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ポリオ根絶等委員会報告書

資料



資料1 ポリオワクチンの特性

不活化ワクチン(IPV) 経口生ワクチン(OPV)
○血中抗体できる ○血中抗体できる
×腸管免疫生じない ○腸管免疫できる
×腸管でのウイルス増殖を抑えない ○腸管でのウイルス増殖を抑える
×血中抗体価の低下早い
  →ブースター接種必要
○免疫は終生免疫
×皮下注射による接種 ○経口接種のため簡易
  ただし、
○他の不活化ワクチンと一緒に使える
  →混合ワクチンの製造が可能
 
×高価 ○安価
○免疫不全者にも使える ×免疫不全者には使えない
○ウイルス排出しない ×便中にウイルスを排出する
  ワクチン由来株による2次感染を引きおこす可能性がある。

参考文献

 

新しい予防接種
(神谷 齊編、日本小児医事出版社)

新・予防接種のすべて
(堺春美編著、診断と治療社)

予防接種の手引き
(木村三生夫、平山宗宏、堺春美編、近代出版)

予防接種ハンドブック
(厚生労働省エイズ結核感染症課監修、日本医事新報社)

新予防接種法による予防接種
(平山宗宏、水原春郎、日本小児保健協会)



資料2−1 我が国のポリオ制圧の歩み

資料2−1 我が国のポリオ制圧の歩み

出典:厚生省 『伝染病統計』による。



資料2−2 生ポリオワクチンの副反応

生ポリオワクチンの副反応 (1970-2001)
地域 年令 性別 ワクチン 材料
1970 岩手 2Y1M F   P2 糞便
東京 7M M 有 (1)   P3 糞便
北海道 11M F 有 (1)   P2 糞便
1971 福岡 31Y M   P2 糞便
1972 愛知 1Y3M M 有 (1)   P2+P3 糞便
北海道 9M M   P2 糞便
1973 富山 8M M 有 (1)   P2 糞便
北海道 5M M   P2 糞便
北海道 3Y3M M   P2 糞便1)
群馬 1Y6M M   P3 糞便2)
広島 7M M 有 (1)   P2 糞便
1974 山梨 3Y11M M   P2 糞便2)
神奈川 1Y2M M   P2 糞便2)
1975 福岡 10M M 有 (1)   P1+P2+P3 糞便
1977 神奈川 1Y3M M 有 (1)   P2 糞便
北海道 2Y10M M 3) 有 (2)   P2 糞便
1978 福岡 10M M 有 (1)   P2+P3 糞便
1979 広島 1Y2M F 免 有 (2)   P2 糞便1)
1980 大阪 8Y8M F   P2 糞便
熊本 5M M   P2+P3 糞便
長崎 8M M 有 (1)   P2+P3 糞便
1981 愛知 8M M 有 (1)   P2 糞便
富山 9M M 有 (1)   P2+P3 糞便
1983 北海道 1Y1M M 有 (1)   P2 糞便
1985 東京 5M M   P2 糞便
1986 福岡 10M M 有 (1)   P3 糞便
1991 大阪 9M M 有 (1)   P2+P3 糞便
1992 福岡 8M M 有 (1)   P3 糞便
神奈川 4M M 有 (1)   P3 糞便
1993 福岡 19Y M   P3 糞便
大分 9M M   P2 糞便1)
北海道 1Y6M M   P2 糞便
1994 熊本 6M M 有 (1)   P1 糞便
1998 北海道 36Y M   P1 糞便
京都 2Y1M M 有 (2)   P3 糞便
2000 宮崎 37Y M   P3 糞便

出典: ポリオワクチンを巡る最近の状況と我が国の将来 平成12年8月31日
公衆衛生審議会感染症部会 ポリオ予防接種検討小委員会

1) 髄液からも分離
2) 咽頭ぬぐい液からも分離
3) 免疫異常あり



資料2−3 我が国におけるポリオ対策の位置付け

感染症対策 予防接種
1954 伝染病予防法にて
届出伝染病に指定
 
1959 同法にて
指定伝染病に指定
 
1961   予防接種法にて
不活化ワクチンが定期接種に
1964   同法にて
生ワクチンが定期接種に
1999 感染症法にて
2類疾病に指定
 


資料3−1 世界におけるポリオ対策の歩み

1980年 日本で最後の野生株(輸入例と推定される)によるポリオ患者の発生
   
1991年 以降、WHOアメリカ地域事務局管内(南北アメリカ大陸)からの患者発生なし
   
1994年 WHOアメリカ地域で根絶宣言
   
1997年 以降、西太平洋地域(アジア・太平洋諸島・オセアニア)からの患者発生なし
   
1998年 以降、ヨーロッパ地域からの患者発生なし
   
2000年 WHO西太平洋地域にて根絶宣言
   
2002年 WHOヨーロッパ地域にて根絶宣言


資料3−2 世界におけるポリオワクチンの使用方法

  使用中のワクチン 投与回数 投与スケジュール 変更時期 備考
アメリカ IPV 4 2M, 4M, 6〜18M,
4〜6Y
2000 OPVは特別の場合のみ
オーストリア IPV 4 2, 3, 4, 13M    
フランス IPV 4 2, 3, 4, 16M   すべてIPV
ドイツ IPV 4 2, 3, 4, 11M   すべてIPV
スウェーデン
デンマーク
IPV 4 3, 5, 12M, 5Y 昔から  
ノルウェー IPV 4 3, 5, 11M, 6Y    
イタリア IPV/OPV併用 2+2 IPV×2 (2, 4M)
OPV×2 (10M, 2Y)
  IPV2回接種後
OPV2回接種
イギリス OPV→IPV     2002年に
OPV→IPV
へ移行予定
 
スペイン OPV→IPV   2, 4, 6, 18M    


資料4-1 輸入例による最近のポリオ症例

地域 発生年 血清型 症例数 推定されている
輸出地域
ケープ・ベルデ
Cape Verde
2000 1 56 アンゴラ
ミャンマー
Myanmar
2000 1 44 インド
イラン
Iran
2000 1 3 インド
グルジア
Georgia
2001 1 1 インド
ブルガリア
Bulgaria
2001 1 インド
ザンビア
Zambia
2001 - 2002 1 3 アンゴラ

 他にも、アルジェリア(2001)等の症例が輸入例と考えられている。

出典:
 1) MMWR, 2000; 49: 1070
 2) MMWR. 2001; 50:1033
 3) MMWR. 2002; 51:253



資料4-2
各国で報告されているワクチン関連マヒ例

国・地域 期間 例数 年間平均
発生数
106ドース
あたり
報告者
Canada 1965-1988 16 0.7 2.4 Varughese, 19891)
Latin America 1989-1991 139 46.3 2.2 Andrus, 19952)
USA 1980-1994 125 8.3 2.4 CDC, 19963)
WHO European Region 1993 21 21.0   WHO, 19954)
England & Wales 1985-1991 13 1.9 1.4 Joce, 19925)
Germany (FRG) 1963-1984 27 1.2 3.4 Maass, 19876)
Italy 1981-1985 3 0.6 2.7 Novello, 19877)
Romania 1984-1992 93 10.3 0.2 Strebel, 19948)
India 1999 181 181.0 0.2 Kohler, 20029)
Japan 1971-2000 33 1.1 0.3 Yoneyama, 200110)
WHO Collaborative
study of 6 countries
1980-1984 62 12.4 3.1 Esteves, 198811)

1) Varughese PV, Carter AO, Acres SE, Furesz J : Eradication of indigenous poliomyelitis in Canada: impact of immunization strategies. Can J Public Health 80: 363-368, 1989.

2) Andrus JK, Strebel PM, Quadros CA, Olive JM: Risk of vaccine-associated paralytic poliomyelitis in Latin America, 1989-91. Bull World Health Organ 73: 33-40, 1995.

3) CDC. Centers for Diseases Control and Prevention: Paralytic poliomyelitis 1980-94. MMWR Morb Mortal Wkly Rep 46: 79-83, 1996.

4) WHO : WHO news and activities. Status of poliomyelitis eradication in the WHO European Region. Bull World Health Organ 73: 123-125, 1995.

5) Joce R, Wood D, Brown D, Begg N: Paralytic poliomyelitis in England and Wales, 1985-1991. Brit Med J 305: 79-82, 1992.

6) Maass G, Quast U: Acute spinal paralysis after the administration of oral poliomyelitis vaccine in the Federal Republic of Germany (1963-1984). J Biol Standerd 15: 185-191.1987.

7) Novello F, Lombardi F, Amato C, Santoro R, Fiore L, Grandolfo ME, Pasquini P: Paralytic poliomyelitis in Italy, 1981-1985. Eur J Epidemiol, 3: 54-60, 1987.

8) Strebel PM, Aubert-Combiescu A, Ino-Nedelcu N, Biferi-Moroeanu S, Combiescu M, Sutter RW, Kew OM, Pallansch MA, Patriarca PA, Cochi SL: Paralytic poliomyelitis in Romania, 1984-1992. Evidence for a high risk of vaccine-associated paralytic disease and reintroduction of wild-virus infection. Am J Epidem 140: 1111-1124, 1994.

9) Kohler KA, Banerjee K, Gary Hlady W, Andrus JK, Sutter RW: Vaccine-associated paralytic poliomyelitis in India during 1999: decreased risk despite massive use of oral polio vaccine. Bull World Health Organ 80: 210-216, 2002.

10) 米山徹夫: 生ポリオワクチンの副反応. 小児科 42 : 1675-1679, 2001.

11) Esteves K: Safety of oral poliomyelitis vaccine: results of a WHO enquiry. Bull World Health Organ 66: 739-746, 1988.


資料4-3 ワクチン由来株によるポリオ流行

地域 発生年 血清型 ウイルスが分離された患者数
エジプト 1982 - 1993 2 32
ハイチ・ドミニカ 2000 - 2001 1 31
フィリピン 2001 1 4

出典:
 1) MMWR. 2001. 50: 41-
 2) Science. 2002; 296: 356-
 3) MMWR. 2001; 50: 874-


資料4−4 環境中のワクチン株由来変異ウイルスの存在

 日本のポリオワクチン接種計画は世界レベルでみてユニークなものである。春、秋の2回の生ワクチン定期接種で高いワクチン接種率と社会レベルの集団免疫状態を保持してきた。年2回の定期接種のみということから、社会におけるポリオウイルスの動態を精緻にフォローすることが可能であり、世界的にユニークである。最近、富山衛研、日本ポリオ研、感染研の研究で、環境中(汚水や河川)からワクチン株由来のポリオウイルスが定期接種後一定期間(約3ヶ月)分離されること、そしてその中には、病原性を規定する塩基が置換している変異株も検出されることが明らかになった。環境中から分離されたポリオウイルスはヒト集団内で循環しているウイルスの性状を反映することが知られている。従って環境から直接感染しポリオを発症する可能性があるのみならず、感受性個体にとってワクチン投与者から排泄されたウイルスによる接触感染のリスクがあることを示唆している。
 ワクチン由来株が幅広く、土壌、地下水、廃棄物などの環境、海産物や農産物などにも検出されることについては、数多く報告されているが、病原性などウイルスの性状に関する報告は極くわずかである。しかし、潜在的感染源となりうる可能性は否定できないものの、これらのポテンシャルな感染源が実際の感染源となってポリオの流行をおこしたという報告は未だない。現行のワクチンによる社会レベルの高い集団免疫が感染を阻止し、拡大を防いでいたと考えられる。実際、今回の研究では分離された全てのワクチン変異ウイルスは現行の生ワクチンで予防可能であることが示されている。生ワクチンはワクチン自身が病原体となるパラドックスを提示したが、野生株による流行が見られた時代には、流行阻止に多大な恩恵をもたらした。野生株の流行が終熄し、根絶が視野に入った現在はOPVからIPVに切り替えることにより、ワクチン株自身の伝播を止めることが、終末のポリオ根絶計画には不可欠である。
 吉田らの研究はしかし、分離されたウイルスの性状について特にその病原性について調べたものであり、環境中に存在するワクチン由来株のポリオウイルスを定量的に調べたものではない。かかる環境アセスメントとしての調査はいままでになく、これから世界レベルでの根絶計画の最終段階での重要な研究課題に位置付けられている。

表1. イスラエルの下水から分離されたポリオウイルス

目的 方法 結果 結論
イスラエルにおける野生株の流行は1988年が最後である。しかし隣接するエジプトなどには野生株が存在している。そのため野生株の輸入の可能性が存在するため、コミュニティに侵淫していないことを環境サーベイランスにより確認する。 2型ウイルスを対象に下水よりウイルス分離を行い塩基配列を決定する。 分離されたウイルスはワクチン由来であった。ただしワクチン株とはやや異なる(8%)ウイルスも分離された。 イスラエルに野生株の侵入は見られなかった。やや異なる株は先天性免疫不全者由来のものと考えられた。

出典:1) Shulman LM, et al., .J Clin Microbiol. 2000; 38:3729-34.


表2. 富山県で調査された環境中のポリオウイルス

目的 方法 結果 結論
日本では1980年を最後に野生株によるポリオ患者の報告はない。しかしポリオ根絶計画において将来的に生ワクチン(OPV)接種を停止し集団免疫が低下すれば、ワクチン由来株によるポリオの流行の可能性は存在する。そのためコミュニティレベルにおけるウイルスの存在様式(病原性、分離時期)を解析する。 OPVの新たな品質管理手法として開発されたMAPREC法(神経毒力関与部位のSNP定量法)を用いて、2年間に渡り富山県内の下水、河川より分離されたポリオウイルスの解析を行う。 環境より分離されたポリオウイルスは程度の差はあっても1、2,3型とも変異を起こしており、潜在的な病原性を有していた。これらのウイルスは定期接種後約3ヶ月間環境より分離された。 環境水からの感染リスクは低いと考えられる。しかし少なくとも約3ヶ月間はコミュニティを循環しているため、OPVを続けている限り、感受性個体にとっては接触感染のリスクを有すると考えられた。

出典: 2) Yoshida H, et al., Lancet. 2000; 356:1461-3.
3) Yoshida H, et al. J Gen Virol. 2002; 83: 1107-11.
4) 吉田 弘、バムサ会誌 2002;13: 6-9.


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