1 | )岩手県久慈保健所
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【 | 特徴】 岩手医科大学の協力を得ながら、保健医療関係者及び民間団体等による検討委員会を設置し自殺予防対策に関する検討を行うとともに、自殺予防のための普及啓発といった一次予防に力を入れている。 |
【 | 現状】 久慈保健所管内は岩手県三陸海岸の北端で青森県境に位置し、1市1町4村からなり、人口69,421人、老年人口14,773人(21.3%)である。自殺死亡者数は年間平均31人(平成9〜13年)で、平成13年における死亡率でみると久慈圏域44.8/10万人で岩手県の33.9/10万人、全国の23.3/10万人と比べると高く、標準化死亡比(SMR)でも207.2(平成6〜13年)と高い。 |
1. | 平成11年度久慈地域保健医療計画作成にあたり主要な死因別死亡率(平成9年)を検討した結果、自殺死亡率が全国の3倍、県平均の2倍と高かったこと。 |
2. | 40〜50歳代の働き盛りの年代の自殺死亡率の増加が認められていること。 |
3. | 平成12〜14年度の3年間、地域課題調査研究事業として、保健医療関係者及び民間団体の関係者との連携のもとで事業が行われたこと。 |
4. | 岩手医科大学が推進する研究事業と連動した活動が行われたこと。 |
5. | 平成13年度からの「自殺予防対策に関する基盤研究」といった厚生労働科学研究に協力することにより国立精神保健研究所等の専門家から助言・支援が得られたこと。 |
【 | 保健所の役割】 地域の実態を調査分析し、関係機関・団体へ積極的に情報提供するとともに、自殺予防のための一次予防を積極的に進めることにより、地域全体の自殺予防への取り組みを促す。 |
1. | 平成12年度から久慈保健所長を委員長とし、警察署生活安全課、いのちの電話、医師会、岩手医科大学衛生学公衆衛生学講座、市町村、福祉総合相談センターの職員など約20人からなる「久慈地域自殺予防調査研究検討委員会」が設置され、調査研究事業の実施主体として事業が始められた。 |
2. | 平成13年〜14年度に、岩手医科大学衛生学公衆衛生学講座「自殺予防研究班」と管内市町村の共同で、20歳以上の住民3,738人を対象として「心の健康に関する意識調査」を実施するとともに、自殺既遂者の家族76人を対象として市町村保健師による面接聞き取り調査を実施した。 管内の市町村保健師向けのワークショップの開催や、医師会主催の学術講演会への協力参加やシンポジウムを開催した。また、調査結果について啓発用パンフレットを作成し住民に配布した。 |
1. | 心の健康に関する意識調査結果により、身近に自殺を経験した人の割合が25%あるにもかかわらず自殺死亡者が多いと思う人は10%代と少ないこと、自殺予防が可能と考える人の割合が35%程度であるが、行政が自殺予防に取り組むことを良いことだとする割合が7割と自殺対策への取り組みに多くの住民の賛同が得られそうなこと、精神科受診を躊躇する割合が高いこと等、地域住民への普及啓発の重要性が明らかになり、行政が取り組むための参考となった。 |
2. | 地元医大や管内市町村との連携強化が図られ、調査研究検討委員会に参加した関係機関・団体との間にも連携体制が整いつつあり、緩やかな横断的組織としてネットワークが構築され、今後一次予防に力点を置いた自殺予防活動展開の基盤形成がなされた。 |
1. | 自殺死亡により残された家族への支援体制の整備 |
2. | 自殺予防の相談等に対応する保健師や心理職、医師等の専門職種や関係者のスキルアップとともに、従事者をバックアップするスーパーバイザーの確保と支援 |
3. | 保健所等への心理の専門家の配置 |
4. | 精神科以外の一般医療機関におけるうつ対策への取り組み |
5. | 自殺家族への聞き取り調査結果等の評価と公表に関する個人情報保護と行政施策反映への取り扱い |
1) | 岩手県久慈保健所:地域課題調査研究事業実績報告書 久慈地域の自殺予防に関する研究 〜一次予防の重要性について〜.平成15年3月 |
2) | 今田寛睦他:自殺と防止対策の実態に関する研究報告書.平成14年度総括・分担研究報告書 厚生労働科学研究費補助金 こころの健康科学研究事業.平成15年3月 |
2 | )秋田県本荘保健所
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【 | 特徴】 自殺死亡率の高い地域において、健康日本21が策定される6年前という比較的早い時期に保健所と町とが協働で自殺の実態調査に取り組み、この事業が県全体の自殺予防対策の先駆けとなった。 |
【 | 現状】 本荘保健所管内は1市10町で平成13年の人口は122,582人、世帯数37,171戸、老年人口は29,927人(24.4%)である。平成12年の人口動態統計によると自殺死亡者数は65人(52.7/10万人)で全国の24.1/10万人と比べると約2倍と高く、なかでも高齢者の自殺は29人(44.6%)と県全体の33.3%に比べて高い状況にある。 |
【 | 取り組みの経緯】 平成6年度、保健所の事業計画を策定するにあたり、管内の死亡統計を検討した結果、昭和60年以降の管内の自殺死亡率は県平均に比べて5〜10ポイント程度高く、特に由利町が平成6年度で自殺死亡率167.7と全国平均の約10倍となり、そのうち7割以上が高齢者であることが明らかになり、保健所内に事業として取り組む必要性があるのではないかという認識が高まっていた。そこで由利町に問題提起し、町としても議会等で問題になっていたという経緯もあり、平成7年度から高齢者の心の健康づくり事業として保健所と町とが連携した取り組みが始まった。この取り組みの経験がその後の県全体の事業の先駆けになった。 事業開始後、保健所は自殺等に関する町の状況分析や人口動態統計の分析等、主に地域診断を行うとともに、町と一緒に自殺死亡者家族への面接調査を実施した。この、調査結果をもとに、普及・啓発事業や健康座談会等を実施した。 また、これらの取り組みの波及成果として東由利町など管内の他の町にも「心の健康推進会議」が立ち上がり、うつ対策への取り組みが拡がっていった。 |
1. | 人口動態統計調査等の資料から管内市町村の健康課題を情報提供 |
2. | 事業に関連する専門機関、研究機関等との連絡調整 |
3. | 市町村事業への支援 |
(1 | )高齢者の心の健康づくり検討委員会への参加 | ||||
(2 | )由利町の地区診断
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2. | 高齢者の自殺予防に関する意識調査 |
(1) | 意識調査への協力(由利町と保健所が共同で実施) |
(2) | 意識調査の報告書の作成 |
3. | 保健所の研修会で由利町の調査結果や取り組みを報告 |
1. | 自殺死亡率の高い町においての実態調査を踏まえ、由利町の主体的な取り組みに発展してきた。 |
2. | 近隣市町村への波及効果が見られた。 |
1. | 高齢者のみではなく、若年者対策の検討も必要 |
2. | 精神疾患患者の治療終了後の地域でのフォロー体制等、地域の医師会や医療機関と連携したネットワークづくり |
3. | 管内の対応から全県的取り組みに発展したことにより地域としての問題意識が保健医療従事者の間にやや薄れてきがちなこと |
1) | 秋田県由利町・本荘保健所:高齢者の心の健康づくりと自殺予防対策事業 高齢者自殺調査結果報告書.平成8年3月 |
2) | 秋田県本荘保健所:高齢者の自殺予防に関する意識調査 −保健と福祉に関するアンケート調査から−.平成9年3月 |
3) | 鹿児島県伊集院保健所
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【 | 特徴】 管内市町と協働して保健所が積極的にうつ対策事業への取り組みを行っている |
【 | 現状】 伊集院保健所管内は串木野市と、鹿児島市に隣接する1市8町からなり、高齢化・過疎化がすすんでいる地域と、鹿児島市のベッドタウンとして働き盛り世代が多い人口増の地域が混在している。平成13年3月現在、人口117,067人、世帯数45,693戸、老年人口29,656人(25.3%)となっており、保健所管内の自殺死亡者数は年間平均32人(平成8〜12年)で、標準化死亡比(SMR)が125.2と自殺死亡率が高い。 |
1. | 保健所で実施した地域診断の結果、伊集院保健所管内は自殺死亡率が高いということが明らかになってきたこと。 |
2. | 平成12年度に策定された「健康かごしま21」に自殺防止対策が記載されたこと。 |
3. | 平成13年度に日本看護協会の先駆的モデル事業の助成対象に選別されたこと。 |
4. | 県庁の呼びかけにより、鹿児島大学医学部精神科学講座、県庁、県精神保健福祉センター所長、保健所長の有志等による精神保健福祉懇話会が設置され、その場で様々な助言が得られたこと。 |
5. | 平成13年度からの「自殺予防対策に関する基盤研究」や平成14年度からの「こころの健康疫学調査」等の厚生労働科学研究等に協力することにより慶應義塾大学や岡山大学、国立精神保健研究所等の専門医からの助言・支援が得られやすかったこと。 |
1. | ニーズはあるものの取り組みが進んでいない事業に積極的に関与し、管内市町へ知識や技術の提供を図ること |
2. | 市町や民生委員、地域婦人団体等、関係機関等の自主的取り組みを支援すること |
1 | .事業の基本的考え方 自殺死亡者を頂点とし、その下層にうつ・うつ病といったいわゆる自殺予備群が存在し、さらにその下層に抑うつ傾向の少ない状態とストレス状態にある住民が存在しているといったピラミッドモデルを想定し、それぞれの段階から進行・悪化しないようにすることである。 そのための体系として、個人のとりくみと地域社会全体のとりくみを2つの柱として実施している。 |
2 | .地域の実態調査 平成13年度からの「うつ対策事業」を始めるにあたって地域の実態調査を行った。県全域の自殺死亡率、標準化死亡比(SMR)を求めるとともに、市町と協働し自己評価うつ病尺度(SDS)を用いて管内1,130人の心の健康状態を調査分析した。 |
3 | .普及啓発事業 地域の実態調査の結果を市町保健師連絡会や、各種団体の研修会、保健所情報誌「ハートほっとメール」や市町の広報誌、地元新聞等を活用し保健医療福祉関係者や住民に情報提供した。また、あらゆる機会を通じ、うつ病とその予防について周知した。 |
4 | .ストレスマネージメント 地域住民へストレスコントロールの知識や技術の普及を目的として保健所主催でリラックス教室を開催したがその後、管内の町にバトンタッチして継続実施している。 |
5 | .うつスクリーニング 大野らの方法を参考としてうつ症状の5項目、自殺念慮の2項目、大きなライフイベントの1項目の8項目からなる1次スクリーニングと、13項目からなる2次スクリーニングを組み合わせて行い、必要に応じて受診勧奨や相談、見守り活動につなげている。 1次スクリーニングは市町村の基本健康診査や結果報告会、介護教室、健康教育の機会を利用して行い、2次スクリーニングは1次スクリーニングの場で個別に行うか、保健師が後日訪問して実施している。 |
6 | .こころの健康づくり連絡会 うつ対策に関する課題と方向性を共有するために、市町村、県精神保健福祉センター、県庁、福祉事務所、精神科医、医師会、地域婦人団体連絡協議会、民生委員、警察、産業保健推進センター、管内企業健康管理担当者、住民代表、報道機関、精神保健福祉ボランティア等約40人によるこころの健康づくり連絡会を年1〜2回開催している。 |
7 | .こころの健康づくり対策マニュアル これらの取り組みの経験を平成14年度末に冊子「地域におけるこころの健康づくり対策マニュアル」にまとめ、県内市町村、保健所、県精神保健福祉センター、医師会等に配布し、保健医療従事者の研修等に活用している。 |
1. | パンフレット・報道等による啓発後の相談が多く、ニーズの掘り起こしにつながるとともに、地域にニーズが数多く潜在していることが再認識された。 |
2. | 1次スクリーニングの陽性率は対象者の約1割であったが、2次スクリーニングを含め、周囲から全く気づかれずにいる住民や要介護者を抱える住民のなかから受診勧奨者が見つかり、その後の治療等により経過良好な事例がある等、スクリーニングの成果が見られた。 |
3. | 事業に取り組むことにより行政担当者の意識・関心が高まるとともに、県内の自治体にも取り組みが広がりつつある(平成15年度8月現在、県全市町村の約4割が実施している)。 |
4. | 精神保健の分野のみならず母子保健(産後うつ対策)、難病患者や家族への対応等においてもうつ病を視野に入れた取り組みにつながっている。 |
1. | うつ度の高い住民への支援体制の充実 |
2. | 精神保健福祉センター等・スーパーバイザーの確保と支援 |
3. | 市町村保健センターや保健所と医療機関・医師会との連携及び一般医と精神科医の連携 |
4. | カウンセリング技法やうつに関する基本的知識と認識の取得等、保健師の資質の向上 |
1) | 社団法人日本看護協会:保健所保健活動モデル事業報告書、平成13〜14年度先駆的保健活動交流推進事業.III1−40.平成15年3月 |
2) | 大野裕他:うつ状態のスクリーニングとその転帰としての自殺の予防システム構築に関する研究 総合研究報告書.平成11〜12年度 厚生労働科学研究費補助金障害保健福祉総合研究事業.3-24.平成13年3月 |
3) | 川上憲人他:こころの健康問題と対策基盤の実態に関する研究、厚生労働科学研究費 厚生労働科学特別研究事業 平成14年度総括・分担報告書.平成15年3月.93-125 |