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痴呆ケアの人材育成

 痴呆性高齢者には、(1)記憶障害等が進行していく一方、感情やプライドは保たれる、(2)環境の変化に適応することが難しい、といった特性がある。
 痴呆性高齢者ケアは、こうした痴呆性高齢者の特性を踏まえたものであることが求められることから、痴呆介護の研究・研修の中核的な役割を担うセンターを3か所設置し、臨床的研究及び痴呆介護指導者の養成を行っている。
 また、痴呆介護指導者は、各都道府県等で実施されている痴呆介護実務者研修(基礎課程・専門課程)の企画・立案への参画及び講師への登用をはじめ、各都道府県等における痴呆介護の質の向上に向けた取組の中で、中核的な役割を果たしている。

1.高齢者痴呆介護研究・研修センター

 ○ 設置の背景

 痴呆介護に関して様々な手法、考え方が実践されてはいるが、多くは未だに研究段階であり、その体系化や理論化も緒についたばかりである。

 こうした痴呆介護研究の遅れが現場の介護担当者のレベルにも大きな影響を与え、また、痴呆介護に関する研修システムが未整備であったことから専門的知識を有する人材も非常に限られていたといえる。

 そこで、痴呆性高齢者について、処遇技術に関する臨床的な研究を行うとともに、痴呆介護に関する研修のための全国的な連携体制(ネットワーク)を形成して、痴呆介護の専門職員の養成を行い、全国の高齢者福祉施設や在宅サービスの現場等にその成果を普及させることを目的に、全国3か所に高齢者痴呆介護研究・研修センターを設置し、平成13年度より本格的に運営を開始した。

 ○ 設置場所
 東京都杉並区、愛知県大府市、宮城県仙台市

 ○ 事業内容
 センターは、我が国における痴呆介護の中核的機関として、
  (1) 痴呆介護の専門技術に関する実践的な研究
  (2) 痴呆介護の専門技術に関し指導・普及を行う専門職員の養成研修
  (3) 痴呆介護の専門技術に関する国内外の人材交流や各種情報の収集・提供
 等を行う。

2.痴呆介護研修

痴呆介護研修の図

 ○ 痴呆介護指導者養成研修の主な内容
 講義・演習5日間(40時間)、実習等25日間(200時間)

 痴呆介護に関する各専門分野の研究について理解。
 ケアプランを活用したチームケアに対する指導者の役割を認識し、その指導能力を修得。
 演習指導、実習指導の方法を修得。
 教育実習。

 ○ 痴呆介護実務者研修(基礎課程・専門課程)の主な内容

  基礎課程 専門課程
ねらい 痴呆介護の基本理念、基本的知識を修得させる。 基礎課程で得られた基本的知識をさらに深め、施設・事業所においてケアチームを効果的・効率的に機能させる能力を有した指導者を養成する。
対象者 原則として、身体介護に関する基本的知識・技術を修得している者 次の要件を全て満たす者
 ア  基礎課程修了又はそれに相当する知識・技術を有している者
 イ  介護業務に概ね5年以上従事した経験を有している者
標準的
研修時間
講義・演習 20時間
講義・演習 40時間
実習 80時間
120時間
実習施設  
 実施主体の長が適切に研修を行うことができると認められるもの
 介護保険施設、痴呆対応型共同生活介護事業所(痴呆性高齢者グループホーム)、通所介護事業所(デイサービスセンター) 等
 「講義・演習」の実施場所については、都道府県等のほか社会福祉協議会の研修施設等、適切に実施することが可能であれば場所は問わない。

 ○ 痴呆介護指導者に対するフォローアップ研修の実施
 (平成16年度予算(案)に計上)

 痴呆介護は未だ発展途上にあり、高齢者痴呆介護研究・研修センターによる「痴呆性高齢者に適したアセスメントとケアプランの作成指針(第1版)」の作成など、研究が進められている状況にある。

 したがって、介護サービスの従事者に指導を行う立場にある者に対しては、こうした研究の成果を踏まえて、最新の指導方法や痴呆介護技術に関する研修を行い、第一線の従事者が最新の痴呆介護技術を的確に習得できるようにしていくことが必要である。

 このため、新たに平成16年度予算(案)に、痴呆介護指導者(指導者養成研修修了者)を対象とするフォローアップ研修を盛り込んだところである。

 ○ フォローアップ研修の主な内容
 講義等5日間(40時間)

 カリキュラムを展開していくための最新知見
 痴呆介護における人材育成のための方法
 痴呆介護における課題解決の具体的方法
 痴呆介護研修における効果的な授業の企画・運営のあり方
 研修の教育評価
等を演習や実習を通じて修得。

 ○ 痴呆介護指導者(指導者養成研修修了者)の自主的な継続研修

 痴呆介護指導者(指導者養成研修修了者)同士が、自主的に年1〜2回程度、継続(フォローアップ)研修を企画・開催。

 各県の痴呆介護実務者研修の実践報告・課題討論を行うなど、研修プログラムの検証や研修を行う上での課題等についての情報を共有化。

 高齢者痴呆介護研究・研修センターの研究者も講義等で参加。



痴呆介護指導者活用状況一覧(都道府県・指定都市)

No. 都道府県名 企画・立案に参画
(カリキュラム作成含む)
講師への登用
(実習の指導者
への登用含む)
その他の方法
により活用
1 北海道  
2 青森県  
3 岩手県
4 宮城県
5 秋田県  
6 山形県
7 福島県
8 茨城県  
9 栃木県  
10 群馬県  
11 埼玉県  
12 千葉県  
13 東京都  
14 神奈川県  
15 新潟県  
16 富山県
17 石川県  
18 福井県
19 山梨県  
20 長野県
21 岐阜県 ○(16年度から)  
22 静岡県  
23 愛知県  
24 三重県  
25 滋賀県
26 京都府  
27 大阪府
28 兵庫県  
29 奈良県  
30 和歌山県  
31 鳥取県  
32 島根県  
33 岡山県
34 広島県  
35 山口県  
36 徳島県
37 香川県  
38 愛媛県  
39 高知県
40 福岡県
41 佐賀県
42 長崎県  
43 熊本県
44 大分県  
45 宮崎県    
46 鹿児島県
47 沖縄県
48 札幌市  
49 仙台市
50 さいたま市  
51 千葉市  
52 横浜市  
53 川崎市
54 名古屋市  
55 京都市
56 大阪市  
57 神戸市
58 広島市  
59 北九州市
60 福岡市
  合計 59 60 23
 ※平成16年1月老健局計画課調べ



(参考)痴呆介護指導者養成研修修了者の具体的な活用方策の例
(平成16年1月老健局計画課調べ)


 都道府県・市町村等が独自に実施する痴呆関連研修の企画・立案への参画や講師への登用等。

 各種委員会・検討会等の委員として登用し、痴呆性高齢者施策をはじめとする高齢者福祉に関して専門的な観点からの助言者として活用。

 市町村や在宅介護支援センター等の相談機能の強化を目的に対応困難な痴呆性高齢者のケアの調整に関し、事例検討を通じて専門的助言者として活用。

 各県で取り組んでいる身体拘束廃止に関する事業での活用。

 地域での痴呆介護ネットワークの構築に向けた取組の中での助言・指導。

 各種研修実習施設への支援・指導。



(参考)諸外国における痴呆介護の専門職の例

 ※ デンマークの「痴呆コーディネーター」について
 役割
 高齢者を中心に、家族や在宅ケアスタッフのつなぎ役となって地域を歩き、自治体から適切なサービスと支援を得られるよう調整。
 ヘルパーや訪問看護婦などに対しては、痴呆の専門家として相談・指導を行う。
 家族に対して、在宅でのケアを指導するほか、悩みを聞くなどのケアも行う。
 資格
 約1年半の教育を受けて授与される。(現に看護婦やヘルパーとして従事している者は、14週間の研修を受けて資格を得ることができる。)

 ※ スウェーデンの「痴呆専門看護婦」、「痴呆研修を受けた介護保健士」について
(1)「痴呆専門看護婦」
 公的な呼称・資格ではないが、痴呆性高齢者の専門的なケアを行える人に対するニーズが高いため、主に南部の地方でこうした呼称が定着しつつある。
 大学で3年間専門看護教育を受けた後、臨床の現場(病院、訪問看護婦、施設勤務)を最低1年〜1年半経験し、再度大学に戻り、老年科や痴呆科の教育を1年間受けた者のことを意味する。

(2)「痴呆研修を受けた介護保健士」
 介護保健士(注)のうち1週間程度の痴呆研修を受けた者。

(注) 介護保健士とは、高校で準備されている15程度の専門コースのうち「介護」コースを3年間受けることで資格取得。スウェーデンではホームヘルパーや医療施設のケアワーカーにもこの「介護保健士」が就くようになってきている。

(3)人材養成機関の例
 シルビア研修センター(非営利法人が運営する痴呆ケアの研修機関)
 痴呆性高齢者専門のケアワーカー、介護保健士向け教育機関。
 痴呆性高齢者を介護するための理論と実践を教育し、リーダーを養成。
 研修期間は1年間。
 研修内容は、問題解決型の手法を取り入れた併設デイケアセンターでの実技研修や、大脳生理学から痴呆の症状まで、痴呆症の介護に必要な医学や心理学の専門知識の学習。

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