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参考資料
(第1回使用資料)


報告書



平成14年7月30日

日本ポリオ根絶等委員会


ポリオ根絶等委員会名簿(○:委員長)

氏名(専門) 所属等
蟻田 功
(国際保健)
(財)国際保健医療交流センター
大久保一郎
(公衆衛生学)
筑波大学社会医学系
保健医療政策学
岡部 信彦
(感染症サーベイランス)
国立感染症研究所
感染症情報センター
神谷 齊
(ワクチン学、小児科)
国立療養所三重病院
千葉 靖男
(ポリオ国際協力)
国立国際医療センター
国際医療協力部
野本 明男
(ポリオウイルス基礎研究)
東京大学大学院医学系研究科
微生物学教室
平山 宗宏
(小児保健)
日本子ども家庭総合研究所
宮崎 千明
(臨床ワクチン学)
福岡市立西部療育センター
宮村 達男
(ウイルス学)
国立感染症研究所
ウイルス第2部
山崎 修道
(感染症)
元国立感染症研究所長
WHO西太平洋地域ポリオ根絶委員


<目次>

I. はじめに

II. ポリオワクチンに関わる事実及び論拠の整理
(1)ポリオワクチンの特性
(2)我が国のポリオ対策
     @)我が国のポリオ制圧の歩み
A)我が国における最近のポリオ患者の状況
B)我が国におけるポリオ対策の位置付け
(3)世界におけるポリオ対策の歩み
     @)ポリオ根絶プログラム
A)世界におけるポリオワクチンの使用方法
(4)ポリオに関する最近の科学的知見について
     @)輸入例による流行
A)ワクチン由来ポリオウイルスによる流行
B)環境中のワクチン株由来変異株ウイルスの存在の証明

III. 我が国における最近のポリオサーベイランス

IV. 世界のポリオ根絶計画における最近の進捗状況

V. 日本のポリオコントロールについての提言
(1)生ワクチン、不活化ワクチンの特性の観点から
(2)世界のポリオ根絶計画の観点から
(3)結論

VI. 不活化ワクチンを導入する上での留意点
(1)予防接種率
(2)接種方法
(3)不活化ワクチンの供給

VII. おわりに


I. はじめに

 我が国の属するWHO西大平洋地域で野生株ポリオウイルスが一掃され、患者発生が3年以上ないことから、2000年(平成12年)に、地域レベルのポリオ根絶宣言がなされたところである。かかる根絶宣言をおこなう前提として1997年より、ポリオの根絶を確認するため、各国にポリオ根絶認定委員会が組織された。
 本委員会は、我が国におけるポリオ根絶認定委員会として設立され、ポリオ様の麻痺症状を示した(急性弛緩性麻痺)症例の報告があった場合は、積極的にウイルス学的、臨床的精査を行ってきた。
 今後、本委員会では、世界レベルの真の根絶が達成され、ワクチンの必要がなくなるまで、日本と世界のポリオの状況を絶えず視野に入れ、我が国における最善のポリオコントロール体制について具体的な提言を行うこととしている。


II. ポリオワクチンに関わる事実及び論拠の整理

(1)ポリオワクチンの特性資料1

 ポリオワクチンには経口生ポリオワクチン(OPV)と不活化ポリオワクチン(IPV)がある。
 生ワクチンは、感染性のある弱毒化ポリオウイルスを自然感染同様、経口的に投与するため腸管における局所免疫が誘導され、かつ、血中抗体も上昇すること、免疫の持続が長時間であること、接種者の便から排泄されたワクチン由来ウイルスがさらに周囲の非接種者に経口感染することにより集団の免疫効果を拡大することが可能であることなど、疾患の流行を社会レベルで抑制するのに有利である。さらに投与法が容易で、注射器材などの消毒や廃棄処分などを考慮する必要が無く価格も安いことから、途上国を含む世界中で利用されており、WHOはポリオ根絶の基本は生ワクチンであるとして各国に使用を奨励している。
 不活化ワクチンは、接種方法はその他の多くのワクチンと同様、感染性を失わせたウイルス粒子を経皮接種する。したがって腸管免疫は誘導できないが、血中抗体を上昇させることができる。接種者の周囲に感染をおこすことがないなどの特徴があるが、その他の特徴は生ワクチンとは対をなす。

(2)我が国のポリオ制圧の歩み

i) 我が国のポリオ制圧の歩み資料2−1

 疫学的に見ると、我が国のポリオ患者数は、1961(昭和36)年までは毎年1,000人以上、死亡者も100人以上であり、特に1960(昭和35)年には全国で5,600名を超える未曾有の大流行があり、多くの麻痺患者が発生した。しかし1961(昭和36)年に経口生ポリオワクチンが導入され患者は激減し、3年後には100人を下回った。

ii) 我が国における最近のポリオ患者の状況資料2−2

 野生株*1ポリオウイルスによる患者はその後さらに減少し、1971(昭和46)年、1980(昭和55)年の各1例を最後に、我が国では発生していない。1981〜2000年の間には国内で15例のポリオ様麻痺患者が報告されているが、いずれも分離されたポリオウイルスはワクチン株由来*2のものであった。
 資料2-2は1970年(昭和45年)以降のワクチン関連麻痺36例をまとめたものであるが、その特徴を挙げると以下の通りである。

(1) 男性が多い(32例)。

 通常、乳幼児に認められるが、年長者にもある(31歳、8歳、19歳、36歳、37歳)

(2) ポリオの型は2型(26例)、または3型(15例)が多い。*3

(3) 実際にワクチン接種を受けた例は20例。そのうち2例は接種後判明した免疫不全児であった。ワクチン接種者のほとんど(17例)は一回目の接種時に起こる。

(4) 生ワクチンを直接投与されずにポリオ感染を引き起こした16例では、それ以前のワクチン接種歴がないか、又は証明できなかった。

(5) このような例の中には周囲で例えば家族などがワクチン接種を受けたことが明らかな例とそれが明らかでない例とがある。

(6) しかし、このような二次感染例はすべて孤発例で感染が拡大している例は皆無である。

(7) 近年、ポリオウイルスの病原性を規定する遺伝子の塩基が型ごとに明らかになった。患者より分離されて、解析がなされたポリオワクチン株はほとんど例外なく病原性を規定する領域の塩基置換をきたしていた。

(8) 最近、注目されるのは、生ワクチンを接種した乳幼児からその親に感染して ポリオを発症する例である。詳しくは、III.我が国における最近のポリオサーベイランスにまとめることとする。

*1 野生株:自然界に存在しヒトに感染し病原性を持つもの。
*2 ワクチン由来株:ワクチンに含まれるポリオウイルスが変異し、強毒化したもの。
*3 ポリオウイルスは1〜3型に分類される。

iii) 我が国におけるポリオ対策の位置付け資料2−3

 ポリオは法律的には、1954年(昭和29年)に旧伝染病予防法の届出伝染病に規定され、1959年(昭和34年)には法定伝染病に準じた措置を行う伝染病として指定された。さらに、1999年(平成11年)から施行されている『感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律』では、二類感染症に位置付けられている。
 また、1961年4月には、予防接種法に不活化ワクチンによる定期接種が加えられたが、同年夏の大流行に対して緊急避難的に、ソ連等から1300万人分の経口生ポリオワクチンが輸入、導入され、大きな成果をあげたため、1964年には、予防接種法上も生ワクチンの接種とされ、それ以降、国産の生ワクチンによる定期予防接種が行われている。
 現在の定期接種の方法は、対象年齢を生後3ヶ月以上90ヶ月未満とし、この間に2回投与される。しかし乳幼児が主に罹患する疾患のため、生後3〜18ヶ月を標準の接種年齢として、通常春と秋の2回、市町村が集団接種により行っている。使用される生ワクチンには、1型、2型、3型の3種類のポリオワクチンウイルスが混合されており、凍結保存されていたワクチンを使用直前に融解・混和し、0.05mlを経口的に服用させる。1回目の服用によるウイルスの腸管増殖が終わってから2回目を服用する必要があるため、接種間隔は6週間以上とることと定められている。

(3)世界におけるポリオ対策の歩み

i) ポリオ根絶プログラム資料3−1

 1980年代には日本を含めた先進国でワクチンによるポリオ対策が確立されていたが、1988年、WHOは世界レベルのポリオ根絶計画をスタートさせた。計画の骨子は徹底した生ワクチン投与と患者、ウイルスのサーベイランスである。当初の目標であった2000年には全世界での真の根絶が達成されなかったものの、1994年にアメリカ地域で、2000年には西太平洋地域、2002年6月にはヨーロッパ地域にてそれぞれの地域レベルの根絶宣言が出された。

ii) 世界におけるポリオワクチンの使用方法資料3−2

 ポリオ対策に関しては、現在は世界的には生ワクチンを使用している国が大多数である。しかし、先進国の多くは後述するワクチン関連麻痺(VAPP)への危惧から不活化ワクチンへと切り替えている。また、フィンランド、オランダなどの北欧の国々では一貫して不活化ワクチンのみを使用し、ポリオを制圧してきた経緯がある。

(4)ポリオに関する最近の科学的知見について

i) 輸入例による流行資料4−1

 ポリオが国内より根絶され、発生することがないと考えられていたブルガリアで、2001年に海外(インド)から持ち込まれた野生株ポリオウイルスが原因で流行が引き起こされた。これは、現在ポリオの流行がない国、地域においても、予防接種率が低下すれば、再びポリオの流行が引き起こされる可能性があることを示唆するものである。
 世界から野生株ポリオウイルスが完全に駆逐され、ポリオが根絶されるまで、ポリオワクチンの投与は必要であることをこの事例は示している。また地球レベルの根絶が証明されても、その後一定期間(少なくも5〜10年)同じレベルのワクチン接種率を維持した上で、やはりポリオの発生がないことが確認できてはじめて完全にポリオワクチンを中止することができる。つまり、国、地域、レベルでの野生株の根絶が達成されているか否かを問わず、現時点では、高い予防接種率を維持することが必須である。

ii) ワクチン由来ポリオウイルスによる流行資料4−24−3

 生ワクチンには頻度こそ少ないが、ワクチン接種者および接種者に接触して感染したと考えられる"ワクチン関連マヒ"例が報告されている。我が国では年間1-2例で他国での頻度と同等かそれ以下である。しかし、これまで報告されたワクチン関連マヒ例はいずれも孤発例であり、それが原因となって、流行をおこすという例はなかった。
 ところが、2000年8月〜2001年5月に起きたドミニカ、ハイチでのポリオ流行は世界ポリオ根絶計画に大きな警鐘と戦略の再検討を促した。
 この地域では一定期間ワクチン接種率が極度に低下しており(50%以下)、ワクチン株から変異したウイルスはこの地で2年ほど前から潜在的に流行していたものと考えられる。この分離株の遺伝子にはポリオウイルスの病原性を規定する塩基に変異が認められたが、分離ウイルスはさらに他のウイルスとの組換えをもおこしており、このウイルスがより強い伝播能力を獲得した可能性も指摘された。このことは、今後、ワクチン由来ウイルスが予想もしない変異を遂げ、流行する可能性も否定できないことを示唆する。また、ワクチン変異株が流行の原因であったが、この流行を押さえ込むのもまたワクチンであるというジレンマも指摘されている。
 同様なワクチン由来株によるポリオ流行例はエジプトや、フィリピンでも指摘され、現在解析が進んでいる。

iii) 環境中のワクチン株由来変異ウイルスの存在の証明資料4−4

 日本において、環境中(汚水や河川)からワクチン株由来のポリオウイルスが定期接種後一定期間(約3ヶ月)分離され、さらにこの中に、病原性を規定する塩基が置換している変異株も検出されることが明らかになった。
 このことは、環境から直接ワクチン株由来のポリオウイルスに感染し、ポリオを発症する可能性が理論的にあることを意味し、感受性個体にとってワクチン接種者から排泄されたウイルスによる接触感染のリスクがあることを示唆するものであるが、現在までのところ、このような感染経路を疑わせる感染例は国内・外で報告されていない。


III. 我が国における最近のポリオサーベイランス

例1(1998年)

 ワクチン接種歴が不明の36歳の男性。生後9ヶ月になる娘からの感染。患者の糞便から1型ポリオウイルスを検出できた。本例では分離されたウイルスの遺伝子に病原性復帰を明確に示唆する塩基置換は認められなかったが、患者の女児が生ワクチン接種をうけて14日後に発症(ポリオの典型的な臨床症状)したことから、児の体内で増殖、排泄されたワクチン株ポリオウイルスがポリオウイルスに対する免疫が不十分であった患者に感染し、発症させたことが強く疑われる。

例2(2000年)

 ワクチン接種歴の無い37歳の男性。生後10ヶ月になる次女からの感染。両者の便から共通の遺伝子変異をもつポリオウイルス3型を検出できた。患者は次女の生ワクチン接種の23日後に発症(発熱を伴うポリオの典型的な臨床症状)し、高度の麻痺が残った。患者の周囲の医療従事者(63名)や家族等(9名)への感染はなかった。

例3(2001年)

 ポリオの予防接種歴のない38歳男性。患者の糞便、髄液よりポリオウイルスは検出できず。患者は患者の女児が生ワクチンを受けてから30日後に発症(四肢麻痺を伴う典型的なポリオ症状)し、四肢に重篤な麻痺が残った。患者家族(3人)への感染はなかった
 臨床的には典型的な症状で、ポリオ感染が強く疑われる。患者の検体からポリオウイルスが分離されなかった点については、検査を行った時期が発症後5週後と通常と比べ遅いこともあり、ウイルス学的に矛盾しない。
 また、感染経路については、患者に最近の渡航歴もないことから野生株ポリオ由来とは考えられず、患者自身がポリオワクチン投与を受けていないこと、また、児の生ワクチン接種日と患者の発症時期が近いことから、生ワクチン由来であることが最も考えられる。

 本委員会では、これらの3症例はポリオワクチン由来の2次感染であると考える。ただし、いずれも周囲で感染例が報告されていないこと、家族に感染が広がった例がないことより、病原性を復帰した原因ウイルスが、なおこの周囲に感染源としてとどまっている可能性はないと考え、追跡調査を行う必要はなかったと考える。
 また、生ポリオワクチンを使うかぎりこのような症例は起る可能性が今後もあること、現在の予防接種法上、このような2次感染者の救済はおこなわれていないことを認識しておく必要がある。


IV. 世界のポリオ根絶計画における最近の進捗状況

 ポリオウイルス野性株の伝播によるポリオ流行が明らかに認められるハイリスク地域は、いまや世界中でほぼ3カ所に絞られた。その3カ所とは、1)ウタブラディシュ州・ビハール州を中心とした北部インド、 2)パキスタン/アフガニスタン、 3)ナイジェリア/ニジェール、であるが、最も確定症例数・分離ウイルス数が多く推移しているのは北部インド地域である。その他、アンゴラ、エチオピア、エジプト、ソマリア等、野生株由来ポリオの散発例が認められ根絶が証明されていない地域が、アフリカを中心として残されている。2001年に、まだ野生株ポリオウイルスの存する国は10ヶ国で約500人の患者発生があったとWH0は発表している。
 計画がスタートした1988年には125ヶ国に35万人以上の患者がいたことから考えると、根絶へのプロセスは急速に進んでいる。目標とされる「2002年に野生株ゼロそして2005年に根絶宣言」は困難と考えられるが、計画の実現は現実味を帯びてきた。現在、各地域のポリオ野性株は、ウイルス分離後速やかに塩基配列解析が行なわれ、分子系統解析によりウイルス伝播の経路が示されるようになっている。ポリオ野性株の分離が最も集中している北部インドでは2002年になっても引き続き1型および3型の伝播が認められているが、分離株の多様性は確実に減少している。2型ポリオ野生株は1998年を最後に世界のどこからも分離されていない。このように世界レベルで患者数だけでなく、野生株の数も、地域も限られてきており、そのハイリスク地域にはワクチン強化プログラムが組まれている。
 しかし、いま残された地域は、世界の最貧地域、内戦、内乱の続く地域、宗教上の理由等でワクチン投与の最も困難な地域であり、ポリオ根絶のための戦略をさらに精緻なものにする必要がある(積極的モップアップ作戦など)。


V. 日本のポリオコントロールについての提言

(1)生ワクチン、不活化ワクチンの特性の観点から

 ポリオには有効な抗ウイルス剤はなく、積極的な治療法はない。ワクチンによる感染予防が重要であることに変わりはない。
 ポリオという疾患のコントロールを集団レベルで考慮した時、生ワクチンのほうがはるかにまさっている。個のレベルでみても腸管内でウイルスが増殖する生ワクチンはより有効で自然にちかい免疫を誘導し、免疫効果ははるかにまさっている。しかし、ポリオ根絶の最終段階で野生株によるポリオ患者例数が減少してくると、400〜600万人に1人の割合で発生するワクチン関連麻痺(VAPP)のリスクと、野生株ポリオウイルスによって引きおこされる麻痺のリスクについて、世界の現状とそれぞれの国のポリオ対策状況を踏まえ、適宜検討し対応する必要がある。
 現在、我が国では、ワクチン関連麻痺のリスクが、野生株ポリオウイルスによって引き起こされるリスクに比べ、相対的に大きくなってきていると考えることもできる。

(2)世界のポリオ根絶計画の観点から

 我が国での一貫した生ワクチンによるポリオコントロールの徹底は、2回接種という少ない接種回数であるが、常に95%以上という高い接種率を保ち、有効な対策として機能してきた。1970年代に野生株を駆逐し、ポリオの発生を防いできたのはひとえに生ワクチンの成果である。その評価は現時点でもいささかも変わるものでない。ワクチンによる副作用としてのポリオ例はここ30年で36例と想定されている範囲内にとどまっており、国内のポリオ根絶を達成する上で、ポリオ生ワクチンを使用した予防接種は有効に機能してきたと言える。
 しかし、現在、世界のポリオ現況が根絶を目前にして、ワクチン(生ワクチン中心)接種をいっそう強化することが必須であると同時に、パラドックスではあるが、生ワクチンを使う限り、ワクチン由来ポリオウイルスによる感染が認められ、ポリオ様の麻痺は根絶できないとの知見が明らかになってきた。
 これはポリオ根絶計画の当初から指摘されてきたところであるが、ワクチン由来株による流行を防ぐには、生ワクチンの接種率を高め、野生株を完全に駆逐し、その過程で順次タイミングよく不活化ワクチンに切り替え、集団と個の免疫を保ちながら生ワクチン由来の病原性ポリオウイルスの伝播とポリオの発生を防ぐ必要がある。しかしウイルスの伝播は不活化ワクチンでは防ぐことができない。世界レベルの根絶の前は不活化と生のコンビネーションが考えられる。そして究極的にポリオウイルスを地球上から一掃すれば、ポリオワクチンはもう必要がなくなる。これが真のポリオ根絶である。しかし、この戦略を世界レベルで同時に行う事は現実的には極めて難しい。そこで現在、可能な国から順次不活化に切り替えていくべきとの考え方が多勢を占めている。

(3)結論

 平成12年8月に公衆衛生審議会感染症部会により取りまとめられた「ポリオワクチンを巡る最近の状況と我が国の将来」の中では、生ワクチンを用いた予防接種を継続していくべきとしており、不活化ワクチンの使用は今後の検討課題とされている。
 しかし、近年、我が国ではポリオによる麻痺は、ワクチン由来でしか起きていないことから、ワクチン株由来の麻痺が野生株由来の麻痺より相対的に大きな問題となってきていること、また、世界的なポリオ根絶計画が最終段階に入ってきたことを鑑み、生ワクチンを不活化ワクチンに変更することを前提とし、具体的な検討に着手すべきであることを、本委員会では提唱する。


VI. 不活化ワクチンを導入する上での留意点

(1)予防接種率

 不活化ワクチンを導入する場合の絶対条件は、現行の生ポリオワクチンに匹敵する高い接種率を維持することである。これは、我が国をポリオ禍より守るために必要な条件であり、十分に留意する必要がある。この条件を達成するためには、ポリオの予防接種に関する丁寧な説明と、コンセンサス作りが最も重要であると考える。

(2)接種方法

 不活化ワクチンを導入する場合、その用法、用量は安全性、有効性、コスト(ワクチンのコストだけでなく、接種に関わるすべてのコスト)等を検討し、最善のものとしなければならない。また、十分な抗体を誘導するための接種回数や、その抗体の持続についても十分な検証を必要とする。
 その投与方法においても、不活化ワクチンがDPTワクチンと併用可能であるメリットを生かし、混合ワクチンとして使用するのかどうか、また、不活化ワクチンを複数回接種後に生ワクチンを投与する(不活化ワクチン/生ワクチン併用方式)方法を用いるのか、不活化ワクチンを定期接種に用いた場合、流行に備えて生ワクチンを備蓄する必要があるかどうか等についても十分検討がなされる必要がある。
 また、予防接種事業を複雑化させることにならないような考慮も必要である。

(3)不活化ワクチンの供給

 現在、未だ我が国で認可されている不活化ポリオワクチンは存在しない。有効性・安全性の確認を十分行った上で、できるだけ早く、国内で使用が可能な不活化ワクチンが製造、安定供給されるよう努力する必要がある。


VII. おわりに

 本報告書の中で、日本のポリオコントロール状況、世界ポリオ根絶計画の進捗状況を概説し、今後の方向性について提言をおこなった。
 その中で、我が国ではこれまで生ワクチンにより、ポリオの制圧をなしとげてきたが、不活化ワクチンの導入を検討する時期に来たものと考えられるとの本委員会の意見を述べたところである。
 今後、我々は、本報告書を起点として、小児科医、感染症専門家、ワクチン専門家、公衆衛生学者、被接種者の両親など各方面の意見を集約し、我が国の子供達にとって最善の方策であり、同時に、世界のポリオ根絶の達成に貢献できるポリオコントロール体制を確立していくために努力していく決意を表明し、本報告書の結びとする。



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