社会保険庁
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事故再発防止策検討委員会報告書



平成15年12月18日
事故再発防止策検討委員会

目次


I はじめに

 社会保険庁においては、3,300万人の方々に、年間31.5兆円に及ぶ厚生年金保険及び国民年金の年金の給付に係る事務処理を行っているところである。今般、プログラムの変更誤り及び事務処理の誤りにより老齢厚生年金等に加算される加給年金額(以下「加給年金額」という。)の過払いが生じ6,249人の受給者の方々に合計で約24億円の返納をお願いし、また、老齢基礎年金に加算される振替加算の未払い(以下「振替加算の未払い」という。)が生じ33,400人の受給者の方々に合計で約250億円の支払を行った。このような大規模な年金給付誤りは過去に例はなく、年金受給者の方々に多大なる迷惑をお掛けすることとなった。
今般の給付誤りの原因については、本年7月17日にその詳細を公表したところであるが、加給年金の過払いは平成11年6月の年金給付システムの大規模なシステム変更時のプログラムミスが原因であった。また、振替加算の未払いは昭和61年4月の基礎年金制度の導入に伴う「配偶者情報」の管理に係る社会保険業務センター及び社会保険事務所における事務処理誤りが原因であったが、さらに、振替加算制度施行後12年にもわたり給付誤りが継続してしまった原因としては、振替加算の未払いの発見が早期にできなかったこと及び発見後の対応の遅れが挙げられる。
今般の給付誤りの原因については、既にプログラムミスの修正、システム開発時における委託先との指示事項の相互確認の徹底、社会保険事務所等に対する適正な事務処理の周知徹底などの措置を講じたところであるが、社会保険庁においては今般の年金給付誤りを年金の信頼性に関わる問題として重く受け止め、本年7月31日に社会保険庁長官を委員長とする「事故再発防止策検討委員会」を設置し、このような給付誤りの発生を防止するためのより良い業務体制等を構築するために、丸1システム開発における事故防止対策、丸2地方支分部局を含めた内部処理体制の改善策、について検討を行い、今般、本報告書をとりまとめたものである。
本報告書は、システム開発における事故防止及び地方支分部局を含めた内部処理体制の改善の観点から、現状において改善を要する点の洗い出しを行った上で、それぞれの改善方策とその実施時期を明らかにすることに主眼を置いた。
当委員会としては、今後、各部署において、本報告書の改善方策が確実に実施されるよう定期的に実施状況のフォローアップを行い、今般のような年金給付誤りが再発することがないよう努めていくこととする。


II システム開発における事故防止対策について

今般の加給年金の過払いは、年金給付システムのプログラムミスに起因して生じている。
年金給付システムにおいては、厚生年金等の年金受給者に対する定期の支払(年6回 偶数月)を滞りなく行っていくため、約3,300万人の個々人の年金額の変更状況を管理している。
具体的には、年金額は、それを受給している方の就職・退職、給与の額の変更、雇用保険の給付状況、他の年金の受給状況等、様々な条件で変更されることとなるが、年金給付システムにおいては、これらの事由により受給者から届出された書類に基づき、その情報を端末装置から入力することによって、丸1標準報酬を再評価した平均標準報酬月額、丸2報酬の多寡による年金の支給停止額、丸3雇用保険との調整額、丸4他の年金との支払調整額、丸5遡及した処理の場合には過払いや未払いとなる額等、を算出し、受給者への支払に備える処理を行っている。
このように、年金給付システムでは、受給者の一人ひとりの加入記録を的確に管理するとともに、その記録に基づいて年金額を正確に決定し、迅速に支払を行っていくことが求められていることから、度重なる制度改正の都度、改正された年金額の計算方式や新たな給付の仕組み、またこれに伴う多岐にわたる経過措置をすべて網羅してきているため、システムの内容はより複雑化し、またシステム規模も膨大なものとなってきているが、システム開発の重要性とその影響度の大きさを熟思したうえで今後とも業務を完遂していかなければならないと再認識している。
今般の加給年金の過払いは、委託先である(株)日立製作所とのシステム開発過程における連携ミスがその原因であるが、これを契機として再度システム開発のあり方全般について見直しを行い、プログラムミスの誘因となる点を解消していく観点から今後の改善方策をとりまとめた。
なお、社会保険業務センター三鷹庁舎において管理する記録管理システム及び基礎年金番号管理システムについては、
丸1  管理するデータは、日常的に全国の社会保険事務所で参照活用され、不明な内容が生ずれば直ちに発見・対応できる体制が組まれており、現在プログラムの不具合によるデータの改変等の事例は見られていないこと
丸2  年金給付システムは、一つのデータから派生する処理が多岐にわたっているが、記録管理システム及び基礎年金番号管理システムは年金給付システムと違い、個々の被保険者又は事業所を単位として処理が即決すること
丸3  記録管理システムでは、毎月、保険料計算が行われており、告知された額と事業所が算出した額とで毎月相互チェックが行われていること
という特性があることから、今回の見直しの対象とはしていない。
  1. システム開発の現状(資料23参照)

    (1) 年金給付システム(以下単に「システム」という。)の開発は、(株)日立製作所に委託して行っているが、基本的な開発方針の指示及び管理業務は社会保険業務センターが行い、システムの技術的な分野については委託先が担うこととしている。
    (2) 具体的には、システム開発の工程は、丸1基本計画、丸2システム基本計画、丸3基本設計、丸4詳細設計、丸5プログラム作成、丸6システムテストに区分されるが、丸1及び丸2の基本方針及び管理業務を社会保険業務センターが、丸3から丸6までの技術的部分を委託先が行っている。

  2. システム開発における改善方策(資料45参照)

    今回の加給年金額に関するプログラム誤りを契機としてシステムの開発方式の全体について再度洗い出しを行った結果、次のような点について改善の余地があることが判明したことから、その改善方策について早急に取り組む必要がある。

    (1) 制度改正等によるシステムへの影響範囲の確認

    【改善を要する点】
    システムの基本計画を策定するには、制度改正等の要因による現システムへの影響範囲を正確に把握する必要があるが、現状ではその確認・検証の大部分を目審査により行っているため経験に頼る部分が多く、この作業に多くの時間を費やしている。

    【改善方策】
    影響範囲の確認を迅速に行うために、システムの基本計画の策定に必要な資料(業務取扱要領、事務処理要領、届出書、端末装置の画面、出力帳票及び設計書等)を相互に関連付けし、影響範囲を機械的に洗い出しすることができるシステムを構築する。【平成17年度実施予定】
    (2) 委託先との指示内容の確認

    【改善を要する点】
    社会保険業務センターと委託先との間におけるシステム基本計画書の再確認作業においては、文書により指示・確認を行う手続きとしているが、一部徹底されていない面が見られた。
    今回の加給年金に係るプログラムミスは、社会保険業務センターが作成するシステム基本計画書においては事故リストの出力を行うよう指示していたにもかかわらず、文書による指示・確認が漏れてしまったため、委託先が行う基本設計以降の作業において指示事項が欠落してしまい、テスト工程においても発見できなかったものである。

    【改善方策】
    システム基本計画書の策定にあたっては、委託先との再確認作業の際の指示は文書で行うことを徹底する。なお、委託先内の担当部門間も同様とする。
    さらに、基本設計書が作成された段階で、システム基本計画書及び指示文書に基づき、指示事項の相互確認を徹底し、システム基本計画書と基本設計書との差異を生じさせないこととする。【実施済み】
    (3) 事務処理要領の整備

    IIIの1の(1)の丸1において後述する。
    (4) システムテストの充実

    【改善を要する点】
     これまでのシステム開発におけるテストデータは蓄積されているものの、類型的な整理が不十分なため適切な活用がなされていない。
     システム機能面のテストに加え業務機能面からのシステムテストも行い、その内容を充実させるべきであった。

    【改善方策】
     これまでのシステム開発において策定したテストパターンを類型化して蓄積し、システムテストにおけるテストデータ作成の迅速化を図るとともに業務検証にも活用する。【平成16年度実施】
     業務処理において事故となったデータや処理誤りとされたデータ等の特異なデータを蓄積し、新たな開発におけるシステムテストや業務検証の際に活用する。【平成16年度実施】
     システム機能面の確認テストに加え、業務機能の変更の確認の面からのシステムテストを実施し、システムテストをより一層充実する。【平成16年度実施】
    (5) 業務処理の検証

    【改善を要する点】
    プログラムの業務処理面からの検証においては、入力作業や処理結果の確認を手作業で行っているため、非効率である。

    【改善方策】
    業務処理検証を短期間で効率的に実施するため、次のような機能を構築する。
    【平成17年度実施予定】
    • 必要なテストデータを自動的に作成する機能
    • 手作業による入力処理を自動的に入力できる機能
    • 年金額や税額の検証を補助する機能
    • 処理結果の妥当性を処理前のデータと自動的に比較検証する機能
    (6) システム開発の環境

    【改善を要する点】
    システム開発環境が不十分であることからテスト時間に制約がかかり、集中したテストを行う時間が不足している。

    【改善方策】
    オンライン稼動中であってもシステムテストができるよう、記憶装置の増設を図るなどテスト環境の充実を図る。【平成17年1月実施予定】

III 地方支分部局を含めた内部処理体制の改善策について

 今般の振替加算の未払いは、事務処理誤りを原因として、平成3年に振替加算の支給が開始されてから12年にわたり継続して発生することとなった。この間、個別案件としての受給者等からの照会、社会保険事務所や都道府県国民年金担当課からの指摘等により、振替加算の未払いが生じている事実を社会保険業務センターとして組織的に把握し、対策を講ずる契機があったにもかかわらず、十分な措置が講ぜられることがなかった。
また、昭和63年2月の社会保険事務所における裁定処理開始により、社会保険事務所は、振替加算の事務処理において、「老齢・障害厚生年金加給年金額対象者年金受給報告書(以下「年金受給報告書」という。)」を社会保険業務センターへ進達することとなったが、当該年金受給報告書の進達が的確になされないケースがあった。この背景としては、社会保険業務センターから社会保険事務所に対する年金受給報告書の必要性の説明・周知、社会保険業務センター及び社会保険事務所における業務処理のあり方等に問題があったことが挙げられる。
このように今回の年金給付誤りを契機として、地方支分部局を含めた社会保険庁内部の事務処理体制に改善を要する様々な課題が明らかになった。この第III章においては、今般の年金給付誤りを踏まえ、事故を未然に防止するための方策として、「日常業務の的確な実施のための方策」、年金給付誤りが発生した場合等の「危機管理体制のあり方」及び「年金受給者の立場に立った事務処理を徹底するための職員研修のあり方」の3つの視点から、今後の改善方策をとりまとめた。

  1. 日常業務の的確な実施のための方策

    (1) 的確な事務処理を徹底するためのルールの確立

    丸1事務処理要領等の整備

    【改善を要する点】
     社会保険業務センター職員のための事務処理要領は、度重なる制度改正、業務改善等によるシステム開発・変更の内容がすべて反映しきれていないため、各係間において一部に事務処理方法の不統一が見られる。
     一方、社会保険事務所職員のための業務取扱要領においても、届出の受付・進達から年金の支払いに至るまでの一連の事務処理の流れが不明確で分かりにくいものや、社会保険業務センターへ進達が必要な報告書について、その目的や事務処理事例の記載に不十分なものがあった。

    【改善方策】
     社会保険業務センターの職員のための「事務処理要領」のうち18要領及び社会保険事務所職員のための「業務取扱要領」のうち5要領(資料6参照)について、プロジェクトチームによる作業体制を確保して見直すこととする。【平成16年度実施】
     また、今後、制度改正など、大規模な事務処理の変更があった場合には、速やかに「要領検討プロジェクトチーム」を立ち上げ、見直し作業に当たることとする。【制度改正等に応じて逐次実施】

    丸2照会票等に関する事務処理ルールの徹底

    【改善を要する点】
    日常業務を実施していく中で、社会保険事務所等から照会があった場合における法令解釈やシステムに関する疑義は、業務担当部署から企画調整担当部署に照会票により照会しているが、取り扱う内容の範囲や記入方法が明確に定められていないことやその進捗管理が徹底されていないこと等のため、その内容確認に時間を要したり、重複した照会が生じたりするケースが見られる。

    【改善方策】
    照会票は日常業務を円滑に実施していく上で極めて重要な機能を有するとともに、年金給付誤り等を発見する重要な契機となることから、照会票による事務処理方法を以下のとおり見直すこととする。

     照会票による照会内容の範囲及び記載方法等の明確化【平成15年12月実施】
    照会の内容を「法律解釈」又は「システム仕様の確認」に限定した様式とし、回答期限及び照会内容を具体的に記載することなどの注意事項を盛り込む。
     照会票の決裁と幹部への報告【平成15年12月実施】
    日常業務の中で生じた疑義は、年金給付誤り等の発見の端緒となる可能性が高いことから、照会票による照会及び回答は管理課長決裁とし、全国的に影響があるものなど重要性があると判断される案件については、その都度、所長に報告する。
     照会票の管理方法の見直し【平成16年1月から順次実施】
    各部署において管理者を定め、一定期間を経過した照会票は処理状況の再確認を行う等、照会票の進捗管理を徹底するとともに、その情報を社会保険業務センターLANに搭載し、どの部署においても参照できるようにする。

    丸3地方支分部局との事務打合せ会の促進

    【改善を要する点】
    年金給付等の事務を的確に実施していくためには、社会保険事務所における事務処理上の疑義や問題点、意見要望を社会保険業務センターが吸い上げ、必要な情報を提供していくことが重要であるが、通知等により周知しているものの、社会保険事務所等で生じている事務処理の疑問点等についての意見交換を行う場がないことから、社会保険事務所と社会保険業務センター間において意思の疎通が不足している。

    【改善方策】
    社会保険事務局における年金給付に関する業務研修の場において、社会保険業務センターから事務処理に関する留意事項等についての説明及び意見交換を行うなど、社会保険業務センターと社会保険事務局、社会保険事務所職員との事務打合せ会を計画的に実施する。【平成16年度実施】
    (2) 適正な業務処理のチェック体制の確立

    丸1年金給付適正化委員会の機能強化

    【改善を要する点】
     社会保険業務センターにおいては、年金給付適正化委員会(昭和61年2月設置、委員長:総務部庶務課長)を設置し、システム監査担当部署が実施した「年金給付に係る事故防止」及び「制度改正等に伴う事務処理の実施状況」に関する監査結果の検討を行ってきた。
     今般の年金給付誤り等を教訓にすれば、日常業務が適正に実施されているか、事務処理の流れに沿った監査等によるチェック体制の強化を図る必要があり、年金給付適正化委員会の機能の充実を図る必要がある。
     また、危機管理体制とも関連するが、現在、年金給付誤りが発生又は発生する恐れがある場合に、当該事象を迅速に調査分析し、対処方針を決定するための体制が明確には定められていない。

    【改善方策】
     年金給付適正化委員会の組織の見直し【平成15年12月実施】
    委員会は、社会保険業務センター所長を委員長とした所長直轄の組織体制とする。
     年金給付適正化委員会業務の追加【平成16年度実施】
    委員会は、従来の業務に加えて、以下の業務を行う。
    •  システム監査担当部署が新たに行う、裁定業務及び諸変更支払業務の監査結果の検討
    •  年金給付誤りが発生又は発生する恐れがある場合における事象の調査分析及び対処方針の検討。
     業務運営監査官(仮称)の設置
    企画調整担当部署に業務運営監査官(仮称)を新設し、業務処理のチェック体制の強化を図る。(資料7参照)【平成16年度定員要求中】

    カッコ
    ※業務運営監査官(仮称)の主な業務
    •  事故を未然に防止するため各部署の業務処理に関し、内部監査の指示、監査結果の総合評価、幹部への報告及び改善提案等を行う。
    •  社会保険事務所や年金受給者等からの指摘事項等について調査を行い、問題発生への対応方針の検討・報告と確定した対応策について関係部署へ指示を行う。
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    丸2システム監査担当部署の監査内容及び体制の強化

    【改善を要する点】
    現在は、裁定業務や諸変更支払業務が適正に処理されているか否かの観点からの監査は実施されておらず、また、今後新たに当該業務に係る監査を実施していくためには、現在のシステム監査担当部署の体制では十分とは言えない面がある。

    【改善方策】
     裁定業務及び諸変更支払業務についても、定期監査の対象とする。【平成16年度実施】
     システム監査担当部署の体制を強化するとともに、監査システムのレベルアップを行い、効率的な監査を実施する。また、職員のスキルアップのための研修を実施する。【平成16年度実施】
     システムの評価については、外部監査の導入等について検討を行う。【社会保険オンラインシステム刷新可能性調査の中で実施】

    丸3社会保険事務所等における業務処理のチェックの充実

    【改善を要する点】
    今般、社会保険業務センターへの年金受給報告書の進達漏れが生じた背景としては、社会保険事務所における年金の裁定や各種届出の処理の際の決裁等のプロセスにおいて、年金受給報告書等の進達の必要性について十分な周知・チェックがなされていなかったことが考えられる。

    【改善方策】
    社会保険事務所において社会保険業務センターに対する各種報告書等の進達が適正に行われているかに関して、決裁書類、決裁のチェックプロセス等について監察の充実を図る。【平成15年12月実施】

  2. 業務処理における危機管理体制の確立
    (1) 危機管理体制の確立

    【改善を要する点】
    丸1年金給付誤り等発生時の報告体制に係る問題
     現在、社会保険業務センターにおいては、システム事故が発生した場合の報告連絡体制は整備されているが、年金給付誤りの発生やそれにつながる恐れのある情報が収集分析され、幹部に迅速的確に報告される仕組みが明確には定められていない。
     照会票の照会内容から、システム誤り等が原因で全国的な影響が懸念される場合、その対応等についてのルールが確立されていない。

    丸2苦情に対応する体制に係る問題
     受給者等からの照会、苦情等は、年金給付誤り等の発見の端緒となるとともに、その対応を誤ればトラブルに発展する恐れがあることから、適切な対応が求められる。このような観点から、業務担当部署においては、平成9年に、苦情等に対する事務処理手順、対応責任者等を定めた要領を作成した。しかしながら、時間の経過とともに十分に機能しなくなってきている。

    【改善方策】
    システム事故のみならず、年金給付誤り、苦情に対する対応等を網羅した社会保険業務センター全体の「危機管理マニュアル」を作成する。【平成15年12月着手】
    なお、「危機管理マニュアル」の骨子は、以下のとおりである。

    丸1 年金給付誤り等の報告体制及び所長直轄による迅速な対処方針の決定
     年金給付誤りの発生及びそれにつながる恐れのある情報は、企画調整担当部署において整理・分析を行ったうえで、その結果を社会保険業務センター幹部や関係部署に報告する仕組みを明確化し、即時に対応する必要があるものについては速やかに所長に報告する。
    なお、企画調整担当部署におけるチェック体制を強化するため、IIIの1の(2)の丸1のとおり、業務運営監査官(仮称)を新設する。
     全所的取り組みが必要なときは、所長は年金給付適正化委員会を開催し、必要な調査分析を行うとともに、対処方針の検討を行う。

    丸2苦情に対する対応体制の見直し
     平成9年に業務担当部署で作成した要領をベースに、現状の問題点を踏まえた見直しを行い、危機管理マニュアルの一部として位置付ける。

    丸3事故発生時の緊急処理体制の明確化
     危機管理マニュアルの作成に合わせ、オンライン業務に影響する事故及び年金受給者等に影響する事故が発生した場合に、迅速かつ的確に復旧を行うための緊急処理体制を明確化する。
    (2) 年金給付誤りに係る公表のあり方

    【改善を要する点】
    今般の年金給付誤りについては事実関係を明らかにした上で公表する方針で作業を進めてきたが、振替加算の未払いに関しては、対象者の調査開始から対象者の確定までに1年半の期間を要しており、このように作業が長期に及ぶものについては、もっと早い段階で公表すべきであったとの指摘があった。

    【改善方策】
    丸1  国民に対する行政の説明責任を果たすため、全国的な広がりの可能性のある年金給付誤りに係る事象については速やかに幹部に報告し、公表する。【直ちに実施】
    丸2  また、年金給付誤りの発生から調査終了までに長期間を要すると見込まれるものについては、途中段階であっても、必要に応じて公表する。【直ちに実施】

  3. 年金受給者の立場に立った事務処理を徹底するための職員研修等のあり方

    【改善を要する点】
    丸1業務処理の習熟
     「業務処理マニュアル」の整備が十分でないため、担当部署間における業務処理の方法にばらつきが生じている。
     制度改正に係るシステムの完成から制度改正の施行までの期間が短いため、新しい業務処理に習熟しないまま実務に従事せざるを得なくなっている。

    丸2年金受給者の立場に立った危機管理
     今般の振替加算の未払いについては、社会保険事務所等からの指摘などにより、全国的な広がりのある問題であることが予測可能であったにもかかわらず、個々の職員の受給者への影響の重大さに対する認識が不十分で、根本的な解決の着手が遅れた。

    【改善方策】
    丸1職員の業務処理の習熟及び資質の向上
     社会保険業務センター内の事務処理要領を早急に整備し、当該事務処理要領を職員研修に有効に活用し、業務処理に精通した職員の育成を図る。【事務処理要領の整備に合わせて実施】
     社会保険業務センター職員に対し、制度改正等に係る研修を実施する。【逐次実施】

    丸2職員が業務に携わる際の目的意識の向上
     年金受給者の立場に立って業務を実施するという意識を醸成するため、民間が実施している安全対策、危機管理対策、消費者重視の品質管理などの様々な取組みを参考に外部の専門講師を活用した研修を計画的に実施する。【平成16年度実施】
     「危機管理マニュアル」を活用した職員研修を実施する。【平成16年度実施】


IV おわりに

 本報告書においては、今般のような年金給付誤りを防止するため、年金給付等に係るシステム開発及び業務処理の改善方策をとりまとめたが、これらの改善策は、それぞれの施策が的確に実行され、かつ、相互の施策が有機的に絡み合うことにより、全体としてより一層強固な再発防止策となり得るものである。また、これらの改善策を実施していく中で、さらに解決しなければならない課題が生じてくることも考えられる。
したがって、事故再発防止策検討委員会においては、本報告書の改善方策が確実に実施されるとともに、これらの改善方策で十分なのか、また、新たな課題は生じていないか等について、今後、定期的にフォローアップしていくこととする。


V 資料


(資料1)社会保険業務センター等における年金給付事務とシステム開発の現状

(資料2)システム開発の流れ

(資料3)システム開発工程の概要

(資料4)改善を要する点

(資料5)改善方策

(資料6)見直し等の対象となる事務処理要領等

(資料7)年金給付適正化委員会の組織と役割

(資料8)今般の給付誤りの概要等

(資料9)事故再発防止策検討委員会設置要綱




(資料1)社会保険業務センター等における年金給付事務とシステム開発の現状


社会保険業務センター等における年金給付事務とシステム開発の現状の説明図

 件数等は平成13年度における数値。
 上記の業務のほか、厚生年金・国民年金の適用・保険料徴収等の事務、政府管掌健康保険等に係る事務をオンラインシステムにより処理。

「社会保険業務センター等における年金給付事務とシステム開発の現状」拡大版



(資料2)システム開発の流れ


システム開発の流れ図

「システム開発の流れ」拡大版


(資料3)システム開発工程の概要


システム開発工程の概要図

「システム開発工程の概要」拡大版


(資料4)改善を要する点


改善点の説明図

「改善を要する点」拡大版

(資料5)改善方策


改善方策の説明図

「改善方策」拡大版


(資料6)見直し等の対象となる事務処理要領等


  1. 社会保険業務センター職員のための事務処理要領

    主な取扱要領 所管課
    1 支払事務処理要領 業務部各課
    2 再裁定事務処理要領(新法編)
    3 旧法国民年金・旧法厚生年金保険裁定事務処理要領
    4 国民年金・厚生年金保険 実務事例集(冊子)
    5 障害給付事務処理要領
    6 船員保険事務処理要領
    7 外国送金事務処理要領(仮称)
    8 旧令共済照会等事務処理要領
    9 第三者行為事故関係事務処理要領
    10 共済組合等の基礎年金の給付事務処理要領
    11 共済組合の基礎年金の給付事務処理要領
    12 旧三共済の給付事務処理要領(仮称)
    13 外国人脱退一時金事務処理要領
    14 国際年金通算協定に係る給付事務処理要領(仮称)
    15 年金債権差押事務処理要領(仮称)
    16 オンライン操作マニュアル システム開発第1課
    17 事故リスト等の事務処理要領
    18 年金相談事務処理要領 中央年金相談室

  2. 社会保険事務所職員のための業務取扱要領

    主な取扱要領 所管課
    1 国民年金厚生年金保険年金給付関係業務取扱要領(裁定編) 指導課
    2 国民年金厚生年金保険年金給付関係業務取扱要領(諸変更編)
    3 国民年金(短期年金)年金給付関係業務取扱要領(裁定編)
    4 国民年金(短期年金)年金給付関係業務取扱要領(諸変更編)
    5 年金相談関係業務取扱要領(第1・2部) 中央年金相談室


(資料7)年金給付適正化委員会の組織と役割


年金給付適正化委員会の組織と役割の説明図

「年金給付適正化委員会の組織と役割」拡大版


(資料8)今般の給付誤りの概要等


  1. 今般の給付誤りの概要
    (1)
    加給年金額の過払い
    【概要】
     当事象は、その配偶者が特別支給の老齢厚生年金(老齢満了)の受給権者であり、かつ、高報酬の在職による全額支給停止から低報酬の在職による一部支給となったことに伴い、加給年金額を支給停止すべきケースについて過払いが発生したものである。
     お詫び状送付者数 6,249人 約24億1千万円
    【原因】
     年金給付システムのシステム変更の際のプログラムミスが原因である。
     具体的には、システム変更の基本設計段階で、社会保険庁が指示を行い、委託先もその指示を確認した事項が最終の基本設計書に取り込まれなかった。
    (2)
    振替加算の未払い
    【概要】
     振替加算は、夫、妻それぞれの年金原簿に収録されている相手方の年金情報が整合していることを確認した上で、妻の65歳到達時にその表示により加算することとされているが、当該情報が正しく収録されていなかったため、未払いが発生したものである。
     お詫び状送付者数 33,400人 約250億円
    【原因】
     年金原簿に配偶者の年金情報を収録するために必要となる「年金受給報告書」についての説明、周知が不徹底であったため、社会保険事務所から社会保険業務センターへの同報告書の進達が漏れるケースが生じたこと等による。

  2. 今般の年金給付誤りの発生防止のためにこれまでに講じてきた措置

    (1)
    加給年金額の過払いに対する措置
     今般の加給年金額の過払いの原因となったプログラムについては、本年3月に修正した。
     システム開発時の社会保険業務センターと委託先との間の指示方法及び検証の際の指示事項の相互確認について改善を行った。
    (2)
    振替加算の未払いに対する措置
     年金受給報告書の進達について、平成12年3月に「社会保険業務センターつうしん」において事例を用いて詳細な説明記事を掲載したが、更に周知の徹底を図るため、本年9月に全国社会保険事務局長会議、10月に全国社会保険事務所長会議で指示するとともに、本年11月に更に詳細な事務処理手順等を「社会保険業務センターつうしん」で周知した。


(資料9)事故再発防止策検討委員会設置要綱


  1. 設置
    平成15年6月に確認された厚生年金保険等の給付誤りの発生を踏まえ、このような事故が再発することのないよう、システム開発における事故防止対策、地方支分部局を含めた社会保険庁の内部における事務処理体制の改善策等について検討を行い、必要な改善策を取りまとめるため、社会保険庁に事故再発防止策検討委員会(以下「検討委員会」という。)を設置する。

  2. 業務
    検討委員会は、年金給付事務に関する事故防止に係る次の業務を行う。
    (1) システム開発における事故防止対策の検討
    (2) 地方支分部局を含めた内部処理体制の改善策の検討
    カッコ
    年金給付業務に関する危機管理のあり方
    給付誤りにつながる事象の調査の実施及び公表のあり方
    業務処理誤りのチェック体制のあり方
    年金受給者の立場に立った事務処理を徹底するための職員研修等のあり方 等
    カッコ閉じる

  3. 組織
    検討委員会の構成は、次のとおりとし、委員長は社会保険庁長官をもってあてる。
    委員長  社会保険庁長官
    副委員長  社会保険庁次長
    社会保険庁運営部長
    社会保険業務センター所長
    社会保険大学校長
    構成員  社会保険庁総務部総務課長
    社会保険庁総務部総務課人事調整官
    社会保険庁総務部職員課長
    社会保険庁総務部経理課長
    社会保険庁総務部地方課長
    社会保険庁運営部企画課長
    社会保険庁運営部年金保険課長
    社会保険業務センター副所長
    社会保険業務センター総務部長
    社会保険業務センター情報管理部長
    社会保険業務センター業務部長
    社会保険業務センター年金番号管理室長
    社会保険業務センター中央年金相談室長
    社会保険大学校副校長

  4. 事務局
    検討委員会の事務局は、社会保険庁総務部総務課とする。

  5. 作業部会
    検討委員会の下に、実務的な検討を行うための作業部会を置く。

  6. その他
    (1) 検討委員会は、平成15年7月31日から設置する。
    (2) 検討委員会は、必要に応じて、随時有識者の意見を求めることができる。
    (3) 検討委員会の運営に関し必要な事項は、委員長が定める。
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