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失業者の増加に対する年金制度としての対応

1 失業に係る動向等
 産業構造の変化、国際化の進展、さらに近年における厳しい雇用失業情勢の下で、構造的失業の度合いが次第に高まっており、労働者がその職業生涯の間に失業を経験する可能性は、今後一層高まることが見込まれる。
 (1) 失業者数−拡大−
  (1) 完全失業者数 340万人(H13) ←225万人(H8) ←136万人(H3)
  完全失業率 5.0% 3.4% 2.1%
(労働力調査(H13))
  (2) 雇用保険(一般求職者給付)
    初回受給者 2,100千人(H12) 1,717千人(H7)
    受給者実人員 1,029千人(H12) 837千人(H7)
(雇用保険事業年報(H12))

 (2) 年齢別の状況−若年及び55歳以降の者の失業率が高い−
 
  男女計 15-24歳 9.6%、 25-34歳 6.0%、 55-64歳 5.7%
  男 15-24歳 10.4%、 25-34歳 5.5%、 55-64歳 7.0%
  女 15-24歳 8.7%、 25-34歳 6.9%、 55-64歳 4.1%
(労働力調査(H13))

 (3) 失業期間−失業の長期化−
 
○ 失業期間1年以上の者 92万人(27.4%) ← 36万人(18.1%)
  (H13-8) (H7-2)
(労働力調査特別調査)

 (4) 失業の要因−非自発的失業の増加−
 
(1) 休職理由別の離職者数
  自発的離職者 118万人
  非自発的離職者 106万人
  学卒未就職者 17万人
  その他(新たに仕事を探し始めた者) 85万人
(労働力調査(H13))
 
(2) 非自発的離職者数 106万人(H13) ←59万人(H8) ←31万人(H3)
  構成比 (31.2%) (26.2%) (22.8%)
(労働力調査(H13))

 (5) 失業期間中の生計等
 
(1) 主な収入
 
完全失業者374万人中、「収入なし」が190万人と過半数。収入がある者では,「雇用保険(失業給付)」が77万人,「年金・恩給」が33万人など。
(総務省統計局「就業希望状況調査 (平成14年4月・5月平均結果)」)
 
(2) 世帯主が完全失業者である世帯における家計をまかなった主な収入
 
「年金・恩給」23.9%、「雇用保険(失業給付)」22.5%,「預貯金等財産の取り崩し」21.1%など。
(総務省統計局「就業希望状況調査 (平成14年4月・5月平均結果)」)
 
(3) 完全失業者の雇用保険(失業給付)の受給状況
 
「受給・受給予定」101万人、「受給していない255万人」
(総務省統計局「就業希望状況調査 (平成14年4月・5月平均結果)」)
 
(4) 勤労者世帯との家計の比較(世帯主年齢40-59歳)
 
勤労者世帯の場合
 実収入603,611円、可処分所得493,014円、消費支出385,641円
失業者世帯(他に有業者なし)の場合
 実収入220,500円、可処分所得195,073円、消費支出279,339円
 ( 対勤労者世帯 実収入0.37、可処分所得0.40、消費支出0.72 )
(総務省統計局「全国消費実態調査 (1999年)」)

2 現行制度における失業者の取扱いとその問題点
 (1)  厚生年金の被保険者である者が失業した場合には、国民年金の第1号被保険者となる。
 ただし、「失業により保険料を納付することが著しく困難と認めらるとき」は、申請により、保険料の全額又は半額を納付することを要しない(国民年金法第90条、第90条の2)。
 (2)  近年、失業率が相当上昇する中で、被用者年金の体系から一律に排除した上で、自営業者等のための国民年金に加入させるという現行の仕組みをこのままにしておいてよいのか。
 
(1)  失業中は報酬比例部分が増加しないため、サラリーマンとして考えれば老後の十分な保障につながらない可能性。
(2)  たまたま失業中に死亡又は障害を負った場合には、それ以前にどんなに厚生年金の加入期間があっても障害厚生年金が受給できず、また遺族厚生年金についても加入期間が短い場合には配偶者がこれを受給できない場合がある。このため、サラリーマンないしその配偶者としての年金保障に欠ける可能性。
(注) 死亡した者が厚生年金の被保険者でない場合は、老齢厚生年金の資格期間を満たすときに限り、遺族に対し遺族厚生年金が支給される。
(3)  片働き世帯にあっては、離職前賃金が低い場合には、夫婦合わせた国民年金保険料が従前の厚生年金保険料を上回ってしまう事態もあり得る。このことは、報酬比例部分が一切増加しないことと相まって、年金制度への加入意欲を阻害するおそれ。
(4)  本人及び配偶者が比較的短期間に年金制度を移動することで、手続が煩雑となり、さらには加入漏れ等を生ずるおそれ。
3 検討にあたって参考とするべき様々な事例
 (1)  諸外国の年金制度における失業者の取扱い
   諸外国の年金制度において、失業者に対し何らかの措置を講じている例は別添1のとおりであるが、これらを概観すれば次の3つに大別することができる。
 
(1)  失業期間中は年金保険料を免除するとともに、当該期間を年金算定の基礎となる期間として扱う例(英、独、仏)
(2)  失業者は加入対象とならないが、失業期間が存在することが、年金額の算定上不利になりにくい制度設計としている例(米)
(3)  失業給付を所得とみなして年金保険料を賦課している例(スウェーデン)
 (2)  我が国における社会保険への任意加入の制度
 
我が国において、本来の被保険者以外の者が厚生年金に任意加入できる仕組みとしては、次の例がある(別添2参照)
(1) 第4種被保険者(任意継続被保険者)制度
(2) 高齢任意加入被保険者制度
また、健康保険においては、任意継続被保険者制度がある。
昨今の任意継続被保険者制度の動向は、別添3のとおりであるが、ここ数年で倍増している。
4 失業者についての様々な考え方と論点
 3を踏まえると、例えば次のような対応が考えられるが、それぞれに関する論点をどのように考えるか。
 (1)  失業者は厚生年金の(強制、任意も含め)加入対象としないが、失業期間が存在することが、年金額の算定上不利になりにくい制度設計(例:厚生年金の加入期間のうち、賃金の高い一定の期間(例えば35年)のみを年金額算定上の基礎とする)とする考え方
 
これに対しては、
(1)  加入全期間を年金額算定の基礎としている我が国の年金制度体系の基本的な見直しが必要となる上、保険料負担と給付の連動を強めつつある世界的な年金改革の動向に逆行することとなるが、これをどう考えるか。
(2)  年金財政への大規模な影響も避けられないが、これらの点をどう考えるか。
 (2)  失業期間中も厚生年金に強制加入とした上で、保険料を免除するとともに、当該期間を年金算定の基礎となる期間として扱う考え方
 
これに対しては、
(1)  定型的には収入のない失業者について、一律に国民年金ではなく、報酬比例の仕組みをとる厚生年金に強制加入とすることが妥当かどうか。
(2)  年金財政への影響が大きなものとなるのではないか。
 (3)  失業給付をいわば賃金とみなして、失業者も厚生年金に強制加入し、保険料を賦課する考え方
 
これに対しては、
(1)  保険給付に公租公課を付加していない我が国の社会保障体系の下で、失業給付に公租公課たる年金保険料を賦課するという仕組み自体をどう評価するか。
(2)  失業中であっても、失業給付が行われない期間がある場合には、保険料を賦課すべき賃金が存在しないこととなることをどう考えるか。
 (4)  厚生年金に任意加入制度を設け、失業者はこれを利用して任意加入できるとする考え方
   これに対しては、厚生年金の任意加入制度や健康保険の例を参考にすると、保険料は事業主分も失業者が負担することとなるため、保険料負担が倍増することをどう考えるか。


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