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参考資料1−2

少子化対策プラスワン

― 少子化対策の一層の充実に関する提案 ―




平成14年9月20日


 本年5月の総理指示を受け、厚生労働省として、これまでの少子化対策のどこが不十分なのか、また、更に対応すべきは何なのかを改めて点検し、厚生労働省の枠を超えた幅広い分野について検討した結果は、以下のとおりである。

【基本的考え方】

 政府においては、これまでに、「少子化対策推進基本方針」(平成11年12月)、「重点的に推進すべき少子化対策の具体的実施計画について」(平成11年12月、いわゆる「新エンゼルプラン」)、「仕事と子育ての両立支援策の方針について」(平成13年7月閣議決定)に基づく「待機児童ゼロ作戦」等により、子育ての負担を軽減し、子どもを産みたい人が産めるようにするための環境整備に力点を置いて、少子化対策を実施してきたところである。

 一方、本年1月に発表された「日本の将来推計人口」によれば、従来、少子化の主たる要因であった晩婚化に加え、「夫婦の出生力そのものの低下」という新しい現象が見られ、現状のままでは、少子化は今後一層進展すると予測される。

 急速な少子化の進行は、今後、社会保障をはじめとして、我が国の社会経済全体にこれまで予測した以上に急速な構造的変化をもたらしていくことが予想され、こうした中で、少子化の流れを変えるためには、従来の取組に加え、もう一段の少子化対策(「少子化対策プラスワン」)を講じていく必要がある。

 具体的には、これまでの取組は、子育てと仕事の両立支援の観点から、特に保育に関する施策を中心としたものであったが、子育てをする家庭の視点から見た場合、より全体として均衡のとれた取組を着実に進めていくことが必要であり、さらに、

 ○ 男性を含めた働き方の見直し

 ○ 地域における子育て支援

 ○ 社会保障における次世代支援

 ○ 子どもの社会性の向上や自立の促進

という4つの柱に沿って、社会全体が一体となって総合的な取組を進めることとし、国、地方公共団体、企業等の様々な主体が計画的に積極的な取組を進めていくことが求められている。

 このような取組を進めることにより、「子どもがいきいきと育つ社会」「国民それぞれが多様な生き方を選択できる社会」の実現が図られることが期待できる。

(注)以下に示す施策の中には、平成15年度予算の概算要求を行っている段階のものもあり、今後、予算編成過程において検討されることとなる。


【今後の主な取組】

すべての働きながら子どもを育てている人のために

1 男性を含めた働き方の見直し、多様な働き方の実現

 少子化の背景にある「家庭よりも仕事を優先する」というこれまでの働き方を見直し、男性を含めた全ての人が、仕事時間と生活時間のバランスがとれる多様な働き方を選択できるようにする。

(1) 家庭の子育て努力を支援するため、次の事項についての経営者や職場の一層の意識改革を推進する。

 出産後も育児をしながら働き続けられるような職場づくり

 子育て期間における残業時間の縮減(例えば1日当たり1時間以内を目指すなど)

 長期休暇の取得の推進

 子育てしている人への企業内の協力体制の整備

 妊娠・出産や育児休業取得を理由とする不利益取扱いや嫌がらせの防止

(2) 子どもが産まれたら父親誰もが最低5日間の休暇を取得することを促進する。

(3) 短時間勤務や隔日勤務など、働き方の選択肢を広げるため、「多様就業型ワークシェアリング」に社会全体で取り組む。
 具体的には、
 子育て等で退職後、短時間勤務の社員として再び働き始めても、働き方に見合った均衡な処遇を受け、再び活躍できる

 子育て期に短時間勤務で働き、育児が一段落した後、フルタイム勤務に戻ることができる

など多様な働き方を支援するため、パートタイム労働者のフルタイム労働者との均衡処遇のあり方及びその推進方策について検討し、企業の短時間正社員制度の普及を推進する。
 また、パートタイム労働者の社会保険適用について検討する。

(→平成16年の次期年金制度改正で検討)

(4) ITを活用したテレワークを推進するための講習や環境整備等を実施する。

2 仕事と子育ての両立の推進

 子育てと仕事の両立支援をより一層推進するため、男女の育児休業の取得促進のための目標値設定等を行う。

(1) 育児休業取得率等の目標値を次のとおり設定する。
男性の育児休業取得率 10%
女性の育児休業取得率 80%

子どもの看護のための休暇制度の普及率 25%

小学校就学の始期までの勤務時間短縮等の措置の普及率 25%
(2) (1)の目標達成に向けた促進策を実施する。

 経済産業省等事業所管省庁と厚生労働省の共催による両立支援推進会議を開催し、関係省庁が一体となって産業界に対して要請。

 男性を含めて育児休業の取得促進に積極的な企業に対する育児休業取得促進奨励金(仮称)の創設

 育児休業を取得しやすい環境づくりのための広報・啓発

 企業の「仕事と家庭の両立のしやすさ」を示す指標の作成、指標を活用した家庭にやさしい企業(ファミリー・フレンドリー企業)の普及促進、特に優良な企業の取組の公表・表彰

 両立支援と企業業績との関係に関する実証的研究、ビジネスモデルの開発の推進

3 保育サービス等の充実

 「待機児童ゼロ作戦」を推進することに加え、パートタイム労働者の増加など働き方の多様化に対応した保育サービスを充実する。

(1) 平成16年度までの待機児童ゼロ作戦を一層推進するため、特に大都市周辺部において、公設民営の推進、分園や設置主体の規制緩和等による保育所の整備等により、保育所等の受入れ児童数を増やす。

(2) パートタイム労働者の増大等に対応して、多様なニーズに合わせた保育サービスを提供する。
 パートタイム労働者等のための特定保育事業(週2〜3日程度、あるいは午前か午後のみ保育サービスの利用)の創設

 保育ママ(保育者の自宅で少人数の保育を行う家庭的保育事業)について、利用者の必要に応じた、利用日数・時間の弾力化

 複数企業間の共同設置を含め、事業所内託児施設の設置の推進

 幼稚園における「預かり保育」の推進

(3) 放課後児童クラブを増やし、サービスを充実するとともに、障害児の受入れ等を推進する。
 また、幼稚園において放課後児童等を受け入れる異年齢交流を実施する。

(4) 多様な教育・保育ニーズに応える観点から、幼稚園と保育所の連携や就学前教育と小学校の連携を推進する。


子育てしているすべての家庭のために

1 地域の様々な子育て支援サービスの推進とネットワークづくりの導入

 専業主婦家庭やひとり親家庭を含めたすべての子育て家庭のために、地域の子育て情報の発信などネットワーク化を推進するとともに、多様な子育て支援サービスを充実する。

(1) 地域における様々な子育て支援サービスを推進する。

 保育所など身近な場での一時預かりサービス

 子育て中の親が集まって相談や情報交換ができる「つどいの場」づくり

 地域の高齢者やNPOによる多様な子育て支援サービスの充実

 幼稚園における園庭・園舎の開放、子育て相談、未就園児の親子登園等の推進

 子育て交流、世代間交流の場として余裕教室等の活用を推進

(2) 地域における子育て支援のネットワークづくりを導入する。

 子育て経験のある方等を子育て相談や子育てサークルの支援を行う「子育てサポーター」として活用

 子育て支援サービス情報を提供する子育てマップの作成・配布 など

 地域における多様な子育て支援サービス情報を一元的に把握する「子育て支援相談員」による子育て支援情報の発信

 子どもと子育て支援サービスを結びつける「子育て支援委員会」の小学校区単位での設置

2 家庭教育への支援の充実
 育児不安の増大、児童虐待の急増等の背景として「家庭の教育力の低下」が指摘されていることを踏まえ、子育てについて学ぶ機会等の提供を行う。

 子どもの発達段階に応じた子育て講座の実施や、子育てのヒント集の作成による子育て情報の提供を推進する。

3 子育てを支援する生活環境の整備

 妊婦や乳幼児を連れた人が安心して外出等できるような環境整備を行うともに、子育てを支援する良質な住宅・居住環境を整備する。

(1) 官庁施設をはじめとする公共施設や公共交通機関、多数の者が利用する建築物、さらに公園、デパート、劇場などを妊婦や乳幼児を連れた人が快適に利用できるよう、バリアフリー化を推進する。

 官庁施設や鉄道駅等の旅客施設において、段差の解消(エレベーターの設置等)や誰にも使いやすいトイレの設置を推進。

 低床式路面電車の整備やノンステップバス等の導入を促進。

 高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律(ハートビル法)に基づく義務付け措置の創設及び建築物設計者等向けのガイドラインの作成等

 公共施設等への託児室や授乳コーナーの設置及び乳幼児と一緒に安心して利用できるトイレの改修等の市町村における子育てバリアフリーの取組を推進。
 また、民間企業において同様の推進が図られるよう関係業界に対して要請。

 「子育てバリアフリー」マップの作成・配布や、公共交通機関や宿泊施設等のバリアフリー状況についての情報提供を推進。

 子連れ家族の優先的な入館、料金割引サービスの普及を促進するため、関係業界に対して要請。

(2) 共働き夫婦等の買物代行、家事手伝い、子どもの幼稚園等への送迎等、生活支援輸送サービスの普及を推進する。

(3) 子育てを支援するゆとりのある住宅の確保を支援する。

 融資制度による住宅取得の支援

 特定優良賃貸住宅制度の活用や都市公団による良質なファミリー向け住宅の供給の促進

 高齢者等の住宅資産の活用による良質なファミリー向け住宅の供給の促進

(4) 公共賃貸住宅による多子世帯の支援を行う。
 既設の公社等の住宅の改善・更新による良質な賃貸住宅の供給

 公営住宅、特定優良賃貸住宅における事業主体の判断による多子世帯等の優先入居

(5) 保育所等を併設した住宅等の供給を促進する。
 公共賃貸住宅の整備や市街地再開発事業等における、住宅等と保育所等の子育て支援施設の一体的整備の推進

 総合設計制度の活用による保育所等の設置の促進

(6) 職住近接の実現により共働き世帯を支援する。
 都心の既存オフィス等のファミリー向け賃貸住宅への転用等の促進

 大都市地域等の既成市街地において、都市再生事業に対する補助制度の活用等により、職住近接型の市街地住宅の供給と良好な住宅市街地の整備を総合的に推進。

4 社会保障における「次世代」支援

 子どもは次の時代の社会保障の支え手であることから、社会保障制度において子どもや子育て家庭に対する配慮を行うことについて検討する。
 また、社会保障制度改革に当たっては、制度を支える将来世代の負担が過重とならないよう、現行の給付や負担を見直すなど支えられる世代との負担のバランスを考慮するものとする。

 多様な働き方の実現と併せて、育児期間において、収入が下がり又はなくなる場合に、将来の年金額計算において配慮を行うことなどについて検討する。

(→平成16年の次期年金制度改正で検討)

5 教育に伴う経済的負担の軽減

 教育に伴う経済的負担の問題が少子化の背景にあると指摘されていることを踏まえ、若者が自立して学べるようにするため、育英奨学金の充実を行うとともに、新たな貸付制度についても検討を行う。

(1) 学生が安心して学べるよう育英奨学金を充実する。

(2) 若者が自身で資金を借りて就学し、社会の「支え手」となることを社会全体で支援するとともに、若者が年金を身近に感じられるよう、年金資金を活用した貸付制度も含めて新たな貸付制度についても検討する。
(→平成16年の次期年金制度改正で検討)


次世代を育む親となるために

1 親になるための出会い、ふれあい

 将来の親となる世代が、子どもや家庭を知り、子どもとともに育つ機会をつくることにより、人への関心や共感を高める。

 保育所や乳幼児健診の場、幼稚園、児童館などを活用し、中高生が乳幼児とふれあう機会を広げる。

2 子どもの生きる力の育成と子育てに関する理解の促進

 子どもの豊かな人間性や他人に対する思いやり等の「生きる力」を育むとともに、社会全体が家庭や子育ての意義についての理解を深められるようにする。

(1) 子どもの「生きる力」を育むための体験活動、世代間交流を推進する。

(2) 男女が協力して家庭を築くことや子どもを産み育てることの意義に関する教育、広報、啓発を推進する。

(3) 幼児期の成長の様子や大人たちの関わり方について理解を深め、社会全体で幼児を育てていくために「幼児とともに心をはぐくむキャンペーン」を実施する。

3 若者の安定就労や自立した生活の促進
 若年者の能力開発や適職選択による安定就労を推進し、若年者が自立して家庭を持つようにする。

(1) 若年者に対する職業体験機会の提供や職業訓練を推進する。

(2) 不安定就労若年者(フリーター)対策として、就労支援を行うとともに、若年者の試行雇用を推進する。

4 子どもの健康と安心・安全の確保

 食を通じた家族形成や人間性の育成(食育)、性に関する正しい理解の普及など、子どもの健康と安心・安全の確保を図る。
 また、妊娠・出産の経過に満足することがよい子育てにつながることから、安全で快適な「いいお産」の普及により、出産の喜びを高め、子育ての楽しさを広める。

(1) 食行動指針の作成や学習教材の開発など、「食育」の普及を図る。

(2) 「望まない妊娠」に対する相談援助をモデル的に実施するなど、性に関する正しい理解の普及を図る。

(3) 「いいお産」に関する情報提供のためのプログラム開発など、「いいお産」の普及を図る。

5 不妊治療

 子どもを持ちたいのに子どもができない場合に不妊治療を受けるケースが多くなっていることを踏まえ、子どもを産みたい方々に対する不妊治療対策の充実と支援の在り方について検討する。


【対策の推進方策】

1 国

(1) 「今後の主な取組」について、政府が一体となって総合的に実施する。

(2) 厚生労働省においては、少子化対策の具体的検討を行うため、現行の「少子化問題会議」を改組し、「少子化対策推進本部」を設置する。

(3) 少子化対策をもう一段推進し、対策の基本的な枠組みや、特に「働き方の見直し」や「地域における子育て支援」を中心とする直ちに着手すべき課題について、立法措置を視野に入れて検討を行い、年末までに結論を得る。

2 地方

 地方自治体ごとに、行動計画の策定など、少子化対策の推進体制を整備する。

3 企業

 推進委員会の設置や行動計画の策定などの対応が必要であり、総理大臣や厚生労働大臣等から経済団体代表に対して要請を行う。


【対策を進める際の留意点】

 今後、少子化対策を進める際には、「少子化社会を考える懇談会」中間とりまとめ(平成14年9月13日)において指摘されている次の事項に留意する必要がある。

 (1)「子どもにとっての幸せの視点で」

 子どもの数だけを問題にするのではなく、子どもが心身ともに健やかに育つための支援という観点で取り組むこと。

 (2)「産む産まないは個人の選択」

 子どもを産むか産まないかは個人の選択にゆだねるべきことであり、子どもを持つ意志のない人、子どもを産みたくても産めない人を心理的に追い詰めることになってはならないこと。

 (3)「多様な家庭の形態や生き方に配慮」

 共働き家庭や片働き家庭、ひとり親家庭など多様な形態の家庭が存在していることや、結婚するしない、子どもを持つ持たないなどといった多様な生き方があり、これらを尊重すること。


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