戻る
資料3
わが国における今後の不妊カウンセリングのあり方

不妊心理カウンセリングとは

 医師や看護婦等は医療関係者として基本的な心理的援助技術を持っていることが求められる。しかしながら、不妊の独特かつ複雑な心理過程を理解し必要な心理的支援を行うためにはより専門的な知識と技術が必要である。本稿では、生殖補助医療について基本的な知識をもち、専門的なカウンセリングの知識と技術を持ったカウンセラー(以下不妊心理カウンセラーと呼称)が行う心理的支援を不妊心理カウンセリングと呼び、それ以外の基本的なものについては不妊相談と呼び区別することとする。

不妊心理カウンセラーの役割と要件

1) 不妊心理カウンセラーは、生殖医療を必要としている女性/男性やカップル、またはその家族等に対して、心理的な支援を行う。

 生殖医療を必要としている女性/男性やカップルは、不妊ゆえの欠如感や喪失感、自尊感情の低下、具体的な被差別体験による傷つき、子どもをもてないかもしれないという恐怖など、独特かつ複雑な心理過程が考えられる。また生殖医療の治療過程それ自体が身体的のみならず精神的にも大きな負担を必要とする性質をもつ。これらを理解し、必要な心理的支援を行わなければならない。

2) 不妊心理カウンセラーは、生殖医療についての基本的な知識をもっており、専門的なカウンセリングの知識と技術を身に付けている必要がある。また、生殖医療をめぐる国内外の規制等についても熟知している必要がある。

(1) 女性/男性やカップルに対して医学的情報を提供するのは医師の役割であるが、不妊心理カウンセラーも産科婦人科学、生殖医学、発生学等について学び、生殖補助医療について基本的な知識を身に付けておかなければならない。
(2) 生殖医療を必要としている女性/男性やカップル特有の心理過程を理解するとともに、面接・心理検査等を用いてそれらを的確にアセスメントし、必要な心理的支援を行うためには、専門的なカウンセリングの知識と技能が必要である。
(3) 生殖医療をめぐる倫理的・法的・社会的問題について一定の見識を持ち、国内外の規制、特に国内の法・通達・ガイドライン・審議会等の動向などについて熟知していなければならない。
3) 不妊心理カウンセラーには、生殖医療を提供する医師や他の専門職との協力関係を維持する資質が求められるが、医療技術そのものを提供する側とは一線を画し、自律的な立場から女性/男性やカップルを支援する必要がある。

 不妊心理カウンセラーの役割は、生殖医療を提供する医師の業務を補助するものではなく、また、医師の指示のもとに女性/男性やカップルに対して医療的指導を行うものでもない。医師との協力関係を維持しつつも、あくまでも自律的に支援する立場でなければならない。これは医師以外の専門職との関係においても同様である。

4) 不妊心理カウンセラーは、生殖医療を提供するすべての医療機関に配置される必要があるが、当面は全国の不妊心理カウンセラーがネットワークを組織し、公的管理運営機関(仮称)において、必要とされる医療機関に派遣され、業務を行う。

 本来、生殖医療における心理的支援は、生殖補助医療を求めて医療機関を訪れたときからその対象になりうるものであり、高度な生殖補助医療が必要になってはじめて開始されるものではない。しかしながら、生殖医療を提供するすべての医療機関に不妊心理カウンセラーの配置を求めるのは、マンパワーの点からみても現実的ではない。したがって当面は、公的管理運営機関(仮称)が全国の不妊心理カウンセラーのネットワークを把握し、地域の医療機関からの要請に基づき派遣依頼等を行うことで対応することとする。

不妊心理カウンセラーが提供する心理臨床サービス

 不妊心理カウンセラーが提供できる心理臨床サービスの内容は、代表的なものとして以下のようなものがあげられる。

1) 心理学的アセスメント
 面接・心理検査等を用いて心理学的診断や現状の把握を行う
2) 問題明確化カウンセリング
 対象者が自分たちの願望や考え、感情や行動を理解するのを助ける
3) 夫婦/家族カウンセリング
 不妊の心理的問題は個人だけでなく夫婦や周囲の家族、そして社会を含めたシステムとして機能しているため、それらの多面的な対人関係の問題を解決するのを助ける
4) 精神力動的カウンセリング
 子どもに対する願望は多くの場合意識的/無意識的に思い描くライフストーリーの重要な一段階である。各個人が持つ固有のReproductive Storyを理解するのを助ける
5) 意思決定カウンセリング
 対象者の希望や価値観、願望などについて明らかにし、可能な選択肢についてリスクと利益について検討するのを援助する
6) ストレスマネジメント
 リラクゼーションや適切な自己表現の指導などにより、治療ストレスを軽減し、ストレスへの対処能力を向上させる
7) グリーフ(悲嘆)カウンセリング
 不妊特有の喪失を受容する過程を援助する

他職種と不妊心理カウンセラーの関係

・生殖医療コーディネーター、認定看護師(不妊看護)

 生殖医療に関する知識が豊富であり、心理的援助技術に関しても基本的な要件を満たしている。しかしながら医療技術を提供する側と一線を画すことが難しい。また、不妊の複雑な心理過程を扱うだけの専門的な知識や技術、そして時間が不足している。不妊相談の水準での心理的支援を担当し、患者を不妊心理カウンセラーに円滑に橋渡しする重要な役割を担うのが適当であると考えられる。

・遺伝カウンセラー

 遺伝カウンセリングは、不妊心理カウンセリングにおいても出現する重要な分野であるが、これに関してはわが国では医師を主体とした活動がなされてきた。しかし、不妊心理カウンセリングは遺伝的問題よりも幅広い問題を扱う点、遺伝カウンセリングは主に遺伝的事実の説明が主であるのに対し不妊心理カウンセリングはより心理的側面への援助が主である点などから、不妊心理カウンセリングにおいて遺伝カウンセリング的な問題が発生した場合に、不妊心理カウンセラーが遺伝カウンセラーを紹介するというチーム医療体制を確立することが重要である。諸外国においても不妊カウンセラーと遺伝カウンセラーは連携しながら患者ケアにあたっているようである。

・社会福祉士・精神保健福祉士

 生まれてくる子を養育するための社会的安定度などを調査する上で、ソーシャルワーク的かかわりは必須である。また、経済的問題を扱うことも重要である。しかし、社会福祉士が当該医療の分野に参入するだけのマンパワーが不足しており、またこれらの問題に対しては、生殖医療コーディネーターがその任務を負うことが可能であると考えられる。

非配偶者間の生殖補助医療における不妊心理カウンセリングの主体(カウンセラー)の要件

 非配偶者間生殖補助医療におけるカウンセラーの役割は、面接や心理検査等を用いた心理学的スクリーニング、治療前中後の期間を含めたカウンセリングであり、複雑化する家族関係や子の出自を知る権利の保障等を考慮し、当該治療参加者が適切な選択ができるよう援助することを目的とするため、専門的な臨床心理学的知識と援助技術を要する。したがって、当該治療におけるカウンセリングは、不妊心理カウンセラーが実施するのが望ましい。

医療機関とカウンセラーとの関係

 本来、生殖医療における心理的支援は、生殖医療を求めて医療機関を訪れたときからその対象となりうるものであり、高度な生殖補助医療が必要になってはじめて開始されるものではない。しかしながら、生殖医療を提供するすべての医療機関に不妊心理カウンセラーの配置を求めるのは、マンパワーの点からみても現実的ではない。したがって当面は、公的管理運営機関(仮称)が全国の不妊心理カウンセラーのネットワークを把握し、地域の医療機関からの要請に基づき派遣依頼等を行うことで対応することとする。
 不妊心理カウンセラーの役割は、生殖補助医療を提供する医師の業務を援助するものではなく、また、医師の指示の元に対象者に医療的指導を行うものでもない。医師との協力関係を維持しつつも、あくまで自立的に支援する立場でなければならない。この要件が満たされれば当該治療を提供する医療機関に所属する不妊心理カウンセラーが勤務先の医療機関の患者のカウンセリングを行うことも可能である。
 治療を提供する医療機関に不妊心理カウンセラーが存在しない場合は、公的管理運営機関(仮称)に登録してある近隣の不妊心理カウンセラーの派遣を要請する。
 不妊心理カウンセラーに対する、提供を受ける者、提供する者の情報の開示に関しては、治療チームとしての守秘義務を遵守することとし、必要な医学的情報が不妊心理カウンセラーに伝えられるべきである。


トップへ
戻る