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資料


 精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療制度の整備に関する報告書(案)(目次)


I はじめに

 1  生殖補助医療に関する検討を必要とした背景
 2  生殖補助医療技術に関する専門委員会における基本的事項の検討経緯
 3  生殖補助医療部会における制度整備の具体化のための検討経緯

II 意見集約に当たっての基本的考え方

III 本論

 1  精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療を受けることができる者の条件
 (1)  精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療を受けることができる者共通の条件
 (2)  精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療の施術別の適用条件
   1)  AID(提供された精子による人工授精)
   2)  提供された精子による体外受精
   3)  提供された卵子による体外受精
   4)  提供された胚の移植
   5)  卵子の提供を受けることが困難な場合における胚の移植
   6)  提供された卵子を用いた細胞質置換及び核置換の技術
   7)  代理懐胎(代理母・借り腹)
 (3)  子宮に移植する胚の数の条件

 2  精子・卵子・胚の提供を行うことができる者の条件
 (1)  提供者の年齢及び自己の子どもの有無
 (2)  同一の者からの卵子提供の回数制限、妊娠した子の数の制限
 (3)  提供者の感染症及び遺伝性疾患の検査

 3  提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療の実施の条件
 (1)  精子・卵子・胚の提供の対価
   1)  精子・卵子・胚の提供に対する対価の授受の禁止
   2)  卵子のシェアリングにおける対価の授受等
 (2)  精子・卵子・胚の提供における匿名性
   1)  精子・卵子・胚の提供における匿名性の保持
   2)  精子・卵子・胚の提供における匿名性の保持の特例
 (3)  出自を知る権利
 (4)  近親婚とならないための確認
 (5)  精子・卵子・胚の提供者と提供を受ける者との属性の一致
 (6)  提供された精子・卵子・胚の保存期間、提供者が死亡した場合の精子・卵子・胚の取扱い

 4  インフォームド・コンセント(十分な説明と同意)、カウンセリング
 (1)  十分な説明の実施
   1)  提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療を受ける夫婦に対する十分な説明の実施
   2)  精子・卵子・胚の提供者及びその配偶者に対する十分な説明の実施
 (2)  同意の取得及び撤回
   1)  提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療を受ける夫婦の同意
   2)  提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療を受ける夫婦の同意の撤回
   3)  精子・卵子・胚の提供者及びその配偶者の同意
   4)  精子・卵子・胚の提供者及びその配偶者の同意の撤回
 (3)  カウンセリングの機会の保障
 (4)  子供が生まれた後の相談

 5  実施医療施設及び提供医療施設
 (1)  実施医療施設及び提供医療施設の指定
 (2)  実施医療施設及び提供医療施設の指導監督
 (3)  実施医療施設における倫理委員会

 6  公的管理運営機関の業務
 (1)  情報の管理業務
   1)  同意書の保存
    (1)  提供された精子・ 卵子・胚による生殖補助医療を受けた夫婦の同意書の保存
    (2)  精子・卵子・胚の提供者及びその配偶者の同意書の保存
   2)  同意書の開示請求への対応
   3)  個人情報の保存
    (1)  提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療を受ける夫婦に関・・ する個人情報の保存
    (2)  精子・卵子・胚の提供者に関する個人情報の保存
    (3)  精子・卵子・胚の提供により生まれた子に関する個人情報の保存
   4)  出自を知る権利への対応
   5)  医療実績等の報告の徴収及び統計の作成
 (2)  精子・卵子・胚のコーディネーション業務及びマッチング業務
 (3)  胚提供に係る審査業務

 規制方法

IV 終わりに


別紙1  精子の提供を受けることができる医学的な理由
別紙2  卵子の提供を受けることができる医学的な理由
別紙3  多胎・減数手術について
別紙4  精子・卵子・胚の提供を受ける夫婦に対する説明の内容
別紙5  精子・卵子・胚の提供者に対する説明の内容
別紙6  カウンセリングの内容
別紙7  実施医療施設及び提供医療施設における施設・設備・機器の基準
別紙8  実施医療施設及び提供医療施設における人的要件
別紙9  実施医療施設の倫理委員会における人的要件等


精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療制度の整備に関する報告書(案)

平成15年 月 日
厚生科学審議会生殖補助医療部会


I はじめに

   生殖補助医療に関する検討を必要とした背景

  ○  昭和58年の我が国における最初の体外受精による出生児の報告、平成4年の我が国における最初の顕微授精による出生児の報告をはじめとした近年における生殖補助医療技術の進歩は著しく、不妊症(生殖年齢の男女が子を希望しているにもかかわらず、妊娠が成立しない状態であって、医学的措置を必要とする場合をいう。以下同じ。)のために子を持つことができない人々が子を持てる可能性が拡がってきており、生殖補助医療は着実に広まっている。

  ○  平成11年2月に、厚生科学研究費補助金厚生科学特別研究「生殖補助医療技術に対する医師及び国民の意識に関する研究班」(主任研究者:矢内原巧昭和大学教授、分担研究者:山縣然太朗山梨医科大学助教授)が実施した「生殖補助医療技術についての意識調査」の結果を用いた推計によれば、284,800人が何らかの不妊治療を受けているものと推測されている。

  ○  また、日本産科婦人科学会では、昭和61年3月より、体外受精等の臨床実施について登録報告制を設けているが、同学会の報告によれば、平成11年中のそれらを用いた治療による出生児数は11,929人に達し、これまでに総数で59,520人が誕生したとされている。

  ○  このように、我が国において、生殖補助医療が着実に広まっている一方、近年、以下のような問題点も顕在化してきた。
 これまで、我が国においては、生殖補助医療について法律による規制等はなされておらず、日本産科婦人科学会を中心とした医師の自主規制の下で、人工授精や夫婦の精子・卵子を用いた体外受精等が限定的に行われてきたが、学会所属の医師が学会の会告に反する生殖補助医療を行ったことを明らかにした事例に見られるように、専門家の自主規制として機能してきた学会の会告に違反する者が出てきた。
 夫の同意を得ずに実施されたAID(提供された精子による人工授精)により出生した子について、夫の嫡出否認を認める判決が出されるなど、精子の提供等による生殖補助医療により生まれた子の福祉をめぐる問題が顕在化してきた。
 精子の売買や代理懐胎の斡旋など商業主義的行為が見られるようになってきた。

  ○  このように、我が国においては、生殖補助医療が急速な技術進歩の下、社会に着実に広まっている一方、それを適正に実施するための制度が現状では十分とは言えず、生殖補助医療をめぐり発生する様々な問題に対して適切な対応ができていないため、生殖補助医療を適正に実施するための制度について社会的な合意の形成が必要であるとの認識が広まっている。


   生殖補助医療技術に関する専門委員会における基本的事項の検討経緯

  ○  こうした背景を踏まえ、平成10年10月21日に、厚生科学審議会先端医療技術評価部会の下に、「生殖補助医療技術に関する専門委員会」(以下「専門委員会」という。)が設置され、この問題を幅広く専門的立場から集中的に検討することとされた。

  ○  生殖補助医療のあり方については、医療の問題のみならず、倫理面、法制面での問題も多く含んでいることから、専門委員会においては、医学、看護学、生命倫理学、法学といった幅広い分野の専門家を委員として検討が行われた。

  ○  また、この問題は国民生活にも大きな影響を与えるものであり、広く国民一般の意見を聞くことも求められることから、専門員会においては、宗教関係者、患者、法律関係者、医療関係者等の有識者から5回にわたるヒアリングを行い、また、一般国民等を対象として平成11年2月に行われた「生殖医療技術についての意識調査」の結果も踏まえ、この問題に関する慎重な検討が行われた。

  ○  さらに、生殖補助医療をめぐる諸外国の状況を把握するために、平成11年3月には、イギリス、ドイツ等ヨーロッパにおける生殖補助医療に係る有識者からの事情聴取、平成12年9月には、イギリスにおいて生殖補助医療に係る認可、情報管理等を管轄するHFEA(ヒトの受精及び胚研究に関する認可庁)の責任者との意見交換が行われた。

  ○  なお、生殖補助医療には、夫婦の精子・卵子・胚のみを用いるものと提供された精子・卵子・胚を用いるものがあり、また、人工授精、体外受精、胚の移植、代理懐胎等様々な方法が存在しているところである。AID、提供された精子による体外受精、提供された卵子による体外受精、提供された胚の移植、代理懐胎(代理母、借り腹)といった精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療のあり方については、その実施に当たって、夫婦以外の第三者の精子・卵子・胚を用いることとなることや妻以外の第三者が子を出産することから、親子関係の確定や商業主義等の観点から問題が生じやすいため、専門委員会において、これらを適正に実施するために必要な規制等の制度の整備等を行う観点から検討が行われた。

  ○  専門委員会は、2年2か月、計29回にも及ぶ長期にわたる慎重な検討を行い、平成12年12月に専門委員会としての精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療のあり方についての見解を「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療のあり方についての報告書」(以下「専門委員会報告」という。)としてとりまとめた。

  ○  専門委員会報告は、インフォームド・コンセント、カウンセリング体制の整備、親子関係の確定のための法整備等の必要な制度整備が行われることを条件に、代理懐胎を除く提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療の実施を認めるという内容であったが、同時に、その内容は精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療のあり方の基本的な枠組みについて検討結果を示すにとどまるものであって、その細部については検討しきれていない部分も存在したことから、こうした点について、別途更なる詳細な検討が行われることを希望するものであった。


   生殖補助医療部会における制度整備の具体化ための検討経緯

  ○  精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療のあり方の具体化に関する更なる検討を指摘した専門委員会報告を踏まえ、平成13年6月11日に専門委員会報告の内容に基づく制度整備の具体化のための検討を行うことを目的として厚生科学審議会の下に生殖補助医療部会が設置された。

  ○  専門委員会は、医学(産婦人科)、看護学、生命倫理学、法学の専門家により構成されていたが、本部会においては、小児科、精神科、カウンセリング、児童・社会福祉の専門家や医療関係、不妊患者の団体関係、その他学識経験者も委員として加わり、より幅広い立場から検討を行った。

  ○  審議に当たっては、諸外国における生殖補助医療の状況や生殖補助医療における精神医学、心理カウンセリング、遺伝カウンセリング等も含め、生殖補助医療について有識者から5回にわたるヒアリングを行い、また、一般国民を対象として平成15年1月に行われた「生殖補助医療技術についての意識調査」(主任研究者 山縣然太郎 山梨大学教授)の結果も踏まえ、○年○ヶ月、計○○回にわたり、この問題に対する慎重な検討を行った。

  ○  審議の進め方として、専門委員会においても議事録を公開していたところであるが、本部会においては、より国民に開かれた審議を進めるため、審議も公開で行った。また、国民の意見をインターネットなどを通じて常時募集したほか、平成15年1月には、それまでの議論を中間的にとりまとめた検討結果についても意見を募集し、提出された意見についてはその都度部会で配布し、審議の素材とした。

  ○  本部会においては、専門委員会報告の内容を基にその具体的な制度整備について議論がなされたが、具体化の議論に当たっては、前提となる専門委員会報告の内容自体についても再度検討しており、中には出自を知る権利の内容のように専門委員会報告と異なる結論となった箇所もある。こうした箇所については、結論に至る考え方も含めて本論において説明を行っている。

  ○  なお、精子・卵子・胚の提供等により生まれた子についての民法上の親子関係を規定するための法整備については、平成13年2月16日に法務大臣の諮問機関である法制審議会の下に生殖補助医療関連親子法制部会が設置され、本部会の検討状況を踏まえ、現在、審議が継続されているところである。


II 意見集約に当たっての基本的考え方

  ○  精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療のあり方に関する意見集約に当たっては、様々な価値観の間で個々の検討課題に則した調整が必要となるが、専門委員会においては、以下の考え方を基本的な考え方として検討が行われた。精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療のあり方に関する意見集約に当たっては、様々な価値観の間で個々の検討課題に則した調整が必要となるが、専門委員会においては、以下の考え方を基本的な考え方として検討が行われた。

  ○  本部会においても、様々な立場から議論を行い、検討課題の一つ一つについて慎重な議論を進めたが、検討の前提となる基本的な考え方としては専門委員会において合意された考え方を統一的な認識として踏襲している。

 
 生まれてくる子の福祉を優先する。
 人を専ら生殖の手段として扱ってはならない。
 安全性に十分配慮する。
 優生思想を排除する。
 商業主義を排除する。
 人間の尊厳を守る。


III 本論

  ○  本部会においては精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療制度の整備について慎重な検討を行い、その結果、以下のような結論に達した。

  ○  専門委員会報告で述べられていた部分のうち、本部会での検討のベースになった主要事項については、一部修正された事項を除き、本論で再録しており、再録していない部分についてもその考え方を継承するものである。

   精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療を受けることができる者の条件

 (1)  精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療を受けることができる者共通の条件
 子を欲しながら不妊症のために子を持つことができない法律上の夫婦に限ることとし、自己の精子・卵子を得ることができる場合には精子・卵子の提供を受けることはできない。

 加齢により妊娠できない夫婦は対象とならない。

 生命倫理の観点から、人為的に生命を新たに誕生させる技術である生殖補助医療の利用はむやみに拡大されるべきではなく、生殖補助医療を用いなくても妊娠・出産が可能であるような場合における生殖補助医療の安易な利用は認められるべきではないことから、精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療を受けることができる人を、子を欲しながら不妊症のために子を持つことができない人に限ることとする。

 精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療は、それによらなければ子を持つことができない場合のみに限られるべきであることから、受精及び妊娠可能な自己の精子・卵子を得ることができる場合には、精子・卵子の提供を受けることはできないこととする。

 なお、「自己の精子・卵子を得ることができる」ことの具体的な判定については、医師が専門的見地より行うべきものであることから、医師の裁量とするが、授精及び妊娠する可能性がないと考えられる精子・卵子しか得ることができない場合は、上記の「精子・卵子の提供によらなければ子を持つことができない場合」に当てはまるものと考えられることから、「自己の精子・卵子を得ることができる」とは判断できないものと考えられる。
 こうしたことを含め、実施に当たって医師が考慮すべき基準を国が法律に基づく指針として示すこととし、その具体的な内容は、精子・卵子・胚ごとに設けることとする。

 法律上の夫婦以外の独身者や事実婚のカップルの場合には、生まれてくる子の親の一方が最初から存在しない、生まれてくる子の法的な地位が不安定であるなど生まれてくる子の福祉の観点から問題が生じやすいことから、精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療を受けることができる人を、法律上の夫婦に限ることとしたものである。

 また、加齢により妊娠できない夫婦については、その妊娠できない理由が不妊症によるものでないということのほかに、高齢出産に伴う危険性や子どもの養育の問題などが生じることが考えられるため、精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療の対象とはしないこととする。

 「加齢により妊娠できない」ことの判定については、医師が専門的見地より行うべきものであることから、医師の裁量とする。
 ただし、実施に当たって医師が考慮すべき基準を国が法律に基づく指針として示すこととし、具体的には、自然閉経の平均年齢である50歳ぐらいを目安とすることとし、それを超えて妊娠できない場合には、「加齢により妊娠できない」とみなすこととする。

 (2)  精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療の施術別の適用条件
 精子・卵子・胚の提供により生まれた子については、借り腹の場合を除き、生殖補助医療を受ける夫婦の両方またはいずれか一方の遺伝的要素が受け継がれないことから、親子の遺伝的な繋がりを重視する血縁主義的な立場からは、生殖補助医療を用いてそうした子をもうけることがまず問題とされるところである。

 しかしながら、この点に関しては、我が国の民法においても、嫡出推定制度や認知制度にみられるように必ずしも血縁主義が貫徹されているわけではなく、また、実親子関係とは別に養親子関係も認められている。

 また、我が国において、AIDは昭和24年のそれによる最初の出生児の誕生以来、既に50年以上の実績を有し、これまでに1万人以上のAIDによる出生児が誕生していると言われているが、AIDによる出生児が父親の遺伝的要素を受け継いでいないことによる大きな問題の発生はこれまで報告されていない。

 こうしたことから、親子の遺伝的な繋がりを重視する血縁主義的な考え方は、絶対的な価値観ではなく、それを重視するか否かは専ら個人の判断に委ねられているものと考えられ、また、精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療により生まれてくる子が父母の両方またはいずれか一方の遺伝的要素を受け継がないということのみをもって、当該生殖補助医療が子の福祉に反するとは言えないことから、各々の生殖補助医療そのものの妥当性の判断基準とするのは適当ではないと考えた。

  1)  AID(提供された精子による人工授精)
 精子の提供を受けなければ妊娠できない夫婦のみが、提供された精子による人工授精を受けることができる。

 AIDについては、安全性など6つの基本的考え方に照らして特段問題があるものとは言えないことから、これを容認することとする。

 なお、精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療は、子を欲しながら不妊症のために子を持つことができない夫婦に子を持てるようにする範囲で行われるべきであり、その安易な利用は認められるべきでないことから、AIDを受けることができる人を「精子の提供を受けなければ妊娠できない夫婦のみ」に限定することとする。

 「精子の提供を受けなければ妊娠できない」ことの具体的な判定については、専門的見地より行うべきものであることから、医師の裁量とする。
 ただし、実施に当たって医師が考慮すべき基準を国が法律に基づく指針として示すこととし、その具体的な内容としては、夫に精子提供を受ける医学的理由があり(別紙1「精子の提供を受けることができる医学的な理由」参照)、かつ、妻に明らかな不妊原因がないか、あるいは治療可能である場合であることとする。

  2)  提供された精子による体外受精
 女性に体外受精を受ける医学上の理由があり、かつ精子の提供を受けなければ妊娠できない夫婦に限って、提供された精子による体外受精を受けることができる。

 提供された精子による体外受精については、安全性など6つの基本的考え方に照らして特段問題があるものとは言えないことから、これを容認することとする。

 なお、女性に体外受精を受ける医学上の理由がなければ、体内で受精を行うより安全な技法であるAIDを実施することが適当であり、また、精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療は、子を欲しながら不妊症のために子を持つことができない夫婦に子を持てるようにする範囲で行われるべきであり、その安易な利用は認められるべきでないことから、提供された精子による体外受精を受けることができる人を「女性に体外受精を受ける医学上の理由があり、かつ精子の提供を受けなければ妊娠できない夫婦」に限定することとする。

 「女性に体外受精を受ける医学上の理由がある」こと及び「精子の提供を受けなければ妊娠できない」ことの具体的な判定については、専門的見地より行うべきものであることから、医師の裁量とする。
 ただし、実施に当たって医師が考慮すべき基準を国が法律に基づく指針として示すこととし、その具体的な内容としては、夫に精子提供を受ける医学的理由があり(別紙1「精子の提供を受けることができる医学的な理由」参照)、かつ、妻に卵管性不妊症や免疫性不妊症などの体外受精を受ける医学的理由がある場合か、AIDを相当回数受けたが妊娠に至らなかった場合のいずれかの場合であることとする。

 なお、安全性の観点等により、より自然に近い受精方法が望ましいことから、提供された精子による卵細胞質内精子注入法(ICSI:顕微授精)により体外受精が行われるのは、提供された精子による通常の体外受精・胚移植では妊娠できないと医師によって判断された場合に限ることとする。

  3)  提供された卵子による体外受精
 卵子の提供を受けなければ妊娠できない夫婦に限って、提供された卵子による体外受精を受けることができる。

 提供された卵子による体外受精は、卵子の採取のために、卵子の提供者に対して排卵誘発剤投与、経腟採卵法等の方法による採卵針を用いた卵子の採取等を行う必要があり、提供された卵子による体外受精を希望する当事者以外の第三者である卵子の提供者に対して排卵誘発剤の投与による卵巣過剰刺激症候群等の副作用、採卵の際の卵巣、子宮等の損傷の危険性等の身体的危険性を常に負わせるものである。

 このため、提供された卵子による体外受精は、身体的危険性を負う人が当事者に限られる提供された精子による体外受精とは、提供者に与える危険性という観点から本質的に異なるものである。

 「安全性に十分配慮する」という基本的考え方に照らせば、精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療を行うに当たっては、当該生殖補助医療を行うために精子・卵子・胚の提供等を行う人にいたずらに身体的危険性を負わせてはならず、本部会においても医学的な面から安全性について十分な議論を重ねたところである。

 これらを踏まえ、安全性の原則と卵子の提供者が負う危険性との関係については、第三者が不妊症により子を持つことができない夫婦のためにボランティアとして卵子の提供を行う場合のように、卵子の提供の対価の供与を受けることなく行われるなど、他の基本的考え方に抵触しない範囲内で、卵子の提供者自身が卵子の提供による危険性を正しく認識し、それを許容して行う場合についてまで卵子の提供を一律に禁止するのは適当ではないことから、これを容認する。

 なお、精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療は、子を欲しながら不妊症のために子を持つことができない夫婦に子を持てるようにする範囲で行われるべきであり、その安易な利用は認められるべきでないことから、提供された卵子による体外受精を受けることができる人を「卵子の提供を受けなければ妊娠できない夫婦」に限定することとする。

 「卵子の提供を受けなければ妊娠できない」ことの具体的な基準は、専門的見地から行うべきものであることから、医師の裁量とする。
 ただし、実施に当たって医師が考慮すべき基準を国が法律に基づく指針として示すこととし、その具体的な内容としては、妻に妊娠の継続が可能な子宮があり、かつ、臨床的診断として自己の卵子が存在しない場合や存在しても事実上卵子として機能しない場合などの卵子の提供を受ける医学的な理由がある場合(別紙2「卵子の提供を受けることができる医学的な理由」参照)に限ることとする。

 なお、安全性の観点等により、より自然に近い受精方法が望ましいことから、提供された卵子による卵細胞質内精子注入法(ICSI:顕微授精)により体外受精が行われるのは、提供された卵子による通常の体外受精・胚移植では妊娠できないと医師によって判断された場合に限ることとする。

  4)  提供された胚の移植
 子の福祉のために安定した養育のための環境整備が十分になされることを条件として、胚の提供を受けなければ妊娠できない夫婦に対して、最終的な選択として提供された胚の移植を認める。
 ただし、提供を受けることができる胚は、他の夫婦が自己の胚移植のために得た胚に限ることとし、精子・卵子両方の提供によって得られる胚の移植は認めない。
 なお、個別の事例ごとに、実施医療施設の倫理委員会及び公的管理運営機関の審査会にて実施の適否に関する審査を行う。

 提供された胚の移植については、提供された胚による子は、養育することとなる提供を受ける夫婦の両方の遺伝的要素が受け継がれないことから、親子の遺伝的な繋がりを重視する血縁主義的な立場からは慎重な意見があるところである。

 しかし、III1(2)「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療の施術別の適用条件」にあるように、精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療により生まれてくる子が父母の両方の遺伝的要素を受け継がないということのみをもって、当該生殖補助医療が子の福祉に反するとは言えないと考えられることから、各々の生殖補助医療そのものの妥当性の判断基準とするのは適当ではなく、生まれた子の福祉のために安定した養育のための環境が十分に整備され、子の福祉が担保された場合においては、移植できる胚を他の夫婦が自己の胚移植のために得た胚であって、当該夫婦が使用しないことを決定したものに限定した場合、安全性など6つの基本的考え方に照らして必ずしも問題があるとは言えないことから、こうした胚に限り、胚の移植を容認することとする。(以後、「胚」とは、夫婦が自己の胚移植のために自己の精子・卵子を使用して得た胚でないことが文脈上明らかである場合を除き、「他の夫婦が自己の胚移植のために得た胚であって、当該夫婦が使用しないことを決定したもの」のことを言う。)

 なお、本部会の議論においては、現状において、生まれた子の安定した養育のための環境整備が不十分であるので、当分の間、提供された胚の移植は認めないという意見もあったところである。

 また、専門委員会報告においては、胚の提供が十分に行われないことも考えられることから、胚の提供を受けることが困難な場合に限り、例外として、「精子・卵子両方の提供を受けて得られた胚の移植を認める」とされていた。

 しかし、不妊症のために子を持つことができない夫婦が子を持つためとはいえ、愛情を持った夫婦が子を持つために得た胚ではなく、匿名関係にある男女から提供された精子と卵子によって新たに作成された胚については、夫婦間の胚に比して、生まれてくる子がより悩み苦しみ、アイデンティティの確立が困難となることが予想されるところである。

 さらに、匿名関係にある男女から提供された精子と卵子によって新たに胚を作成することは、生命倫理上問題があるとの意見もあった。

 このため、本部会では、精子・卵子両方の提供によって得られる胚の移植は、認めないこととする。

 なお、精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療は、子を欲しながら不妊症のために子を持つことができない夫婦に子を持てるようにする範囲で行われるべきであり、その安易な利用は認められるべきでないことから、胚の移植を受けることができる人を原則として「胚の提供を受けなければ妊娠できない夫婦」に限定することとする。

 「胚の提供を受けなければ妊娠できない」ことの具体的な判定は、専門的見地より行うべきものであることから、医師の裁量とする。
 ただし、実施に当たって医師が考慮すべき基準を国が法律に基づく指針として示すこととし、その具体的な内容としては、男性に精子の提供を受ける医学上の理由があり(別紙1「精子の提供を受けることができる医学的な理由」参照)参照)、かつ女性に卵子の提供を受ける医学上の理由がある(別紙2「卵子の提供を受けることができる医学的な理由」参照)こととする。

 III5(3)「実施医療施設における倫理委員会」で述べるように、精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療については、個々の症例について実施医療施設の倫理委員会において実施の適否が審査されることとなるが、提供された胚による生殖補助医療については、提供を受ける夫婦のいずれの遺伝的要素も受け継がない子が誕生することとなることから、これに加え、個別の症例ごとに、公的管理運営機関の審査会にて、提供を受ける夫婦が子どもを安定して養育することができるかなどの観点から実施の適否を審査することとした。

  5)  卵子の提供を受けることが困難な場合における胚の移植
 卵子の提供を受けなければ妊娠できない夫婦も、卵子の提供を受けることが困難な場合には、提供された胚の移植を受けることができる。

 凍結卵子による体外受精が技術的に確立しておらず、余剰卵の提供が見込まれない現状においては、提供された卵子の確保が実質的に困難となる事態が十分考えられるところである。

 卵子の提供は、卵子の提供者に新たな身体的危険性を負わせるのに対し、胚の移植は、胚の提供者に新たな身体的危険性を負わせるものではない。

 こうしたことから、卵子の提供を受けることが困難な場合に限り、例外として「卵子の提供を受けなければ妊娠できない夫婦」についても、胚の移植を受けることができることとする。

 なお、この場合も、カウンセリングを十分に行い、インフォームド・コンセントを得ることで対応することとし、さらに、実施医療施設の倫理委員会及び公的管理運営機関の審査会にて実施の適否に関する審査を行うこととする。

  6)  提供された卵子を用いた細胞質置換及び核置換の技術
 提供された卵子と提供を受ける者の卵子の間で細胞質置換や核置換が行われ、その結果得られた卵子は、遺伝子の改変につながる可能性があるので、当分の間、生殖補助医療に用いることは認めない。

 不妊の女性側の原因の一つとしては、卵子の質の低下があるとされているが、卵子の質の低下を改善するために、現在、提供された卵子から細胞質を採取して質が低下した卵子に注入する細胞質置換や、提供された卵子から当該卵子の核を取り出して代わりに質が低下した卵子の核を埋め込む核置換といった方法により、受精しやすい卵子を新しく作る方法が考えられているところである。

 これらの方法は、卵子の質の低下のために不妊となっている夫婦に対して将来的に治療に用いることができる可能性があるものの、遺伝子の改変の可能性が否定できないなど、安全性についての科学的な知見が十分集積していないことから、こうした技術を用いた卵子を用いて生殖補助医療を行うことは当分の間認めないこととする。

 なお、安全性についての科学的知見が十分集積した際には、その安全性や有益性等の観点から十分な検討を行った上で、改めて実施の是非を検討することが妥当と考える。

  7)  代理懐胎(代理母・借り腹)
 代理懐胎(代理母・借り腹)は禁止する。

 代理懐胎には、妻が卵巣と子宮を摘出した等により、妻の卵子が使用できず、かつ妻が妊娠できない場合に、夫の精子を妻以外の第三者の子宮に医学的な方法で注入して妻の代わりに妊娠・出産してもらう代理母(サロゲートマザー)と、夫婦の精子と卵子は使用できるが、子宮摘出等により妻が妊娠できない場合に、夫の精子と妻の卵子を体外受精して得た胚を妻以外の第三者の子宮に入れて、妻の代わりに妊娠・出産してもらう借り腹(ホストマザー)の2種類が存在する。

 両者の共通点は、子を欲する夫婦の妻以外の第三者に妊娠・出産を代わって行わせることにあるが、これは、第三者の人体そのものを妊娠・出産のために利用するものであり、「人を専ら生殖の手段として扱ってはならない」という基本的考え方に反するものである。

 また、生命の危険さえも及ぼす可能性がある妊娠・出産による多大な危険性を、妊娠・出産を代理する第三者に、子が胎内に存在する約10か月もの間、受容させ続ける代理懐胎は、「安全性に十分配慮する」という基本的考え方に照らしても容認できるものではない。

 さらに、代理懐胎を行う人は、精子・卵子・胚の提供者とは異なり、自己の胎内において約10か月もの間、子を育むこととなることから、その子との間で、通常の母親が持つのと同様の母性を育むことが十分考えられるところであり、そうした場合には現に一部の州で代理懐胎を認めているアメリカにおいてそうした実例が見られるように、代理懐胎を依頼した夫婦と代理懐胎を行った人との間で生まれた子を巡る深刻な争いが起こり得ることが想定され、「生まれてくる子の福祉を優先する」という基本的考え方に照らしても望ましいものとは言えない。

 このように、代理懐胎は、人を専ら生殖の手段として扱い、また、第三者に多大な危険性を負わせるものであり、さらには、生まれてくる子の福祉の観点からも望ましいものとは言えないものであることから、これを禁止するべきとの結論に達した。

 なお、代理懐胎を禁止することは幸福追求権を侵害するとの理由や、生まれた子をめぐる争いが発生することは不確実であるとの理由等から反対であるとし、将来、代理懐胎について、再度検討するべきだとする少数意見もあった。

 (3)  子宮に移植する胚の数の条件
 体外受精・胚移植または提供された胚の移植に当たって、1回に子宮に移植する胚の数は、原則として2個とし、移植する胚や子宮の状況によっては医師の裁量によって3個までとする。

 多胎妊娠が母体に与える危険性などを考慮して、体外受精・胚移植または提供された胚の移植に当たって、1回に子宮に移植する胚の数は、原則として2個とし、移植する胚や子宮の状況によっては、3個までとしたものである。(別紙3「多胎・減数手術について」参照)
 その危険性などの判断は専門的見地より行われるべきものであることから、医師の裁量とする。


   精子・卵子・胚の提供を行うことができる者の条件

 (1)  提供者の年齢及び自己の子どもの有無
 精子を提供できる人は、満55歳未満の成人とする。

 卵子を提供できる人は、既に子のいる成人に限り、満35歳未満とする。ただし、自己の体外受精のために採取した卵子の一部を提供する場合には、卵子を提供する人は既に子がいることを要さない。

 加齢と精子の異常の発生率との関係については必ずしも明確にはなっていないが、それを示唆する研究もある。このため、精子の提供者に一定の年齢要件を課すことが必要であり、生殖活動を行う一般的な年齢を考慮しても妥当なものと考えられる満55歳未満を精子の提供者の年齢要件とした。

 卵子を提供できる人については、卵子の採取に伴う排卵誘発剤の投与による副作用、採卵の際の卵巣、子宮等の損傷等により卵子の提供者自身が不妊症となるおそれがないとは言えないため、原則として既に子のいる人に限ることとする。

 ただし、自己の体外受精のために採取した卵子の一部を提供する場合には、卵子の提供者が当該卵子の提供により上記のような身体的危険性を新たに負うものではないことから、卵子の提供者は既に子がいることを要さないこととする。

 また、卵子の提供者が満35歳以上の場合には、卵子の異常等の理由から、妊娠率が低下し、流産率が増えることが予想されること等から、卵子の提供者の年齢要件を満35歳未満とする。

 (2)  同一の者からの卵子提供の回数制限、妊娠した子の数の制限
 同一の人からの採卵の回数は3回までとする。

 同一の人から提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療を受けた人が妊娠した子の数が10人に達した場合には、以後、その者の精子・卵子・胚を当該生殖補助医療に使用してはならない。

 卵子の採取に伴う排卵誘発剤の投与による副作用、採卵の際の卵巣、子宮等の損傷等により卵子の提供者自身が不妊症となるおそれがないとは言えないため、同一の人からの採卵の回数は3回までとする。

 III3(4)の「近親婚とならないための確認」でも述べるとおり、近親婚の発生を防止するため、精子・卵子・胚の提供により生まれた子等は、自らが希望する人と結婚した場合に近親婚とならないことの確認を求めることができることとするが、同一の人からの提供により生まれた子の数が増えれば、近親のカップルが発生する可能性が高くなる。

 近親のカップルが発生する可能性を抑えつつ、生殖補助医療に利用可能な精子・卵子・胚の確保の観点も踏まえ、イギリスの例も参考とし、同一の人から提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療を受けた人が妊娠した子の数が10人に達した場合には、以後、その者の精子・卵子・胚を使用してはならないこととする。

 なお、提供された精子・卵子・胚を使用して第1子が生まれたのち、提供された精子・卵子・胚の残りを第2子以降のために使用することについては、上記の条件に反しない範囲で認めることとする。

 (3)  提供者の感染症及び遺伝性疾患の検査
 提供された精子・卵子・胚の採取、使用に当たっては、当該精子・卵子・胚からのHIV等の感染症に関する十分な検査や遺伝性疾患のチェック等の予防措置が講じられねばならない。

 提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療の実施に当たっては、当該提供された精子・卵子・胚から、提供を受ける母体や生まれる子に対して重大な感染症の危険があることから、そうした事態を未然に防ぐため、提供された精子・卵子・胚を採取、使用するに当たっては十分な検査等の予防措置が講じられねばならない。

 具体的には、精子・卵子・胚の提供者について、現在のAIDにおける一般的な検査に準じた検査、具体的には、血清反応、梅毒、B型肝炎ウィルスS抗原、C型肝炎ウィルス抗体、HIV抗体等についての検査を行うこととする。

 ただし、提供者から精子・卵子・胚を採取した際に当該感染症の検査をして陰性である中には、感染しているものの検査で陽性とならないウィンドウ・ピリオドの期間である可能性があることから、提供者については、精子・卵子・胚の採取時及びウィンドウ・ピリオドが終了した後に上記の感染症についての検査を行い、共に陰性が確認された提供者の精子・卵子(実際には、夫の精子と受精させた胚)・胚だけを使用できることとする。

 また、精子・卵子・胚の提供により生まれる子が重大な遺伝性疾患等に罹患する事態も生じ得ることから、精子・卵子・胚の提供に当たっては、遺伝性疾患に関するチェックを行うこととする。
 具体的には、日本産科婦人科学会の会告「非配偶者間人工授精と精子提供」に関する見解」に準じることとし、提供者が自己の知る限り、2親等以内の家族および自分自身に重篤な遺伝性疾患等がないことについて、チェックを行うこととする。

 上記検査等の結果については、提供者に知らせることとする。


   提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療の実施の条件

 (1)  精子・卵子・胚の提供の対価

  1)  精子・卵子・胚の提供に対する対価の授受の禁止
 精子・卵子・胚の提供に係る一切の金銭等の対価を供与すること及び受領することを禁止する。ただし、精子・卵子・胚の提供に係る実費相当分及び医療費については、この限りでない

 精子・卵子・胚の提供をめぐる商業主義的行為を防止するため、精子・卵子・胚の提供に係る金銭等の一切の対価を提供者に供与すること及び提供者が受領することを禁止することとする。

 ただし、精子・卵子・胚の提供者が精子・卵子・胚の提供のために交通費、通信費等を要する場合や、休業に伴い所得が減少する場合もあることから、精子・卵子・胚の提供に際して必要な実費相当分については提供者に支弁し、提供者が受領しても差し支えないこととする。

 「実費相当分」として認められるものの具体的な範囲は、個々の事例について、実際に提供者が負った負担に応じた額を「実費相当分」として認めることとし、金銭の授受の方法としては、実施医療施設または公的管理運営機関が、提供を受ける者と提供者の間の匿名性を担保できる方法で提供を受ける者から実費相当分の金銭を受け取り、提供者に渡すこととする。

 また、精子・卵子・胚の提供に要する医療費についても、最終的な受益者たる提供を受ける者が全額負担することとし(シェアリングの場合を除く。)、その金銭の授受の方法としては、実施医療施設または公的管理運営機関が提供を受ける者と提供者の間で匿名性を担保できる方法で行うこととする。

  2)  卵子のシェアリングにおける対価の授受等
 他の夫婦が自己の体外受精のために卵子を採取する際、その採卵の周期に要した医療費等の経費の半分以下を負担した上で卵子の一部の提供を受け、当該卵子を用いて体外受精を受けること(卵子のシェアリング)について認める。

 卵子のシェアリングは、提供を受ける者の金額的負担や提供する卵子の数などの諸条件について、提供を受ける者と提供者の間で匿名性を担保できる方法で契約を交わし、その契約のもとに行う。

 精子・卵子・胚の提供に要する医療費を提供を受ける者が負担することと、卵子のシェアリングにおいて卵子の一部の提供を受ける者が提供者の医療費等の経費の一部を負担することとは、本質的に相違はないものと考えられることから、これを容認することとする。

 シェアリングを行うに当たっての提供を受ける者の金額的負担や提供する卵子の数などの諸条件については、一律に基準を定めることは困難なことから、提供を受ける者と提供者の間で匿名性を担保できる方法で契約を交わし、当該契約のもとに行うこととする。

 (2)  精子・卵子・胚の提供における匿名性

  1)  精子・卵子・胚の提供における匿名性の保持
(※)  この場合の匿名とは、精子・卵子・胚の提供者と提供を受ける者との関係のことを示している。
 精子・卵子・胚を提供する場合には匿名とする。

 精子・卵子・胚の提供における匿名性を保持しない場合には、精子・卵子・胚の提供を受ける側が提供者の選別を行う可能性がある。

 また、提供を受けた夫婦と提供者とが顕名の関係になると、両者の家族関係に悪影響を与える等の弊害が予想されるところである。

 こうした弊害の発生を防止するため、精子・卵子・胚を提供する場合には匿名とすることとする。

  2)  精子・卵子・胚の提供における匿名性の保持の特例
 精子・卵子・胚の提供における匿名性の保持の特例として、兄弟姉妹等からの精子・卵子・胚の提供を認めることとするかどうかについては、当分の間、認めない。

 専門委員会報告においては、精子・卵子・胚の提供における匿名性の保持の特例として、「精子・卵子・胚を提供する人が兄弟姉妹等以外に存在しない場合には、当該精子・卵子・胚を提供する人及び当該精子・卵子・胚の提供を受ける人に対して、十分な説明・カウンセリングが行われ、かつ、当該精子・卵子・胚の提供が生まれてくる子の福祉や当該精子・卵子・胚を提供する人に対する心理的な圧力の観点から問題がないこと及び金銭等の対価の供与が行われないことを条件として、兄弟姉妹等からの精子・卵子・胚の提供を認めることとする。」とされていた。

 こうした結論に至った理由として、専門委員会報告では、(1)精子・卵子・胚の提供の対価を受け取ることを禁止することから、提供者がリスクを負うこととなる卵子の提供をはじめとして、精子・卵子・胚を提供する人が兄弟姉妹等以外に存在しない事態が起こることも想定されること、(2)我が国においては、血の繋がりを重視する考え方が根強く存在していることから、精子・卵子・胚を提供する人と提供を受ける人の双方が、兄弟姉妹等から提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療の実施を希望することも考えられること、等の理由から、提供を受ける夫婦及び提供者に対して兄弟姉妹等からの精子・卵子・胚の提供による弊害についての十分な説明・カウンセリングが行われ、そうした弊害について正しく認識し、それを許容して行う場合についてまで一律に禁止するのは適当でないというものであった。
 なお、兄弟姉妹等が精子・卵子・胚を提供した場合の弊害の発生の可能性を理由として、兄弟姉妹等からの精子・卵子・胚の提供は認めるべきではないとの強い意見もあった。

 本部会においても、精子・卵子・胚の提供における匿名性の保持の特例を認めるのか、認めるとすればその特例の範囲をどこまで認めるかといった論点を中心に数回にわたる慎重な検討がされた。

 本部会においては、(1)兄弟姉妹等からの精子・卵子・胚の提供を認めることとすれば、必然的に提供者の匿名性が担保されなくなり、また、遺伝上の親である提供者が、提供を受けた人や提供により生まれた子にとって身近な存在となることから、提供者が兄弟姉妹等ではない場合以上に人間関係が複雑になりやすく子の福祉の観点から適当ではない事態が数多く発生することが考えられること、(2)兄弟姉妹等からの精子・卵子・胚の提供を認めることは、兄弟姉妹等に対する心理的な圧力となり、兄弟姉妹等が精子・卵子・胚の提供を強要されるような弊害の発生も想定されること等から、兄弟姉妹等からの精子・卵子・胚の提供については、当分の間、認めないとする意見が多数を占めた。

 一方、精子・卵子・胚の提供が少なく、提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療の実施を実質的に困難にしかねないことから、匿名での提供がない場合に限って兄弟姉妹等からの提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療を認めるべきだという少数意見もあった。

 以上のことから、兄弟姉妹等からの精子・卵子・胚の提供は、当分の間、認めず、精子・卵子・胚の提供者の匿名性が保持された生殖補助医療が実施されてから一定期間が経過した後に、兄弟姉妹等からの精子・卵子・胚の提供による生殖補助医療の実施の是非について再検討することとする。

 なお、海外の一部の医療施設では、精子・卵子・胚の提供を受けることを希望する者が、自らの兄弟姉妹や友人知人等を提供者として登録することにより、優先的に匿名の第三者から提供を受ける場合があり、こうした提供方法についても、今後、検討され得るものと考える。

 (3)  出自を知る権利
 提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療により生まれた子または自らが当該生殖補助医療により生まれたかもしれないと考えている者であって、15歳以上の者は、精子・卵子・胚の提供者に関する情報のうち、開示を受けたい情報について、氏名、住所等、提供者を特定できる内容を含め、その開示を請求をすることができる。

 開示請求に当たり、公的管理運営機関は開示に関する相談に応ずることとし、開示に関する相談があった場合、公的管理運営機関は予想される開示に伴う影響についての説明を行うとともに、開示に係るカウンセリングの機会が保障されていることを相談者に知らせる。特に、相談者が提供者を特定できる個人情報の開示まで希望した場合は特段の配慮を行う。

 専門委員会報告においては、出自を知る権利について、「提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療により生まれた子は、成人後、当該提供者に関する個人情報のうち、当該提供者を特定することができないものについて、当該提供者がその子に開示することを承認した範囲内で知ることができる。」とされていた。

 こうした結論に至った理由として、専門委員会報告では、提供者の個人情報を知ることは精子・卵子・胚の提供により生まれた子のアイデンティティの確立などのために重要なものではあるが、(1)提供者が開示を希望しない情報についても開示することとすれば、提供者のプライバシーを守ることができなくなること、(2)提供者を特定できる情報を開示することを認めると、生まれた子や提供者の家族関係等に悪影響を与える等の弊害の発生が予想されること、(3)個人情報を広範に開示すると、精子・卵子・胚の提供の減少を招きかねず、提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療の実施を実質的に困難にしかねないこと等を挙げている。

 本部会においては、精子・卵子・胚の提供により生まれた子が知ることができる提供者の個人情報の範囲について、子が希望すれば提供者を特定できる情報を含め開示するのか、あるいは、開示する範囲は提供者が決めることができることとするのかといった論点を中心に数回にわたる慎重な検討がなされた結果、当該生殖補助医療によって生まれた子は提供者を特定できる内容を含め開示請求ができることとするとの結論に至った。

 本部会における結論は専門委員会の結論と異なるものであるが、本部会においては、次のような考え方により、こうした結論に至ったものである。

 自己が提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療により生まれた子であるかについての確認を行い、当該生殖補助医療により生まれた子が、その子に係る精子

 卵子・胚を提供した人に関する個人情報を知ることは、アイデンティティの確立などのために重要なものと考えられるが、子の福祉の観点から考えた場合、このような重要な権利が提供者の意思によって左右され、提供者を特定することができる子とできない子が生まれることは適当ではない。

 生まれた子が開示請求ができる年齢を超え、かつ、開示に伴って起こりうる様々な問題点について十分な説明を受けた上で、それでもなお、提供者を特定できる個人情報を知りたいと望んだ場合、その意思を尊重する必要がある。

 提供は提供者の自由意思によって行われるものであり、提供者が特定されることを望まない者は提供者にならないことができる。

 開示の内容に提供者を特定することができる情報を含めることにより、精子・卵子・胚の提供数が減少するとの意見もあるが、減少するとしても子の福祉の観点からやむを得ない。
 ただし、国民一般への意識調査の結果からは、提供者を特定することができる情報を含めて生まれる子に開示するとしても、一定の提供者が現れることが期待される。

 なお、現在のAIDについては、精子の提供は匿名で行われるのが一般的であり、この出自を知る権利の適用について過去に遡って適用することは、提供の際には予期しなかった事態が起こることとなるため、上記の結論については一定の制度整備がなされた後に実施されるべきものと考える。

 開示請求できる者の条件についてであるが、アイデンティティの確立のためには、自らが精子・卵子・胚の提供により生まれた子であるかどうかを含めて確認することが重要であることから、開示請求ができる者については、自らが提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療によって生まれたとわかっている者に限定せず、自らが当該生殖補助医療によって生まれたかもしれないと考えている者についても対象に含めた。

 開示請求ができる年齢については、自己が精子・卵子・胚の提供により生まれてきたこと及び提供者に関する個人情報を知ることによる影響を十分に理解し、開示請求を行うことについて自ら判断できる年齢であることが必要であるが、アイデンティティクライシスへの対応という観点から思春期から開示を認めることが重要であること、民法における代諾養子や遺言能力については15歳を区切りとしていること等を踏まえ、15歳とした。

 開示請求は、書面により開示範囲を指定して行うこととし、開示は書面により行われることとする。

 本部会においては、上記のように出自を知る権利を認めることとしたが、精子・卵子・胚の提供を受けることを希望する夫婦及び提供を希望する者が、出自を知る権利や予想される開示に伴う影響について、あらかじめ了解した上で提供を受け、あるいは、提供することとしなければ、不測の事態が生ずることになるため、こうした事項についてインフォームド・コンセントを行うこととする。
 また、出自を知る権利については精子・卵子・胚の提供により生まれた子のアイデンティティの確立などのため重要なものであるが、生まれた子が出自を知る権利を行使することができるためには、親が子に対して提供により生まれた子であることを告知することが重要であるので、その旨インフォームド・コンセントを行うこととする。
 なお、実際に出自に関する告知をいつ、どのような形で行うのかは一義的には提供を受けた夫婦の判断に任せられるものであり、このインフォームド・コンセントは当該夫婦に対して出自の告知を一律に強制する趣旨のものではない。

 精子・卵子・胚の提供により生まれた子に対し、提供者に関する個人情報を開示することは、当該子のアイデンティティに関わる重要な問題であり、開示請求があった場合に機械的に開示するという対応では、開示請求者の抱える問題をより複雑化させる場合も生ずると考えられる。
 このため、開示の請求を求めてきた者に対し、公的管理運営機関は開示に関する相談に応ずることとし、公的管理運営機関は予想される開示に伴う影響についての説明を行うとともに、開示に係るカウンセリングの機会が保障されていることを相談者に知らせることとする。特に、相談者が提供者を特定できる個人情報の開示まで希望した場合は、その事案の性質上、特段の配慮がなされる必要があると考える。

 また、開示を求めてきた者やその家族等が開示に際して様々な悩みを持つことが考えられるが、III4(4)で述べるように、これらの者は、児童相談所等に相談できることとされており、児童相談所等は、必要に応じて公的管理運営機関と連携を取りつつ、相談に対応することとなっている。

 なお、出自を知る権利については、精子・卵子・胚の提供により生まれた子が、提供者に関する情報を知るものであるが、提供者については、希望した場合、提供を行った結果子どもが生まれたかどうかだけを、公的管理運営機関から知ることができることとする。これは、匿名性が守られる限り、提供者と提供を受ける夫婦や生まれた子の間に何らかの問題が生じることは想定されないためである。

 (4)  近親婚とならないための確認
 提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療により生まれた子または自らが当該生殖補助医療により生まれたかもしれないと考えている者であって、男性は18歳、女性は16歳以上の者は、自己が結婚を希望する人と結婚した場合に近親婚とならないことの確認を公的管理運営機関に求めることができる。

 確認の請求に当たり、公的管理運営機関は確認に関する相談に応ずることとし、確認に関する相談があった場合、公的管理運営機関は予想される確認に伴う影響についての説明を行うとともに、確認に係るカウンセリングの機会が保障されていることを相談者に知らせる。

 近親婚の発生を防止するため、提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療により生まれた子または自らが当該生殖補助医療により生まれたかもしれないと考えている者は、自己が結婚を希望する人と結婚した場合に近親婚とならないことの確認を公的管理運営機関に求めることができることとする。

 確認の請求は書面により行うこととし、確認の結果は書面により近親婚であるか否かが知らされることとする。

 (5)  精子・卵子・胚の提供者と提供を受ける者との属性の一致
 精子・卵子・胚の提供者と提供を受ける者との属性の一致について、ABO式血液型(A型・B型・O型・AB型)は、提供を受ける者の希望があり、かつ可能であれば、提供者との属性を合わせることが出来る。
 それ以外の属性については、希望があっても属性を合わせることは認めない。

 精子・卵子・胚の提供を受ける者の中には、提供により生まれる子が、外見等、自身の属性と一致しないことを望まず、属性のできるだけ一致した提供者から精子・卵子・胚の提供を望む者がいることが想定される。

 しかし、制限無く外見等の属性の一致について認めることは、生まれてくる子への際限ない希望へとつながる恐れがあるといった指摘がある。

 また、提供された精子・卵子・胚の数が限られたものになることを考えると、その中から多様に存在する属性の希望に応じることは現実的に難しい。

 これらのことを勘案して、例外的に、提供を受ける者の希望があり、かつ可能であれば、ABO式血液型については精子・卵子・胚の提供者と属性を合わせることが出来ることとし、それ以外については、希望があっても属性を合わせることは認めないこととする。

 Rh型血液型に関しては、母児間での不適合の結果、胎児溶血性疾患を惹起するRh不適合型妊娠の可能性があるが、我が国においてはRh(−)型が極めて頻度が低いことより、Rh型血液型の属性を合わせることは難しく、その可能性等についてインフォームド・コンセントを得ることによって対応することとする。

 (6)  提供された精子・卵子・胚の保存期間、提供者が死亡した場合の精子・卵子・胚の取り扱い
 提供された精子・卵子・胚の保存期間について、精子・卵子については2年間とし、胚及び提供された精子・卵子より得られた胚については、10年間とする。
 ただし、精子・卵子・胚の提供者の死亡が確認されたときには、提供された精子・卵子・胚は廃棄する。

 提供された精子・卵子・胚の保存期間について、精子・卵子については2年間とし、胚及び提供された精子・卵子より得られた胚については、10年間とする。

 提供された精子・卵子・胚は、凍結することによって理論的には半永久的に保存することができるものであるが、提供者の死亡後に当該精子・卵子・胚を使用することは、既に死亡している者の精子・卵子・胚により子どもが生まれることとなり、倫理上大きな問題である。

 また、提供者が生存している間は、提供の意思の翻意によって提供の同意を撤回することができるが、死亡した場合は、その後当該提供の意思を撤回することが不可能になるため、提供者の意思を確認できない。

 精子・卵子・胚の提供により生まれた子にとっても、遺伝上の親である提供者が出生時から存在しないことになり、子の福祉という観点からも問題である。

 以上の理由から、提供者の死亡が確認された時には、提供された精子・卵子・胚は廃棄することとする。


   インフォームド・コンセント(十分な説明と同意)、カウンセリング

 (1)  十分な説明の実施

  1)  提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療を受ける夫婦に対する十分な説明の実施
 提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療を行う医療施設(以下「実施医療施設」という。)は、当該生殖補助医療を受ける夫婦が、当該生殖補助医療を受けることを同意する前に、夫婦に対し、当該生殖補助医療に関する十分な説明を行わなければならない。

 提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療を受けることを希望する夫婦は、生まれてくる子の福祉やその子が生まれてくることによる家族関係への影響、生まれてくる子の法的地位、出自を知る権利の問題、提供者の身体的危険性等、当該生殖補助医療に関わる問題点を十分に理解し、それを十分に納得した上で、当該生殖補助医療を受けることを決定すべきである。

 そのためには、当該生殖補助医療を受けることを希望する夫婦が生殖補助医療を受けることを決定する前に、当該生殖補助医療に関する十分な説明を受けることが必要である。

 精子・卵子・胚の提供を受ける者に説明を行う者は、当該生殖補助医療を受けることを希望する者の診療を行う医師であって、生殖に関わる生理学、発生学、遺伝学を含む生殖医学に関する全般的知識を有し、生殖補助医療に関する診療の経験が豊かで、かつ、医療相談、カウンセリングに習熟した医師であることとする。
 また、提供による生殖補助医療に関する説明を行うに当たっては、提供を受ける夫婦の状況に応じて法律、心理等の専門性の高い内容についての説明が必要になってくる可能性があることから、説明に際して必要があれば、他の専門職に説明の補足を依頼することができる体制が整備されるべきである。

 提供を受けることを希望する夫婦は、同一の説明を受けることが望ましいため、原則として同時に揃って説明を受けることとし、また、提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療における説明の重要性に鑑み、説明は施術ごとに行われることとする。

 説明の内容としては、医学的事項や提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療の諸条件及び生まれた子の権利や福祉などの当該生殖補助医療全般にわたるものとする。(別紙4「精子・卵子・胚の提供を受ける夫婦に対する説明の内容」参照)

 説明の方法は、提供を受ける夫婦が説明を受けた後も当該説明について確認できるよう、説明する医師が説明する内容について記載されている文書を配布した上で、それを用いて説明することとする。
 提供を受ける者が再度の説明を求めた場合または担当医師が当該夫婦の理解について不十分であると判断した場合、担当医師または当該医師の指示を受けた他の専門職は、当該提供者に対して繰り返し説明しなければならないこととする。
 提供を受ける夫婦は、説明を受けたあと、記名押印もしくは自署による署名を行うことによって説明を受けた確認を行うこととする。

  2)  精子・卵子・胚の提供者及びその配偶者に対する十分な説明の実施
 実施医療施設に対し、精子・卵子・胚を提供する医療施設(以下「提供医療施設」という。)は、精子・卵子・胚の提供者及びその配偶者が提供に同意する前に、提供者及びその配偶者に対し、提供に関する十分な説明を行わなければならない。

 精子・卵子・胚の提供者及びその配偶者(婚姻の届け出をしていないが事実上夫婦と同様の関係にある者を含む。以下同じ。)は、生まれてくる子の福祉やその子が生まれてくることによる家族関係への影響、生まれてくる子の法的地位、出自を知る権利の問題、提供者の身体的危険性等、当該提供に関わる問題点を十分に理解し、それを十分に納得した上で、提供を決定すべきである。

 そのためには、精子・卵子・胚の提供者及びその配偶者が提供を決定する前に、提供に関する十分な説明を受けることが必要であることから、提供医療施設は、提供者及びその配偶者が提供に同意する前に、提供者及びその配偶者に対し、提供に関する十分な説明を行わなければならない。(提供者に配偶者がいない場合は提供者本人のみに説明するものとする。)

 提供者及びその配偶者に説明を行う者は、生殖に関わる生理学、発生学、遺伝学を含む生殖医学に関する全般的知識を有し、生殖補助医療に関する診療の経験が豊かで、医療相談、カウンセリングに習熟した医師であることとする。
 また、説明を行うに当たっては、提供者及びその配偶者の状況に応じて法律、心理などの専門性の高い説明が必要になってくる可能性があることから、説明に際して必要があれば、他の専門職に説明の補足を依頼することができる体制が整備されるべきである。

 提供者及びその配偶者は、同一の説明を受けることが望ましいため、原則として同時に揃って説明を受けることとする。
 説明は、期間をあけないで実施される場合には1度の説明でよいこととするが、期間があけば提供する意思に変化がある場合が相当程度あることが想定されることから、1年以上の期間をあけて実施される場合には、再度説明する必要があることとする。

 説明の内容としては、医学的事項や提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療の諸条件及び生まれた子の権利や福祉などの、提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療全般にわたるものとする。(別紙5「精子・卵子・胚の提供者に対する説明の内容」参照)

 説明の方法は、提供者及びその配偶者が説明を受けた後も当該説明について確認できるよう、説明する医師が説明する内容について記載されている文書を配布した上で、それを用いて説明することとする。
 提供者及びその配偶者が再度の説明を求めた場合、または担当医師が提供者及びその配偶者の理解について不十分であると判断した場合、担当医師または当該医師の指示を受けた他の専門職は、当該提供者及びその配偶者に対して繰り返し説明しなければならないこととする。
 提供者及びその配偶者は、説明を受けたあと、記名押印もしくは自署による署名を行うことによって説明を受けた確認を行うこととする。

 (2)  同意の取得及び撤回

  1)  提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療を受ける夫婦の同意
 実施医療施設は、提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療の実施の度ごとに、その実施について、夫婦それぞれの書面による同意を得なければならない。

 提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療は、夫婦の一方または両方の遺伝的要素をもたない新たな生命を人為的に誕生させるものであり、また、当事者に身体的危険性を与えることもあり得ることから、夫婦双方の書面による明確な同意に基づいて行われるべきである。

 実施医療施設は、精子・卵子・胚の提供を受ける夫婦の熟慮した上での同意を得ることが望まれるため、当該生殖補助医療について説明を行った後、3ヶ月の熟慮期間をおいた上で、同意を得るものとする。また、施術を繰り返す場合には、同じ施術かどうかにかかわらず、説明を行った後3ヶ月の熟慮期間をおいた上で同意を得るものとする。

 同意に当たっては、実施医療施設は、夫婦が共に同意していることを担保するために、原則として同時に揃って同意を得ることとし、当該同意の内容は、説明する項目と同じであることとする。
 また、同意を得る方法としては、夫婦が各々の項目について同意していることを担保するため、説明した医師の面前で同意する項目について一つずつ確認し、同意書に記名押印もしくは自署による署名を得ることとする。
 さらに、夫婦に対し、パスポート、運転免許証等の本人の顔写真のついているものによる確認等により確実な本人確認を行い、また、戸籍謄本による確認等により法的な夫婦であることの確認を行うこととする。

  2)  提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療を受ける夫婦の同意の撤回
 提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療を受ける夫婦の同意は、同意に係る生殖補助医療の実施前であれば撤回することができる。

 精子・卵子・胚の提供を受ける夫婦が、提供を受けることに係る同意について翻意した場合、当該生殖補助医療の実施前、具体的には胚を子宮に戻す前であれば基本的には当該同意を撤回することができる。

 なお、当該同意の撤回は、提供を受けることに同意した夫婦の双方またはいずれか一方が行えることとし、撤回する方法は、確実な本人確認の上、医師の面前で、同意に関する撤回の意思を表明した文書に記名押印もしくは自署による署名の上、当該文書を実施医療施設を経由して公的管理運営機関に提出することとする。

  3)  精子・卵子・胚の提供者及びその配偶者の同意
 提供医療施設は、精子・卵子・胚の提供者及びその配偶者から、精子・卵子・胚の提供及び生殖補助医療への使用について、書面による同意を得なければならない。

 提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療は、夫婦の一方または両方の遺伝的要素をもたない新たな生命を人為的に誕生させるものであり、また、当事者に身体的危険性を与えることもあり得ることから、提供者及びその配偶者の書面による明確な同意に基づいて行われるべきである。

 提供医療施設は、精子・卵子・胚の提供者の熟慮した上での同意を得ることが望まれるため、当該提供について説明を行った後、3ヶ月の熟慮期間をおいた上で、同意を得るものとする。
 当該提供された精子・卵子・胚が、提供より1年以上の期間をあけて使用される場合には、再度、提供者及びその配偶者から同意を得ることとするが、1年以上の期間をあけないで使用される場合は、最初の同意の取得が有効であることとし、再度の同意を得る必要がないものとする。

 同意に当たっては、提供医療施設は、提供者及びその配偶者が共に同意していることを担保するために、原則として同時に揃って同意を得ることとし、当該同意の内容は、説明する項目と同じであることとする。
 また、同意を得る方法としては、提供者及びその配偶者が各々の項目について同意していることを担保するため、説明した医師の面前で同意する項目について一つずつ確認し、同意書に記名押印もしくは自署による署名を得ることとする。
 さらに、同意をする者または夫婦に対し、パスポート、運転免許証等の本人の顔写真のついているものによる確認等により確実な本人確認を行うこととする。

  4)  精子・卵子・胚の提供者及びその配偶者の同意の撤回
 精子・卵子・胚の提供者及びその配偶者の同意は当該精子・卵子・胚が当該生殖補助医療に使用される前であれば撤回することができる。

 精子・卵子・胚の提供者またはその配偶者が提供に係る同意について翻意した場合、胚の提供の場合では、子宮に戻した後において提供者が同意を撤回することは、提供を受けた女性に対して侵襲的な医療行為を伴う場合が多いこと、また、胚が子宮に着床した後は胚の発育がさらに進むことが考えられ、その胚を同意の撤回により廃棄することは生命倫理上問題があることから、これを認めないこととし、当該同意は、胚を提供を受ける者の子宮に戻す前であればいつでも撤回できることとする。

 一方、精子・卵子の提供の場合では、提供を受ける夫婦の精子・卵子と受精させた時点で、作成された胚の一部は提供を受ける夫婦の精子・卵子のものであることから、精子・卵子の提供における受精以降の同意の撤回は認めないこととし、当該同意は、受精前であればいつでも撤回できることとする。

 なお、当該同意の撤回は、提供に同意した提供者及びその配偶者の双方またはいずれか一方が行えることとし、撤回する方法は、確実な本人確認の上、医師の面前で、提供することの同意に関する撤回の意思を表明した文書に記名押印もしくは自署による署名の上、当該文書を提供医療施設を経由して公的管理運営機関に提出することとする。

 (3)  カウンセリングの機会の保障
 精子・卵子・胚の提供を受ける夫婦、提供者及びその配偶者は、インフォームド・コンセントの際に、(1)専門団体等による認定等を受けた生殖補助医療に関する専門知識を持つ人による中立的な立場からのカウンセリングを当該医療施設またはそれ以外で受けることができるということ、(2)精子・卵子・胚の提供を受ける前、あるいは提供する前に一度はカウンセリングを受けることが望ましいことについて、十分説明されなければならない。
 また、提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療を受ける夫婦、提供者及びその配偶者並びにそれらの者の家族等も、当該生殖補助医療の実施または提供に際して、当該生殖補助医療に関する専門知識を持った人によるカウンセリングを受けることができる。

 担当医師が提供を受ける夫婦や提供者及びその配偶者がカウンセリングを受けることが必要だと判断した場合には、当該夫婦や提供者及びその配偶者は、カウンセリングを受けなければならない。

 提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療を受けることを希望する夫婦や精子・卵子・胚の提供者及びその配偶者が当該生殖補助医療を受けることや精子・卵子・胚を提供することについて相談し、それぞれの状況に応じたより的確な判断を行うことができるようにするためには、実施医療施設や提供医療施設が当該生殖補助医療に関する十分な説明を行うとともに、当該生殖補助医療に関する専門知識を持った人によるカウンセリングを受ける機会が与えられる必要がある。

 このため、提供を受ける夫婦、提供者及びその配偶者は、インフォームド・コンセントの際に、(1)専門団体等による認定等を受けた生殖補助医療に関する専門知識を持つ人による中立的な立場からのカウンセリングを当該医療施設またはそれ以外で受けることができるということ、(2)精子・卵子・胚の提供を受ける前、あるいは提供する前に一度はカウンセリングを受けることが望ましいことについて、十分説明されなければならないこととする。
 担当医師は、提供を受ける夫婦や提供者及びその配偶者からカウンセリングを受けることの希望があった場合、他施設等と綿密な連携を行うことなどにより希望者が適切なカウンセリングを受けられることを担保しなければならないこととする。
 また、担当医師が提供を受ける夫婦や提供者及びその配偶者がカウンセリングを受けることが必要だと判断した場合には、当該夫婦や提供者及びその配偶者は、カウンセリングを受けなければならないこととする。

 カウンセリングを行う者は、不妊治療に関する十分な知識を持ち、精子・卵子・胚の提供を受ける夫婦、提供者及びその配偶者に対して医学、心理、福祉等の観点から十分な支援を行うことができる者とする。

 具体的なカウンセリングの内容としては、生殖補助医療に係る情報提供や、意思決定及び多大なストレスへのサポート、当該生殖補助医療によって引き起こされた諸問題を解決するための援助等とする。(別紙6「カウンセリングの内容」参照)

 提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療が、夫婦の一方または両方の遺伝的要素を持たない子を誕生させるものであることから、提供を受ける夫婦と提供者のみならず、双方の家族に悩みを生じる可能性があることに鑑み、提供を受ける夫婦、提供者及びその配偶者の家族等もカウンセリングを受けることができることとした。

 (4)  子供が生まれた後の相談
 精子・卵子・胚の提供により子供が生まれた後、
 (1)  提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療によって生まれた子
 (2)  精子・卵子・胚の提供を受ける夫婦及びその家族
 (3)  精子・卵子・胚の提供者及びその家族(提供者の子どもを含む)
は、当該生まれた子に関して、児童相談所等に相談することができることとする。
 また、自らが提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療によって生まれたかもしれないと考えている者も、児童相談所等に相談することができる。

 児童相談所等は、必要に応じて、公的管理運営機関等と連携を取る。

 公的管理運営機関や実施医療施設は、生まれた子に関する相談があった場合は、必要に応じて当該相談に応じ、児童相談所等を紹介するなど、当該相談に対する適切な対応を行う。

 国は、生まれた子に関する相談のマニュアルの作成やその周知などを通じて、生まれた子に対する相談が適切に行われるよう努める。

 III4(3)「カウンセリングの機会の保障」で述べたように、提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療の実施に当たっては、提供を受ける夫婦や提供者等のうち、希望する者に対しては、専門知識を持った人によるカウンセリングを受ける機会が与えられるが、一方、精子・卵子・胚の提供により子どもが生まれた後にも、当該生殖補助医療により生まれた子を始めとして、提供を受けた夫婦及びその家族、提供者及びその家族(提供者の子どもを含む)が、生まれた子に関する様々な悩みを持つことがあり得る。
 特に、生まれた子が精子・卵子・胚の提供者の個人情報について開示請求を行う際には、当該者のみならず、その両親である提供を受けた夫婦を始めとする家族も様々な悩みを持つことが想定される。

 児童相談所は、児童に関する各種の相談を幅広く受け付ける機関であり、養子縁組における親子関係等に関する相談についても応じているなど、相当の知識・経験の蓄積があることから、提供により生まれた子に関する様々な悩みに対しても相談に応ずる中核的な機関であると考えられるものである。また、児童相談所以外にも、相談内容によってはその他の公的機関や非営利機関、自助組織などが相談に応じることができるものと考える。

 こうしたことから、精子・卵子・胚の提供により生まれた子を始めとして、提供を受けた夫婦及びその家族、提供者及びその家族(提供者の子どもを含む)は、当該生殖補助医療により生まれた子に関して児童相談所等に相談できることとし、児童相談所等は、必要に応じて公的管理運営機関と連携を取ることとする。
 また、自らが提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療によって生まれたかもしれないと考えている者も様々な悩みを持つことが想定され、児童相談所等に相談することができることとする。

 また、こうした者が、公的管理運営機関や実施医療施設などに相談することも考えられることから、公的管理運営機関や実施医療施設は、生まれた子に関する相談があった場合は、必要に応じて当該相談に応じ、児童相談所等を紹介するなど、当該相談に対する適切な対応を行うこととする。

 国は、生まれた子に関する相談のマニュアルの作成やその周知などを通じて、生まれた子に対する相談が適切に行われるよう努めることとする。


   実施医療施設及び提供医療施設
(※) 「実施医療施設」、「提供医療施設」については、提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療におけるそれぞれの業務に着目して定義したものであり、同一の医療施設が「実施医療施設」であり、「提供医療施設」であることは当然あり得る。

 (1)  実施医療施設及び提供医療施設の指定
 提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療は、厚生労働大臣または地方自治体の長が指定する実施医療施設でなければ実施できない。

 実施医療施設への精子・卵子・胚の提供は、厚生労働大臣または地方自治体の長が指定する提供医療施設でなければできない。

 提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療は、それを受ける夫婦の妻や卵子の提供者に排卵誘発剤の投与による卵巣過剰刺激症候群等の副作用、採卵の際の卵巣、子宮等の損傷の危険性等の身体的危険性を与えるものであること等から、実施医療施設及び提供医療施設は、当該生殖補助医療を的確に行うために必要な一定水準以上の人材、施設・設備・機器を有していることが必要である。

 こうしたことから、提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療の適正な実施を担保するため、当該生殖補助医療は、厚生労働大臣または地方自治体の長が指定する施設でなければ実施できないこととし、これらの施設の指定に当たっては、安全性の担保と技術の向上のために、別紙7「実施医療施設及び提供医療施設における施設・設備・機器の基準」を踏まえて国が定めた基準に合致した施設とし、人的基準としては、実施責任者、実施医師、精子・卵子・胚取扱責任者及び精子・卵子・胚の取扱いに携わる技術者といった、別紙8「実施医療施設及び提供医療施設における人的要件」を踏まえて国が定めた基準に合致した職員を配置するものとする。

 また、実施医療施設は、低出生体重児が出生する場合等、当該生殖補助医療や分娩に関する異常事態に備え、原則として、周産期医療、新生児医療のために必要な一定水準以上の人材、施設・設備・機器を備えることとする。または、そうした事態に十分対応できる施設と綿密な事前協議・連携を行うことにより十分対応ができることを担保しておかなければならないこととする。(別紙7「実施医療施設及び提供医療施設における施設・設備・機器の基準」の3「周産期医療・新生児医療に必要な施設・設備・機器について」及び別紙8「実施医療施設及び提供医療施設における人的要件」の5「その他」参照)

 さらに、実施医療施設及び提供医療施設は、当該生殖補助医療におけるカウンセリングの重要性に鑑み、カウンセリングの実施に適した部屋を設けなければならないこととする。

 (2)  実施医療施設及び提供医療施設の指導監督
 実施医療施設、提供医療施設を指定した者は、提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療の実施について、定期的な報告に加えて、必要に応じて当該医療施設から報告を徴収し、立入検査をすることができる。

 実施医療施設、提供医療施設を指定した者は、提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療が適正かつ的確に行われていることを担保するため、当該生殖補助医療の実施について、定期的な報告に加えて、必要に応じて当該医療施設から報告を徴収し、立入検査をすることができることとする。

 (3)  実施医療施設における倫理委員会
 実施医療施設における実施責任者は、倫理委員会を設置しなければならない。

 倫理委員会は、II「基本的な考え方」に基づき、次に掲げる事項の審議を行う。
 ・  提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療を受けるための医学的理由の妥当性について
 ・  適切な手続の下に精子・卵子・胚が提供されることについて
 ・  夫婦の健康状態、精神的な安定度、経済状況など夫婦が生まれた子どもを安定して養育することができるかどうかについて

 倫理委員会は、提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療の個々の症例について、実施の適否、留意事項、改善事項等の審査を行い、実施医療施設の長及び実施責任者に対し意見を提出するとともに、当該審査の過程の記録を作成し、これを保管する。

 また、倫理委員会は、生殖補助医療の進行状況及び結果について報告を受け、生まれた子に関する実態の把握も含め、必要に応じて調査を行い、その留意事項、改善事項等について実施医療施設の長及び実施責任者に対し意見を提出する。

 提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療は、その内容に鑑み、一定の要件を満たした場合にのみ実施が認められており、実施医療施設の恣意的な判断により実施されることは厳しく制限されなければならない。このため、実施医療施設における実施責任者は、倫理委員会を実施医療施設に設置しなければならないこととする。

 倫理委員会は、提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療の個々の症例について、II「基本的な考え方」に基づき、(1)当該生殖補助医療を受けるための医学的理由の妥当性、(2)適切な手続の下、精子・卵子・胚が提供されるかどうか、(3)夫婦が生まれた子どもを安定して養育することができるかどうか、等についての審査、及び、それらの結果を踏まえた、実施の適否、留意事項、改善事項等の審査を行い、実施医療施設の長及び実施責任者に対して意見を提出するとともに、当該審査の過程の記録を作成し、これを保管することとする。
 また、倫理委員会は、生殖補助医療の進行状況及び結果について報告を受け、生まれた子に関する実態の把握も含め、必要に応じて調査を行い、その留意事項、改善事項等について実施医療施設の長及び実施責任者に対し意見を提出する。

 倫理委員会は、実施医療施設の利益に反する判断をすることがあり得ることから、当該委員会の活動の自由及び独立が保障され、適切な運営が図られるよう、人的要件を含め、適切な運営手続きが定められていることが必要である。(別紙9「実施医療施設の倫理委員会における人的要件等」参照)


   公的管理運営機関の業務

 (1)  情報の管理業務

  1)  同意書の保存

   (1)  提供された精子・ 卵子・胚による生殖補助医療を受けた夫婦の同意書の保存
 実施医療施設は、提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療を受けた人が妊娠していないことを確認できたときを除き、提供を受けた夫婦の同意書を公的管理運営機関に提出しなければならない。

 同意書は、当該提供によって子が生まれた場合、または、子が生まれたかどうか確認できない場合、公的管理運営機関が80年間、実施医療施設が5年間それぞれ保存する。

 提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療を受けた人のうち、妊娠していないことを確認できた人以外の同意書が的確に保存されていなければ、それにより生まれた子の法的地位の安定に支障をきたすおそれがあることから、当該同意書の確実な保存のために、実施医療施設は、当該生殖補助医療を受けた人が妊娠していないことを確認できたときを除き、当該同意書を公的管理運営機関に提出しなければならないこととする。

 同意書については精子・卵子・胚の提供により生まれた子の法的地位の安定のために保存するものであることから、その子が死亡するまで保存しておくことが必要であるが、そうした子すべての死亡時期を確認することは実務上困難なものと考えられるため、平均寿命を踏まえ、公的管理運営機関が80年間保存することとし、実施医療施設においても診療録の保存期間である5年間は保存することとする。

 同意を撤回する文書についても同様の扱いとする。

   (2)  精子・卵子・胚の提供者及びその配偶者の同意書の保存
 提供医療施設は、提供した精子・卵子・胚により生殖補助医療を受けた人が妊娠していないことを確認できたときを除き、提供者及びその配偶者の同意書を公的管理運営機関に提出しなければならない。

 同意書は、当該提供によって子が生まれた場合、または、子が生まれたかどうか確認できない場合、公的管理運営機関が80年間、提供医療施設が5年間それぞれ保存する。

 提供された精子・卵子・胚により生殖補助医療を受けた人が妊娠していないことを確認できたときを除き、提供者及びその配偶者の同意書が的確に保存されていなければ、それにより生まれた子の法的地位の安定に支障をきたすおそれがあることから、同意書の確実な保存のために、提供医療施設は、当該提供により提供を受けた人が妊娠していないことを確認できたときを除き、同意書を公的管理運営機関に提出しなければならないこととする。

 同意書については精子・卵子・胚の提供により生まれた子の法的地位の安定のために保存するものであることから、平均寿命を踏まえ、公的管理運営機関が80年間保存することとし、提供医療施設においても診療録の保存期間である5年間は保存することとする。

 同意を撤回する文書についても同様の扱いとする。

  2)  同意書の開示請求への対応
 親子関係について争いがある場合(調停・訴訟に至っていない場合も含む)、争いとなっている親子関係について同意書に署名する立場にある者、親子関係の争いの当事者となっている子、その他これに準じる者は、公的管理運営機関に対し、同機関が保存している同意書について、同意書の有無、同意書がある場合は同意書の開示を請求することができる。

 専門委員会報告においては、親子関係について、「妻が提供された精子・胚による生殖補助医療により妊娠・出産した場合は、その夫の同意が推定される」ことを法律に明記するとされている。
 提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療によって出生した子についての親子関係を規律するための法整備については、法制審議会生殖補助医療関連親子法制部会において審議が進められているところであるが、同部会の審議に当たり、同意書の開示の有無、その条件等が、父子関係の決定の要素である夫の同意に係る議論に影響を与えることとなることから、同意書の開示の有無、その条件等について大枠の議論を行った。

 当該生殖補助医療に係る親子関係の争いの具体例としては、精子の提供を受けた夫が精子の提供により生まれた子との間に血縁関係がないため、父子関係の否定を主張する嫡出否認訴訟などが想定されるが、こうした争いがある場合に同意書は親子関係を確定する重要な証拠となる。

 調停や訴訟となった場合は、裁判所から文書の所持者に対し、その提出を求め(文書送付の嘱託)、また、命ずる(文書提出命令)ことができるが、調停や訴訟に至る前に、当事者が同意書の有無を確認し、同意書を公的管理運営機関から入手できるようにすることは、調停や訴訟に至る前に争いが解決することや調停や訴訟となった場合でもその準備が円滑に進むことが期待される。

 このため、親子関係について争いがある場合は、調停や訴訟に至っていない場合でも、争いとなっている親子関係について同意書に署名する立場にある者、親子関係の争いの当事者となっている子、その他これに準じる者は、公的管理運営機関に対して、同意書の開示請求をすることができることとした。

 なお、本事項については、生殖補助医療関連親子法制部会における議論の前提として同意書の開示について一定の整理をしておくことが要請されたため検討を行ったものであり、紛争解決手続きの実務とも関連性が強く、加えて、本事項は同意書という出自に関わる重要な個人情報の開示に関わる問題であることから、制度の運用が開始されるまでにその適正な実施について別途精査される必要があると考える。

 同意を撤回する文書についても同意書の開示請求と同様の対応をすることとする。

  3)  個人情報の保存

   (1)  提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療を受ける夫婦に関する個人情報の保存
 提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療を受けた人が妊娠していないことを確認できたときを除き、実施医療施設は、提供を受ける夫婦に係る以下の個人情報を公的管理運営機関に提出しなければならない。
 (1)  精子・卵子・胚の提供が行われた後も当該提供を受ける者と確実に連絡を取ることができるための情報、具体的には、氏名、住所、電話番号等についての情報
 (2)  精子・卵子・胚の提供を受ける者に関する医学的情報、具体的には、不妊検査の結果や使用した薬剤、子宮に戻した胚の数及び形態 など

 公的管理運営機関は、提出された個人情報を保存する。当該提供によって子が生まれた場合、または、子が生まれたかどうか確認できない場合、上記情報の保存期間は80年とする。

 提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療に係る事後調査や当該生殖補助医療に関する有効性(成功率)や安全性の検討等を行うため、公的管理運営機関は精子・卵子・胚の提供を受ける夫婦について連絡を取ることができるための情報や医学的情報を持つこととする。

 このため、当該生殖補助医療を受けた人が妊娠していないことを確認できたときを除き、実施医療施設は、提供を受ける夫婦の個人情報を公的管理運営機関に提出しなければならないこととした。

 上記情報の保存期間は平均寿命を踏まえ80年とした。

   (2)  精子・卵子・胚の提供者に関する個人情報の保存
 提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療を受けた人が妊娠していないことを確認できたときを除き、提供医療施設は、提供者に係る以下の個人情報を公的管理運営機関に提出しなければならない。
 (1)  精子・卵子・胚の提供が行われた後も当該提供者と確実に連絡を取ることができるための情報、具体的には、氏名、住所、電話番号等についての情報
 (2)  精子・卵子・胚の提供により生まれる子が出自を知る権利を行使するための情報
 (3)  精子・卵子・胚の提供者に関する医学的な情報、具体的には、血液型、精子・卵子・胚に関する数・形態及び機能等の検査結果、感染症の検査結果、遺伝性疾患のチェック(問診)の結果 など

 公的管理運営機関は、提出された個人情報を保存する。当該提供によって子が生まれた場合、または、子が生まれたかどうか確認できない場合、上記情報の保存期間は80年とする。

 III3(3)「出自を知る権利」で述べたように、提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療により生まれた子等は、提供者に関し、氏名、住所等、当該者を特定できる内容を含め、知りたい情報について開示請求ができることとなる。

 また、医学的な条件が合致していたかなど、当該生殖補助医療が適切に行われていたことを確認するため、また、ABO式血液型を合わせることができるようにするため、あるいは、当該生殖補助医療に関して、有効性(成功率)や安全性などを検討するため、公的管理運営機関は提供者について連絡を取ることができるための情報や医学的情報等を持つこととする。

 こうしたことに対応するため、当該生殖補助医療を受けた人が妊娠していないことを確認できたときを除き、提供医療施設は、提供者の個人情報を公的管理運営機関に提出しなければならないこととする。

 上記情報の保存期間は平均寿命を踏まえ80年とした。

   (3)  精子・卵子・胚の提供により生まれた子に関する個人情報の保存
 実施医療施設は、精子・卵子・胚の提供により生まれた子の個人情報を公的管理運営機関に提出しなければならない。

 公的管理運営機関が保存する精子・卵子・胚の提供により生まれた子に関する情報は、以下のようなものとする。
 (1)  精子・卵子・胚の提供により生まれた子を同定できる情報
 (2)  生まれた子が将来近親婚を防ぐことができるよう、当該子の遺伝上の親(提供者)を同定できる情報
 (3)  生まれた子に関する医学的情報、具体的には、出生時体重や、遺伝性疾患の有無、出生直後の健康状態、その後の発育状況 など

 上記情報の保存期間は80年とする。

 提供された精子・卵子・胚により生まれた子に関し、出自を知る権利に関する情報や近親婚を防ぐための情報を開示するため、また、当該生殖補助医療の有効性(成功率)や安全性などを検討するため、当該生殖補助医療により生まれてきた子を同定できる情報や当該子の遺伝上の親(提供者)を同定できる情報、生まれた子に関する医学的情報について公的管理運営機関が保存することとする。

 上記情報の保存期間は平均寿命を踏まえ80年とした。

 なお、生まれた子の発育状況に関する情報については、提供を受けた夫婦及び生まれた子の同意を得た上で得ることとする。

  4)  出自を知る権利への対応
 出自を知る権利に関し、公的管理運営機関は開示に関する相談に応ずることとし、開示に関する相談があった場合、公的管理運営機関は予想される開示に伴う影響についての説明を行うとともに、開示に係るカウンセリングの機会が保障されていることを相談者に知らせる。特に、相談者が提供者を特定できる個人情報の開示まで希望した場合は特段の配慮を行う。

 精子・卵子・胚の提供により生まれた子に対し、提供者に関する個人情報を開示することは、当該子のアイデンティティに関わる重要な問題であり、開示請求があった場合に機械的に開示するという対応では、開示請求者の抱える問題をより複雑化させる場合も生ずると考えられる。
 このため、開示の請求を求めてきた者に対し、公的管理運営機関は開示に関する相談に応ずることとし、公的管理運営機関は予想される開示に伴う影響についての説明を行うとともに、開示に係るカウンセリングの機会が保障されていることを相談者に知らせることとしたものである。特に、相談者が提供者を特定できる個人情報の開示まで希望した場合は、その事案の性質上、特段の配慮がなされる必要があると考える。

  5)  医療実績等の報告の徴収及び統計の作成
 公的管理運営機関は、すべての実施医療施設及び提供医療施設からの提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療に関する医療実績等の報告の徴収や徴収した報告の確認、当該報告に基づく統計の作成等の当該生殖補助医療の実施に関する管理運営の業務を行う。

 提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療の適正な実施を確保していくために、公的管理運営機関は、医療実績等の報告の徴収や徴収した報告の確認、当該報告に基づく統計の作成等の当該生殖補助医療の実施に関する管理運営の業務を行う。

 なお、徴収した報告に基づく統計の作成等に当たっては、個人情報保護の観点から、匿名化などの個人の同定ができないような処置が十分に講じられることとする。

 (2)  精子・卵子・胚のコーディネーション業務及びマッチング業務
「コーディネーション業務」とは、提供された精子・卵子・胚を適切に希望する人に配分するための調整業務全般を指し、「マッチング業務」とは、提供された精子・卵子・胚を、希望する人のうち誰に与えるのかについて決定する業務そのものを指す。
「コーディネーション業務」の一つとして、「マッチング業務」がある。
 公的管理運営機関は提供医療施設及び実施医療施設からの登録により、精子・卵子・胚の提供数と希望数を把握する。

 精子・卵子・胚の提供数が希望数よりも多い場合は、原則として、精子・卵子・胚の提供医療施設と実施医療施設が情報交換を行うことにより、必要な精子・卵子・胚を確保することとし、公的管理運営機関はマッチング業務を行わない。

 精子・卵子・胚の提供数が希望数よりも少ない場合は、精子・卵子・胚の提供者から提供についての登録があった場合、公的管理運営機関は登録された情報を元にマッチングを行う。

 マッチングの結果、優先順位が最も高い夫婦は実施医療施設の倫理委員会の審査(胚提供を受ける場合はさらに公的管理運営機関の審査会の審査)を経て、提供を受ける。

 提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療の実施に当たり、精子・卵子・胚の提供数が希望数よりも下回る場合があることも考えられる。こうした場合において、公平な観点から精子・卵子・胚の配分を行うために公的管理運営機関が、提供された精子・卵子・胚の配分を行うこととする。

 公的管理運営機関が提供された精子・卵子・胚の配分を行うことが必要となるのは、精子・卵子・胚の提供数が希望数よりも少ない場合であるが、提供数と希望数については次のような方法で把握することとする。
(1) 提供の把握
 提供医療施設は、精子・胚が提供される場合は、精子・胚の提供及び感染症の検査を実施した後、速やかに、定められたフォーマットにより、公的管理運営機関に登録を行う。
 卵子が提供される場合は、卵子の提供者から提供についての同意を得た後、速やかに、定められたフォーマットにより、公的管理運営機関に登録を行う。
(2) 希望数の把握
 実施医療施設は、提供を受けることを希望する夫婦から提供を受けることについての同意を得た後、速やかに、定められたフォーマットにより、公的管理運営機関に登録を行う。

 上記の方法により精子・卵子・胚の提供数と希望数を把握した結果、
(1) 精子・卵子・胚について提供数≧希望数の場合、
 原則として、提供医療施設と実施医療施設が情報交換を行うことにより、必要な精子・卵子・胚を確保することとし、公的管理運営機関はマッチング業務を行わない。
(2) 精子・卵子・胚について提供数<希望数の場合握
 実施医療施設は、精子・卵子・胚の提供を受けることについて同意した夫婦に関して必要な情報を公的管理運営機関に登録しておく。
 精子・卵子・胚の提供についての登録があった場合、公的管理運営機関は登録された情報を元にマッチングを行う。
 マッチングをする際には、提供を受ける夫婦の子の有無や待機期間等をもとに評価を行い、提供を受けることができる優先順位を決める。
 マッチングの結果、優先順位が最も高い夫婦は実施医療施設の倫理委員会の審査(胚提供を受ける場合はさらに公的管理運営機関の審査会の審査)を経て、提供を受ける。
 提供された精子・卵子・胚を提供医療施設から実施医療施設に移管する場合には、実施医療施設の職員が提供医療施設に赴き、移管する精子・卵子(実際は夫の精子と受精させた受精卵)・胚を携行して実施医療施設に運搬することによって移管することとする。
 移管する際には、提供者に関する個人情報のうち、実施医療施設が必要となる医学情報等を匿名化した上で、携行することとする。

 (3)  胚提供に係る審査業務
 公的管理運営機関の審査会は、胚の提供が行われる場合、II「基本的な考え方」に基づき、次に掲げる事項を審査する。
 ・  提供された胚による生殖補助医療を受けるための医学的理由の妥当性について
 ・  適切な手続の下に胚が提供されることについて
 ・  夫婦の健康状態、精神的な安定度、経済状況など夫婦が生まれた子どもを安定して養育することができるかどうかについて

 III5(3)「実施医療施設における倫理委員会」で述べたように、提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療については、個々の症例について実施医療施設の倫理委員会において実施の適否が審査されることとなるが、提供された胚による生殖補助医療については、提供を受ける夫婦のいずれの遺伝的要素も受け継がない子が誕生することとなることから、より慎重な審査を行うため、個別の事例ごとに、公的管理運営機関の審査会にて、II「基本的な考え方」に基づき、提供を受ける夫婦が子どもを安定して養育することができるかなどの観点から実施の適否を審査することとした。

 胚の提供の適否を決める審査会の人的要件に関する基準は、以下のようなものとする。
 生殖補助医療の医学的妥当性、倫理的妥当性及び提供された精子・卵子・胚により生まれる子の福祉について等を総合的に審査できるよう、医学、法律学及び児童福祉に関する専門家、カウンセリングを行う者、生命倫理に関する意見を述べるにふさわしい識見を有する者並びに一般の国民の立場で意見を述べられる者から構成されていること。
 審査会は10名程度で構成され、そのうち30%以上の女性が含まれていること。


   規制方法
 以下のものについては、罰則を伴う法律によって規制する。
 ・  営利目的での精子・卵子・胚の授受・授受の斡旋
 ・  代理懐胎のための施術・施術の斡旋
 ・  提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療に関する職務上知り得た人の秘密を正当な理由なく漏洩すること

 III1「提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療を受けることができる者の条件」からIII4「インフォームド・コンセント(十分な説明と同意)、カウンセリング」において述べた結論については、上記のものを除き、罰則を伴う法律によって規制せず、法律に基づく指針等規制の実効性を担保できる他の態様によって規制する。

 本報告書の結論の実効性を担保するための規制の態様については、学会の自主的な指針による規制、法律に基づく指針による規制、実施医療施設及び提供医療施設の指定及びこれらの施設に対する指導監督、罰則を伴う法律による規制等様々な態様が考えられるところであるが、「生命、自由及び幸福の追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」(憲法第13条)こととされており、国民に対して法律に基づく規制をすることは慎重な検討を必要とするものであり、その中でも特に、身体の自由の制限または財産権の侵害を内容とする最も重い規制の態様である罰則を伴う法律によって規制することは、特に慎重とならなければならない。

 こうした規制のあり方に関する基本的な考え方は、精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療に関する規制についても当てはまるものと言え、当該生殖補助医療に関する規制の態様については、国民の幸福追求権と公共の福祉の観点との均衡を勘案し、それが過度なものとならないよう留意する必要がある。

 また、生殖補助医療は、先端医療技術であり、現在においても急速な技術進歩が継続している分野であることから、本専門委員会における結論のうち、急速な技術進歩に法律の規定を合わせていくことが困難と考えられる範囲のものについては、法律による規制になじむものとは言えず、規制を現実に柔軟に対応させるため、規制の実効性を担保できる他の態様の規制が検討されるべきである。

 これらの観点を総合的に勘案して、精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療に関する規制の態様は、規制が過度なものとならないよう、また、規制が現実に柔軟に対応できるよう、規制の実効性が担保できる範囲内の必要最低限のものとすることが適当である。

 最も重い規制の態様である罰則を伴う法律によって規制する範囲については他の法律における罰則との均衡をも鑑み、立法過程において更なる慎重な検討が行われることが必要と考えるが、こうした観点から、以下の理由により以下のものについては、罰則を伴う法律によって規制することが適当である。

 営利目的での精子・卵子・胚の授受・授受の斡旋及び代理懐胎のための施術の斡旋は、「商業主義を排除する」及び「優生思想を排除する」という基本的考え方に著しく反し、なおかつ、医師以外の人々によっても行われる可能性が高いことから、実効性を担保するために罰則が必要であること

 代理懐胎のための施術は、「生まれてくる子の福祉を優先する」、「人を専ら生殖の手段として扱ってはならない」及び「安全性に十分配慮する」という基本的考え方に著しく反すること

 生殖補助医療は特に人のプライバシーを重視しなければならないという観点から、提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療に関する職務上知り得た人の秘密を正当な理由なく漏洩することは、「生まれてくる子の福祉を優先する」という基本的考え方に反し、また、医師以外の者も罰する必要があること

 なお、医事に関し犯罪または不正の行為があった医師については、医師法に基づく免許の取消しがあるなど、医療の適切な実施について、現行においても規制があるところであり、代理懐胎のための施術を行った医師に対して別途罰則規定を設ける必要があるかどうかについては、これらの規制との関係にも留意する必要がある。

 また、上記により罰則を伴う法律によって規制するものを除き、III1「提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療を受けることができる者の条件」からIII4「インフォームド・コンセント(十分な説明と同意)、カウンセリング」において述べた結論については、国民の幸福追求権と公共の福祉の観点を勘案し、また、規制の実効性を担保しつつ、規制の現実に対する柔軟性を確保する観点から、罰則を伴う法律によって規制することは適当ではなく、法律に基づく指針等規制の実効性を担保できる他の態様によって規制することが適当である。


IV 終わりに

  ○  以上、精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療のあり方の具体化について、○○回にわたり、慎重な検討を経て取りまとめられた本部会の検討結果を報告した。

  ○  本報告書の冒頭で述べたように、生殖補助医療が社会に着実に広まっている一方、生殖補助医療をめぐり様々な問題が発生している。
 本部会における検討を開始した後も、日本産科婦人科学会の会告に違反する生殖補助医療を実施したため、学会から除名された医師が、学会の会告では認められていない生殖補助医療を引き続き実施するといった事例が見られており、本部会としても、学会の会告に一定の限界があることは認めざるを得ず、精子の売買や代理懐胎の斡旋など商業主義的な行為への規制を含め、精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療の適正な実施のためには新たな制度が必要との認識に至った。

  ○  すでに専門委員会報告において、精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療について法整備を含めた制度整備の必要性が指摘されていたところであるが、本部会としても、こうした状況を踏まえ、精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療の適正な実施のためには、法整備を含めた制度整備が必要との結論に至った。

  ○  本報告書は、生殖補助医療をめぐる様々な状況を総合的に勘案し、一定の条件のもとに、提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療を一定の範囲で容認することとするが、当該生殖補助医療が、特に生まれてきた子の福祉に直結する問題であることを踏まえ、本報告書における結論を実施するために必要な制度の整備が早急に行われることを求めるものである。

  ○  なお、本部会において容認することとされた各生殖補助医療といえども、こうした必要な制度の整備が行われるまでは、匿名性を担保できる者から提供された精子による人工授精以外は実施されるべきではなく、こうした人工授精についても、その適用が可能な範囲内で本報告書における結論にそった適切な対応がなされることを望むものである。

  ○  また、本部会としては、生殖補助医療をめぐる様々な状況を総合的に勘案し、現時点における結論をまとめたものであるが、必要な制度が整備され、提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療の実施が開始されてから一定期間経過後に、その実施状況やその時点における国民世論等を勘案しつつ、精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療のあり方について必要な見直しが行われるべきと考える。

  ○  専門委員会及び本部会においては、親子関係の確定や商業主義等の観点から、その実施に当たって特に問題が生じやすい精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療について検討を行い、その検討結果を取りまとめたところであるが、本報告書における結論の中には、生殖補助医療一般に関しても適用できるものが存在することから、他の形態の生殖補助医療についても、その適用が可能な範囲内で本報告書における結論にそった適切な対応がなされることが望まれる。


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