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4 結核対策を進めるインフラの充実強化(行政機関、医療機関の役割分担)

(基本的な考え方)

 既存の保健所や健診システム等をインフラとして最大限に活用し、迅速に効率的なシステムを再構築する必要がある。

1 事前対応型行政

(1)結核発生動向調査体制等の充実強化

 結核の発生状況は結核予防法による届出や入退院報告に加え、法律に基づかない予算措置で実施される発生動向調査により把握されている。しかし、結核の発生動向情報は、まん延状況の監視情報のほか、対策面(発見方法、発見の遅れ、診断の質、治療の内容や成功率、入院期間など)の評価に関する重要な情報を含むものであることが望ましく、その精度の向上に努めるとともに、関連の積極的疫学調査を含め、制度的な整備を行うことを検討すべきである。

(2)国の基本指針(結核制圧5カ年計画)の策定

 現在、我が国では、結核以外の主な感染症対策については、感染症法に基づき、国が基本指針を示して、各都道府県が予防計画を策定し、事前整備を図っている。また、生活習慣病対策として、各自治体においては、国の「健康日本21」に基づく計画の策定が行われ、具体的な事項と将来的な数値目標を盛り込んだ計画を策定または策定中である。

 国においては、これらを参考にしながら、結核に関する指針を示すとともに、中核となる対策上の目標を明示することも必要である。
例 DOTS率70%、治療成功率85% など

(3)都道府県の予防計画の策定

 都道府県においては、国の基本指針に基づき、各自治体の状況を勘案しながら「都道府県結核予防計画(仮称)」の策定を行い、その行政目標、そのための方法等を明記する必要がある。

 また、いわゆる大都市を抱える都道府県においては、政令市等と連携し、これら地域の状況を踏まえた計画とすべきである。



2 国・都道府県等の機能の明確化

 結核は我が国最大の感染症であり、その制圧に関する「公的責任」は今後も大きいので、行政機関の責務や権限に関する制度的な整備を行うとともに、国、都道府県、市町村等の役割を明確にし、実効ある体制を再構築する必要がある。

 結核対策についても、地方分権の推進が必要であり、地域の実情に応じた効率的な施策が展開できるような制度とすべきである。そのためには、全国施策を基本(1階部分)とし、地域格差解消(2階部分)のために、各地域が行うことが望ましい追加措置を定めることなどが考えられる。

(1)国

 国は、全国的なシビルミニマムのプログラムの作成と立ち上げ時の財政支援により、地方自治体における対策の推進を促すことが必要である。

 その際、結核対策の推進は、現段階における公衆衛生上の重要な問題かつ、単に保健医療分野のみの問題ではなく、社会全体の公共の福祉、という立場からの認識が必要であり、これらの認識を普及するとともに、全国的結核対策に用いる公共財の開発・確保・維持を図る必要がある。例としては、以下のようなものが考えられる。
例:  結核研究所
 結核発生動向調査
 結核菌バンク(指紋バンク)
 検査の精度管理
 最新の知見に基づく医療基準の提示
 医薬品の確保
 疫学調査などの高度ノウハウの蓄積
 研修モデルプログラムの開発
 結核に関する研究開発

 国においては、関係省庁、関係部局等との連携・協力により、都道府県における関係部局との連携・協力が円滑に行えるよう、調整を行っておく必要がある。例としては、以下のようなものが考えられる。
例:  学校(含む日本語学校)における健診などの対応
 外国人対応
 職域健康診査 などの関係する所管官庁との連携の強化

 また、国の権限及び手法を明確にし、各県の結核状況・対応状況の資料公表、厚生科学審議会等の有識者による公開情報に基づく援助助言等を行える体制を構築すべきである。

(2) 都道府県

 都道府県は、地域の特性や状況を把握すべき立場にあるとの認識を明確にもち、発生動向調査の実施と分析に基づいて、都道府県における医療機関、市町村等に対する対応の指令塔としての機能が期待される。

 入院を必要とする結核患者でも地理的に近い所で適切な治療が受けられるよう、都道府県等の責務として、2次医療圏単位に必要とされる結核病床についての検討を行い、広域的な観点も含めて確保を図ることについて、適切な対策を考える必要がある。

 さらに、結核以外の主な感染症対策についても、都道府県が実施主体であると位置づけられており、これらのノウハウやしくみを最大限に活用し、総合的な感染症対策を進めていくことが必要である。

 そのため、その実働部隊として保健所を位置付けるとともに、国の策定するシビルミニマムを越えるきめ細かな事業の計画と実施を行う必要がある。

(3) 市町村

 市町村は、BCG接種の実施主体として、その安全かつ確実な実施を推進すべきである。

 また、現在、市町村には、定期健診の実施者として位置付けられているが、今後、健診の重点化、集約化により期待される余力を、患者治療支援(含む福祉的事業)に振り向けるとともに、住民に最も近い行政単位として、住民に対する普及啓発に一層、取り組むことが期待される。

3 保健所の役割

 保健所は、これまでの結核対策において、定期外健診の実施主体、結核診査協議会の運営等の適正医療の普及、訪問等による患者の治療支援、及び届出に基づく発生動向の把握、分析など、様々な役割を果たしてきており、今日の結核対策の進歩は、保健所の存在なしには考えられない。

 現在、地域保健法の施行、保健所の再編など、保健所を取り巻く環境は大きく変化しつつあるが、今後とも、公的関与の優先度を考慮して業務の重点化や効率化を行うとともに、公衆衛生対策上の重要な拠点であることにかんがみ、結核対策の実働部隊としての位置付けを明確にすべきである。

 保健所が担うべき具体的な役割には、以下のようなものが考えられる。
(1)  患者支援
「治療終了後の検診を含めた患者管理」から「治療成功をめざした患者支援」へ転換
個別患者支援計画(DOTS計画)の作成とモニター(コホート分析の強化)
地域の実情等に応じた地域DOTSの推進体制の構築
(必要な場合においては、地域DOTSの服薬拠点)

(2)  結核の地域情報センター(患者登録、発生動向調査、結核対策の評価)
(3)  結核の予防対策や医療の質の保証(BCG接種技術や健診精度の確保、結核診査協議会や研修による適正医療の確保)
(4)  個別患者発生時の疫学調査と危機管理(定期外健診の実施、集団感染対策)
(5)  市町村への技術支援・指導

4 国際協力

 我が国を含むアジア地域においては、現在も結核の問題が政策上重要な位置を占めている諸国が多い。これらの国とともに結核対策を推進することは、アジアの同胞を支援するという意味合いとともに、多剤耐性菌の流入阻止などは我が国の結核対策の延長線上の課題として取り組むべきである。

 従って、「国境無き(TSF: Tuberculose sans frontier)結核問題」の考え方での組織的、財政的な措置を我が国が行うことは、重要な意味を持つものと考えられる。


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