1 | )基本的な対応−信頼関係を築くために うつ病の可能性がある人と話をするときのポイントをいくつかあげてみます。本人の精神的な問題に触れることになりますので、プライバシーに注意し、何よりも信頼関係をつくることに配慮した対応が求められます。まず基本的な対応としては次のような点が挙げられます。 |
<基本的な対応>
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2 | )うつ病についての理解を深める−医療機関への受診の勧め方のポイント うつ病の疑いがある場合、受診を勧めてもすぐに受診につながるとは限りません。うつ病や精神科に対する理解が以前より進んできたとはいえ、受診を躊躇する場合は少なくないと考えられます。「私はうつ病なんかじゃありません」「疲れているだけだと思います」「原因はわかっていますから」「前にもこんな感じでなんとかやりました」と、うつ病などの精神障害にかかっていることを一生懸命否定しようとします。その背景には、うつ病という病気に対する誤解があると思います。このような場合、うつ病は決して特別な病気ではなく、誰でもかかる可能性のある病気で、有効な治療法があることを伝える必要があるでしょう。そして、うつ病は2回3回と繰り返す人が多いので、早めに専門の精神科の受診をした方がいいことも伝えるようにします。 |
<伝える内容>
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3 | )精神科医療について説明する うつ病についての理解がある程度得られていても、実際に精神科受診となると敷居が高い場合もあります。都市部では、精神科のクリニックが増加し、かなり受診しやすくなっていますが、地域によってはばらつきがあります。受診を勧める際には、精神科医療について理解を得ることも大切です。わが国ではうつ病を経験した人の4人に1人しか医師を受診していないという調査結果が出ています。 |
<説明する内容>
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4 | )受診を拒否された場合 うつ病を疑われる人が受診を拒否した場合は、うつ病や薬についての説明、精神科医療についての情報提供など根気よく説明することが大切です。時には、本人だけでなく家族が反対している場合もありますので、このような場合には家族の理解を得ることも必要です。場合によっては、家族だけで相談に行き、医師の助言を得る方法もありますし、往診が可能な場合もあります。 |
5 | )緊急性が高い場合 うつ病においても、緊急な治療が求められる場合もあります。この場合は、家族の協力や消防、警察との連携の必要性を考えながら対応する必要性があります。本人の同意が得られないにもかかわらず入院が必要な場合は、医療保護入院となりますので、この場合は保護者の同意が必要です。保護者は、配偶者等になることが多いですが、家族がいない場合は市町村長となることもあります。稀には、著しい自傷行為などで、警察に保護された場合は、警察官通報に基づく二人の精神保健指定医の診察の結果、措置入院となることもあります。 |
<入院が必要な場合>
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6 | )治療継続中の者に対して うつ病の治療を開始しても症状がまったく消える人は3分の1だとされています。再発することも多い疾患です。ですから、うつ病の人が医療機関の受診を開始した後も、機会があれば声をかけるなど、日常の保健活動の中で気をつけるようにしてください。本人の許可を得た上でのことですが、受診先の医療機関との連携が必要になる場合もあります。 |
7 | )薬の服用を躊躇している人への対応 うつ病にかかっているかなりの数の人が抗うつ薬などの向精神薬(精神疾患に使用する薬)を服用することに抵抗感を持っているものです。「薬を飲んで本当に役に立つんですか」と尋ねる人や、「薬を飲んでも、どうせ何も変わりませんよ」と決めつけてしまっている人が少なからず存在しています。そうした人には、うつ病にかかっている人の脳内で起きている神経伝達物質(化学物質)の変化について説明しながら薬の効用について話をすると、比較的よく理解してもらえますし、規則的に飲んでもらえる可能性も高まります。 また、「飲んでみないと、役に立つかどうかはわかりませんが、飲む前から役に立たないと決めつけてしまうのは、悲観的すぎるのではないでしょうか」と話してもいいでしょう。これは、資料1のうつ病の精神療法で紹介している認知療法でも指摘されているように、気分が沈み込んでくるとすべてにマイナス思考になり、薬物療法をはじめとする様々な治療法に対しても悲観的になりやすいからです。そのために、薬物療法に対しても実際に服用する前から効果がないと決めつけるようになるのです。 向精神薬を飲むと依存症になるのではないかと心配する人もたくさんいます。慣れがでて「どんどん薬の量が増えていってしまうのではないか」、クセになって「やめられなくなるのでないか」と心配になるようです。そうした人には、依存の心配はないし、むしろ中途半端な量を飲んだり、飲んだり飲まなかったりすると症状が長引くことになるので、医師の指導を受けながら服用することが大事であるということを説明するようにしましょう。いずれにしても、身体に大きな問題が起こるような副作用はきわめてまれだということを理解してもらうことが大切です。 一般には、薬なんかに頼らないでお酒(アルコール)で気分を晴らすという人も少なくありません。しかし、アルコールは一時的に気持ちが晴れたとしても、物質としてはうつ病を引き起こしますし、眠りも浅くします。それに、向精神薬よりもずっと依存になりやすいですし、薬との相互作用で心身両面にいろいろな弊害をもたらします。ですから、けっしてお酒に頼らないように話しましょう。とくにこれは重要なことですが、うつ病とアルコール依存の併存は自殺の危険性を高めます。ですから、そうした依存性物質を用いた自己治療は避けるように指導することは絶対的に重要です。 精神に作用する薬物ということで、自分の精神機能が変えられて別の人間になってしまうかのような不安を感じて、「薬に頼らないといけないほど弱い人間じゃありません」と言う人もいます。こうした人に対しては、骨折などにたとえて話をしてみましょう。つまり、脚の骨を折ったときに、筋肉を強くしなくてはいけないからといってその脚を使って歩こうとするとかえって障害が進むのと同じように、服薬をしないで自分の力だけで頑張ろうとすると精神的なつらさがましてくるという話をするのです。そして、薬物療法は、骨折した骨を固定して安定させるギプスのようなもので、それをどのように利用するかが大切だと言うような形で説明し理解を得るようにします。 もちろん、薬に頼ってしまうと、自分の力で問題を解決できなくなる危険性があり、望ましくありません。薬に対する期待感が強すぎて、薬を飲むとすぐに効果が現れて楽になるのではないかと考え、すぐに効かないとがっかりして飲むのをやめてしまう人もいます。ですから、抗うつ薬は飲んですぐに効果が現れるわけではなく、効果発現までに時間がかかることを伝えることも重要です。 |
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8 | )自殺未遂者への対応 うつ病にかかっている人は自殺未遂をする確率が高くなります。その場合の対応については、資料7:自殺未遂者への対応を参照してください。 |
9 | )うつ病以外の相談者とのかかわりについて 抑うつ状態は、うつ病に限らず、不安障害や身体表現性障害、適応障害、統合失調症、パーソナリティ障害などその他の精神疾患でもみられます。この場合は、それぞれの疾患に応じたかかわり方が求められます。 |
コラム 高知県中村市の内科医、小笠原望さんは、うつ病の治療を始めるときに次のようなことを本人に話されるそうです。臨床の中から出てきたとても魅力的な言葉です。皆さんも日常の活動のなかで工夫してみてください。
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1 | )家族がうつ病に気づくときのサイン うつ病は様々な症状が出ますが、まわりの人には分かりにくいことが多いものです。次のようなときにはうつ病の可能性があります。
逆に次のようなタイプはうつ病と気づきにくいので気をつけてください。
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2 | )家族への支援 うつ病にかかっている人のご家族は、日々の暮らしの中で、本人にどう接したらよいか苦慮しています。本人の対応について家族に対する支援が必要です。 |
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3 | )うつ病の本人のいる家族のかかわりのポイント 本人に対してまわりの人が気をつけたほうがいいことについて以下に列挙します。
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4 | )自殺未遂者の家族への対応のポイント 自殺未遂をする直前は抑うつ状態だったことが考えられますし、落ち込んだり、死にたいと話したりしたのはそのためだと思われるということを伝えます。その上で、うつ病は、高血圧や高コレステロール血症と同じようによくある病気で、薬を飲むことで治療することができると説明して受診を勧めるようにします。また、うつ病は脳の病気―脳の神経のバランスが崩れる病気―で、薬はそのバランスを治す働きをすると説明しても良いでしょう。家族には、自殺未遂をした人は2回3回と繰り返す人が多く、このようなことがまた起こらないようにするためにも、専門の精神科の受診をした方が良いと言って受診を勧めるようにします。 |
1 | )医療機関の情報の把握
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2 | )受診援助について 受診前に医療機関の情報を伝え本人が安心して受診できるように援助します。同時に家族にも説明し、受診やその後の治療に対して家族が継続して本人を支援できるように準備しておくことも大切です。時には医療機関に同行したり、本人の了解があれば、あらかじめ医療機関と連絡を取り、安心して受診できる状況を準備したりしておくことも可能です。 |
3 | )受診継続について 一旦受診につながっても、どうせよくならない、すぐによくならないなどの理由で、受診をためらう場合があります。悲観的な気持ちが強いと治療しても無駄だという考えにとらわれてしまうことになります。こんな時は、「今そう思えるのはよくわかるが、それは病気の影響である」と説明し、治療を受け、薬を服用することで改善することを説明します。また、薬を服用し始めても、その効果が現われるまでに2週間程度かかる場合がありますので、「決してよくならないのではなく、今はその準備期間である」ことを伝え、理解を得ます。 しばらく薬を服用している人でも、ある程度改善してくると、もう治ったと思って、通院をやめてしまう場合があります。こんな場合は、再発の危険性が高くなりますし、離脱症状(中止後発現症状)が現れることもありますので、治療継続の必要性について医師とよく相談するように助言します。一般的には、症状が軽快した後も6ヶ月から1年は同じ量の服薬を続けてから、薬の量を漸減し中止するという方法をとります。 |
1 | )精神保健福祉相談員等との連携 多くの保健所には,精神保健福祉相談員として,精神保健福祉士や保健師が配置されています。また、精神保健業務担当の保健師が配置されている場合もあります。精神保健福祉相談員や,精神保健福祉業務担当の保健師は,うつ病についても経験豊富な場合が多く,本人や家族とのかかわり方や,受診援助の方法について助言を得ることができます。また,医療機関に関する情報についても、実際に医療機関を訪問した経験などを踏まえてより詳しい情報を聞くことが可能です。経験を踏まえた情報や地域の状況にあった情報を加えることにより、このマニュアルをより有効に活用することにつながります。 また、マニュアルに沿って支援を継続してはいるものの、「本当にこれでよいのだろうか」と不安になる場合や「他に方法はないのだろうか」と確かめたくなる場合もあるかもしれません。そんな時、経験豊富な相談員から、「このままの支援でいいと思う」とちょっとした同意が得られるだけで、安心して支援ができることもあります。支援者が感じている不安は、意外に本人にも伝わりやすいもので、そのために信頼関係がうまくできない場合もあります。本人との信頼関係を築くためにも、保健医療従事者自身が気軽に相談できるネットワークを日頃から作り上げておくことが大切です。 |
2 | )保健所嘱託医師(精神科)との連携 多くの保健所では、精神科嘱託医による精神保健相談が、頻度は様々ですが、実施されています。すぐに医療機関を紹介した方がよいのかどうか迷う場合、家族が精神科受診に抵抗を感じている場合、本人が精神科受診に拒否的な場合、近くに精神科医療機関がない場合など、一旦精神保健相談で相談の上、受診に結びつける方法もあります。たとえば、家族に精神科医療に対する不安が強いときは、まず家族に相談日を利用するように勧め、精神科医からうつ病やその治療方法について説明を受けることで、理解が得られる場合もあります。家族が精神科受診について安心できなければ、病気で不安になっている本人が安心できないのは当然とも言えるでしょう。このように家族の協力を得るために、精神保健相談を利用するのもひとつの方法です。 また、抑うつ気分のために自宅からの外出が長期にわたって困難な場合や、悲観的になり、「医者に行っても無駄だ、どうせ治らない」などと受診に対して強く抵抗を示すような場合は、嘱託医の協力と家族の理解を得て家庭訪問を行い、本人の病状や生活状態などを把握することで、うつ病かどうか、病気の重症度、緊急性の有無などについてより的確な見通しを立てて支援していく方法もあります。さらに、地域によっては往診を行っている医療機関もありますので、医療機関との協力関係を築いておくことも大切です。 |
3 | )精神保健福祉センターとの連携 精神保健福祉センターは精神保健福祉法第6条に規定されており、都道府県、指定都市に1ヶ所(東京都は3カ所)設置され、総合的技術センターとして地域精神保健福祉活動の中核機能を担うとされています。ほとんどの精神保健福祉センターでは、「心の電話相談」や精神保健福祉相談を実施していますので、必要に応じてこれらの相談の利用を勧めることも可能です。支援に行き詰まりを感じている複雑困難ケースの場合に限らず、セカンドオピニオンを求めている場合、地域では人目を気にしてかえって相談しにくい場合などに利用を勧める方法もあります。 また、精神保健福祉センターでは、保健師等に対してうつ病についての教育研修を実施したり、事例検討会などを開催したりしていますので、日頃からこれらの機会を積極的に利用し、知識の習得や支援技術の向上を図ることも重要です。さらに、他の保健師等が経験した事例を通して、情報交換や情報の共有を図ることにより、より適切な支援のあり方を学ぶ機会ともなるでしょう。 うつ病にかかっている人とのかかわり方を考えるとき、本人や家族の理解と協力が得られているときは、比較的スムーズに支援可能ですが、本人や家族の理解と協力が得にくい場合や、長期にわたってうつ状態が持続し、治療の継続に疑問を感じている場合などには、容易には支援が進まない場合もあります。このようなときには、ここに述べた、精神保健福祉相談員、精神科嘱託医、精神保健福祉センターなどと連携しながら、支援方法に工夫しつつ進めていくことが求められます。そのためには、日頃の連携を重視して、必要なときに支援体制を組めるようなネットワークが大切です。 さらに、日々の実践の中から、うつ対策における地域の課題を把握し分析することによって、より充実したうつ対策の展開につながることをめざしたいものです。 |