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高齢者に対する虐待について

 高齢者に対する虐待は、身体的虐待、心理的虐待、経済的虐待、介護・世話の放任・放棄など様々な態様があり、これまでの調査研究等においては、(1)被虐待者は高齢女性で要介護者が多いこと、(2)介護者と加害者が同一者である率が高いこと、などが指摘されている。
 本年度は、実態把握のため、全国の市町村、在宅介護サービス等関係機関など約2万カ所を対象とした調査を実施している。


1 高齢者虐待に関する主な先行調査研究の概要

 (1)家庭内虐待に関する先行研究の調査結果概要

(1)虐待の種類別件数
 身体的虐待と介護・世話の放棄・放任(ネグレクト)の占める割合が高い。

虐待の種類別件数のグラフ

(2)被虐待者の性別
 女性がほぼ4分の3以上を占めている。

被虐待者の性別のグラフ

(3)被虐待者の年齢別
 75歳以上の後期高齢者の占める割合が高い。

被虐待者の年齢別のグラフ

(4)被虐待者の痴呆の有無
 「痴呆あり」が約半数を占めている。

被虐待者の痴呆の有無のグラフ

(5)虐待者と被虐待者の関係
 嫁、息子、配偶者で7割方を占めている。

虐待者と被虐待者の関係のグラフ

(6)虐待要因
 研究者により要因分類の仕方が若干異なるが、過去の人間関係不和の延長線上、介護ストレス、痴呆などが要因の上位を占めている。

虐待要因 田中ら調査(1994年) n=182のグラフ

虐待要因(虐待者側) 高崎ら調査(1996年) n=171のグラフ

虐待要因(虐待者側) 津村ら調査(1997年) n=974のグラフ



 (2)施設内虐待に関する先行研究の調査結果概要

 【特別養護老人ホーム】
 (「特別養護老人ホームにおける高齢者虐待に関する実態と意識調査」高齢者処遇研究会(代表 田中 荘司)2000年3月 による。)

(1) 虐待事例の有無
 約3割の施設で「虐待あり」と回答した。
  虐待事例の有無のグラフ

(2) 加害者の内訳
 「他の利用者」「施設職員」がそれぞれ4割以上を占め、計9割弱となっている。
  加害者の内訳のグラフ

(3) 痴呆症状の有無
 被害者の7割弱に痴呆症状が見られた。

痴呆症状の有無のグラフ

(4) 虐待の種類
 他の入居者によるものでは身体的虐待が半数を占めるのに対し、施設職員によるものでは心理的虐待が4割で最も多くなっている。

虐待の種類のグラフ



【参考:主な先行調査研究の概要】

調査名・調査主体・実施時期 調査方法 調査結果の概要
高齢者の福祉施設における人間関係の調整に係わる総合的研究
(調査名に「福祉施設における」とあるが、調査対象は家庭内虐待事例)
  高齢者処遇研究会
 代表 田中 荘司
 (1994年6月)
 全国400か所の在宅介護支援センターへ調査票を郵送し、過去半年間に把握した虐待事例について回答を求めた。回収率55.0% 被虐待者144名(男41女103)
延209件の虐待
 世話の放棄・拒否   56.9%
 身体的虐待 38.9%
 心理的虐待 31.9%
 経済的虐待 15.3%
 性的虐待 2.1%
老人虐待と支援に関する研究(2) 
  東京医科歯科大学医学部保健衛生学科老人看護学講座老人虐待研究プロジェクト
 代表 高崎 絹子
 (1996年6月)
 埼玉県(92か所)・福岡県(220か所)・山形県(56か所)の保健所、市町村、訪問看護ステーション、在宅介護支援センター、計368か所の看護職1,811名へ調査票を郵送し、過去2年間に把握した虐待事例について回答を求めた。回収率81.8% 被虐待者171名(男36女125不明10)
延298件の虐待
 世話の放棄・拒否   59.1%
 身体的虐待 40.9%
 心理的虐待 50.3%
 経済的虐待 18.7%
 性的虐待 0.6%
高齢者虐待の全国実態調査〜主として保健・福祉機関調査より〜
  大阪高齢者虐待研究会
 事務局代表 津村 智恵子
  (1997年3月)
 全国4,150か所の在宅要介護高齢者介護関連機関(保健所、市町村保健センター、在宅介護支援センター、訪問看護ステーション、高齢者総合相談センター、老人性痴呆疾患センター、精神病院・診療所等)へ調査票を郵送し、1995年度1年間に把握した虐待事例について回答を求めた。回収率36.9% 被虐待者1,183名、うち974名 (男398/女572)について分析
 世話の放棄・拒否   58.8%
 身体的虐待 47.2%
 心理的虐待 46.0%
 経済的虐待 15.3%
 性的虐待 0.3%
高齢者虐待の発生予防及び援助方法に関する学際的研究
  長寿科学総合研究多々良研究
 班主任研究員 多々良 紀夫
 (1999年3月)
 全国の老人デイサービスセンター1,000か所、在宅介護支援センター1,000か所、計2,000か所へ調査票を郵送し、過去2年間に把握した虐待事例について回答を求めた。回収率36.6% 被虐待者1,058名(男277女781)
延298件の虐待
 世話の放棄・拒否   32.2%
 身体的虐待 30.8%
 心理的虐待 22.8%
 経済的虐待 13.0%
 性的虐待 1.2%
特別養護老人ホームにおける高齢者虐待に関する実態と意識調査
  高齢者処遇研究会
 代表 田中 荘司
 (2000年3月)
 全国の特別養護老人ホームから1,997か所を抽出して調査票を郵送し、過去1年間に発生した虐待・不適切行為について回答を求めた。回収率34.7% 被虐待者203名(男48女147不明8)
 世話の放棄・拒否   13.3%
 身体的虐待 47.3%
 心理的虐待 44.3%
 経済的虐待 0.5%
 性的虐待 7.9%
 その他 18.7%


2 高齢者虐待に関する調査について
 (1)趣旨

  高齢者に対する虐待のうち、家庭内で家族等が加害者となっているものについて、発生の実態及び原因、地域の関係機関等による援助・介入の状況等に関する調査を実施する。
 (2)調査実施機関
  (財)医療経済研究機構
 (3)調査対象
  全国の市町村、在宅介護サービス等関係機関約2万か所を対象
 (在宅介護支援センター、ケアマネジメント事業所、訪問介護事業所、訪問看護ステーション、通所介護事業所、病院など)
 (4)調査スケジュール
  平成15年11月 調査票発送
12月 調査票回収
平成16年 1月 集計・分析開始
3月 調査結果取りまとめ(予定)



(参考1)
米国における高齢者虐待への取組みについて

 淑徳大学・多々良 紀夫教授 「高齢者虐待について−アメリカと日本の取り組みの現状」(老年社会科学2003年2003年10月)より作成。

 連邦レベルの取組みとしては1992年に米国高齢者法(Older Americans Act)を改正し、同法に新たに第7条「社会的に弱い立場にある高齢者の権利擁護活動」を規定。同条は次の3つのプログラムから構成されており、2003年度の連邦予算は約1,700万ドルとなっている。
(1)長期ケア・オンブズマンプログラム
 ○ 長期ケア施設のサービスに関する苦情等(虐待含む)の通報と対応
  対象施設:ナーシングホーム、グループホーム、ケア付住宅等
 ○ 通報への対応は、州及び郡レベルに配置されている有給のオンブズマン(約900人)、及び訓練を受けたボランティアのオンブズマン(約7,000人)が担当。
 ○ 施設職員には通報義務も課されているが、虐待に関する通報は少数。

(2)高齢者虐待、放任、搾取防止プログラム
 ○ 州の高齢者サービス組織(及びその下部組織である地域高齢者サービス機関)が実施する以下のような虐待防止プログラムへの支援
 ・虐待に関する市民教育や地域へのアウトリーチ
 ・被虐待者やその家族を対象とする支援プログラム
 ・通報システムや情報・データ収集 など

(3)高齢者人権及び法的援助開発プログラム
 ○ 州が高齢者に提供する人権擁護及び法的援助プログラムへの支援であるが、連邦予算はついていない。



(参考2)
虐待等に対する通報義務等の例


〔児童福祉法(昭和22年法律第164号〕
 ○ 保護者のない児童又は保護者に監護させることが不適当であると認める児童を発見した者は、児童相談所等へ通告しなければならない(第25条)


〔児童虐待の防止等に関する法律(平成12年法律第82号)〕
 ○ 虐待を受けた児童を発見した者は、速やかに児童福祉法第25条に基づく通告を行わなければならない(第6条第1項)、
 ○ 通告は刑法等の守秘義務違反にならない(第6条第2項)、
 ○ 通告を受けた児童相談所の所長等は、通告した者を特定させるものを漏らしてはならない(第7条)


〔配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(平成13年法律第31号)〕
 ○ 配偶者からの暴力を受けている者を発見した者は配偶者暴力相談支援センター又は警察官へ通報する努力義務を負う(第6条第1項)
 ○ 医師その他の医療関係者は通報することができる(第6条第2項)
 ○ 通報は刑法等の守秘義務違反にならない(第6条第3項)


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