資料5 |
目次
生殖補助医療に関するインフォームド・コンセント
-特に非配偶者間体外受精の場合のインフォームド・コンセントの在り方についての指針-
1 | 生殖補助医療に必要な注意事項とインフォームド・コンセント | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
2 | インフォームド・コンセントの内容 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
3 | 非配偶者間体外受精に関するインフォームド・コンセントの場合
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生殖補助医療に関するインフォームド・コンセント
-特に非配偶者間体外受精の場合のインフォームド・コンセントのあり方についての指針-
生殖医療一般におけるインフォームド・コンセントの内容には以下のような事項が含まれる。
(1) | 不妊検査の概略(基礎体温、精液検査、子宮卵管造影、頸管粘液検査、性交後試験、超音波検査、内分泌検査、子宮鏡検査、腹腔鏡検査、排卵障害の有無、多嚢胞性卵巣の有無、プロラクチン値の測定、子宮内膜症の有無、子宮筋腫の有無、卵巣嚢腫の有無、子宮内膜ポリープの有無、卵管閉鎖の有無など) |
(2) | 不妊治療の概略(タイミング療法、夫精子による人工授精、ホルモン療法、排卵誘発、子宮筋腫核出術、卵巣嚢腫摘出術、マイクロサージェリー、腹腔鏡下手術、経頸管的粘膜下筋腫、ポリープ切除、体外受精・胚移植、顕微授精など) |
(3) | 治療に要する期間、妊娠率、流産率、奇形率、染色体異常率など |
(4) | 副作用(多胎妊娠、卵巣過剰刺激症候群、手術操作に対するリスクなど) |
1 生殖補助医療に必要な注意事項とインフォームド・コンセント
生殖生理学の進歩に基づく生殖補助医療は不妊診療の発展に多大の貢献をもたらした。しかし一方ではこうした生殖補助医療による非配偶者間体外受精などの第三者生殖の適応症例の存在は生命倫理問題に新たな論点をもたらすに至った。本来、生殖行為はプライベートな行為であり、生殖医療に携わる者は不妊女性やその関係者、さらに生まれてくる子供の基本的人権を守り、個人的な情報や基本的人権としての権利の行使の問題、また生殖医療によって不当な差別や犠牲的行為が起こらないように、また必要に応じて適切な医療および支援が受けられるように努めなければならない。
2 インフォームド・コンセントの内容
生殖補助医療に関してはこの目的のために次に掲げる各項目に留意したインフォームド・コンセントが考えられる。
(1) | 生殖補助医療のICは生殖生理学、生殖医学、発生学など全般的知識を有し、生殖診療の経験が豊かで、医療相談、カウンセリングに習熟した医師(例えば専門医)によって行われるべきである。ただし生殖補助医療を必要とするような難治性不妊患者は長期の治療経過により心理的抑圧、情緒障害を潜在的にもっている場合が多く、不妊カップルにカウンセリングの必要性を理解させた後、不妊カウンセリングや時には心理カウンセラーによるインタビューを受けさせることが必要となる場合もある。 |
(2) | 医師はできるだけ正確な最新の情報をカップルに提供するように努めなければならない。これには提案されている治療の限界と可能な結果、および効果の時間による変動が含まれ、自施設の治療サイクル当たりの出生率と全国平均の治療サイクル当たりの出生率を含めて説明するよう心がける。また、治療手段の種類、適応、方法、年齢別の臨床的妊娠率、生産率、流産率、多胎妊娠率、女性や生まれる子どもの副作用と危険性の可能性、それにかかる費用、生殖補助医療以外の方法、たとえば養子縁組などについての情報も含まれる。これらの説明にあたっては医師は出来る限りカップルに対して理解可能な平易な言葉で行い、その説明内容をカルテに記載し、一定期間(少なくとも5年間)保存する必要がある。 |
(3) | 不妊カップルには生殖補助医療について知る権利とそれを拒否する権利(知りたくない権利)を有しており、それはとりもなおさず女性の基本的権利として認められている「生殖に関する女性の健康と権利」(reproductive health & rights)に帰属するものである。この治療においては、それを受ける権利と受けない権利の両方を保証するものであり、いずれも尊重されなければならない。したがって生殖補助医療はそれを受ける者の自律性に基づいた意思決定にしたがって行われ、この自己決定については医師、不妊カウンセラーの示唆もしくは指導によって行われることのないように配慮しなければならない。 |
(4) | 生殖補助医療に含まれる検査、診断、治療行為に対しては全てインフォームド・コンセントを得なければならないが、その場合、上述の情報は勿論、それらの施行にあたっての危険性などについての情報も正確に患者に伝えられなければならない。また ICを得た後でも患者の自由意思によりいつでもその同意を取り消す事が出来、それによって患者はなんらの不利益を被るものではないことも伝えなければならない。 |
(5) | 生殖補助医療は本来、夫婦の自主性に基づく意思決定によりなされるべきである。どちらか一方が意思決定の能力あるいは意思を表現する能力に欠ける場合、相手方の意思のみで決定されるかどうかは慎重に判断されるべきであり、一律に定められてはならない。生殖医療はあくまでもカップルおよび生まれる子どもの福祉と利益を保証するものでなければならず、親、家族、友人などの代諾者から同意を得て実行することは避けなければならない。 |
(6) | 不妊カップルの生殖医療の実行に関する申し出について、医師がそれを判断して社会的、倫理的規範に照らして、もしくは自己の信条として同意出来ない場合、あるいは関連医学会の公表する会告、通達に違反すると思われる場合にはそれを拒否することが出来る。 |
(7) | 生殖医療のプログラムに組み入れられた患者個人、配偶者もしくは関係者についての知り得た生殖機能や生殖遺伝に関する情報は守秘義務の対象となる。したがって医師は勿論、看護師、心理、不妊カウンセラー、生殖補助医療胚培養士、体外受精コーディネーターなどのコメデイカルスタッフも慎重な配慮が要求される。ただし情報の公開が社会一般の利益に適うなどの必要性があって、情報公開に関する不妊カップルの同意が得られた場合、個人の特定が出来ないような匿名性のもとに守秘義務を解くことが出来る。しかしこのような判断は個人の判断によるよりも施設内倫理審議委員会などに委ねられるべきであろう。 |
3 非配偶者間体外受精に関するインフォームド・コンセントの場合
生殖補助医療が普及した今日でも、配偶子である精子、卵子あるいは子宮そのものが無ければ、不妊カップルの遺伝的特性を受け継いだ個体を得ることは出来ない。現在の生殖補助医療でも挙児を望めないカップルは多数存在すると考えられる。非配偶者間体外受精しか挙児を得る手段が無く、卵子・胚の提供を受けることを考えているカップル(受容者)に対して、実際にこの手段を行う場合を想定してどのような点に注意するべきか、またどのような説明と同意が必要であるかを、そして卵子・胚提供者(提供候補者)に対してどのような説明、注意、選択(スクリーニング)および同意が必要かを欧米の非配偶者間体外受精実施施設での現況報告資料を基に日本の風土に配慮して概説する。
1)医学的インフォームド・コンセントの内容に関する説明の主体について
診断、検査、治療などに関わる医学的内容の説明および医療相談は一般的生殖医療の項でも述べたごとく、医師の義務・権限の範囲であり、生殖医療に関する医学的ICは医師が行わなければならない。
(1) | 非配偶者間体外受精に関しても、これに係わる生殖医療専門施設の責任医師、担当医が次に掲げる各項目に留意したICを実施すること、 |
(2) | ICを得るまで何回でもインタビューに応じ、必要があれば体外受精コーディネーターなどの意見や説明を取り入れた上で十分に納得させてICを得る必要がある。 |
(1) | 卵子・胚提供は不妊症患者のうちで卵巣が無いか、あるいは卵巣機能が完全に欠落しているために自己の卵子が使用出来ない場合に限り用いられ、その他の理由や研究のために用いられることはない。 一方、精子提供は男性が無精子症であるか、極端な乏精子症で、顕微授精を行なっても受精せず、妊娠不可能と考えられる症例が適用となる。 |
(2) | 説明を受け同意する客体は提供者とその配偶者であり、卵子・胚の提供に同意する旨の文書によるICを実施責任医師と取り交わす義務があるあること、また受容者とその配偶者も実施担当医師と文書によるICを取り交わす必要がある。 |
(3) | 卵子・胚提供希望者はプログラムに登録される前に、(1)提供しても良いという気持ちに至った理由、(2)予備的な遺伝医学的スクリーニングによって提供者として適切であるかの審査を受けることが前提条件となる。 |
3)非配偶者間体外受精について説明する内容とインフォームド・コンセントの在り方
精子、卵子、胚の提供は無償で行われ、それらによる生殖補助医療を受ける場合には精神的、遺伝的あるいは肉体的リスクを負って提供された精子、卵子、胚を利用することになるため、提供者と提供を受ける者の双方に対するインフォームド・コンセントが必要である。
(1) | 生まれる子供に対する親権について 提供卵子による妊娠で出産した児への親権については非配偶者間体外受精の先進国である米国でも未だ5州(フロリダ、ノースダコタ、オクラホマ、テキサス、ヴァージニア)で法律が定められているに過ぎない。したがって大多数の州では提供卵子、胚の妊娠については単に提供者が親権を放棄することを求めている精子提供に関する法律を拡大解釈して対応しているのが現状である。また各非配偶者間生殖補助医療プログラムでは提供者、提供を受ける者の夫婦双方が生まれてくる子供の親権の帰属についてそれぞれ個別に医師や生殖コーディネーター(必要に応じて弁護士)立ち会いの下で話し合い、承諾、同意した旨のインフォームド・コンセントに署名、捺印することが必須となる。法的な親の確定は親権者の決定、相続権の有無などのすべてが関わってくるので生まれる子供にとって非常に重要であり、親子関係を明確にする法律とインフォームド・コンセントの内容の整備が必要となる。 |
(2) | 予期しない生存児(wrongful life baby)について 第三者の卵子・胚を用いる非配偶者間体外受精では、出生児に予期しない突然変異の遺伝病、染色体異常、奇形が生じることがある。このような事例はすでに卵子・胚提供の先進国である欧米でも法律問題になっており、事前に生まれた子供の福祉を第1に考え、どのような場合でも生まれる子供に対する義務・責任の一切を受容者が負う事、提供者には一切の義務・権利が認められないことを双方の合意事項としてインフォームド・コンセントに盛込まなければならない。 |
4 ) 提供者の権利に関するインフォームド・コンセント
卵子提供者には卵巣刺激、採卵などの際に予期しない副作用、合併症が生じることがあり、この際の治療、保障に関して誰が責任を負うか、あるいはどちらの医療保険によって支払われるかという点について事前に明確にしておかなければならない。
(1) | 卵子・胚の提供者の個人情報の保存・保護について 卵子・胚提供は匿名性が原則であり、ボランティアベースか、不妊患者間のegg sharing (受精卵の分配)のかたちで行われる。この際、原則として匿名性の保持により、提供を受ける者が特定されるような個人情報は提供者に告げられない。また反対に提供者が特定される個人の情報も、提供者が開示の許可を与えない限り、提供を受ける者に教えられることはない。しかし、生まれた子どもが配偶子や胚の提供により出生した事実を知った時、提供者を特定することができないものについては子どもに知らされる場合があることの同意を提供者から得ておく必要がある。一方、近親者や友人間の卵子・胚の提供はお互いに特定できる関係にあり、提供者も提供を受ける者も子どもの出自を知られる事態が起こりうることを認識しておかなければならない。 |
(2) | 卵子・胚提供に関して提供者に告げられる情報について。 卵子提供者に採卵後に与えられる情報は採卵された卵子の数、卵子の成熟度に関してのみである。卵子提供者が不妊患者でegg sharingの場合も採取卵子の総数、卵子の成熟度と提供卵子数のみを告げるものとする。また胚の提供者には胚の質と提供可能な胚の数を告げる。これ以外の情報は一切提供者に告げることは出来ない。 |
(3) | 提供者の知り得る情報について 提供者は、提供を受ける者や生まれてくる子供を同定することは出来ない。卵子提供者に提供された卵子によって受精卵が得られたかどうか、あるいは卵子・胚提供者に提供された卵子・胚によって提供された者が妊娠・出産に成功したかどうかは一切提供者に教えない。 |
5)提供者が受けるスクリーニングについて
精子・卵子・胚提供者が受けるスクリーニングの内容は以下のごとくであり、これらのすべてを受けることに同意しなければならない。
(1)精子・卵子および胚提供者とその家族の医学的背景
(1) | 家族歴について 家族歴は提供者の近親者である両親、兄弟姉妹、子供などについて聴取する。また叔父、叔母、従兄弟、甥などについても必要ならば情報の提供を求める。 これら近親者の中に次世代に影響を与えるような重篤な遺伝病をもった人がいた場合は、それを提供される者に告げなければならない。その上で、提供を受けるか否かの判断は本人に任せるべきである。 |
(2) | 精子・卵子・胚の提供者個人の医学情報について 本人の血液型および一般人に対して行われているような健康診断的なスクリーニング検査が求められる。遺伝病に関わるような家族歴、既往症の有無、梅毒及びB、C型肝炎ウィルス検査、HIVテストについてのチェックは全員に行われる。米国の生殖医学ではこれらに加えてサイトメガロウィルス、クラミジア検査が加えられる。 |
(2) | 心理スクリーニングとカウンセリングについて 卵子・胚の提供候補者、提供を受ける予定者の双方が生殖補助医療のプログラムを開始する前に心理学的スクリーニングテストを受けることが求められる(英国では一般生殖補助医療のプログラムでもこのスクリーニングテストを義務付けており、特に卵子提供希望者の10%が心理的スクリーニングで不適格となることが報告されている)。また卵子提供候補者、提供される予定夫婦とも実施を選択するべきかどうか、意思決定に至るまでに、何回でもカウンセリングが受けられる。客観的な外部評価が求められる場合などには、院外カウンセラーあるいは専門精神科医などを紹介し納得できるまで十分に話し合うような機会をもうけた方がよい。 これらの心理スクリーニングとカウンセリングにおいて知り得た個人的情報は、担当医師あるいはカウンセラーのもとに保存され守秘する義務がある。しかし、医療チームのスタッフがその内容を医療の遂行にあたり必要と認めた場合、その情報が告知される可能性があることを卵子・胚提供候補者、提供を受ける予定者に説明し、医学的インフォームド・コンセントとは別に心理テスト、カウンセリングに関するインフォームド・コンセントを得ておく必要がある。この際のICの取得は医師及び臨床心理士カウンセラーが行い、医師がそのインフォームド・コンセントの管理にあたることが必要である。 これらの医学的、心理的スクリーニングによって、提供者として不適格であるという情報や検査結果が得られた場合には、提供者リストには登録しない。提供候補者が提供者として不適格とされた場合、その候補者はその理由を説明される権利を有すること。検査に要した費用は提供される予定者が確定している場合には予定者負担、確定していない場合は提供候補者自身が負担するべきこと。検査中の医学的リスクの説明を十分に受け、理解すること。スクリーニングを行ったもの以外の医学的問題が生じた場合は提供を受けた者が負うべきこと。 |
6)提供候補者の登録と注意事項の説明
これらの審査をパスした候補者は卵子・胚提供者リストに登録され、以下の注意事項の説明を受け十分に理解し同意する。
(1)非配偶者間体外受精の方法と管理について
(1) | 生殖補助医療が普及した今日でも、配偶子である精子、卵子そのものが無ければ、不妊患者夫婦の挙児希望を叶えることは出来ないことがある。このため第三者の精子、卵子の提供を受け受精、妊娠するか、もしくは胚を提供を受けて胚移植による挙児を目指すものである。 |
(2) | もし卵子提供者が経口避妊ピルを使用している場合には直ちに中止すること、但し子宮内避妊器具(IUD)の使用は差し支えない。しかし卵子提供者として採卵周期に入った場合は、その期間の性行為は禁止する。 |
(3) | 卵子提供の場合、採卵を確実に実施するためには排卵誘発剤(hMG,FSH, GnRHアナログなど)による卵巣刺激法の施行、卵胞の成熟度確認、副作用の予防などのために毎日通院する必要がある。 |
(4) | 卵子提供者には卵巣刺激法の開始前に、なぜそれが必要なのか、いつから何日間位通院する必要があるのか十分な説明を受ける。 |
(5) | 卵巣刺激開始前、中間および最終日には担当医によって経腟超音波検査、ホルモン検査などが施行される。その結果、卵胞の成熟が確認されれば、定められた時間に来院し、hCGの注射を受ける。 |
(6) | 採卵は超音波ガイド下による経腟採卵法によって行われる。 |
(7) | 採卵を行う際には静脈麻酔がかけられる。 |
(8) | 卵子提供者に対する採卵後のケアは24時間の安静、鎮痛剤、抗生剤の処方などである。また採卵後1週間、生殖医療に携わる生殖専門看護師が採卵後の症状、状態についていつでも質問、疑問に答えられるように待機する。 |
(2) | 非配偶者間体外受精の成功率と医学的リスク とくに卵子提供者には以下の情報について十分な説明がなされるべきである。 |
(1) | 非配偶者間体外受精の成功率は卵子提供者を35歳未満に限定することで通常の生殖補助医療の成績より好成績であることが報告されている。 |
(2) | 卵巣刺激法を実施している間は下腹部の違和感、膨満感などの卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の前駆症状にに対する注意が必要であり、もし問題が生じた場合には担当医師あるいは生殖専門看護師がいつでも相談に応じられるような体制を整える。 |
(3) | 卵巣刺激法を受けることによりOHSSになる可能性はあるが、卵子提供者は胚移植を受けないので、その危険性は通常の体外受精・胚移植より少ない。 |
(4) | 採卵操作によって通常の生殖補助医療と同様の出血、感染、他臓器穿刺、麻酔合併症などのリスクが考えられる。 |
(5) | ゴナドトロピンによる卵巣刺激によって卵巣癌のリスクが高まるという報告もあるが、まだ実証されていない。 |
(6) | 卵子提供の場合、卵巣刺激法を実施したことによって、その後に提供者自身の妊孕性が低下することはない。 |
(1) | インフォームド・コンセントを得た後でも提供者の自由意思により、いつでもその同意を取り消す事が出来る。その手続きは単に担当医師に申し出て、卵子・胚提供の中止申請書に署名捺印をすればよい。それによって提供者は今後の診療になんらの不利益を被るものではないことも伝えなければならない。また提供を受ける者は何時いかなる時でも提供者の自由意思により、提供が中止されることがあり得ることを前もって知っておくべきである。 |
(2) | 卵子・胚提供は何時いかなる時でも本人の意思で卵子・胚提供を中止することが出来るが、卵子提供の場合、hCG注射後に採卵せずに中止することはOHSSなどのリスクが伴うであろうことを提供者に説明しておく必要がある。 |
(4) | 卵子・胚提供に要する費用と支払い分担 ボランテイアベースの卵子提供者は、卵巣刺激法、ホルモン検査、超音波検査、採卵、麻酔、投薬、通院に要する費用など一切、また胚提供者はこれに加えて採精、受精・培養、胚の凍結保存に関わる費用を提供を受ける者に負担してもらう権利を有するが、卵子・胚提供に対する対価として謝礼を要求することは出来ない。ただし、交通費などを含む実費相当分についてはその限りではない。またegg sharingの場合には相互間で卵子を分け合うことになるので、提供者、提供を受ける者の双方が費用負担を折半することが原則となる。ボランテイアベースの卵子提供者が本人の意思で卵子提供を途中で中止した場合も、それまでにかかった費用は提供を受ける者が負担することとする。 |
(1) | 生まれた子どもに対する養育について 妻が生殖補助医療の実施に際して夫の同意を得て出産したとき、その子の父は生殖助助医療に同意した夫であり、分娩した妻が母となる。民法772条では、親は母から決まり、その女性と婚姻関係にある夫が父と推定されるとされている。非配偶者間の体外受精で生まれた子どもとその両親のいずれかあるいは両者が遺伝的に関係のないことも当然起こってくる。このような状況を勘案した親子法の改正は未だなされておらず、生殖技術が先行し家族法が新しい技術の発展に対応していないのが現状である。提供された精子・卵子・胚によって出生した子どもについては、両親の納得のもとに生まれた子どもであり、提供者の子どもに対するいかなる権利も義務もないものと明確に規定している。提供された配偶子や胚によって生まれた子どもについては、子どもとして育てる意思と養育の事実とを血縁に優先させ、遺伝的な親を親子関係から切り離したものであるから、親子法の整備が不可欠である。 | ||||
(2) | 非配偶者間体外受精に関する個人情報の保存・保護について 第三者生殖においては通常の生殖補助医療と異なり、提供者、提供を受ける者、生まれてくる子供の医学的情報、個人の記録、カウンセリング内容などの恒久的な保存と適切な情報の開示が極めて重要である。これらは当該施設で恒久的に保存されるが、今後公的管理運営機関などに委託し、一元的に管理する体制ができることが望ましい。 | ||||
(3) | 非配偶者間体外受精によって生まれる子供の法的親子関係について 精子・卵子・胚の提供者はそれにより生まれてくる子供に対して一切の権利も義務もないことを明確に同意すること。特に近親者あるいは友人間の提供の場合には子供の複雑な立場、心理を理解して、子供の福祉を最優先に考え、遺伝上の親としての権利や利害を何時いかなる場合でも主張してはならない。 | ||||
(4) | 非配偶者間体外受精によって生まれた子の出自を知る権利について。 卵子・胚提供により生まれた子の出自を知る権利は子供が成人に達すれば個人のアイデンティティーに関わる重要な権利であり、本人が知ることを望むなら、提供者が特定出来る事実以外の情報開示は認められるべきである。次のような理由から子どもに対して出自を知る権利を保障していくことが必要であると主張されるようになった。
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