療法名 | 悪性骨腫瘍に対するシスプラチンを用いた化学療法 |
未承認効能・効果を含む医薬品名 | Cisplatin(シスプラチン:CDDP)、Doxorubicin(ドキソルビシン:DOX) |
未承認用法・用量を含む医薬品名 | シスプラチン、ドキソルビシン |
予定効能・効果 | 悪性骨腫瘍 |
予定用法・用量 | 1)単独療法: シスプラチン100mg/m2/day 3週ごと、1回点滴投与 2)シスプラチンとドキソルビシン併用療法 シスプラチン100mg/m2/day 3週ごと、G法で点滴投与 ドキソルビシン20mg/m2/day 静脈または点滴注射3日間連続投与 3週間休薬する。これを1クールとし、投与を繰り返す。 なお、投与量は疾患、症状により適宜増減する。 ◇シスプラチン通常療法 悪性骨腫瘍には、G法を選択する。 G法: シスプラチンとして100mg/m2(体表面積)を1日1回投与し、少なくとも3週間休薬する。これを1クールとし、投与を繰り返す。 なお、投与量は疾患、症状により適宜増減する。 |
(1) 無作為化比較試験等の公表論文
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(2) 教科書 Oxford textbook of Oncology 2nd Ed, (Edited by Souhami RL, TannockL, Hohenberger P and Horiot J-C), pp, 2002, Oxford University Press Treatment of Cancer 4th ed., (Edited by Price P, and Sikora K), pp851-868, 2002, Anold, London, New York, New Dehli. 骨肉腫:進行再発例に対する化学療法についての第2相臨床試験の結果で、大量MTX療法、CDDP、DOX、IFOの4剤のみが20%を越える臨床奏効性が確認され、DOX/CDDP併用療法は、初回治療骨肉腫症例に対する術前化学療法として、組織学的奏効率約40%が報告されている。 骨悪性線維性組織球腫:MTX大量療法、CDDP, DOXとIFOの奏効性が確認され、術後補助療法で60-70%長期生存例が観察されている。(Treatment of Cancer 4th ed. P866、Oxford textbook of Oncology 2nd ed. p2574)。 脱分化軟骨肉腫:CDDP/DOX/IFO併用が奏効した報告もある(Treatment of Cancer 4th ed. P866)。しかし、高齢者罹患の多い脱分化軟骨肉腫において、骨肉腫に対する同様な併用化学療法が施行困難であることが多い(Oxford textbook of Oncology 2nd ed. P2577)。 間葉性軟骨肉腫:大量MTX療法、DOX、CDDP、DOXによる奏効性が見られることがあるが、予後への貢献については不明である。間葉性軟骨肉腫は、外科切除が困難な体幹、頭蓋骨に好発し、術前補助化学療法として応用され、原発巣のコントロール向上への寄与が報告されている。 線維肉腫:幅広い悪性度を有しており、病理学的悪性度の高い症例は、病理組織所見の類似性から骨肉腫・線維芽細胞型や骨悪性線維性組織球腫と分類されることも多い疾患である。悪性度の高い症例では、骨肉腫に準じた治療を勧めている。 |
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peer-review journalに掲載された総説、メタ・アナリシス 1)Smith MA, et al. Influence of doxorubicin dose intensity on response and outcome for patients with osteogenic sarcoma and Ewing’s sarcoma. J Natl Cancer Inst 83: 1460-1470, 1991. 2)Delephine N et al. Influence of methotrexate dose intensity on outcome of patients with high grade osteogenic sarcoma. Cance r 78. 1996, 2127-2135. |
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(4) 学会又は組織・機構の診療ガイドライン 骨肉腫、骨悪性線維性組織球腫 NCI. Cancer Gov. Osteosarcoma/Malignant fibrous histiocytoma of bone (PDQ):Treatment. http://cancer.gov/cancerinfo/pdq/treatment/osteosarcoma/healthprofessional,) 骨肉腫と骨悪性線維性組織球腫は、同様な薬剤感受性有する疾患で、大量MTX療法、CDDP、DOX、IFOの併用化学療法と手術併用療法をガイドラインで推奨している。 |
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(5) 総評 骨肉腫に対する化学療法として、大量メトトレキセート療法とドキソルビシンを中心にした化学療法と比較して、シスプラチン、ドキソルビシン併用化学療法は同等の奏効性を有しており(J Clin Oncol 10: 1579-1591, 1992.、Lancet 350: 911-917, 1997.、J Clin Oncol, 6: 329-337, 1988.)、骨肉腫治療研究の随伴研究として行なわれた骨悪性線維性組織球腫に対する第2相臨床試験の結果においても、骨肉腫以外の高悪性骨腫瘍、特に骨悪性線維性組織球腫に対する補助化学療法として有用性が確認される(Journal of Chemotherapy, 1997; 9: 293-9.、J Clin Oncol. 17, 3260-9, 1999)。シスプラチン単剤、シスプラチンとドキソルビシンとの併用療法は、小児、若年者、成人の広い年齢層の悪性骨腫瘍患者に対して有効な化学療法として、国内外で汎用され、毒性に対する集積は十分であり、化学療法に熟知した医師であれば、本剤、本剤とDOX併用療法で発生する骨髄抑制、および、悪心・嘔吐、腎毒性を予防、コントロールすることに熟練しており安全性は担保できると考えられる。しかるに、悪性骨腫瘍に対する本剤の有用性、安全性は医学・薬学上公知であると判断できる。 |
臨床試験の試験成績に関する資料 | ||||||||||||||||||
骨肉腫:
適格症例198例を、術前、術後に6回のDOX/CDDP併用療法(治療期間121日)を行なう群99例と、MTX大量療法とDOX/CDDP併用療法交互投与の3剤併用による治療(治療期間121日)群99例がランダム化割り付けされた。本試験の評価項目は、無病生存率、生存率、術前治療の奏効率(臨床学的、組織学的奏効率)であった。 治療完遂率は、DOX./CDDP併用群71%(72/99)と3剤併用群84%(85/99)、薬剤総投与量でも、DOX/CDDP併用群で平均総投与率(投与量/予定投与量)はDOX79%、CDDP82%、3剤併用群で大量MTX療法93%、DOX、CDDP共に88%で、DOX/CDDP併用群に、骨髄抑制のための減量、遅延が発生し、コントロール群の治療強度低下が観察された。 しかし、5年無病生存率でDOX/CDDP併用群57%、MTX大量療法追加併用群41%で有意な改善がみられた(p=0.05)。生命予後でもDOX/CDDP群が勝る傾向があったが、有意な差ではなかった。(64% vs. 50%、P=0.1)。179例で組織学的奏功性の検討が行なわれたが、奏効率DOX/CDDP群41%、MTX/DOX/CDDP併用群22% と奏効率はCDDP/DOX群が勝っていた(P=0.1)。 毒性のプロファイルで、肝障害が大量MTX療法後、神経毒性がDOX/CDDP併用群に多い傾向があったが、その他の毒性はDOX/CDDP併用、MTX/CDDP/DOX3剤併用群で差を認めなかった。WHO Grade 3,4の毒性発生頻度は、消化器症状72% vs. 64%、口腔粘膜15% vs. 11%、下痢4% vs. 4% 、脱毛80% vs. 70%、感染14% vs. 10%、白血球減少82% vs. 71%、血小板減少52% vs. 42%、手術方法は患肢温存または切断が選択されたが、患肢温存手術で30%、切断術で10%と手術術式による合併症発生頻度に差があったが、化学療法群別の手術合併症発生頻度については差を認めなかった。
治療の内容は、コントロール群ではDOX/CDDP併用療法(DOX 25mg/m2/day iv、3日間、CDDP 100mg/m2 24時間持続点滴投与、1日)を、術前3クール、術後3クール行い、予定治療期間17週。一方、多剤併用のスケジュールは、術前に4回の大量MTX療法とDOX(25mg/m2/day iv、3日間)を行い、術後にBCD療法、大量MTX療法4クール、DOX(25mg/m2/day iv、3日間)、更に20週以降DOX/CDDP((DOX 25mg/m2/day iv、3日間とCDDP 120mg/m2 24時間持続点滴投与、1日)併用療法を6回、BCD療法3回の3週間ごとの多剤併用による術後補助療法が投与され、予定治療期間44週。 治療終了後4.5年から5.6年間経過観察した結果は、プロトコールの治療完遂率は、DOX/CDDP併用群83.8%、多剤併用群37.5%で、多剤併用群において治療不完全例が多数発生した。治療中断理由は、DOX/CDDP併用群で、病状進行14例、毒性10例、拒否3例、術後合併症2例、治療逸脱2例、経過中断1例、一方多剤併用群では、手術までの導入時期に中断脱落例は25例と少なかったものの(病状進行10例、毒性5例、拒否3例、治療逸脱6例、経過中断1例)、治療後半である術後補助療法中に95例の脱落例が観察された(病状進行22例、毒性30例、拒否24例、術後合併症3例、治療逸脱14例、経過中断2例)。毒性のプロファイルには、多剤併用群で肝障害が高く発生し、治療後半でWHO grade3,4の毒性発生率が上昇し、治療継続による骨髄抑制の高度化が観察された(DOX/CDDP併用群と多剤併用群のWHO grade3,4毒性頻度は、それぞれ白血球減少75%、73%、血小板減少46%、28%、消化器症状74%、66%、粘膜障害20%、16%、脱毛86%、90%、感染21%、18%、肝障害1%、12%)。 切除標本で行なわれた組織学的奏効性の検討でも、90%以上の壊死となる組織学的有効例の割合は、DOX/CDDP群29.9%、多剤併用群28.7%、無病生存率3年47%、5年43.7%、3年生存率65%、5年生存率55.2%であり、組織学的奏効性、無病生存率、生存率いずれの評価項目でもDOX/CDDP併用群に対する多剤強化併用療法群の優位性は確認できなかった。予後因子に関する多変量解析の結果では、術前治療の奏効性のみが予後因子として抽出され、著効例では、DOX/CDDP併用群、多剤併用群それぞれ68% vs. 80%の5年生存率であった。無効例ではそれぞれ45% vs. 40%で、各群で差を見られなかった。1980年代後半に最も有効とされたRosenらのT10プロトコール(Cancer 49: 1221-1230, 1982)に類似した多剤併用療法とDOX/CDDP併用療法は、ほぼ同等の治療成績であることを示した。
BCD群は、BCD療法(ブレオマイシン15mg/m2/day iv、サイクロホスファミド600mg/m2/day div、アクチノマイシンD 0.6mg/m2/day iv 併用療法 2日間投与)と大量MTX療法(12gr/m24時間点滴投与)とロイコボリン救援療法を2週連続投与行う治療を、術前治療として2回行う治療スケジュールであった。一方、コントロール群は、DOX/CDDP併用療法とMTX大量療法(12gr/m24時間点滴投与を2週連続投与)を交互に投与する治療を術前に2回行なう術前補助療法であった。DOX/CDDP併用療法はドキソルビシン30mg/m2 iv 2日間静脈投与、シスプラチン120mg/m24時間点滴投与で計画されたが、中間解析の結果、血中クリアチニンが上昇例の頻度が高く、1983年8月よりCDDP90mg/m2に減量の変更が行なわれた。 切除標本の組織学的評価を行い、組織学的著効例(90%以上の壊死率)では術前治療と同じ治療を繰り返し、無効例(90%未満の壊死率)では、薬剤変更を行い、BCD群では術後にDOX/CDDP併用を6クール、DOX/CDDP併用群では、術後にBCD療法とCDDP/IFO併用(20mg/m2、2g/m2を5日連続投与)を交互に3回行なう補助療法が追加された。 18ヶ月から52ヶ月の経過観察された結果で、3年無病生存率は、BCD併用群49%、DOX/CDDP併用群68%とBCD群の成績が劣っていた(p<0.1)。術前奏効率もBCD療法併用群が26%、DOX/CDDP併用群60%でBCD群が劣っていた(p<0.001)。術前治療の奏効性が、奏効例の3年無病生存率77%、無効例の3年無病生存率44%と予後に反映したことがBCD群の成績不良の原因と結論した。 毒性は、致死的感染症が2例に発生し、大量MTX療法後1例、CDDP/IFO併用療法後1例であった。1071回の化学療法を集計して、毒性のために7日以上治療開始が遷延した治療回数は11.5%。治療遷延の原因は、骨髄抑制が60%、血清クリアチン上昇が4例、ビリルビン上昇2例、MTX排泄遅延が3例、感染症3例、粘膜障害7例、その他16例であった。薬剤別の毒性発生頻度の解析では、大量MTX療法後7%(495回中)、DOX/CDDP10%(356回)、BCD19%(190回)、CDDP/IFO47%(30回)であった。注目される点は、CDDPが120mg/m2で開始されたDOX/CDDP併用で1.5mg/dL以上の血清クリアチニン上昇が、28例中67回のCDDP/DOX併用療法後7回で観察され、CDDP用量が90mg/m2に減量する計画変更が行なわれ、その後行なわれた減量群23例では血中クリアチニン上昇は発生せず、安全に治療が行なわれた。
1986年から1989年にかけて、164例が登録され、平均4.5年経過観察を行った結果で、組織学的奏効率は、71.3%で、著効群の5年無病生存率70.0%、無効群の5年無病生存率57.4%(p<0.08)、全体の5年無病生存率66.4%で、治療奏効性が予後に関与する結果であった。5年生存率は71%で、治療スケジュール違反20例を除いた解析では5年無病生存率71.2%、5年生存率75.6%とさらに高い結果となった。 毒性:5例の高度心毒性が発生して、2例に死亡、1例心臓移植、2例は腫瘍死。非血液毒性は、肺結核2例、MTX大量療法後の腹水1例、MTX排泄遅延4例、また2例の著効例にリンパ急性白血病発生が観察された。1768回の化学療法で、WHO grade4の骨髄抑制246回(13.9%)、発熱を併発し入院した49例、細菌血症4例、感染症を原因とする死亡症例はないとの報告であった。 骨悪性線維性組織球腫:
術前治療は、レジメンIOR/OS1(1983年3月から1986年9月)大量MTX療法(7.5g/m2/day 6時間点滴静脈投与)とロイコボリン救援療法後、CDDP(120mg/m2/day、72時間動注療法)を2クール投与する8週間の治療、レジメンIOR/OS2(1986年9月から1990年9月)では大量MTX療法(8g/m2/day 6時間点滴静脈投与)とロイコボリン救援療法、DOX(60mg/m2/day 8時間持続静脈で投与)を追加して9週間の治療、レジメンIOR/OS3(1992年10月から94年10月)では、大量MTX療法(12g/m2/day 6時間点滴静脈投与)とロイコボリン救援療法の増量が行なわれ、CDDP(120mg/m2、72時間動注療法)、DOX(60mg/m2/day 8時間持続静脈で投与)併用にIFO6g/m2(3g/m2/day 2日間)を6週、9週目に追加して、術前治療期間11週の治療であった。 切除標本による組織学的奏効性判定を行なって、レジメンIOR/OS1では、組織学的奏効評価で90%以上壊死を認めた組織学的著効例は、DOXを加えた3剤併用の術後補助療法を22週。90%未満の組織学的無効例では、薬剤を変更してDOX90mg/m(45mg/m2/day 2日間)とBCD療法(BLEO 15mg/m2/day、CPM 600mg/m2/day、ACT-D 0.6mg/m2/day併用、2日間)の併用を5回繰り返す術後化学療法を行った。レジメンIOR/OS2では、組織学的著効例は、DOX90mg/m(45mg/m2/day 2日間)、大量MTX (12g/m2/day 6時間点滴静脈投与)とロイコボリン救援療法後、CDDP120mg/m2(72時間持続静脈投与)を6週間で投与し、この治療を繰り返して21週間。組織学的無効例では、薬剤変更を行ないIFO(2g/m2/day、90分点滴投与で5日間)、CDDP(120mg/m2 72時間持続点滴投与)とVP16(120mg/m2 1時間持続点滴投与を3日間)併用治療等を追加する30週間の術後補助化学療法、レジメンIOR/OS3では薬剤変更行なわずすべての症例でDOX90mg/m2、大量MTX療法(12g/m2)、CDDP(120mg/m2)、IFO(2g/m2/day、5日間)の連続投与を43週間行なう術後化学療法計画で治療された。 51例の原発限局、骨MFH例に術前術後化学療法として、組織学的奏効率27%、7年無病生存で67%の成績で、化学療法の有効性を確認している。血液毒性の発生が高くWHO Grade4白血球減少30%、感染症13.9%が発生し、同時期、同じ治療計画で行なわれた骨肉腫群が80%の完遂率であったのに比較して、高齢者が多い骨悪性線維性組織球腫群では治療完遂率は低く51%であり、Grade4血液毒性の頻度は 骨MFH群30%、骨肉腫19%と高齢者が多く含まれる骨MFH群において毒性頻度が高かった(P<0.0001)ことを報告している。この研究では、骨MFH治療群に死亡例は、発生しなかった。
生検で診断され、四肢発生で切除可能な症例または再発進行症例でCTにて評価病巣を有する症例、65歳以下、白血球(4000/mm3以上)、血小板(10万/m3以上)、正常な腎肝機能、放射線、化学療法、手術未治療、PS 0, 1(WHO基準)と良好な全身状態を有することの適格条件とした。 化学療法レジメンはEOI研究が行なった骨肉腫に対する2本の臨床研究に準じてDOX/CDDP併用療法(DOX 25mg/m2/day iv、3日間とCDDP 100mg/m2/day 24時間持続点滴投与、1日)を3週間ごとに6回投与する方法が行なわれた。WHO grade 3血液毒性の発生時、次回投与量を15%減量、grade 4と感染症発症した場合次の投与量をDOXとCDDP共に30%減量、grade 3,4の粘膜障害でDOXを20%減量する投与量調整が行なわれ、白血球3000/mm3、血小板15万/mm3以上に血液毒性の回復が治療を再開基準として、3週間以上血液毒性が遷延すると治療中止とされた。腫瘍の奏効性を主要評価項目として、切除症例では組織学的奏効性、無増悪期間、すべての症例での生存期間と毒性発生率が副次的評価項目として、骨悪性線維性組織球腫に対するCDDP/DOX併用療法の有用性と毒性が検討された。 1988年4月から1996年10月まで 108例が登録され、病理中央診断で、15例(骨肉腫、軟部肉腫、軟骨肉腫、癌骨転移)と中央診断未提出2例が除外され、38例の紡錘形細胞肉腫、53例の骨悪性線維性組織球腫と診断された症例に対してCDDP/DOX併用療法が行なわれたが、この論文は、骨線維性組織球腫53例に限っての報告である。 局所限局例41例、6回の化学療法が完遂された症例は23例(56%)、病状進行3例、毒性と治療拒否13例、その他の理由2例で治療中止が発生した。臨床奏効率50%(著効10%、有効40%)、不変20%、進行12.5%、評価不能17.5%で、組織学的奏効率(壊死率90%以上の著効、有効例)40%であった。5.2年の経過観察が行われ、5年無病生存率56%、5年全生存率59%の成績が得られ、組織学的著効例16例の5年無病生存率76%、5年生存率65%、組織学的無効例22例の5年無病生存率37%、5年生存率43%であった。再発進行症例11例(肺転移8例、局所再発例2例、リンパ節転移1例)では、5例で治療が完遂され、病状進行を理由に進行4例、不変2例が治療中断された。転移9例の奏効性は完全寛解1例、部分寛解4例、不変3例、1例が進行した。切除可能な5例では完全切除が行なわれ、11例中増悪例9例、5年全生存率は35%(4/11例)の成績であった。 Grade3,4(WHO)の白血球減少82%、顆粒球減少65%、血小板減少46%、感染症19%と血液毒性が高く、非血液毒性では、口腔粘膜障害grade3 15%と多く発生した。腎機能障害は12%、grade3の腎毒性は2%の発生率でCDDPによる腎障害は十分に予防できていた。毒性による死亡例はなかった。治療完遂率は56%で骨肉腫治療群に比較して低かったが、骨悪性線維性組織球腫の年齢層が高く、血液毒性による減量と治療遷延が原因であった。シスプラチンとドキソルビシン併用療法は、骨肉腫と同様に骨原発悪性線維性組織球腫に対する奏効性を持つことを報告している。 |
他剤、他の組み合わせとの比較等について | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
悪性骨腫瘍 疫学的事項 悪性骨腫瘍は比較的まれな腫瘍である。癌の骨転移や悪性リンパ腫や骨髄腫などの血液疾患を除いた原発性骨腫瘍は、米国では年間2100例が発生し、骨肉腫40%、軟骨肉腫20%、ユーイング肉腫12%、その他、線維肉腫、悪性線維性組織球腫の順に発生している。日本では年間400から500例が新しく発生していると推測され、骨肉腫40%、軟骨肉腫15%、悪性線維性組織球腫、ユーイング肉腫約5%の各組織亜型別頻度に差がある(表)。悪性骨腫瘍の発生は、四肢長幹骨発生が多いが、若年者の骨肉腫は、長管骨の骨幹端部から骨幹部に集中し、30-40歳以降は脊椎骨盤を含め全身に広く発生する。悪性線維性組織球腫は骨肉腫と比較して脊椎骨盤に多く、発生年齢40歳以降に多い。また軟骨肉腫は、30−40歳以降に集中し、股関節、骨盤、肩関節周囲に多く発生しやすいなど臨床的特徴がある。 骨肉腫、ユーイング肉腫は病状進行が非常に速く予後不良な小児、若年者の腫瘍であったが、化学療法、放射線療法と手術療法を組み合わせた集学的治療が治療戦略として開発され、現在50-70%が根治可能となった疾患である。軟骨肉腫をはじめ低悪性骨腫瘍は、外科的切除が基本的な治療のモダリティーで、完全切除ができると予後良好である。一方、高悪性骨腫瘍である骨原発悪性線維性組織球腫ははじめ脱分化軟骨肉腫、間葉性軟骨肉腫等は予後不良であり、最近になって骨肉腫と同様な薬剤感受性を有するエビデンスが得られるようになった悪性骨腫瘍である。 骨原発悪性骨腫瘍 全国骨腫瘍患者登録一覧表(昭和47−平成5年)総数
悪性骨腫瘍に対する化学療法 現在、骨肉腫に対して単剤で20%以上の奏効率が報告されている抗がん剤はメソトレキセート(超大量メトトレキセート療法)、ドキソルビシン、シスプラチン、イホスファミドの4剤に過ぎない。歴史的には1980年代より、まずメトトレキセート、ドキソルビシンをもちいた補助化学療法が骨肉腫の治療に導入され、化学療法なしの時代の5年生存率20%台から5年生存率60%台へ治療成績の飛躍的な改善をみた(Cancer 35: 936-945, 1975)。次いでシスプラチンが導入され、治療成績は更に向上した(Cancer 49: 1221-1230, 1982, J Clin Oncol 10: 5-15, 1992)。1985年、再発骨肉腫に対するイホスファミド(1回投与量1,800mg/m2 x 5日間)の高い奏効率(33%)が報告された(Cancer Treat Rep 69: 115-117, 1985)。以後、術前化学療法の組織学的壊死率の低い症例など、従来のメトトレキセート、ドキソルビシン、シスプラチンの3剤による化学療法では予後不良であった治療抵抗例を対象に、イホスファミドを加えた4剤による補助化学療法が試みられ、このような治療抵抗症例においてもイホスファミドの併用により70%前後の良好な5年生存率が得られることが示された(Ann Oncol 9: 893-899, 1998)。 骨悪性線維性組織球腫は、骨肉腫の約7分の1発生で、手術を中心に治療が行なわれてきた。手術療法単独治療では、5年生存率34-57%、10年生存率33-41%の報告であった(Cancer 39、1508-1516,1977、Cancer 54: 177-187, 1984.)。大量メソトレキセート療法、ドキソルビシン、シスプラチンなどの化学療法の骨悪性線維性組織球腫に対する奏効例が報告されたが、多くは数例の症例報告にとどまった(Radiology 142: 242-246, 1982, Cancer 51: 795-802, cancer 56:37-40, 1985)。1990年代になって骨肉腫に準じた補助化学療法で予後の改善する可能性が示されたが、いずれも20例以下の報告であった(Ann Oncol. 4; 409-15,1993, J Chemother 9; 293-9,1988)。 1997年になって、50例前後の第2相臨床試験の術前術後補助化学療法が報告され、化学療法の有用性が示されつつある(Cancer 82: 993-994, 1998、Journal of Chemotherapy, 1997; 9: 293-9、J Clin Oncol. 17, 3260-9, 1999)。 その他の悪性骨腫瘍(脱分化軟骨肉腫、間葉性軟骨肉腫、線維肉腫、平滑筋肉腫、血管肉腫、骨異常を基盤した2次発ガン性肉腫等)に対する化学療法の奏効性について、DOX/CDDP併用療法の奏効性についての報告もあるが、各組織型別の症例数の集積も少なく有用性については不明である(Proc Am Soc Clin Oncol 13: 473, 1994.) |
公表論文等 | |||||||||||||||||||||
骨肉腫、悪性骨腫瘍に対するシスプラチン、ドキソルビシン化学療法についての国内論文
国内の治療における副作用プロファイル 国立がんセンター中央病院における、2002年から2004年までの骨肉腫、骨悪性線維性組織球腫20例(8才から68才、平均29才)に対するドキソルビシン60mg/m2とシスプラチン100-120mg/m2併用療法とイホスファミド14g/m2(一日2.8g/m2、5日連続投与)3週間隔交互療法による補助的化学療法について検討した結果を示す。 53回のドキソルビシン/シスプラチン併用療法が行なわれ、投与量はドキソルビシン平均56mg/m2(21-60mg/m2)、シスプラチン108mg/m2(80-120mg/m2)であった。WHOによる毒性グレードで、白血球減少G3,4 92%(平均940/mm3)、顆粒球減少 G3,4、96%(平均280/mm3)、特に500/mm3以下となった治療コースは83%に達したが、3日以内(1-8日)に回復した。64%でGCSFが投与されたが、投与期間は1-12日、平均4.5日の投与が行なわれた。骨髄抑制に伴う発熱に伴い抗生物質の投与は23%の症例に行なわれたが、致死的な感染症の発生は観察されていない。 貧血は、Hg値で平均8.8g/dl(6-11.9g/dl)で、濃厚赤血球輸血を7回行なわれた。WHOグレード G3,4の血小板減少が34%に発生して、平均7.2万/mm3(0.8-24.1万/mm3)で、12回の血小板輸血が必要であった。腎障害予防のため、3000ml/m2尿量確保のために、補液、利尿剤を投与し、食思が回復するまで入院、点滴を行うことを原則とした。血清クリアチン値の上昇発生例は観察されず十分な腎機能庇護が行なわれていた。また、40歳以上(40-68才、平均56才)に限った10例、17回の毒性プロファイルでも、シスプラチン80-120mg/m2(平均96mg/m2)、ドキソルビシン21-60mg/m2(平均52mg/m2)とシスプラチンの投与量がやや低かったが、若年者とほぼ同等の治療が行なわれた。白血球減少、WHOグレード 3,4の発生頻度は76%で、平均1318/mm3(500-2300)、顆粒球減少 グレード3,4の発生頻度88%、平均526/mm3(0-1900)、グレード4の頻度は、52%で持続期間平均1.8日(1-5日)、GCSFが29%に投与され、投与期間は、2.8日(1-6日)であった。発熱し抗生物質を投与した治療コースは、1回のみであった。貧血はHg値で、平均9.5g/dl(8.2-11.3g/dl)、赤血球輸血を必要とせず、血小板減少は、グレード3が18%に発生し、平均9.7万/mm3(2.9-15.5万/mm3)で血小板輸血は2回行なわれた。一人の治療回数が少なかったために、40才未満のグループに比較して血液毒性の発生頻度は低かった。 大阪大学整形外科で1997年から2000年に行なわれた四肢原発の骨肉腫に対する、ドキソルビシン90mg/m2とシスプラチン120mg/m2併用療法とイホスファミド12-15g/m2交互療法を術前に2回行い、術後に大量MTX療法2回を加え、同様の3剤治療を行い計10回の補助化学療法が行われた第2相臨床研究の結果報告である。 54才以下、中央値17才の四肢原発骨肉腫25例の報告で、無病生存例23例(54ヶ月)、組織学的有効、著効率73%、5年無病生存率79.6%と極めて高い奏効率を観察している。全231コースの治療コース中、腎機能障害4例(グレード1)、末梢神経障害3例(グレード1)、偽膜性大腸炎1例発生したが、薬剤治療関連死の発生はなかった。骨髄抑制は、グレード3,4が全例に発生したが致死的感染症の発生はなかった(J Jpn. Orthop. Assoc. 78、S688, 2004.、ASCO 23、abs(9039), 2004)。 ドキソルビシン、シスプラチン、同薬剤(60mg/m2と100-120mg/m2)併用療法は、骨肉腫に対して国内では広く使用されており、グレード3,4の骨髄抑制に対しても十分な支援療法が行なわれてきた。40才以上の成人、高齢者に多く発生する骨悪性線維性組織球腫に対しても、ドキソルビシン/シスプラチン併用療法の有効性が確認され、骨髄抑制は高度であるが、GCSF投与や輸血等の支援療法を行うことで治療遂行可能である。しかし、入院、頻回の血液検査などの厳重な管理、経過観察が不可欠である。 |
CDDP/DOX併用療法 骨悪性線維性組織球腫は骨肉腫と比較して成人、高齢者の症例も多く含まれるので、シスプラチンとドキソルビシン併用時、8割の患者でWHOグレード3,4の白血球減少が発生し、治療コンプラアンスも50%程度に低下することが観察されている(Journal of Chemotherapy, 1997; 9: 293-9、J Clin Oncol. 17, 3260-9, 1999)。また、CDDP/DOX併用療法を組み込んだ骨肉腫や骨悪性線維性組織球腫についての臨床研究で発生した死亡例をまとめてみると、骨肉腫を対象にしたEOIの2つの臨床研究で1例の骨髄抑制による死亡例(大量MTX療法とDOX/CDDP併用後)(Lancet 350: 911-917, 1997.)、COSS82では、肺塞栓、DOXによる心筋障害による死亡例が各1例(J Clin Oncol, 6: 329-337, 1988.)、イタリアのRizzoli 研究所の臨床研究では5例の重篤なDOX心筋障害が報告されている(Cancer 72: 3227-38, 1993.)。骨悪性線維性組織球腫の2つの報告では、死亡症例の報告なく治療研究が行なわれている(Journal of Chemotherapy, 1997; 9: 293-9、J Clin Oncol. 17, 3260-9, 1999)。これらの研究の安全性の高さは、シスプラチンとドキソルビシンの併用療法によって発生する血液毒性、悪心嘔吐の対策、腎毒性庇護療法が十分に行なえた結果である。これらの報告と国内の治療現状をかんがみて、年齢、患者、病状に合わせて投与量を調整し、GCSF、輸血、抗生物質の支持療法を熟知した医師が治療を行うのであれば安全に行える治療であり、安全性は担保できると判断した。 |
骨肉腫や骨悪性線維性組織球腫に対して、CDDP/DOX併用療法が広く使用されている。 米国では、CCG-782、SWOG-9139、T10, 12(Memorial Sloan-Kettering)などの代表的な治療研究では、CDDP120mg/m2とDOX60mg/m2併用、ドイツを中心にしたCOSSグループでも、COSS82ではCDDP120mg/m2とDOX60mg/m2用量が採用されていることが多い。しかし、COSS82では、治療研究中に血中クリアチニン上昇の症例が発生し、CDDP90mg/m2への減量が行なわれた(Winkler K、J Clin Oncol 6,1988:329-337)。また、COSS86では、CDDP150mg/m2の増量が検討されたが、治療研究初期の段階で、聴覚障害発生が30%となり、120mg/m24時間持続投与をシスプラチンの用量、投与方法を行なっている(Cancer 72: 3227-38, 1993)。国内でも、小児、若年者の骨肉腫に対して、シスプラチン120mg/m2とドキソルビシン60mg/m2の投与量で治療を行ったが(Neco93j, NECO95日本整形外科学会雑誌73号1999:S1128、S1131)、シスプラチンないしDOX/CDDP併用による重篤な毒性の発生を認めていない。以上の報告から骨肉腫では、CDDP120mg/m2とDOX60mg/m2併用療法は小児、若年者に限るのであれば安全に投与できる用量と判断され、国内でも頻繁に使用されている用量である。 一方、ヨーロッパにおける国際多施設研究であるEOIは、CDDP100mg/m2とDOX75mg/m2による併用療法で、多剤併用化学療法との比較や強化治療との第2相、第3相ランダム化比較試験を骨肉腫と骨悪性線維性組織球腫を対象に行なってきた。骨肉腫に対する研究では骨髄抑制90%、血小板減少45%、感染12%、粘膜障害10% 、嘔吐吐き気78%が毒性のプロファイルであり、死亡例も報告もなく、6クール行なえることを示した。しかし、若年者が多い骨肉腫での治療遂行率は80%に対して、患者年齢層が高い骨悪性線維性組織球腫では完遂率は約50% に低下することを報告している(J Clin Oncol 18, 2000:4028-4037、J Clin Oncol. 17, 3260-9, 1999)。 シスプラチンの100mg/m2と120mg/m2についての比較試験が存在しないので、奏効率の向上効果については不明である。しかし、高齢者を含む骨悪性線維性組織球腫に対する治療研究の報告によると、副作用のプロファイルに大きな内容の変化は認められないものの、連続治療による血液毒性、治療後の骨髄回復の遷延が若年者より起こりやすいとの報告から、CDDP 100mg/m2/day単独、またはCDDP100mg/m2/day、DOX60mg/m2併用である現状での用量が妥当と判断する。 国内でも、骨肉腫の治療を通して15年以上シスプラチンの使用実績を持つ。年齢、症状、病状で投与量を調節や、利尿方法、制吐剤、GCSFを併用する支援療法などの対応に熟知した医師であれば、安全に行える治療法と判断して問題ないと考えられ、安全性については十分に担保されていると判断した。 |
1. | Bramwell VHC et al. A comparison oftwo short intensive adjuvant chemotherapy regimens in preoperable osteosarcoma of limbs in children and young adults: The first study of the European Osteosarcoma Intergroup. J Clin Oncol 10: 1579-1591, 1992. | |
2. | Souhami R et al. Randomized trial of two regimens of chemotherapy in operable osteosarcoma: a study of the European Osteosarcoma Intergroup. Lancet 350: 911-917, 1997. | |
3. | Received dose and dose-intesity of chemotherapy and outcome in nonmetastatic extremity osteosarcoma.. J Clin Oncol, 18. 4028-4037, 2000. | |
4. | Winkler K et al. Neoadjuvant chemotherapy of osteosarcoma: Results of a randomized cooperative trial (COS-82) with salvage chemotherapy based on histological tumor response. J Clin Oncol, 6: 329-337, 1988. | |
5. | Winkler K et al. Effect of intraarterial versus intravenous cisplatin in addition to systemic doxorubicin, high-dose methotrexate, and ifosfamide on histologic tumor response in osteosarcoma (Study COSS-86). |