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III  今後の結核対策についての具体的な提案
 (今後の結核対策のさらなる改善アプローチ)

1 基本理念(社会的な背景を踏まえた結核の疫学像の変化と対策の基本的考え方)

(対策の枠組み)

 現在、結核以外の主な感染症対策については感染症法により、結核(BCG)以外の主な感染症の予防接種対策については予防接種法により、対応がなされている。現在、結核とその他の感染症対策との整合性について議論があるが、結核は依然として我が国における最大の感染症であることにかんがみ、現段階では、結核及び結核対策を取り巻く特殊性に基づいて独立した対策を維持することが適当である。

 しかしながら、将来的に結核罹患者数及び死亡数等が減少した場合には、他の感染症対策とともに一貫した対策を行うことも必要であると考えられ、今後、結核を感染症法、予防接種法の枠組みに統合することも視野に入れ、これらの法体系との整合性の向上に努力すべきであると考えられる。

 また、そのためには、我が国がWHOのいう中まん延国(intermediate burden country)・結核改善足踏み国(stagnation country )を脱し、結核の公衆衛生上の脅威の程度を一層、引き下げることが重要であり、21世紀中盤には結核を公衆衛生上の課題から解消できるような状況に至ることを目標とすべきである。

 現在の主要な問題点は、近年、特に結核を取り巻く状況の変化として指摘されている高齢者、大都市部の問題を中心に、対策を充実・強化する必要がある。また、今後、問題化するであろうとの指摘がある外国人やHIV感染との合併結核の問題についても、認識しておくことが重要である。

(行動計画)

 本格的に施策を見直す際には、具体的な目標、スローガンをもって努力を行うことも積極的な推進に必要である。

(基本的な方向性)

 現行結核予防法が制定された当時と現在の結核及び結核対策を取り巻く状況の変化の十分な認識、分析に立ち、現行法では十分に対応できない部分、あるいは、既に施策としての重要性等が減弱した部分については、現在の状況にあった施策へ見直す必要がある。

 現在の行政システム、医療システム等を最大限に活用するとともに、実現可能な役割分担と配分に基づき、主要な対策については、明確に重点化するなど、メリハリをもった実現可能性の高い施策体系を構築すべきである。

 具体的な結核対策の見直しに当たっては、以下のような観点にたった具体的な方策が盛り込まれることが必要である。

(1) 現在の疫学的な状況への対応

  −  現在の結核罹患者は、かつての青少年層を中心とした結核単独の罹患かつ初感染患者から、合併症を有する高齢者の既感染の発症者が中心となっている。

  −  そのため、合併症を有する結核罹患者が増加しており、結核単独の治療に加えて、合併症等への複合的な治療を必要とする場合も多く、求められる治療形態が多様化、複雑化している。

  −  さらには、多剤耐性結核に対しては、長期にわたる治療と他者への感染防止の徹底が必要であり、高度な治療が求められる。

  −  高齢者の発病は、発病者の治療の問題のみでなく、若年者へ感染させるリスクがある。また、高齢者は発病しない場合も将来の発病リスク者となる。そのため、高齢者への適切な対応は、世代間の感染防止という意味で重要である。

  −  現行施策の及びにくい集団(住所不定の者や外国人労働者等)の存在に十分留意し、これらの者は、高発病、遅発見、治療中断、伝播高危険等の社会的リスクを同時に有している場合が多いことを認識した上で、有効な施策が及ぶような体制とすべきである。

(2) 予防・医療両面の科学的知見を反映

  −  近年、特にEBM(Evidence Based Medicine:根拠に基づく医療)の重要性が強調されている。レベルの高いエビデンスを積極的に収集し、医療関係者のみならず、国民各方面に周知を図り、その上に立った施策を実施する必要がある。

  −  特に、医療関係者が十分な知識と研修機会をもてるよう、関係機関、関係団体が協力・連携をすすめることが重要である。

(3) 対策理念の変更

  −  近年の人権を重視した考え方に基づき、結核罹患者の「適切な医療を受ける権利」「偏見差別の除去」等といった人権への配慮と罹患者から感染を受ける可能性のある者の「感染を受けない」人権への配慮を両立した対応が求められる。

  −  一律的、集団的対応から、最新の知見やリスク評価等に基づくきめ細かな対応へ

  −  具体的には、以下のような考え方を基本とすべきである。
 *   患者管理は、患者支援・患者中心主義(patient-oriented-approach)により早期回復・社会的まん延防止を図る
 * 罹患者の人権制限的な措置は最小限にすべきであるが、感染防止の上での必要性があると認められる場合は、明確な手続規定を設けて確実な措置を実施する。
 * 一律的、集団的対応から、感染源患者の周辺の接触者健診、有症状時の早期受診、受診患者の診断の向上に重点を移行

(4) 施策の強力な推進体制の再構築

  −  地方分権の流れの中で、全国的な結核対策の前進を図るためには、国、都道府県、市町村の役割の明示、地域格差の改善策、改善を可能とする医学(医療)界とのコンタクトの確保などが必要である。


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