療法名 | アクチノマイシンDを含む多剤併用療法 |
未承認効能・効果を含む医薬品名 | アクチノマイシンD(ユーイング肉腫、横紋筋肉腫) |
未承認用法・ 用量を含む医薬品名 |
アクチノマイシンD (ユーイング肉腫ファミリー腫瘍、横紋筋肉腫、ウイルムス腫瘍とその他の腎原発悪性腫瘍) |
予定効能・効果 | ユーイング肉腫ファミリー腫瘍、横紋筋肉腫、ウイルムス腫瘍とその他の腎原発悪性腫瘍 |
予定用法・用量 | 薬剤名および用法・用量 (1回投与法) アクチノマイシンD 1日1回 1.25-1.35mg/m2(体重30kg以上:1日最大投与量2.3mg)または0.045mg/kg(体重30kg未満)を静注または点滴静注 (分割投与法) アクチノマイシンD 1日1回 0.015mg/kg(1日最大投与量0.5mg)を静注または点滴静注、5日間連続投与 併用療法の場合、いずれも上記の用法・用量の範囲内で行う。 休薬期間は通常2週間で、前回の投与によって中毒症状が現れた場合は、中毒症状が消失するまで休薬する。 年齢、併用薬、患者の状態に応じて適宜減量を行う。 |
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http://www.cancer.gov/cancerinfo/pdq/treatment/ewings/healthprofessional/ 限局性のユーイング肉腫の標準治療はvincristine、doxorubicin、cyclophosphamideのVDC療法とifosfamide、etoposideのIE療法を交互に繰り返す治療である。高用量のDoxorubicinを用いれば治療効果が上がるというデータにより、近年、米国ではactinomycin Dは次第に使われなくなる傾向にあるが、欧州では依然actinomycin Dを使用し、米国と同等の治療成績を上げている。遠隔転移例に対する最適な治療はまだ定まっていない。 http://www.cancer.gov/cancerinfo/pdq/treatment/childrhabdomyosarcoma/healthprofessional/ 横紋筋肉腫の予後良好群はアルキル化剤を使用しないvincristine、actinomycinD、(VA)療法で安全に治療可能。中間リスク群ではGolden standard regimenであるvincristine、actinomycinD、cyclophosphamide(VAC)療法で良好な成績が得られる。完全切除できなかった胎児型、予後不良部位の胞巣型、遠隔転移例などの予後不良群に対する最適な治療はまだ定まっていない。 http://www.cancer.gov/cancerinfo/pdq/treatment/wilms/healthprofessional/ ウイルムス腫瘍のfavorable/unfavorable histologyを問わず、stage I-IV Wilms'tumorに対してはすべてpulse-intensive actinomycin D(0.045mg/kg/dx1日間)が推奨されている。明細胞肉腫(CCSK),横紋筋様腫瘍(RTK)に対してはactinomycin Dを含まないレジメンが推奨されている。Stage Vおよび再発型に対しては最適な治療はまだ定まっていない。 | ||||||||||||||||||||||||||||
(5) 総評 ユーイング肉腫、横紋筋肉腫、ウイルムス腫瘍において、アクチノマイシンDが第一選択の薬剤として推奨され、実際に世界各国で使用されている事が、上記の主要論文、総説、教科書の記載、および米国国立がん研究所(NCI)のホームページの記載、のいずれにおいても確認できる。以上の根拠からみて、ユーイング肉腫、横紋筋肉腫、腎芽腫の3疾患に対しての本剤を含む多剤併用療法の有効性、安全性は医学・薬学上公知であると判断できる。 |
臨床試験の試験成績に関する資料 | |||||||||
論文A-(1)Grier HE, et al: New Engl J Med 348:694-701,2003. VDC療法(ビンクリスチン2mg/m2,ドキソルビシン75mg/m2[48時間持続静注],シクロホスファミド1200mg/m2)を3週毎に繰り返す標準治療アームと、VDC療法およびIE療法(イホスファミド1800mg/m2,エトポシド100mg/m2)を3週毎に交互に繰り返す試験アームとの第III相比較試験(転移例を含む全398例)。VDC療法のdoxorubicinの総量が375mg/m2に達した時点で、doxorubicinはactinomycin D1.25mg/m2x1日に置換された。5年無病生存率は54%対69%と試験アームが優れ、標準治療となる可能性があると結論された。一方、治療関連合併症死は12例に発生した。そのうち7例は感染症,4例はdoxorubicinによる心毒性,1例が出血であった。 論文A-(2)Shanker AG, et al: Eur J cancer 35:1698-1704,1999. UKCCSGにおいて191例の限局例をET2レジメン(Vincristine2mg/m2、Doxorubicin20mg/m2×3又は30mg/m2×2、Actinomycin-D1.5mg/m2、Ifosfamide3g/m2×2,または×3)と併用し、3-4週毎に繰り返すIVAD療法を用いて治療した。10年のOSは69%、5年EFSは、67%であった。 論文A-(3)Paulussen M, et al: J Clin Oncol 19:1818-1829,2001. CESS86において、301人の小腫瘍量,四肢末端例の治療を行った。VCR,CY,DOX,Act-D(VACA)を用いて10年EFSは、52%と報告している。また腫瘍量が100mlを越える例や体幹に発症した症例には、VCR,IFM,DOX,Act-D(VAIA)を用いて10年EFSは、52%と報告している。用量はVincristine1.5mg/m2、Doxorubicin30mg/m2×2、Cyclophosphamide1200mg/m2×1又は400mg/m2×3、Ifosfamide3g/m2×3、Actinomycin-D0.5mg/m2×3であった。 論文A-(4)Bacci G, et al: Eur J Cancer 38:2243-2251,2002. 157例の限局性腫瘍を対象に、統一レジメンREN3で治療を行った単一施設の研究。術前化学療法は、Vincristine、Doxorubicin、Cyclophosphamide(VDC)とVincristine、ActinomycinD、Ifosfamide(VIAc)、術後化学療法は、それに加えてVincristine、ActinomycinD、Cyclophosphamide(VAcC)、Ifosfamide、Etoposideを併用した全27週の治療を行った。ActinomycinDは1.25mg/m2/dayx1を使用した。その結果5年EFSは71.0%,5年OSは76.5%であった。
論文B-(1)Maurer HM, et al: Cancer 61:209-220,1988. Intergroup rhabdomyosarcoma study(IRS)-Iでは、Group IではVACに放射線の有無でRCTを行い、非照射群(n=43)で5年DFS81%、OS93%、照射群(n=43)で5年DFS79%、OS81%であり、照射のメリットはなかった。 Group IIではVAC+照射とVA+照射でRCTを行い、前者(n=98)が5年DFS65%、OS70%、後者(n=87)が5年DFS72%、OS73%で、経口低容量のCyclophosphamide投与のメリットはなかった。Group III/IVではpulseVAC+照射にADRの有無でRCTを行い、ADR非投与群(n=146)が5年DFS39%、OS53%、ADR投与群(n=134)で5年DFS43%、OS51%でADRのメリットはなかった。生命を脅かす重篤な有害事象はドキソルビシン併用で24例、VAC群で19例。ドキソルビシン併用群では6名(3%)に心毒性が発現した。うち3例が軽症(心電図変化2、心肥大1)、3例が重症(心電図変化1、鬱血性心不全1、心肥大1)であった。 論文B-(2)Maurer HM, et al. Cancer 71:1904-1922,1993. IRS-IIにおいて、Group IではVAとVACとでRCTを行い、VA(n=37)で5年DFS70%、5年OS84%、VAC(n=64)で5年DFS80%、5年OS85%であった。VA群では局所再発が多かった。 Group IIではVAとpulseVACでRCTを行い、前者(n=45)がDFS69%、5年OS88%、後者(n=85)がDFS74%、5年OS79%であった。 Group IIIではドキソルビシンの有無でRCTを行い、ドキソルビシン非投与群(n=211)が5年CCR75%、5年OS66%、ドキソルビシン投与群(n=197)で5年CCR70%、5年OS65%であった。 Group IVではドキソルビシンの有無でRCTを行い、ドキソルビシン非投与群(n=83)が5年CCR38%、5年OS21%、ドキソルビシン投与群(n=88)で5年CCR38%、5年OS25%。 全999例のうち、毒性死亡は21人(2%)に認められ、そのうちわけは、感染症17、肝機能障害2、白質脳症1、脊髄脳幹の脱髄1であった。その他の副作用の重症度別内訳は、軽症27例、中等症138例、重症529例、生命を脅かす重篤な有害事象は181例(18%)であった。 論文B-(3)Crist W, et al: J Clin Oncol 13:610-630,1995. IRS-IIIでは、合計1062例を登録し、8種類のレジメンを複雑なデザインで比較している。予後良好部位原発を除いたGroup II胎児型横紋筋肉腫においてVA+放射線照射にドキソルビシンの有無で比較試験を行い、ドキソルビシン非投与群(n=23)投与群(n=51)においてそれぞれ5年全生存率54%、89%(p=0.03)、5年無病生存率56%、77%(p=0.08)とADR投与に優越性を認めた。また、Group I/II胞巣型に対してpulsed VAdrC-VAC+シスプラチン+放射線療法の治療を行い(n=99)、IRS-IIでのVAまたはVAC+放射線療法(n=89)と比較し、それぞれ5年全生存率71%、80%(p=0.01)、5年無増悪生存率59%、71%(p=0.02)とドキソルビシンとシスプラチンの追加が有意に優れていた。毒性のデータは以下の通り。シクロホスファミドを使用しないレジメンでは毒性死亡はなかったが、VACにドキソルビシンとシスプラチンを併用した33例中4例が毒性死亡した。IRS-III全体での毒性死亡32例中22例が好中球減少時の敗血症で死亡している。他の死亡原因は、呼吸窮迫症候群1、心毒性2、放射線毒性3、代謝異常2、中枢神経障害1、血小板減少に伴う出血と誤燕1。5例の急性骨髄性白血病が発生しているが4例はエトポシドが投与されていた。ドキソルビシンを投与された616例中57例(9%)に心毒性が出現し、28例が重症、2例が毒性死亡した。 論文B-(4)Crist WM, et al: J Clin Oncol 19:3091-3102,2001. 883人の遠隔転移を有さない横紋筋肉腫症例に対し、ビンクリスチン(1.5mg/m21日)、アクチノマイシンD(0.015mg/kg5日間)、シクロホスファミド(2.2g/m21日)(VAC)、ビンクリスチン(1.5mg/m21日)、アクチノマイシンD(0.015mg/kg5日間)(VA)、ビンクリスチン(1.5mg/m21日)、アクチノマイシンD(0.015mg/kg5日間)、イホスファミド(1.8g/m25日間)(VAI)、ビンクリスチン、イホスファミド、エトポシド(100mg/m25日間)(VIE)のいずれかを割り付けた。VAC、VAI、VIEそれそれの群の3年EFSは75%、77%、77%(p=.42)と有意差はなく、いずれも良好な成績であった。一方、VAC、VAI、VIEの何れの治療法においても、重症ないし生命を脅かす毒性が84から96%に認められた。治療関連死亡は1%未満であった。二次がんの発生はVACが6例、VAIが1例、VIEが2例、VAが1例であった。Cyclophosphamideの方が1日のみの投与スケジュールで済むこと、コストの面などから、横紋筋肉腫においてVAC療法が標準regimenとして位置づけられた。
論文C-(1)Green DM, et al. J Clin Oncol 16:237,1998. NWTS-4研究(1986-1994)、全1687例を対象にAct-Dのpulse-intensive regimen(PI-regimen)の有効性の解析を検討するために行われた。 従来量のAct-D(0.015mg/kg/dx5日間)対PI-Act-D(0.045mg/kg/dx1日間)の比較をした。Stage IのFHとStage IのAN+では従来量AV対PI-AV、Stage IIのFHでは従来量AV対PI-AV、Stage IIIのFH、Stage IVのFH、Stage I-IVのCCSKでは、従来量AVD対PI-AVDの比較をした。結果は全例(従来量群556例/PI-群544例)の2年RFSは従来量群91.4%に対してPI-群91.3%、2年OSは従来量群98.6%に対してPI-群97.9%と有意差を認めなかった。有害事象では骨髄抑制は両群同等で、PI-群で肝機能障害の頻度が高かった。結論としてはPI-regimenは従来量と比べて成績はほぼ同等という結果が出た。 PI-regimenは、標準群と同様に有効であり、毒性も増強せず、入院期間の短縮、医療費の軽減が可能となるスケジュールであるために推奨される。 論文C-(2)Green DM et al. J Clin Onc 16:3744-3751,1998 NWTS-4研究(1986-1994)、全905例を対象にAct-Dのpulse-intensive regimen(PI-regimen)の有効性と治療経費の解析を行った。 Stage II FH(low-risk)では従来量AV対PI-AV、さらにそれぞれ長期治療群と短期治療群に割付けた。Stage IIIとIVのFH、Stage I-IVのCCSK(high-risk)には従来量AVD対PI-AVD、さらにそれぞれ長期治療群と短期治療群に割付けた。結果はlow-risk群の4年無再発率は長期群88.2%、短期群83.7%で有意差を認めなかった。high-risk(FH)群の4年無再発率も長期群88.8%、短期群89.7%で有意差を認めなかった。しかしStage I-IVのFHの患者では、従来法に比較してPI-regimenでの経費が約半分に圧縮できた。結論としてはPI-regimenは従来量と比べて成績は非劣性であるが、治療経費はより低く抑えられた。 【各疾患に対する用法・用量のまとめ】 以上の臨床試験のデータより、アクチノマイシンDを含む併用療法のうち、エビデンスレベルが高く、標準的治療と見なしうるものを以下に記す。
シクロホスファミド 1200mg/m2を点滴静注(第1日) アクチノマイシンD1.25mg/m2を緩徐に静注(第1日) 1歳未満には第一コースは上記の50%量から開始し、問題なければ第2コースは75%量、第3コース以降に100%量を投与する。アクチノマイシンDはVDC療法のドキソルビシン(75mg/m2を第1日から48時間で持続点滴)の代替として使用。
シクロホスファミド 2200mg/m2を点滴静注(第1日) アクチノマイシンD0.015mg/kgを緩徐に静注(第1-5日)
または1.35mg/m2(体重30kg以上)静注(最大1回投与量2.3mg) を3週毎に投与. ビンクリスチン 0.05mg/kg(体重30kg未満) または1.5mg/m2(体重30kg以上)静注(最大1回投与量2.0mg) 週1回投与を併用する. |
他剤、他の組み合わせとの比較等について | ||||||||||||||||||||||||||||||
本邦における精度の高い全国レベルの小児がん統計は存在しないが、小児がん患者のほとんどは小児慢性特定疾患治療研究事業に登録されていると推定されるため、同研究事業の統計から疫学データの概略を知ることができる。同研究事業の統計データ概略は国立成育医療センターのインターネットホームページ(http://www.nch.go.jp/policy/1-akusei.htm)でアクセス可能で、その中から平成12年度における小児悪性腫瘍新規診断症例を抽出すると、下表の通りである。 平成12年度小児慢性特定疾患治療研究事業における新規診断小児がんの登録人数急性
この表に抽出した各疾患は、ICCC(International Classification of Childhood Cancer)によれば、さらに急性リンパ性白血病、急性非リンパ性白血病、上衣種、星細胞種、PNET、神経膠種、その他の頭蓋内脊髄内腫瘍、神経芽種、神経節芽種、その他の交感神経系腫瘍、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、バーキットリンパ腫、その他のリンパ網内系腫瘍、網膜芽細胞種、骨肉腫、Ewing肉腫、横紋筋肉腫、ウイルムス腫瘍、肝芽腫、胚細胞種、性腺癌などに細分化される.さらに、厚生労働省統計表データベスシステム(http://www.dbtk.mhlw.go.jp/toukei/youran/indexk_1_1.html)を閲覧すると、本邦における15歳未満の人口総数は約1800万人、上表に対応すると思われる18歳未満は約2530万人であり、小児がん全体の頻度はもとより各種小児がんは稀少疾患であることが明らかである。 現時点で小児悪性固形腫瘍に対して保険上の承認が得られている薬剤はごく限られており、科学的に考えて現行の承認薬剤のみを用いた治療で、患者が当然期待する治療成績を得ることは不可能といえるであろう。 この背景において、アクチノマイシDは、ユーイング肉腫、横紋筋肉腫に対する第一選択の併用療法に含まれる重要な薬剤であり、早急な適応取得が望まれる薬剤の一つである。ウイルムス腫瘍においては効能における承認はされているものの、より効果的な治療のための用量拡大が望まれる。アクチノマイシンDは、用法・用量は併用する抗がん剤に多少の違いがあるものの、ユーイング肉腫、横紋筋肉腫、ウイルムス腫瘍の治療上、不可欠な治療薬である。 上記3疾患について、文献等のエビデンス収集を行い、アクチノマイシンDを用いた併用療法の科学的妥当性を示すデータを上記2.および3.に紹介した。いずれの疾患も無作為比較試験を含む複数の臨床試験によってアクチノマイシDの有効性が示されており、第一選択薬のひとつである事は疑いない。上記3疾患では、米国にて施行された大規模臨床試験の結果を踏まえ、併用療法の中で用いられているアクチノマイシDの使用量等から、効能・効果及び用法・用量を設定した。アクチノマイシDを含み、現在、標準治療レジメンとして認められるレジメンを参考として、上記1.に記載した。 これらの事実は、教科書および総説の記述でも確認され、また米国国立がん研究所(NCI)のホームページにも紹介されている内容と矛盾しないものであり、アクチノマイシDがユーイング肉腫、横紋筋肉腫、ウイルムス腫瘍の治療の第一選択薬剤である事は、医学薬学上公知であると考えられる。 |
公表論文等 |
医学中央雑誌刊行会(http://login.jamas.or.jp/enter.html)において、各診断名やアクチノマイシンDなどのキーワードを用いて検索し、明らかに本剤を投与したと考えられる、ないし本剤投与症例が含まれると考えられた報告を抽出した。 無作為比較試験は無く、多施設のデータを集めた観察研究、1施設のケースシリーズ、症例報告、症例データを含む総説のみであるが、本剤の我が国における日常的使用状況が反映されていると判断可能である。なお、症例報告においては、比較的稀な副作用である肝中心静脈閉塞症、二次性悪性腫瘍の例、標準化学療法に不応な例など、稀な症例を報告する傾向にあるため、本剤にとって有効性・安全性共に悪いバイアスがかかっている可能性も考慮すべきである。 論文の記載内容から全体的に判断すると、ほとんどが海外での併用療法を外挿して治療されており、安全性において、海外の報告に比べて特記すべき有害事象は発生しなかったと判断される。ただし、本報告書「6.本剤の安全性に関する情報」に述べるように、肝中心静脈閉塞症(VOD)の報告は海外と同様、本邦でも報告されており、使用上の注意が必要と判断される。 (A.ユーイング肉腫ファミリー腫瘍) 1.中馬広一 癌と化学療法 27:192-202:2000 悪性骨軟部腫瘍に対する治療方針を概説した総説。四肢発生、小腫瘍量、若年者といった低リスク例では、ビンクリスチン、アクチノマイシンD、シクロホスファミド、ドキソルビシンを併用したVACAdr療法、ビンクリスチン、アクチノマイシンD、イホスファミド、ドキソルビシンを併用したVAIA療法を用いて、50〜60%の無病生存率が上げられるようになった。 2.横山良平ほか 小児がん 37:497-501:2000 悪性腫瘍治療に積極的に取り組んでいる整形外科38施設のアンケート調査では、25施設から回答が得られ、過去10年間に93例のユーイング肉腫が治療され、ビンクリスチン、アクチノマイシンD、アドリアマイシン、メソトレキセート、ブレオマイシンを併用したRosenのT-11療法を用いた治療が最多で、93例中46例が生存中であった。副作用の記載はない。 (B.横紋筋肉腫) 石田也寸志ほか 日児誌 94:1201-1206:1990 単施設で1962年から1988年までに治療を行った16歳未満の横紋筋肉腫80例の予後因子に関する後方視的研究。治療はビンクリスチン、アクチノマイシンD、シクロホスファミド±ドキソルビシン(VAC又はVAC-ADR)で26例、ビンクリスチン、シクロホスファミド、ドキソルビシン(VCA)で10例、ビンクリスチン、シクロホスファミド(James療法)で23例、その他20例、で、VAC又はVAC-ADRで治療された患者の5年生存率、10年生存率はそれぞれ42%、35%だった。副作用の頻度は解析されていない。 鈴木信寛ほか 小児がん 40:247-250:2003 12歳男児、眼窩発症の横紋筋肉腫に対して、ビンクリスチン・アクチノマイシンD・シクロホスファミド(VAC療法)を用いて4コース施行後に血小板減少、体重増加、横断、肝腫大、肝機能異常が出現し、臨床的に肝中心静脈閉塞症(VOD)と診断した。利尿剤、アルブミン、ウルソデオキシコール酸、低分子量ヘパリンを使用してVODは改善した。原因としてアクチノマイシンDは否定出来ないが、シクロホスファミドの大量投与が主な原因ではないか、と推測されている。 田中裕次郎ほか 小児がん 39:209-213:2002 2歳発症の膣原発横紋筋肉腫(ブドウ状肉腫)、ビンクリスチン・アクチノマイシンD・シクロホスファミドを含む化学療法と手術、放射線治療によって、23歳まで無病生存。二次性悪性腫瘍として結腸癌を発症した。 井本耕二ほか 小児がん 36:288-291:1999 3歳男児、心膜腔原発の胞巣型横紋筋肉腫。ビンクリスチン・アクチノマイシンD・シクロホスファミド、ピラルビシン、イホスファミドを含む化学療法、手術、大量化学療法を併用した自家末梢血幹細胞移植を施行し、重篤な合併症なく経過したが、発症後1年半の経過で再発、死亡した。 島袋誠守ほか 癌と化学療法20:657-660:1993 14歳女児、腸骨窩に発生した胞巣型横紋筋肉腫。手術、ビンクリスチン・アクチノマイシンD(0.015mg/kg/日、5日間)・シクロホスファミド(VAC療法)、放射線治療を行い、2年間再発徴候はない。毒性に関する記載はない。 宮島雄二ほか 小児科臨床45:1135-1139:1992 4歳女児、下腿原発、転移性の胞巣型横紋筋肉腫に対し、ビンクリスチン・アクチノマイシンD・シクロホスファミド、アドリアマイシンの併用療法と放射線治療を施行し、発症から7年4ヵ月生存中である。副作用として、アドリアマイシンに起因する心不全、左眼窩への放射線治療による白内障、手術による尖足が記載されている。 (C.ウイルムス腫瘍その他の腎腫瘍) 福澤正洋 外科 66:428-435:2004 腎芽腫に対して、本邦では米国のNWTS-5に則った治療方針で全国的なグループスタディが行われている。採用されているのはビンクリスチン・アクチノマイシンDを用いるEE4A(本報告書の「1.報告書の対象となる療法等について」に記載)など。 須貝道博ほか 小児がん 39:144-149:2002 単施設で過去23年間に経験した11例のウイルムス腫瘍の観察研究。アクチノマイシンD、ビンクリスチン、ドキソルビシンを用いた化学療法を中心に治療し、ステージ3以上の進行例3例を含む7例が生存中である。具体的な副作用は記載されていない。 今田研生ほか 小児がん 33:239-244:1996 アクチノマイシンDとビンクリスチンの化学療法後に腹水を来したウイルムス腫瘍の2症例を報告している。いずれもNWTS-3レジメンを採用し、症例1は、6ヵ月乳児に対して0.125mgのアクチノマイシンDを4日間と0.4mgのビンクリスチンを1日投与したところ、治療開始14日目に胸水、腹水の貯留を認め、保存的治療にて軽快した。同患者に対し、アクチノマイシンDの1日量を半減して投与したところ、腹水は出現しなかった。症例2は、3歳4ヵ月児にアクチノマイシンDを0.25mg、5日間投与したところ、連続する2コースにおいて腹水と肝機能異常が出現した。以降、アクチノマイシンDを3分の2に減量すると、このような副作用は出現しなかった。腹水をアクチノマイシンDの重要な副作用と位置づけ、薬剤の適宜増減が必要であると結論している。 大竹伸明ほか 日泌尿会誌86:1298-1301:1995 6歳男児、下大静脈の腫瘍塞栓を伴った腎明細胞肉腫。手術、化学療法(アクチノマイシンD、ビンクリスチン、ドキソルビシン、シクロホスファミド)、局所放射線療法によって治療。発症後1年4ヵ月時に骨転移と敗血症をきたして死亡した。 |
本剤を併用療法で使用する場合には骨髄抑制やその他の副作用が増強される可能性があるが、G-CSF製剤投与や輸血などの支持療法を積極的に行うことで対処が可能である。 また、本報告書作成時点で本剤添付文書にはG-CSF製剤を用いた支持療法に関する項以外は同様の記載が既になされているが、腹部照射の既往がある腎芽腫再発症例において1例ではあるものの肝中心静脈閉塞症を合併し死亡した症例がある。本合併症は同種骨髄移植後に主に認められるものであるが、他にも腎芽腫の治療経過中に発生した肝中心静脈閉塞症(VOD)の報告(Czauderna P、 et al. Eur J Pediatr Surg 10: 300-303、2000.)がある。同報告でも欧州を中心とした治療研究グループであるInternational Society of Pediatric Oncology(SIOP)の治療プロトコールであるSIOP-93-01で治療された206例中10例でVODを合併したと報告されており、アクチノマイシンDがVOD発症に関連していること、特に腹部照射がVOD発症の危険因子であることが述べられている。その他横紋筋肉腫に対する標準的化学療法であるVAC療法(ビンクリスチン・アクチノマイシンD・シクロホスファミド)後にも発生することが知られており(Ortega JA、 et al. Cancer 79:2435-2439、1997.)、同論文ではシクロホスファミドを増量したVAC療法の場合にVODが発生していることを指摘して、増量したシクロホスファミドが原因でないかと推測しているが、本剤がVOD合併に無関係であるとは結論できない。 小児悪性腫瘍の化学療法においては、長期無病生存を期待しうる高い有効性を期待できるが故に、成人の化学療法に比較してより強力に行われる傾向にある。このため、予想しうる副作用に十分に支持療法を行ったとしても、重篤な出血や敗血症をはじめとした重症感染症などを合併する危険が回避出来ない場合があり、合併症死に至る症例が少数ながら存在する。よって、本剤を用いた併用療法を行う場合においてはがん化学療法に十分な知識と経験を有する医師(小児科医)が慎重に使用する、もしくはそのような医師の監督下において使用されるべきである。ただし、本報告書作成時点で本剤添付文書にはG-CSF製剤を用いた支持療法に関する項以外は同様の記載が既になされているため、今回の使用にあたって特段の注意を払うべき新しい安全性情報があるわけではない。 |
ユーイング肉腫ファミリー腫瘍、横紋筋肉腫、腎芽腫その他腎原発悪性腫瘍などの小児悪性固形腫瘍に対する本剤の有効性及び安全性について、これまでに公表された臨床試験結果を考察し、さらに海外の教科書ならびに信頼できる海外の学術雑誌に掲載された総説および治療ないし診療ガイドラインに基づき、本剤を含む併用化学療法全般から本剤の有用性を評価し、本剤の効能又は効果として前記疾患を追加することは妥当であると考えられる。ならびに、使用において、標準的と考えられる併用療法を組み合わせた用法及び用量で使用することはこれらの併用療法での有効性及び安全性から妥当と考える。 アクチノマイシンDの投与量の設定においては、各疾患に対する臨床試験の代表的なレジメンから、頻用される用法・用量を比較・検討し、妥当と考えられる用量および用法を設定した。少なくともアクチノマイシンDに関して、この用法・用量を逸脱して投与することは、有効性または安全性に関して問題を生じるものであると判断される。また、患者年齢、患者の状態、併用薬剤によって、がん化学療法に十分な知識と経験を有する医師(小児科医)の判断により、適切な用量変更が必要である。 用法・用量の上では、ウイルムス腫瘍において、現状では認められていない0.045mg/kgの1日投与を導入する必要があるが、これは同用量であれば、現状の0.015mg/kg(5日間)の静注に比べ、毒性は同程度で、入院期間の短縮および医療費の軽減を可能にすることができると考えられ、かつ、本報告書内に記載している横紋筋肉腫やユーイング肉腫に対する同薬剤の用量設定とも類似しているため、妥当な用量拡大であると考えられる(Green DM、et al. J Clin Oncol 16:237、1998.)。 強力な併用化学療法による重症有害事象および治療関連合併症死のある頻度での発生が懸念されるが、致死的疾患であるユーイング肉腫ファミリー腫瘍、横紋筋肉腫、ウイルムス腫瘍患者の大部分が、長期無病生存を含めた恩恵に既に浴している背景を考慮すると、上記3疾患に対する本剤の使用とその投与量の設定において、適応拡大を行う事は妥当と判断した。 |