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I 障害者からみたコミュニティケア

1.コミュニティケアとは何か

(英国介護者協会)
 コミュニティケアとは、1993年4月に地域生活を支える新たなシステムとして施行された。これは、高齢、身体障害、知的障害、精神障害などにより地域生活に援助が必要な人やその介護にあたる家族等をサポートするものである。
(英国視覚障害者協会)
 コミュニティケアとは、障害あるいは特別なニーズをもつ人に提供される。それは、可能な限り自立して生活したいという要求に応えるものである。例えば、視覚障害をもつ高齢者は、買い物の手助けを求めていたり、家で自立して生活できるよう家屋改造をする必要もある。あるいは、重度の障害をもつ人は、在宅での生活が続けられるよう介護者の定期的なサポートを必要としている場合もある。
 コミュニティケアのもとで、自治体の社会サービス部はどんなサービスが提供できるかを決定する前に、生活全体にわたるニーズをみるが、これを「ニーズ・アセスメント」と呼んでいる。
 <なお、英国視覚障害者協会のコミュニティケア・ガイドは、別添の参考資料1を参照されたい。どの障害にも当てはまる、わかりやすい内容となっているので、イギリスのコミュニティケアを受けるプロセスが理解できる。>
(英国脊髄損傷者協会)
 コミュニティケアの背景として、長期収容施設にいる人々を地域で暮らせるようにする方策がある。1993年から、政府はケアの財政的体制を変え、自治体・社会サービス部がケアに対して支出する。社会サービス部は、ケアの必要な人のニーズをアセスメントする責任をもっている。それは、社会サービス部門、住宅局、国民保健サービス部、あるいは他の公的あるいは民間団体、あるいは企業などによって支えられるニーズである。

地域生活のイメージの図
上図は、地域生活のイメージ(ロンドン・ピープルファースト資料より)


2.誰がコミュニティケアを受けられるか

 障害者団体の資料は、それぞれ具体的な対象を示している。

(ロンドン・ピープルファースト)
私たち(知的障害者本人)
施設に入っている人
病院に生活している人
デイセンターに通っている人
弱い立場にある人(自分自身のことをうまくやる経験もなく病院に暮らしてきた人や多くの異なる援助を必要としている人)
(英国視覚障害者協会)
全盲や弱視者を含む障害者
高齢者
他に特別なニーズをもつ人々


3.コミュニティケアに関する法の流れ

1970 慢性疾患及び障害者法
(各自治体の社会サービス部に、その地域のニーズを把握すること、サービス情報の周知、サービス提供などを求めている)
1970 地方自治体社会サービス法
(各自治体は、その義務と機能を果たす上で必要なスタッフをもつこと)
1986 障害者(サービス、協議、及び代理)法
(1970年の慢性疾患及び障害者法を補完し、自治体はアセスメントを行うことが義務付けられる。これは1990年のコミュニティケア法に委ねられる。)
1990 国民保健サービス及びコミュニティケア法
(サービスの提供者と購入者が分離される。サービス利用者の生活のコントロール、選択を基盤としている。)
1995 障害者差別禁止法
(雇用、商品、サービス、交通、教育へのアクセス、土地建物の売買、賃貸についての差別禁止をうたっている。)
1996 介護者(認知及びサービス)法
(ケアに携わる人のニーズについてアセスメントを要求する権利を与えている。)
1996 コミュニティケア(ダイレクト・ペイメント)法
(障害者に対して直接現金支給を促す。)


4.アセスメントとは何か

(ロンドン・ピープルファースト)
 たくさんの質問がされる。例えば、何がうまくいっているか、どんな援助が必要か、生活する上で何が望みか、など。アセスメントとは、生活の一つひとつの場面で何が必要で何が望みかということを、多くの人が話し合う場とも言える。
(英国知的障害者協会)
 コミュニティケア・サービスの依頼は、ニーズをもつ人から自治体に対してなされる。自治体は、いかなるルートからの依頼も受け入れることになっている。例えば、本人、介護者、友人、家庭医、民間団体など。そして、自治体は情報を集める責任があり、アセスメントの最も適切なレベルを選択する責任がある。もし手助けを必要とするなら、社会サービス部に連絡するように助言している。
 相談からアセスメントの間の期間は、地方自治体によってまちまちである。当協会の調査によれば、平均4ヶ月かかり、ひどいときには9ヶ月もかかっている。なお、緊急の場合には優先され、その場合の待機期間は短くなる。

イメージ図
左図は、申請し待機リストに載るイメージ図。右図は、必要な援助を受けるためのアセスメントを行うイメージ図。(ロンドン・ピープルファースト資料より)


5.アセスメントの実施とは

(ロンドン・ピープルファースト)
アセスメントの過程
(1) 申請
 まず、あなた自身か、あなたを最もよく知っている人が申請の書類を作成する。そして、待機リストに載る。もし受付のワーカーがもっと詳しくたずねたいことがある場合に、別のワーカーとの会合が持たれる。
(2)アセスメントの実施
 あなたやあなたをよく知っている人が、何が必要な援助なのか、などについて多くの質問を受ける。
(3) アセスメント・ミーティング
アセスメントを担当するワーカーがあなたを援助するのに多くの分野が必要だと考えた場合は、あなたのニーズについて話し合う少し大きな会合を組む。そして、あなたを知っている人たちが、話し合いのため集められる。
(4) 報告書
 この報告書は、あなたが必要な援助は何で、どこで受けるかなどについて書かれている。
(5) ケアマネジャー
 サービスを必要とする人は、それぞれケアマネジャーを持つ。あなたのケアマネジャーの仕事は、あなたが必要とするサービスを得られるようにすることである。

アセスメントのための会合の図
上図は、アセスメントのための会合。家族やワーカー等が勝手に自分のことを言うので、「私の言うこと、聞いて!」と発言している。(ロンドン・ピープルファースト資料より)


(英国介護者協会)
 社会サービス部かニーズのある人の家で、インタビューを受けることになる。本人、介護者はニーズのすべてにわたって尋ねられる。もし、ニーズについて尋ねられないことがあったら、自分自身のことについて話しておく必要がある。場合によっては、インタビューを受ける前に自分のニーズについて書いておき、インタビューの際、そのコピーを渡すとよい。これは、他の団体の資料にも記述されており、いわばきちんと要求を伝えるノウハウである。また、もしコミュニケーション上の困難がある場合には、社会サービス部は、それを援助しなければならない。
 なお、アセスメントには費用はかからない。アセスメントの一部には、費用負担の能力判定も含まれている。したがって、就労による収入、手当、年金、貯蓄がたずねられる。もし費用があまりにも高いと感じたならば、引き下げるよう求める権利がある。

(英国脊髄損傷者協会)
 アセスメントとは、地方自治体の社会サービス部から関係者(通常、ソーシャルワーカーか作業療法士)が家庭訪問して詳細なニーズを評価することである。このニーズ・アセスメントは、1970年の慢性疾患及び障害者法に示されている次のような項目である
・家庭における介護
・ラジオ、テレビ
・図書館などの利用
・講演会やゲーム、外出、あるいは他のレクリエーション活動への参加
・上記活動に参加するための移動援助
・生活をより安全、快適、便利にするための家屋改造や福祉機器
・ホリデー
・食事サービス
・電話とそれを利用できるようにするための特別な装置


6.ケアプランニングとは

(英国知的障害者協会)
 アセスメントの結果をもとに個別のケアプランを作る。通常、ケアマネジャーの調整により、会合がもたれる。この会合は、障害者、介護者、その他関係者が出席する。
 この会合には、障害者が中心に置かれるべきで、障害者のニーズと要望を協議する上できわめて重要である。この会合の結果は、ケアマネジャーが次の段階で確保するためのサービスを決定することにつながる。
 この時間は非常に早く過ぎてしまうので、言いたいことをノートに書いておく。なぜなら、会合の中ですべてのことを思い出せないかもしれないから。そして、テープレコーダーにとっておくこともいい。
 この会合で、多くの知的障害者や重度の言語障害者は、適切に話をする機会を持てないことがある。ケアマネジャーは、できるかぎり障害者を参加させるべきである。
(ロンドン・ピープルファースト)
 ケアマネジャーは、障害者が望むことや必要な援助を実現するよう、障害者と共に働く人のことであると定義している。そして、人によっては援助に協力的であり、また人によってはその逆ということもある。

図


8.コミュニティケアの課題とは

(英国脊髄損傷者協会)
 このコミュニティケアの改革に対して考え方はほぼ同意されているが、実施上の問題があり、批判も出ている。脊損協会の示している主要点としては、
・政府の主なモチベーションは財政引締めであること。
・コミュニティケアと言いながら家族・友人という無料のインフォーマルケアに頼っていないか。
・地域に適切なサービス提供を用意する前に「地域へ」と強制していないか。
・用語「コミュニティケア」は、障害者を、権利をもつ市民というよりも、むしろ依存とケアを必要としている人という意味を強化しているところがある。
・地方自治体がコミュニティケアを受け入れ、新たなサービスを創り出す前に、急速な変化を進めている。
・この改革は、地方自治体の社会サービス、住宅、保健の各部署、及び民間セクターの間の連携に失敗している。


7.イングランドにおけるコミュニティケア受給者数

 イングランドの人口は、約4,975万人。以下に、「コミュニティケア統計1999/2000」(保健省)の統計を示す。1999年4月1日〜2000年3月31日の1年間に諸種のサービスを提供した数は、1,738,000人。コミュニティケアとしてのサービスは、1,516,500人。本人アセスメントは1,034,300人、介護者のアセスメントは254,000人に行われている。
 なお、各表の数字は推計数のため、それぞれを合計しても合わない。あくまで、概数として理解されたい。(Department of Health, Community Care Statistics 1999/2000, November, 2000)

表1.社会サービスを受けた推計数 (1999年4月1日〜2000年3月31日)
内容別
障害別
地域ベースのサービス 居住施設ケア
総数 18-64才 65才+ 年齢不明 総数 18-64才 65才+ 年齢不明
総数 1,516,500 386,600 1,105,200 24,800 69,900 13,100 55,900 900
身体障害 1,133,800 184,000 932,400 17,300 37,200 1,600 34,800 700
 含:肢体不自由 546,900 125,300 414,000 7,600 16,000 1,200 14,800 -
   聴覚障害 30,900 5,300 25,300 300 6,400 100 6,300 0
   視覚障害 68,500 7,300 61,000 200 1,800 100 1,700 0
   重複障害 5,100 400 4,700 - 1,000 - 1,000 0
     その他 344,700 13,600 322,400 8,600 10,300 8,900 10,100 -
知的障害 84,400 76,100 6,400 1,900 9,800 2,200 900 -
精神障害 144,700 79,900 63,200 1,600 7,800 0 5,500 100
   含:痴呆 36,200 2,000 34,100 - 4,400 - 4,400 -
薬物等依存 7,000 5,900 1,000 100 100 400 - 0
その他 146,600 40,500 102,100 3,900 15,100 0 14,600 -
HIV(上記に含まれる) 2,500 2,400 100 - - - 0 0

表2.ダイレクト・ペイメント受給者の推計数 (1999年4月1日〜2000年3月31日)
  総数 18〜64才 65才+
総数 4,400 3,000 1,400
身体障害 3,400 2,300 1,200
 含:肢体不自由 1,500 1,400 100
    聴覚障害 100 - -
    視覚障害 100 - -
    その他 1,500 100 1,400
知的障害 200 200  
精神障害 400 300 100
その他 300 200 100

表3.アセスメントを受けた推計数
内容別
障害別
総数 18〜64才 65〜74才 75〜84才 85才〜
身体障害 758,300 136,300 128,500 274,000 219,600
 含:肢体不自由 388,800 87,600 72,100 138,300 90,800
    聴覚障害 19,400 4,500 2,400 6,100 6,400
    視覚障害 39,800 5,500 5,000 14,100 15,200
    重複障害 4,900 400 300 2,500 1,700
     その他 194,700 14,200 32,800 80,900 66,700
知的障害 25,500 23,600 800 700 400
精神障害 121,400 68,700 11,500 24,400 16,800
    含:痴呆 39,700 3,100 6,600 17,700 12,300
薬物等依存 9,600 9,000 400 100 100
その他 119,500 26,300 22,200 38,300 32,600
HIV(上記に含まれる) 2,900 2,900      

表4.地域基盤のサービス(ホームヘルプ)を受けた推計数
内容別

障害別
総数 ホームヘルプ
総数 18-64才 65才+ 年齢不明
総数 1,516,500 684,700 97,600 572,100 15,100
身体障害 1,133,800 582,700 66,100 501,800 14,800
 含:肢体不自由 546,900 231,000 39,100 191,600 300
    聴覚障害 30,900 11,400 500 10,900 -
    視覚障害 68,500 19,700 1,700 18,000 -
    重複障害 5,100 2,600 100 2,600 0
     その他 344,700 202,800 6,700 194,600 1,500
知的障害 84,400 15,700 12,800 2,800 100
精神障害 144,700 47,300 14,700 32,500 100
    含:痴呆 36,200 16,200 600 15,600 -
薬物等依存 7,000 700 500 200 -
その他 146,600 38,500 3,600 34,800 100

表5.地域基盤のサービス(デイケア)を受けた推計数
内容別

障害別
総数 デイケア
総数 18-64才 65才+ 年齢不明
総数 1,516,500 280,700 107,400 168,300 5,000
身体障害 1,133,800 162,800 26,000 132,600 4,200
 含:肢体不自由 546,900 65,900 15,500 50,400 100
    聴覚障害 30,900 4,000 400 3,600 -
    視覚障害 68,500 7,300 12,00 6,100 0
    重複障害 5,100 900 - 900 0
     その他 344,700 44,200 2,400 41,600 200
知的障害 84,400 52,700 49,800 2,400 600
精神障害 144,700 46,300 26,400 19,800 100
    含:痴呆 36,200 9,200 400 8,800 -
薬物等依存 7,000 1,100 900 100 -
その他 146,600 17,700 4,300 13,500  
HIV(上記に含まれる)         0

表6.地域基盤のサービス(レスパイト)を受けた推計数
内容別

障害別
レスパイト(自宅にて) レスパイト(自宅外)
総数 18-64才 65才+ 総数 18-64才 65才+
総数 4,500 1,500 3,000 98,100 30,600 67,400
身体障害 3,000 800 2,200 55,200 6,100 49,000
 含:肢体不自由 1,300 700 600 19,000 3,800 15,100
    聴覚障害 100 100 - 2,500 100 2,400
    視覚障害 100 - - 2,100 200 2,000
    重複障害 0 0 0 200 0 200
     その他 700 - 600 19,000 300 18,700
知的障害 800 700 100 15,700 15,300 300
精神障害 300 - 300 15,900 7,500 8,400
含:痴呆 100   100 5,000 100 4,900
薬物等依存 - - 0 1,000 1,000 -
その他 400 0 400 10,300 700 9,600


9.日本の地域生活支援についてイギリスの視点からコメント

(1)イギリスはケアマネジメントを制度化、日本は手法
 イギリスのコミュニティケアは、国民保健サービス及びコミュニティケア法1990(1993施行)に基づいて実施されてから、約10年が経過していることもあり、高齢者・障害者の各団体、その関係団体はケアマネジメントをいかに有効に利用するか、その問題点を当事者がいかに工夫し、必要なサービスを得るように行動するかということについて情報交換がされてきている。一方、我が国の場合は当事者団体へ情報が行き渡っていないこと、これまでの措置制度よりも後退することへの不安などから、ケアマネジメントに対する認識は低く、活用に関する情報交換には至っていない。

(2)イギリスは社会サービス部でワンストップ、日本は各相談事業として分化
 相談窓口については、これまで身障・知的・精神とそれぞれの発展過程があるために専門職の間でも共通理解されていない部分があり、相談窓口でいかに受止めていくかという課題がある。イギリスの場合、高齢者及びあらゆる障害者がコミュニティケア法でカバーされるので、総合相談窓口は「ワンストップ」で受理するようになっている。

(3)アセスメントは本人・家族は別、日本は勘案事項として家族単位
 アセスメントについては、利用者アセスメント・シートと介護者アセスメント・シートが別に用意されており、必要に応じてその両者を併せて書類が作られることになる。一方、我が国の場合、介護者は支援費については勘案事項整理票の中で「介護者の状況」としてまとめられ、ケアマネジメントの第一次アセスメント・シートにおいては、「家族の要望・希望する暮らし」のみで、介護者自身を認知しアセスメントする視点には乏しい。また、地域生活におけるリスクという観点では我が国の3障害各マニュアル類の中で積極的には取り上げていない。イギリスのケアマネジャー・マニュアルでは確認すべきリスクの項目、リスクへの対応、支援が示されている。

(4)ダイレクト・ペイメントは制度化、日本は未着手
 支援費制度における、当事者主体、契約という新たなサービスのあり方から考えれば、ダイレクト・ペイメントの制度についても前向きに検討されるべきである。イギリスのコミュニティケアに関するテキストでは、障害の社会モデルと自立生活の考え方に基づき、ダイレクト・ペイメントの情報、アドボカシー、実践的なサポートを示している。我が国においても、今後、パーソナル・アシスタント制度などに関する検討を進め、その活用のノウハウを組み込み、さらに、セルフ・ケアマネジメントを促進していく必要がある。


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