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(別紙)

 イギリスにおける長期休暇制度の概況とその背景

 イギリスでは、長期休暇制度は法律上の制度としては存在しないが、今回の調査で協力を得た貿易産業省などの行政官庁や、ブリティッシュテレコム社(以下BTという。)などの大企業を中心に長期休暇制度を導入する動きが見られる。

 イギリスの労働時間は、EUにおいて原則とされている週48時間の上限について労働者の同意があれば超えることが認められるなど、EU加盟諸国の中では弾力的な運用をしており、今回の訪問先のいずれもが、イギリスの労働時間について「長時間労働の文化」と形容していた。しかしながら、近年、勤労者が生活の質を重視するようになってきたことや、ヨーロッパ諸国の中では比較的良好な雇用情勢を背景に、イギリス国内でも「長時間労働の文化」を見直す動きがあり、この動きは、ワークライフバランスに配慮し、勤労者の柔軟な労働を認める流れとなって具体化している。大企業を中心に導入されている長期休暇制度についても、この流れの一環として捉えることができる。

 当初、ワークライフバランスについては、従来のパートタイム労働=女性という固定概念から脱却し、母親に仕事と生活のバランスを可能にすることに焦点が当たり、これについては、2003年4月に、6歳以下(障害者については、18歳以下)の子供を持つ両親に、柔軟な労働を要求する権利を認める法律が制定された。現在の議論の対象は一般の労働者にまで広まっており、政府としては、新たな立法化の意図はないものの、労働者側、企業側双方の事情に配慮しつつ、「グットプラクティス」を通じて柔軟な労働を経営者に奨励して、これが両親だけではなくほかの従業員にも広げていくという姿勢を採っている。

 イギリスでも、一般の従業員のワークライフバランスについては、普及啓蒙を始める段階にあり、本格的な統計調査も今後行われることになるが、一般論としては、ワークライフバランスは従業員の生産性を向上させ、それに伴い顧客の満足度を向上させるといわれている。

 ある企業では、コールセンターで、従業員自身にシフトのパターンを選択させることにより、顧客の満足度が向上した例があるとのことである。

  BTのワーキングバランス施策と長期休暇制度

)BTのワーキングバランス施策

 BTは、多様な消費者及び事業者に対し通信サービス事業を国際的に展開している。このため、BTでは、事業の遂行に当たっても、多くの多様性に富んだ人たちが参加して仕事が進めることが将来のBTの事業にとって非常に重要なことであると認識しており、こうした観点から、BTでは、1981年にフレキシブル・ワーキング制度を導入した。

 BTでは、両親や子供がいるかにかかわらず、従業員全員にフレキシブル・ワークを求める権利を認めている。従業員は申請を行い、管理職が本人と相談の上取得の可否、賃金等の条件について結論を出すこととなる。

 従業員に不服がある場合には、従業員は、人事部、自分の直属でないマネージャー等の独立の第三者に上訴することが可能ととなっており、個人又は組合が個人を代表して苦情を申し立てることも可能である。

 このフレキシブル・ワーキングを採用している従業員の数は1981年は300名であったが、現在はは67,000名にのぼっている。内訳は、在宅勤務8,000名、パートタイム6,500名、ワークシェアリング700名であり、非常に多くの従業員が、オフィス、自宅、顧客先又はこれらを組み合わせた形態で働いている。

 BTはワークライフバランスについて、従業員の仕事上又は生活上の問題を解決し、モラル向上を図る効果とともに、経済的効用も強調している。BTでは、在宅勤務の従業員は通常の事務所で働く従業員に比べて約20%生産性が向上しており、在宅勤務者全体により年間600万ポンドに相当する生産性の向上がもたらされているとのことである。また、離職率の低下により新規採用のコストが年間で400万ポンド、事務所経費の節約により年間に1人当たり6,000ポンドの経費が削減でき、合計で6,000万ポンドの経費節減が可能になったとしている。

)長期休暇制度

 BTが提供するフレキシブル・ワーキングのオプションには、責任を軽減する、労働時間を変えるなど様々な態様があるが、後述する「タイムアウト」「ヘルピングアウト」もその一つである。従業員はこれらのオプションの中から最適なオプションを選択することとなる。

(1)  ヘルピングアウト
 政府機関やチャリティの組織団体に出向するもの。給与は出向先が負担する場合とBTが負担する場合があるが、出向先から出る給与がBTのそれを下回る場合には、年金や社会保険料の水準を維持する観点からBTと同じ水準に合わせるため、差額を負担している。

(2)  タイムアウト
 目的を限定しない長期休暇であり、全部で2年、4回とることができ、例えば、これを1回に2年間とることも、分割して4回とることも可能である。給与については、中間管理職と直属の上司が、無給か有給か、有給の場合の支給の程度などについて相談して決定する。

 実際の長期休暇の使途としては、燃え尽き症候群の予防から技能の修得、ボランティアへの参加、旅行まで様々なものがあるとのことである。いずれにせよ、BTでは、こうした柔軟な働き方の文化を通じ、長期休暇を取得した従業員が新しい技能や考え方を身につけて戻ってくることを期待している。これは例えば、下級のマネージャーが、ボランティア団体のマネージャーとなった場合、そこでは人事管理、予算から法律部門の知識まで非常に多くの技能を身につけて帰ってくることなどである。

 こうした背景から、BTでは、これらの制度を使って職場復帰した従業員は、どれだけの能力が高まったかということを、それぞれが示さなければならないと考えられており、アピール次第では短期間に昇進するケースもあるなど、従業員の爾後のキャリアに反映されることとなる。

 実際の利用状況は、これらの制度のほか、責任の軽減、労働時間の変更など類似のオプションも含めて、過去18カ月でまだ1,000件未満にとどまっているものの、実際に拒否されるケースは非常に少なく、BTはこれらの制度が円滑に運営されていると評価している。


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