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伝達性海綿状脳症対策調査会の議論について
「生物由来原料基準」の反芻動物原料基準の改正について

平成16年2月23日 生物由来技術部会

1 米国産のウシ等由来原材料の使用に係る件

 (1) 前提
(1)   平成15年12月末の米国でのBSEの発生の確認を受けて、医薬食品局長通知において、米国産ウシ等由来原材料を新たに使用して医薬品、医療用具等の製造を行うことを当面差し控える指導を行うとともに、米国産原材料の使用及び他の原材料への切替えの可能性等について製造業者等に自主点検を行わせたところ。
(2)   これまでも医薬品のBSE規制においては、薬事法第42条に規定する「生物由来原料基準」に基づき、原産国のBSEの状況にかかわらずすべての原産国に対して、リスクの高い部位14部位の使用を禁止しており、医薬品、医療用具等においてただちに保健衛生上のリスクがあるものではない。
(3)   自主点検の結果、厚生労働省は約2600品目についての報告を受けた。

 (2)  米国産のウシ等由来原材料の使用状況
 ウシ等由来原材料の米国産原材料への高い依存度の現状(血清の45%、ゼラチンの30%等)を踏まえ、原材料の切替えに伴う医療上の影響を最小限にしながら速やかな他の原産国の原材料等への切替えを行わせることが必要である。

 (3)  対策案
 予防的な措置として、米国産のウシ等由来原材料の使用を禁止することとするが、製品中での製造工程による希釈・濃縮、処理、投与経路、使用期間を考慮した製品の相対リスク(平成15年7月同調査会におけるリスク評価法)に応じて、切替えについての経過期間を定めることとした。
(1)   区分A(比較的高リスクの製品群)は6ヶ月後の出荷分から
(2)   区分Bは、12ヶ月後の出荷分から
(3)   区分Cは、当分の間規制を適用しない

 (4)  また、今後のBSE発生の拡大を懸念し、今後のリスクを分散させるためにウシ等由来原料から他の原料への切替えを行った製品を企業が開発し、承認申請されたものについては、優先的に審査を行うことされた(当面、今後2年間。また、6ヶ月以内に申請されたものについては、(3)の対応につき免除。)。ただし、調査会では、医薬品等においては、他の感染症や品質等における旧製品比較可能性等の精査が必要であり、性急ではなく慎重に対応するべきという意見があった。


2 脊柱骨等を新たにリスクの高い部位に指定する件

 (1)  前提
 食品分野において、脊柱骨等が危険部位に指定されたことに伴い、医薬品、医療用具等についても、脊柱骨(脊柱骨、頭骨、三叉神経節及び背根神経節)を使用してはならない部位とする議論を行った。(OIEの基準に準拠)

 (2)  ウシ等の骨の使用状況・規制等
(1)   脊柱骨はウシ等の骨を使用した製品において混入するリスクがあるものであり、医薬用途においては、骨に由来するゼラチン等が代表的な例である。(年間150億カプセルが製造され、骨由来ゼラチンが75%)
(2)   医薬品等の規制、食品の規制ともに、国際的にも、豪州、ニュージーランド等の極めてリスクの低い国(欧州委員会のGBR−1に相当)については脊柱骨の除去に対する規制を行っていない。(ゼラチン全体の30%の供給)
(3)   インド等のリスクの低い国(欧州委員会のGBR−2に相当)については、国により規制が異なる。

 (3)  医薬品、医療機器等における脊柱骨等の規制案
(1)   発生国等に対して脊柱骨等を除去するとともに、低リスク国産の骨由来原材料(食品分野では発生国を規制)についても規制の対象とするが、供給停止等の医療上のデメリットを回避するため、低リスク国については、脊柱骨等を除去したゼラチンの新規の製造に要する期間も考慮し、脊柱骨除去に関する経過措置を設けることとされた。
(2)   豪州、ニュージーランド等のGBR−1の国を原産国とする骨原材料を用いたゼラチンついては当分の間脊柱骨等の除去を猶予する。
(3)   インド等のGBR−2の国を原産国とする骨原材料を用いたゼラチンついては1年6ヶ月脊柱骨等の除去を猶予する。

 (4)  ゼラチンのリスク評価
 欧州委員会の運営委員会の2003年の報告書に掲載された実験(スクレイピー感染マウスの脳による添加回収実験)においては、アルカリ又は酸処理等により、異常プリオン伝播のリスク低減に一定の効果(4Log以上のクリアランス)があるとされ、製品におけるそのリスクはわずかである。

 (5)  米国産ゼラチンの取扱い
 カプセル全体の30%を占める米国産ゼラチンについては、米国でのBSE発生における対応として、1に示したように、区分Bの経過措置1年とされた。

 (6)  その他
(1)   骨に対する規制がなされたことに伴い、皮に関して国際的にBSEの規制の対象とはなっていないこと、ゼラチン等(コラーゲンを含む。)については一定の処理もなされていることから皮に由来するゼラチン等については、原産国規制の対象からは除外することとされた。
(2)   高アルカリ又は高温でのケン化、エステル交換反応を行う脂肪酸、脂肪酸誘導体、グリセリンについては従来どおり規制の対象外とすることとされた。


3 今後のスケジュール案

 (1)  生物由来技術部会での審議の後、パブリックコメント・WTO通報。
 (2)  その後、薬事法第42条「生物由来原料基準」の一部改正


別添

1 米国産ウシ等由来製品の切替え等の措置

 (1)  ウシ由来原材料の除去が困難な場合は、原材料製造工程投与経路−使用期間によるリスクを定量的に評価し、BSEの理論的伝播リスクが高いものから、すみやかに、米国産原材料からの原産国等(※)の切替えの措置を実施することとする。以下は、切替え期限。
(1)   比較的リスクの高い区分(区分A)は6ヶ月後の出荷分
(2)   比較的リスクの低い区分(区分B)は12ヶ月後の出荷分
(3)   さらにリスクの低い区分(区分C)は当分の間期限を設定しない。
 ※ 特例的に、製造上やむをえない理由から、低リスク国以外を原産国とし、以下の条件を満たすものを含む(英国・ポルトガルを除く) (要個別審査)
(1)  原料動物の検査体制があり、感染動物と関係ないことが証明され、
(2)  原産国がBSE対策を実施し、
(3)  原料動物が動物性飼料を使用せずに飼育されたことを証明されている場合

2 その他規制上の取扱い

 (1)  1986年以前に採取されたウシ原料は、本措置の対象としない。
 (2)  区分Bであっても、1年以内の切替え期間中は、原料動物に動物性飼料が使用されていないことを製造業者等においても、確認に努める。
 (3)  原材料のすみやかな切替えを優先するため、改正予定の「生物由来原料基準」(法第42条)が担保される限り、承認書上の原産国記載等については、切替え事後での変更手続きを可とする。

3 脊柱骨除去についての参考

(GBR−1(欧州委員会科学運営委員会の評価) 非発生国であり、リスクが低い国)
アルゼンチン、オーストラリア、ボツワナ、ブラジル、チリ、エルサルバドル、ナミビア、ニュージーランド、ニカラグア、パナマ、パラグアイ、シンガポール、スワジランド、ウルグアイ、バヌアツ※、ニューカレドニア
バヌアツ、ニューカレドニアについては別途原料基準の改定を行い、使用可能国となる予定

(GBR−2 リスクは低いが、必ずしも否定できない国)
コロンビア、コスタリカ、インド、ケニア、モーリシャス、ナイジェリア、パキスタン
 米国、カナダは我が国では発生国として取り扱っている。


 (参考) 切替えに関するタイムフレーム

(参考) 切替えに関するタイムフレームの図

原料の切替えに不可避的に時間を要する場合は、切替え時期を明示し、製品の製造工程、使用方法等に関してリスク評価を個別に行い(要一部変更承認)、また、使用者に対して情報提供と理解を求める。

4 医薬品等のリスク分類
区分   製品類別 牛原料の用途
ウシの成分
経路 リスク値
    リスクの目安 : 感染動物の危険部位 脳内 1
区分A

71品目
1 遺伝子組換え品(細胞培養)
例:血栓溶解剤、血液凝固因子
細胞培養培地等
血清、インスリン等
注射 1/10万〜
1/10億
程度
2 成分抽出製剤
例:コンドロイチン硫酸
抽出成分
気管軟骨、アプロチニン(肺)等
注射
3 植込み用具
例:組織補填コラーゲン
成分・組織
骨由来コラーゲン
植込
区分B
1754品目
4 ゼラチン使用製剤
例:HIV治療薬、インフルエンザ薬等を含む各種医薬品のカプセル基材
カプセル・安定剤
骨由来ゼラチン
経口等
注射
1/100億以上
(脊柱骨リスクを加味)
区分B
306品目
5 成分抽出製剤
例: 胆汁末、臓器エキス
抽出成分
胆汁、胆石、肝臓、心臓、気管軟骨等
経口等 1/100億

1/1000億
程度
6 低分子製剤(*)例:コール酸類 粗原料
胆汁酸誘導体
注射
7 菌培養による製剤
例 ワクチン、ステロイド剤
培養培地
肉エキス、血清、肝臓エキス、乳等
注射
区分C

449品目
8 遺伝子組換え品(細胞培養)菌培養による製剤
例:血栓溶解剤、成長ホルモン、インスリン
セルバンク・シード
血清等
注射 1/1000億
未満
9 菌培養による製剤
例 ホルモン剤、ステロイド、抗生物質
培養培地等
肉エキス、血清、肝臓エキス、乳等
経口等
10 低分子製剤(*)例:コール酸類 粗原料
胆汁酸誘導体
経口
11 外用製剤
例:抗生物質、ステロイド、消炎剤
基材、成分等
コラーゲン、肉エキス、血清、肝臓エキス、乳等
経皮
 原料中のプリオンが製品にすべて移行すると仮定した最悪のシナリオに基づくリスク評価
*: アルカリ・高温での製造工程をへるものであって不活化に十分な根拠のあるもの。

資料
表1 製品類別 リスク分類表
区分   類別 ウシ原料使用方法 投与
経路
リスク
合計値
         
    リスクの目安 : 感染動物のリスクの高い部位 脳内 +7
         
区分A 遺伝子組換え・細胞培養医薬品 細胞培養等(*1) 注射 +2
遺伝子組換え・細胞培養医薬品 親和性カラム(*1) 注射 -2
成分抽出製剤 抽出成分 注射
植込み用具 成分・組織 植込 -1
区分B 経口製剤(ゼラチン) カプセル等 経口 0〜−4
注射剤(ゼラチン) 安定剤 注射 0〜−4
区分B 成分抽出製剤 抽出成分 経口 -3
低分子製剤(*2) 成分粗原料 注射 -4
菌培養医薬品/ワクチン 培養 注射 -4
区分C 10 細胞培養医薬品 MCB/WCBのみ 注射 −4
11 菌培養医薬品/ワクチン シードのみ 注射 -6
12 菌培養医薬品/ワクチン 培養 経口 -7
13 低分子製剤(*2) 成分粗原料 経口 -7
14 外用製剤 基材、成分等 経皮 −4<
リスクは、製品中のLog ID50 /gの期待値に一定の安全マージン(長期使用を前提として2Log分)を見込んだ合計値
 脚注
  ※ 上記のリスク計算は、原材料の中にプリオンが仮に存在した場合、プリオンが失われずに製品まで至ると仮定したもの。(平成15年7月開催伝達性海綿状脳症調査会資料を元に計算)
  ※ (*1)は製造工程で原材料の濃縮の可能性がある工程を含むもの
  ※ (*2)製造工程の一定のリスク減少効果が認められているもの

表2 具体的な区分毎の製品群について
区分   類別 ウシ原料使用方法 経路 品目数
 
区分A 細胞培養医薬品 培養(*) 注射 48
細胞培養医薬品 アフィニティカラム(*) 注射
血栓溶解剤(遺伝子組換え)   血液凝固因子製剤
抗悪性腫瘍抗体医薬品(遺伝子組換え) 再生不良性貧血治療薬(遺伝子組換え)
腎性貧血改善剤(遺伝子組換え) インターフェロン(遺伝子組換え)
抗リウマチ薬(遺伝子組換え) 免疫抑制剤(遺伝子組換え)
G−CSF製剤(遺伝子組換え) インスリン(遺伝子組換え)
成分製剤 抽出成分 注射
抗悪性腫瘍剤   高カロリー輸液用微量元素製剤
血栓溶解剤 組織接着剤
コンドロイチン硫酸(注射・点眼)  
植込み用具 成分・組織 植込 14
組織補填等コラーゲン    
ウシ心のう膜  
区分B 経口製剤 カプセル 経口 1749
抗生物質、抗菌剤   神経障害治療薬
癌治療薬 パーキンソン病治療薬
HIV治療薬 精神分裂病治療薬
免疫抑制剤 抗うつ剤
抗インフルエンザ薬 自律神経剤
血栓溶解剤 抗てんかん薬
不整脈薬 カルシウム拮抗薬
心房細動等治療薬 高脂血症改善薬
虚血性心疾患治療薬 降圧剤
狭心症治療薬 抗アレルギー薬
不整脈薬 真菌症治療薬
心不全治療薬 甲状腺機能検査薬
強心配当体 利胆及び鎮痙
循環改善薬 ビタミン欠乏症
微小循環系賦活剤 解熱鎮痛剤
抗プラスミン剤 鎮痙薬
ウイルソン病 骨粗鬆症
抗炎症薬 肝機能改善薬
抗潰瘍薬 止しゃ薬
代謝異常治療薬 β作動薬
リウマチ薬 感冒薬
子宮内膜症治療薬 滋養強壮剤
注射剤 安定剤(ゼラチン) 注射
癌昇圧化学療法剤    
抗悪性腫瘍剤  
区分B 成分製剤 抽出成分 経口 249
ゴオウ   肝臓エキス
胆汁末 心臓エキス
胆汁エキス 精巣エキス
コンドロイチン硫酸  
低分子成分製剤 成分原料 注射
G−CSF製剤    
ウルソデソキシコール酸類(急性白血病治療薬、好中級減少治療薬)  
菌培養医薬品/ワクチン 培養 注射 48
肺炎球菌ワクチン   抗悪性腫瘍溶連菌製剤
乾燥弱毒生麻しんワクチン 抗悪性腫瘍剤
乾燥弱毒生風しんワクチン ステロイド剤(リウマチ、抗炎症)
乾燥弱毒生おたふくかぜワクチン 抗生物質
日本脳炎ワクチン  
区分C 10 細胞培養医薬品 MCB/WCBのみ 注射 15
抗生物質   ゴーシェ病治療薬(遺伝子組換え)
眼瞼痙攣治療薬 ファブリー病治療薬(遺伝子組換え)
血栓溶解剤(遺伝子組換え)  
11 菌培養医薬品/ワクチン シードのみ 注射 44
インスリン製剤   成長ホルモン
12 低分子成分製剤 成分原料 経口 167
  ウルソデオキシコール酸類    
13 菌培養医薬品/ワクチン 培養 経口 45
子宮内膜症治療薬 喘息薬(吸入)
ステロイド剤(経口、坐剤、点眼) 合成ホルモン剤
抗パーキンソン病薬 利尿薬
ヒアルロン酸(手術用) ポリオワクチン
14 外用製剤 基材、成分等 経皮 178
ステロイド剤(抗炎症薬・クリーム等) コンドロイチン硫酸
消炎鎮痛貼付剤 コラーゲン
抗リウマチ薬    



BSEに係る医薬品等の原材料の基準について

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