくデータの質が低いものであった。24がクロスオーバーデザインで最初のデータが抽出できなかった。その他は、結果が薬理学的なもののみで解析できず(2つ)、多コースに渡るデータでランダム化していないデータも含まれる(3つ)、異なるタイミングでのデータの比較(1つ)、異なる投与量での比較(1つ)、デキサメタゾンとACTHとの比較(1つ)、デキサメタゾンと他の薬剤を交えた比較(2つ)、ランダム化の方法が記載していない(2つ)、重複投稿(12)であった。48論文が除外され、32論文、42の比較データ、5613例(評価可能例5457例)がメタ・アナリシスの対象となった。そのうち、17が多施設共同試験の結果であった。ほとんどの試験が前抗悪性腫瘍薬投与を受けていなかったが、12の試験で前抗悪性腫瘍薬投与を受けていた。7つがクロスオーバーデザインであった。4つが非盲検試験であり、3つが単盲検試験で、残りは二重盲検試験であった。全ての試験において、5-HT3拮抗剤とデキサメタゾンが投与されていた。37の試験、42の比較データで、デキサメタゾン対プラセーボもしくは無治療と比較された。37のうち、34の試験で他の制吐剤の使用が両群で許容された。ほとんどの試験でシスプラチン50mg/m2が投与されたが、7つの試験はシスプラチン20-50mg/m2が投与されており、1つの試験でシスプラチン以外の薬剤が投与された。デキサメタゾンの投与量は、8-100mgの幅があり、半数の試験では20mgが使われた。平均総投与量は56mgであった。全ての試験で急性期にはデキサメタゾンが静注された。
 デキサメタゾン投与群はデキサメタゾン非投与群に比べて、25の試験での急性嘔吐(抗悪性腫瘍薬投与後24時間以内の嘔吐)において、完全制御率が優れていた(リスク比1.26、95%信頼区間1.21-1.32)、また、遅発性嘔吐(抗悪性腫瘍薬投与24時間以降の嘔吐)でも16の試験の結果、デキサメタゾン投与群の方が優れていた(リスク比1.29、95%信頼区間1.18-1.40)。5-HT3拮抗剤が両群に投与され、デキサメタゾン投与群対プラセーボもしくは無治療と比較したデータに限ってみても、急性嘔吐完全制御率(22の比較データ)、遅発性嘔吐完全制御率(18の比較データ)がデキサメタゾン投与群が優っていた(リスク比1.25、1.34)。
 有害事象のデータは不完全であり、その質はあまり高くないが、ほとんどの試験では軽微であり、耐容可能であったと報告されている。いくつかの試験でしゃっくりや消化器症状がデキサメタゾン投与群に報告されている。1例のみデキサメタゾン投与群で吐血が報告されている。

4.本療法の位置づけについて

他剤、他の組み合わせとの比較等について
 シスプラチンなどの吐き気が強い抗悪性腫瘍薬投与に伴う急性嘔吐に対しては、5-HT3拮抗剤との併用が推奨される(ASCO Clinical Practice Guideline, J Clin Oncol 17(9): 2971-2994, 1999, J Clin Oncol 18(19):3409-22, 2000)。遅発性嘔吐に対しては、デキサメタゾン投与に加えて、metoclopramideや5-HT3拮抗剤投与が推奨される(ASCO Clinical Practice Guideline, J Clin Oncol 17(9): 2971-2994, 1999)。臨床試験の成績としては、5-HT3拮抗剤が両群に投与され、デキサメタゾン投与群対プラセーボもしくは無治療と比較したランダム化比較試験で、急性嘔吐完全制御率(22の比較データ)、遅発性嘔吐完全制御率(18の比較データ)において、デキサメタゾン投与群が優っていた(J Clin Oncol 18(19):3409-22, 2000)。
吐き気がそれほど強くない抗悪性腫瘍薬投与(イリノテカン、ミトキサントロン、パクリタキセル、ドセタキセル、マイトマイシン、ゲムシタビン、エトポシドなど)に伴う急性嘔吐に対しては、デキサメタゾンのみが推奨される(ASCO Clinical Practice Guideline, J Clin Oncol 17(9): 2971-2994, 1999)。
 デキサメタゾンとmetoclopramideとのランダム化比較試験の結果から、急性嘔吐完全制御率,遅発性嘔吐完全制御率において、デキサメタゾンが優っていた(リスク比1.11、95%信頼区間1.00-1.25、リスク比1.16、95%信頼区間0.75-1.80)(J Clin Oncol 18(19):3409-22, 2000、J Clin Oncol 2:466-471, 1984, Support Care Cancer 5:387-395, 1997, Jpn J Clin Oncol 16:279-287, 1986)。
 以上の結果から、デキサメタゾンは抗悪性腫瘍薬投与に伴う悪心・嘔吐に対して標準的治療として確立された治療法であると考えられる。

5.国内における本剤の使用状況について

公表論文等
 国内において、抗悪性腫瘍薬投与に伴う悪心・嘔吐に対してデキサメタゾン投与は、ASCO Guideline(J Clin Oncol 17(9): 2971-2994, 1999)や教科書での記載などにより標準的治療であるという位置づけが確立されており、一般臨床で広く使われている状況である。
 公表論文として、Shinkai T, et al: Antiemetic efficacy of high-dose intravenous metoclopramide and dexamethasone in patients receiving cisplatin-based chemotherapy: A randomized controlled trial. Jpn J Clin Oncol 16:279-287, 1986、Sekine I, et al. Phase II study of high-dose dexamethasone-based association in acute and delayed high-dose cisplatin-induced emesis--JCOG study 9413. Br J Cancer.76(1):90-2. 1997 、Sekine I, et al. A randomized cross-over trial of granisetron and dexamethasone versus granisetron alone: the role of dexamethasone on day 1 in the control of cisplatin-induced delayed emesis. Jpn J Clin Oncol. 26(3):164-8. 1996 などが報告されている。
 Shinkaiらは、肺癌患者に対する抗悪性腫瘍薬投与に伴う悪心・嘔吐に対して、デキサメタゾンのランダム化比較試験を報告した。適格条件を、肺癌患者、前抗悪性腫瘍薬投与なし、PS0-3、除外条件を、コントロール不良の糖尿病、活動性の消化性潰瘍、精神疾患とした。全ての患者から署名でのインフォームド・コンセントが得られた。全ての患者にシスプラチン80-120mg/m2が投与された。小細胞性肺癌患者には、加えてエトポシド100mg/m2day1-3が投与され、非小細胞性肺癌患者には加えてビンデシン3mg/m2が毎週投与された。組織型(小細胞性、非小細胞性)で層別化され、ランダムに割りつけられた。シスプラチン80mg/m2の投与をされた患者はmetoclopramideまたは、デキサメタゾンに割りつけられた。シスプラチン120mg/m2の投与をされた患者は、metoclopramide+デキサメタゾンまたは、metoclopramide+プラセーボに割りつけられた。Metoclopramideは2mg/kg静注2時間毎4回投与された。デキサメタゾンは、シスプラチン投与30分前に16mg点滴静注され、その後、8mgをシスプラチン投与後1.5時間後、3.5時間後、5.5時間後に投与された。Promethazine25-50mg静注がmetoclopramideの錘体外路症状予防のため両群に投与された。その他の制吐剤はシスプラチン投与12時間前、24時間後まで投与禁止された。
 Metoclopramide対デキサメタゾンの結果:1984-1985まで29例が登録された。表1に患者背景を示す。
 表1
  Metoclopramide デキサメタゾン
患者数 18 11
性別 男性/女性 15/3 6/5
年齢 61(37-78) 64(53-76)
PS 0-1/2-3 17/1 10/1
脳転移 5 1
抗悪性腫瘍薬    
 シスプラチン単独 1 0
 シスプラチン+ビンデシン 9 4
 シスプラチン+エトポシド 8 7
 急性嘔吐完全制御率はmetoclopramideで39%、デキサメタゾンで27%であった。遅発性嘔吐完全制御率はmetoclopramideで67%、デキサメタゾンで55%であった。共に有意差は認められなかった。有害事象を表2に示す。毒性は全般的に軽微であった。Metoclopramideで眠気、下痢が多かった。
 表2
  Metoclopramide デキサメタゾン
アカシジア 2 0
振戦 1 0
ジストニー 1 0
眠気 7 1
不眠 1 0
めまい 1 0
頭痛 1 1
熱感 5 1
悪寒 2 1
口腔乾燥 2 2
下痢 6 1
多幸感 0 1
 Metoclopramide+プラセーボ対metoclopramide+デキサメタゾンの結果:1984-1986年まで23例が登録された。表3に患者背景を示す。
 表3
  Metoclopramide+プラセーボ Metoclopramide+デキサメタゾン
患者数 11 12
性別 男性/女性 8/3 5/7
年齢 54(31-70) 55(36-71)
PS 0-1/2-3 11/0 11/1
脳転移 0 0
 最初のコースでの急性嘔吐完全制御率はmetoclopramide+プラセーボで27%、metoclopramide+デキサメタゾンで92%であった。遅発性嘔吐完全制御率はmetoclopramide+プラセーボで37%、metoclopramide+デキサメタゾンで23%であった。有害事象を表4に示す。Metoclopramideにデキサメタゾンを加えることで、特徴的な有害事象は認められなかった。
 表4
  Metoclopramide+プラセーボ Metoclopramide+デキサメタゾン
アカシジア 3 4
ジストニー 2 1
眠気 7 6
不眠 3 3
めまい 1 0
頭痛 3 3
熱感 7 5
悪寒 2 1
口腔乾燥 1 5
下痢 6 6
多幸感 0 1
 SekineらはJCOG(Japan Clinical Oncology Group)の臨床試験として、肺癌患者に対する抗悪性腫瘍薬投与に伴う悪心・嘔吐に対するデキサメタゾンの臨床第二相試験の結果を報告した。適格条件を、肺癌患者、年齢15-74歳、PS0-2、前抗悪性腫瘍薬投与なし、十分な臓器機能を有する患者とし、除外条件をコントロールされない脳転移、糖尿病、心疾患、精神疾患、活動性の消化性潰瘍・感染症、B型肝炎、ステロイドに対する過敏症の既往のある患者とした。シスプラチン80mg/m2day1、ビンデシン3mg/m2day1 and 8,マイトマイシン8mg/m2day1または、シスプラチン80mg/m2day1、エトポシド100mg/m2day1-3を投与した。制吐剤として、グラニセトロン40ug/kgday1、metoclopramide10mg1日3回day2-5、デキサメタゾン32mg/m2day1-3,16mg/m2day4,8mg/m2day5に投与した。
 33例が登録された。患者の背景は、21例が男性、年齢の中央値は57歳(40-74歳)、PS0が3例、1が29例、2が1例、シスプラチン/ビンデシン/マイトマイシンが29例、シスプラチン/ビンデシンが1例、シスプラチン/エトポシドが3例であった。急性嘔吐完全制御率は85%であった。遅発性嘔吐完全制御率は60%であった。有害事象は、116-160mg/dlの高血糖が42%、161-250mg/dlの高血糖が9%に見られたが、治療は有さなかった。しゃっくり61%、落ち着かないなどの症状が18%に見られ、metoclopramideを中止した。便秘73%、眠気36%、頭痛30%、めまい30%、振戦12%、下痢12%であったが、全て軽度であり、自然消失した。

6.本剤の安全性に関する評価

 デキサメタゾンによる主な有害事象は、高血糖、眠気、頭痛、熱感、悪寒、口腔乾燥、下痢、多幸感、だるさ、上腹部痛、発疹などである。全般的に軽微であると思われるが、ステロイド投与による高血糖や消化器症状には十分注意を有する必要がある。コントロール不良の糖尿病や、消化性潰瘍の既往のある患者には投与を避けるべきである。

7.本剤の投与量の妥当性について

 抗悪性腫瘍薬投与に伴う悪心・嘔吐に対するデキサメタゾンの至適投与量を決定するため、シスプラチン50mg/m2以上を投与される患者に対して、デキサメタゾン4mg、8mg、12mg、20mgを投与するランダム化比較試験が行われた(J Clin Oncol 16(9):2937-42,1998)。急性嘔吐完全制御率はそれぞれ、69%、69%、79%、83%であり、20mg投与が最も優れていた(P<0.005)。Sekineらは32mgをday1-3まで投与するphase II studyを報告した(Br J Cancer.76(1):90-2,1997)が、ランダム化比較試験は行われておらず、20mgを越える高用量のデキサメタゾンの有用性は確立されていない。
 また、シスプラチンでないの抗悪性腫瘍薬投与(アンスラサイクリン、カルボプラチン、シクロホスファミド)に対するデキサメタゾンの至適投与量を決定するためのランダム化比較試験が報告されている(J Clin Oncol 22(4):725-9,2004)。587例を対象に、デキサメタゾン24mg、8mg、8mg+6時間毎に4mgを4回投与する3つの群に割りつけられた、全例にondansetron8mg、デキサメタゾン4mg1日2回day2-5までが投与された。結果として、それぞれの群間において、急性および遅発性嘔吐完全制御率に差は認められなかったことから、シスプラチンでないの抗悪性腫瘍薬投与(アンスラサイクリン、カルボプラチン、シクロホスファミド)において、デキサメタゾン投与は8mgを投与するのが推奨されると結論づけている。


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