1.報告書の対象となる療法等について
療法名 | イホスファミドを含む多剤併用化学療法併用 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
未承認効能・ 効果を含む医薬品名 |
イホスファミド | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
未承認用法・ 用量を含む医薬品名 |
イホスファミド | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
予定効能・効果 | 小児悪性固形腫瘍(神経芽腫、ユーイング肉腫、横紋筋肉腫、肝芽腫、ウイルムス腫瘍、網膜芽腫など) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
予定用法・用量 |
投与量に関して、これまでの添付文章では、1日、1.5〜3g(30〜60mg/kg)となっていたが、今回無作為化比較試験等の公表論文(2-(1)で示した論文)では、全て投与量は体表面積換算となっており、公知の事項と考え、投与量は、1日、1.5〜3g/m2が妥当と考え設定した。併用療法の場合も上記の用法・用量の範囲内で行うが、年齢、併用薬、患者の状態に応じて適宜減量を行う。1コースにおける総投与量が10g/m2を越えないよう、また1患者に対する全治療コースの総投与量は、80g/m2を越えないようにする。 肥満患者に対する標準体重換算を用いた投与量の修正を支持する根拠はないが、極度の肥満の場合は安全性を考慮して減量すること |
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用法・用量等に関する参考情報 (未承認薬剤については、ドキソルビシン、エトポシド、イホスファミドについては、今回の報告書で対応) |
本報告書に取り上げる論文・総説・教科書等から引用可能で、かつ各疾患における代表的な併用療法と考えられるレジメンを以下に示す。
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2.公知の取扱いについて
(1) 無作為化比較試験等の公表論文 (以下の論文は、文献として以下の文章中に使用する) 本報告書に記載した論文は,米国National Institute of Healthの機関であるNational Center for Biotechnology Information内にある文献データベー スNational Library of Medicineの PubMed(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi)にアクセスし, Review,Randomized Controlled Trial,Practice Guideline, Meta-analysis,Editorial,Clinical Trial別に,各疾患名をキーワードとしてchemotherapyと掛け合わせ検索した.その中で,本報告書の趣旨に関係が無いもしくは関係が薄い論文は選択せず,症例数が多い論文や各疾患に対する治療法開発の歴史から考えて特に重要と思われる論文を重点的に抽出した。 A.ユーイング肉腫ファミリー腫瘍
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(2) 教科書 A.ユーイング肉腫ファミリー腫瘍
1960年代はシクロフォスファミド、アクチノマイシンD、ビンリスチンが用いられていた。非転移性症例に関しては米国のChildren’s Cancer Study Group (CCSG)ではビンリスチン、アクチノマイシンD、シクロフォスファミド(VAC)が併用され、さらに、これらにドキソルビシンが併用されるようになって5年無病生存率が40-60%に達した。さらにはビンリスチン、アクチノマイシンD、シクロフォスファミド(VAC)にイホスファミドが併用され、さらに予後が改善している。具体的な投与量、期間、副作用などの記載はなかった。 転移例 1975-77年におけるIntergroup Rhabdomyosarcoma Study Group (IRS) のVACにドキソルビシンを加えたレジメンでは3年EFSでは最大30%程度であった。Multicenter French Society of Pediatric Oncology(SFOP)の臨床研究での3年無イベント生存率は、20%であった。さらにエトポシド、イホスファミドを加えた治療でも改善は、見られなかった。Children’s Cancer Grouo (CCG)の最近の研究ではVDCに2サイクルのエトポシド、イホスファミドを施行後メルファラン、エトポシドの大量化学療法後全身放射線照射施行し自家幹細胞輸注を行ったが32人中の2年間無イベント生存率は16%で、これまでの化学療法に比べて改善が見られなかった。具体的な投与量、期間、副作用などの記載はなかった。
B.横紋筋肉腫(RMS)
また、欧州のInternational Society of Pediatric Oncology(SIOP)では、限局性の186例のRMSを治療した。 IVA(イホスファミド、ビンリスチン、アクチノマイシンD)療法を3コース施行後外科切除を行い、その後6-10コースIVAを行う。5年無病生存率は、53%、全生存率は、68%であった。 German Soft Tissue Sarcoma Study(CWS-86)では、4剤(ビンリスチン、ドキソルビシン、イホスファミド、アクチノマイシンD)を用いて251例のRMSの治療を行っている。治療期間は16週より40週と様々であるが、5年無病生存率は60%で、転移の無い症例に限れば68%と良好である。 具体的な投与量、期間、副作用などの記載はなかった。
C.神経芽腫
D.網膜芽腫
E.肝芽腫
F.腎芽腫
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(3) peer-review journalに掲載された総説、メタ・アナリシス A.ユーイング肉腫ファミリー腫瘍
限局例 Children’s Cancer Group (CCG), Pediatric Oncology Group (POG)によって行われた研究(1988-1993)では VACD(ビンリスチン、ドキソルビシン、アクチノマイシン、シクロホスファミド)単独とVACDとIE(イホスファミド、エトポシド)の交互療法を比較し5年全生存率は53%と68%とVACDとIEの交互療法が優れていた。 St.Jude小児病院の研究(1987-1991)では 26人のIE療法のwindow治療を行った。その後VACD療法を加えた。Window治療の臨床的効果(画像検査での改善)は96%で、IE療法の優れた効果を認めた。 CESS(Multicenter Cooperative Ewing’s Sarcoma Study)の研究(1986-1991):全症例301人。標準リスク患者には、VACD(ビンリスチン、アクチノマイシンD、シクロホスファミド、ドキソルビシン)療法、高リスク患者には、VAID(ビンリスチン、アクチノマイシンD、イホスファミド、ドキソルビシン)療法をおこない、5年生存率は52%、51%(10年生存率)と同等であった。(文献A-4) UKCCSG/MRC(United Kingdom Children Study Group/ Medical Research Council Ewing’s Sarcoma study)(1987-1993) 201人にVAID(ビンリスチン、アクチノマイシンD、イホスファミド、ドキソルビシン)療法を行い5年全生存率は、62%であった。 EICESS(European Multicenter Cooperative Ewing’s Sarcoma Study) :470人に対し標準リスク患者には、VAID/ VACD, 高リスク患者にはVAID/EVAID(エトポシド、ビンリスチン、アクチノマイシンD、イホスファミド、ドキソルビシン)を行い、5年全生存率は79%/71%、54%/62%であった。 転移例(造血幹細胞移植を含まない) Children’s Cancer Group (CCG), Pediatric Oncology Group (POG)(1988-1993):121人に対してVACD(ビンリスチン、ドキソルビシン、アクチノマイシン、シクロホスファミド)単独とVACDとIE(イホスファミド、エトポシド)の交互療法を比較し5年全生存率は、合計で5年無病生存率は19%と低値であった。IEを追加したが効果を認めなかった。 EICESS (European Multicenter Cooperative Ewing’s Sarcoma Study)(1990-1995) 171人に対してVAID(ビンリスチン、アクチノマイシンD、イホスファミド、ドキソルビシン)療法にエトポシドを加えるかまたは加えない方法で行ったが、5年無病生存率27%であった。 Children’s Cancer Group (CCG), Pediatric Oncology Group (POG)(1988-1993):VACD(ビンリスチン、ドキソルビシン、アクチノマイシン、シクロホスファミド)にIE(エトポシド、イホスファミド)を行ったが、5年無病生存率26%であった。この治療で治療関連による急性骨髄性白血病が22.7%発症している。 文献中には、具体的な投与量、期間、サイクル等の記載はなかった。 B.横紋筋肉腫
一方、欧州International Society of Pediatric Oncology (SIOP)では、標準リスク群に対しIVA(イホスファミド、ビンリスチン、アクチノマイシンD)療法を27週施行する。一方high-riskではVAIA(ビンリスチン、アクチノマイシンD、イホスファミド、ドキソルビシン)療法とCEVAIE(カルボプラチン、エピルビシン、ビンリスチン、アクチノマイシンD、イホスファミド、ドキソルビシン、エトポシド)療法を27週行っている。 また、難治例、再発例に対する第2選択の治療としてICE(イホスファミド・カルボプラチン・エトポシド)が用いられる。 C.神経芽腫
D.網膜芽腫
E.肝芽腫 Schnater JM. et al: Cancer 98:668-78,2003 イホスファミドを用いているGerman Study Groupにつて触れているが、具体的には薬剤名、投与量等の記載はない。 F.腎芽腫(Wilms腫瘍)
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(4) 学会又は組織・機構の診療ガイドライン A.ユーイング肉腫ファミリー腫瘍 アメリカNational Cancer Institute のCancer.gov上のガイドラインのPDQ: 限局例の米国での標準的治療は、ビンクリスチン、アドリアシン、エンドキサンの単独療法よりイホスファミド、エトポシドを加えた併用療法の方が、予後の改善が認められる。しかし、転移例に関しては前述の標準的治療では十分な結果を得られていない。また、大量化学療法や全身放射線照射を併用した造血幹細胞移植の有効性は明確ではない。B.横紋筋肉腫
http://www.uptodate.com
C.神経芽腫
アメリカNational Cancer InstituteのCancer.gov上のガイドラインであるPDQ ステージIIIの肝芽腫 初診時切除不能な場合でもシスプラチンを中心とした治療により、75%の患者が切除可能になり、60−65%の患者が無病生存している。進行期の肝芽腫ではシスプラチン/ビンリスチン/フルオロウラシル や シスプラチン/ドキソルビシンの組み合わせの他、イホスファミド, シスプラチン,ドキソルビシンの組み合わせも使用されている。 ステージIVの肝芽腫 ドキソルビシン/シスプラチン療法により初発時転移のあった患者の50%以上が診断から5年後に生存している。進行期の肝芽腫ではシスプラチン/ビンリスチン/フルオロウラシルやシスプラチン/ドキソルビシンの組み合わせの他、イホスファミド,シスプラチン,ドキソルビシンの組み合わせも使用されている。 F.腎芽腫、その他の腎腫瘍 アメリカNational Cancer InstituteのCancer.gov上のガイドラインであるPDQ 2年無再発生存率は以下の通り。Stage I/Favorable histology (FH): 94.5 %、Stage II/Focal or diffuse anaplasia: 87.5 %、Stage II/FH: 85.9 %、Stage III/FH: 91.1 %、Stage IV/FH: 80.6 %。である。 Rhabdoid tumor of the kidneyに十分な成績を収める治療法はないが、現在、シクロホスファミド、エトポシド、カルボプラチンなどが用いられている。エトポシド、シスプラチンの併用療法やエトポシドとイホスファミドの併用療法が試みられている。 具体的な投与量期間等の記載はない。 http://www.cancer.gov/cancerinfo/pdq/treatment/ewings/patient/ | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
(5) 総評 イホスファミドの小児悪性固形腫瘍、すなわち神経芽腫、横紋筋肉腫、ユーイング肉腫、肝芽腫、ウイルムス腫瘍、網膜芽腫に対しての第一選択薬としての有効性に関して、また、再発の小児悪性固形腫瘍に対する第二選択薬剤としての有効性に関しては、ここに示したように欧米の主要文献において既に報告され、教科書およびアメリカNational Cancer InstituteのCancer.gov上のガイドラインであるPDQにも記載されており、本邦における医療実践にも外挿可能なデータであると考えられる。以上の根拠からみて、小児悪性固形腫瘍に対してのイホスファミドを併用した多剤併用化学療法の有効性、安全性は医学・薬学上公知であると判断できる。 |
3.裏付けとなるデータについて
臨床試験の試験成績に関する資料 |
A.ユーイング肉腫ファミリー腫瘍 (1)Grier HE, et al.: New Engl J Med 348: 694-701,2003(文献 A-1) 対象は、30歳以下の518人で、うち120人が転移例である。9歳以下が121人、10-17歳が227人、18歳以上が50人であった。シクロホスファミド1.2 g/m2 x1、ビンリスチン2 mg/m2 x1、ドキソルビシン70 mg/m2 x 1 (VDC療法)、イホスファミド1.6g/m2 5日間、エトポシド100mg/m2を5日間(IE療法)を交互に3週毎に施行。ただし、ドキソルビシンが総計375mgに達した後は、ドキソルビシンの代わりに アクチノマイシンD 1.25 mg/m2 x1を投与した。合計、17コース、49週行った。限局した398例を前方視的に、従来のVDC療法のみと、これにIE療法を交互に行う治療を比較検討し、5年EFSはそれぞれ54%と69%でVDCにIEを加えた治療が有意に優れていた。転移例は共に22%と同程度であった。副作用は死亡した12人中7人は感染症で、4人はドキソルビシンによる心毒性障害で死亡する。IE療法の時が赤血球輸血が多かった。 (2)Bacci G, et al. J Clin Oncol 18:4-11, 2000. (文献 A-8) 骨盤に限局した77例の症例に関して検討した。ビンリスチン1.5 mg/m2 x1日, ドキソルビシン40 mg/m2 x2日, シクロホスファミド200mg/m2 ×1日,イホスファミド1.8g/m2×5日, エトポシド 100 mg/m2 x5日,と共にアクチノマイシン-D 1.25 mg/m2 x1.組み合わせはVDC, VAC, VAI, またはIEが1コースとして使用される(最も新しいREN-3)。4つのプロトコール(REA-1, REN-1,2,3)で治療された一連のケースシリーズ 10年EFSは55%。成績を限局例の非骨盤例と比較すると5年EFS、10年EFSでは、それぞれ46%vs 64%、44% vs 69%と骨盤症例の予後不良なことが明らかである (3)Paulussen Met al. J Clin Oncol 19: 1818-1829, 2001.(文献 A-4) CESS(Multicenter Cooperative Ewing’s Sarcoma study)(1986-1991)の臨床研究、対象は301人,standard risk52人、high risk 241人。年齢は、8.5か月より47歳、平均15歳であった。standard risk52人にはビンリスチン1.5mg/m2, ドキソルビシン 30mg/m2×2, シクロホスファミド1200mg/m2 ×1と交互に、ビンリスチン1.5mg/m2, シクロホスファミド1200mg/m2, アクチノマイシンD 0.5mg/m2×3 (VACA)を合計12コース。高リスク 241人例には、上記のシクロホスファミド1200mg/m2 ×1をイホスファミド3g/m2 ×2で置き換えたもの (VAIA)を12コース行った。結果は、小腫瘍量,四肢末端例にVACA療法を用いて10年EFSは、52%。腫瘍量が100mlを越える例や体幹に発症した症例にはVAIA療法を用いて10年EFSは、51%と良好であった。合併症は、6人(2%)に致死的な合併症(敗血症3人、1人は脳梗塞、1人は照射中腸管穿孔、心停止)認めた。4人に2次癌を発症(1.3%)した。 (4)Kung FE, et al. J Pediatr Hematol Oncol 17:265-269(文献 A-9) 米国Pediatric Oncology groupのPhaseI,II研究の報告である。1990-1992年までの21歳以下、92人の患者にイホスファミド1.5g/m2×3、エトポシド100mg/m2×3、カルボプラチン300mg/m2×3(ICE療法)を投与した。カルボプラチンは投与量を300mg/m2から徐々に増量し700mg/m2まで増量した。対象疾患は、これまでの標準的治療に反応しないか、または再発した症例で、今回に関係する疾患群はユーイング肉腫8人、神経芽腫12人、ウイルムス腫瘍10人であった。治療反応性は、部分寛解または完全寛解は、それぞれ2人、7人、7人と良好であった。重篤な治療毒性は、肉眼的血尿2%、クレアチニンの上昇2%、ファンコニー症候群1%であった。 B.横紋筋肉腫 (1)Crist WM, et al.J Clin Oncol 2001; 19: 3091-3102:(PhaseIIIRCT)(文献B-3) 米国IRS-IVの研究結果である。883人の遠隔転移のない新規横紋筋肉腫症例で年齢は10歳以下が72%で、1歳以下は、5%であった。治療はビンクリスチン、アクチノマイシンD、シクロホスファミドの併用療法(VAC)とビンクリスチン、アクチノマイシンD 、イホスファミドの併用療法(VAI)、ビンリスチン、イホスファミド、エトポシドの併用療法(VIE)について第III相比較試験が行われた。なお、投与量はビンリスチン1.5mg/m2、アクチノマイシン D 0.015mg/kg/d x 5、シクロホスファミド 2.2g/m2、イホスファミド 1.8g/m2 x 5、エトポシド100mg/m2 x 5であった。それぞれの治療アームの3年FFSは75%、77%、77%と有意な差はなかった(P=.41)。また3年生存率においてもそれぞれ84%、84%、88%と有意な差はなかった(P=.63)。治療による毒性は、重篤な腎障害は2%にみとめた。10人が2次癌を発症した。治療関連死は8人であった。 (2)Philip P et al. J Pediatr Hematol Oncol 2001; 23: 225-233:(Phase II window)(文献B-4) 1991-1995年、年齢は21歳以下、遠隔転移を有する新規横紋筋肉腫128例に対してビンリスチン、メルファラン (VM)+VACまたはIイホスファミド-エトポシド (IE)+VACのいずれかの第II相window regimenを受けた。治療は、46週行われた。投与量はイホスファミド1.8g/m2 x 5、エトポシド 100mg/m2 x 5であった。結果奏功率はVM群74%、IE群79%(p= .428)。3年無増悪生存率と全生存率はそれぞれ19% vs. 33% (p= .043)、27% vs. 55% (p= .012)であり、IE群の方が高い生存率を示した。 C.神経芽腫 (1)Matthay KK, et al. N Engl J Med 341:1165-1173,1999:(PhaseIIIRCT)(CCG3891)(文献C-1) 年齢は1歳より18歳でstage4神経芽腫小児189人に対して寛解導入化学療法(初期化学療法)としてイホスファミド( 2.5g/m2(day0-3))とドキソルビシン(30mg/m2(day2)),シスプラチン(60mg/m2 (day0)),エトポシド( 100mg/m2 (day2,5))及びシクロフォスファミド( 1,000mg/m2 (day3,4))の併用療法を28日ごとに5サイクルを行い、その後の地固め療法として骨髄破壊的大量化学療法+移植群と化学療法群に分かれる無作為割付比較試験が行われた。移植群の前処置は、メルファラン140mg/m2, カルボプラチン1,000mg/m2,エトポシド640 mg/m2を4日間に分けて分割投与し、化学療法群はシスプラチン160mg/m2、エトポシド500mg/m2, ドキソルビシン40mg/m2,イホスファミド2.5g/m2 (day0-3)を3サイクル投与する。本剤は両群で寛解導入化学療法に使用され、また無作為割付後の地固め化学療法における化学療法群で使用されている。奏効率は、大量化学療法+移植群で3年無病生存率34.4%、化学療法群で22.4%であった。血液学的な治療毒性は、初期治療中にgrade3,4は、71%認めた。治療関連死は移植群と化学療法群では6%と3%で有意な差は認めなかった。:(PhaseIII RCT)(CCG3891) (2)Matthay KK, et al. J Clin Oncol 16: 1256-1264,1998(文献C-2) 228人(1歳以下89人、1歳以上139人)のstageIIIのの神経芽腫患児に、寛解導入化学療法としてイホスファミド2.5g/m2×4とドキソルビシン10mg/m2×3,シスプラチン 40mg/m2×3 ,エトポシド125mg/m2×4 の併用療法(CCG-3891研究)あるいはドキソルビシン30mg/m2とシスプラチン60mg/m2,エトポシド 100mg/m2×2,シクロホスファミド900mg/m2×2 の併用療法(CCG-3881研究)が行われた。寛解導入療法後にCCG-3881研究、CCG-3891研究ともに骨髄破壊的移植前処置にカルボプラチン250mg/m2×4 ,エトポシド160mg/m2×4, TBI 10Gyを使用して地固め療法を行った。奏効率はFavourable biology群で、4年無イベント生存率(EFS)は100%,と良好であり、Unfavourable biology群でも54%と良好な成績であった。治療毒性は、重篤な腎障害、心筋障害、聴力障害などは、5%以下であった。4人が治療関連死したが、全員1歳以上で2人は原疾患の増悪によるものであった。 (3)KatzenHM,et al. J Clin Oncol 16: 2007-2017,1998(文献C-3) 110人のStageD(S)の乳児神経芽腫患児で、寛解導入化学療法としてイホスファミド2.5g/m2×4と、ドキソルビシン10mg/m2×3,シスプラチン 40mg/m2×3 , エトポシド 125mg/m2×4 の併用療法(CCG-3891研究)あるいはドキソルビシン 30mg/m2と シスプラチン 60mg/m2,エトポシド 100mg/m2×2,シクロフォスファミド 900mg/m2×2 の併用療法(CCG-3881研究)が行われた。寛解導入療法後にCCG-3881研究、CCG-3891研究ともに骨髄破壊的移植前処置にカルボプラチン 250mg/m2×4 ,エトポシド160mg/24,TBI 10Gyを使用して地固め療法を行った。奏効率は発症年齢が2ヶ月以上の患児では3年生存率は93%(70人)、発症年齢が2ヶ月以下では3年生存率は71%(40人)と良好であった。16人が死亡した。16人中13人が原疾患の再発で死亡した。 D.網膜芽腫 (1)Antoneli CB, et al: Cancer.98:1292-8,2003(文献D-1) 1987-2000年まで経験した眼球外進展の網膜芽腫83例の解析。1期(1987−1991)はシスプラチン,テニポシド, ビンクリスチン,ドキソルビシン,シクロホスファミドの組み合わせで、2期(1992−2000)はシスプラチン.テニポシドにイホスファミド1.8g/m25日間とエトポシド100mg/m25日間のコースを追加した。1期が43例2期が40例。5年生存率は1期が55.1%、2期が59.4%で有意差はなかった。2年無イベント生存率は,AVE群で84%,DEVI群で71%であった。治療毒性に関しては記載されていなかった。 E.肝芽腫 (1)Von Schweinitz D,et al.: Eur J Cancer.33:1243-9,1997(文献E-1) German Society for Paediatric Oncology and Haematology からの報告。イホスファミド3.5g/m2 (over 72 h days 1-3)をシスプラチン 100 mg/m2 (over 5 days 4-8) と ドキソルビシン 60 mg/m2 (over 48 h, days 9-10)と併用投与するプロトコール。長期の無病生存率は stage I: 21/21; stage II: 3/6; stage III: 28/38; and stage IV: 2/7(全ステージ 75%)であった。治療毒性に関しては記載されていなかった。 (2)Fuchs J. et al. Cancer95:172-82,2002 (文献E-2) German Society for Paediatric Oncology and Haematology からの報告。過去1994-1998まで69人を治療した。77%の患者が生存中である。シスプラチン100mg/m2,イホスファミド3.0 g/m2 3日間、1日目だけ0.5g/m2投与し,ドキソルビシン60mg/m2とエトポシド400mg/m2,カルボプラチン800mg/m2の組み合わせの治療を行っている。48人中41人部分寛解になった。治療毒性では、22人に7人に重篤な白血球減少、5人に好中球減少性発熱、3人にクレアチニンクリアランスが50以下に、1人に心筋障害を認め、投与量を80%に減量した。 F.腎芽腫 (1))Tournade MF, et al. J Clin Oncol 19: 488-500,2001(文献F-1) 欧州International Society of Pediatric Oncology (SIOP) における大規模臨床試験の報告.組織型と病期に応じて,治療スケジュールを設定.全登録症例数382例.Favorable もしくはstandard histologyのstage IIもしくはIIIに対して,塩酸ドキソルビシン50 mg/m2 x 1日 を4ないし6週間隔で,ビンクリスチン1.5 mg/m2 x 1日を1週間隔,ダクチノマイシン15μg/kg x 5日 を4ないし6週間隔と併用 (AVE群).Anaplastic histologyもしくはclear-cell肉腫のstage I,II,IIIに対して,塩酸ドキソルビシン50 mg/m2 x 1日を7ないし10週間隔で,アクチノマイシンD 30μg/kg x 1日を7ないし9週間隔,イホスファミド3g/m2 x 2日を9週間隔で併用 (DEVI群)した。 (2) Abu-Ghosh AM, et al. Ann Oncol 13:460-469,2002(文献F-3) Children’s Cancer Group (CCG)よりの報告で対象は12か月以上、22歳以下が対象である。再発した11人のWilms腫瘍についてICE(イホスファミド1.8g/m25日間、エトポシド100mg/m25日間、カルボプラチン400mg/m22日間)で治療を行いCRかPRは82%であった。3年EFSは63%であった。再発したWilms腫瘍に対しては、80%以上の反応があり有効と考える。副作用に関しては、非血液学的なgradeIVの毒性が5人(45%)に出現した。肺炎、敗血症などであるが回復した。1人に慢性の腎障害が発症している。 |
4.本療法の位置づけについて
他剤、他の組み合わせとの比較等について |
現時点で小児悪性固形腫瘍に対して保険上の承認が得られている薬剤はごく限られており、科学的に考えて、現行の承認薬剤のみを用いた治療に有効性を求めるのは非常に困難である。この背景において、イホスファミドは、ほとんど全ての小児悪性固形腫瘍に対する第一選択の併用療法に含まれる重要な薬剤であり、小児悪性固形腫瘍に対して早急な適応取得が望まれる薬剤の一つである。イホスファミドは、用法・用量は併用する場合の抗がん剤により、多少の違いがあるものの、全ての小児悪性固形腫瘍の治療に不可欠な治療薬である。1.の予定用法・用量に示した併用療法のいずれかを参考とし、全ての小児悪性固形腫瘍に対応可能と考えられる。 小児悪性固形腫瘍において、科学的に議論しうるデータが収集可能な6疾患について、文献収集を行い、イホスファミドを用いた併用療法の科学的妥当性を示すデータを上記2.および3.に紹介した。絶対症例数の少ない網膜芽腫を除いては、いずれの疾患も無作為比較試験を含む複数の臨床試験によってイホスファミドの有効性が示されており、網膜芽腫においても複数のケースシリーズ、前向き第II相試験が示す高い有効性のデータから、第一選択薬のひとつである事は疑いない。 このうち、ユーイング肉腫ファミリー腫瘍、肝芽腫、腎芽腫およびその関連疾患においては、欧米にて施行された大規模臨床試験の結果を踏まえ、併用療法の中で用いられているイホスファミドの使用量等から、小児固形癌に対する効能・効果及び用法・用量を設定した。イホスファミドを含み、現在、標準治療レジメンとして認められるレジメンを参考として、上記1.に記載した。一方、神経芽腫および網膜芽腫においては、国、研究グループ、施設によって、独自なレジメンを使用されている事が多いので、標準治療法として一義に決定する事が困難であるため、上記1.に示した用法・用量のイホスファミド、小児がん専門医師が妥当であると考える併用薬剤の用量設定において使用する。横紋筋肉腫においては、標準治療であるVAC(ビンクリスチン、アクチノマイシンD、シクロホスファミド)療法に対するドキソルビシン追加の優越性は必ずしも証明されているとはいえないが、イホスファミドを含んだVAI(ビンリスチン、アクチノマイシンD、イホスファミド)療法やVIE(ビンリスチン、イホスファミド、エトポシド)療法がそれに匹敵する有効性及び安全性を有していることが示されており、限られた進行度および組織型の患者に対しては依然利益があるものと考えられ、また、標準治療に無効な一群では積極的に使用されるべき薬剤であると考えられる。 また、6疾患のうち難治例や再発例に対する第2選択療法としてICE(イホスファミド、カルボプラチン、エトポシド)療法、イホスファミド1.8g/m2点滴静注5日間(第1〜5日エトポシド100mg/m2点滴静注5日間(第1〜5日)、カルボプラチン 400mg/m2点滴静注2日間(第4, 5日)が広く欧米で用いられている。最近では、イホスファミド、カルボプラチン、エトポシドの投与期間、投与量がそれぞれ若干変更され用いられることもある。(Charles BP et al. Med Pediatr Oncol 27:145-148,1996,CarliM et al. Oncology 65(supple2):99-104,2003, Fulfaro F, et al. Oncology 65(supple2):21-30,2003, Cairo MS Seminor Oncol 22(Suppl 7):23-27,1995, Maina MN, et al. J Clin. Oncol 23:328-334,1994) 5.国内における本剤の使用状況についての箇所に記載した文献の内、A-(4),B-(4),C-(2),F-(2)では、ICE療法の使用が報告されており、国内でも広く用いられていることは明らかである。 これらの事実は、原著論文のみならず、教科書および総説の記述でも確認され、また米国国立がん研究所(NCI)のホームページにも紹介されている内容と矛盾しないものであり、イホスファミドが小児悪性固形腫瘍の治療の第一選択薬剤として、また、再発の小児悪性固形腫瘍に対する第二選択薬剤として有効であると考えられるである事は、医学薬学上公知であると考えられる。 以下に個々の腫瘍に対する位置づけを詳述する。 A.ユーイング肉腫ファミリー腫瘍(ESFT) 現在利用可能な薬剤の内、ESFTに対して有効性が高いものは、これまでの臨床試験の結果、ビンリスチン、ドキソルビシン、シクロホスファミドの組み合わせ(VDC)が、ユーイング肉腫ファミリー腫瘍の「標準的」な化学療法として広く受け入れられ、この化学療法と適切な局所療法により骨盤原発を除く非転移例の約60%が治癒に至るようになった。米国のNational Cancer Institute(NCI)のパイロット研究において、再発・既治療のユーイング肉腫に対するイホスファミドとエトポシドの組み合わせ(IE)の有効性(5年EFSが22%であるが、幹細胞移植を併用した治療と同等)が示された。以上より、現時点でのESFTに対する「標準的」な化学療法レジメンは、少なくとも初診時に遠隔転移のない例に対してはVDC+IEであると考えられ、イホスファミド(IFM)は、ESFTの治療において国際的に第一選択とされる有効な薬剤と考えられる。 B.横紋筋肉腫 横紋筋肉腫に対する標準的化学療法レジメンはVAC療法であるが、イホスファミドを含んだVAI療法やVIE療法がそれに匹敵する有効性及び安全性を有していることが示されている。したがってVAC療法不応例やVAC療法に伴う肝中心静脈閉塞症などの重篤な有害事象のため治療継続困難な症例や、標準治療施行後の再発例に対し本剤を含んだ治療レジメンが次の選択肢として位置づけ得る。 C.神経芽腫 stage3または4の神経芽腫小児に対する標準的化学療法レジメンは国際的にも確立されていない。一般的に、我が国や欧米諸国では、ドキソルビシンまたはピラルビシン,シスプラチンまたはカルボプラチン,シクロホスファミド,エトポシド,イホスファミド (IFM),ビンリスチン等の薬剤の一部または全てを組み合わせた併用療法が行われ、ほぼ同等の有効性及び安全性を有していることが示されている。したがって神経芽腫に対し、本剤を含んだ治療レジメンが一般的な選択肢として位置づけられる D.網膜芽腫 眼窩内や片側性の場合はビンリスチン、ドキソルビシン、シクロホスファミド、カルボプラチン、エトポシド等を用いて治療するのが標準的治療法である。しかし眼窩外に進展するような高リスク症例や再発例などの難治例ではイホスファミド、カルボプラチン、エトポシド等を併用した造血幹細胞救援を併用した大量化学療法が行われている。従って、イホスファミドは、網膜芽腫の進行例や難治例に対してカルボプラチン、エトポシドと共に一般的に併用される薬剤と考える。 E.肝芽腫 StageI,IIでの標準的治療法はシスプラチン、ビンリスチン、フルオロウラシルを併用する治療法でstageII,IIIでは、さらにドキソルビシンを併用する。stage4では、シスプラチン、ドキソルビシン、ビンリスチン、フルオロウラシルを併用する。しかし、German Society for Paediatric Oncology and Haematology からの報告では、イホスファミド、シスプラチン、ドキソルビシンの併用療法で治療を行い良好な成績(全生存率75%,77%,文献E-1,2)を得ている。以上よりイホスファミドは、肝芽腫に対しての治療にも有効と考える。 F.腎芽腫 現在の腎芽腫に対しての標準的治療はビンリスチン、アクチノマイシンD,シクロホスファミド、ドキソルビシンなどを併用したレジメンを用いた治療が標準的である。しかし再発例に対してICE療法(イホスファミド、カルボプラチン、エトポシド)が選択される(文献F-2)。また予後不良なMalignant rhabdoid tumor of kidney (MRTK)に対してもイホスファミドが併用される。(文献F-8) |
5.国内における本剤の使用状況について
公表論文等 医学中央雑誌刊行会(http://login.jamas.or.jp/enter.html)において,各診断名やイホスファミドのキーワードを用いて検索し,明らかに本剤を投与したと考えられる,ないし本剤投与症例が含まれると考えられた報告を抽出した. 無作為比較試験はなく、多施設のデータを集めた観察研究、1施設のケースシリーズ、症例報告のみであるが、我が国における日常的な使用の状況を示す論文発表、学会発表が多数なされている。いずれも海外文献で示されている用法・用量を外挿しており、海外で報告されている成績と同等な有効性を示し、かつ、安全性においても、毒性の強度、プロファイル共に大きな相違はないと判断される。 |
Aユーイング肉腫ファミリー腫瘍 (1)横山 良平、他:小児がん,37:497-501,2000 1996年より1999年まで登録された16例を解析した。局所例は12例、転移例は4例であった。 年齢は5歳から25歳まで。イホスファミド16g/m2を7日間で分割投与するクールまた、イホスファミド2.4g/m2×5日間、エトポシド100mg/m2×5日間のクールで治療されている。局所例の3年EFSは60%で、転移例は全例再発した。治療毒性に関しては記載されていない。 (2)古池 雄治、他:小児がん,37:51-53,2000 症例報告7歳女児PBSCT研究会のプロトコールでイホスファミド 2.8g/m2×5日間,エトポシド12mg/m2×5日間を3コース行った。その他にビンリスチン、ピラルビシン、シクロホスファミドを用いた治療を行いエトポシド、カルボプラチン、メルファランを用いた末梢血幹細胞移植血を行い、治療を終了した。 (3)麦島 秀雄、他:小児外科 36:124-132,2004 欧米の治療成績のreviewを記載している。本邦ではPBSCT研究会でのイホスファミド 2.8g/m2×5日間,エトポシド12mg/m2×5日間のコース行った。その他にビンリスチン、ピラルビシン、シクロホスファミドを用いた治療を行いエトポシド、カルボプラチン、メルファランを用いた末梢血幹細胞移植血を行い30-40%の成績である。 (4)川崎 圭一郎、他 小児がん36:74-77,1999 症例報告、11歳男児、アクチノマイシンD 0.45mg/m2×5日間、エトポシド100mg/m2×5日間、イホスファミド1g/m2×5日間を併用し、カルボプラチン150mg/m2×5日間,エトポシド100mg/m2×5日間、イホスファミド1g/m2×5日間を併用した治療を行った。カルボプラチン200mg/m2×5日間、エトポシド150mg/m2×5日間、イホスファミド1.5g/m2×5日間施行している。(ICE療法)無病生存中。 (5)山際 浩史、他 東北整災紀要37:272-275,1993 症例報告、イホスファミド2g/m2×5日間、エトポシド120mg/m2×3日間、ドキソルビシン30mg/m2×2日間施行した。 B.横紋筋肉腫 (1)大杉 夕子、他. 小児がん34 :517-521,1997 症例報告、7例中4例にイホスファミドを併用した治療を施行している。通常の化学療法でイホスファミドを併用しているが、具体的な投与量については記載がない。移植前処置としてエトポシド100mg/m2×5日間、イホスファミド1.8g/m2×5日間、メルファラン140,70/m2×1を2例に併用している。 (2)野崎 千佳、他 小児がん32 :439-443,1995 22例について報告されているがイホスファミドを併用したのは、9歳,14歳の症例だが、投与量等は不明である。 (3)石川 孝成、他 小児がん研究会6: 47-49, 1991 再発した2例にIE療法(イホスファミド1.8g/m2×5日間, エトポシド150mg/m2×5日間)を施行している。治療毒性は、腎障害は2例(6%)に認めたが、神経障害は認めなかった。 (3)鞭 煕、他 癌と化学療法 14:3291-94,1987 症例報告で、3歳の治療抵抗性例で、イホスファミド2g/m2×3日間、エトポシド100mg/m2×5日間、ダカルバジン100mg/m2×5日間を投与した。骨盤照射の例には出血性膀胱炎を発症した。 (4)大曽根 真也、他 小児がん 38:145-150,2001 症例報告、3例にイホスファミドを投与した。レジメンは、イホスファミド2.8g/m2×5日間,エトポシド120mg/m2×5日間あるいは、イホスファミド2g/m2×3日間、エトポシド150mg/m2×3日間あるいは、イホスファミド2g/m2×3日間、エトポシド150mg/m2×3日間、シスプラチン25mg/m2×3日間あるいは、イホスファミド1.8g/m2×5日間、エトポシド100mg/m2×5日間、カルボプラチンン400mg/m22日間(ICE療法)あるいは、ビンリスチン1.5mg/m2×1日間、イホスファミド3g/m2×3日間、アクチノマイシンD0.4mg/m2×5日間投与した。 (5)沢田 淳、他 臨床と研究 69:170-175,1992 8歳のIE療法行った症例を記載しているが、詳細は不明である。 渡邊 健一郎、他 小児がん 38:52-55,2001 C.神経芽腫 (1)朴永東、他 小児がん40:177-181,2003 移植前処置にイホスファミドを併用した4例(3,4,4,7歳)の症例報告。移植前処置としてイホスファミド2.5g/m2×5日間、チオテパ200mg/m2×4日間または、イホスファミド2.5g/m2×5日間、メルファラン70mg/m2×2日間投与した。特に治療毒性については記載がない。 (2)吉見 礼美、他 小児がん 37:207-209,2000 1歳10か月患児、イホスファミド3g/m2×3日間、カルボプラチン500mg/m2×1日間、エトポシド150mg/m2×3日間した。(ICE療法)同種移植後Fanconi症候群を発症した。 (3)石川 孝成、他 小児がん研究会6: 47-49, 1991 (4)鞭 煕、他 癌と化学療法 14:3291-94,1987 (5)大曽根 真也、他 小児がん 38:145-150,2001 D.網膜芽腫 (1)浜田 聡、他:: 小児がん,39:547-552,2002 難治性の両側網膜芽腫に対しdouble megatherapyの前処置としてイホスファミド。メルファランが投与されたが、投与量等は記載されていない。 (2)石川 孝成、他 小児がん研究会6: 47-49, 1991 E.肝芽腫 (1)井上 雅美、他 小児がん30:148-150,1993 2歳児の症例報告、治療抵抗性で移植前処置としてイホスファミド12.5g/m2メルファラン210mg/m2を投与した。 (2)西平 浩平、他 平成5・6年度化学研究費補助金研究成果報告書 Page58,1995 (3)大植ら 平成5・6年度化学研究費補助金研究成果報告書 Page72,1995. (4)日本小児肝癌スタデイグループJPLT研究会2003(会議録) 小児がん40:94-101,2003 F.腎芽腫 (1)井上 隆、他、小児がん37:489-492,2000 症例報告、8か月のmalignant rhabdoid tumor of the kidney(MRTK)に対しアクチノマイシンDおよびイホスファミドを併用投与した。具体的な投与量などについては記載されていない。 (2)松永 正訓、他 小児がん 40:592-595,2003 症例報告、1歳の治療抵抗性malignant rhabdoid tumor of the kidney(MRTK)に対し、イホスファミド3g/m2×2日間、カルボプラチン400mg/m2×1日間、エトポシド100mg/m2×5日間(ICE療法)、ピラルビシン30mg/m2×2日間投与した。一時的に効果を認めたが再発した。 (3)塩沢 祐介、他 小児がん 40:629-632,2003 (4)黒田 啓史、他 小児がん 37:214-218,2000 (5)石井 武文、他:小児がん34:250-253,1997 |
6.本剤の安全性に関する評価
イホスファミドに関する副作用に関しては、出血性膀胱炎、尿細管性アシドーシス、Fanconi症候群、脳神経症状等の報告がある。
イホスファミドの代謝産物であるacroleinなどによって引き起こされる出血性膀胱炎は、メスナ(sodium-2-mercapto-ethanesulfonate)の投与によって抑制可能であり、顕微鏡的/肉眼的血尿あるいは頻尿などの膀胱刺激症状が出現した場合にも、メスナの追加投与、尿のアルカリ化、利尿の確保により症状の改善が得られる。 メスナの投与方法に関しては、ASCO(The American Society of Clinical Oncology)より化学療法時のメスナの投与方法のガイドラインとして1999年、2002年に提唱されている。(J Clin Oncol 17:3333-3355,1999, 20:2895-2903,2002)このガイドラインによると、標準的投与量イホスファミド投与時(2.5g/m2以下)では、投与量の60%を投与(イホスファミド投与直後、4,8時間後)するのを推奨している。しかし、大量イホスファミド投与時(2.5g/m2以上)では、イホスファミドの大量投与時には、半減期は遷延することよりメスナの投与期間の延長が必要であるとしている。 イホスファミドの投与量に対するメスナ投与量の割合(w/w)は、1.6-1.8g/m2では、60-75%(J Clin Oncol 10: 1737-1742, 1992, Cancer 71:2119 -2125, 1993, Cancer75: 2966-2970,1995, J Pediatr Hematol Oncol 19: 124-129,1997, Med Pediatr Oncol 37: 442-448,2001, J Clin Oncol 21: 3423-3430,2003)、 3g/m2では、100%(Eur J Cancer Clin Oncol24: 903-908, 1988, Seminar in Oncolgy 16,Suppl3:46-50,1989, Med Pediatr Oncol 27:149-155,1996, Eur J Cancer 35:1698-1704,1999, J Clin Oncol 19:1818-1829,2001, J Clin Oncol21:2974 -2981,2003)と報告されている。以上よりメスナ投与量の割合は、イホスファミドの投与量が標準投与量の1.6-1.8g/m2では、60-75%とほぼASCOが提唱しているガイドラインに準じた投与量であった。大量の3g/m2では、100%での実績があるところである。 メスナが本剤投与に起因する出血性膀胱炎の特異的予防薬であること、メスナの投与によって本剤の抗腫瘍効果は減弱しないこと、メスナ自身に起因した重大な有害事象が報告されていないこと等を考慮すると、本剤投与時併用するメスナの推奨用量は、2.5g/m2以下では、本剤の60-75%、3g/m2では、等量(100%)前後が適当と考えられる。(成人の骨・軟部腫瘍における投与量については、イホスファミドの骨・軟部腫瘍の報告書を参照すること。) イホスファミドの総投与量が80g/m2を越える例、シスプラチンの投与既往例、腎機能低下例や片腎例、3歳以下の乳幼児への投与については尿細管性アシドーシス、Fanconi症候群が発症しやすくなるためクレアニンクリアランスなどに注意しながら投与する必要がある。(Med Pediatr Oncol ,41: 190-197,2003)特に小児固形腫瘍の治療併用薬には腎毒性のあるシスプラチンやカルボプラチンが、用いられることがあるため、腎障害には特に注意する必要がある。またウイルムス腫瘍や神経芽腫等は、手術治療によって片腎を切除されている場合が多く注意を要する。十分な対応を行っても合併症は避けられないこともあり、小児腫瘍を専門に行っている施設での使用が望ましい。 本報告書作成時点で本剤添付文書にはG-CSF製剤を用いた支持療法に関する項以外は同様の記載があるものの,腹部照射の既往がある腎芽腫再発症例において1例ではあるものの肝中心静脈閉塞症を合併し死亡した症例がある.本合併症は同種骨髄移植後に主に認められるものであるが,本報告書に引用した論文41以外に腎芽腫の治療経過中に発生した肝中心静脈閉塞症(VOD)の報告(Czauderna P, et al. Eur J Pediatr Surg 10: 300-303, 2000.)があり,同報告書でも欧州を中心とした治療研究グループであるInternational Society of Pediatric Oncology(SIOP)の治療プロトコールであるSIOP-93-01で治療された206例中10例でVODを合併したと報告されており,アクチノマイシンDがVODに重要な役割を果たしていることと,特に腹部照射がVOD発症の危険因子であることが述べられている.その他横紋筋肉腫に対する標準的化学療法であるVAC療法(ビンクリスチン・アクチノマイシンD・シクロホスファミド)後にも発生することが知られている(Ortega JA, et al. Cancer 79: 2435-2439, 1997.)し,同論文ではシクロホスファミドを増量したVAC療法の場合にVODが発生していることを指摘して,増量したシクロホスファミドが原因でないかと推測しているが,VAC療法と本剤を含むIE療法(ビンクリスチン・イホスファミド・本剤)とを交互に投与した症例からも発生しており,本剤がVOD合併に無関係であるとは結論できない.従って,本剤を含む化学療法を施行した場合には肝中心静脈閉塞症の合併があり得ること,特に腹部照射を施行された症例では注意する旨,安全性情報の追記は必要であろう. |
7.本剤の投与量の妥当性について
ユーイング肉腫ファミリー腫瘍、横紋筋肉腫,神経芽腫,網膜芽腫,肝芽腫その他肝原発悪性腫瘍,腎芽腫その他腎原発悪性腫瘍などの小児悪性固形腫瘍に対する本剤の有効性及び安全性について、これまでに公表された臨床試験結果を考察し、さらに海外の教科書ならびに信頼できる海外の学術雑誌に掲載された総説および治療ないし診療ガイドラインに基づき、本剤を含む併用化学療法全般から本剤の有用性を評価し、本剤の効能又は効果として前記疾患を追加することは妥当であると考えられる。ならびに、使用において、標準的と考えられる併用療法を組み合わせた用法及び用量で使用することはこれらの併用療法での有効性及び安全性から妥当と考えるが、当該効能について現時点で未承認のものを含むものであり、これらについては現時点では参考的に示すものであり、未承認薬剤に対する承認に関するエビデンスの収集は引き続き行うべきものである。 なお、頻度の少ない網膜芽腫、肝芽腫、ウイルムス腫瘍以外の腎悪性固形腫瘍に関しては科学的に充分量の臨床試験が行われていたとは言いきれないものの,本剤を含む併用化学療法を必要とする疾患・病期群が存在することは明らかであり,致死的疾患である悪性固形腫瘍から救命できる小児患者の割合を考慮するとともに,治療関連合併症死の割合が極めて低いことを考慮すると,本剤の効能拡大は妥当と判断した.投与量に関して、これまでの添付文章では、1日、1.5〜3g(30〜60mg/kg)となっていたが、今回無作為化比較試験等の公表論文2-(1)で示した論文では、全て投与量は体表面積換算となっており、公知の事項と考え、投与量は、1日、1.5〜3g/m2が臨床使用の際には妥当と考え設定した。併用療法の場合も上記の用法・用量の範囲内で行うが、年齢、併用薬、患者の状態に応じて適宜減量を行う。6.本剤の安全性に対する評価にしましたように1コースにおける総投与量が10g/m2を越えないよう、また1患者に対する全治療コースの総投与量は、80g/m2越えないようにする。 肥満患者に対する標準体重換算を用いた投与量の修正を支持する根拠はないが、極度の肥満の場合は安全性を考慮して減量することとする。 各疾患における具体的な用法・用量の設定根拠は以下に記載する. Aユーイング肉腫ファミリー腫瘍 文献A-1,2,5,6,8でのイホスファミドは、エトポシドと併用し1.8g/m2を5日間投与する。総投与量は9g/m2となる。また文献A-3,4,7では、イホスファミドは、ビンリスチン、ドキソルビシン、アクチノマイシンDと併用するような投与法で2-3g/m2を3日間、合計6-9g/m2を投与する。 以上よりユーイング肉腫ファミリー腫瘍に対するイホスファミドは、6-9g/m2を3-5日に分割して投与する。 B横紋筋肉腫 文献A-1,2,3 ,4 ,5,6でのイホスファミドは、エトポシドと併用し1.8g/m2を5日間投与する。総投与量は9g/m2となる。この投与法が横紋筋肉腫に対する標準的な投与法と考える。 C神経芽腫 米国CCGプロトコールの文献C-1,2,3では、イホスファミドは、2.5g/m2を4日間、シスプラチン、ドキソルビシンと併用投与する。総投与量はイホスファミド10g/m2となる。文献C-4,5はイホスファミド1.8g/m2をエトポシドと共に3日間投与する。総投与量は5.4g/m2となる。 以上より神経芽腫に対するイホスファミドの投与量は5-10g/m2を3-4日に分割投与する。 D網膜芽腫 文献D-1では、エトポシドと併用しイホスファミドは、1.8g/m2を5日間投与する。総投与量は9g/m2を5日間に分割して投与する。 E.肝芽腫 文献E-1,2,5では、シスプラチン、ドキソルビシンと併用し、イホスファミド3g/m2を3日間、1日目に0.5g/m2を投与する。総投与量は9.5g/m2になる。文献E-4ではシスプラチン、エトポシドと併用しイホスファミドは、1.5 g/m2を3日間投与する。総投与量は4.5g/m2になる。文献E-6では、ビンリスチン、ドキソルビシンと併用しイホスファミドは、3g/m2を3日間投与する。総投与量は9g/m2になる。以上より肝芽腫に対するイホスファミドの投与方法は、4.5〜9g/m2を3日間に分割して投与する。 F.腎芽腫 文献F-1ではビンリスチンと併用しイホスファミドは3g/m2を2日間投与する。総投与量は6g/m2となる。文献F-3ではカルボプラチン、エトポシドと併用しイホスファミドは1.8g/m2を5日間投与する。総投与量は9g/m2となる。文献F-4では、単剤でイホスファミドを1.6g/m2を5日間、または2.2g/m2を3日間投与する。総投与量は6-8g/m2になる。文献F-5ではカルボプラチン、エトポシドと併用しイホスファミドを2g/m2を3日間投与する。総投与量は6g/m2となる。 以上より腎芽腫に対するイホスファミドの投与方法は6-9g/m2を3-5日間に分割して投与する。 |