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(第3回介護給付費分科会資料)

2001.12.10

療養型病床群の運営実態と介護保険への移行に関するアンケート調査結果

日本医師会  青柳 俊
介護療養型医療施設連絡協議会  木下 毅


1.はじめに

 将来の社会保障制度を検討する上で、特に、長期入院患者を今後どのように取扱うかは、非常に重要な課題である。
 本課題に関し、厚生労働省案が提示されているが、まず、現在の療養型病床群の運営実態、介護保険適用病床への移行阻害要因などを明らかにした上で、今後の議論を展開する必要がある。
 日本医師会と介護療養型医療施設連絡協議会(以下、介護協)は、これまで、療養型病床群の運営実態調査を平成12年10月に実施し、

(1).平均在院日数をみると、医療保険病床は短縮化傾向、介護保険病床は長期化傾向にあること。

(2).医療保険病床に、処置やリハビリテーション(特に個別指導)の必要な利用者が相対的に多いこと。

(3).医療保険病床には、約3割の「非申請者(申請の権利は有するが、申請を行っていない方)」がいるが、その6割は寝たきり者であり、申請を行えば要介護と認定されるレベルであること。

(4).処置やリハの実施状況をみると、非申請者は、要介護者よりも相対的に受療率が高いこと。

などを明らかにしてきた。
 本年度も継続調査(平成13年10月調査)を実施しているが、そのうち、(1)入院患者の状況(特性や処置/リハの受療状況) (2)退院の可能性とその条件について、保険種類別の比較を実施した。また、介護保険病床への移行が進まない理由や阻害要因について、サービス提供者側へのアンケート調査も併せて実施した。以下、その結果を紹介する。


2.調査対象

(1)入院患者の状況調査

現時点で分析可能な9病院の入院患者1,027人(医療492人、介護535人)

(2)退院可能性に関する調査

現時点で分析可能な13病院の入院患者1,931人(医療688人、介護1,243人)

(3)病院アンケート調査

現時点で回答のあった療養型を有する41病院

3.調査結果

(1)入院患者の状況調査

(1).年齢構成

有効回答1,016人(医療保険484人、介護保険532人)の年齢構成をみると、医療保険では「40歳未満」9人(1.9%)、「40〜65歳未満」85人(17.6%)、「65歳以上」350人(80.6%)であった。前回調査に比べ、一般の構成割合が増加傾向であった。

図表1-1.年齢構成

  40歳未満 40〜64歳 65歳以上
(人) (%) (人) (%) (人) (%)
医療保険(N=484) 9 1.9 85 17.6 350 80.6
介護保険(N=532) 36 6.8 496 93.2
(参考)前回調査
医療保険(N=5,109) 50 1.0 716 14.0 4,343 85.0
介護保険(N=5,338) 342 6.4 4,996 93.6

(2).申請/認定状況

医療保険484人の申請状況では、「非申請」は23.3%、「非該当」8.7%であった。前回に比べ、「非申請」は減少傾向、「非該当」は増加傾向であった。

図表1-2.申請/認定の状況

ア)医療保険

申請/認定の状況(医療保険)の図

イ)介護保険

申請/認定の状況(介護保険)の図

(3).処置の受療状況

図表1-3に、保険種類別処置行為別受療率を示す。医療保険では、「その他」を除くと、「経管栄養」が12.6%と最も高く、次いで「喀痰吸引」12.4%、「疼痛の看護」11.2%、「留置カテ交換・管理」9.9%、「褥創の処置」9.5%、「点滴の管理」8.3%の順であった。
 一方、介護保険では、「褥創の処置」が7.5%と最も高く、次いで「胃瘻等のケア」7.3%、「喀痰吸引」7.1%の順であった。
 前回調査では、「経管栄養」や「喀痰吸引」などは介護保険の方が、それ以外の処置は医療保険の方が高かったが、今回調査では、全処置行為で医療保険の方が受療率は高いといった結果であった。

図表1-3.処置の受療状況

処置の受療状況の図

(4).個別リハの受療状況

図表1-4に、保険種類別内容別にみた個別リハ受療率を示す。個別リハの受療者数は、「介護保険」2人(0.4%)、「医療保険」42人(8.5%)と、医療保険の方が圧倒的に受療率が高かった。

図表1-4.個別リハの受療状況

  N数 該当者 理学療法 作業療法 言語療法 摂食機能
医療保険 493 42 26 22 8 1
介護保険 535 2 0 1 0 1
構成割合(%)
医療保険 100 8.5 5.3 4.5 1.6 0.2
介護保険 100 0.4 0.0 0.2 0.0 0.2

(2)退院の可能性調査

(1).退院の見込み

療養型入院患者1,931人(医療688人、介護1,243人)のうち、「退院可能」は、「医療保険」28.8%、「介護保険」7.2%と、医療保険病床の方が退院可能な患者の割合が高かった。一方、「受入体制があれば現時点でも退院可能だが、実際には退院させられない」は、「医療保険」31.1%、「介護保険」44.2%、「退院の見込みはない」は、「医療保険」40.1%、「介護保険」48.1%と、介護保険病床の方がいずれの割合も高かった。

図表2-1.退院見込みについて

退院見込みについての図

(2).必要な受入体制

「受入体制があれば現時点でも退院可能だが、実際には退院させられない」764人(医療214人、介護550人)に必要な受入体制をみると、生活支援のための「訪問介護」や「家族介護力」、現在の機能や状態維持のための「医師や看護婦による管理」や「継続的リハ」、「物理的問題」などが高い率を占めていた。

図表2-2.退院に必要な受入体制について

  医療保険(N=214) 介護保険(N=550)
(人) (%) (人) (%)
(1)常時対応可能な家族介護力 97 45.3 381 69.3
(2)必要時に対応可能な家族介護力 97 45.3 161 29.3
(3)訪問看護によるチェックや処置 97 45.3 378 68.7
(4)継続的リハの提供体制 73 34.1 223 40.5
(5)医師による外来管理or訪問診療 111 51.9 308 56.0
(6)訪問介護による生活支援 113 52.8 352 64.0
(7)ハイテク在宅医療への医師、看護婦対応 10 4.7 11 2.0
(8)物理的問題(車椅子の使用可否、環境等) 76 35.5 253 46.0
(9)経済的問題 13 6.1 149 27.1
(10)その他 6 2.8 28 5.1

次に、上記10項目について、チェック項目数の分布状況をみた。平均は「医療保険」3.2項目、「介護保険」4.1項目であった。複数の条件が整わないと、退院させられない状況にあると言える。

図表2-3.退院に必要な受入体制項目数分布

退院に必要な受入体制項目数分布の図

(3).退院できない理由

退院ができない理由としては、「一定の医学的管理を要する」「状態が不安定」「処置が必要」「常時医学的管理を要する」などが高い率であった。介護保険では、痴呆や問題行動が、医療保険に比べ高い率を占めていた。

図表2-4.退院できない理由

  医療保険(N=276) 介護保険(N=598)
(人) (%) (人) (%)
(1)常時医学的管理を要するため 99 35.9 187 31.3
(2)状態が不安定なため 117 42.4 221 37.0
(3)一定の医学的管理を要するため 137 49.6 246 41.1
(4)処置が必要なため 127 46.0 238 39.8
(5)継続的リハが必要なため 12 4.3 47 7.9
(6)痴呆の程度が重度のため 60 21.7 260 43.5
(7)問題行動があり、在宅での対応は困難 24 8.7 142 23.7
(8)その他 3 1.1 78 13.0

(3)介護療養型への移行に関するアンケート調査

(1).回答病院のプロフィール

ア)病床種類の組み合わせ(N=41病院)

「療養型を有する病院」は37病院で、うち「介護と医療の両方を有する」30病院、「介護のみ」2病院、「医療のみ」5病院であった。

図表3-1.主な病床種類別にみた保有病院数

(N=41) 総数 介護+医療 介護のみ 医療のみ
(1)療養型を有する病院 37 30 2 5
(2)介護力強化を有する病院 1 1 2
(3)痴呆療養を有する病院 2 1 1
(4)回復期を有する病院 12     12
(5)一般病床を有する病院 15     15
(6)特殊療養を有する病院 3     3

イ)種類別病床数

41病院の総病床数は11,170床(平均272.4床)、うち「療養型」7,290床(65.3%)、「介護力強化」362床(3.2%)、「痴呆疾患療養」562床(5.0%)であった。療養型の内訳は、「療養型(介護)」3,192床(全病床の28.6%)、「療養型(医療)」4,098床(同36.7%)であった。

図表3-2.種類別にみた病床数

種類別にみた病床数の図

(2).移行疎外要因と移行可能性の状況

ア)介護保険病床への移行予定(N=37病院)

移行可能な37病院の移行予定では、「移行を既に予定」12病院(32.4%)、「移行したいが困難」8病院(21.6%)、「移行予定はないが条件が整えば移行」2病院(5.4%)、「条件が整っても移行予定はない」12病院(32.4%)、「逆に、介護から医療に戻る予定」1病院(2.7%)、「未定」2病院(5.4%)であった。

図表3-3.移行予定(N=37病院)

移行予定(N=37病院)の図

イ)移行を阻害している条件(N=21病院)

「移行したいが困難」8病院の、最も大きな移行阻害条件としては、「指定制限のため」6病院(75.0%)と最も多く、次いで「公費の扱いの違いで自己負担が増加するため」「病床数の減少が余儀なくされる」が各1病院であった。
 一方、「移行予定はないが条件が整えば移行」「条件が整っても移行予定はない」と回答した14病院のうち、理由を回答した13病院の場合、「先行きが不透明」「既に整備済み」が各4病院(30.8%)、「メリットがない」3病院(23.1%)、「指定制限のため」2病院(15.4%)であった。

(3).移行予定病床数

「移行予定」12病院の移行可能病床(医療保険適用の療養型、介護力強化、痴呆疾患療養)の総数は2,789床、うち移行予定病床総数は899床(対移行可能病床の32.2%)、「移行したいが困難」「条件が整えば移行」10病院の移行可能病床総数は993床、うち移行予定病床総数461床(対移行可能病床の46.4%)であった。

図表3-4.移行可能な病床数

  病院数 移行可能
病床数
移行予定
病床数
移行率
(1)移行予定 12病院 2,789床 899床 32.2%
(2)移行したいが困難
または予定はないが条件が整えば移行
10病院 993床 461床 46.4%

4.まとめ

(1)入院患者の状況調査

(1) 申請/認定状況をみると、医療保険で「非申請」23.3%、「非対象」8.7%であった。前回に比べ、「非申請」は減少傾向、「非対象」は増加傾向であった。

(2) 処置の受療状況をみると、前回調査では、「経管栄養」や「喀痰吸引」などは介護保険の方が、他の処置行為は医療保険の方が高い状況であったが、今回調査では、全ての処置行為で医療保険の方が受療率は高かった。入院患者の特性に応じた病床の区分けが、徐々に進んでいる影響と考えられた。

(3) 個別リハの受療状況をみると、前回調査同様、「医療保険」の方が受療率は圧倒的に高かった。

(2)退院の可能性調査

(1) 「受入体制があれば現時点で退院可能だが、実際には退院させられない」は、「医療保険」31.1%、「介護保険」44.2%であった。

(2) 「受入体制があれば現時点で退院可能だが、実際には退院させられない」者に対し、実際に退院に必要な受入体制を聞いたところ、生活支援のための「訪問介護」や「家族介護力」、現在の機能や状態維持のための「医師や訪問看護婦による管理」や「継続的リハの提供」、「物理的問題」などが高い率を占めていた。また、平均的な必要項目数は、医療保険で3.2項目であった。
 要するに、「これら複数の条件が整わないと、現実的には退院させることはできない」といった実態を表した結果と言える。

(3)介護療養型への移行に関するアンケート調査

(1) 移行可能な37病院のうち、「移行予定」12病院(32.4%)、「移行したいが困難」8病院(21.6%)、「移行予定はないが、条件が整えば移行する」2病院(5.4%)、「条件が整っても移行予定はない」12病院(32.4%)であった。

(2) 「移行したいが困難」8病院の、最も大きな阻害条件としては、「都道府県の指定制限枠のため」が6病院と最も多く、次いで「公費の扱いの関係で、介護保険では利用者負担が増えてしまう」「病床の削減が余儀なくされる」1病院であった。

(3) 「移行予定」12病院の移行可能病床総数は2,789床、うち移行予定は899床(32.2%)であった。また、「移行したいが困難」「条件が整えば移行」10病院の移行可能病床総数は993床、うち移行予定は461床(46.4%)であった。



以上の結果より、介護療養型医療施設を有する病院では、処置や個別リハ等の必要性、痴呆や問題行動の有無など、患者特性に応じる形で、医療保険と介護保険病床をうまく活用している様子が伺えた。
 また、条件が整えば退院可能な方(実際には条件が整わないため退院させられない方)が、医療保険で30%程度存在することもわかったが、この問題を解消するには、退院を可能とする条件整備がまず必要である。
 ただし、今後の後期高齢者の増加に伴う長期療養者の増加に向けては、介護療養型医療施設を整備していく必要がある。今回のアンケートで、病院側では、利用者ニーズに合わせる形で介護保険に移行したいが、都道府県の指定枠の関係で移行が阻害されている実態も明らかになった。
 長期療養者の扱いにおいて、介護療養型医療施設は重要な役割を担っており、まず、移行阻害要因を取り除く努力をした上で、介護保険病床への移行を促すことが必要であると考える。



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