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保健医療分野の
情報化にむけてのグランドデザイン

最終提言


保健医療情報システム検討会


保健医療情報システム検討会委員

はじめに

医療の将来像を踏まえた医療の課題と情報化

情報化で5年後に医療がどう変わる
1.医療機関に行く前に
2.診察の時
3.在宅で
4.救急時
5.日本の医療全体として

医療情報システム構築の戦略
1.医療情報システム構築のための達成目標・発展段階の設定
2.レセプト電算処理システムの計画的推進

保健医療福祉総合ネットワーク化への展開
1.健康づくり・疾病予防
2.介護・福祉
3.医薬品・医療材料


保健医療情報システム検討会委員

(五十音順) ○座長
石川 准 静岡県立大学国際関係学部教授
井上通敏 日本医療情報学会長
大山永昭 東京工業大学教授
開原成允 医療情報システム開発センター理事長
齊藤孝親 日本大学松戸歯学部口腔診断学教室助教授
坂本すが NTT東日本病院看護部長
西島英利 日本医師会常任理事
樋口範雄 東京大学法学部教授
藤本利雄 保健医療福祉情報システム工業会
細羽 実 日本医用画像システム工業会


はじめに

◯ 保健医療分野の情報化にむけてのグランドデザインに関しては、平成13年3月28日より保健医療情報システム検討会において検討を開始し、保健医療分野の情報化に関する理念と目的、現状、将来像と、それに向けた現在の目標と課題などについて総合的に取り上げ、8月8日に第一次提言として、その基本的な考え方を示したところである。(別添 1)。

◯ その後、平成13年9月25日に、厚生労働省の医療制度改革試案が公表された。この改革試案においては、医療保険制度の改革のみならず、今後の医療のあるべき姿についても別添「21世紀の医療提供の姿」の中で示されるなど、21世紀の我が国の医療に関する総合的・包括的な制度改革案となっている。この中で、保健医療分野における情報化についても重要な柱の一つと位置づけられ、これを着実に実施するため、グランドデザインを策定することが表明されている。

◯ このため、今回の最終提言に当たっては、この「医療制度改革試案」で提示された「21世紀の医療提供の姿」が描く医療の将来像を踏まえ、情報化が我が国医療の将来像にどのような影響を与え、どのように貢献するものであるかを提示することとした。

◯ また、情報化が我が国医療の将来に大きな影響を与えるものである以上、これを国として戦略的に進めていくことが極めて重要である。このような観点から、今後の戦略及び達成目標(年次目標及び数値目標)を示すこととした。

◯ 以上のような基本的考え方に立ち、保健医療分野のグランドデザインについて、以下の視点から最終提言のとりまとめを行った。

1) 我が国の医療の将来像を踏まえて、我が国の医療の課題を改めて整理し、これに対応した情報化の目的を提示する。

2) 情報化により医療がどのように変わるのか、国民や患者の視点から将来の医療の姿を分かりやすく提示する。

3) 情報化を段階的に着実に実施していくため、戦略を提示する。

4) その戦略を踏まえ、情報化の各段階において設定された各目標について、国家的視点から実現方策を提示することとし、官民の役割分担、達成目標等を明示したアクションプランを策定する。

5) 健康づくり・疾病予防を中心とした保健政策、介護・福祉政策といった分野についても情報化の進展を見すえ、医療の情報化との連携について、その方向性を示す。


医療の将来像を踏まえた医療の課題と情報化

1.「21世紀の医療提供の姿」

 厚生労働省は、平成13年9月25日に「医療制度改革試案」〜少子高齢社会に対応した医療制度の構築〜を公表し、その中で、今後の我が国の医療の目指すべき姿と当面進めるべき施策を「21世紀の医療提供の姿」として提示した。

○ この中で、1.患者の選択の尊重と情報提供、2.質の高い効率的な医療提供体制、3.国民の安心のための基盤づくりの3つを柱とする「医療の将来像」が提示されている。

(医療の将来像の概要)
1.患者の選択の尊重と情報提供
  ○患者の視点の尊重と自己責任
  ○情報提供のための環境整備

2.質の高い効率的な医療提供体制
  ○質の高い効率的な医療の提供
  ○医療の質の向上

3.国民の安心のための基盤づくり
  ○地域医療の確保、医療の情報化等

医療の目指すべき姿の実現

○ これは、適切な情報提供のもと、患者が自ら医療機関や治療方針等を選択するなど、医療に自覚と責任をもって参画することを医療の目指すべき姿とし、患者の選択を通じて医療の質の向上と効率化・重点化が図られる、という考え方を基本とするものである。

○ このような医療の姿が実現するためには、公正で客観的な情報が提供されることが大前提となるが、そのためには医療の情報化、さらにその基盤としての情報化基盤、すなわち情報化に向けてのインフラが整備されることが必要となる。

○ このため、この将来像においても、医療の情報化を21世紀の医療提供の姿を考える際に不可欠の要素と位置づけ、その整備を実現すべき具体的な政策課題としている。
○ さらに、この「21世紀の医療提供の姿」で触れられている個別の課題との関連性を見ても、第一の柱である患者への情報提供、第二の柱である質の向上と効率化、第三の柱に含まれる医療安全の確保等のいずれにも情報化は大きな影響を持っている。

○ これらの課題と情報技術を活用した手段との対応関係は、相互に密接に関連しているが、両者の関係について課題を中心にわかりやすく整理すると次のとおりである。

○「医療の課題」とその解決を目的とした情報化(概念整理)

医療の課題 対応する情報技術を活用した手段 効果
情報提供 電子カルテシステム (比較可能なデータの蓄積と活用)
・適切な情報管理・検索
・目的に沿った情報の加工が容易

(見やすく読みやすく分かりやすい情報)
・患者にとって理解しやすい診療の説明

(医療従事者間での情報提供や診療連携)
・医療機関内、医療機関間、医療機関・他の関係機関との情報ネットワーク化
・セカンドオピニオンの際に初めの病院で検査した正確な患者情報を容易に参照可能

レセプト電算処理システム ・健康指導などの保健事業に活用
質の向上 「根拠に基づく医療」支援(Evidence-based Medicine:EBM) ・質の高い医学情報を整理・収集しインターネット等により医療従事者や国民に提供
・診療ガイドラインの作成支援・提供
電子カルテシステム ・患者の診療データの一元管理・共有化、情報の解析等による新たな臨床上の根拠(エビデンス)の創出
遠隔診療支援 ・遠隔地の専門医による診断支援、治療指示等が受けられる
・在宅において安心できる療養の継続
効率化 電子カルテシステム ・フィルム等消耗品の使用量削減
・正確な物流管理による経費節減
オーダリングシステム
レセプト電算処理システム ・診療報酬の請求・審査支払事務の効率化
個人・資格認証システム ・医療事務の効率化
物流管理システム
(電子商取引)
・医療資材物流に関する事務の効率化
安全対策 オーダリングシステム ・診療情報の共有による伝達ミスの防止、入力・処方ミスのチェック
※セカンドオピニオン:診断や治療法が適切かどうか、患者が複数の医師等に意見や判断を求めること。

注)医療情報システムとは
 「医療情報システム」についての定義は、特に定まったものはないが、当グランドデザインにおいては主に以下のシステムを指すものとする。

電子カルテシステム

 診療録等の診療情報を電子化して保存更新するシステム。様々な段階があるが、現状では診療録や検査結果などの診療情報を電子的に保存、閲覧するために医療施設内での使用が大部分である。
 今後は診療情報などを医療機関同士で交換、共有する診療情報のネットワーク化・データベース化が図られ、診療情報が活用されることが期待される。

遠隔診療支援システム

 医療機関と医療機関をネットワークで結び、専門医による診断を依頼する画像診断(tele-radiology)、病理診断(tele-pathology)のような専門的診療支援や、医療機関と在宅の間における在宅療養支援などを行うシステムのこと。

レセプト電算処理システム

 診療報酬の請求を紙の診療報酬明細書(レセプト)ではなく、電子媒体に収録したレセプトにより行うシステム。なお、現状はフレキシブルディスク又は光ディスク等により行われているが、将来的にはオンライン請求も含む。

オーダリングシステム

 従来、紙の伝票でやり取りしていた検査や処方箋などの業務を、医師(歯科医師を含む。以下同様。)がオンラインで、検査、処方し、医事会計システムとやり取りすることなどにより、オンライン上で指示を出したり、検査結果を検索・参照したりできるシステム。

個人・資格認証システム

 医療情報システムを用いて検査や処方などを行う際に、医師等の資格確認を電子的に行うシステム。今後は被保険者証をICカード化し、医療施設を受診した際にオンラインで被保険者の資格を確認したり、住所・氏名などの個人情報をカルテ、レセプトへ自動的に転記をしたりすることへの応用が検討されている。


情報化で5年後に医療がどう変わる

○ 医療制度改革を巡り、医療の情報化が広く議論されるようになってきているが、情報化の進展で診療の場はどのように変わるのか、患者や国民の視点から具体的に分かりやすく示されているとは言い難い。

○ 一方、医療制度改革を実現するためには、患者と医療提供者の双方の理解と協力が必要である。このため、このグランドデザインが想定している情報化が進んだ時点の医療の姿(目標年次である5年後(平成18年)を念頭に置いた情報化進展後の医療の姿)について、特に利用者の立場から提示する。

1.医療機関に行く前に

2.診察の時

3.在宅で

4.救急時

5.日本の医療全体として

 最後に、厚生労働省改革試案で提示されている我が国の医療の将来像に照らして、情報化がその実現プロセスにおいてどのような役割を果たすか改めて見ておきたい。


医療情報システム構築の戦略

1. 医療情報システム構築のための達成目標・発展段階の設定
    −電子カルテシステムを中心に−

我が国の医療情報システムが目指すべき達成目標を明示する

【目標】

  • 平成16年度までに
    全国の二次医療圏毎に少なくとも一施設は電子カルテの普及を図る
    • 電子カルテの普及の際は、地域医療支援病院、臨床研修指定施設またはその地域で中心的な役割を果たしている病院などの地域連携診療の核となるような医療施設が電子カルテを導入するよう推進する。

  • 平成18年度までに
    全国の400床以上の病院の6割以上に普及
               全診療所の6割以上に普及

段階図

2.レセプト電算処理システムの計画的推進

説明図

※「レセプト電算処理システム 工程表(別添 3)」を参照


保健医療福祉総合ネットワーク化への展開

 情報技術がもたらす情報の共有、蓄積、分析メリットを活かすことにより、医療機関を中心とした医療のシステムにとどまらず、健康づくり・疾病予防といった保健システム、介護・福祉分野のシステム、さらには医薬産業システム等とのネットワーク化を目指すことが可能となる。

1.健康づくり・疾病予防

 保健分野の情報化は、(1)個人の健康づくり支援、(2)科学的根拠に基づく保健政策の展開を進めるために非常に重要であり、医療の情報化との連携によってさらに効果を上げることができる。そのため、保健分野の情報化についても、医療の情報化と整合性のとれた形でコードの標準化、セキュリティの問題等も含め、進めていくべきである。

(1) 個人の健康づくり支援

ア.生涯を通じた健康管理体制を構築

【現状と課題】

 妊婦及び乳幼児の健康診断の情報は母子健康手帳に記載されており、成人期以降の健康診断は、健康保険法、労働安全衛生法、老人保健法等多種多様な制度に基づいて実施され、結果はその都度、紙媒体で本人に通知されている。
その結果、サラリーマンが退職した時のように異なる制度に移行した場合、健診情報が断絶してしまい過去の健康診断の情報が活用できないといった問題が生じている。

【健診情報の電子媒体保存と異なる制度間の連携】

 健診情報を電子媒体で保存するとともに、個人情報保護を担保した上で異なる制度間の情報の交換を図ることにより、制度間の連続性が確保され、個人の生涯にわたる健康づくりを支援することが可能となる。

【医療との連携の方向性(イメージ)】

 保健事業実施主体と医療機関がネットワーク等を通じて情報共有を図ることにより、過去の健診情報を診療の場で活用し、生活習慣病の予防等に活用したり、逆に医療機関を受診した際に得られる医療情報などを保健事業実施主体が生涯にわたり一貫して活用したりすることが可能となり、個人の健康状態の評価や健康づくりの支援が容易になる。

【現在の取組】

○地域職域健康管理総合化モデル事業(平成13年度)
生涯を通じた健康管理体制を構築するため、地域・職域で相互活用が可能となる総合的な健診情報管理システムを開発し、データベース化するとともに、地域保健事業による健診情報と職域健診情報の両者を含んだ総合的な地域診断を行い、より適切な保健事業を実施する。

ィ.遠隔健康教育の推進

(2)科学的根拠に基づく保健政策の展開

2.介護・福祉

 介護・福祉と情報技術のかかわりには次の三つがある。第一は、介護保険制度によって、その関連事業に情報技術が大幅に導入されたこと、第二は、医療と介護・福祉の連携に情報システムが有効であると思われること、そして第三に、情報技術が障害者に対するバリアフリー化や安全な生活に直接役立つと思われることである。

(1)介護保険制度における情報化の展開

 介護保険制度は、最初から情報技術の利用を前提として出発した。
 その主な例として、以下のものが挙げられる。

ア.要介護認定の情報化

イ.国民健康保険団体連合会における審査支払システムの情報化

ウ.ケアプラン作成における情報化

エ.WAMNETの活用

○情報化支援の取組み

ア.介護保険広域化支援事業

イ.高齢者ITケアネットワーク支援事業

○被保険者カードのICカード化

(2)医療と福祉の連携

(3)障害者施策へのIT支援

3.医薬品・医療材料

 医療機関が医薬品行政とかかわりを持つ場面としては、副作用報告と治験がある。この両者とも情報技術の利用が急速に進んでいる。また、信頼できる医薬品情報を医療従事者や国民に分かり易く、迅速かつ確実に提供していくことを目的としたネットワークを構築しようとする取組もある。

(1)副作用

(2)治験

(3)医薬品総合情報ネットワークの構築

(4)医薬品の用語・コードの標準化

(5)医療材料物流改革サプライチェーン構想


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