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8月20日の部会における議論を踏まえての再整理


年金制度改正の基本的な視点

(国民皆年金の堅持・持続可能な制度の構築)
 現在では、高齢者世帯の所得のうち公的年金の占める割合は約7割に達し、また、公的年金を高齢期の生活設計の中心と考えている人の割合は7割を超えており、公的年金制度は高齢者の生活になくてはならないものとなっている。また、社会全体で老後の所得保障を行う公的年金制度の存在により、現役世代は、自らの親が高齢になり所得を喪失した場合でも、私的に扶養する必要がなくなっている。
 さらに、公的年金給付費は社会保障給付費の約5割の40兆円を占め、その規模はGDPの8%・国民所得の1割に達している。また、高齢化率の高い地域では家計消費の約2割を年金給付が支えており、地域経済においても公的年金制度は欠くことのできない存在となっている。
 このように国民生活や社会経済に不可欠な存在であるからこそ、今後とも国民の期待に応え、将来にも国民が確信をもてるよう、少子高齢化が進む中にあっても、国民皆年金を堅持し、持続可能な制度としていくことが極めて重要である。将来の世代に健全な年金制度を残して行くことが現在の世代の責務である。

(制度に対する信頼性の確保)
 公的年金制度は、現役世代の保険料負担で高齢世代の年金給付を支える世代間扶養の考え方を基本にしており、現役世代の納得と合意なくして制度を維持することはできない。
 制度に対する信頼を確保していくためには、将来の現役世代の負担が過重なものとならないように配慮しつつ、長期的な視点から世代間・世代内の負担がバランスのとれたものとなるようにすべきである。また、経済社会の変動に柔軟に対応でき、これまでのように頻繁な制度改正を必要としないような制度とすべきである。さらに、国民年金の未納・未加入問題については厳正に対処し、制度の信頼と安定を確保すべきである。

(公的年金制度体系の在り方)
 公的年金制度は、昭和36年の国民年金制度の創設から昭和60年の基礎年金の創設を経て現在の体系となり、国民生活に定着しているが、その間にも、体系の在り方について継続して議論が行われてきた。
 公的年金制度体系をどう選択していくかは、国民経済との調和、世代間・世代内・職業間・男女間等のバランスの観点や、実務面での実現可能性、現行制度からの移行にかかる問題などについて総合的に検討を行うべきものであり、今後とも議論を進めていくべきである。

(給付水準の在り方)
 公的年金制度は、現役時代の所得の喪失を補填することにより高齢期の所得保障を行うものであり、個々人の生活設計に組み込まれている給付水準の過度の調整や急激な見直しを行うことは適切でなく、老後生活の主柱にふさわしい実質的に価値のある年金とし

(給付と負担の透明性・わかりやすさ)
 若い世代の公的年金制度に対する理解と信頼を高めるために、数十年先の将来に迎える自分の老後に受給できる年金を少しでも実感のあるものとしていくため、現在どの程度保険料を負担したか、それが将来の年金給付にどう反映するかについて国民が把握できるようにしていくことが重要である。

(ライフコースの多様化への対応)
 女性の労働力率の上昇や就労形態の変化等により、ライフコースは多様化しており、結婚、出産、就労、離婚等の人生の様々な選択に対して中立的な制度となるよう、見直していくべきである。
 併せて、雇用システム、育児支援施策、税制等の関連施策との連携を図り、年金制度がその支え手を増やす観点からより弾力的な機能を果たすべきである。

(社会保障制度全体としての視点)
 給付と負担の水準など制度設計に当たっては、医療、福祉、税制などの在り方との関連を含めて総合的な検討が必要である。
 また、将来の現役世代の負担を過重なものとしないよう、国民負担率の上昇を極力抑制するという観点を念頭に置くことが必要である。
 なお、国民の生活の視点からは、国民負担率の上昇だけを抑制したとしても、それに伴い、医療や介護の自己負担や家族内の扶養などの私的な負担が重くなりかねないことにも留意が必要である。

公的年金制度の体系

 現行の公的年金制度体系の考え方は、老後生活の基礎的部分を保障する基礎年金は全国民共通の仕組みとした上で、現役時代の生活の大部分を賃金によって支えているサラリーマングループについては、退職後も退職前の生活水準を一定程度反映した生活を送ることができるようにすることである。
 制度体系の将来の方向性についてはさらに議論を積み重ねていくべきであるが、提案されている制度体系に対する様々な制約条件を勘案すると、現行の基礎年金に報酬比例年金を上乗せする現行の体系を安定的なものとして維持しつつ、将来の在り方を展望し検討を続けていくことが最良の選択であると考えられる。
 この場合、基礎年金拠出金については、
 基礎年金拠出金制度を通じて、結果としてサラリーマングループが未納者や未加入者の分の負担を肩代わりしていることとなっており、負担の構造を明らかにし、不信感・不安感を払拭する観点から、厚生年金保険料の1階分と2階分を分離すべきとする意見があった。
 また、さらにサラリーマングループの中において、基礎年金拠出金を応能負担化し、報酬額に応じた額とすべきとする意見があった。
 一方、基礎年金は全国民で負担すべきものであり、自営業者グループとサラリーマングループに分けて負担を論じることは適当ではないとの意見があった。

 現行の体系を前提とした上で、基礎年金について社会保険方式を維持するか税方式とするかということについても議論があった。具体的には、すべての高齢者の基礎的な生活保障を行う役割をより明確にするとともに、未納・未加入の問題や第3号被保険者問題がなくなることなどから、所得制限を伴わない税方式とすべきとの意見があった。
 社会保険方式では、リスクに備えて保険料を拠出し、拠出に基づくものとして所得・資産に関わらず給付が受けられる仕組みである一方、税方式では、保険料の拠出を行わなくても、一定年齢に達すれば給付が受けられることになる。
 こうした税方式の考え方は、自助・自律の精神を基本とする我が国の経済社会の在り方とも大きな隔たりがあるし、税を財源とする現金給付である以上、所得・資産調査に基づく給付制限や最低生活に必要な給付水準の抑制にもつながりかねない。また、税方式にする場合の財源確保の政治的困難性にも留意すべきである。これらの点から、国民年金の未納・未加入問題に厳正に対処することは当然の前提としつつ、個々人の現役時代の努力が反映され、保険料納付実績に応じて年金額が決まる社会保険方式を堅持すべきである。
 なお、税方式とすべきとの意見は、あくまで将来の方向として示されており、次期改正では、国庫負担を2分の1に引き上げるべきとの意見であった。
 現行の基礎年金+報酬比例年金の体系を維持するとの方向性に対しては、無・低年金者を対象に税財源による補足的な給付を導入しながら、自営業者グループも含め報酬比例方式へ一本化すべきであるとの意見があった。これは、サラリーマン、自営業者という立場により制度が変わる仕組みではライフコースの多様化に対応することが困難であり、また、現役時代の所得喪失を一定程度補填するという公的年金制度の役割を考えると公的年金制度は報酬比例年金とすべきであるとの観点からのものである。
 しかし、報酬比例方式+補足的給付の方式については、自営業者の所得把握が困難であること、賃金が低い者や就労期間の短い者の給付水準が大きく低下するおそれがあること、補足的給付の水準によっては相当な財源が必要となること、補足的給付の水準を抑制すれば低年金者の増加につながること、公正な所得・資産調査がコスト面や実務面から現実的に可能かなどの問題を、十分に検討する必要がある。
 以上の点を踏まえると、基礎年金を税方式とすることや、報酬比例年金への一本化及びその場合の税財源による補足的給付を組み合わせることには様々な制約条件が存在しており、現行制度に替わるものとして次期改正で実現を目指すべき選択肢となる状況には至っていない。
 しかしながら、現役世代の制度に対する不信感・不安感を払拭し、少子高齢化の進行・経済状況の変化の中にあっても年金制度を持続可能で安定的なものとしていくための見直しは不可欠であり、現行制度の下にあっても将来世代の負担が過重なものとならず、必要な給付を確保していける措置を講じるべきである。


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