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II.評価結果

《総合評価》


総合科学技術会議は、評価対象制度について、配分機関(府省もしくは法人)で予め実施された評価の結果を聴取し、各制度の目的及び投入資金に照らして、適切な課題採択や資金配分がなされ、十分な成果又はその他の効果(以下、「成果等」という。)が得られているか等を検討した。

配分機関で行われた評価では、制度ごとの特性を踏まえたさまざまな手法がとられていた。全般に、課題の採択や資金の配分は、各制度の目的に照らして概ね適切に行われていた。また、成果等に関しては、一部にその把握が不十分なものや、制度発足後間もないことから、成果等が未だ把握できていないものも見られたが、追加的にヒアリングを行うこと等により、各制度について、有効な成果等が概ね認められ、あるいはその実現のための努力がなされていることが確認できた。現時点で成果等が十分把握できなかったいくつかの制度については、今後の経過を注視していくこととした。

全般に、研究者の自由な発想に基づく基礎研究を取り扱う制度はもとより、研究目的を指定された制度においても、競争的研究資金という制度形態を活用することには、競争的環境の中で優れた発想を汲み上げ、有効な成果を得ていく上で極めて大きな意義が認められる。

一方、制度ごとの問題点、あるいは制度をまたがる共通的な問題点も多く認識された。競争的研究資金制度全般にかかる改革の方向は、「競争的研究資金制度改革について(意見)」(平成15年4月21日、総合科学技術会議)に示されている通りであるが、今回の制度ごとの評価を通じて認識されたこれらの問題点については、評価結果(総合評価及び個別評価)の中で、要検討事項や改善点を指摘の上、今後、配分機関で早急に検討・対応がなされるよう求めていくこととする。

上記のような改革・改善を実施することを前提とした上で、今後我が国の科学技術にかかる研究開発環境を一層競争的にし、世界水準の優れた成果を得て「科学技術創造立国」を実現していくためには、今回の評価対象とした7つの競争的研究資金制度及びその他を含めた我が国の競争的研究資金制度全体について、その拡充に向けた取組みと、より戦略的かつ効率的な運用が必要と認められた。

1.制度の目的に即した課題採択及び資金配分

今回評価の対象とした制度の目的は、学術振興、産業振興、政策支援等さまざまであったが、各制度とも概ね制度目的に即した課題採択及び資金配分がなされていると認められた。

しかし、今後一層このことを徹底するためには、評価者の選定や行政の関与等について、制度ごとに的確な対応が必要である。

一般に、科学的研究に係わる競争的研究資金においては、その配分に研究者の参加を求め、その判断を尊重していく必要がある。

特に、研究者の自由な発想に基づく基礎研究では、優れた専門研究者による評価(ピアレビュー)の重視が、また、研究目的を指定された制度では、研究者以外に、関連する産業界等の代表者や行政の適切な関与が必要であると考えられ、いずれの場合も透明性のある仕組みとすることが重要である。


2.効率的な資金配分単位の実現

我が国の競争的研究資金制度においては、諸外国と比較して全般に採択率が低く、その向上が大きな課題である。

一方、総資金量が増えないまま採択率を上げようとすれば、資金配分が徒に細分化され、研究開発の質が低下したり、複数の資金源から資金を集めることによって研究目標の達成を図るといった問題を惹起しかねない。

このため、採択率の向上に向けた努力と併せ、資金の細分化を防ぎ、効率的な資金配分単位の実現を図ること、すなわち、研究計画を遂行するに足る十分な資金額を、研究者1人当たりで確保できるようにすることが重要である。また、データベース及びエフォート管理の活用等を通じて、同一人が競争的研究資金を過度に重複受領することを防ぐことも必要である。このようなことを通じ、採択課題ごとに責任を持った運営が行われ、目標とする高い成果が得られるようにすべきである。

また、グループ研究が必要な場合も考えられるが、過度に大きなグループでは研究者の責任感を希薄にする結果となり易いことから、適切な規模にとどめるよう留意すべきである。


3.機動性及び世界水準の確保

世界のフロントランナーたりうるためには、先端的な研究動向を的確に把握しつつ、優れた研究開発成果を出すことによって研究開発水準を世界のトップに引上げ、維持していく不断の努力が必要である。

特に、基礎研究を対象とし、分野や領域の設定が重要な役割を果たす制度では、世界の潮流や研究開発の進展動向、新たに提起される独創的な発想等に、機動的に対応した分野や領域の選定が行われる必要がある。なお、応募件数に応じた配分が行われる場合には、分野や領域構成が現状で固定されたり、応募件数の徒な増加につながったり、新しい分野や領域の発展を阻害するといったことのないように、十分留意することが必要である。

また、産業利用等特定の政策目的を掲げて実施される制度では、近年一段と技術革新が加速し、経済社会環境がめまぐるしく変化する中で、世界的競争を勝ち抜いていく必要があり、国内外の情勢と自らの研究開発の進捗状況を踏まえ、毎年あるいは不定期に評価とこれによる計画の見直し(中止を含む)を行うなど、情勢に即応した対応ができる仕組みを整備しておく必要がある。

さらに、上記のような取組みを的確に行うためには、審査あるいは評価を行うに際して、常に世界水準に照らして行うとの意識と手法の導入が重要である。このため、「競争的研究資金制度改革について(意見)」(平成15年4月21日、総合科学技術会議)にあるように、分野や課題の選択等において、プログラムディレクター、プログラムオフィサーが世界水準に照らした適時・的確な判断を行うことをはじめ、国内外の動向に関する調査・分析機能の整備、評価手法の世界標準化努力や世界的評価者・ピアレビューアーの活用等も積極的に行うべきである。


4.他の制度等との役割分担と戦略的連携

競争的研究資金で現在手当てされている研究開発は、一般的には技術開発のシーズが開発されるまでの段階のものが多い。このような基礎的研究の推進の役割を、国が競争的研究資金制度によって果たすことには大きな意義があると考えられる。

また、配分機関においては、その政策目的や研究開発ステージ等に応じて、競争的研究資金制度のほか、公募による研究開発・実用化制度やプロジェクト型研究開発制度など、さまざまな制度が運用されている。

このため、政策の種類や分野ごとに、競争的研究資金制度が最も効果を発揮する場面を明確にし、そのような場面への競争的研究資金の活用を積極的に進めるとともに、優れた成果が期待され発展が見込まれる研究開発を切れ目なく継続できる仕組みの整備、他の各種制度との役割分担と戦略的な連携を進めることが重要である。


5.成果等の説明責任及び社会還元

研究者の自由な発想を生かす基礎研究であれ、研究目的を指定されたものであれ、国費を使う研究開発について、関係者は世界レベルで優れた成果等を創出してその社会還元を図るといった不断の努力を行い、それらの成果等を制度の目的に応じて的確に把握・評価し、その結果を広く公表していくことが必須である。

特に、基礎研究においては、成果等を得るのに長期を要するもの、成果等の量的把握が困難であるもの、あるいは直ちに実用性を説明し難いものもあるが、いずれにせよ研究の意義や有用性を説明することは必要であり、可能な限り客観化を試みたり、優れた事例を用いる等、わかりやすい説明によって、国民の理解を得ていくことが重要である。

また、研究目的を指定された制度においては、結果指向と結果責任の明確化という意識を徹底し、政策目的が達成され、又はその達成が担保されていることを、具体的に国民に明らかにしていくことが必要である。

さらに、これらの研究開発の直接の成果である新たな知や技術シーズ、人材等については、国民一人一人がその研究開発の意義や有用性を肌で感じられるようなものに発展させていくこと、すなわち、国民に対する知識の普及、実用化への円滑な受け渡し、知的財産権の取得・活用、生活の質の向上につながる政策の支援等を通じ、制度の性格に応じたさまざまな形で的確に社会に還元されることが重要である。

加えて、研究開発の成果等及びその社会還元を検証あるいは担保する観点から、今後、制度ごとに研究開発の成果等に関する事後評価や追跡評価を的確に実施していくことが重要である。また、それらの結果を次の課題採択や評価者の評価に活用することにより、制度の透明性や有効性を絶えず改善していく必要がある。


6.競争的研究資金の資金量

今回の評価によって各府省の代表的な競争的研究資金制度を検討した結果、全般的に資金量が不足しており※(注)、真に競争的で活力があり、今後米国等に伍していけるような研究開発環境を作り出すには、未だ至っていないと判断された。

今回具体的制度について検討した結果、1件当たりの配分金額が小さく研究計画に見合った十分な資金が得られないといった状況や、採択率が未だ相当程度低い水準にあるという状況、さらに有効な制度でありながら採択可能な領域・課題が限られており有望な多数の芽を十分育て切れないといった状況が随所に見られている。

また、間接経費についても、予算の伸びが小さい中でその割合を急激に増やすことは直接研究費の圧迫を招くため、科学技術基本計画に示された30%程度の配分を達成している制度は極めて限られている。

したがって、今後競争的研究資金制度の改革と、効率的な運用を進めることと併せ、科学技術基本計画に則って、資金量の拡充に向けた取組みが必要である。
(注) 例えば、米国と比べると我が国の競争的研究資金量は約10分の1である。我が国のGDPが米国の約半分ということや、米国の競争的資金配分額の2〜3割が人件費であることを考慮しても、なお米国は我が国の4倍程度の競争的研究資金を有していることになる。

7.その他

本評価による要検討事項及び改善点の指摘に対応するに際し、配分機関においては、「競争的研究資金制度改革について(意見)」(平成15年4月21日、総合科学技術会議)に沿って、早期に「プログラムオフィサー、プログラムディレクターによる一元的管理・評価体制の整備」及び「独立した配分機関体制の構築」が図られ、このような確固とした枠組みの下で具体的な取組みがなされることを求めるものである。

なお、現在各省において競争的研究資金とされているものの中には、大別して「研究者の自由な発想に基づく基礎研究」を行うものと、「研究目的を指定された研究」を行うものが含まれているが、今回の評価を通じて、後者の中には行政事業的な性格が強く一般的な競争的研究資金と異なるものがあり、また、現在競争的研究資金以外のものと整理されているものの中にも、性格や機能が競争的研究資金と極めて似たものがある、といった実態が明らかになった。このため、今後、別途、適切な時期に競争的研究資金の定義の見直しの必要性や性格分け、場面に応じた活用方策等について、科学技術システム改革専門調査会の場で検討を行う必要がある。


《個別評価》

A. 科学研究費補助金
 −文部科学省、日本学術振興会−


 科学研究費補助金は、我が国の学術を振興するため、人文・社会科学から自然科学までの幅広い分野で、研究者の自由な発想に基づく独創的・先駆的な研究を発展させることを目的とする研究資金制度であり、大学の研究者等が自発的に計画する多様な学術研究のうちからピアレビューにより研究テーマを採択し、研究費を助成するものである。また、本制度は、目的・対象、申請規模等により階層的に研究種目を設定しており、「特別推進研究」−国際的に高い評価を得ており、格段に優れた研究成果をもたらす可能性のある研究 、「特定領域研究」−21世紀の我が国の学術研究分野の水準向上・強化につながる研究領域等を特定して機動的・効果的に研究の推進を図るもの 、「基盤研究」−1人で行うか又は少人数の研究者が共同して行う独創的・先駆的な研究 等がある。

 本制度の評価においては、まず、課題採択や資金配分の状況について検討を行った。平成14年度は、新規の申請件数は約8万5,000件と膨大であり、これらの申請に対する採択率は24.6%である。各分野への資金の配分は、学問的要請や社会的要請を基に分野間調整を図る「分野調整型」と、分野ごとの申請件数・申請金額に応じて配分する「試算型」を組み合わせて行われているが、こういった仕組みが、世界の学術動向や社会のニーズ等に対応し、新しい知や科学技術の創造に対して十分機動的に機能しているかを検討した。さらに、審査において、膨大な申請案件から適切に審査・配分がなされているかについて検討した。これらの結果、以下の1.及び2.に示す結論を得た。

 また、研究成果等について検討を行った。文部科学省による評価では、制度内容の改善等に係る事項が主体となっており、成果等に係る具体的なデータの提示が少なかったため、客観的・具体的な研究成果等のデータを追加的に求めて検討を行い、以下の3.に示す結論を得た。


1.新しい知、科学技術の創造について

 本制度において、各分野への資金配分は、分野調整型と試算型を組み合わせて行われている。

 資金の配分では、学術研究の継続性とともに多様性の維持・確保にも配慮することが必要であり、分科細目の定期的な見直し、時限付分科細目の設定等により、学術研究の動向を反映するための一定の努力が払われていることは評価できる。しかし、時代を先取りする新しい知や科学技術の創造のためには、欧米にない日本独自の新たな学問分野の設定や、文理融合型研究等の、従来の学問体系にとらわれない新しい研究分野の開拓も含め、現在の取組みを更に積極的なものにしていく必要がある。具体的には、試算型研究における分野別配分額の構成が、我が国の現状に照らして適切かどうかの検証や、諸外国との比較、また、試算型の補助金が現在の我が国の大学の研究活動において果たしている役割の再検討等を行うことが重要である。なお、このような検討においては、基盤的研究や息の長い研究に対する配慮も必要である。

 また、分野によっては、研究開発の特性や内外の事情を考慮して、審査員に外国人を起用したり、分野毎に審査方式を変えて評価すること等を検討する必要がある。さらに、新しい知や科学技術の創造を加速していくためには、より競争的な環境を作ることが重要であることから、本制度についても、その本来の目的を踏まえつつ、民間研究者を含め学術の振興に寄与する研究を行う幅広い研究者が応募できるよう検討する必要がある。


2.審査について

 審査については、「基盤研究」等においては、研究者による2段階審査により採択し、「特別推進研究」や「特定領域研究」等においては、研究者による審査に加えてヒアリングを行って採択するという現在の方式の考え方には問題はないが、細部において以下のような課題が認められた。

 平成15年度の新規申請件数約8万6,000件に対し、審査に関わる研究者の合計は約5,300人である。基盤研究等についてみると、申請件数は約7万2,000件、第1段審査の際の審査員は約3,700人であり、審査員1人当たりの審査件数は、毎年わずかずつ減少しているとはいえ、現状でも平均98件であり、審査は短期間のうちに行われている。このことから、現状においても、審査員に過剰な負担がかかっていることが考えられ、また、今後、研究実績よりも研究計画の内容を重視した審査に転換を図っていく上でも、大きな障害となる可能性がある。本件は、申請件数が著しく多いために生ずる問題とも考えられるが、その原因については、1件当たりの配分額の妥当性や申請書様式の妥当性を再検討するとともに、大学等における研究費の実情、諸外国の実情等も併せて検討して、制度・運用の最適化を図る等、適切な改善策を追求することが必要である。また、申請件数が著しく多い中での対応策として、例えば、一旦簡単な申請書で予備審査を行った上で詳細な計画を提出させて詳細な審査を行うという二段審査の実施、予算面も含めた審査体制の充実、審査の年複数回実施、申請及び審査等の電子化、大学・配分機関等の共通データベースの導入等を検討することも必要と考えられる。

 1件当たりの配分額が平均約400万円と小さく、また採択率が24.6%と低いとの問題については、予算の制約もあり、配分額と採択率のどちらを重視すべきか、実情を調査した上での検討が必要である。例えば、配分額については、研究費が減額されたために成果が得られ難くなるといった実態があるかどうかや、採択率については、研究レベルが全体的に高いので、採択されるべきものが不採択となっているといった実態があるかどうか、等を調査・分析する必要がある。これらのためには、事前評価だけでなく、事後評価や追跡評価を十分に行う必要がある。

 審査員については、世界的レベルの研究を推進するために外国人を起用したり、良い審査員の蓄積を図るために、若手の研究者にも経験を積ませることや、審査員の研修を行うことも必要である。また、課題採否の妥当性を分析して審査員の評価を行うことも必要である。さらに、審査員のデータベースを充実し、配分機関として優れた審査員の蓄積や審査制度全体の機能の向上を図るべきである。

 また、配分機関については、現在、基盤研究等は日本学術振興会、特別推進研究及び特定領域等は文部科学省が審査を担当するという形となっているが、本制度の規模や戦略的運用の必要性を考えると、独立した配分機関にその配分機能を委ね、プログラムディレクターやプログラムオフィサーによるマネジメント体制の整備を進めるべきである。


3.成果等の評価について

 今回の文部科学省における制度評価においては、「現在の我が国の大学等における研究ポテンシャルは国際的に高く、ここ10年以上にわたりこの高い学問水準を維持向上させていることは、科学研究費補助金により得られた研究成果の累積の結果といえる。」と評価されているが、その具体的根拠については十分明示されていない。そこで、成果事例等に係る具体的なデータに関して追加的に聴取した。

 本制度の成果等の客観的な指標の例としては、1981年から1998年までにハイインパクト論文を発表した日本人30名のうち20名以上が本制度の支援を受けており、そのうち主要論文が確認できた11名の研究者のほとんどが、自ら主要論文として挙げている上位10論文のほぼ全てが本制度によるものとしていることを挙げている。

 また、具体的には、ノーベル賞を受賞した野依教授の遷移金属錯体を用いる新規合成反応、白川教授のポリアセチレンフィルムの半導体としての応用に関する研究及び小柴教授のカミオカンデによるニュートリノの探索研究等への助成が挙げられている。さらに、半導体多層薄膜構造による光集積回路用レーザーの研究への助成、高性能ガリウム窒素(GaN)系青色LEDの試作研究への助成、及びヒトゲノムプログラムの推進に関する研究への助成等が主要な成果の例とされている。

 しかし、こうした成果事例中心の評価では、我が国の競争的研究資金全体の約51%と最大の資金規模を持つ本制度の成果を論ずるには不十分であり、次のような観点からの評価等を今後積極的に行うべきである。

 国費を投入して行う研究開発にあっては、効果的・効率的な成果の創出が必要であり、大学等における基礎研究を担う本制度においても、その成果や社会への還元の状況を的確に把握・評価し、あるいは社会に対して説明する責任は重大である。基礎研究という本制度の性格上、研究終了時点での成果の把握や明確な評価が困難な場合もあるが、可能な限り具体例や客観化等を通じて評価を行い、(把握困難な面がある場合にはその理由も含め、)分かり易い形で社会に示して理解を得る必要がある。本制度のような基礎研究を中心とした成果等の評価を十分に行うためには、長期的な視野に立って、論文や著書、学会発表、特許、有形無形での産業化への貢献、人材養成等を追跡して多角的に調査分析し、本制度の直接的な貢献を極力明らかにしていくことが必要である。また、今後も、評価手法の整備・改善を行い、プログラムオフィサーや調査分析機能等の体制整備に資源を投入するとともに、より効果的な制度改革を目指して、厳正な制度評価を行うべきである。また、評価結果のデータベース化を推進し、後日の提案の採否の判断と連携させて利用する方策を整備する等、評価の効率的活用に努める必要がある。

 本制度については、配分機関における成果等に係る評価検討が上記の観点から十分に行われていないにしても、実質的な研究者養成や研究者の資質の向上に貢献しつつ、我が国の学術研究の高い水準を維持し、あるいは先導してきたことは確かであり、例えば、我が国の論文発表数は世界第2位、論文被引用回数は世界第4位となっている点においても、本制度の果たした貢献は大きいと考えられる。今後とも我が国の学術水準を維持向上させていくためにも、投入資源の拡充を図っていく必要があるとともに、制度の運用実態や内外情勢等に係る十分な調査分析や、予算規模の増大に伴う制度設計の在り方の再検討を行った上で、適切な制度改革を果断に実施して、より国民にとって意義の高い制度としていく必要がある。


B. 戦略的創造研究推進事業
 −科学技術振興事業団(文部科学省)−


 戦略的創造研究推進事業(以下、「本制度」という。)は、「国が定める戦略目標の達成へ向けた基礎的研究を推進することにより、新技術の創製に資する知的資産を形成する」ことを目的としている。それまでの創造科学技術推進事業(ERATO)、若手個人研究推進事業(さきがけ研究、PRESTO)、戦略的基礎研究推進事業(CREST)等の先行事業(以下、「旧制度」という。)を、平成14年に再編して創設されたもので、文部科学省が定める戦略目標に基づき、科学技術の戦略的重点化に対応し、社会・経済ニーズに応えて将来の社会還元を目指す、トップダウン型の基礎研究推進事業である。研究領域を設定し、研究者を公募して実施する「公募型」(旧CREST型、旧PRESTO型)と、有望な研究者を選抜して実施する「総括実施型」(旧ERATO型)の2種類の事業がある。

 本制度の評価においては、まず、課題採択や資金配分の状況について検討を行った。平成14年度予算は447億円、「公募型」の採択数及び採択率は新規291件(11.2%)、継続17件(21.5%)、統括実施型の新規採択数は6件であった。1課題当たりの年間研究費は、「公募型」ではチーム研究4千万円〜2億円、個人型研究1〜2.5千万円、「総括実施型」では3〜4億円であった。本制度においては研究領域の選択と研究総括(各々の研究領域を総括する者)の選抜が非常に重要であることから、その方法について検討した。また、このようなトップダウン型の手法は基礎研究振興を目的とする競争的研究資金では独自のものであるが、その有効性や成果の社会還元の状況について検討した。これらの結果、以下の1.及び2.に示す結論を得た。

 また、研究成果等について検討を行った。配分機関における評価では、本制度が再編直後であるため、旧制度について詳細な評価を行っている。この評価結果に基づき、制度の目的や投入予算に照らして成果等が十分に得られているか等を検討し、以下の3.に示す結論を得た。


1.研究領域等の選択について

 本制度は、文部科学省が定める戦略目標に従って研究領域をトップダウン的に決定するため、その方法及び過程の適切性が極めて重要と考えられる。「公募型」事業では、科学技術振興事業団の新技術審議会が戦略目標に基づき研究領域と研究総括を決定し、その後、当該領域で研究提案を公募、研究総括が領域アドバイザーの協力を得て課題を採択する。一方、「総括実施型」では、戦略目標に従って研究者から推薦された研究総括の候補を科学技術振興事業団が絞り込んだ後、当該候補者から研究構想を募り、これを新技術審議会基礎研究部会で採択する。これまでの状況や実績に鑑みると、この方式は概ね有効に機能してきたものと評価できる。

 しかしながら、本制度においては、特定の研究領域を選択し、大きな資金を投入して事業が実施されることから、研究領域及び研究総括の選択過程は研究者社会の大きな関心事となっているが、これまでその透明性が低く、公平性や公正性の観点から懸念を持たれかねないところがあった。このため、今後、研究領域の設定や研究総括の選抜は、新規領域・融合領域等を含めた国内外の研究開発動向を十分に調査するとともに、国内外のオピニオンリーダーの意見を聴取する等、手法の一層の改善を図りつつ、トップダウンの利点を生かして、大胆かつ責任を持って行うことが求められる。また、決定過程の情報公開等による透明性の確保に加え、その責任の明確化が重要と考えられる。

 旧制度は、科学研究費補助金等で得られた萌芽的成果を育て、大輪の花に発展させる役割を果たしてきたとも評価される。本制度が今後さらに発展するためには、学問の流れや研究環境の変化の中で、そのあり方について常に見直す必要性がある。例えば、科学研究費補助金との関係において、双方の特徴を生かした連携を強化したり、科学技術振興事業団の独立行政法人化に伴う柔軟な資金運用、新設された研究開発戦略センターの調査企画機能による戦略的な事業運営を行うこと等が期待される。


.トップダウンの手法の有効性と成果の社会還元について

トップダウンによる選択の手法は、戦略的な資金の重点投入を可能としており、研究費の投入としては一般に効果的な方法と考えられる。実際、3.で述べるように、旧制度は数多くの優れた成果を挙げてきている。例えば、ノーベル賞を受賞した野依教授の不斉合成研究の事例では、科学研究費補助金の助成等で成功した不斉水素化の研究の流れを、平成3〜8年にERATOが支援し、不斉合成の分野が大きく発展した。画期的な研究成果を得るには、幅広い裾野と長期的な支援が必要であるが、その中で旧制度については、優れた研究を加速する意義が認められる。

 一方で、課題採択の的確性や支援の適切性を高めるために、その選択や支援方法(資金規模、期間、タイミング等)の妥当性、成果や社会還元の状況等について、追跡調査あるいは追跡評価が必要である。また、プログラムディレクター、プログラムオフィサーの充実や評価に必要な経費の確保も重要な課題であると同時に、このような大型の研究費については、研究費の無駄使いがないか、さらには、配分機関として効率的な人員配置がなされているかについても、絶えず検討していくことが大切である。

 なお、成果の社会還元に関しては、研究成果やライセンス可能な特許情報について、研究成果展開総合データーベース(J-STORE)によりインターネットで公開するとともに、技術移転の専門家である研究成果実用化促進委員を配置している。また、新技術フェアや説明会の開催、一定条件下での優先実施権の設定など、成果の実用化に向けた取組みは、概ね適切に行われている。なお、平成14年度より、委託に係る研究成果に基づく特許権等は、原則委託先の研究機関帰属となっている。


3.成果等の評価について

 今回の科学技術振興事業団による制度評価は、終了課題533件の被採択者を対象としたアンケート調査、論文数・被引用度・特許数の分析調査、被採択者の研究キャリア上の影響調査、一部研究課題の成果や波及効果等の追跡調査等を行い、科学技術振興事業団の総合評価委員会委員及び新技術審議会基礎研究部会委員の意見を求めた上でとりまとめたものである。資金配分の適切性や研究成果等について、多様な観点から検討が行われており、概ね適切に評価がなされている。今後の評価においては、アンケート対象者の不採択となった者等への拡大や回収率の改善、費用対効果の観点の導入、外部評価の一層の活用など、今回の経験を踏まえて改良してゆくことが望まれる。

 本制度及び旧制度により実施された研究開発により平成14年度に得られた成果としては、原著論文数は4,105報(国際誌3,419報)、特許出願は833件(外国出願165件)である。また、論文被引用回数の多い日本人研究者19名のうち、当制度で研究を実施した研究者は11名である。しかしながら、旧制度での研究期間中に出願され、科学技術振興事業団が権利を保有する特許に関しては、研究成果の産業への適用を示す技術ライセンス収入は年間3,000万円程度であり、投入資金量に比較してまだまだ十分とは言えない。

 成果の具体的な事例としては、単相カーボンナノチューブの誕生、GaAsによる化合物半導体結晶を高精度でつくるための基盤技術の開発、生体ナノマシン基礎技術の開発、ナノテクノロジーの物性評価技術、固体NMR量子コンピューター等、科学技術のシーズ創出と新しい潮流の形成に寄与したり、梯子超伝導体の電子状態の解明、X線解析による分子励起構造の解明、アポトーシスによるゲノム構造変化の分子機構、遷移金属を利用した自己組織性精密分子システム、ナノチップテクノロジーの創製とゲノム解析への応用、高温運転メタノール直接型燃料電池の開発、幹細胞システムに基づく中枢神経系の発生・再生研究など、世界水準を凌駕するような基礎的研究、知的資産の形成と新産業の創出を目指す研究等、各研究事業で多彩なものがあげられる。

 旧制度の各研究事業は、概ね適切な成果が得られていると判断される。科学技術振興事業団によれば、現行のシステムでは公募される研究領域が限られているために、将来の新しい科学技術の芽を創る可能性を持つ優れた研究提案をあらかじめ排除しているおそれがあるとし、予算の拡充に応じて今後領域数を2倍程度まで拡充することを志向するとしている。しかしながら、これらの根拠は必ずしも十分に明らかにされておらず、また、科学技術振興事業団における資源の供給可能性も併せて考える必要がある。このため、プログラムオフィサー等の参画の下で、今後拡充していくべき分野、領域を具体的に調査・検討しつつ、制度の充実を図っていくことが望ましい。


C. 厚生労働科学研究費補助金
 −厚生労働省−


 厚生労働科学研究費補助金は、昭和26年に創設された厚生科学研究補助金制度が発展した制度で、「厚生労働科学研究の振興を促し、もって、国民の保健医療、福祉、生活衛生、労働安全等に関し、行政施策の科学的な推進を確保し、技術水準の向上を図ること」を目的としている。本制度の予算額は、厚生労働省の科学技術関係経費のおよそ3分の1を占め、その約1割に相当する指定研究を除き、広く公募を行う競争的研究資金として運用されている。特定の政策目的を実現するための政策指向型の研究制度であり、4分野で20を超える研究事業のもと、予め課題を設定して自由な研究開発手法を広く公募することに特色を持つ。

 本制度の評価においては、まず、課題採択や資金配分の状況について検討を行った。平成14年度予算は407億円、4分野25の研究事業で約1,400の研究開発が実施されていた。また、1課題当たりの配分金額は約2,000万円、新規採択率は25%であった。本制度では極めて政策指向性の強い研究開発を行っており、このようなものを競争的研究資金制度として運用することについての問題点の有無を検討した。また、厚生労働省の広範な研究開発を対象としていること、予め政策目的で研究課題を設定していることから、適切な課題が適切な手順で設定されているか否かを検討した。さらに、本制度は20を超える研究事業を16の担当課が分担して運営しているが、このような分散的な事業運営構造が適当か否かを検討した。これらの結果、以下の1.及び2.に示す結論を得た。

 また、研究成果等について検討を行った。厚生労働省における今回の評価で、各事業における成果が詳細に整理・分析され、厚生科学審議会で評価されていたため、この評価結果に基づき、制度の目的や投入予算に照らして成果等が十分に得られているか等を検討し、以下の3.に示す結論を得た。


1.対象とする研究開発について

 本制度は全体として極めて政策指向の強い研究開発を行っている。このような性格上、政策的判断による資源配分もありうることから、制度の目的や採択基準については、研究者に予め明確に提示することが重要と考えられる。また、研究者の自由な発想に基づく基礎研究を取り扱う文部科学省の科学研究費補助金のような競争的研究資金とは、その位置づけを明確に区別して運営することが重要と考えられる。

 平成14年度に実施された25研究事業の約1,400課題の研究内容についてみると、科学技術的要素の強いもの、政策支援的要素の強いもの、行政事業的要素が強いもの等多岐に亘っていた。これらの研究課題は性格が大きく異なることから、課題をその性格により2〜3種類に明確に整理して資源の配分方針等を決めることが重要である。また、行政事業的要素が強い一部の課題等は、経常的経費を確保して安定的に実施する方が効率的な可能性もあり、このようなものを競争的資金制度の中で運用していくことの適切性等について、今後の検討が望まれる。

 研究課題の設定は、各研究事業の評価委員会等で当該分野の専門的・学術的、社会的・行政的観点から研究課題候補を抽出し、委員会及び科学技術調整官(プログラムオフィサー)を中心とする関係課担当者等で原案を作成し、厚生科学審議会科学技術部会で審議のうえ決定されており、これらの手順は現段階では概ね適切であると判断される。

 課題の採択及び継続については、専門性と評価への積極的関与等を考慮して選考された延べ約800人の評価者で評価されているが、各評価委員会には数名の官職指定の行政側委員が参加している。課題採択の透明性を高める観点から、採択審議においては外部専門家の判断を基本とするとともに、行政側委員の権限を明確にしていくことが重要と考えられる。

 資金配分に関しては、1課題当たりの配分金額が約2,000万円、新規採択率が25%と概ね妥当な水準にあったが、採択率が非常に低い研究事業も見られ、これらのものについては改善が必要である。また、多くの研究が複数の研究者で研究班を構成して広範な症例を収集する特徴を持つが、各研究の分担研究者を把握し、データベース等により研究費の配分やエフォートを適切に管理することが望まれる。間接経費3,000万円以上の研究に対して20%を上限に交付しているが、予算上の制限を考慮しつつ、交付を拡大することが望まれる。


2.事業運営構造について

 本制度は20を超える研究事業を厚生労働省の16の担当課が分担している。これには、各種疾病をはじめ、福祉、食品や医薬品、生活衛生、労働衛生等多岐に亘る厚生労働科学の特性上、各研究事業の担当課が複数に分かれている背景がある。各研究事業を担当課が直接運営することは、政策目的を的確かつ迅速に反映する利点も認められる一方で、制度全体の戦略整合性や優先性に基づく資源配分が弱まる可能性、管理業務が分散することで事務効率の低下や調整業務の増大を招く懸念も考えられる。

 予算要求については、厚生科学審議会科学技術部会の評価を受け、大臣官房厚生科学課でとりまとめ調整されている。また、所管課のプログラムオフィサー(科学技術調整官)32名及び事務官により、週1回科学技術調整官会議を実施し、研究事業の調整、振興、評価関連業務を推進しており、このような中で、応募様式、締め切り、公募などの統一化も行われるなど、制度一体の戦略展開や運営について、現在の事業運営構造の下では概ね適切な対応が行われている。一方、一部の研究事業で研究費の交付が著しく遅れている場合があり、今後の改善が求められる。

 また、各課個別の予算が固定化され易い傾向があること、これ程細分化した事業構造は外部から見て解りにくいこと、政策的要素の強い課題は比較的定常的に実施する必要がある中で、機動的に配分可能な資金の現状が把握しにくいこと等の問題点が考えられる。生命科学の国際競争が激化する中で、科学技術的要素の強い課題については、特に戦略的・機動的に資金配分する仕組みが必要である。これらの課題については、本省と切り離した独立配分機関において、科学者を中心に資源配分を決定し、そこに所属するプログラムオフィサーにより運営することが効果的と考えられる。さらに、今後の我が国の生命科学の発展のためには、米国NIH(国立衛生研究所)に類似した独立した競争的研究資金の配分機関の創設が望ましい。


3.成果等の評価について

 今回の厚生労働省における制度評価は、統一様式で事業担当課が外部評価委員の意見を聞き一次資料を作成し、これを厚生科学審議会科学技術部会で審議して評価結論を得たものであり、資金配分の適切性や研究成果等について概ね適切に評価されている。

 なお、本制度は広範な研究開発を対象としていることから、課題の特性に応じて多様な評価指標が必要と考えられる。特に、政策支援的要素の強い研究課題では、学術的な側面に加え、行政への貢献を明確にし、研究者が納得する評価指標を導入することが重要である。また、政策支援的要素の強い研究課題の成果は、目標が明確に設定されれば比較的容易に評価できると思われるが、制度としての成果が明らかになるまでには長期間を要するので、このための調査分析機能を整備してゆくことが重要と考えられる。

 本制度の成果として、平成14年度終了課題を中心とする492課題において、原著論文として総計19,382件、口頭発表等総計20,850件、国内・国際特許取得数は411件であり、治療ガイドラインや行政基礎資料等の政策形成への貢献は585件であった。これらの数値は事業毎に多寡があったが、分野単位でみてその目的を反映した妥当なものと思われる。わが国は、薬理学、生物学、微生物学、分子生物学・遺伝学等で分野別論文数占有率が高いが、本制度が一定の貢献をしているものと判断される。

 成果の具体的事例としては、潰瘍性大腸炎や全身性エリテマトーデス等の難病の多くで死亡率の飛躍的改善(特定疾患対策研究事業)、早期胃がんの内視鏡切除における磁気鉗子の開発やがん細胞膜に高発現し悪性度と相関する新規膜糖蛋白「ディスアドヘリン」の同定(がん克服戦略研究事業)、予防接種法の改正や感染症サーベイランスシステムの構築(新興・再興感染症研究事業)、「災害時地域精神保健医療活動ガイドライン」の作成(厚生労働科学特別研究事業)、牛海綿状脳症(BSE)の検知法の開発や化学物質摂取に関する規格基準の設定(食品安全性確保研究事業)、骨・血管・皮膚・角膜等の再生医療の臨床応用(ヒトゲノム・再生医療等研究事業)等、各研究事業で数多くのものがあげられる。

 本制度の各研究事業は、それぞれの目的や投入予算に照らして、概ね適切な成果が得られていると判断される。日本の医療水準は、WHOの国別保健システム評価において、加盟191カ国のうち、平均寿命及び健康寿命、保健システムランキングで第1位である。その要因は多様であるが、この制度の果たした役割は評価できる。

 また、生命科学が急速に進展し、国際競争が激化する中で、今後とも欧米に伍して生命科学を発展させることは容易ではない。より科学性の求められる分野では、広く有能な研究者の参加を得て、効率的、機動的な研究の推進を図るべきである。最先端科学の活用による疾病の予防と健康寿命の延伸、国民の健康上の安心・安全の確保、医薬品・医療機器産業の国際競争力確保等、本制度の役割は今後益々増加するものと考えられる。


D. 産業技術研究助成事業
 −新エネルギー・産業技術総合開発機構(経済産業省)−


 産業技術研究助成事業は、産業技術のシーズ発掘及び産業技術研究人材の育成を図るために、大学、国立研究所、独立行政法人等に属する  35歳以下の研究者もしくは助手、講師、主任研究官といった若手研究者又はそのチームから、研究開発テーマを公募し、ピアレビューによる書面審査及び審査委員会による評価という2段階の外部評価により研究テーマを選定し、研究者個人に助成金を交付する事業である。

 本制度の評価においては、まず、課題採択や資金配分の状況について検討を行った。公募分野は、新たな産業創出に資する産業技術分野として、バイオテクノロジー分野、情報通信技術分野等の6分野と、省エネルギーの推進や石油に代わるエネルギーの利用に資する技術分野として、エネルギー・環境分野がある。助成費は、研究期間が3年間の場合は上限4,000万円で、間接経費として、この直接経費の30%相当額を助成し、優れた研究成果が得られ、かつ発展の見込まれる課題については、更に2年間研究開発期間を延長することが可能である。本補助金の予算額は、配分機関である新エネルギー・技術総合開発機構(NEDO)の予算の2.3%と低いことから、予算額並びに他の制度との関係を検討した。また、本制度が産業技術分野の研究開発の発展を目的としていることから、特許等の取得が重要であり、これを支援する制度・運営が適切に行われているかなどを検討した。これらの結果、以下の1.及び2.に示す結論を得た。

 また、研究成果やその他の効果について検討を行った。本制度は、平成12年に開始した制度であり、採択課題の多くは研究期間が3年になっていることから、成果等の評価を十分に行うことは困難である。しかし、現時点での成果が示されており、それを基に検討して、以下の3.に示す結論を得た。


1.資金額並びに他の制度との関係について

 経済産業省における主な研究開発制度は、(1)技術シーズの発掘、(2)産業技術としての成立性の見極め、(3)実用化・実証支援に大別される。しかし、技術シーズの発掘を担う本制度の予算規模は、経済産業省の科学技術関係経費全体の0.9%、配分機関であるNEDOの予算の2.3%であり、経済産業省で競争的研究資金制度に該当する制度は本制度のみであることから、経済産業省における競争的研究資金のウェートは、他省に比べて低くなっている。このような事情も踏まえて、若手研究者を対象とし、技術シーズの発掘と人材の育成を図るという本制度について、規模の拡大の要否を検討する必要がある。また、産業技術の開発においては、若手研究者に対する支援や個人の自発的創造研究に対する支援だけでは不十分であることが多く、実績のある研究者や企業等の組織的な共同研究開発への支援が不可欠な面もあることから、このような研究を公開性、公平性をもって支援するような競争的な研究資金の導入の必要性について、経済産業省及びNEDOの持つ他の研究開発事業との関係にも留意しつつ、検討する必要がある。


2.制度・運営について

 本制度の成果の1つに特許の取得があるが、その出願費用等は、権利の帰属が研究者個人の場合には研究費の直接経費又は30%の間接経費の中で措置することが可能であり、また、権利が組織に帰属する場合には間接経費で賄うことが可能な仕組みとなっている。

 しかしながら、これまでは特許権の帰属はほとんど個人であり、特許出願経費等について、所属する機関が間接経費から充当せず、また、当該個人がTLOを利用しない場合は、特許を多く出願すればするほど直接経費が少なくなることから、特許の出願を控えたり、また、国内特許だけ取得し国外特許は取得しないといった問題が生じかねないところがあった。また、実際の特許の出願や特許権の維持は、研究開発終了後となる場合があるため、研究費から措置することだけでは不十分であることも考えられる。

 このため、国立大学等の法人化後、特許権が大学等で一元管理される方向であることを踏まえ、本制度も含めて、特許関係経費の適切な支援の在り方について検討すべきである。また、大学等においては、本制度による間接経費等も十分に活用しつつ、研究期間終了後の特許権等の取得・維持や、特許出願・活用の見通し等への助言や支援の体制整備を十分に行うことが望まれる。

 また、各課題の評価については、採択時の2段階の事前評価のほかに、研究開始2年目の中間評価、研究期間終了後の事後評価及び研究期間終了5年後の追跡調査を行うこととしている。終了後のフォローアップは良いアイディアであり、その適切な運営に期待したい。


3.成果等の評価について

 本制度は、平成12年に開始した制度であり、採択課題の多くは、研究期間が3年(期間が2年の課題が一部あり)になっている。したがって、成果等の評価を十分に行うことは困難であり、今回の経済産業省の評価においては、工業所有権の出願状況や外部発表の実績、現時点での成果の具体例を示している。

 本制度の成果等の客観的な指標としては、平成14年度までの3年間に採択した303課題に対して、国外に6件、国内に82件、計88件の特許出願(平成12年度に採択した105課題においては国外4件、国内56件、計60件)を行っている。論文投稿等については、合計300件弱(平成12年度採択課題においては200件弱)となっている。

 成果の具体的事例としては、遺伝コードの拡張による部位特異的変異導入のための新技術、非線形光学結晶(GdYCOB)の多機能化による新型・高性能紫外光源の開発に関する研究、蛍光X線ホログラフィー装置の開発及び電子材料への応用や、天然ウイルス(HcV)を用いたヘテロカプサ赤潮防除技術の開発等において、実用化のめどが立ち、関連企業と共同研究を開始している。

 本制度について、その目的や投入予算に照らして、適切な運営が行われ、今後、成果が得られることを期待する。また、本制度については、平成16年度に外部評価を行うとしているため、その際に、各課題の事後評価結果等を用いて、成果等を含めた適切な制度評価が実施されることを期待する。これらについては、今後の経過を注視していくこととする。


E. 新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業
 −生物系特定産業技術研究推進機構(農林水産省)−


 新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業は、平成8年に創設され、生物の持つさまざまな機能を高度に利用した新技術・新分野を創出するための基礎的・独創的な研究を通じて、農林水産物の高付加価値化や新需要の開拓、農林水産業、食品産業等の生産性の飛躍的向上、地球規模の食料・環境問題の解決等に資することを目的としている。平成14年度の予算は40億円で、農林水産省の科学技術関係経費の約3%を占め、基礎研究分野に重点を置いた競争的研究資金である。

 本制度の評価においては、まず、課題採択や資金配分の状況について検討を行った。本制度は、毎年新規課題として10課題程度を採択し、研究費は年間1億円程度を上限に3〜5年の研究支援を行う、基礎研究としては少数精鋭の比較的大型の研究資金である。まず、本制度は生物機能を活用した新技術・新分野の創出を目的としているが、同じ基礎研究の支援であっても、文部科学省の科学研究費補助金のように、研究者の自由な発想に基づく基礎研究を取り扱う制度とは、異なる役割を担っていなければならない。このような観点から、制度目的が適切に研究課題に反映されているか否か検討した。また、少数精鋭の大型資金であるため、課題が一部機関に不当に偏ることなく採択され、資金が適切に配分されることが特に重要と考えられ、この点から課題採択と資金配分の適切性を検討した。これらの結果、以下の1.及び2.に示す結論を得た。

 また、研究成果等について検討を行った。今回、生物系特定産業技術研究推進機構における制度評価では、自己評価により成果が評価されていたため、この評価結果に基づき、制度の目的や投入予算に照らして成果等が十分に得られているか等を検討し、以下の3.に示す結論を得た。


1.制度目的の明確化について

 課題採択の過程を検討したところ、応募要領で新技術・新分野の創出に向けた具体的な研究課題例を提示して基礎的研究を募集していることに加え、応募の際の研究課題提案書に「農林水産業、食品産業等の産業や社会・経済の発展に対し期待される具体的な波及効果」の記載を求めるとともに、同項目を審査基準に取り入れた課題選考を行う等、制度目的を反映するために、概ね適切な仕組みが取られている。

 一方、実際に課題選考を行う評価者については、担当理事及び研究リーダー(プログラムオフィサー)が各分野の第一線研究者の意見を参考に、外部専門家10名程度からなる選考・評価委員を選考しているが、これらの専門家は大学関係者に集中している傾向が認められる。これは比較的少数の評価者に幅広く深い識見を求める結果として理解されるが、新技術・新分野創出の可能性を見極める「目利き」を的確に行うために、産業的視点等異なる視点を持った評価者を増やしたり、評価データベース等により評価者の評価を行う等、さらに改善することが求められる。

 実際の採択課題においては、過去7年間の103課題中40課題が、いわゆる基礎研究一般に用いられるモデル生物ではなく、イネやウシ等の農作物や産業動物を直接の研究対象としており、制度の趣旨がほぼ適切に踏まえられたものと考えられる。以上のことから、本制度の制度目的は、ほぼ適切に反映されているものと判断される。

 なお、制度の位置付けを踏まえて、課題や目標に一定の方向付けを行うことは必要であるが、研究者の創造性・独創性を尊重するという観点から、政策目的で研究課題や研究手法を過度に規定するといった不適切な行政的介入は望ましくないため、課題採択の過程を透明化するとともに、制度のミッションを明確にして評価することが重要である。


2.課題採択と資金配分の状況について

 課題採択と資金配分の状況としては、制度発足以来7年間に103課題が採択され、1課題当たり年平均7,000万円が配分されている。課題当たりの参加研究機関は平均2.3機関であるが、複数の研究機関が参加するグループ研究は、研究推進上必要な場合に限って認められているともに、申請段階で研究代表者・分担者のエフォート、及び研究実施体制について全研究員の氏名を記載させる等、不要な研究費の分散を排除する仕組みが概ね適切にとられている。採択課題あたりの研究者数はポスドクを含め8.6人、一人当たり約1,000万円の資金配分であり、有能な研究者に相当な額の研究費を配分するという制度の性格が総体としては概ね的確に反映されている。なお、近年5年間の被採択者の平均年齢は、一般型49.7歳、39才以下を対象とした若手型35.9歳であり、いわゆる大御所に偏って採択するという傾向は認められなかった。

 一方、新規課題の採択率が約4〜6%と非常に低いレベルで推移し、特に民間等からの応募では過去7年間に応募158件中採択2件という状況であった。また、採択された課題は、主要農林水産系研究機関や一部の主要大学へ集中している傾向が認められた。このことは、本制度のハードルが非常に高いレベルにあり、結果としてこの分野において有力な研究機関でなければ採択される可能性が非常に低いという状況を示唆している。有望な研究に潤沢な研究費を配分する意義は認められるが、今後採択率を高める必要があると考えられる。また、研究者の自由な発想を試みる基礎研究という性格を踏まえると、より幅広い研究者を対象に、もう少し小型の研究資金を別途用意することも、検討の価値があると考えられる。

 なお、課題選考においては、他制度の助成の有無を確認するとともに、選考した課題についてはプログラムオフィサー等により研究計画をチェックして配分資金を決定し、さらに年度評価や中間評価で資金の使用状況のチェックや資源配分を見直しており、概ね適切な資金配分の運用がなされている。


3.成果等の評価について

 本制度は、これまで選考・評価委員会で制度運営について検討を行い、若手研究者支援型の設置や選考方法の改善等、逐次適切に改善を行っている。一方、今回の制度評価は配分機関による自己評価であるが、今後外部評価により客観性を高めて実施することが重要と考えられる。現在、課題の事後評価において、論文数等の数値指標と制度目的に照らした研究成果の評価を実施しているが、これらの評価結果等も含め、日頃から成果に関する情報を蓄積して、制度評価を行う仕組みを整備することが望まれる。なお、中間評価や事後評価をホームページに掲載するとともに、研究期間終了時に一般公開の成果発表会を実施するなど、国民へ向けた説明は概ね適切に行われている。

 本制度の成果等の客観指標としては、発足以来7年間の累積原著論文数が3,230報(国際誌2,679報)、既に終了した課題における1課題当たり原著論文数は平均53報であった。特許出願は137件(登録22件)、外国出願は10件である。また、事後評価が確定した平成12〜13年度終了課題40課題で29課題が「優れた研究」以上の評価を受けている。研究者育成の観点からは、過去6年間に延べ867名のポスドクに研究の場を提供したことになる。

 成果の具体的事例としては、世界で初めての体細胞クローン牛の作出、世界で初めての絹の繊維化構造の解明、乾燥・塩ストレス耐性を発現させる機能遺伝子群の分離、カンキツ類のガン予防効果の基礎的知見の蓄積等、産業の振興や社会・経済の発展に直接つながる成果が得られている。市場創出が期待される事例としても、抗アレルギー作用のあるお茶や、血糖コントロール作用を持つペプチド含有米などが挙げられる。また、イネの形質発現に関する遺伝子ネットワークの解明など、イネゲノムや昆虫産業創出等のナショナル・プロジェクトの基盤となる成果も得られている。

 本制度はその目的や投入予算に照らして、概ね適切な成果が得られていると判断される。本制度への投入予算は、特殊法人改革における予算の削減等の影響で、平成14年度に大きく縮小しているが、その採択率の低さ等にも鑑みると、少なくとも削減前以上へ投入資金を拡充することが望まれる。


F. 地球環境研究総合推進費
 −環境省−


 地球環境研究総合推進費は、「地球環境問題が人類の生存基盤に深刻かつ重大な影響を及ぼすことに鑑み、さまざまな分野における研究者の総力を結集して学際的、省際的、国際的な観点から総合的に調査研究を推進し、もって地球環境の保全に資する」ことを目的に、平成2年に創設された競争的研究資金制度である。本制度は、地球環境保全に関する調整官庁である環境省において、政府全体の状況を俯瞰した上で予算配分がなされる「調整費」としての機能を有している。

 本制度の評価においては、まず、課題採択や資金配分の状況について検討を行った。平成15年度予算は29.7億円であり、新規採択件数は29件、採択率は23%であった。地球環境に関する研究が多くの府省や研究機関にまたがり実施されている中で、この分野の調整官庁である環境省が、現状で比較的少額の本制度にどのような役割を持たせ、またその役割をどのように効果的に発揮させるべきか等を検討し、以下の1.に示す結論を得た。

 また、研究成果等について検討を行った。環境省は本制度を行政支援研究と位置づけている。このような研究が一般に学術成果として認知され難い傾向がある中で、研究者のインセンティブをどのように高めて成果を充実していくのか、得られた成果をどのように効果的に具体的政策に活用していくのか等を検討した。本制度のこれまでの成果等については、配分機関による評価でさまざまな観点から、各種指標を用いて詳細に検討されており、これをもとに検討した。これらの結果、以下の2.及び3.に示す結論を得た。


1.地球環境研究全体における本制度の役割について

 地球環境に関する研究は、多くの府省や研究機関で実施され、その種類もモニタリング、基礎的研究、対策技術、戦略策定等さまざまである。これらの研究は、毎年度「地球環境保全に関する関係閣僚会議」で決定される「地球環境保全調査研究等総合推進計画」に基づき推進されている。このような中で、本制度は「調整費」として位置づけられているが、温暖化分野など研究規模が大きい分野では、調整という機能を必ずしも十分に発揮しておらず、むしろ、これまでは新しい分野である地球環境研究の全体的な振興や基盤整備の役割を果たしてきたものと考えられる。

 環境に関わる研究は幅広く、環境省がその全ての分野で研究を展開することは、その予算的規模から見ても不可能である。環境省が環境政策を推進するための研究基盤を構築していく中で、本制度についても、「我が国の地球環境研究全体をもれなくカバーする研究テーマが選択され、バランス良く研究が行われるよう目配りし調整し支援する」という、地球環境保全施策における本来の総合的な役割を認識して運営する必要がある。

 また、本制度は、競争的研究資金の位置づけから、研究者の自発的・創造的研究が強調されるとともに、平成13年度以降には、研究代表者の応募資格が国立試験研究機関の研究者から、機関の種別を問わないまでに拡大されてきた。これにより、大学からの採択が、平成13年度の3課題から平成15年度の12課題にまで増加し、研究資金の受け入れ先として大学の占める割合が大幅に増加するとともに、配分先が多様化している。このような急激な変化の中で、本制度が環境政策支援から乖離することのないよう、目的に合致した課題採択と資金配分のあり方について、改めて検討することが望まれる。

 各府省で行われる環境に関わる研究については、緊密な連絡・調整が必要であるが、わが国の環境研究はようやく組織化が始まったところであり、現状では必ずしも十分とは言えない。総合科学技術会議が設置している「環境研究開発推進プロジェクトチーム」と、環境省の調整機能及び本制度によるものを含めた各種研究費の関係を整理することで、より大きな成果を生み出すことが求められる。


2.研究成果の充実と活用について

 政策支援効果の高い研究を一層推進していくためには、研究者の所属する機関において、このようなタイプの研究成果が業績として認知されることが重要である。また、成果の評価においては、政策形成に役立つ研究成果を見極めること、また、実際に政策形成に反映させることが重要である。

 課題当たり年間研究費は5,000万円程度であるが、研究課題当たりの研究参画者数が平成14年度で平均15人と比較的多いため、一人当たり研究費が350万円程度に留まり、決して十分とは言えない状況にある。グループ研究が必要な分野特性は認められるが、適切な研究協力者数については十分な審査が必要である。一方で、直接研究費が実質的に増加しない中では、課題当たり研究費の増加は採択数の減少に直結し、ニーズの増大と多様化に対応できない状況を招く。成果の充実と活用の実を上げるために、研究テーマの選定、研究費の配分、適切なチーム構成数等について、根本的な検討が求められる。

 環境分野の研究は、人類が共有する危急の問題に協調して取り組む対策的側面があり、国際競争よりも国際協調を重視して進める必要が認められる。本制度の大多数の研究課題は、国際共同研究計画(IGBP、WCRP、IHDP等)や地球温暖化に関する日米ハイレベル協議等の国際的な連携の下で実施されている。この結果、グローバル・カーボン・プロジェクトの国際オフィスがわが国に設置されるといった成果も得られ、積極的な国際協力と連携が図られていると判断される。今後、産学官を含む国内的な研究協力体制の強化を図っていくことも求められる。


3.成果等の評価について

 今回の環境省の評価は、研究者へのアンケート・インタビュー、研究分科会委員への意見照会、過去の研究実績や成果等に関する実態調査等の結果に基づき、地球環境研究企画委員会で審議し結論を得ている。成果等については、(1)政策支援、(2)科学技術、(3)社会経済活動の変革及び一般市民の取組みの推進の3つの側面から検討を行い、制度として、(1)については高い評価、(2)については一定の評価、(3)については未だ不十分と結論している。また、制度の運営状況を網羅的に把握し、評価項目毎に問題点と今後の改善方策を明示するとともに、評価報告書を記者発表し、その概要を環境省のホームページに掲載している。これらの評価結果及び開示方法は、概ね適切であると判断される。

 なお、地球環境に関わる行政支援の研究は、短期間では成果を正確に評価できないものが多い。また、発表論文数や引用件数などの一般的評価指標だけでは不十分である。政策形成に役立った研究を研究者社会が納得するような形で評価する手法の開発が必要である。また事後評価をデータベース化して、テーマ設定の妥当性をフォローアップしてゆく必要性も考えられる。

 具体的な研究成果としては、衛星センサーによるオゾン層変動観測手法の確立や世界的気候モデルの開発、温室効果ガスの排出・吸収量の国際的な推計手法の改善や物質循環の分析手法の開発、温暖化による海面上昇の影響、健康への影響の啓発等の事例があげられる。

 現状の投入予算規模では、地球環境政策を科学的側面から支援するための研究を推進する上で、政策ニーズの増大と多様化に対応した、十分な数の採択課題あるいは1課題当たり研究費の確保が出来ていない。我が国の地球環境施策を調整してその成果を高めるとともに、国際研究協力において応分の責任を果たすために、本制度の予算規模の拡充が望まれる。


G. 戦略的情報通信研究開発推進制度
 −総務省−


 戦略的情報通信研究開発推進制度は、平成14年度に創設され、情報通信技術の研究開発力の向上、競争的な研究環境の形成による研究者のレベルアップ、世界をリードする知的財産の創出等を目的とした競争的研究資金である。総務省が設定した3つの重点的戦略目標に沿って、特に重点的に取り組むべき研究領域を取り扱う「特定領域重点型」、若手研究者の人材育成等を行う「研究主体育成型」、世界をリードする国際標準獲得を目指す「国際技術獲得型」が設定され、独創性・新規性に富む研究開発を推進するとともに、新規産業の創出や国際競争力の強化を図ることとされている。

 本制度の評価においては、まず、課題採択や資金配分の状況について検討を行った。平成14年度予算では、総額13.5億円、新規課題採択数及び採択率はそれぞれ45件、12.8%であり、基礎研究から応用、開発研究まで幅広く配分されていた。本制度の対象とする情報通信分野は、技術革新が著しく速く、また同様の研究開発を行い得る制度が他省にも存在することもあり、本制度がどのような位置づけ、戦略の下で運営されているかを検討した。また、世界的競争の激しい本分野の特性に照らして、世界水準の成果を出して競争を勝ち抜いていくために、どのような対応がなされているか等を検討した。この結果、以下の1.及び2.に示す結論を得た。

 また、研究成果やその他の効果について検討を行った。本制度は平成14年度から開始され、現段階では終了した研究開発がないことから、総務省が行った平成14年度の成果に係る評価等をもとに、今後十分な成果が得られるかといった点に着目して検討し、3.に示す結論を得た。


1.本制度の位置づけと戦略的な資金配分について

 情報通信分野の研究開発については、国では総務省及び経済産業省等が関係し、また、総務省及び通信・放送機構(TAO)の中でも各種の資金制度やプロジェクトが実施され、さらに民間が果たしている役割も大きい。

 そのような中で、総務省で運営される本制度は、政策との一体性や機動性を重視しつつ推進することとされ、また、情報通信分野の特色を有する競争的資金とすべく、本分野の幅広い技術や産業界のニーズに基づく技術、応用に近い技術も対象とするなど、大学向けが主体の文部科学省の制度と差別化が図られている。さらに、公募テーマの選定に当たっては、総務省の政策との一体性を確保しつつ、その時点で重点化すべき研究開発分野等を考慮のうえ、プログラムオフィサーが責任を持って原案を作成することとされている。

 一方、平成16年4月発足予定の情報通信研究機構(現 TAO)が行う民間基盤技術研究促進制度は、収益性の見込める研究開発を支援するものであり、製品化やサービスに直結する実用化・実証段階への支援、いわゆるデスバレー対策に対しても活用することとされ、総務省本省の競争的研究資金制度とは明確な性格分けがなされている。

 このように、本制度の位置づけはある程度整理されているが、実際の採択課題の分布を見ると基礎、応用、開発の各段階の研究開発が全体としてまんべんなく採択されており、重点6領域ごとにみると、基礎的な課題が多いものや応用的な課題が多いものに分かれていた。

 このような実態は、ある意味では本省が政策的・機動的に運用するという趣旨に沿ったものとも考えられるが、今後、本制度を運用し、拡充を図っていく中で、国あるいは総務省が果たすべき役割が一層明確化され、制度が有効に機能していくように、プログラムオフィサー等により、国としての戦略性を持った対応がなされる必要がある。


2.優れた成果につながる仕組みについて

 本制度においては、総務省が行っている情報通信研究全般の進展状況のレビューを参考に、各評価委員会が、研究開発が当初の予定通り進捗しているか否か、また、引き続き研究開発を行うことが適当かどうかの確認を、毎年の継続評価又は中間評価で行い、評価の結果を次年度以降の資金配分に反映させることとなっている。

 技術革新が著しく速い情報通信分野において、状況に応じて素早く軌道修正を行うことの出来るこのような仕組みは、国際情勢等に遅れることなく優れた研究成果を出していくためには適切なものと考えられる。ただし、研究開始初年度については、平成14年度のように、研究の開始が9月頃で継続評価が12月からということでは、初年度の研究開発期間が短くなり継続評価の意味が薄くなることから、初年度の採択決定時期を早めることが必要である。

 また、本分野の研究開発は、最終的には実用化によって目的を達成する性格のものである。したがって、どのようなステージの研究開発であれ、研究終了後のフォローアップがきわめて重要である。追跡評価や産業界等のこの分野に精通した者による評価等により、研究開発成果が着実に社会還元され、制度の改善にも資するようにすべきである。特に、「国際技術獲得型」の研究開発については、研究開発のみならず、成果が国際的に受け入れられ、国際標準機関等によって選択されるための努力も重要であり、追跡評価においては、標準化の成否についてその要因の分析も的確に行っていく必要がある。


3.成果等の評価について

 本制度は、平成14年度に開始され、まだ終了課題が出ていない。このため、総務省による評価でも、平成14年度採択課題における継続評価結果を中心に検討がなされている。

 本制度の成果等の客観的指標としては、平成14年度の原著論文数 273報、被引用論文数128件、特許出願は22件、標準化提案数19件等である。若手育成の観点からは、35歳以下を対象とした研究主体育成型研究開発(若手研究者向け)が、11件採択されている。また、今後成果が確実に出されるように、審査体制の整備や毎年の継続評価等の着実な実施が図られている。

 以上から、本制度については、現時点で成果等は十分把握できなかったが、将来の成果を期待し、今後の経過を注視していくこととする。


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