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抗がん剤報告書:フルオロウラシル(頭頸部がん)


1.報告書の対象となる療法等について

療法名 フルオロウラシル(5-FU)の持続静注療法
未承認効能・効果を含む医薬品名  
未承認用法・用量を含む医薬品名 フルオロウラシル
予定効能・効果 頭頸部癌に対するフルオロウラシル(5-FU)の持続静注療法
予定用法・用量 薬剤名
フルオロウラシル(5-FU)

予定用法・用量
効能・効果
頭頚部癌
単剤、または他の抗腫瘍剤、放射線と併用して使用する。最大成人1000 mg/m2/日を4-5 日間持続静注で、3週間以上の間隔で投与する。
(使用する薬剤をすべて記載。、適応外効能・効果、用法・用量を含む医薬品に下線。適応外用法・用量に下線。)

2.公知の取扱いについて

(1) 無作為化比較試験等の公表論文
 頭頸部癌に対する化学療法の用い方としては、初回治療に付随した治療と転移・再発に対する治療とに分けられる。前者においては、導入化学療法、放射線同時併用療法、補助化学療法の3つの時期が挙げられるが、導入化学療法と放射線同時併用療法が積極的に行われている。また、上咽頭癌の放射線治療後の補助化学療法として用いられてもいる。

初期の報告
1)Kish J, Drelichmen A, Jacobs J, et al . Clinical trial of cis-platinum and 5-fluorouracil infusion as initial treatment of advanced squamous carcinoma of the head and neck. Cancer Treat Rep 66: 471-474, 1982
2) Kish JA, Weaver A, Jacobs J, et al . Cisplatin and 5-fluorouracil infusion in patients with recurrent and disseminated epidermoid cancer of the head and neck. Cancer 53: 1819-1824, 1984

持続静注療法の有効性評価
3) Kish JA, Ensley JF, Jacobs J, et al. A randomized trial of the combination of cisplatin + 5-FU infusion and cisplatin + 5-FU bolus for recurrent and advanced squamous cell carcinoma of the head and neck. Cancer 56: 2740-2744, 1985

導入化学療法における評価
4) Lefebvre JL, Chevalier D, Luboinski B, et al. Larynx preservation in pyriform sinus cancer: preliminary results of a European Organization for Research and Treatment of Cancer phase III trial. J Natl Cancer Inst 88 : 890-899, 1996

化学療法併用放射線療法における評価
5) Adelstein DJ, Lavertu P, Saxton JP, et al . Mature Results of a phase III randomized trial comparing concurrent chemoradiotherapy with radiation therapy alone in patients with stage III and IV squamous cell carcionoma of the head and neck. Cancer 88: 876-883, 2000
6) Calaris G, Alfonsi M, Bardet E, et al. Randomized trial of radiation therapy versus concomitant chemotherapy and radiation therapy for advanced-stage oropharynx carcinoma. J Natl Cancer Inst 91: 2081-2086, 1999

化学療法併用放射線療法と補助化学療法における評価
7)Al-Saaraf M, LeBlanc M, Shanker Giri PG, et al. Chemoradiotherapy versus radiotherapy in patients with advanced nasopharyngeal cancer: Phase III randomized intergroup study 0099. J
Clin Oncol 16: 1310-1317, 1998

転移・再発に対する有効性評価
8) Jacobs C, Lyman G, Velez-Galcia E, et al. A phase III randomized study comparing of cisplatin and 5-FU as single agents and in combination for advanced squamous cell carcinoma of the head and neck, J Clin Oncol 10: 257-263,1992

薬物動態と有効性
9) Relationship between fluorouracil systemic exposure and tumor response and patient survival. J Clin Oncol 12; 1291-1295, 1994
(2) 教科書
1) De Vita VT, Hellman S, and Rosenberg SA. Cancer Principles & Practice of Oncology 6th ed, Lippincott Williams & Wilkins, 804-815, 2000
2) Abeloff M, Armitage JO, Lichter AS, and Niederhuber JE. Clinical Oncology, 2nd Edition, Churchill Livingstone, 1262-1265, 2000
3) Holland JF and Frei E. Cancer Medicine, 5th Edition, BC Decker, 1199-1202, 2000
4) Harrison's Principles of Internal Medicine, 15th Edition, McGraw-Hill, 562, 2001
5) Harrison LB, Sessions RB, and Hong WK. Head and Neck Cancer, A Multidisciplinary Approach, Lippincott-Raven, 1999, 428
 いずれのテキストにおいても、再発頭頚部癌に対する緩和を目的とした治療の一つであり、またPt系薬剤との相互作用による抗腫瘍効果の増強効果を生かした併用療法、放射線増感作用を生かした放射線化学療法において一役を担っていると記載されている。
(3) peer-review journalに掲載された総説、メタ・アナリシス

(4) 学会又は組織・機構の診療ガイドライン
 National Comprehensive Cancer Network Practice Guidelines in Oncology, v.1. 2004, Head and Neck Cancers, 30: Cancer of the hypopharynx, 54: Ca of the nasopharynx, 56: Unresectable Head ad Neck Cancer/59: Advanced Head and Neck Cancer
http://www.nccn.org/professionals/physician_gls/PDF/head-and-neck.pdf
1) 下咽頭癌
T2-3、any N で喉頭全摘が必要な症例に対して、導入化学療法を行う選択肢がcategory 1として推奨されている。そこで行う化学療法レジメンが、FP療法であり、投与量はシスプラチン(CDDP) 100 mg/m2, 5-FU 1000 mg/m2/日x 5日間持続静注と示されている。
2)中咽頭
T3-4以上の局所進行症例に対しては、化学療法併用放射線療法が示されている。
3) 上咽頭癌
T1-2,N1-3,M0,and selected T2N0M0,T3-4,anyN,M0に対して、CDDPを併用した化学療法併用放射線療法後、FP療法CDDP 100 mg/m2, 5-FU 1000 mg/m2/日x 4日間持続静注を3コース行うことが示されている。
4) 切除不能例
category 3 のレベルではあるが、導入化学療法としてCDDP 100 mg/m2, 5-FU 1000 mg/m2/日x 5日間持続静注を3コース行い、その後放射線治療を行うことが治療法の一つとして示されている。
5) 転移・再発例
PSによって、単剤又は併用化学療法が施行される。治療法の一つとして5-FU単独療法、FP療法が示されている。
(5) 総評
 頭頚部癌の初回治療(導入化学療法・化学療法法併用放射線療法)、または転移・再発例に対する治療におけるPt/5-FUや5-FU単独療法について、これまでに報告された研究結果、提示されているガイドラインに基づき、以下の理由から、用法・用量として5-FU の1000 mg/m2/日を4-5 日間持続静注で行う方法の有用性は認められるものと判断される。
1) 下咽癌に対するPt/5-FU併用療法の導入化学療法としての有用性
 頭頚部癌の化学療法としての役割の一つとして臓器機能温存ということが上げられており、下咽頭癌を対象とした喉頭温存のための導入化学療法の試験が報告されている(J Natl Cancer Inst 88 : 890-899, 1996)。手術後放射線治療群と、導入化学療法(FP: CDDP 100 mg/m2, 5-FU 1000 mg/m2/日x 5日間持続静注)後の反応により手術または放射線治療へ移行する群との比較であり、3年生存率、無再発生存率両者に差はなかったものの、喉頭温存率で後者が優っていたことから、下咽頭癌の喉頭温存のための標準治療となり、前述のガイドラインの根拠となっている。
2) 頭頸部癌に対する化学療法(Pt/5-FU)併用放射線療法の有用性
 頭頸部癌においては、放射線治療が機能・形態温存の面で手術療法よりも優れており、この治療効果の向上を狙って化学療法との併用(化学療法併用放射線療法)の検討がなされるようになり、放射線治療と化学療法併用放射線治療を比較した試験が報告されている。
 口腔、中咽頭、下咽頭、喉頭癌の切除可能例を対象とした放射線治療単独とCDDP/5-FU併用(FP: CDDP 20 mg/m2/日x 4日間持続静注, 5-FU 1000 mg/m2/日x 4日間持続静注)放射線療法との比較では(Cancer 88: 876-883, 2000)、後者において好中球減少、血小板減少、皮膚障害、口内炎といった副作用が有意に高度であったが耐用性があると報告している。治療成績としては、無再発生存率、原発温存生存率のいずれにおいても、放射線療法単独と比較して後者において有意に改善が認められているが、全生存率においては有意差とはならなかった。これは局所再発しても救済手術が行えるために生存への寄与が薄まってしまったことや、他の合併症や他癌死などが有意差になっていないものの、FP併用群に多いことが影響している。局所の手術が避けられ機能・形態温存が維持されている状況で生存期間が同じであれば有用であるとする考え方であり、有用な治療法の一つであるとしている。
 中咽頭癌症例に限った試験の報告でも放射線治療単独とCBDCA/5-FU併用(CBDCA 70 mg/m2, 5-FU 600 mg/m2/日x 4日間持続静注)放射線療法との比較では(J Natl Cancer Inst 91: 2081-2086, 1999)、放射線療法単独と比較して後者において平均生存期間、3年生存率、3年無再発生存率、局所制御率のいずれにおいても化学療法併用(CBDCA/5-FU)放射線療法の有用性が示されている。
3) 上咽頭癌に対する化学療法併用放射線療法と補助化学療法の有用性
 上咽頭癌は他の頭頸部領域から発生する癌と比較して、切除が困難、遠隔転移を来たしやすいという性質があるため、標準的治療は放射線治療となる。放射線治療単独に対して、CDDP同時併用の放射線治療とその後に行われるFP療法(FP: CDDP 80 mg/m2, 5-FU 1000 mg/m2/日x 4日間持続静注) を3コース行う方法の比較試験が行われ、無再発生存期間、全生存期間において有用であると示されている(J Clin Oncol 16: 1310-1317, 1998)。
4) 転移・再発例に対する単剤での有用性
 転移・再発症例に対しては無治療群よりも化学療法を施行したほうが生存率の延長につながるという無作為化比較試験の報告から、どのような化学療法が良いのかを検討する目的で、CDDP単独、5-FU持続静注療法単独、CDDP/5-FU併用の3群による比較試験が報告されている(J Clin Oncol 10: 257-263,1992)。奏効率は併用療法が優れていたものの平均生存期間に差はなく、PSが予後規定因子として示されたことから、この集団に対してはPSによって化学療法を選択する考え方となり、5-FU持続静注単独がPS低下例において治療選択の一つであり、FP療法がPS良好例において治療選択の一つであると判断されている。
5) 投与法・投与量について
 5-FUの投与方法が持続静注法では入院による治療が必要となるため、これを静注法へ変更し利便性を求めることができるかについて検討する目的で、持続静注法と静注法の比較試験が行われた(Cancer 56: 2740-2744, 1985)。持続静注療法は奏効率で優れており、血小板減少において有利に、また下痢、口内炎に関しては頻度が高くなるが、支持療法で対応可能と判断されたため、5-FUの投与方法としてこの量で持続静注を行うということがその後の標準的なものとして汎用されている。
 用量については、頭頸部癌症例に対してFP療法をCDDP 100 mg/m2, 5-FU 1000 mg/m2/日x 5日間持続静注で初回治療として投与し、5-FUのAUCと生存期間の延長に関係があるとの報告がある(J Clin Oncol 12; 1291-1295, 1994)。

 以上に提示したように、5-FUの投与量は化学療法単独で1000 mg/m2/日を4-5 日間持続静注、放射線治療併用で600 mg/m2以上で4日間持続静注を使用している報告であり、現在の本邦における用法よりも多くなる。また、転移・再発例に5-FUの単剤でも使用されているエビデンスが存在している。実際の医療現場では上記の報告に準じ、5-FU持続静注療法として700〜1000 mg/m2/日を4-5 日間持続静注との報告があり、既にこの5-FU を1000 mg/m2/日までを4-5 日間持続静注する方法については国内において使用経験があるものと考えられる。
 化学療法のみの場合における5-FUの主な副作用は、口内炎、下痢、悪心・嘔吐などであり、これらに併用するPt系抗がん剤などの副作用が加わる。放射線治療併用の場合における主な副作用は、照射野内の皮膚炎・高度の口内炎、経口摂取量低下、血液毒性、唾液減少、頸部皮膚の繊維化などであり、放射線治療単独の場合と比較して高度となり、血液毒性出現時の感染対策、長期の栄養管理、痛みに対するコントロール、気道管理など、多岐にわたる補助療法が必要となる。
 化学療法に熟知した医師が口内炎、下痢、悪心・嘔吐などの管理に十分な注意を払いながら行うのであれば、化学療法単独に対する安全性は担保できるものと考えられる。また、化学療法併用放射線治療を行う場合には、化学療法に対する管理のみならず、増強されてくるこの領域特有の放射線障害に対する管理に対しても熟知した医師が行う又は参加するのであれば、安全性は担保できるものと考えられる。

3.裏付けとなるデータについて

薬理作用に関する資料
 CDDPと5-FUとの薬物間相互作用を利用した効果増強作用については、諸説ある。CDDPの前投与では細胞内還元葉酸レベルを増加させそこで5-FUが投与されるため、三重複合体形成が効果的に起こり抗腫瘍効果の増強につながる(Proc Natl Acad Sci 83; 8923-89-25, 1986)。逆の、5-FU先行における抗腫瘍効果増強を示す方向もある。これはCDDPによるDNA障害の修復に影響しているとするものである(Cancer Res 52; 6501-6505, 1992, Cancer Chemother Pharmacol 29; 273-275, 1992)。投与スケジュールで効果増強の機序が異なると考えられるが、どちらが優れているかについてはいまだ議論の多いところである。

臨床試験の試験成績に関する資料
持続静注法の有効性評価
1) A randomized trial of the combination of cisplatin + 5-FU infusion and cisplatin + 5-FU bolus for recurrent and advanced squamous cell carcinoma of the head and neck. Cancer 56: 2740-2744, 1985
5-FUの投与方法が持続静注法では入院による治療が必要となるため、これを静注法へ変更し利便性を求めることができるかについて検討することを目的とし、持続静注法と静注法の2つの方法の有効性と安全性を検証する比較試験が局所進行・再発頭頸部癌症例を対象に行われた。以下の投与群に割り付けられ、1コース3週間隔で投与が行われ、奏効率、生存期間、副作用が評価された。
A群: 5-FU 持続静注群:CDDP 100 mg/m2, 5-FU 1000 mg/m2/日x 4日間持続静注
B群: 5-FU 静注群:CDDP 100 mg/m2, 5-FU 600 mg/m2/日(1-8日に急速静注)

  A群:持続静注 B群:静注
有効性    
 奏効率 72% 20%
 生存期間(中央値) 27週 20週
副作用    
 白血球減少 61% 70%
 血小板減少 11% 50%
 悪心・嘔吐 83% 90%
 下痢 6% -
 口内炎 38% -

 持続静注療法は、奏効率で優れていたが、生存期間では有意差はなかった。副作用では、B群で白血球減少(<400)を来たし、敗血症を併発して治療関連死が1例認められたものの両群に有意差はない。血小板減少においてA群は有利ではあるものの、下痢、口内炎に関しては頻度が高かった。しかし、これらに対しては支持療法で対応可能と判断されたため、5-FUの至適な投与方法としてこの量で持続静注を行うということがその後の標準的なものとして汎用されている。

導入化学療法における評価
2) Laryngeal preservation in pyriform sinus cancer: preliminary results of a European Organization for Research and Treatment of Cancer phase III trial. J Natl Cancer Inst 88 : 890-899, 1996
下咽頭癌に対して、導入化学療法の喉頭温存に関する有効性を評価したEORTCで行われた試験である。
A群: 手術 ⇒ 放射線治療 : RT 50-70 Gy
B群: 化学療法 : CDDP 100 mg/m2, 5-FU 1,000 mg/m2/日x 5日間持続静注⇒ 放射線治療: 50-70 Gy
化学療法の結果:奏効率86 %、CR率52%

  A群:(N=99) B群:(N=100)
3年生存率 43% 57%
無再発生存率(3年/5年) 32% / 27% 43% / 25%
無遠隔転移率 60% 73%
機能的喉頭温存生存率(3年/5年) 28% / 17% 42% / 35%

 生存期間に差がないものの、喉頭が温存されての生存であるためQOLが維持されて折り、その意義は高いと判断され前述のNCCN Guideline下咽頭癌の指針の基礎となった試験である。

化学療法併用放射線療法における評価
3) A phase III randomized trial comparing concurrent chemotherapy and radiotherapy with radiotherapy alone in resectable stage III and IV squamous cell head and neck cancer: preliminary results. Head and Neck 19: 567-575, 1997
4) Mature Results of a phase III randomized trial comparing concurrent chemoradiotherapy with radiation therapy alone in patients with stage III and IV squamous cell carcionoma of the head and neck. Cancer 88: 876-883, 2000
 頭頸部癌における放射線治療の手術療法に対する有用性は機能・形態温存の面にあり、この向上を狙って化学療法との併用(化学療法併用放射線療法)の検討がなされるようになってきた。この研究は口腔、中咽頭、下咽頭、喉頭癌の切除可能頭頸部癌に対する、放射線治療と化学療法併用放射線治療を以下の2群で比較したものであり、近接効果の報告と長期成績の2報をまとめた。
A群 (放射線治療単独群): 放射線治療 1.8-2 Gy/日 (50-55 Gy)
B群 (化学療法併用放射線治療群) : 放射線治療1.8-2 Gy/日 (50-55 Gy)
CDDP 20 mg/m2/日x 4日間持続静注, 5-FU 1000 mg/m2/日x 4日間持続静注→3週おきに2コース
⇒ 評価  ⇒ CR/PR ⇒ 放射線治療 15-20 Gy 追加
 ⇒ NC/PD ⇒ 手術
  A群(N=50) B群(N=50)
有効性    
 生存率(5年) 48% 50%
 無再発生存率 51% 62%
 無遠隔転移再発率 75% 84%
 原発非手術生存率 45% 77%
 原発温存生存率 34% 42%
副作用**    
 好中球減少(G3≦) 0 38%
 血小板減少(G3≦) 0 16%
 皮膚炎(G3/G4) 10%/0% 36%/8%
 口内炎(G3/G4) 22%/4% 54%/30%
 経管栄養 30% 58%
 気管切開 14% 14%
 体重減少(>10%) 28% 70%
 ** NCI-CTC
FP併用放射線療法が、無再発生存率、原発非切除生存率、原発温存生存率において、放射線治療単独と比較して有意に改善が認められているが、5年生存率、無遠隔転移再発率では有意となっていない。これは局所再発しても救済手術が行えるために生存への寄与が薄まってしまったことや、他の合併症や他癌死などがA群:B群で22%:32%と有意差になっていないものの、B群に多いことが影響している。局所の手術が避けられ機能・形態温存が維持されている状況で生存期間が同じであれば有用であるとする考え方であり、有用な治療法の一つであるとしている。副作用の面で、好中球減少、血小板減少、皮膚炎、口内炎、体重減少がFP併用放射線療法群で高度であり、口内炎による経口摂取量の減少から経管栄養を要した頻度も多い。有効な治療法であり、これらの副作用があるが耐用性もあると考えられている。しかし、これを完遂させるには、全身的な化学療法と照射野内で起こる増強された放射線の副作用に対して、種々の処置と管理を熟練したチーム医療をもって集中的に行うことが必要であるとされている。

5)Randomized trial of radiation therapy versus concomitant chemotherapy and radiation therapy for advanced-stage oropharyngeal carcinoma. J Natl Cancer Inst 91: 2081-2086, 1999
6)Final results of the 94-01 French Head and Neck Oncology and Radiotherapy Group randomized trial comparing radiotherapy alone with concomitant radiochemotherapy in advanced-stage oropharynx carcinoma. J Clin Oncol 22: 69-76, 2004
Stage III-IVの局所進行中咽頭癌症例に対する放射線治療単独と化学療法(CBDCA/5-FU)併用放射線治療を、以下の2群で比較したもので、近接効果の報告と長期成績の2報をまとめた。
A群: 放射線治療2 Gy/日 (70 Gy)
B群: 放射線治療2 Gy/日 (70 Gy)
 カルボプラチン(CBDCA) 70 mg/m2/日、5-FU 600 mg/m2/日x 4日間持続静注を、3コース(Day 1, 22, 43に開始)施行

  A群(N=113) B群(N=109)
有効性    
 平均生存期間 13mo 20mo
 生存率(3年/5年) 31% / 15.8% 51% / 22.4%
 無再発生存率(3年/5年) 20% / 14.6% 42% / 26.6%
 局所制御率(3年/5年) 42% / 24.7% 60% / 47.6%
急性毒性(副作用):症例数    
 好中球減少(G3≦) 0 4
 血小板減少 1 6
 貧血 0 3
 皮膚炎 59 67
 口内炎 39 71
 経管栄養 15 36
 体重減少(>10%) 6 16
 治療関連死 0 1
5年時晩期毒性(G3≦)    
 味覚 6 19
 聴力 6 0
 下顎骨 0 6
 歯 12 4
 口内乾燥 18 15
 皮膚・皮下組織 6 7
 口内炎 18 15

平均生存期間、生存率、無再発生存率、局所制御率のいずれにおいても、B群の化学療法併用(CBDCA/5-FU)放射線療法の有用性が示されている。急性の副作用としては、B群で口内炎がA群の放射線治療単独と比較して高度となっており、その対処としての鎮痛剤、低栄養状態(体重減少)に対する経管栄養の開始などの補助療法が必要であったとしている。治療関連死がB群で1例に認められているが、発熱性好中球減少による敗血症であり、有効な治療法ではあるが毒性が高度であり十分な管理が必要となるものである。晩期毒性については、両群間に有意差は認められていない。

転移・再発に対する有効性評価
7) A phase III randomized study comparing of cisplatin and 5-FU as single agents and in combination for advanced squamous cell carcinoma of the head and neck, JCO 10: 257-263,1992
転移・再発症例に対するCDDP単独、5-FU持続静注単独、CDDP/5-FU併用の3群による比較試験であり、このような集団に対する至適な化学療法レジメンは何かについて検討したものである。
A群: CDDP単独群 CDDP 100 mg/m2, 1コース3週間隔
B群: 5-FU 単独群 5-FU 1000 mg/m2/日x 4日間持続静注
C群: CDDP/5-FU 併用群 CDDP 100 mg/m2, 5-FU 1000 mg/m2/日x 4日間持続静注

  A群(N=83) B群(N=82) C群(N=78)
有効性      
 奏効率 14% 9% 25%
 CR率 3% 2% 5%
 生存期間 5.5ヶ月 5ヶ月 6.1ヶ月
 生存割合(>9ヶ月) 24% 22% 40%
副作用*(症例数)      
 白血球減少(G3≦) 1 0 10
 血小板減少(G3≦) 1 1 4
 悪心・嘔吐(G3≦) 18 5 35
 下痢 17 21 26
 口内炎(G3≦) 2 13 13
* WHOの規準
奏効率は併用療法が優れていたものの、平均生存期間に差はなく、長期の生存割合がPF療法で高く、副作用は併用療法で高度であった。CDDPが含まれるレジメンでは悪心・嘔吐が高度となり、5-FUが含まれるレジメンでは下痢、口内炎が高度となっており、これらに対する対処が必要とされている。PSが予後規定因子として示されたことから、この集団に対してはPSによって化学療法を選択する考え方となり、5-FU持続静注単独がPS低下例において治療選択の一つであり、PF療法がPS良好例において治療選択の一つであると判断されてきた。

4.本療法の位置づけについて

他剤、他の組み合わせとの比較等について
 疾患の背景
 頭頸部癌は、口唇〜鼻腔・副鼻腔〜咽頭にわたる領域に発生する悪性腫瘍であり、多くは上皮性である。平成12年の米国の報告によれば、おおよそ年間2万5千人程度の罹患者がいるとされている(http://apps.nccd.cdc.gov/USCS/TableV.asp?group=da&Year=2000&Gender)。本邦では罹患率に関する正確なデータに乏しいが、年間約9千人程度が罹患し、「平成14年度人口動態統計」における死亡は約5千3百人と報告されている。進行しているStage III-IVの症例はおよそ2/3を占め、治癒切除が行われた症例でも半数近くが局所再発し、約30%の症例に遠隔転移が発生する。空気・食物の通り道に発生する口腔・喉頭・咽頭の扁平上皮癌が主体を占めており、危険因子としては喫煙、飲酒があげられ、発症年齢も65〜75歳にピークを認める高齢者に多い疾患である。従って、癌だけでなく心・肺疾患や肝疾患、代謝疾患を合併していることも多い。また、異時性、同時性に頭頸部領域での多発癌、食道癌、胃癌などの併発も多く10-40%あると報告されている。治療方法としては手術や放射線治療が主体であるため、本邦でこの疾患を取り扱っている科は、耳鼻咽喉科、頭頸部外科、口腔外科、放射線科(放射線治療)である。現状での頭頸部癌における化学療法の効果は、単独では治癒にいたらしめることは不可能である。頭頸部領域に存在する病変の制御が予後に関与してくる反面、この領域に嚥下・発声といった機能、そして美容面が患者のQOLに大きく影響しているため、化学療法を用いてこれらの問題を解決するような研究が行われており、それが初回治療として導入化学療法や化学療法併用放射線療法といった形で行われ報告されてきている。転移再発症例に対する治療においても化学療法が行われているが、これは生存期間延長やQOLの一時的な改善に寄与しているにすぎない。上咽頭癌は、他の口腔・喉頭・咽頭癌とは異なり、EBウイルス感染に関連したものが本邦では多い。この部位は位置的に手術が困難であり、放射線の感受性が高いため放射線治療が主体である。しかし、遠隔転移もきたしやすく、原発巣は放射線治療で制御されても、肺・肝・骨・リンパ節転移などの全身転移で最期を迎えることが他の頭頚部領域の癌よりも多いため、化学療法の役割は大きい。

 頭頸部癌の化学療法
 CDDPと5-FU持続静注療法(FP療法)は、初回報告以来既に20余年が経っているが、いまだに頭頸部癌化学療法における初回治療、転移・再発症例での標準治療として位置づけられている。また5-FUの持続静注療法も、転移・再発症例での治療として存在している。本邦では、5-FUの投与方法は600-800 mg/m2/日x 4-5日間持続静注で汎用されている。またこの治療法を発展させた形で、(1)他のプラチナ製剤であるCBDCA、ネダプラチン(CDGP)と5-FU持続静注の併用レジメン、(2)シスプラチンと経口フッ化ピリミジン(例:CDDP/TS-1)、(3)FPと放射線同時併用療法、(4)FP療法にタキソテールを加えた3剤による強力な化学療法、などが臨床試験・実地医療で行われている現状がある。これらのエビデンスとして存在している用法・用量と、現在の保険承認の用法・用量には大きな乖離があり、これを是正しておく必要がある。

5.国内における本剤の使用状況について

公表論文等
国内における頭頸部癌に対する本剤を含む化学療法の公表論文は、以下に示すとおりである。海外と同様の5-FU 1,000 mg/m2/日x 5日間持続静注までの投与量は使用報告が少ないものの、少なくとも現在の用法用量を越えた投与量で行われているのが現状であり、使用経験はあると判断される。
1)FP療法としての報告
CDDP 80 mg/m2/日、5-FU 600-800 mg/m2/日x 5日間持続静注で施行されていると報告されている。(癌と化学療法 23(13):1740-1746, 1996、癌と化学療法 26(11):1542-1547, 1999、癌と化学療法 28(2):257-60, 2001、頭頸部腫瘍 28: 2002)
2)多剤併用療法としての報告
THP-ADM/CDDP/5-FUによる併用化学療法が、進行・再発頭頸部癌49例に対して行われ、投与量はTHP-ADM 20 mg/m2、CDDP 80/ mg/m2 、5-FU 1000 mg/m2/日x 5日間持続静注で行われた。Grade 3 以上の副作用は、白血球減少18.4%、血小板減少8.2%、血色素減少6.1%、脱毛6.1%、食欲不振36.7%、悪心・嘔吐26.5%、下痢4.1%と報告されている。奏効率は65.3%であり、多くの症例が2コース以上投与されていた。(癌と化学療法2001 28(6):789-95)
3)多剤併用療法としての報告
CDGP/5-FUによる併用第I相試験が行われ、投与量はCDGPを80−120/mg/m2で増量させ、5−FUは700 mg/m2/日x 5日間持続静注で行われた。ここでのDLTはCDGP 120/mg/m2 で認められたGrade 3 の血小板減少であり、下痢や悪心・嘔吐、口内炎といった5-FUで認められる副作用ではなかった。(癌と化学療法. 1998 25(1):53-58)
4)化学療法併用放射線療法としての報告
上咽頭癌に対して化学療法放射線交代療法が行われ、CDDP 50 mg/m2/日をDay 6, 7 に持続静注、5-FUをDay 1-5に800 mg/m2/日x 5日間持続静注し、2-3日後から放射線療法のみを4週間施行後、再び同様の化学療法のみ、その後また放射線療法のみを行うものである。35例に対して行われ、副作用はWHOの規準Grade 3以上で、白血球減少37.1%、好中球減少17.1%、血小板減少2.8%、血色素減少17.1%、嘔吐22.8%、粘膜炎28.6%と報告されている。奏効率100%であり、CR率91.4%と良好な成績であった(Radiotherapy and Oncology 61:257-260, 2001)。現在これを報告した研究者(主任研究者:愛知がんセンター 不破信和 先生)が主体となって、多施設による厚生労働省がん研究助成(計画研究14-15)「頭頸部癌に対する放射線化学療法の適応と有効性の評価に関する研究」班、「上咽頭癌に対する化学療法(CDDP,5-FU)と放射線治療との交替療法-第II相試験」が行われている。

6.本剤の安全性に関する評価

 CDDP/5-FU療法、5-FU単独自体かなり以前より行われている治療法であるため、今回申請する用法・用量では既に実地医療で十分行われている状況である。しかし、この用法・用量であったとしても、頭頸部癌に対する化学療法を既に行っていて、かつ精通している施設でなければ、口内炎、下痢、悪心・嘔吐などの代表される副作用や、併用するPt系薬剤の副作用に対しても十分な管理が可能なレベルにではない可能性もあり、特定の施設に限った形での使用にすべきであると考えられる。
 化学療法併用放射線治療を行う場合には放射線治療の有害反応も増強され、治療関連死の報告もあるため、化学療法に対する管理のみならずこの領域特有の放射線障害に対する管理に対しても熟知した医師が行う又は参加しなければ安全性は担保できかねると考えられる。これは、さらに経験のある特定の施設に限った形での使用にすべきであると考えられる。

7.本剤の投与量の妥当性について

 現在この薬剤の用法・用量であるが、頭頸部腫瘍に対しては、「他の抗腫瘍剤又は放射線と併用することが必要である」となっており、以下のような記載になっている。
1.単独で使用する場合
(1) フルオロウラシルとして、通常1日5〜15mg/kgを最初の5日間連日1日1回静脈内に注射又は点滴静注する。以後5〜7.5mg/kgを隔日に1日1回静脈内に注射又は点滴静注する。
(2) フルオロウラシルとして、通常成人1日5〜15mg/kgを隔日に1日1回静脈内に注射又は点滴静注する。
(3) フルオロウラシルとして、通常1日5mg/kgを10〜20日間連日1日1回静脈内に注射又は点滴静注する。
(4) フルオロウラシルとして、通常1日10〜20mg/kgを週1回静脈内に注射又は点滴静注する。
2.他の抗腫瘍剤又は放射線と併用する場合
フルオロウラシルとして、通常1日5〜10mg/kgを他の抗腫瘍剤又は放射線と併用し、1の方法に準じ、又は間歇的に週1〜2回用いる。

頭頸部癌に対する5-FUのこれまでの報告からでは、これを以下のような予定用法・用量でも使用できるようにすべきである。
効能・効果
頭頚部腫瘍
単剤、または他の抗腫瘍剤、放射線と併用して使用する。最大成人1000 mg/m2/日を4-5 日間持続静注で、3週間以上の間隔で投与する。

 例えば、日本人で、165cm、50kgであった場合、体表面積は1.49(約1.5) m2になる。現在の上記の記載で今回申請している5日間の持続静注を行う時のフルオロウラシルの投与量は、1.(1)の使用方法である単剤であったとしても体重あたりであるため最大750mg/日(500mg/ m2/日)であり、2.の併用療法では500 mg/日(333mg/ m2/日)となる。一方で、提示したこれまでの報告から計算したこの対表面積からの投与量は約1,500 mg/日(1,000mg/ m2/日)であり、1.(1)の使用方法である単剤で使用する場合では1/2量、2.の併用療法では1/3量となり、外国での標準的な用量からみて少ない。外国と同様の確実な有効性を期待できるようにするためには海外で確固たるエビデンスがある1,000 mg/m2/日 x 4-5 日間持続静注において使用できるようにする必要がある。実地医療としては、国内で既に600〜800 mg/m2/日x 4-5日間持続静注 が使用されているが、以下のように用量の増加に伴う患者の安全性を確保するため、がん化学療法等に精通した医師による使用を行うべきである。
 副作用について、化学療法単独での場合、現在の用法・用量よりも増加することになるため、口内炎、下痢の頻度と程度が増加してくることが予想されるが、最近の化学療法に対する副作用管理を行うことができるならば、克服できると考えている。放射線治療併用の場合は、毒性が高度で遷延し管理が複雑化するため、チーム医療をもって集学的かつ集中的な医療が提供できる条件を満たす必要がある。
 以上、効果については長年培われた海外の確固たるエビデンスがある。そしてそれを本邦使用できるようにし、評価するべきである。副作用は今回の申請用量・用法で頻度増が予想されるが、がん療法等に精通した医師、医療チームをもつ医療機関で使用する限りは、管理は可能であると予想されるため、今回の用法・用量は妥当なものであると考えられる。


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