厚生労働省

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世界健康安全保障イニシアティブ(GHSI)

1.国際的なテロ対策・健康危機管理の必要性

国民の健康と安全を守ることは厚生労働省の重要な役割のひとつです。これまでも感染症対策や水道水の品質管理、医薬品や食料の安全についてさまざまな取り組みがされてきましたが、20世紀の終わり頃から化学兵器、生物兵器といった大量破壊兵器を用いたテロが新たな脅威として注目されるようになりました。わが国で1995年に発生した地下鉄サリン事件は、化学兵器を用いた大規模なテロとして世界に衝撃を与えました。その後、2001年、アメリカで発生した同時多発テロでは、炭疽菌の郵送事件がバイオテロの脅威を生々しく印象付けたことに加え、テロ対策は国際的に取り組む必要があることを強く認識させました。こうした背景の中、アメリカ・カナダ政府の呼びかけにより、国民の健康を守るという役割を持った保健担当大臣同士が連携を深める目的で、「世界健康安全保障イニシアティブ(Global Health Security Initiative ; GHSI)」が2001年11月に発足しました。

2.GHSIのメンバー国と活動

GHSIは、お互いに立場や志が近い保健相同士のネットワークとして、日本、カナダ、アメリカ、メキシコ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、および欧州連合の行政担当機関である欧州委員会(EC)をメンバーとし、世界保健機関(WHO)をオブザーバーとして迎え、継続的に意見交換や専門家の交流、国際合同訓練等を行っています。具体的には、保健大臣同士の閣僚級会合を毎年おおむね1回、年末にメンバー国持ち回りで開催するとともに、毎年6月には担当局長同士の会合をカナダのオタワで開催しています。閣僚級会合の過去の開催状況は下記のとおりです。

○平成13年11月 7日 第1回(オタワ、加)

○平成14年 3月14日 第2回(ロンドン、英)

○平成14年12月 6日 第3回(メキシコシティー、墨)

○平成15年11月 6日 第4回(於ベルリン、独)

○平成16年12月10日 第5回(於パリ、仏)

○平成17年11月18日 第6回(於ローマ、伊)

○平成18年12月 7日 第7回(於東京、日)

○平成19年11月 2日 第8回(於ベセスダ、ワシントンD.C.、米)

○平成20年12月 5日 第9回(於ブリュッセル、EC)

3.専門分野での連携

GHSIでは、閣僚級、局長級の連携に加え、いくつかの専門的な分野において、専門家や研究者の間での連携も図っております。ワーキンググループ(WG)やネットワークという形で常に情報交換を行うとともに、定期的な会合や実地の研修や訓練を行っています。

○ リスク管理及びコミュニケーションWG(Risk Management and Communication WG)

各国のバイオテロの専門家が集まり、天然痘を用いたバイオテロへの対策を検証するための国際的な訓練「グローバル・マーキュリー」を2003年に実施しました。その後も緊急時の通告訓練や、リスクコミュニケーションといった危機管理の全般について各国の連携を進める中心的なWGとして機能しています。議長は英国とカナダが共同議長を務めています。このWGの下に、リスクコミュニケーションおよびクライシスコミュニケーションの専門家による「リスクコミュニケーターズネットワーク」が組織され、コミュニケーションの観点から危機を適切に管理する方策について議論を進めています。議長は米国とカナダが共同議長を務めています。

○ 実験施設ネットワーク(Global Laboratory Network)

各国の国立感染症研究所に相当する実験室の担当者が集まり、病原体を同定する技術を磨きあっています。年に数回、特定の病原体をテーマとして実験室での手技や検査能力を検証するワークショップを開催しています。議長はカナダが務めています。

○ 化学イベントWG(Chemical Event WG)

化学兵器を用いたテロ攻撃や、化学物質による汚染に関して、汚染を取り除く手法や、脅威と考えられる化学物質を検証して対策を進める等の作業を進めています。議長は、松本および東京でのサリン事件での経験を活かし、日本が務めています。

○ 核・放射線源の脅威WG(Radio-Nuclear WG)

放射線源による汚染や、核兵器といった脅威に対する対策を行うWGで、IAEA等の活動と連携しながら、緊急被曝医療のノウハウを共有したり、生体における被爆線量測定技術の連携を進めています。議長はフランスが務めています。

○ 新型インフルエンザワーキンググループ(Pandemic Influenza WG)

大量破壊兵器の脅威と同等か、それ以上に深刻な人体および社会への被害をもたらすという危惧がされている新型インフルエンザも、国際的な対策、連携を進めなければならない大切な領域です。このWGでは、志や立場の近い国同士の新型インフルエンザ対策の状況(抗ウイルス薬やワクチンの備蓄状況やその政策決定における考え方、国境管理の方策等)について、専門家レベルから政策立案者のレベルまで幅広く議論を行い、最適なインフルエンザ対策のあり方を進めるための情報交換を積極的に行っています。実際には、地理的な状況や国内の資源の関係で各国がまったく同じ政策を取ることは現実的ではありませんが、我が国は比較的大量のプレパンデミックワクチンの備蓄を行っていること、国内に相応のワクチン製造能力があること、水際対策に重点を置いている事などから、メンバー国の高い関心を集めています。議長は米国と英国が務めています。

4.直近の状況

去る2008年12月5日に、欧州政府の主催によりベルギーのブリュッセルにて第9回の閣僚級会合が開催されました。各メンバー国による開催が一巡した節目に当たる今回の会合では、健康への脅威がテロリストによる人為的なものに留まらず、新型インフルエンザや食品の汚染もグローバルな視点を持って取り組んでいく必要のある課題であるという認識が共有されました。特に、新型インフルエンザの準備およびそのためのウイルス検体共有が迅速かつ円滑にWHO内で行われるべきこと、国際保健規則の履行を進めていくことなどが確認されたとともに、輸入食品の安全性について各国の高い関心が共有されました。今後、GHSIがより広い地球規模での健康安全保障に取り組んでいく中で、日本も相応の連携を果たし、リーダーシップを発揮していくことが期待されています。

主催者である欧州委員会アンドロワ・ヴァシリウ委員と握手をする谷口隆技術総括審議官、12月5日、ブリュッセル

※ 写真:主催者である欧州委員会アンドロワ・ヴァシリウ委員と握手をする谷口隆技術総括審議官、12月5日、ブリュッセル

○お問い合わせ先

大臣官房厚生科学課


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