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I はじめに

 結核は、かつて「国民病」として恐れられ、国をあげての対策がとられた。特に昭和26年に大改正された結核予防法は、当時としては最新鋭の技術力と結核制圧への強い意志の総和として制定され、過去半世紀にわたる結核対策の根拠法として機能し、この間、結核死亡者や罹患者数の激減に大きな貢献をした。特に、昭和30年代後半からの10年間においては年率10%を超える罹患者数の減少をもたらし、極めて有効に機能していたものと考えられる。しかしながら、それ以降、結核の改善状況の鈍化が起こり、平成になってからは改善の停滞、ひいては平成8年以降の結核の「再興」と呼ばれるような罹患率の上昇傾向がおこってきた。そこで、公衆衛生審議会結核予防部会は「21世紀に向けての結核対策(意見)」をとりまとめ、また、厚生労働大臣(当時、厚生大臣)は、平成11年に、結核緊急事態宣言を発して、結核に取り組む行政機関、学術専門団体、民間組織などの結核への取組みの再強化を促したのである。厚生労働省では、結核緊急対策検討班を設けて当面重点的に実施すべき結核対策として都市部におけるDOTS(直接服薬確認治療)の実施や高齢者等に対する予防投薬、早期発見事業を具体化するとともに、厚生科学研究新興・再興感染症研究の成果として、「結核院内(施設内)感染予防の手引き」「保健所における結核対策強化の手引き」等を作成し、結核の集団的発生があった場合の積極的結核疫学調査実施チームを編成する等を行った。また、平成12年度に、より体系的な結核対策見直しの基礎資料を得るため、結核緊急実態調査を実施し、平成13年度には、日本を含む中まん延国の結核対策を主題とした世界保健機関(WHO)国際会議等を我が国で開催し、今日の我が国が持つ結核の課題を国内外の視点からの検討も行ってきた。しかしながら、結核やそれを取り巻く技術的・社会的環境が激変する中で、約半世紀前に作られ、多くの技術的指針等を伴う現行結核対策体系が、新しい結核対策を進める上でも、引き続き有効に機能していくものかを検討する必要性は依然として残されている。また、法施行5年後の見直し規定を持つ「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(以下、「感染症法」という。)との関係も整理しておく必要がある。そこで、平成13年1月の中央省庁等改革に伴って、新設された厚生科学審議会感染症分科会結核部会は、平成13年5月以来、一連の経緯を踏まえた検討を続け、特に7月以降は、ワーキンググループにおける議論を全体会議に還元するという方法で論議を深め、ここに今後の結核対策がとりうる制度面を含めた包括的な提言を行うこととなった次第である。
 この報告書は、本章に続き、現在の我が国の結核問題の現状と課題を取り扱い、具体的提言の基礎となる問題意識の共有化を図ることを目標とした第2章「結核及び結核対策を取り巻く状況の変化」、具体的な提言を基本理念、予防対策、医療対策、これらを支えるインフラの4つの視点からまとめた第3章「今後の結核対策についての具体的な提案」及び最終章の「結核対策の見直し実現の方策(まとめに代えて)」の4章からなっており、また理解を助ける為、結核部会で用いた主要資料も添付されている。この提言が、結核関係者のみならず多くの方々の理解と賛同を得て、結核の制圧へ向けて新しい結核対策の起点とならんことを期待している。


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