戻る  前ページ  次ページ

(3)第3次対がん10か年総合戦略研究経費(仮称)
事務事業名 第3次対がん10か年総合戦略研究経費(仮称)
担当部局・課主管課 厚生労働省健康局総務課生活習慣病対策室
関係課  

(1)関連する政策体系の施策目標
基本目標11 国民生活の向上に関わる科学技術の振興を図ること
施策目標 2 研究を支援する体制を整備すること
I 厚生労働科学研究費補助金の適正かつ効果的な配分を確保すること

(2)事務事業の概要
事業内容(新規・一部新規)
 これまでの「対がん10カ年総合戦略」及び「がん克服新10か年戦略」により、遺伝子レベルで病態の理解が進む等がんの本態解明は大きく進み、また、各種がんの早期発見法の確立、標準的な治療法の確立等診断・治療技術も目覚ましい進歩を遂げた。その一方で、発がんの要因やがんの生物学的特性等について、その全貌が十分に解明されているとはいえない等一層の研究の充実を図ることが求められている。
 このため、平成16年度から新たに「第3次対がん10か年総合戦略」(仮称)を策定し、我が国の死亡原因の第1位であるがんについて研究、予防及び医療を総合的に推進することにより、がんの罹患率と死亡率の激減を目指してがん対策を強力に推進することとしている。そのためには、がんの臨床的特性の分子基盤等の研究を行うことにより、がんのさらなる本態解明を進めるとともに、その成果を幅広く応用するトランスレーショナル・リサーチを推進する必要がある。また臨床研究・疫学研究の新たな展開により革新的な予防、診断、治療法の開発を進めるとともに、根拠に基づく医療の推進を図るため、効果的な医療技術の確立を目指し質の高い大規模な臨床研究を推進する必要がある。
 さらにこうした研究事業の基盤整備を進めるため、若手研究者育成活用事業、外国人研究者の招へい、外国への日本人研究者等の派遣、外国への研究委託及び研究成果等の啓発などの推進事業を実施する。また研究補助者を活用することにより研究効率の一層の向上を図るため研究支援者活用事業を実施する。

具体的には、
 (1) 発がんの分子機構に関する研究
 (2) がんの臨床的特性の分子基盤に関する研究(がんの個性、宿主の個性)
 (3) 革新的ながん予防法開発に関する研究
 (4) 革新的な診断技術の開発に関する研究
 (5) 革新的な治療法の開発に関する研究
 (6) がん患者のQOLに関する研究
 (7) がんの実態把握とがん情報の発信に関する研究
 (8) 正確ながん医療情報の普及及び最善かつ標準的ながん医療技術の確立等に関する臨床研究
 (9) がん専門医の研修方法に関する研究
 (10) 若手医師・協力者活用等に関する研究
等の研究を進め専門家、行政官による事前評価に基づき研究補助金を交付し、得られた成果については適切に予防、医療等の行政施策に反映させる。

予算額(単位:百万円)
H12 H13 H14 H15※ H16要求※
2,183 2,185 2,186 4,183 5,020
効果的医療技術の確立推進臨床研究経費(がん分野)
(H15)、がん臨床研究経費(仮称)(H16)を含む。
(3)問題分析
 昭和56年以来がんは日本人の死亡原因の第1位を占めており現在では死因の約3割、医療費の1割弱を占める我が国最大の健康上の問題となっている。死亡率については、胃がんや子宮がんが著明に低下している一方、大腸がん、前立腺がん、乳がんなどのがんでは上昇傾向にあり、全体としては横ばいの傾向にある。しかし一方で高齢化の進行に伴い、がんの死亡数が上昇することが考えられ、欧米型のがんや難治がんへの重点対応が望まれている。
 これまでの先端的な科学技術などを駆使した先駆的な研究により遺伝子・分子レベルでのがんの生物学的基盤研究や発がん要因とがん予防の研究では国際的にも極めて貢献度の大きい研究成果が多く得られた。その結果、発がんの分子機構に関する理解が急速に進み、がんの病態も細胞内の遺伝子変異との対応で捉えられるようになってきた。がんの診断・治療に関する研究では分子レベルでのがん診断や分子標的療法などの開発研究が急速に進展してきている。ヘリカルCTの開発などの医療機器の開発も世界に先駆けて行われ、早期診断や治癒率の向上に大きく寄与してきた。がんの疫学研究やがん情報の基盤整備は過去数十年における日本人の生活習慣の激変によるがん罹患率の変動状況を明らかにし、がん予防における環境要因の重要性を示してきた。このようにがんの基礎研究および臨床研究は国際的にみても目覚ましい成果をあげてきたが、発がん要因やがんの生物学的特性や生体内でのがんと周囲の細胞との相互作用についてもがんの多様性と複雑性の故に、世界的にもその全容が依然解明できていない。また基礎研究の成果を積極的に臨床(予防・診断・治療)に応用するいわゆるトランスレーショナルリサーチは欧米に遅れをとっていると考えられる。またがんの疫学研究についても欧米に比べて研究規模が小さく、意義ある研究を遂行するためにはデータマネージメントのための国家的な取り組みや研究のさらなる推進が必要と考えられる。

(4)事務事業の目標
重点的研究目標
(1)学横断的な発想と先端科学技術の導入に基づくがんの本態解明の飛躍的推進
 (1) がんにおける細胞・組織システムの基礎研究に基づくがんの本態解明
 (2) ゲノム・プロテオーム(たんぱく質総体)情報、病理、診療情報、生活習慣情報等の相関性の解明
 (3) 動物モデルなどを用いた個体レベルの発がん、転移、がん免疫機構の解明
 (4) 分子標的治療の基盤形成
 (5) がん細胞に対する宿主の免疫応答機構の解明
 (6) 学横断的な新しいがん研究領域の開拓
(2)基礎研究の成果を積極的に予防・診断・治療へ応用するトランスレーショナル・リサーチの推進
 (1) 新たな予防・診断・治療法の開発のためのトランスレーショナル・リサーチの強力な推進
 (2) 腫瘍DNAなどのバイオリソースバンク、遺伝子多型と抗がん剤や放射線による副作用についてのデータベース等の設置及び推進
 (3) 臨床・公衆衛生研究実施体制の整備
(3)革新的な予防法の開発
 (1) 環境中の発がん要因の同定と暴露情報の収集
 (2) 発がん要因と発がん機構の関連性の解明による、新しい予防法の確立
 (3) 大規模長期コホート研究など分子疫学的研究の全国的展開
 (4) 簡便で効果的な禁煙支援法の開発・普及
 (5) 生活習慣改善、化学物質投与等による介入試験の展開
(4)革新的な診断・治療法の開発
 (1) 腫瘍マーカーの体系的探索に基づく高感度・高精度のがんの早期診断法の開発
 (2) がん検診の技術開発と有効性の科学的評価
 (3) がんの早期発見のための高度画像診断等に資する医用工学・光学、エレクトロニクス分野の研究開発の推進
 (4) 画像情報データベースの構築
 (5) がん患者個々人に最も適した治療法を選択するテーラーメイド医療の確立と普及
 (6) 膵がんやスキルス胃がん等の難治がん等を対象とする新治療技術の体系化
 (7) 機能を温存・再建する外科療法や低侵襲性治療法の研究等患者の生活の質 (QOL)の維持・改善を図る治療法の開発
 (8) 粒子線治療の臨床的有用性の確立
 (9) 多施設共同臨床試験ネットワークの確立
(5)がんの実態把握とがん情報・診療技術の発信・普及
 (1) 地域がん登録や院内がん登録の基盤整備
 (2) 地域がん診療拠点病院を基盤に置いたがん医療標準化の推進
 (3) 最新のがんの知見及び診療に関する情報を発信・普及するためのネットワークの構築等

2.評価結果
(1)必要性(行政的意義(厚生労働省として実施する意義、緊急性等)、専門的・学術的意義(重要性、発展性等)、目的の妥当性等)
 昭和56年以来がんは日本人の死亡原因の第1位を占めており現在では死因の約3割、医療費の1割弱を占める我が国最大の健康上の問題となっており、厚生労働省として緊急に研究をさらに充実させなければならない分野である。死亡率については、大腸がん、前立腺がん、乳がんなど多くのがんでは上昇傾向にあり、胃がんや子宮がんが著明に低下しているものの高齢化の進展に伴い適切な研究・支援が実施されない限りがんの死亡数が上昇することが予測され、増加する欧米型のがんや難治がんへの重点対応が望まれている。
 米国においては、国立がん研究所を中心として、ニクソン大統領主導で1971年に策定されたNational Cancer Actにより継続的に大量の資金ががん研究に投入され、欧州においても、EORTC(European Organization for Research and Treatment of Cancer)という組織のもとに研究が進められている。このような国際情勢の中で、これまでの我が国のがん研究も高い評価を得ており、我が国の果たすべき役割は年々大きくなってきている。
 「今後のがん研究のあり方に関する有識者会議」の報告書の中でも、専門的・学術的観点からがん研究の重要性、発展性が指摘され、総合科学技術会議の理解のもとに文部科学省と厚生労働省がより一層強い連携を図ることにより充実した研究体制が構築されることが必要であると提言された。また先般の総合科学技術会議における「平成16年度の科学技術に関する予算、人材等の資源配分の方針」の中でも重点事項に位置づけられたところである。

(2)有効性(計画・実施体制の妥当性等の観点)
 第3次対がん戦略事業(仮称)においては1研究課題あたりの金額は10,000千円〜70,000千円程度であり、研究期間は原則として3年程度を限度とし、事前評価委員会、中間・事後評価委員会およびそれらを統括する評価会議において外部評価を毎年行う。評価委員会はがんの研究分野の専門家と専門家以外の有識者からなり、委員は10名から15名程度で構成する。評価委員会においては以下の評定事項に基づいて厳正な評価を行う。
  (1)専門的・学術的観点からの評定事項
 ・研究の厚生労働科学分野における重要性
 ・研究の厚生労働科学分野における発展性
 ・研究の独創性・新規性
 ・研究目標の実現性
 ・研究者の資質・施設の能力
(2)行政的観点からの評定事項
 ・行政課題との関連性
 ・行政的重要性
 ・行政的緊急性
 事前評価委員会では「専門的・学術的観点」と「行政的観点」の両面から総合的な評価を行い、課題の採択をする。採択された課題については印刷物のほか厚生労働省のホームページ等により公表する。中間・事後評価委員会では毎年課題の目標がどの程度達成されたかにつき厳正な評価を行い、評点を考慮に入れた研究費の配分をする。
このように評価方法についても適切な整備を行い各評価委員会の評価委員がその分野の最新の知見に照らした評価を行う。研究費は評価結果に基づき配分されることから効率性、妥当性が高いものと考えられる。限られた予算の中で研究課題を公募し研究を実施することにより必要性、緊急性が高く、予算的にも効率的な研究課題が採択されて事業が実施される。また研究期間は原則最長3年であり、研究課題の見直しに反映されるため事業の目的達成に対する有効性が高いと考えられる。

(3)効率性(目標の達成度、新しい知の創出への貢献、社会・経済への貢献、人材の養成等の観点から)
 事業目標が達成された場合、10年後に実現されるがん研究・がん医療の姿として以下のことが期待される。
○ がんの本態解明
 (1) 個々人の発がんに対する感受性を規定する遺伝的要因が解明される。
 ・ ゲノム情報解析、診療情報、および大規模な疫学研究の成果により、発がんの高リスク群の把握が可能になる。
 (2) 発がん過程における遺伝子異常の全貌や種々のがん細胞の生物学的特性が明らかにされる。
 ・ 個々のがん症例に対応した、適切かつ有効で副作用の少ない「テーラーメイド」ながん医療が実現される。
 ・ がんの転移や浸潤の分子機構が解明され、その制御法の開発により、進行がん・末期がん患者の生命予後が改善される。
 (3) ヒトがんの多段階的遺伝子異常を再構築した動物モデルが作製される。
 ・ 複数のがん関連遺伝子の個体内における相互作用の解析が可能になる。
 (4) がんの監視機構である宿主の免疫応答のメカニズムが解明される。
○ トランスレーショナルリサーチの展開
 (1) 体制整備や人材育成が進められ、がんの本態解明の基礎研究成果を、新しい予防・診断・治療法の開発と実用化に結びつける研究が推進・展開される。
 ・ ゲノム・トランスクリプトーム(転写産物総体)・プロテオーム(たんぱく質総体)研究の成果による分子標的治療法が積極的に導入される。
 ・ 免疫応答機構の解明による腫瘍免疫療法が確立される。
 (2) 厳正な審査・評価を受けて承認される新薬の治験、遺伝子・細胞治療、医療機器などの実験的医療が活性化され、患者自身の自由意志により、それらの臨床研究に参加する機会が増える。
 (3) 副作用を最小限に抑え、有効でかつ個人の最適の抗がん剤投与法、放射線療法等の新たな治療法が開発される。
 (4) 産官学の連携体制が確立し、より有効な研究が可能になる。
○ がん予防
 (1) 発がんの高リスク群に対して、個人に最適ながん予防対策が実現される。
 ・ 発がんのリスク軽減や生活習慣の改善によるがん予防法が確立される。
 ・ 遺伝子・ゲノム情報を取り入れて層別化された集団に対するがん予防対策が確立され、全国的に普及される。
 ・ がん発生の遅延あるいは生涯的な予防が可能となり、死亡率が減少する。
 (2) 感染予防対策の充実により、感染に起因するがんの予防法が確立される。
 ・ 感染の関与が明らかな、肝臓がんや子宮頸がん、一部の胃がんや白血病の罹
患率および死亡率が減少する。
 (3) 発がんの動物モデルを用いた研究により、新規のがん化学予防剤の開発が精力的に展開される。
○ がんの診断
 (1) がんの「検査」がより正確に、鋭敏に、かつ簡便にできるようになり、患者の苦痛が軽減される。
 ・ 新世代のデジタル画像診断や内視鏡診断、分子診断の開発が進む。早期診断率が向上し、治療成績や治療後の生活の質の改善に貢献する。
 ・ 血液や尿、各種体液の中の腫瘍マーカーおよび極少数のがん細胞を高い精度で検出する検査法が開発される。
 ・ 画像情報をデーターベース化することで、診断の精度が向上する。
 (2) 全国何処でも最高水準のがんの診断が受けられるようになる。
 ・ コンピューター技術を駆使した自動診断システムの開発や、ネットワーク技術によるデータベースとの連携等を通して、最先端のがん診断技術が全国に普及する。
 (3) 精度の高い検診の有効性が迅速に評価され、適切な間隔で多数の人が受診できるようになる。
 ・ 最新の診断技術に基づいて、精度の高い新しいがん検診技術が開発される。
 ・ 死亡率減少効果や延命効果などの予防および治療的有効性に加え、費用対効果などの医療経済学的な観点から検診の有効性を迅速に評価するシステムが構築される。
 ・ 有効性が確立した検診を、適切な精度管理とともに普及し、効率よく多数の人が受診できるようになる。
○ がんの治療
 (1) 個々人に最も適した治療法を選択する「テーラーメイド医療」が普及する。
 ・ 遺伝子や遺伝子産物等、分子レベルの解析を取り入れて、個々の症例に最も効果があり、最も副作用の少ない治療法を行う「テーラーメイド医療」を、全国民が受けられるようになる。
 (2) 手術療法が進歩し、治療成績が向上して、患者のQOLが改善する。
 ・ 化学療法・放射線療法との有効な組み合わせや、ロボット外科の研究などにより、手術療法の成績と安全性が向上する。
 ・ 機能温存や機能再建する外科的技術、さらには再生医学・臓器移植の技術の進歩により、手術の後遺症が減り社会復帰が促進される。
 (3) 内視鏡を用いた「体に優しい」手術が広まる。
 ・ 内視鏡、腹腔鏡、胸腔鏡などを用いた、身体への負担が少なく、生活の質の維持に優れた治療法がより多くのがんについて行われるようになる。
 (4) より有効で副作用の少ない新しい治療法が開発される。
 ・ がん細胞の特徴を明らかにし、分子レベルの異常を標的とする新しい分子標的薬が開発される。
 ・ 免疫療法、遺伝子・細胞療法などの新しい治療法が開発される。
 (5) 有効な放射線療法の開発・実用化が進む。
 ・ 重粒子線・陽子線・高エネルギー放射線などの実用化が進み、より高度な放射線の照射法が開発されるとともに、放射線療法の効果や副作用があらかじめ予測できるようになる。
 (6) 緩和医療がさらに充実する。
 ・ 痛みや息苦しさ、倦怠感などを克服する新しい手段が見出されるとともに、精神・心理的な治療法の開発が大きく進展する。
 (7) 難治がんに対する治療法の開発が大きく進展する。
 ・ 治療が困難な「難治がん」に対して、画期的な治療法の開発が進み、治癒率が大幅に改善される。
○ 実態把握と情報発信
 (1) より正確ながんの実態の把握が可能になる。
 ・ 地域がん登録・院内がん登録の意味とその重要性を国民に理解してもらい、この事業を国策として強力に推進し、その統合等を通して、我が国のがんの実態を正確に把握する。このデータに基づき、がん対策の正しい方向付けが可能となる。
 (2) がんに関する様々な情報が簡単に、全国どこからも取り出せるようになる。
 ・ 患者やその家族、がんの医療や研究の専門家など、それぞれのニーズに応じたがんの最新の情報がインターネット等を介して容易に入手できるようになる。

(4)その他
 なし

(5)特記事項
 平成13年に発足した「今後のがん研究のあり方に関する有識者会議」により、専門的・学術的観点からがん研究のあり方につき議論が行われ、平成15年2月に報告がなされた。これを踏まえて事業を実施する。
 総合科学技術会議における、平成15年6月19日に発表された「平成16年度の科学技術に関する予算、人材等の資源配分の方針」の中でも重点事項に位置づけられた。

3.総合評価
 これまでの研究により、遺伝子レベルで病態の理解が進む等がんの本態解明は大きく進んだ。また、各種がんの早期発見法の確立、標準的な治療法の確立等診断・治療技術も目覚ましい進歩を遂げた。その一方で、発がんの要因やがんの生物学的特性は、がんの多様性と複雑性の故に、世界的にもその全容が依然解明できていない。がん細胞の浸潤能、転移能やがんに対する免疫応答など、生体内でのがんと周囲の細胞との相互作用も、その全貌が十分に解明されていない。今後は、進展がめざましい生命科学の分野との連携を深め、また、ミレニアムゲノム研究で得られた成果を統合させ総合的な基盤研究を推進することにより、がんの本態をより深く解明し、個々のがんの多面的な要因や複雑な病態を掌握し、早期発見のための新しい診断法の開発や有効な腫瘍マーカーの開発、新しい予防法・治療法の開発等のいわゆるトランスレーショナルリサーチを重点的に推し進める必要がある。また、医療技術のさらなる向上を目指すためには先端的な科学技術を積極的に取り入れた研究が必須であり、文部科学省と厚生労働省の連繋のみならず、産学連携の取り組みをさらに強化することが必要である。また先端的研究により開発される新しい治療技術につき大規模な臨床研究を進め、効果的かつ効率的で質の高い標準的な医療として確立したものにつき、全国にあまねく普及する必要がある。これらの取り組みにより、膵がんやスキルス胃がんなどの難治がんを含めたがん治癒率の一層の向上とがん発生率の減少を達成することができ、ひいては国民の医療費負担低下も実現可能となると考えられる。
 疫学的研究に関しては、大規模・長期にわたる疫学研究を実施可能にするための国家的な体制作りを進め、がんの環境要因を把握するのみでなく、遺伝子多型の分布など、遺伝的要因(ゲノム情報)も取り入れた分子疫学的研究を積極的に推進する必要がある。
 がん情報の基盤整備に関しても、診療技術の全国への普及、国民へのがんに関する適切な知識と最新情報の提供、とりわけ、がんの発生・死亡等に関わる情報の一元管理は、まだ十分に行われているとは言えず、今後、さらに整備・充実していく必要がある。
 従って、本事業をより一層強力に推進していくことにより、がん対策を有効に推進し、「がんの治癒率の向上、がんの罹患率・死亡率の減少、がん患者の苦痛の軽減」に効率よく繋げていくことが重要である。


トップへ
戻る  前ページ  次ページ