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(別紙)

企業組織再編に伴う労働関係上の諸問題に関する研究会報告の概要

I 企業組織再編時における労働関係上の問題点及び対応

 1 営業譲渡

  (1) 労働契約の承継について
   ・ 営業譲渡の法的性格、その経済的意義、我が国の雇用慣行、営業譲渡やそれに類する事業・施設の譲渡の多様性を考慮すれば、一律なルール設定は困難である。
   ・ 解雇規制に関して判例による権利濫用法理でしか対応がなされていない中で、営業譲渡に伴う労働契約の承継のルールのみを法律で定めることはバランスを失する面がある。
   ・ これらのことを総合的に勘案すれば、営業譲渡の際の労働契約関係の承継について、法的措置を講ずることは適当ではなく、労働契約の承継に関して生じている問題については、(2)で述べる対応により解決を図るべきである。

  (2) 労働契約の承継に伴い考慮すべき事項

   ア 通常の営業の一部譲渡の場合
    ・ 譲渡会社が、譲渡部門の労働者から同意を得ずに転籍させようとすることによる紛争が生じることがないよう、譲渡会社は転籍について同意を得なければならないことについて周知する必要がある。
    ・ 営業譲渡に伴う転籍拒否だけでは解雇の理由とはならず、この場合に、譲渡会社は当該労働者を他の部門に配置転換するなどの対応をしなければならない旨の考え方を明確に示して、企業に周知を図るべきである。

   イ 営業の一部譲渡のうち、不採算部門の譲渡などで承継されない労働者がいるために問題が生じている場合
 譲渡部門の労働者の一部が譲受会社に承継されない場合に、譲渡会社は承継されない労働者について配置転換など雇用の継続に最大限努力を払う必要があること、営業譲渡に伴う場合の解雇についても整理解雇に関する法理の適用があること、それまで働いていた部門が譲渡されたことだけでは解雇の正当な理由とはならないことなどを使用者に周知すべきである。

   ウ 倒産法制の活用を含め、譲渡会社が経営破綻している場合
 企業再生等に向けて、営業の一部譲渡または全部譲渡が活用されている場合における労働者の雇用や労働条件については、会社更生法等に基づく手続等において、労働組合等に適切な関与の機会が与えられ、管財人等が労働関係法を遵守し、裁判所が手続の過程で雇用等に適切な考慮をすることによって対応されるべきである。

   エ 新会社を設立し、営業を全部譲渡する場合
 譲渡会社及び譲受会社間の同一性がある場合で、その法人格が形骸化しているとき、あるいは、解雇法理や不当労働行為制度の適用を回避するために法人格が濫用されたものと認められる場合には、法人格否認の法理を用いて、両者間における雇用関係の存続が認められていること、労働者の承継に関して、不当労働行為に当たるような行為をすることは許されず、また解雇に関する法理を潜脱することもあってはならないことについての考え方を明確に示し、使用者に周知すべきである。

   オ 既存の会社に、営業を全部譲渡する場合
 営業の全部譲渡をする場合、譲受会社との間での労働者の受け入れ、譲受会社に承継されない労働者の再就職等について、譲渡会社の積極的な努力を奨励すべきである。

   カ 承継対象労働者の選定について
 承継対象となる労働者の選定基準について、譲渡会社との間で適切に協議されることが必要である。
 また、具体的な人選に当たって、不当労働行為等に該当するような、法律に違反するような取扱いが行われることがないよう、譲渡会社及び譲受会社に対して周知を図る必要がある。

  (3) 労働契約承継に伴う労働条件の変更
 労働条件の変更を巡る紛争が生じないよう、譲受会社において労働条件が変更されるのであれば、譲渡会社は、労働契約の承継に関する同意を得る際に、労働条件の変更を含めて、労働者の同意を得る必要があり、譲渡会社及び譲受会社が適切な対応を行うよう、これらの考え方を周知する必要がある。

  (4) 労働組合、労働者との協議

   ア 労働組合
 営業譲渡が労働者の理解を得て円滑に行われるために、譲渡会社において適切な対応が行われるよう、労使協議の在り方について、労働契約承継法に基づく指針に示されている会社分割の際の労働者代表との協議に準じたものを示して、周知を図るべきである。
 また、営業譲渡に伴う労働契約の承継、労働条件等に関しては、労働組合法上の団体交渉事項に該当するものであり、譲渡会社は労働組合と誠実に団体交渉をしなければならない。

   イ 労働者
 営業譲渡に伴って譲受会社に転籍させる場合には、該当労働者の個別同意を得る必要があり、譲渡会社において、この手続が適切に行われるよう、個別同意を求める際における労働者への情報提供等について、適切な対応の在り方を示す必要がある。

 2 合併
  ・ すべての権利義務が包括的に承継される合併の場合、労働契約や労働協約の承継について、基本的には法的な問題はない。
  ・ 労働条件の取扱いについて、労働契約承継法の指針における労働条件等に関する事項の記述を参考に、周知することが適当である。
  ・ 労働組合や労働者に対して、新会社の概要などに関する十分な情報が提供される必要があり、営業譲渡の場合に準じて、情報提供や労使協議の在り方を示すべきである。

 3 会社分割
 平成13年4月1日より労働契約承継法等が施行され、一定の労働者保護が図られているところである。現時点では施行後間もないこともあり、特段の問題が生じていないものと思われ、今後とも周知啓発が十分に図られることが必要である。今後の状況を見つつ、必要に応じて検討することが適当である。

III 結論
 ・ 企業組織再編に伴う労働関係上の諸問題について、営業譲渡時における労働契約の承継の問題を中心に、現状把握を踏まえた検討を行ったが、特段の立法措置が必要であるとの結論には至らなかった。
 ・ しかしながら、我が国において、企業組織再編が活発に行われることが想定されるところであり、円滑に企業組織再編が行われるためには、企業が判例法理を含めた現行の法的枠組みを踏まえ、労働関係に配慮しつつ対応するとともに、労使間で十分な情報提供、協議が行われることが必要である。
 ・ このため、上記で指摘した事項を中心に、企業組織再編に当たって、企業が講ずべき措置、配慮すべき事項等に関する指針を策定し、その周知を図ることが必要である。


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