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資料2−1

微生物に係る基準の考え方(案)

(担当主査:遠藤委員)


 前回(10月7日)の本委員会において、微生物に関する基準については、次の事項について検討することとされた。

 1.「大腸菌群数」及び「一般細菌」の再評価  2.クリプトスポリジウム等の塩素耐性を持つ病原微生物対策  3.配管系における微生物の増殖対策

 このため、本委員会委員以外の微生物に関する専門家等の協力も得て、本委員会に対し、案を提示すべく検討を進めているところであり、その検討状況は別紙のとおりである。なお、上記2の課題に係る検討状況については、「資料2−2 微生物に関するリスク論」のとおりである。



(別紙)

病原細菌類に関する指標について

 水道水における病原微生物対策に際しては、原水中の病原微生物(糞便汚染、系内で増殖する病原微生物)の量、種類、存在様式、およびその変動、あるいは存在に影響する環境要因を知り、浄水処理において的確な消毒・除去を行うことが重要である。

 しかしながら、水系汚染に係る病原体種は多様で、病原体ごとの検査は技術的にも経済的にも現実性を欠くものと考えられる。加えて、培養法を基礎とした通常の微生物学的検査法では迅速性に欠ける点も指摘される。

 これらの問題に関する根本的な解決策はないが、現在のところ、指標細菌類の有効活用で対応している。指標細菌に求められる特性は限りなく多いものであるが、すべての条件を満たすような好都合な指標細菌が存在し得ないのも事実である。

 わが国の水質基準では浄水中の一般細菌と大腸菌群を検査し、最終産物である浄水の安全性を保障してきた。今回の水質基準飲み直しの検討対象とされる指標細菌類は以下のとおりであり、最後に比較表をとりまとめた。

(1) 一般細菌

 一般細菌検査の導入の経緯は、歴史的に有名なRobert Koch発想に依拠するもので、一般細菌が100コロニー/ml以下の状態ではコレラ患者の発生が無いという事実に基づいたものであった。本検査法が目指したところは糞便汚染の把握であったことは明らかである。

 その後の研究の進展により、大腸菌群、さらには大腸菌の定義が定まり、検査法が確立された。このような経緯の中で、一般細菌は糞便汚染の指標としての意義は薄らいだものの、指標としての役目を終えるのではなく、その意味付けを変えつつ今日まで用いられている。現在では、水道水系における微生物の総量を評価する指標として用いられている。また、浄水処理(凝集-沈殿-ろ過)の適正運転、あるいは消毒の効果判定に用いられている。

 微生物の総量評価では、後述の従属栄養細菌の方が検出スペクトルが広いことから指標的価値が評価されている。特に、配管系や受水槽で増殖するレジオネラ属菌類の対策が求められる状況下では、水道水系での微生物総量の測定が重要度を増すものと考えられる。

 一般細菌の利点は従属栄養細菌の培養(5〜7日間)に比べて遥かに迅速(24時間)に結果が得られることで、即時対応が求められる浄水処理の運転、あるいは消毒の効果判定に便がよいとの意見がある。

(2) 大腸菌群

 大腸菌群は糞便汚染の指標として広く用いられてきたが、Escherichia属、Citrobacter属、Enterobactor属、およびKlebsiella属、からなる細菌群である。また、環境が整えば、外界でも増殖しえる。したがって、必ずしも糞便汚染の指標として精度が高いとは判断できない。

 現在、水道水の飲料適否の判断は大腸菌などではなく、大腸菌群で行われている。その理由として、大腸菌群の方が大腸菌あるいは他の糞便性指標微生物よりも多数存在するため、安全側の指標検査方法とされるからである、との意見がある。しかしながら、指標的価値の高さと数の多さのいずれかを選択するかは議論の余地がある。

 なお、検査法としては、大腸菌群と大腸菌を同一の培地で同時に検出することができる。

(3) 大腸菌

 大腸菌は人および動物の糞便から検出され、外界での増殖が無いことから糞便性の指標としての信頼性が高い。クリプトスポリジウムの暫定対策指針で、大腸菌が糞便汚染、ひいてはクリプトスポリジウム汚染の可能性を示す指標と位置付けられており、これらとの整合性を図る必要がある。

 他の糞便指標細菌と比べると環境中での生存期間が短く、塩素に対して感受性が高いことから用途が限られるとの説もある。

 検査法が確立しており、大腸菌群の出現動向と対比しつつ測定できる状況にある。

(4) 従属栄養細菌HPC(Heterotrophic Plate Count)

 従属栄養細菌は、一般細菌が増殖しにくい低水温の水環境においても増殖できるため、有機汚濁指標として、また、配・給水系の衛生状態(塩素の消失や滞留)を捉える指標として評価されている。

 ちなみに、レジオネラ汚染に関しては、水道水における有機汚濁がその系での生物量を規定、ひいてはレジオネラの宿主アメーバ量を規定することになる。ただし、従属栄養細菌数とレジオネラの菌数との間に相関は見られていない。


表1 指標細菌類の概要

指標細菌
培養/判定条件
菌の性状 利点 / 採用の根拠 問題点
大腸菌群
(現行水質基準)

36±1℃
24±2時間

0 / 50ml
グラム陰性、無芽胞の桿菌であって、乳糖ブイヨンーブリリアントグリーン乳糖胆汁ブイヨン培地法(LB-BGLB法)によって乳糖を分解して酸とガスを生じる好気性または通性好気性の細菌。または、グラム陰性、無芽胞の桿菌であって、特定酵素基質培地法によって指定の酵素基質(ONPG / XGal)を分解し発色物質を生じる好気性または通性好気性の細菌。 大腸菌群が検出される状況では、数の上で糞便性大腸菌群が大多数を占める場合が一般で、検出が容易である。菌量が多く、環境中で大腸菌よりも長命であることから、ある程度時間の経過した、あるいはより遠くの発生場所での糞便汚染を表現し得る。


特異性を欠く

糞便汚染との因果関係に乏しい
大腸菌

36±1℃
24±2時間
特定酵素基質培地法によりβ-glucuronidase 活性を有すると判定された細菌 人および動物の糞便から検出され、外界での増殖が無いことから、糞便性汚染の指標として信頼性が高い。
他の糞便指標細菌と比べると環境中での生存期間が短いため、より特異的である。
特異性が高い分、検出量が少ない?
一般細菌
(現行水質基準)

36±1℃
24±2時間

≦100CFU/ml
標準寒天培地を用いて36±1℃で24±2時間培養したとき、培地に集落を形成する全ての細菌 従属栄養細菌のうち、温血動物の体温前後で比較的短時間に集落を形成する細菌。検出される細菌の多くは直接病原菌と関連はないが、多数検出される水は、糞便によって汚染されていることを疑わせる。一部の細菌は塩素に対して大腸菌群より強い抵抗性を持ち、塩素消毒後の水中には遥かに高い確率で存在する。このため、消毒効果を確認するのに有利とされる。
糞便汚染を直接表現しない。
従属栄養細菌
(HPC)

20-28℃
5〜7日間
有機栄養物を比較的低濃度に含む培地を用いて低温で長時間培養したとき、培地に集落を形成する全ての細菌 一般細菌が増殖しにくい低水温の水環境においても増殖できるため、原水においては有機汚濁指標として、また、配、給水系では衛生状態(塩素の消失や滞留)を捉える指標として有利。(水道施設の清浄度の低下を指摘する指標)。
検査方法が迅速性に欠ける
データの集積に乏しい


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