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(※受付期間中(平成13年1月18日〜4月18日)に提出された御意見は受付番号1〜26ですが、今回の結果発表までに提出された受付期間外の御意見(受付番号27〜31)についても参考として掲載しています。)

受付番号:1
受付日時:平成13年1月26日
年齢:不明
性別:男性
職業:不明
氏名:(匿名化の要否不明)
所属団体:不明
この問題に関心を持った理由:不明

御意見

生殖補助医療について

 他人の生殖細胞を利用することに反対。人工受精は夫婦間に限定すること。
 生まれて来た私たちはあらかじめ両親をえらぶことは出来ません。長じて両親を知り、納得して生きて行きます。これは天命とでも言える人間の宿命です。
 まして親が分からない、分からせてもらえないたとえ分かったとしても家族でない他人が親だと知らされたらその本人の気持ちはどうでしょうか。果てしない問題が拡がって来ます。子どもが欲しいなら養子制度を取るべきです。ついでに、人の受精卵はすでに人間であるという認識を確認して下さい。受精卵の扱いについてはきびしい規制をもうけるべきです。


受付番号:2
受付日時:平成13年1月26日
年齢:不明
性別:不明
職業:不明
氏名:不明
所属団体:不明
この問題に関心を持った理由:不明

御意見

 新聞を見てぺんを取る事にしました。
 生殖医療は、子を持ちたいと願う人にとっては、すごく大切な事で、なかなか出来ない人にとっては、切実な問題です。
 数年前、ある医師が姉妹の卵子提供を受け妊娠した事がいろいろと取りざたされましたが、結果として、その医師がやった事がもうすぐ認められます。それも親となる人との血のつながりを無視した形の方法を認められ、それは、子供の親を知る権利を全く持って無視していると思います。子供がもし遺伝的病に犯された場合の責任とか両親が離婚した時とかどうなるのでしょう。
 現実、非配偶者間人工受精は、認められ何万人もの子供が誕生しています。知らないうちに近親そうかんという事も考えられます。
 そういう事は無視して子供を与えるというのはどうしょうか?
 もし自分以外の子供を持ち実の親として居られるということを認められるのであれば、代理母も認められるべきだと思います。
 何らかの理由で子宮を摘出してしまった人の人権はムシされ自分で卵子精子を作れない人の人権は守られる、オカシイです。ご一考される事を望みます。
 また、決定を出した人の中に、他人の卵子、精子を使わなければ子供を得る事の出来ない人が居るとのうわさがあります。
 公平さを保つ意味でも、今回の決定は?マークです。
 それよりも、不妊治療の費用の保険適用と体外受精の料金の一定化を切に願います。


受付番号:3
受付日時:平成13年1月28日
年齢:32歳
性別:女性
職業:匿名希望
氏名:匿名希望
所属団体:なし
この問題に関心を持った理由:
 ふたごの赤ちゃんがアメリカ人夫婦とイギリス人夫婦のあいだでどちらが里親になるか、裁判にかかっている件をみて、子供が欲しいという気持ちを考えるようになり、関心を持った。

御意見

(1)「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療を受ける条件について」について

 基本的に賛成ですが、このまま早いスピードで認可されてはどうかと考えます。
 なぜなら、提供を他人から受けることによって、その生まれてきた子供達が結婚をするような年齢になったとき、万が一にでも近親者で婚姻があったら…と、考えているからです。
 これがもし、養子なら可能と言う部分で本人および、相手にも万が一…という心構えもできるでしょうけれど、提供を受けて授かった子供を戸籍上、実子と扱うことに違和感を感じます。
 やはり、血のつながりというのは生物学的にもはっきりとさせておくべき、と思います。
 もちろん、どこの誰の子…とまでは無理だとしても、戸籍には提供を受けて授かった、という記載はあるべきだと考えます。
 養子を取らずに、提供を受ける方々には戸籍上の実子がほしくて(提供を)考える人が多いと思いますが、子供の将来を考えて不幸な結果にならないように戸籍上の記載は必ず行ったほうがいいと思います。
 特に日本人は単一民族であるため、人種での判別がつかない分必要ではないでしょうか?
 子供達が自分が戸籍上の両親の血のつながった親子でないとわかってしまった時の問題もあるとは思いますが、子供たち本人の婚姻について考えた時、戸籍に記載することは差別にはつながらないと思います。(それでしたら、養子の方がよっぽど差別的)
 それに養子を取る、という件も見直していただきたいです。
 差別を受けないように、養子を取る時の条件が里親の年齢などで可能か不可能かなどときめけつけられないように。
 それを考えた上でなら、子供をほしいと思うすべての夫婦にチャンスが与えられるのはすばらしいことだと考えます。


受付番号:4
受付日時:平成13年1月30日
年齢:49歳
性別:女性
職業:主婦
氏名:(匿名化の要否不明)
所属団体:不明
この問題に関心を持った理由:不明

御意見

 私は四十九才の主婦です。二十五才第一子(女)を生み、第二子が五年間できませんでした。俗に言う不妊症で二年半、通院しました。その間の精神的な苦しみは、何とも言えません。一人いるからと主人はなぐさめてくれましたが、それでも第二子が欲しくてたまりませんでした。子供が欲しいと思う気持ちは、誰しも同じだと思います。私は、五年後に第二子(女)、その後、就職し、そこで五年後に第三子(女)その五年後に第四子(男)を出産し、四人の子宝に恵まれました。でもあの時の苦しみは忘れていません。本当に子供の欲しい方なら、本人達の納得(希望)で、夫婦以外の精子や卵子の利用を認めても良いと思います。誰も親を選べないのは同じです。そこまでして生んだ子供なら、大切に育てると思います。将来、その件を話す時が来ても、それにそなえる時間はあるはずです。少しの事には動揺しない子供に育てれば良いでしょう。動揺しても立ち直れる子供に育てればよいでしょう。
 ちゃんとした技術はあるのに、それを使えば子供が持てるかもしれないのに、じっと見てるだけしかない方々が、お気の毒です。
 技術はその技術で幸せになれる人のために使って下さい。そして、悪用されないように、見守るのも厚生労働省の仕事だと思います。


受付番号:5
受付日時:平成13年1月30日
年齢:82歳
性別:女性
職業:不明
氏名:(匿名化の要否不明)
所属団体:不明
この問題に関心を持った理由:不明

御意見

 私は八十二歳、遺言のつもりで書いております。
 医学の究極の目的は人間の幸福と繁栄に有ると思います。そして医学は人間が研究して、日進月歩の発達を遂げて来ました。医学は生みの親である人間の手の届く範囲に有る可き存在のものなのです。夫婦間で当然ある可き、生まれる可き子供が出来ない時の手助けは医学の本来の姿だと思いますが、ここに問題の夫婦以外の精子、卵子を認めた場合、人間の将来はどうなるでしょうか。人間の作った秩序や文化の中には納めきれない不安が必ず来ると思います。
 いつかは、どこかで、必ず起きるであろう、親子、兄弟姉妹の結婚、遺伝子の劣化…もう医学だけでは止めようのない、人類滅亡の第一歩のような気が致します。
 人間は安楽と便利の追究に走り過ぎ、自然界に存在しない異物を作りすぎました。ダイオキシンや劣化ウランのような不安物質に音を挙げているのが今の現状です。
 この失敗を医学の上に繰り返してはならないと思います。夫婦以外の精子卵子の利用は人類滅亡への第一歩だと思います。「技術を取るか、倫理を取るか」技術だけで将来はまかせられませんが倫理は永遠のものとして存続させなければ、将来は無いと思います。
 私は第三者の精子卵子を使った体外受精と移植には大反対いたします。


受付番号:6
受付日時:平成13年1月31日
年齢:不明
性別:不明
職業:不明
氏名:不明
所属団体:不明
この問題に関心を持った理由:不明

御意見

(1) 子どもに恵まれない夫婦に家庭に恵まれない国内外の子どもを結ぶ支援をおねがいします。特に親の記憶のないまま連絡のない親を施設で待ち続ける子どもたちが養親・里親のもとで育てる道がもっと開かれますように。

(2) 子どもに事実を伝えることができる範囲の生殖医療
 自分が、生まれた子であったとして受け入れられる範囲の生殖医療を。いのちの選別には反対します。

(3) 少子社会となっても、夫婦のみの世帯と子育て世帯がどちらもその生き方を尊重されるように。不妊治療は身体的負担があるが、不妊症は社会的精神的負担がほとんどなので、それを除く社会の変容の方が大切では…?


受付番号:7
受付日時:平成13年2月1日
年齢:不明
性別:男性
職業:不明
氏名:(匿名化の要否不明)
所属団体:不明
この問題に関心を持った理由:不明

御意見

生殖医療に反対する意見

 子どもを生むために夫婦の精子や卵子を使うことなく、第三者の精子や卵子を使っての体外受精と受精卵(胚)の移植を認めることに反対します。

理由

 生まれた子どもが遺伝上の親を知る権利は全的に生まれた子どもに属することは当然なことであって、法によって遺伝上の親を知る権利が制限されるべきものではありません。もし、そのようにして子ども生むことが許されるならば、生まれた子どもの人権はどうなりましょうか。仮に、そのようにして子どもが生まれたとして、その子を抱いた母親が、「今日は赤ちゃんわたしがママよ」と歌いながら、まともなまなざしでその子の瞳を見つめることができるでしょうか。
 その子どもが成長して、やがて物心がついた日に、出生のいきさつを一部始終知ったなら、その子はどのような衝撃を受けるでしょうか。取り返しのつかない自らの宿命に苦悶のあげく、思いつめて悲劇を招くおそれすら否定できないでしょう。
 生殖医療は技術的には可能であっても、論理的には許されないことであり、むしろ論理以前の問題として取り上げられるべきであると思います。
 生殖医療というのは、言ってみれば文明の愚かな火遊びであり、人間破壊の暴力であると言ってもよいのではないでしょうか。
 (朝日新聞上で意見募集の記事を拝見しましたので私見を申し述べました)


受付番号:8
受付日時:平成13年2月5日
年齢:不明
性別:女性
職業:不明
氏名:(匿名化の要否不明)
所属団体:不明
この問題に関心を持った理由:不明

御意見

 貴委員会の報告書は、拝見しておらず、又、専門科学的な理解能力も有してはいませんが、下記、2点のみ、申し上げたく、ペンをとりました。

(1) 社会全般的に、情報公開度が広く細部まで行われつつある現状を考えると、出生児が成人する頃には、全公開が想定されます。戸籍や近親婚姻も問題と思います。

(2) 不妊には、環境ホルモン等の、元の原因を解消することが先決です。又、子を望む夫婦が、必ずしも「子ども好き」でなく、利己的という点も考慮して下さい。(その証拠に、里子・養子をむかえることはもちろん、他人の子をあやすこともしないカップルは多い。)中絶や虐待児を、縁組みすることが重要です。


受付番号:9
受付日時:平成13年2月9日
年齢:30歳
性別:女性
職業:匿名希望
氏名:匿名希望
所属団体:なし
この問題に関心を持った理由:現在不妊治療中である

御意見

 精子や卵子の提供など,最新医療のことばかり論議されすぎていると思います。
 個々にちがう状況を法で整備するのはどうかと思います。
 実際はそういう最新医療をする人は少なく,排卵誘発剤とエコーによる卵胞チェックでのタイミング療法が主です。その間にいろいろな検査をするといった具合です。
 それでも検査費などずいぶんとかかります。医師による卵胞チェックに通うだけでも時間とお金はかかります。それにまだまだ世間的に認知されておらず精神的苦痛がつきまとっています。産婦人科も不妊外来という看板を掲げてはいますが,単にお金儲けだけといった感じがします。保険の適用と国が率先しての不妊治療研究・医師の育成を早急に願います。


受付番号:10
受付日時:平成13年2月28日
年齢:30歳代
性別:女性
職業:勤務助産婦
氏名:加藤 美奈子
所属団体:国立金沢病院 日本不妊看護ネットワーク
この問題に関心を持った理由:
 実際に生殖補助医療に携わっているため,興味をもっています

御意見

○ さらに、加齢により妊娠できない夫婦については、その妊娠できない理由が不妊症によるものでないばかりでなく、高齢出産に伴う危険性や子どもの養育の問題などが生じることが考えられるため、精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療の対象とはしないこととしたものである。

『と,ありますが具体的ではないため判断に迷うことも考えられると思います。加齢により妊娠できない夫婦を具体的に表した方がいいのではないでしょうか?』

○ 加齢と精子の異常の発生率との関係については必ずしも明確にはなっていないが、加齢と精子の異常の発生率との関係を示す研究もある。(中略)こうした点を勘案して、本専門委員会においては、イギリスにおいても精子を提供する人の年齢要件として採用されており、また、生殖活動を行う一般的な年齢を考慮しても妥当なものと考えられる満55歳未満を精子を提供する人の年齢要件としたものである。

『卵子の提供を35歳と区切ったのは,説得力がありますが,精子の場合,その根拠が乏しく説得力に欠けます。一般的なイメージとして,もう少し若い方がいいような気も致します。アメリカ等はどうなのでしょうか?』

○ 上記によるカウンセリングを行う人は、提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療を行う医療施設や精子・卵子・胚の提供を受ける医療施設以外の当該生殖補助医療に関する専門知識を持つことを専門団体の認定制度等により証明された人であることが望ましい。

『認定制度等により認められた専門知識を持つ人が,実際にクライアントの身近にいるとは考えにくく,地域によっては,かなり遠方から負担をかけて通うケースも考えられます。ARTを受ける施設が近くにありながら,医療施設以外に足を何回も運ぶ(カウンセリングが一回で終了するとは思えないので)ことが,実際に可能でしょうか?(メールや電話等の面会以外のカウンセリングでは,表情等の微妙なものが伝わらないと思われるので)もちろんカウンセリングは必要ですが,治療そのものだけでかなりの時間的・金銭的・心理的負担をお持ちなので,そのカウンセラーがクライアントの近くに出かけて行くという制度があってもいいと思います』

○ イギリスの例も参考とし、同一の人から提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療を受けた人が妊娠した子の数が10人に達した場合には、当該同一の人から提供された精子・卵子・胚を提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療に使用してはならないこととしたものである。

○ 同一の人からの卵子の提供は3回までとする。

『上記2点は矛盾しているように感じます?卵子の提供が3回までなのに,それによる妊娠した子が10人に達する可能性はあるのでしょうか?』

『人口が少ない程,近親者による婚姻の確立が増えるので,上記の10人というのは多いと思います。10人とした根拠が分かりにくいです』

○ 同一の人から提供された精子・卵子・胚の使用数を制限するためには、提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療に使用された精子・卵子・胚を提供した人の氏名や当該生殖補助医療の実施の結果など当該生殖補助医療の実施の内容に関する情報を一元的に管理する必要がある。

『徹底した管理体制のもとで一元化することに賛成します』

○ 営利目的での精子・卵子・胚の授受・授受の斡旋及び代理懐胎のための施術の斡旋 は、「商業主義を排除する」及び「優生思想を排除する」という本専門委員会の基本的考え方に著しく反し、なおかつ、医師以外の人々によっても行われる可能性が高いことから、実効性を担保するために罰則が必要であること

『グレーゾーンとして,精子バンクが存在しているので,今後卵子バンクができる可能性は充分あり得ますし,ARTは商業的ニュアンスがあるので,これらを絶対に防ぐ必要があります。ARTによるもののコストの上限をもうけてもよいのではないでしょうか?地元では,同じIVFをするのに10万円台の施設から50万以上という施設まであります。暗黙にポケットマネーを請求されることもあると言われました。クライアントは弱い立場なので,それに付け込むということはあってはならないと思います』


受付番号:11
受付日時:平成13年4月2日
年齢:73歳
性別:女性
職業:評論家、著述業
氏名:青木 やよひ
所属団体:比較文明学会、日本女性学会、その他
この問題に関心を持った理由:
 1978年に世界最初の試験管ベビーが誕生して以来、フェミニズムの立場から一環してこの問題に注目してきました。その間メディアやシンポジウム等の場で発表した意見は、自著『フェミニズムとエコロジー』(1986年、新評論)『共生時代のフェミニズム』(1994年、オリジン出版センター)等に一部収録されています。また、グループ「女の人権と性」「リプロダクティブ・エシックス研究会」等において、医師・法律家・国会議員・ジャーナリストなどと15年余にわたり討議を続け、共著『ア・ブ・ナ・イ生殖革命』(1989年、有斐閣)も刊行しています。

御意見

1 IIの「意見集約に当たっての基本的考え方について。

 ここにあげられている6カ条については全面的に賛成です。しかしこの考え方を単なるうたい文句に終わらせないためには、この報告書のそれぞれの項目に、その精神が具体的に貫徹されていなければなりません。その見地からすると、けっして十分生かされているとは言えないように思われます。
 以下で具体的に意見を述べます。

2 III本論の(2)「各生殖医療の是非について」の(1)および(2)について。

 提供精子による人工授精および体外受精を」容認した上で、提供精子からの感染症の危険を防ぐため、「十分な検査等の予防措置が講じられるべきである」としている。これは医療上当然の措置であるが、そこに優生思想が反映せざるをえない点について、どのような対応が考えられているのだろうか?

3 (3)−(2)「精子・卵子・胚の提供に係る一切の金銭等の対価を提供すること及び受領することを禁止する」とあるが、具体的な場面でどのようにチェックが可能か、また違反した場合にどのような措置が適当なのか、イメージできない。このような単なる名目的規制では商業主義の介入を防ぐことは不可能であり、市場システムがあるかぎり、生殖の商品化はとめどなく進行し、生命の尊厳が失われる結果になるのではないだろうか?
 とくに現状のように経済の国際的南北格差が顕著な場合、南からの卵子や胚の輸入ということも将来的には起きかねないのではないか?(冷凍すれば遠隔地からでも輸入できる。)
 「人を専ら生殖の手段として扱ってはならない」という基本的考え方を「代理懐胎」だけにかぎらず、ここまで拡げて適用する必要があるのではないか?

4 (3)−(3)「精子・卵子・胚を提供する場合には匿名とする」について。

 この場合、提供者のプライバシーを守る必要と「生まれてくる子の福祉を優先する」という基本的考え方に立つ「子の出自を知る権利」とが相反することになる。しかしここでは、この争点については明確な見解は示されていない。
 一方では、子が提供者を知った場合に予想される弊害をかなり具体的に提示した上、匿名にしなければ、被提供者に提供者の選別を行う余地を与える可能性がある(優生思想が介入する恐れがあるということか?)として、匿名性の必要性を説明している。つまりここでは、子の「出自を知る権利」には言及されずに、匿名性のメリットだけが示されている。
 そして他方では、匿名性を保持しなければ「提供の減少を招きかねず」「生殖補助医療の実施を実質的に困難にしかねないものである。」と述べられている。
 これは結果的に、「生殖補助医療の実現可能性を実質的に担保するため」に、「生まれてくる子の福祉を優先する」という理念を裏切っていることを示すものではなかろうか?

5 (3)−(4)

 「精子・卵子・胚の提供における匿名性の例外として、精子・卵子・胚を提供する人が兄弟姉妹等以外に存在しない場合には、当該精子・卵子・胚を提供する人及びそれらの提供を受ける人に対して、十分な説明・カウンセリングが行われ、かつそれらの提供が生まれてくる子の福祉やそれらを提供する人に対する心理的な圧力の観点から問題がないこと及び金銭等の対価の供与が行われないことを条件として、兄弟姉妹等からの精子・卵子・胚の提供を認めることとする」としていることについて。

 いかにも厳密な条件で規制しているように見えるが、肉親という親密で永続的な関 係において、これらの条件をいかにして担保することが可能なのか?
 提供者の情報が具体的に知られることによる弊害は、あとの2−(2)−(2)「出自を知る権利」の項でも述べられているように、当事者双方にとって「取り返しのつかない事態を招く恐れ」があると予想されている。このような弊害が近親者間で将来的に起こらないという保証はない。むしろ見知らぬ他者の場合よりも「人間関係の複雑化」や「心理的圧力」はいっそう大きいと考えられる。こうした中で、兄弟姉妹からの提供を容認する方向性を打ち出す根拠は、一体どこにあるのだろうか?
 またこれを容認することは、すでに規制を無視してこの方法を実施している医療機関に対して、その免責と追認を与えることにもなるのではないだろうか?

6 2−(1)「規制方法」について。

 この項四角囲み欄の結論については、大方の異論はないところと思われる。しかし、この結論にいたる基本的考え方を読むと、この規制に果たして実効性があるのか、疑わしさがぬぐえない。
 その核心は、上記の結論が、憲法第13条による「国民の幸福追求権と公共の福祉の観点との均衡を勘案」するところから導き出されたというところにある。この理論によれば、不妊の夫婦が生殖補助医療を利用して子を持とうとすることは、憲法上の権利と認められることになる。
 個人が子を持ちたいという意欲を、第三者が理由なく妨げてはならないことは自明の理である。しかしこの場合は、それとは条件がまったく異なる。人類がこれまで体験したことのない生殖技術を用いて、いわば「不自然な」妊娠による出産をめざすものだからだ。技術がこの先どのような展開を見せるかも定かではなく、生まれてくる子のアイデンティティの問題も未解決である。こういう段階で、これを安易に憲法上の権利と結びつけて考えることは危険ではないだろうか?そもそも不妊とは(筆者自身その体験者だが)、生きてゆく上で健康上なんの障害にもならない状態なのである。にもかかわらず、生殖補助医療による不妊の解消に憲法解釈が後ろ楯となるならば、人は、「子を持つ」という「幸福権」の追求に向けて、いかなる手段をとることにも抵抗感を持たなくなるのではないか?そして、市場原理に支配されているわれわれの社会においては、こうした不妊夫婦のニーズがあるかぎり、それに応える、有形無形のさまざまな「市場」が形成されることになるのではないか?
 これが、営利目的の授受やその斡旋、あるいは代理懐胎などの規制を、実効性の弱いものとするのではないかと、私が危惧するゆえんである。
 さらにまた、こうした過程で生命への倫理観が徐々に崩壊して行ったところに現れるのが、クローン人間の登場ではないだろうか?クローン技術はすでに「不妊治療」の一つとして名乗りをあげている。しかも、「不妊であることが不幸」であるならば、事故や病気で「子を失った不幸」はそれにまさるものである。その親たちの中から「幸福追求権」としてクローン技術による子の再生を望む声が出てきたとき、それを規制するどんな根拠があるのだろうか?
 それもまた容認されるとしたら、人類に開かれている未来とはどんなものになるのだろうか、それがこの問題に関する私の最大の危惧である。


受付番号:12
受付日時:平成13年4月5日
年齢:30歳代
性別:女性
職業:主婦
氏名:岸本 佐智子
所属団体:ひまわりの会
この問題に関心を持った理由:
 ひまわりの会の会長として、娘の卵巣機能不全を心配する多くの母達の気持ちを聞いているし、また自分のことで悩んでいる成人の女性からの相談も受けている。

御意見

 本論IIIの1の(2)の(3)において提供卵子による体外受精が認められた事に賛成です。 また同上(3)の(4)において兄弟姉妹等からの精子、卵子、胚の提供が認められた事に賛成です。
 なお、これに関連して、日本産科婦人科学会倫理審議会では、近親者からの卵子提供を認めないとしたとの報道がありますが、そこに書かれている理由には納得できないものを感じております。そこで、ひまわりの会では同封のような有志による「近親者からの卵子提供についての要望書」を日本産科婦人科学会倫理審議会委員長および倫理委員会委員長に宛てて送りましたことをご報告いたします。


(別添)
2001年3月25日
日本産科婦人科学会 倫理審議会委員長 武部啓殿
日本産科婦人科学会 倫理委員会 藤本征一郎殿

近親者からの卵子提供についての要望書

 私たちひまわりの会は同封の「提供卵子による不妊治療促進についての要望書」を一昨年に貴学会倫理審議会および厚生省厚生科学審議会に提出いたしました。
 本年2月24日の読売新聞の報道によれば、貴学会倫理審議会では夫婦間以外の体外受精について、精子、卵子の提供者には匿名の第三者を想定し、近親者からの提供は基本的に認めないとの事です。
 ひまわりの会が行ったアンケートによれば、卵巣機能不全の娘に姉妹がいる事に希望を託している方がおられます。匿名の第三者からの提供を希望する本人もおられますが、また、遺伝的関係のある肉親からの提供を希望している方も居るのが実情と言えると思います。
 子供のない夫婦が子沢山の親戚から子供を貰いうけて、養子としているケースは従来から身の回りにみられます。近親者からの卵子の提供を受けることは、身内からの養子という従来からの慣行と連続性を持った現代的な形といえるのではないかと考えます。
 他方、自分が不妊症であることを知って、「とじこもり」になるなど非常な精神的混乱に陥っている思春期の女性の例も会の内外で聞いております。

 貴学会が提供者を第三者に限定する理由として「提供を強制する心理的重圧」や、近親者からの提供によって親子関係が複雑になるなどがあげられます。これについては各治療施設や地方レベルで倫理審議会または検討員会を設け、そこでの検討や、充分なカウンセリング体制によって、強制が推測されるなどの不適切なケースに対しては、治療申請を却下するというような方法で対処できるのではないかと考えます。
 一般人の私たちにさえも、今後の生殖医療の急速な展開は予見できるものであります。その為にも、専門家内部、および識者や一般人を交えての活発な討論と迅速な方針の決定、さらには当該の不妊治療のみならず多様かつ先進的な治療を求める人々への十全な情報提供とカウンセリング体制こそ、今最も求められているものといえるのではないかと考えます。
 ひまわりの会会員全体に図る時間がありませんので、ここに有志として、姉妹などの近親者による卵子の提供も認め、幅広く治療を受ける可能性を開いていただきますよう貴学会に要望いたします。

ひまわりの会有志 代表岸本佐智子
他、69名


受付番号:13
受付日時:平成13年4月12日
年齢:32歳
性別:女性
職業:匿名希望
氏名:匿名希望
所属団体:なし
この問題に関心を持った理由:
 私自身、不妊治療中であり、生殖補助医療に強い関心がある。また知人に二人の母(産みと育ての親)を持つ人がいる。知人は思春期に色々と悩んだようなので、その経験などから考えると、第三者からの提供については、もっと慎重に考えるべきではと思ったので。子供を欲しい親の気持ちは痛いほどわかるが、一方で、生まれてくる子供の心の問題、子の福祉を考えると、第三者からの提供はなるべくさけるべきと思う。特に兄弟姉妹など近親者からの提供と、胚の提供はかなり問題ではないか。

御意見

・意見要旨

 基本的考え方としてあげられている6つの点については、まさにその通りと思う。しかし、報告書を読むと「生まれてくる子の福祉を優先する」ということが、軽視されているようだ。子供は、生まれてくる家庭を選べない。第三者からの提供により生まれたということを知った時の子供の気持ち、そのショックを考えていない。全体に身体的リスクや法の整備については十分検討されているが、心理的リスクについては十分でない。兄弟姉妹からの提供については、学会も問題ありとしているように、人間関係が複雑になりやすまた、子が成人前の多感な時期に真実を知ってしまうリスクも大きい。その場合の心理的損傷は計り知れない。胚の提供の場合も、一方のみの提供に比べて、たとえ成人後に知ったとしても、子の心理的負担があまりにも大きすぎる。自分がそうであったらと考えてみるがいい。心に大きなトラウマが残ると思われる。そのようなリスクを犯してまでも胚の提供を受けるべきだろうか。それよりもこの場合は、家庭に恵まれぬ子供を養子として迎える道を推奨すべきではないか。親の希望よりも、生まれてくる子供に幸せな家庭環境を用意できるかどうかを優先し、子の福祉をもっともっと子供の立場に立って考えて欲しい。
 私も、なかなか子を持てず、不妊治療に苦しんでいるのだが、なにより、生まれてくる子供にとって何が良いかということを、考えたいと思っている。
 一方、提供者側や提供された家族のその後の心理的負担や葛藤についても、もっと考え検討すべきだ。又、卵子や胚の提供は、場合によっては代理母の代替になってしまう危険性もあるのではないか、検討が必要だ。以下、報告書の内容に基づいて細かく述べていく。

・意見

1IIIの1の(1)精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療を受ける条件についてこの結論については賛成です。子の福祉の観点からもこの3つについては、絶対ゆるがしてはいけないと思う。

2IIIの1の(2)の(3)提供卵子による体外受精について

 卵子の提供をうけなければ妊娠できない夫婦に限る点は賛成です。たとえ、排卵しにくい状態だったとしても、誘発剤の投与などで卵子が得られるのなら、子の福祉の観点からも問題があるし、第三者に身体的及び心理的リスクを与えるものであるので、提供してもらってはいけないだろう。
 しかし、「他の夫婦が自己の体外受精のために採取した卵子の一部の提供を…受けることを認める」とした点は反対です。他の方法による卵子の提供と本質的には相違ないとしているが、大きな相違がある。体外受精をしようとする夫婦は、子を切望し不妊治療をしている途中なのに、さらに心理的リスクを負うことになる。この提供夫婦は流産したが、提供を受けた方は無事出産したという場合、提供者は多分自分の提供卵子がどうなったか知りたがるだろうし、親としての引渡しを主張する場合もありえるのではないか。むろん法律で、それを禁止するとしても、提供者と提供された側にいらぬ軋轢や葛藤をうむことになり、子の生育環境に悪化を生ずるので、子の福祉にも反する。体外受精においては、普通、妊娠率を上げるために複数個の胚を体内に移植する。原則として3個以内と規定するようだが、多胎となった場合、提供夫婦が一人よこせと主張する可能性や、最初から「多胎児の場合は一人提供者に渡す」というような条件付きで提供をするような事態にならないとも限らない。以上から、「不妊治療中でまだ子供を出産していない夫婦の卵子」を提供することは禁止すべきである。子供を出産済みの夫婦の場合は、十分なカウンセリングを行ったうえで、冷結保存してあった余剰卵子を提供することを認めても良いかもしれないが、心理的リスクについて慎重に考えなければならない。

3IIIの1の(2)の(4)の提供胚の移植について

 胚の提供によって子をもうけること自体に反対です。他国でそのような事例があるのかは知らないが、事例があるとして、他国では子が事実を知った場合、問題は生じなかったのだろうか。これは子の福祉の点でおおいに問題があると思うのだが。「提供された胚を余剰胚に限定した場合、安全性など6つの基本的考え方に照らして特段問題ないと言えないことから容認した」とあるが、子の福祉や子の心理的リスク、及び提供者の心理的リスクについては十分検討されていないのではないか。自分がそうであったらと想像してみるがいい。たとえ成人後にそのことを知ったとしても、(近親婚をさける等の理由から、知る必要があると思うが)その精神的なショックは、はかり知れないのではないか。ましてや心理的に不安定な思春期などに知ったとしたら、心理的損傷は想像できないほどである。(知らせなければわからないと思いがちだが、子供は感受性が強く、気づいてしまう可能性は高い。)そのようなリスクを子に負わしてまでも、胚の提供をうけるべきだろうか。精子か卵子の片方のみの提供なら、親に顔も似るだろうし、親ともちゃんと血がつながっているのだからと、事実を知った子も自分を納得させやすいメリットはある。しかし胚の場合、子に多大な心理的リスクを負わせてまでも提供をうけなければならない必然性はない。むしろ、家庭に恵まれない子供を養子に迎えることを推奨すべきではないか。
 さらに、余剰胚の提供は提供夫婦にも多大な心理的リスクを負わせる。自分たちも子を切望し、苦しい不妊治療中なのである。まさしく遺伝的にも自分たちの子供が、他の女性の体内で育ち、生まれることに、苦痛を感じないはずがない。子をできないつらさに加えてのこの苦痛である。「余剰胚を提供する人に新たな身体的リスクをおわせるものではない」としているが、心理的リスクは膨大なものだ。例えカウンセリングをしたとしても、もしかしたら一生の後悔を負わせることにもなりかねない。提供時には納得しているつもりでも、いざその子が誕生したら、あるいは長い一生の間には、様々な心理的葛藤が生じると思われる。また、余剰胚を「他の夫婦が自己の胚移植のために得た胚であって、当該夫婦が使用しないことを決定したもの」としているが、提供夫婦に子供がいない、あるいは流産した場合、「提供された夫婦が出産した子」を自分たちの子だと主張し、深刻な争いになる可能性は多大である。提供者は多分自分の提供胚がどうなったか知りたがるだろうし、親としての引渡しを主張する場合もありえるのだ。むろん法律で、それを禁止するとしても、提供者と提供された側にいらぬ軋轢や葛藤をうむことになり、子の生育環境に悪化を生ずるので、子の福祉にも反する。体外受精においては、普通、妊娠率を上げるために複数個の胚を体内に移植する。原則として3個以内と規定するようだが、多胎となった場合、提供夫婦が一人よこせと主張する可能性や、最初から「多胎児の場合は一人提供者に渡す」というような条件のうえで提供をし、いわば代理懐胎のように使われるような事態にならないとも限らない。また、心理的にリスクが大きいため胚の提供者は多くはないと思われる。そこで、その不足を補うために、子宮の異常等があり代理懐胎でしか子をもうけることのできぬ夫婦が、胚の提供を申し出て、「多胎児の場合は一人提供者に渡す」条件をつけることも考えうるので、実質上の代理懐胎の抜け道に使われる恐れがある。また、精子や卵子と違い、胚はそれ自体一個の命と考える考え方もある。医学の世界では、胚の状態では命として扱わないのかもしれないが、一個の命と感じる人がいる以上、精子や卵子と同列には扱えないと思う。精子・卵子以上に、より慎重な議論が必要ではないか。その点は十分議論され、国民の納得も得られたのだろうか。疑問である。
 以上、子の福祉上の問題や子に心理的多大なリスクを負わせること、提供者に心理的リスクや葛藤を負わせ、提供を受けた側との間に争いの生じる可能性があること、及び代理懐胎の代替になる恐れ、精子・卵子と胚を同列に考るのは国民の理解が得られているとは思えない点を考えると、胚の提供を認める必然性はなく、全面的に禁止すべきである。このような多大なリスクをおかすより、養子を推奨するほうが良いのではないか。

4IIIの1の(2)の(5)代理懐胎(代理母・借り腹)について

 「人を専ら生殖の手段として扱ってはならない」「安全性に十分配慮する」という基本的考え方に照らして到底容認できない、禁止するとしているのには、全く賛成です。また、アメリカでもその事例がたくさんあるように、代理懐胎を依頼した夫婦と代理懐胎を行った人との間に、生まれた子を巡って深刻な争いが起こることはかなり考えられるので、「子の福祉の優先」からも禁止すべきとの結論にも全く賛成です。場合によっては、代理懐胎を依頼した夫婦と、実際の精子や卵子の提供者と、代理懐胎のみを行った人との三つ巴で争いが生じる可能性もあり、そこに巻き込まれた子は悲惨な体験をすることになるので、絶対禁止すべきです。

5IIIの1の(3)の(1)精子・卵子・胚を提供する条件について

 「卵子の提供者を既に子のいる成人に限り、満35歳未満とする」点につき、賛成です。提供に際して副作用等で提供する人自身が不妊症になる身体的リスクについて述べられているとおりだと思う。しかし、「自己の対外受精のために採取した卵子の一部を提供する場合には、既に子がいることを要さない」とした点は反対です。体外受精をしようとする夫婦は、子を切望し不妊治療をしている途中である。自分はまだ妊娠していないのに、自分の卵子が他の女性の体内で育つことには苦痛を感じるだろう。新たな身体的リスクはないかもしれないが、苦しい治療をしている上に、さらなる心理的リスクを負わせることになる。もし、この提供夫婦は流産したが、提供を受けた方は無事出産したという場合、親としての引渡しを主張する場合もありえるのではないか。そうなると、子が争いに巻き込まれ、子の福祉にも反する。体外受精においては、普通、妊娠率を上げるために複数個の胚を体内に移植する。原則として3個以内と規定するようだが、提供卵子を使って多胎となった場合、提供夫婦が一人よこせと主張する可能性や、最初から「多胎児の場合は一人提供者に渡す」というような約束をするような事態にならないとも限らない。以上から、「不妊治療中でまだ子供を出産していない夫婦の卵子を提供することは禁止」とすべきである。不妊治療で子供を出産済みの夫婦の余剰卵子については認めても良いかもしれない。
 「同一人からの卵子の提供を3回まで」としているのは賛成です。一方、精子や胚は回数を制限しなくていいのだろうか。精子は身体的リスクはそれほどないが、心理的リスクについて考えれば、回数を制限すべきではないか。また同一の人の提供精子から沢山の子が生まれる危険性もある。(10)で10人になったら制限するとしているが、同時期に続けて提供すると、受胎確認に時間がかかり、確認まえに10人を超えていたなんてことになり、近親婚の危険もあるので、回数制限をしないまでも、前回提供からの期間を置くような処置をとるべきではないか。胚の提供は、それ自体にも反対だ。精子や卵子の場合は、異母や異父兄弟が10人までなら大丈夫と考えるとして、胚は両親とも同じ兄弟が生まれるわけだから、次元が違う。胚の提供は、万一、認めるとしても、回数制限と使用数制限を厳しくすべきである。

6IIIの1の(3)の(2)の精子・卵子・胚の提供に対する対価について

 まさしく報告書のとおり、絶対禁止すべきです。精子や卵子を売って、お金をもうける人が出てくると、商業主義の問題もあるが、金銭をめぐるトラブルの発生も懸念される。現に今でも、精子バンクと称して150万円の手数料を取って精子を斡旋している会社があるようで、インターネットにホームページを載せている。金銭以外の、優先思想を助長するなどの弊害もあるので、禁止すべきだ。「実費相当分についてはこの限りではない」としているが、この点を悪用されてはいけないので、厳しく規制すべきだ。

7IIIの1の(3)の(3)の提供における匿名性の保持について

 賛成です。報告書に述べられているとおりでしょう。

8IIIの1の(3)の(4)の兄弟姉妹等からの精子・卵子・胚の提供について

 反対です。兄弟姉妹等からの提供については、学会も問題ありとしているように、人間関係が複雑になりやすく、また、子が成人前の多感な時期に真実を知ってしまうリスクも大きい。その場合の心理的損傷は計り知れない。子の福祉の観点から、かなりの深刻な事態が発生しやすいと思われる。また、提供者の心理的リスクも多大である。心理的圧力から強要されるかもしれないし、提供後も身近に子がいるわけだから、その後の一生を、大きな心理的負担と葛藤して生きていかなければならない。提供後は人間関係がギクシャクしたものになってしまうだろう。そのような環境で子が育つことも、子の福祉の観点からみて適当ではない。これらのことを、報告書では提供時のカウンセリングでのりきれるようにしているが、提供時には納得したつもりでも、いざ生まれたら違ったものになる可能性は大きい。
 例えば、朝日新聞2000年12月27日の記事で紹介されている事例だが、夫に義兄が精子を欲しいと言ってきて、その時は「みんなが幸せになるんだったら、まあいいか」と納得したつもりだったが、夫の精子で義姉が妊娠したとたんに「この先、兄夫婦とうまくやっていけるのかしら」「うちの子がこの事実を知ったら…」などの不安に悩まされるようになった家族の話がある。また、兄弟姉妹等近親者からの提供の場合、提供時には何も知らない子供であった、提供者自身の子も、この葛藤の中に巻き込まれることになる。真実を知った時、提供されて生まれてきた子供もショックを受けるが、提供者自身の子供も、心理的リスクを負うことになる。
 つまり、近親者からの提供では、心理的リスクを負う人間が多すぎる。その家族全体に及び、その家族ぐるみの将来を暗澹としたものにしてしまう危険性があまりにも大きい。提供時のカウンセリングでは、とうてい予想もしていなかったようなことが、長い人生では起こる。もしかしたら、自分の親から精子等が提供されて生まれた子とは知らず、従兄弟と思って好意を寄せ、結婚しようとしたら家族の反対にあい、その理由が「実は兄弟だから」なんていう悲惨なことにもなる。カウンセリングをするのなら、提供時のみではなく、その後一生涯にわたって、家族なども含めてカウンセリングしなければならないはずである。しかし、カウンセリング機関もままならない状態で、それだけの精神的な支援が果たして可能なのか。とうてい無理ではないか。
 以上から、兄弟姉妹等からの提供は原則的に禁止すべきである。
 ただし、例外中の例外として、例えば子宮摘出等で将来子供をもうけることができない人が、提供することを強く望んでいる場合等のみ、提供後も関係者全員に、生涯にわたって十分なカウンセリングを行うことを条件にして、十分な審査の上で認めるということではどうか。この場合、提供者の関係者(家族)の同意も必要としなければならない。
 「医療施設の恣意的判断で特例を濫用されないように、公的管理運営機関で事前審査を行う」とした点は賛成である。医療施設の恣意的意見に、当事者が引きずられることも考えうるので、第三者的な視点は必ず必要であろう。
 新聞で紹介されたような、近親者からの提供事例に、匿名アンケートや聞き取り調査などをされたうえで、この結果を出されたのであろうか。心理的リスクについての調査をもっとすべきである。

9IIIの1の(3)の(5)の書面による同意について

 賛成です。書面で同意することは、自分自身の意思の確認にもなり、また後々の争いを避けるためにも必要であろう。義務とすべきです。

10IIIの1の(3)の(6)の十分な説明の実施について

 報告書に書かれていることには賛成です。十分すぎる程の説明が必要である。多大な心理的リスクを負うことになることも、十分説明しなければならない。最低限度の説明義務事項を定め、説明不足の場合には、当該医療施設に対しての罰則をつけてはどうか。

11IIIの1の(3)の(7)のカウンセリングの機会の保障について

 報告書に書かれていることには賛成ですが、不十分です。「…当該生殖補助医療の実施又は当該精子・卵子・胚の提供に際して…カウンセリングを受ける機会を与える」としているが、実施や提供時はむろんのこと、「当該医療行為の実施後又は提供後」も、いやむしろ「実施後・提供後の一生にわたって」こそ、カウンセリングが必要です。医療実施の際には納得していても、いざ当該子供が誕生すれば、提供された夫婦もさまざまな葛藤に直面する。誕生後に夫婦仲が悪くなって、例えば「俺の子(精子)ではない」などと言われ悩むこともあるかもしれない。そのような時にこそ、カウンセリングが必要だ。提供した側もそうである。提供時には納得していても、長い人生の上で、自分の精子や卵子で生まれた血のつながった子供に会いたいと悩むこともあるだろう。そのような時、相談に行ける機関が必要になってくる。また、誕生した子供が真実を知った時、かなりのショックを受け、悩み苦しむことは目に見えている。その子らをカウンセリングしなければ、心に深い傷を負ったまま人生を送ることになる。いままでAIDで大きな問題の発生は報告されていないとしているが、プライベートな問題だけに、だれにも言えず、悶々と悩み苦しんでいる人が多いのではないだろうか。「医療実施又は提供時」のみならず、「医療実施後又は提供後の一生にわたって」も、また、「この生殖補助医療で生まれた当該子供にも」、カウンセリングを受ける機会を保障できるようにすべきだ。
 「医療施設以外の専門団体等の認等を受けた…専門知識を持つ人によるカウンセリング」としている点には賛成です。第三者的な機関でないとなかなか相談できないこともあるので、そのような機関を早急に設けるべきだと思う。

12IIIの1の(3)の(10)の同一の人から提供された精子・卵子・胚の使用数の制限

 「同一の人から提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療を受けた人が妊娠した子の数が10人に達した場合には」それ以上当該同一の人から提供されたものを使用してはならないとしている。近親婚の危険性を考えると、使用数の制限自体は賛成ですが、「精子・卵子」と「胚」を同列に扱って10人としている点について反対です。
 精子や卵子の場合は、異母や異父兄弟が10人までなら大丈夫と考えるとして、胚は両親とも同じ兄弟が生まれるわけだから、次元が違う。異母や異父兄弟が近親婚になった場合の弊害と、同父母の兄弟が近親婚になった場合の弊害を考えれば、明らかだろう。例えば、奇形児の発生率も同父母の場合特段に増えるだろうし、同父母間の近親婚になるとわかった子らのショックも、異父母の場合よりかなり大きい。よって、胚の提供自体にも反対なのだが、万一、胚の提供を認める場合でも、同一の人からの胚の使用数は、10人では多すぎる。精子・卵子以上に、厳しく制限すべきである。
 「…生殖補助医療を行う医療施設は、…当該生殖補助医療の実施の内容に関する情報を公的管理運営機関に提出しなければならない」とした点は賛成です。報告書に書かれているとおり、情報開示のためにも、プライバシー保護のためにも、公的機関で一元管理しなければならないと思われる。

13IIIの2の(1)規制方法について

 「営利目的での精子・卵子・胚の授受・授受の斡旋」「代理懐胎のための施術・施術の斡旋」「提供された精子・卵子・胚による各生殖補助医療に関する職務上知り得た人の秘密を正当な理由なく漏洩すること」について、罰則を伴う法律によって規制するとしているのに賛成です。この3点は、絶対規制してほしい。
 「営利目的での…授受・授受の斡旋」については、現に今、精子バンクがあって、なんと150万円の手数料を取って斡旋している。不妊についてインターネットで調べていると、そのような会社のホームページがあってびっくりした。こんなことを野放しにしていては、色々な問題が生じるので、早急に規制する必要がある。また「代理懐胎のための施術・施術の斡旋」について、アメリカでの施術を斡旋するところがあるが、これについては規制はどうするのだろうか。
 また、プライバシー保護のためにも、生まれてくる子の福祉のためにも、情報の管理はきっちとして、漏洩に関しては厳しく規制してほしい。そうでないと、安心して生殖補助医療を受けたり、精子等を提供したりすることができないだろう。

14IIIの2(2)条件整備(2)出自を知る権利について

 「提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療により生まれた子は、成人後…提供した人に関する情報のうち…開示することを承認した範囲内で知ることができる」としている点について、アイデンティティの確立などの点から賛成です。「…(成人前でも)近親婚とならないことの確認を求めることができる」としているのも、賛成です。しかし、「当該医療行為により生まれた子のみ」に情報を知る権利を認めているのには反対です。例えば、精子等を提供した提供者に子どもがいる場合、そしてその子がその事実を知った場合、その子が結婚する時には、もしかしたら近親婚になるかもしれないとの不安を抱くだろう。どうやってそれを確認したらいいのだろうか。また、自分や配偶者が提供した精子等で生まれた子供と、自分の子供が近親婚になるのではないかと不安を、精子等の提供者側もいだくだろう。提供者側のみならず、提供された夫婦にも、子にはショックを与えるのでそのような事実を知らせたくないが、近親婚でないことを確認したいという場合も出てくる。それをどうやって確認するのか。「提供された夫婦、及び、提供者の一定範囲内の関係者の、自分の子や自分が、近親婚にならないかどうかを知る権利」をも、認めるべきではないだろうか。

・終わりに

 重ね重ね述べるが、子供は生まれてくる家庭を選べない。子供の福祉を最優先し、その心理面へのリスクを十分考えて欲しい。たとえ、親が第三者からの精子等の提供を強く望んでいたとしても、生まれてくる子の福祉の観点や子の心理的負担を考え問題があれば、容易にそれを認めてはならないと思う。私も不妊治療中であり、子の持てぬ人のつらい気持ちは痛いほどわかるが、それでも、子供の福祉を最優先すべきだと思う。また、当該子供の誕生後にこそ、提供者側にも、提供された方にも、色々な心理的問題が生じてくることを、その心理的リスクを、もっと重要視して、十分検討して欲しい。


受付番号:14
受付日時:平成13年4月15日
年齢:60歳
性別:男性
職業:医師
氏名:久保春海
所属団体:日本不妊学会、日本産婦人科学会、日本哺乳動物卵子学会、日本受精着床学会
この問題に関心を持った理由:医学的、社会的、倫理的立場から

御意見

1.IIIの(1)「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療を受ける条件について」について、受けられる人の条件を不妊症にのみ限定したのは納得がいかない。第3者の卵子、精子、胚を現在もっとも期待しているのは、不妊患者はもとより治療法の無い遺伝性疾患の患者あるいは保因者である。このような患者は子供を産みたくても産めないのである。このような患者に第3者の正常配偶子、胚を提供出来るようにしなければならない。

2.IIIの(5)代理懐胎について、第3者による精子、卵提供による不妊治療を容認しておきながら、子宮性不妊のみを置き去りにし、代理母、借り腹を認めないのは容認し難い。ヒトを専ら生殖の手段としてはならないというのが理由ならば、卵子、胚を第3者から提供させるのはどう説明しますか?
 卵子、胚を借りるだけなら他人を生殖の手段にしたことにはならないとでもお考えなのでしょうか。
 卵子を借りるのと、子宮を借りるのとでは、借りる期間が異なるのみで他は全く同じではないでしょうか。代理母になった人が、妊娠した他人の子供に母性を育むことはあるでしょうが、それはごく一部であり現在欧米で実施されている代理懐胎では、ほとんどの借り腹、代理母の意見は他人のために何かしてあげられるという意思で行っているものと思います。
 子宮因子不妊の患者も借り腹、代理母によって救ってあげるべきであると思います。


受付番号:15
受付日時:平成13年4月16日
年齢:56歳
性別:女性
職業:匿名希望
氏名:匿名希望
所属団体:匿名希望
この問題に関心を持った理由:
 根津医師の行った不妊治療についての平成10年6月の新聞報道を読み、日本でこのような事がすでに技術的に可能だということを知って驚いた。またその後の産婦人科学会の対応は不適切であると思った。

御意見

意見1。まずなによりもこの報告書が出された事は非常に意義があり、良かったと思います。委員の先生方には多大なご苦労をされた事と思います。多くの点でイギリスのHFEAに準拠されて審議が進められているように思いますが、HFE法の制定が1990年、実施が1991年からとの事です。経済の分野で「失われた10年」という表現があるようですが、同じようにこの生殖医療の分野における「失われた10年」ではないかと思います。
 根津医師の行った治療に対して、この分野の産婦人科学会のガイドラインは1984年に制定されたものとの事でした。日本においても治療技術は日進月歩で先進的であるのにたいし、それに対応するルール作りや社会的合意の取りまとめ、体系化などはなおざりにされている事を知りました。こういった事は一国の市民社会の品位に関わる事で、体系化されずに放置されているのは日本の恥であるとさえ思いました。公表した人のみが制裁を受け、それを見て、首をすくめて水面下で実は同じような治療をしている医師が他にもいるというのは健全ではないと思います。

意見2。「意見集約的に当たっての基本的考え方」に賛成です。しかしこの審議会のそもそもの発足の前提となっていると推察いたしますが、「不妊症の夫婦の子供を持ちたいという願いを次の6項目を反しない限りにおいて(又は、公序良俗に反しない限りにおいて)最大限に尊重する」といった内容の項目も明示的に入れるのが望ましいのではないかと考えます。

意見3。本論1の(2)の(3)で「提供卵子による体外受精]が認められたことに賛成です。また本論1の(3)の(4)で「兄弟姉妹等からの精子・卵子・胚の提供」が認められたことにも賛成です。
 しかし、提供者の匿名性をまず優先させる為に、匿名の第三者からの提供が無い場合に近親者(知人、友人も含める)からの提供を認めるという説明に違和感を感じます。
 私個人の自然な感情としては、まず近親者からの提供があれば望ましく、それが不可能な場合にのみ、匿名の第三者からの提供を待つというのが順序ではないかと思います。
 近親者からの提供である事によって、匿名の第三者からの提供を受ける場合よりも家族関係はより複雑になるという事の根拠はあるのでしょうか?兄弟姉妹のために精子・卵子・胚を提供する事には覚悟が必要であり、受ける側の人達への親しい感情、愛情、思いやりが前提としてある場合にのみ可能であろうと思います。こういった不妊治療を行う前提には提供する側も受ける側も、当該不妊の夫婦のもとに子が生れてくる事を待ち、喜ぶ気持ちを持っているという親和的な関係が必要と思います。

 また、自分が貰い子だったことが分かり、自分の実の親を知りたいという切実な思いを持った人の例が新聞に報道されていました。おじ、おばが実は自分の遺伝的な親であると分かっても、本人に取っては、身近な善意であり、理解しやすく、匿名の第三者よりも受け入れやすいのではないかと考えます。
 精子・卵子の提供者が顕名となった時にマイナスに作用する場合にまず慎重な配慮が払われているように思いますが、当該不妊治療に当たっては(2)条件整備(1)親子関係の確定を厳重に前提として、カウンセリングが行われるべきであると考えます。その事を前提とした上で、ゆるやかな拡大家族のイメージで子供を囲む複数の人間関係を想定することはありうるのではないかと考えます。名付け親とか、godmotherとかいったものに準じて、生命の半分の提供者という位置づけを与えることも有り得ると考えます。このように考えれば、提供者の匿名性を第一義におき、匿名の第三者を提供者として望ましいとするのではなく、顕名となりうるかもしれないが親しい関係にある近親者を提供者とする事がより自然な事として、受け入れられると考えます。「妻の姉から卵子提供を受けたことについて、『義姉の子というより、妻の血族の子供と考えています。見ず知らずの女性の卵子を使うなら、実行しなかった』」(「不妊治療」読売新聞2000年12月20日)という感想を述べている男性の例がありますが、私個人の感じ方もこの方と同じです。

 この複数の人間関係とは言い換えれば、「複雑な人間関係」としても作用しえるのでしょうが、あえて言えば、精子・卵子・胚の提供を受けるについては、その事態に対処して行く事への覚悟もまた必要なのではないかと考えます。
 近親者・知人などに提供を期待できない場合は第三者に期待する他なく、その場合には匿名性を保持することが必要である点については報告書の本論の「精子・卵子・胚の提供における匿名性の保持」に賛成です。

意見4。提供卵子による不妊治療が日本で認可されたとしても、卵巣機能不全とされる女性の中でも、結婚し、この治療をうける決断にまで至る方は数パーセントではないかと推察します。しかし素人考えかもしれませんが、究極的にこの治療法がありうるという事は、早くから卵巣機能不全による不妊とされる少女たちの女性ホルモン治療を質的に進める側面もあるのではないかと思います。成人した時に、もし本人が望めば、この治療を受ける事も可能となるように、乳房の発達などの外見的な女性らしさに加えて、十分な子宮の発達も視野において思春期の治療が行われる事が必要となります。かつては、ひとくくりに「不妊」とされていたのが、卵巣機能は欠けているが、子宮は機能しうるというふうに説明を受けるだけでも、その少女や親にとっての精神的ダメージは幾分か軽減されうるのではないかと考えます。また早くからより適切にアセスメントされた女性ホルモンの治療が行われる事によって、そういった女性のQOLも向上しうるのではないかと考えます。また、多くの産婦人科医がこの事についての認識を持つ事によって、東京、大阪、その他の都会だけでなく、日本全国の各地で均質的に適切な対応と治療がなされる事が望ましいと思います。

付記:意見3に至る契機ともなり、またよく視覚的に表現していると思われる絵のコピー(読売新聞2001年3月4日日曜版)を同封致します。


受付番号:16
受付日時:平成13年4月16日
年齢:39歳
性別:女性
職業:学生(大学院博士後期)
氏名:松島紀子
所属団体:城西国際大学大学院
この問題に関心を持った理由:
 大学院では不妊女性の悩みの分析と社会的支援の在り方というテーマで研究をしており、日頃から不妊治療を受けている方たちの語りを中心に聞き取りをしている関係で、この問題には大きな関心がある。

御意見

III本論

1精子・卵子・胚の提供等による各生殖補助医療について

1)精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療を受ける条件について

○精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療を受けることができる人は、子を欲しながら不妊症のために子を持つことができない法律上の夫婦に限る。
 の「法律上の夫婦に限る」に反対です。

理由

 子どもが欲しいことで悩み苦しむのは、法律上のカップルに限らないし、事実婚のカップルや、同性愛のカップル、シングル、など家族が多様化しており、法律上のカップルに限定することは、多様性を否定することになる。子どもが欲しいという理由によって生殖補助医療の対象を選別することは、選別されなかった人たちへの差別につながる。従って、子どもが欲しいという理由以外での条件はそれに適さないというカテゴリィをつくることになり多様化を認めないというになるので、反対である。

6)十分な説明の実施

(ア)提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療を受ける夫婦に対する十分な説明の実施

○提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療を行う医療施設は、当該生殖補助医療を受ける夫婦が、当該生殖補助医療を受けることを同意する前に、当該夫婦に対し、当該生殖補助医療に関する十分な説明を行わなければならない。
 に対し、補足すべき点がある。

 現実にARTによって現在も裁判中のケースがある。
 排卵誘発剤によって、適切な説明が不足によって死亡した例、重い障害を受けた例である。
 もちろん、実際これに近い様々な問題点(特にICに関する)はARTを受けた患者から、多く聞かれる。
 従って、このような事を防止するためにも、もっと具体的なICの項目、方法、誰が、どこで行うか、を明記すべきであり、ICにおいては、第三の機関(ART実施機関以外)を通して、患者が適切にIC受けているかどうかをチェックする事を義務付けすることを入れなければならない。このチェックを受けない機関では生殖医療行為を認めない。

7)カウンセリングの機会の保障

○提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療を受ける夫婦又は当該生殖補助医療のために精子・卵子・胚を提供する人及びその配偶者は、当該生殖補助医療の実施又は当該精子・卵子・胚の提供に際して、当該生殖補助医療を行う医療施設又は当該精子・卵子・胚の提供を受ける医療施設以外の専門団体等による認定等を受けた当該生殖補助医療に関する専門知識を持つ人によるカウンセリングを受ける機会が与えられなければならない。

補足事項として

 カウンセリングにおいては生殖医療を受ける気持ちを共有できるピア的な要素を持つ事が重要であり、福祉的な視点を持ち合わせなければならない。子どものいない生き方を支援していくことは今後よりよく生きるという支援にもなるからである。メディカルソーシャルワーカーも参入も必要である。また、このようなカウンセリングやメディカルソーシャルワーカーを院内に常設する事を義務化し、このカウンセリングの担当者は病院関係者以外の者とする。

4)提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療を行う医療施設の指定

○公的審議機関の意見を聴いて国が定める指定の基準に基づき、提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療を行う医療施設として、国が指定した医療施設でなければ、当該生殖補助医療を行うことはできない。

補足事項として

 どのような基準を設けるのか、具体的ではない。何を基準として国が指定するのか明確にすべきである。まずは、ICがきちんとやられているか。ART専門のメディカルソーシャルワーカー、カウンセラーがいるか。技術の正確な成功率(妊娠率ではなく、生産率)を公開しているか。苦情を受け付ける窓口がおいてあるか。
 など、生殖補助医療を受ける夫婦のニーズの調査をしたうえで、基準を明確に設けなければならない。


受付番号:17
受付日時:平成13年4月17日
年齢:グループのため該当せず
性別:女性(スタッフは女性だけですが、会員には男性も若干含まれます)
職業:グループのため該当せず
氏名:フィンレージの会
所属団体:同上
この問題に関心を持った理由:
 全国にいる会員の多くが不妊治療を受診しており、会員自らに、直接関連してくる問題として、非常に注目しています。

会の概要

 子どもを望みながら子どもができない、いわゆる不妊という状態にある人々のセルフ・サポート・グループである。会の創設は1991年。会員は全国に約600名(2000年度)おり、加えて、連携して活動している地域自助グループも全国にある。活動としては、ニューズレターの発行、講演への講師派遣、地域の自助グループ活動への援助、不妊や不妊治療に関する実態調査等を行なっている。個人代表は置かず、10名以上のスタッフが中心となって手弁当で運営しているNGOである。これまでの活動の成果として、東京都女性財団からの援助を受けて1993年度に「レポート不妊ーフィンレージの会活動報告書」を、1999年度に「新・レポート不妊―不妊治療の実態と生殖技術についての意識調査報告」を発行した。「新・レポート不妊」では、1999年1月に、現会員と旧員857名からのアンケート調査結果をまとめたもので、不妊治療の実態を把握する貴重な資料であると自負している。2000年度には「加藤シズエ賞」を受賞した。

御意見

指針案に対する意見

《総論》

1)提供についての矛盾した方針

 冒頭、III.1(1)「精子・卵子・胚の提供による生殖補助医療を受ける条件」として「○自己の精子・卵子を得ることができる場合には、それぞれ精子・卵子の提供を受けることはできない」(p.4)とありますが、これは、これ以降の記述と矛盾します。たとえば、「○ただし、卵子の提供を受けなければ妊娠できない夫婦も、卵子の提供を受けることが困難な場合には、(夫の精子に問題がなくても)胚の提供を受けることができる」(p.9)となっている点などです。自己の精子・卵子を得ることができたとしても、妊娠できない夫婦は少なくないということを、考慮する必要があると思われます。

2)誰が判断するのか

 「精子の提供を受けなければ妊娠できない」「卵子の提供を受けなければ妊娠できない」などを、誰がどんな基準で判断をするのかが不明です。現状でも、医師・医療機関によって判断は異なっています。

3)誰が管理や運営をするのか

 特に気になるのは、これらの提供にかかわる総合的な管理や運営を誰がするのか、監査は誰が行うのかが現時点ではっきりとしていないことです。私たちは公的管理運営機関による一元化管理が必要だと考えますが、その具体的な内容が見えません。

4)金銭授受についてのあいまいさ

 金銭の授受について、実費とか対価といった表現があいまいで、何を指すのかよくわかりません。医療費、通院のための交通費、提供するために仕事を休んだ際の収入補填など、どこまで考慮されているのでしょうか。

 以下、本報告書の中で、疑問および異議のあるところだけ提示させていただきます。

●III.1.(2)(2)「提供精子による体外受精」(p.7)

 本報告書では、「○女性に体外受精を受ける医学上の理由があり、かつ精子の提供を受けなければ妊娠できない夫婦に限って、提供精子による体外受精を受けることができる」とあります。この定義を厳密に受け取ると、精子提供による体外受精を受けられるのは、女性の両卵管に問題があり、なおかつ男性不妊のケースのみとなります。
 現状では、強度の男性不妊の場合、女性の側に「医学上の理由」がなくても、体外受精・顕微授精が実施されています。また、顕微授精を行おうと、精巣等からの精子回収に挑戦するご夫婦もいます。いずれも、妊娠可能な精子が得られるという保障はないにもかかわらず、女性は排卵誘発剤の投与等、からだに負担のかかる“準備”をします。苦痛をともなう準備をしてきたのだから、採れた卵を無駄にしたくない、万が一、夫から「妊娠可能な精子」が得られなかった場合は“代替”として「提供精子」も利用したい、と希望するご夫婦もいると思われますが、この定義ですと、それはしてはいけないこととなります。こうしたケースについては、どのようにお考えでしょうか。

●III.1.(2)(3)「提供卵子による体外受精」(p.8)

 本報告書では、「○卵子の提供を受けなければ妊娠できない夫婦に限って、提供卵子による体外受精を受けることができる。*他の夫婦が自己の体外受精のために採取した卵子の一部の提供を該当卵子の採卵の周期に要した医療費等の経費の半分以下を負担して受け、当該卵子を用いて提供卵子による体外受精を受けることも認める。」とありますが、この文章には不明な点が多くみられます。

ア)金銭の授受を、誰が行うのかがわかりません。提供者は匿名が条件ですから、誰かが仲介すると想像されますが、金額など、最初の約束が守られなかった場合、誰が交渉にあたるのかも不明です。

イ)卵子提供には、排卵誘発や採卵時のリスクなどがあります。そのリスクに関する説明(インフォームド・コンセント)の具体的な内容や、方法についても不明です。

ウ)排卵誘発や採卵で事故(卵巣過剰刺激症候群やまちがった場所を刺したことによる大出血など)が生じた場合、あるいは提供者が高度障害などを残した場合、誰がどう補償するのかが不明です。もし、卵子提供が実施されるなら、骨髄移植における補償制度などと同様の、公的補償措置が準備される必要があると考えます。

●III.1.(2)(4)「提供胚の移植」(p.9)

 胚提供は、母親が出産する以外に、親の遺伝をまったく受け継がない子どもが生まれるという意味において、養子と実質的にはかわらないと言えます。この点を考慮し、このようにしてまで生殖医療を実施する意味について、再度検討する必要があると思われます。しかし、この技術を使って、出産から自らがかかわり、より実子に近い形で子どもを持つことに意義を持つカップルもいると思われ、その場合には、以下の2つの条件が必要と思われます。ア・提供者及び、提供される側双方に、心理的葛藤が生じる可能性があるため、養子縁組との比較を含めた、十分なインフォームド・コンセントがなされること。イ・提供を強制されないシステム(凍結胚の廃棄という選択肢も尊重される)を用意すること。提供胚を用いた妊娠は、両親からの遺伝をまったく持たない子どもが生まれるという意味で、養子縁組を代替する提供方法であり、将来的に社会的な問題が生じる可能性を最小にするという観点から、生殖にかかわる第三者の数は最小限に留めるべきだと思います。したがって新たな胚をつくることを目的として、精子・卵子をそれぞれ提供してもらい、移植用の胚を得ることには反対します。

●III.1(3)(1)「精子・卵子・胚を提供する条件」(p.11)

 まず、精子提供も、卵子提供と同様、婚姻の有無や子どもの有無の条件を定める必要があると思われます。たとえば、ある男性が独身のときに精子提供して、その後に結婚したとします。夫が過去に精子提供をしたことを妻が知った時、心理的なショックを受けたり、子どもが生まれている場合は、家族関係に混乱を招く可能性がある、と考えるからです。人工授精であれ、体外受精であれ、精子提供者は、ア.婚姻していること、イ.すでに自分の子どもがいること、ウ.妻の同意があること。この3つの条件を満たした場合に、はじめて提供できるものとすることが望ましいと考えます。なお、本報告書では精子提供できる人の条件を「満55歳未満の成人」(p.11)としていますが、この根拠が不明です。卵子には加齢による妊娠率の低下、異常があり、精子には、それがないと考えていらっしゃるからなのでしょうか。
 また、精子・卵子単独では年齢条件があるのに、胚については年齢条件がありません。これはどのような理由によるものでしょうか。私たちは、胚提供についても、実施されるのであれば、上記の3つの条件を満たすほうが望ましいと考えます。提供する夫婦2人の同意が必要なのは言うまでもありませんが、重要なのはその夫婦にすでに子どもがいることだと考えます。不妊治療を受けてきて、自分たち夫婦には子どもができず、その自分たちの胚を提供したことによって、他の夫婦に子どもができたということになると、その後の人生にも影響があるのではと思われるからです。また、「○同一の人からの卵子の提供は3回までとする」とありますが、何が3回なのか不明です。排卵誘発が3回なのか、採卵が3回なのか、それとも胚移植が3回なのか、わかりません。

●III.1(3)(2)「精子・卵子・胚の提供に対する対価」(p.12)

 ここでは、「精子・卵子・胚の提供に対する対価」について、「精子・卵子・胚の提供に係る一切の金銭等の対価を供与および受領することを禁止する。ただし、実費相当分については、この限りではない」とされています。
 8ページでは「他の夫婦が自己の体外受精のために採取した卵子の一部の提供を当該卵子採卵の周期に要した医療費等の経費の半分以下を負担して受け」と記述されており、さらに13ページでは「当該卵子の採卵の周期に要した医療費等の経費の半分以下を負担する」とされています。
 しかし、不妊治療の内容は多岐にわたり、そのつどプロセスも違うことから、何を「実費」「経費」と算定するのでしょうか。当事者間で決定するのは困難ですし、医師や医療機関によって異なるのも変ではないでしょうか。仮に金銭授受を認めるのであれば、算定の基準を設ける必要があると思います。

●III.1(3)(3)「精子・卵子・胚の提供における匿名性の保持」(p.13)

 どこまでを「匿名情報」とするのか、生まれた子どもの「出自を知る権利」と合わせて、もっと詳細に検討する必要があると思われます。また、提供者が受けられる情報(提供の結果=子どもができたかどうかなどを教えてもらえるのか)についても、検討する必要があると思われます。

●III.1(3)(4)「兄弟姉妹等からの精子・卵子・胚の提供」(p.13)

 兄弟姉妹等からの提供は、さまざまな問題の種になるのではないかと懸念します。またここでは、「兄弟・姉妹等」と、親や友人なども含まれるような表現になっていますが、これは、兄弟・姉妹以上に、問題を拡大し、複雑化するのではないかと考えます。

理由1)「提供における匿名性の保持」と矛盾します。兄弟・姉妹等からの提供は、匿名性が保たれません。

理由2)提供者が身内にいて特定される場合、提供者の子どもに対する思い入れなども特別なものであると想像されます。そこを発端とする感情的なもつれ、親族関係にかかわるトラブルが生じる可能性は非常に高いのではないでしょうか。子どもとその周囲への影響を考えると、兄弟姉妹間の提供は非常にリスクが大きいと考えます。

理由3)報告書では兄弟・姉妹等からの提供の条件として「提供する人に対する心理的な圧力の観点から問題がないこと」をあげていますが、これがどの程度保障できるか疑問です。兄弟・姉妹からの提供が“あたりまえ”になってしまったら、心理的な圧力は否めません。兄弟・姉妹だからこそ断りにくい、ということも予想されます。

●III.1(3)(5)「書面による同意」(p.15)

 提供者側も提供される側、書面による同意について言及されていますが、同意書の具体的内容やその同意書を何年間どのような形で保管するかが不明であり、形骸的なものになる危険性が否めません。したがって、公的管理運営機関と公的審査機関の成立をみて、具体的な内容を示し、再度検討されることを望みます。

●III.1(3)(6)「十分な説明の実施」(p.17)

 本報告書では、提供者側も提供される側も、技術の実施の前に充分な説明を受けるとされていますが、誰がどのような内容(医療的内容にとどまるのか、その後の人生にかかわる可能性についてまで話すのかなど)の説明を行うのかが不明です。また一回限りの説明なのか、複数回説明が実施されるのかもこの文章からではわかりません。
 さらに、意思決定までの措置期間を設けるのかなども検討する必要があると思われます。

●III.1(3)(7)「カウンセリングの機会の保障」(p.20)

 本報告書では、「提供する人およびその配偶者は生殖医療の実施に際して、当該生殖補助医を行う医療施設または当該精子・卵子・胚の提供を受ける医療施設以外の専門団体等による認定等を受けた当該生殖補助医療に関する専門知識を持つ人によるカウンセリングを受ける機会を与えられなければならない。」と書かれていますが、認定する専門団体が不明であるということ、カウンセラーを医療の専門知識をもつ者と規定しているために、単なる医療知識の説明のみに終始するのではないかと危惧をいだきます。

●III.1(3)(8)「精子・卵子・胚を提供する人の個人情報の保護」(p.21)

 ここでは提供に関する個人情報を「医療施設または公的管理運営機関が管理」となっていますが、情報は医療施設ではなく、すべて公的管理運営機関が管理すべきです。

●III.1(3)(9)「「精子・卵子・胚を提供する人の個人情報の提出・保存」(p.23)

 「提供者が生まれた子供に開示することを承認したもののみを開示する」という記述がありますが、この場合、子どもによって、得られる情報内容に差異が生じてしまいます。「出自を知る権利」でも触れますが、開示する個人情報に関しては、一定の基準を設ける必要があると考えます。

●III.1(3)(10)「同一の人から提供された精子・卵子・胚の使用数の制限」(p.24)

 本報告書では、「妊娠した子の数が10人」としていますが、何を根拠に10人としたのか不明です。
 いずれにしても、妊娠した子の数に上限を設けるならば、公的管理運営機関による情報の一元化が不可欠です。また、妊娠の事後報告ではなく、処置の実施前に審査や管理が必要であると思われます。

●III.1(3)(11)「子宮に移植する胚の数の制限」(p.25)

 多胎妊娠のリスクを考慮すると、一回に子宮に移植する胚の数は、原則として一回に1個、移植する胚や子宮の状況によっては2個とするべきであると思います。それは、胚を2個移植して、3胎妊娠となっているケースが、当会の調査でも報告されているからです。

●III.2(1)「規制方法」(p.26)

 本報告書では、罰則を伴う法律によって規制する行為として「○営利目的での精子・卵子・胚の授受・授受の斡旋」をあげていますが、斡旋だけでなく、営利目的と知りながら施術した者に対しての記述も必要であると思います。

●III.2(2)(12)「出自を知る権利」(p.30)

 出自を知る権利は保障されなければならないと考えます。しかし、提供者に関する情報がどこまで提供されるべきかは、さらに多くの人を交えたうえでの検討が必要です。少なくとも、本報告書にあるように「提供した人が承認した範囲」という規定の仕方では、得られる情報に差異が生まれることから、賛成できません。公開に関する何らかの基準が必要と考えます。
 また、本報告書では、「提供によって生まれた子どもは、自己が結婚を希望する人と結婚した場合に近親婚とならないことの確認をもとめることができる」としていますが、提供者の子どもは、「結婚を希望する人と近親婚にならない確認」を求めることはできないのでしょうか。現実に、精子・卵子・胚の提供によって生まれた子どもが、その事実を知らされることは、現在の日本では非常に稀です。近親婚を避けるのがひとつの目的であるなら、双方がアクセスできるようにしておく必要もあるように思われます。

《最後に》

 本報告書の結論によれば、「必要な制度の整備を三年以内に行う」と記述されています。しかし、「精子・卵子・胚の提供による生殖補助医療」には、制度も含め、それに関わる社会面・倫理面の複雑な問題が関連しています。したがって、期間を三年と限定することには危惧をいだきます。「精子・卵子・胚の提供による生殖補助医療」の実施には、公的管理運営機関と公的審議機関の確立が不可欠であり、また個人情報の扱いやカウンセリング、インフォームド・コンセントのあり方などについて具体的な体制が示されて、はじめて「精子・卵子・胚の提供による生殖補助医療を実施」を検討することができると思うからです。
 したがって、現時点で「三年後に精子・卵子・胚の提供による生殖補助医療の実施を開始する」と明言することは避け、準備が整った段階で、あらためてもう一度検討されることが望ましいと考えます。
 また、これらの機関や体制が確立されるまでは、モラトリアム期間とし、精子・卵子・胚の提供による生殖補助医療の実施は控えられるべきと提言します。

以上


受付番号:18
受付日時:平成13年4月17日
意見提出者(年齢、性別、職業、氏名、所属団体)
○37歳、男性、大学助教授、市野川容孝、東京大学大学院総合文化研究科
○40歳、男性、研究員、ぬで島次郎(ぬでは木遍に勝)、三菱化学生命科学研究所
○42歳、女性、大学非常勤講師、松原洋子、所属なし
○54歳、男性、研究員、米本昌平、三菱化学生命科学研究所
○57歳、男性、弁護士、光石忠敬、光石法律特許事務所
この問題に関心を持った理由:
 生命倫理問題の歴史と現状を研究し社会的に発言をしてきた者として。

御意見

1.生殖補助医療の際限のない拡大を防ぐための倫理原則を確立すべきことについて

 報告書II「基本的考え方」では、「生まれてくる子の福祉を優先する」としているが、III以下の内容は、とりわけ以下の3、4で述べるように、生殖補助医療の不合理な拡大につながるものになっており、「生まれてくる子どもの福祉」ではなく、「子どもがほしい大人」「子どもを産ませたい産婦人科医」の意思が優先されている。
 専門委員会の議事録を見る限りでは、「他人に明白な害をもたらさない限り何をやっても自由、禁止できない」という一委員の極端な個人的自由主義が決定の根拠とされているが、そのような自由主義は学界でも一般社会でも多数の支持を得ているとは考えられない。当事者個々人の権利と、人の生命の尊厳の保持・社会の秩序の保持の適正な均衡を図ることを、政策決定の根拠とすべきである。
 そのために具体的には、II「基本的考え方」に、「生殖補助医療は夫婦の配偶子を用いるのを原則とする」と明記し、精子・卵子・胚の提供による生殖補助医療は極力避けるべきであることを明確にすべきである。

2.専門委員会の運用と構成の不適格について

 この報告書を策定した専門委員会は、非公開のもとで審議を行い、議事録も2ヶ月以上遅れでなければ公開されておらず、生命倫理に関する国の審議会としての適格性を欠く。
 さらに同専門委員会は、日本産科婦人科学会会告違反で処分された医師を委員としていれ続け、その委員が主導して、その委員が違反で処分された行為を認める内容になっており(提供できる近親等を無限定にし、父親からの提供も認める点)、やはり適格性を著しく欠くものといわざるをえない。この提言部分は、以下の4で述べる理由に加えて、この理由からも到底容認できない。

3.提供精子と提供卵子による体外受精胚作成を容認したことについて

 報告書III1(2)○の4「提供胚の移植」では、「余剰胚の提供を受けることが困難な場合には、精子・卵子両方の提供によって得られた胚の移植を受けることができる」としている。利用できる胚を、不妊治療のためすでに作られながらもはや当人たちは使用しないことを決めた、いわゆる余剰胚に限定せず、精子の提供者と卵子の提供者をまったく別々に調達し、新たに体外受精胚を作成することを認めるというのである。
 子を成そうとしていない無関係の男女の配偶子を融合させ新しい生命を産み出すことは、精子または卵子どちらかだけの提供を受けることとは質的・倫理的に大きく異なり、人の尊厳に反する生命操作である。それは、精子・卵子提供者とその間に産み出される新たな人の生命を、自らの生殖目的で道具化することにほかならない。次の○5で代理懐胎を禁止している理由と同じである。このような変則的な方法を、生殖補助医療を不必要に拡大させることにはならないと断じる報告書の結論は、根拠不明で認められない。
 われわれの知る限りでは、生殖補助医療の公的規制を行う国で、このような変則的な方法を明示で認めた国はない。
 精子・卵子双方の提供を受け新たに体外受精胚を作成することを認めるのは、代理懐胎と同じく、他者を道具化することであり、人の尊厳に反し、生まれてくる子の出自を不必要かつ非合理的に混乱させるものであり、「生まれてくる子の福祉を優先する」という基本的考え方に著しく反するので、断じて認めるべきではない。

4.提供者の匿名原則を破る特例を広く認めすぎていることについて

 報告書III1(3)○の4「兄弟姉妹等からの精子・卵子・胚の提供」では、精子・卵子・胚の提供者の匿名性の保持を破る特例としうる対象者の範囲を「特に限定せず」、結果的に、父母やいとこ、はては「親友等」からの提供まで認める内容になっている。
 これは、生まれてくる子の出自を不必要に混乱させ、「生まれてくる子の福祉を優先する」という基本的考え方に著しく反することだと考える。また、提供者の選別に道を開くことで、「優生思想の排除」という基本的考え方にも反する。匿名原則を破る特例は、認めないとすべきである。この点では、われわれは、2001年2月に報道された日本産科婦人科学会倫理委員会の方針を支持する。

5.提供無償の原則違反への罰則の不十分さについて

 報告書III1(3)○の2「精子・卵子・胚の提供に対する対価」では、提供に係る一切の金銭等の対価の供与及び受領を禁止しているにもかかわらず、III2(1)では、法律に罰則を設けるのは、「営利目的での精子・卵子・胚の授受・授受の斡旋」と違う表現をとっている。なぜ刑罰を科すのは「営利目的」に限るのか。金銭的対価を伴っての授受自体が人の生命の尊厳に反するのであって、それが営利目的かそうでないかにはよらない。
 また、報告書は、「IV終わりに」の最後で、胚の実験利用については「他の検討機関において別途検討がなされることが望まれる」としている。本報告書が罰則をもって法律で禁じるべきとしている精子、卵子、胚の営利目的での授受は、医療目的の授受を対象にしたものであって、研究目的での営利目的での授受を拘束するものではないということであれば、2000年12月に公布されたいわゆるクローン規制法が、精子、卵子、胚の金銭を伴う授受を禁止していないことと合わせて考えると、著しく責任を欠いた提言であると言わざるをえない。
 以上の理由により、法律では、「医療目的であるとそのほかの目的(研究目的など)であるとにかかわらず、人の精子・卵子・胚は金銭的対価を伴って授受されてはならない」と明記し、違反に対し刑事罰を設けるべきである。

6.無許可実施に罰則を設けていないことについて

 報告書III2(2)○の4では、「国が指定した医療施設でなければ、当該生殖補助医療を行うことはできない」としながら、III2(1)では、指定を受けずに実施した違反に対しては、法律で罰則を科す対象にしていない。これでは日本産科婦人科学会の会告と同じで、実効性のある規制となるとは考えられない。指定を受けずに実施した者に対しても法律で罰則を科すべきである。

7.「生殖補助医療」という言葉を再検討すべきことについて

 報告書では「生殖補助医療」という語を用いており、本意見書もそれに一応したがっているが、ここで対象になっている現在の生殖技術は、単なる「補助」の域を越え、生殖及び人の誕生のあり方に深く介入し操作するものになっている。「生殖補助医療」という語の無反省な定着は、これらの技術がもつ、生命と生殖への介入・操作の度合いの大きさに対する当事者及び一般社会の正確な認識を妨げる恐れがある。今後政策として実施していく際には、新たな名称の採用を含め、再検討すべきである。


受付番号:19
受付日時:平成13年4月17日
年齢:43歳
性別:女性
職業:匿名希望
氏名:匿名希望
所属団体:匿名希望
この問題に関心を持った理由:
 看護者の立場から,不妊治療を受ける女性や夫婦、家族の健康と生活に関心があります。

御意見

II意見集約にあたっての基本的考え方

 この章は非常に重要であるにも関わらず、あまりに紙面が割かれていないことに疑問を感じます。とくに、第一番目に述べられている「生まれてくる子の福祉を優先する」ことの具体的状況を箇条書きする、あるいはその考え方を詳しく論じていただきたいと思います。

III本論

 精子・卵子・胚の提供等による各生殖補助医療について

(2)各生殖補助医療の是非について

(1)AID(提供精子による人工授精)(2)提供精子による体外受精(3)提供卵子による体外受精(4)提供胚の移植(5)代理懐胎のすべてに関して

 これらのなかで、「生まれてくる子の福祉を優先する」という基本的な考え方に触れた解説があるのは(5)代理懐胎のみです。(1)〜(4)に関しても公平に論じられるべきだと思います。

(3)提供卵子による体外受精

 「*他の夫婦が自己の体外受精のために採取した卵子の一部の提供を当該卵子の採卵の周期に要した医療費等の経費の半分以下を負担して受け、当該卵子を用いて提供卵子による体外受精を受けることも認める」について卵子を提供する患者夫婦とどのような取り交しを行うのでしょうか。予め、卵子提供をするなら治療費が半額になる、とするのでしょうか。それとも、凍結保存されている卵子を用いて自己の治療をする意思がなくなった段階で提供の意思を確認し、他者に提供された段階で半額返金するのでしょうか。前者では、高額な治療に苦しむ患者の弱みにつけこむことになると思います。そのようなことが起こらないような措置を望みます。

(3)精子・卵子・胚を提供する条件等について
(1)精子・卵子・胚を提供する条件について

 「同一の人からの卵子の提供は3回までとする」とありますが、これは採卵回数を3回としているのでしょうか。それとも、不妊夫婦への提供を3回でしょうか。紛らわしいので明記していただきたい。

(3)兄弟姉妹等からの精子・卵子・胚の提供について

 誰からの提供を認めるかは、むしろ(1)精子・卵子・胚を提供する条件、において論じるべきではないかと思います。匿名性の保持の特例として取り上げられることに異論を唱えます。まず、第三者が第一義なのか、第三者も兄弟姉妹も同列なのか、あいまいにされていると思います。「精子・卵子・胚を提供する人が兄弟姉妹以外に存在しない場合」ということばには、すでにそうであったこと、行われてしまったことを認めようとしているとさえ、感じられます。

(5)書面による同意

(イ)精子・卵子・胚を提供する人及びその配偶者の書面による同意について

 この同意は提供する回ごとに交わされるものなのか、事前に撤回した場合を除き、一度交わしたら、妊娠した子が10人に達するまで同意したものとみなされ、自動的に提供が繰り返されるのか、そこまで明記していただきたい。また、提供者は逆に、提供後の精子・卵子・胚の行方を知ることができるのか、記載がないので、これについても明記していただきたい。

(7)カウンセリングの機会の保障について

 カウンセリングの機会の保障とカウンセリングを行う人についての解説はありますが、肝腎のカウンセリングの内容が述べられていません。具体的に配偶子や胚の提供に関し、必要とされるカウンセリングの特徴・内容をまず明記し、そのようなカウンセリングを提供するためにはどのような人材がふさわしいかを論じていただきたいと思います。

(9)精子・卵子・胚を提供する人の個人情報の提出・保存

 生まれた子が知ることができる個人情報の一定の範囲とはどのような情報を含むのか、具体的に明記してほしいと思います。

2規制方法及び条件整備について

(2)条件整備

(2)出自を知る権利について

 「近親婚とならないことの確認を求めることができる」とは、その相手が同様に精子・卵子・胚の提供を受けて生まれた者であれば確認は容易であろうと思いますが、そうでない場合、相手を巻き込むことになりますし、相手の同意なしに行うことはできないと思います。そのようなことを一方的に「求めることができる」としてよいのでしょうか。


受付番号:20
受付日時:平成13年4月18日
年齢:不明
性別:男性
職業:不明
氏名:(匿名化の要否不明)
所属団体:不明
この問題に関心を持った理由:不明

御意見

・人間は自然の中で生きて行くもので、自然に従うべきだと思う。それが「倫理」だと思う。

・「子供を持ちたい」という願いは、自らで解決すべきで、不妊の原因を医学に求め、分からなければ、現代医学はそこまで。

・生むことが出来なければ「仕方ない」と、自らの運命を知るべきだ。

・「子ども」とは、夫婦の精子と卵子の受精で出来たのが「子ども」で、第三者の精子や卵子からの「子ども」は「吾が子」ではない。「他人の子」を「吾が子」と思ほうとするのは、無理であり、間違いである。

・自然に起こらぬことをやってみたり、自然に進む道を変えようとするのは、人の道ではない。倫理に反する。


受付番号:21
受付日時:平成13年4月18日
年齢:30歳
性別:女性
職業:匿名希望
氏名:匿名希望
所属団体:なし
この問題に関心を持った理由:
 ・新聞紙上で、今回意見募集されることを知ったから
 ・「子どもを持ちたいという夫婦の願いをかなえるため」といいながら、当事者の願いを十分に理解せず利用している様に,常々考えているから。
 ・生殖医療が技術だけ先走りしている不安・不満があるから。
 ・「報告書の具体化を進める時に、世論の動向も参考としたい」とあったが、三年後をめどに制度を整える予定では急ぎすぎの印象を持った。もっと時間をかけて国民の意見を広く求めてほしいと思ったから。
 ・高齢化社会と少子化が、悪のようにとられがちだが、現実問題になっている事柄は政策が不十分なため起きているにもかかわらず個人的な問題に介入しようとしているから。

御意見

1.Iの1で背景としてあげられている医師の自主規制の下で行われてきた生殖補助医療そのものが違法であるという点もよく考慮していただきたい。

2.Iの2で経緯としてあげられている、一般国民対象の平成11年2〜3月に行われた意識調査に関して、各報道機関にむけて十分開示されていないのではないか。一般国民対象とするなら、もっと広範囲で実施するべきでわずか2ヶ月で慎重な検討とはいえない

3.IIで「生殖補助医療は、子を欲しながら不妊症のために子を持つことができない人に子を持つ可能性を提供するもの」というあり方について、大変あやふやな定義だと思う。
 不妊症は病気なので治療が必要という考え方なら、保険適用されない現状と矛盾する希望するなら提供する、という立場は責任逃れにすぎない。

4.III(1)「精子・卵子・胚の提供等による生殖医療を受ける条件について」について

・「法律上の夫婦に限る」のは反対。

 子を欲しながら不妊症のために子を持つことができない人に子を持つ可能性を提供するものなら、夫婦であるか否かは無関係。
 独身者や事実婚カップルの場合に生じやすいとしてあげられている説明は、生殖医療上の問題ではなく社会の問題だから。
 生まれてくる子の福祉の観点から、現在差別されている社会の状況を法律で規制するべき、改善するべき。望まれて生まれてくる子を、不幸になるからと先回りして排除する社会が異常。

・「加齢により妊娠できない夫婦は対象とならない」のは反対。

 年齢の上限設定は必要だが、高齢出産に伴う危険性よりも上記生殖医療を受ける方が問題点は多い。希望を尊重するという姿勢なら、対象外にするべきではない。

・「自己の精子・卵子を得ることができる場合には、それぞれ精子・卵子の提供を受けることはできない」のは賛成。

 医療側が先走ることのない様便宜的利用は危険。
 本来の妊娠出産の可能性を大事にしてほしいから。

・説明に「第三者が対価の供与を受けることなくリスクを負って提供した精子・卵子・胚の利用条件は厳格なものとされるべき」とあるが、そもそも提供させることが基本的考え方の「生殖の手段として扱ってはならない」と「安全性に十分配慮」に反する。

5.III(2)「各生殖補助医療の是非について」について

・血縁主義的な考え方が根強く存在している現状を認めながら条件付きで生殖補助医療を容認しようとする姿勢そのものに反対する。嫡出推定制度や認知制度と血縁主義の貫徹とは別問題。生殖補助医療を選択しようとする背景には、世間からは実親子関係のように装える点が大きい。
 遺伝的要素を受け継がない養子と、実情では変わりがないのに精神的・身体的リスクを負うにもかかわらず選択させる状況になりかねない。
 血縁主義者の考え方は、絶対的な価値観ではないが、人々を拘束している事実から目を背けている。
 父母のいずれか一方でもよいから遺伝的要素を受け継ぐ子をもちたいという感情は尊重されなければならないが、広範囲で生殖補助医療を容認するべきではない。

(1)AIDについては「安全性への十分な配慮」の考え方に反するため反対。HIV等の感染症の危険があるにもかかわらず、実施することは(検査等の予防措置が講じられたとしても)容認するべきではない。医療行為で感染の可能性が起こることの重大さを認識して欲しい。
(2)提供精子による体外受精については「安全性に十分配慮」に反する。たとえ希望する当事者に限りリスクを負うとしても、容認するべきではない。
 子を持ちたいのなら、この程度はがまんしろと強要されかねない。(1)と同様感染の可能性が起こることも重大にとらえてほしい。
(3)提供卵子による体外受精については、反対。
 当事者以外の第三者に身体的リスクを負わせてまで実施するのは医療行為ではない。臓器移植や骨髄バンクへの登録等と異なり、生命の危険にさらされているわけではない。まったく個人的な感情や周囲(世間)の圧力から生殖補助医療を選択するのを、医療行為として容認するべきではない。
 他の夫婦の採取した卵子の一部提供については、論外。そもそも、危険をおかして採取した卵子は当人のみが使用するべき。
(4)提供胚の移植については、反対。
 余剰胚の提供という考えそのものが、他の夫婦の採取した卵子の一部提供と同様「人を生殖の手段として扱ってはならない」に反する。
 使用しないことを決定した胚といえども、夫婦のものであり医療機関がつかいまわししていいものではない。
 誕生する前でも生命にかわりはないが、使用しないことを決定した胚は廃棄するのが正当ではないか。
 本来の目的に沿った扱いをするべき。
 抵抗感から、余剰胚の提供が十分に行われないからといって医療機関が治療中の夫婦に圧力をかけることのない様除外するべき。
(5)代理懐胎(代理母・借り腹)の禁止については、賛成。
 生殖の手段として扱ってはならないし、安全性に十分配慮できないから。

6.III(3)「精子・卵子・胚を提供する条件等について」について

(2)(1)〜(5)の生殖補助医療を容認できないため、以下は

(1)もし実施された場合の歯止めとしての条件について。
 精子提供と卵子提供の年齢制限の基準が明確でないため、反対。
 誤解を招くおそれがあるから、は理由にならない。精子についてイギリスの採用例を上げるのなら卵子についても同様にするべき。卵子提供者の身体的リスクを既に子のいる人なら許容できるとする考え方は生殖の手段として扱うことにつながっていくので反対。最高でも提供は1回にとどめるべき。(同一人からは)
(2)対価についての範囲を実費相当分とするのは反対。
 礼金は論外だが、交通費・通信費等のみの実費相当分のみでは、身体的リスクを負った場合の治療費の問題が発生する。ボランティアとして行われたとしても危険負担を提供者のみに負わせるべきではない。
(3)匿名性の保持については賛成。
(4)兄弟姉妹等からの精子・卵子・胚の提供については反対。
 提供する人に対しての心理的な圧力ばかりでなく、提供を受け入れる様に強要される場合もないとはいえない。
 匿名性の保持からも問題がある。
 兄弟姉妹等以外に存在しない事態が起こるかもしれないからといって、生まれた子が成長していく環境としてふさわしいものにならない。提供した当時と感情の変化が起こることは十分考えられる。
 肉親であるが故の問題(家庭内の)も、より後々発生することもあり、十分な説明・カウンセリングが行われたとしても防げるものではない。
 心理的な圧力の観点や、対価の供与が行われていないことの確認をとることは身内だけに不可能に近く、条件として採用できない。医療施設での判断も適正さを欠く。恣意的な判断を招くことは避けられない。公的管理運営機関の事前審査は机上の論にすぎない。
(5)書面による同意については、最低限必要。
(ア)医療施設だけでなく、公的管理運営機関でも別途同意を確認する(書面による)手続きも検討するべき。
(イ)提供する人及びその配偶者の書面による同意については、賛成。

 同意の撤回を使用前に限らず、その提供者の希望により選択できるようにできないか。妊娠以降は難しいとは思うが、書面の提出から使用されるまでの日数を、提供者知ることができるのかどうか。使用前に再確認の形をとることができないか検討するべき。卵子提供による不利益の可能性について、予め責任を負うものを定めておくことは賛成。

(6)十分な説明の実施については,説明にある通りに行えるのであれば賛成。希望する夫婦に説明すべき具体的な事項が、実施ありきの儀式にすぎなくなる怖れはある。受けることが可能な治療方法を説明するのも必要だが、選択しない(生殖補助医療を受けない)ことも再考するように実施してほしい。又、提供側にも同様あるいはそれ以上の説明を実施してほしい。
(7)カウンセリングの機会の保障で、医療施設以外の専門団体等による認定等を受けた専門知識を持つ人によると限定していることは賛成。

 現行で一般的な認定制度等も存在しないにもかかわらず、今回対象以外の生殖補助医療を実施している現状から改めるべきで、育成(カウンセラーの)されるまでは、「できうる限り」という逃げ道を作らず、当該生殖補助医療の実施は凍結されなければならない。
(8)提供する人の個人情報の保護については賛成。
 ただし提供時に検出することの出来なかった感染症等の影響についても検討してほしい。公的管理運営機関の管理の適正さを監査することも必要。
(9)提供する人の個人情報の提出については賛成。
 保存については、無制限に延長を認めるべきではないが、生まれた子の子孫についても安全性が(生殖補助医療の)確立されていない現在では検討が必要なのではないか。
(10)使用数の制限については反対。
 近親婚の発生を防止するなら、10人とせず、1人に妊娠は限るべき。
 使用できる精子・卵子・胚を減少させるものであっても、超えてはならない。制限すべき事項
(11)子宮に移植する胚の数の制限については反対。
 多胎妊娠の危険性をもっと重大にとらえるべきで原則として1個、移植する胚や子宮の状況が良好でなければ実施するべきではない。

7.III(2)「規制方法及び条件整備について」について

(1)規制方法について、罰則を伴う法律によって規制するのは賛成。

 ただし、営利目的、代理懐胎、職務上知り得た人の秘密の漏洩に限定されるのは反対。
 急速な技術進歩に法律や国民の意識を合わせていくやり方は規制の実効性が担保できる範囲内の必要最低限のものとするのは反対。
 生命を誕生させる行為に、不正があれば医師以外の者でも罰則を伴う法律で規制されるのは当然。
 国民の幸福追求権を、医療の技術進歩に利用することは避けなければならない。堕胎罪があるのに、その逆は規制されないのは公平でない。

(2)条件整備の

(1)親子関係の確定について、概ね賛成。
 ただし、定められた手続きによらず行われた場合については、子の福祉の観点からのみ論じられるものではない。例外とするべき。
 妊娠による母性の確立の過程は過大評価されるべきではなく、書面による同意を重要視するべき。
(2)出自を知る権利について賛成。
 ただし、提供した人がその子に開示することを望まないものであっても健康上に関する事柄であれば検討は必要。
(3)体制の整備について、賛成
 公的審議機関・公的管理運営機関を設けるにあたってはその過程を国民に明らかにしてほしい。
(4)医療施設の指定について、概ね賛成。
 ただし、生殖補助医療を行う医療施設と、判断する施設は同等の水準の別施設が望ましいと思う。

8.IV「終わりに」の中で、3年以内の制度の整備を求めながらAIDを除外しているのは、反対。

 当該生殖補助医療の中では、安全な技法としてとらえているのだろうが、医療側からの一方的な考え方だから。書面による同意も、十分な説明の実施も、カウンセリングの機会の保障も与えられていないのに除外するのは問題がある。
 当事者にとっては、当事者以外の遺伝的要素を受け入れる医療であることに変わりはないから。生殖補助医療一般に関しても適切な対応を望む、とあるが概ね賛成。
 可能な範囲内と限定せず、医療機関まかせにせず規制を検討してほしい。

9.(別添)の多胎・減数手術について、行政・関係学会が行うべきことを早急に実施させるよう、防止対策・体制については罰則を伴う規制をしてほしいし、多胎のみ野放し状態で減数手術を全面禁止にするべきでない。原因と結果の問題だから。


受付番号:22
受付日時:平成13年4月18日
年齢:32歳
性別:女性
職業:匿名希望
氏名:匿名希望
所属団体:匿名希望
この問題に関心を持った理由:
 学生時代より民法改正には興味を持っていたが、生殖補助医療についても、関心があったので、今回はこの両方に関連するから。また現在、家族法については、日頃から研究活動を行っている。

御意見

1.IIIの(1)「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療を受ける条件について」について

 報告書の「法律上の夫婦に限る」部分の結論に反対です。
 その理由は、不妊カップルの中には、法律上の夫婦になれないようなケースがあることを想定していないからです。現在、夫婦別姓のための事実婚は、かなり増えています。もちろん選択的夫婦別姓が民法改正により実現すればいいのですが、それも現段階では期待できません。不妊のカップルにとって法律婚か事実婚かは関係なく、子を欲しながら不妊症のために子を持つことができないのは、どちらも同じです。現実に不妊症であるカップルを法律婚でないという理由だけで、除外するのは、内縁夫婦(事実婚)を、法律婚夫婦とほぼ同様に扱っているわが国において、説得力に欠けます。
 また、報告書中の当該部分の結論に係る説明には、その結論に至った理由として、「生まれてくる子の法的な地位が不安定という」ということがあげられていますが、法的な地位は、そのカップルが選択肢として選んだのであればよく、むしろ、思いがけず妊娠したからといって簡単に婚姻届を出し、子どもを出産するが、夫婦ともに育児を行わず、ひどい事例では児童虐待をするような夫婦と比べ、不妊期間中、長期にわたり子どもを欲することの意味を十分考慮した結果、人工授精・体外受精などの不妊治療を選んでいると考えます。法的な地位よりも、子どもを欲する気持ちを配慮すれば、法律婚夫婦に限る必要はなく、内縁夫婦(事実婚)についてもみとめるべきです。
 内縁夫婦(事実婚)についての定義に困ると疑問がでるかもしれませんが、不妊治療は、男女ともにさまざまな検査を受け、指導を受けながら行っているのであり、精子・卵子・胚の提供がなければ妊娠できないことが判明するまでに、内縁夫婦(事実婚)であることの確認が十分できるものと考えます。
 なお、この報告書には触れられていない部分ですが、現在、事実婚カップルは、人工授精は認められるが、体外受精については認められないとのことです。
 この点については、精子・卵子・胚の提供があるわけでもないのに、法律婚でないという理由で認められていないようですが、可能な方向への検討をお願いします。


受付番号:23
受付日時:平成13年4月18日
年齢:グループなので年齢ではありませんが、発足から19年目になります
性別:グループではありますが女
職業:グループなので記入しません
氏名:SOSHIREN女(わたし)のからだから
所属団体:同上
この問題に関心を持った理由:
 人口政策・優生政策に対する批判とリプロダクティブ・ライツの観点から、生殖補助医療のあり方を検証したいと考えて、応募します。

 グループの概要--1982年結成。女性のからだを通して行われる人口政策・優生政策を批判し、堕胎罪と優生保護法の廃止を求めて活動してきました。1997年、第1回加藤シヅエ賞を受賞。母体保護法の問題点も指摘しながら、女性が自分のからだについて自ら決定すること、リプロダクティブ・ライツの確立をめざしています。

御意見

<総論>

 私たちは、生殖補助医療技術の開発と実施に、次のような疑問と批判を持ってきました。

・生殖補助医療技術の多くが、女性の身体に侵襲を加えるものであること
・専門家の手を経なければ利用できないものであること
・一般の市民に分かりやすい情報が提供されないため、利用者が情報を得て自ら判断することが困難であること
・人の身体を道具化する、あるいは資源化・商品化するおそれがあること
・将来にわたって、人の心と身体に与える影響が充分検討されていないこと
・妊娠出産ができない、あるいはしない女性に対する偏見と差別を助長するおそれがあること
・優生学的利用の可能性があること
・そのため、病気や障害をもつ人への偏見と差別を、助長するおそれがあること

 以上のことから、一般の市民に分かりやすい情報提供、医師と患者の対等な関係の構築、優生思想および障害者と女性への差別をなくす努力が必要であり、これらが行われるまで、生殖補助医療技術の開発と実施をやめるよう求めてきました。
 しかし、こうした問題は省みられることなく、技術の開発と実施はすすんでいます。今回の報告書は、生殖補助医療のあり方に対して一定のルールを設けようという初めての試みですが、既に普及してしまった技術の追認に終始しているとの感をぬぐえません。
 精子・卵子・胚の提供による生殖補助医療は、人間とくに女性の身体に無理を与え、生まれてくる子をめぐる人間関係にも多くの無理を生じます。また、これまでの家族・社会の在り方を変えてしまう可能性をもっています。私たちはそのことを直視しなくてはなりません。にもかかわらず報告書は、この医療の実施を大幅に認めながら、従来の家族観を維持し、かつ補強しようとしているところに、最大の矛盾を感じます。

<各論>

1.IIの「意見集約に当たっての基本的考え方」について

 「意見集約に当たっての基本的考え方」には、次の6つの項目があげられています。

・生まれてくる子の福祉を優先する
・人をひたすら生殖の手段として扱ってはならない
・安全性に十分配慮する
・優生思想を排除する
・商業主義を排除する
・人間の尊厳を守る

 これらは、もし精子・卵子・胚の提供を受ける生殖補助医療を実施するならば、最低限欠かすことができないことです。しかし、報告書が出した結論は、これらの条件を満たしているでしょうか。満たそうとしたのであれば、報告書が代理懐胎は禁止したものの、それ以外を容認したことは納得できません。「優生思想を排除する」は、掲げられたこと自体は評価できますが具体性に欠け、実現の保障がないばかりか、むしろ反していると思われる点があります。

2.IIIの1(1)「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療を受ける条件について」について(p4)

 報告書はここで、「提供等による生殖補助医療を受けることができる人は、法律上の夫婦に限る」とし、その理由は、「生まれてくる子の福祉の優先」であるとしています。しかし、このことで「生まれてくる子の福祉」がまもられるとは思えません。近年、家族の形態は多様であることが認められつつあり、法律上の手続きを踏まないカップルや同性同士のカップルに、法律上の異性同士の夫婦と同様の権利を認める国が出てきています。提供等による生殖補助医療そのものが、家族の形態を一層多様化させるにもかかわらず、それを受けることができる人を法律上の夫婦のみに限るのは、不合理に感じられます。また、離婚が増加していることを考えれば、法律上の夫婦ならば生まれてくる子の福祉がまもられると断言することもできません。反対に、将来にわたって、育児に責任を持つことが保障されるのであれば、法律上の夫婦とその他のカップルを区別する理由はないと考えます。

3.IIIの(3)(1)「精子・卵子・胚を提供する条件」について(p11)

 ここでは、精子・卵子の提供者に年齢制限を設けています。自然妊娠においては行われない年齢制限を、提供等による生殖補助医療を用いる場合には設けること自体に、まず疑問を感じました。女性と男性で制限する年齢とその根拠に違いがあることには、性差別の疑いも感じました。そして、年齢制限の理由として、提供される精子・卵子の「質」を問題にしている点は、優生思想以外のなにものでもありません。これは「意見集約に当たっての基本的考え方」に掲げられた「優生思想を排除する」に、明らかに反しています。このような年齢制限とその理由が認められるとすれば、その影響から、自然妊娠にも優生思想が持ち込まれることをおそれます。

4.IIIの1(3)(4)「兄弟姉妹等からの精子・卵子・胚の提供」について(p13)

 兄弟姉妹等からの精子・卵子・胚の提供を認めることに反対します。
 本論1(3)の(3)には「精子・卵子・胚を提供する場合にはに匿名とする」とあり、提供者の匿名性が保持されない場合の問題点を多々指摘しています。また、兄弟姉妹等からの提供を求める理由が、血の繋がりの重視にあることが考えられるとの認識も、示しています。にもかかわらず、匿名性が担保されない兄弟姉妹等からの提供を認めるのは納得できません。
 兄弟姉妹等からの提供を認める条件である「提供する人が兄弟姉妹等以外に存在しない場合」に個々のケースが該当するのかどうか、判断はどのように可能でしょうか?これも非常に疑問です。
 兄弟姉妹等からの提供を認めることが、「生まれてくる子の福祉」よりも、子をもちたい側の「血の繋がりの重視」を優先していることは明白です。これでは、血縁主義を重視する旧来の考え方に、新しい技術が貢献することになってしまいます。

5.IIIの1(3)(7)「カウンセリングの機会の保障」について(p20)

 報告書はここで、提供等による生殖補助医療を受ける夫婦と提供する人及びその配偶者に、カウンセリングの機会が与えられなければならないとしています。しかし、提供等による生殖補助医療を受けるとき、あるいは提供を行うときのカウンセリングで、ことは足りるのでしょうか。そうは思えません。
 この医療を受ける側も提供する側も、妊娠・出産・子育てのあらゆる過程で、さまざまな問題に遭遇する可能性があります。とくに、子供にその出自を伝えること、出自を知った子供にどう接するのかといった問題は大きいでしょう。また、出自に疑問をもった子供、知った子供が悩みを抱くことも考えられます。その悩みにどうこたえるかについて、報告書は何も示していません。

6.IIIの2(2)条件整備(2)「出自を知る権利」について(p30)

 (2)は、提供によって生まれた子が成人した後、提供者の情報を知ることができるとしています。しかし、知ることができる情報は、個人を特定できないものに限られ、さらに提供者が開示を承知した範囲に限定されます。子が知ることができる情報は非常に不十分かつ、不公平であることが予想され、これでは「権利」と言うに値しません。
 また、提供によって生まれた子は結婚を希望するとき、近親婚とならないことの確認を求めることができるとあります。近親婚を避けなければならない理由は書かれていませんが、避けなければならないのであるとすれば、確認は、生まれてきた子に認めるだけでは十分ではありません。提供した人が子をもった場合、その子もまた、複雑な人間関係をもち、自分と血の繋がりのある者と結婚する可能性がある点は、提供によって生まれた子供と同じであるからです。
 提供による生殖補助医療の実施を認め、かつ、近親婚を避けなければならないとするなら、提供者となった人の子供も、結婚しようとする相手との血のつながりを調べざるを得ません。条件整備(2)「出自を知る権利」には、問題と矛盾があります。
 子供をほしいと望むのは、親になろうとする人です。その望みを精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療を用いて叶えたとき、子供は複雑な人間関係の中に生まれ、結婚しようとする相手との血の繋がりまで調べなければならないのでしょうか。
 子供が欲しいという希望は、子の負担よりも優先するものなのでしょうか。…そのような疑問をもちました。誤解のないように書き添えますが、何らかのハンディをもって生まれることが即その子の不幸であるという意味ではありません。人はさまざまな条件のもとに生まれ、どのような条件を持っていようとも尊重され、幸福に生きる権利があります。その意味で、私たちは優生思想の排除を強く求めています。しかし、あえて人為的に複雑な条件を子供に負わせるべきではないと考えます。どうしても避けることができない場合は、その負担を軽減するために最大限の努力を払わなければなりません。報告書が「意見集約に当たっての基本的考え方」の中に「生まれてくる子の福祉を優先する」をあげたのも、そのためでしょう。しかし先にも述べたように、匿名性の保持に例外を設けるなど、報告書の結論は、生まれてくる子の福祉よりも子供を欲しいという希望を優先しているとしか考えられません。
 子供が欲しいという希望は、持つ人と持たない人さまざまですが、我々の社会には血縁主義と「女性は子供を産むもの」という考え方が根深く、子供が欲しいという願いに拍車をかけ、女性にとって、ときには男性にとっても圧力となっています。
 精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療のあり方を決める上で、「子供が欲しいという希望」を優先することは、「生まれてくる子の福祉を優先する」に反するだけでなく、従来の規範の強化となるおそれもあります。

7.IIIの2(2)条件整備(3)(4)と、IV「終わりに」について(p33〜35)

 報告書は、公的審議機関・公的管理運営機関の設置や法律の整備が、3年以内に行われることを求めるとしています。しかしこれらの条件が整ったとしても、これまで指摘してきたように、精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療の実施に関しては、まだまだ考えられるべきこと、議論されるべきことが山積になっています。そうした問題を放置して実施を認めることは将来に禍根を残すであろうことから、提供等による生殖補助医療の実施は中止すべきと、私たちは考えます。

8.別添「多胎・減数手術について」について

 多胎妊娠の防止がまず行われるべきとしたこと、および、母体保護法を改正して人工妊娠中絶の規定を改める必要はないとしたことは、妥当であると考えます。


受付番号:24
受付日時:平成13年4月18日
年齢:47歳
性別:女性
職業:匿名希望
氏名:匿名希望
所属団体:匿名希望
この問題に関心を持った理由:
 出産の社会史の研究をしているので、また、子どもの人権を守る研究・活動をしているから。

御意見

1はじめに

2本専門委員会における検討の経緯について

 *私は専門委員会における検討の経緯については、専門家偏重主義であり、一般の人の意見をもっと取り入れるべきだと思います。5回に渡るヒアリングを行ったということですが、一般市民、なかでも生殖補助医療の対象となり、利益以上の害を受ける可能性のある女性の意見を聞いたとは言えません。この問題に関心のある人以外は、新聞などで少し見たという程度ではないでしょうか。家族の在り方を大きく変わる可能性がある問題であるだけに、もっと長く検討期間を取り、検討することが必要だと考えます。
 まず技術ありきであってはいけません。生殖医療を選択するカップルはいざ知らず、生まれてくる子どもたちの行く末を深慮せずに、導入してもよいのでしょうか。再考を願います。

II意見集約に当たっての基本的考え方

 *私は基本的考え方のうち「優生思想を排除する」と「人間の尊厳」を守るという項目の実効性に関して憂慮します。言葉だけで記しても、それに対する行動が伴わなければこのような意見募集は免罪符になるだけです。今までの生殖医療や先端科学技術に関する政策の中で、障害を持つ子どもたちや当事者の意見は十分に聞かれてきません。また、自らの身体を医療の対象とされる女性の意見も取り入れられていません。このように当事者や女性を軽視する委員会が「優生思想を排除する」ことができるかどうかは疑問です。

III本論

1精子・卵子・胚の提供等による各生殖補助医療について

(1)精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療を受ける条件について

「○精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療を受ける人は、子を欲しながら不妊症のために子を持つことができない法律上の夫婦に限る。」について

 不妊症の原因は男女双方に認められます。しかし、現状では多くの場合、女性にその責めが多くかかってきます。現在までは、不妊のカップルは養子等の手段で子どもを持ち、育てることができました。また、子どもを持たないという生き方を選択できました。しかし、生殖補助医療が推進されるようになると、すべてのカップルが子どもを持たなくてはならないという圧力が厳しくなります。まして生殖補助医療は女性に命を危険を伴う身体上の負担と、多額に費用、時間、労力がかかります。一つの便利さがあらたな抑圧を生むことがあります。夫婦には子どもが必要、しかもその夫婦は正式な夫婦に限るという考え方をこの技術は推進することになります。
 卵管狭窄症の女性の場合は手術的治療によっても改善が可能であり、生殖補助医療以外の方法も試みられるべきであると思います。

(2)各生殖補助医療の是非について

「○親子の遺伝的繋がりを重視する血縁主義的な考え方が根強く存在している我が国」という認識について

(1)AID(提供精子による人工授精)

「○精子の提供を受けなければ妊娠できない夫婦のみが、提供精子による人工受精を受けることができる」について

 *私は「精子の提供を受けなければ妊娠できない夫婦」の定義が曖昧で、運用の仕方によっては、対価を支払って精子を譲り受ける可能性(遺伝学的な素質の選択)が出てくるのではないかと思う。

(3)提供卵子による体外受精

 「他の夫婦が自己の対外受精のために採取した卵子の一部の提供を当該卵子の採卵の周期に要した医療費等の経費の半分以下を負担して受け、当該卵子を用いて提供卵子による体外受精を受けることも認める。」について

 *不妊治療に臨む方の話しを伺うと余った卵子はないと言う認識がほとんどである。心身経済などの大きな負担に加えて、苦労して採取した卵子だからこそ、費用の半分を負担してという発想で譲り渡すことはできないと思われる。他人が自分の遺伝的要素を持つ子どもを持つわけだが、その場合の心理的葛藤への検討が欠如している。

(4)提供胚の移植

「余剰胚を移植する」ことについて

 *上記(3)にも示したように不妊治療を受けている夫婦にとって余剰胚という認識はない。自分の子どもの人数が予定に達してからと言って、不要になるという考え方には無理がある。後々の問題のもとになるのではないだろうか。また子どもにとっても、いったい誰が親であるのか悩む時期があるだろう。余剰胚が移植されて出来た子どもが自分の遺伝学的な親を知りたいと思う時、その子どもには親を知る権利はあるのか等の問題は全く検討されていない。こんな段階で生殖補助医療を進めるべきではなく、養子の可能性を探るべきであると思われる。

(5)代理懐胎(代理母・借り腹)

(3)精子・卵子・胚を提供する条件等について

(3)精子・卵子・胚の提供における匿名性の保持について

 *私見では、匿名性を守った場合、親の側の都合は守られても、提供によって生まれた子どもが出自を知りたい場合にどうするかの議論ができていない。子どもは4人の親を持つことになる。子どもにとっての親子関係の安定は心理的に見ると大変大切なことである。そのことの議論のないまま、特に子どもの側の意見、または子どもの側の代弁者の意見を聞くことなく、本件を進めてはならない。

(4)兄弟姉妹等からの精子・卵子・胚の提供について

 *兄弟姉妹等からの精子・卵子・胚の提供は、頼まれた側の人にとって断わることが難しいものである。提供側の本人の意思は親しく、また変更できない関係であるが故に、自由に意見を述べにくい場合がある。また、後々、問題が起こった場合、肉親だけに人間関係はもつれやすい。そんな可能性のある兄弟姉妹等からの精子・卵子・胚の提供を承認してはならない。また、説明、カウンセリングが行われと記されているが、日本では遺伝カウンセリングができる体制は整っていない。

(6)十分な説明の実施について

 *(ア)、(イ)共に、日本では医療機関や医師の権威が強く、患者や利用者の側の位置が対等ではない。そんななかでは十分な説明が行われていない。説明や(7)のカウンセリングにしてもその働き患者の側から、もしくは第三者の立場から評価できる機関はないまま、生殖補助医療の実施に踏み切るのには反対である。

2規制方法及び条件整備について

(1)規制方法

 *法律によっては規制しないとされているが、罰則規定のない方法が有効であるとは考えられない。

IV「終わりに」について

 *生殖補助医療の過程で生じた余剰胚の実験利用は認められない。本来は生むべきものとして人間が受精させた胚を不要であるからと言って、実験利用に使うことは認められない。まして、昨今は遺伝子治療に関わる権益が生まれつつある時代であり、胚を特定の人の権益のためだけのものとしてはいけない。


受付番号:25
受付日時:平成13年4月18日
年齢:47歳
性別:女性
職業:教員
氏名:長沖暁子
所属団体:慶応義塾大学
この問題に関心を持った理由:
 もともとこの分野が専門であり、生殖技術の開発およびその応用に関しての研究を行ってきました。また1999〜2000年度東京都女性財団委託研究員として「女性の視点からみた先端生殖技術に関する研究」を行いましたが、専門委員会が参考とした「生殖技術についての意識調査」は上記研究において、我々が作成した意識調査を原案として行なわれたものです。

御意見

○総論

 基本的理念として、生殖技術の研究開発・臨床応用に関しては、この技術が人間の生命観や自然観をも転換させうる可能性を持つ点から、すべての人が当事者であり、専門家だけでなく、技術の受け手である患者、そして一般の人も交えた社会的議論が行なわれなければならないと考えています。またその上で、独自の社会的、倫理的理念から、技術の開発、その応用に対する承認・規制が行われるべきだと考えます。
 この点に関して欧米では、宗教界からのいつから生命が始まるかなどの議論や、一般の市民も含めた広範な議論が行なわれ、ヨーロッパの国々では生殖技術に法的規制を加えていく方向に進んできました。しかし、その規制の方向は各国でも異なっており、独自の生命観、自然観のもと議論が行われてきたことがうかがえます。
 しかし、今回の委員会の議論にどの程度、一般の人々が関心を持ってきたでしょうか?その原因の一つに情報が公開されていないということがあげられる点は東京女性財団の研究で指摘したとおりですが、まだまだ議論、国民的コンセンサスが不足していることは晶かです。
 その意味でも、どのように情報公開を行い、どのように技術の評価が行われるかが重要であり、情報公開、技術の評価に関して、第三者機関の設立がまず必要だと考えます。この点に関しては報告書で述べられている公的審議機関・公的管理運営機関がそれにあたると考えられますが、その位置付け、詳細が決まらないまま、実施を結論付けることは、本末転倒だと考えます。どのような条件下でどのような技術を認可するのかということがまず議論されるべきだと考えます。上記の点で委員会の結論に疑問を呈したいと思います。
 また、東京女性財団の研究において我々は明らかにしてきたように、今まで生殖技術に関して妊娠・出産を担う女性の立場からの議論が行われてきませんでした。例えば、この調査で具体的に明らかになったことは、子どもを持つことや家族に対する意識、生殖技術に対する意識において、最も大きな差をもたらすファクターは性別であり、女性の方が多様なライフスタイルを容認する一方、生殖技術に対しては否定的でした。つまり、生殖技術に関する議論においては男女差を考慮に入れるべきであり、意思決定の場において、女性の意見を反映することが必要だと考えます。この点から、女性委員が圧倒的に少ないこの委員会の結論自体にジェンダー・バイアスがかかっていることが懸念されます。

III.1.「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療について」について

 まず(1)において「法律上の夫婦に限る」としていますが、法律婚と事実婚の間に差別があることを前提にした議論に疑問を観じます。子どもの福祉を問題にするとき、婚姻関係だけで、はかれない事は明らかです。
 また(2)受ける条件の(1)〜(4)において、提供を受けることができる夫婦の条件に関して、誰がどのような基準で判定するのかが不明確です。体外受精の対象は「体外受精でしか妊娠できない夫婦」であるにもかかわらず、体外受精の実施前、または実施後、自然妊娠するケースがあることに関して複数の論文が存在します。基準の不備、または基準の濫用などが考えられるとき、これだけでは不十分です。

 (2)の(5)において代理懐胎を禁止したことは評価しますが、もしこの理由が「人を専ら生殖の手段として扱ってはならない」「多大なリスクを負わせてはならない」こととするのであれば、排卵誘発剤を使った卵の提供に関しても、上記の理由は十分該当すると考えます。

 (3)提供する条件の(1)において、精子55歳、卵子35歳未満とした根拠、および精子では子がいることが条件としない根拠が明確ではありません。このような条件づけは、一般の妊娠に対して与える影響が大きいと考え反対です。またこれは胚の場合はどのように適用されるのでしょうか。
 また同一の人からの卵子提供の三回とは、具体的に排卵誘発、採卵、体外受精、胚移植、子の誕生のうち何を指すのか不明確であり、一方精子に対しての条件がないことと矛盾します。同一の人からの精子提供による子どもは何人いてもかまわないということであれば、これは現代社会の男性優位主義を反映したものにしかなってしまうと思います。

 (3)の(3)において匿名を条件としたうえで、(4)において兄弟姉妹等の提供を認めた点でこの報告書のもっとも矛盾を感じます。私が知る限りでは、血縁間の提供を認めた国はありません。血縁間で行われる提供が、報告書で述べられている「圧力」を生み出す可能性、またその後の血縁間、夫婦間、子どもに対してどのような影響を与えるのかを考えたとき、これを認めることにより、匿名性だけでなく、提供者の自主性に関しても疑問が生じること、その後への影響が大きすぎる点から反対します。

 (3)の(5)〜(11)に述べられている同意、説明、カウンセリング、個人情報の保護、提出、提供配偶子・胚の使用制限、移植数の制限に関してこそ、中立的な立場にある機関で行われなければ、その公正性は守られません。この部分が各医療機関の裁量で行われない保障こそが必要だと考え、最初に述べたように、まずこの機関の詳細に関して、その権限を含めて明記されなければいけないと考えます。

III.2.規制方法および条件整備について

(2)出自を知る権利に関して、提供者が開示を承認した範囲に限定されていることは、提供者の意向によって左右されることになり、これを権利と名づけることには疑問を感じます。このような判断を個人のレベルに委ねることは、理念としての子の権利を軽んじることになると思われ、もし子の権利を認めるのであれば、すべての人が同等な情報を得られることが条件であるべきだと考えます。

(3)体制の整備に関しては最初に述べたように、公的審議機関・公的管理運営機関の内容こそが重要であり、その議論がまず行われるべきだと考えます。この機関が統一され、情報の収集・開示、実施・応用の認可が一元化されること、構成員の半数以上が専門家以外のメンバーであり、なおかつ構成員の半数以上が女性であることなど、その公正性が保障される条件が必要だと考えます。またその権限、システムなどに関しても十分な制度が必要だと思います。これらが議論され、決定される前に、技術の臨床応用が決定されることに反対します。


受付番号:26
受付日時:平成13年4月18日
年齢:不明
性別:不明
職業:不明
氏名:優生思想を問うネットワーク 代表 矢野恵子
所属団体:同上
この問題に関心を持った理由:
 私たちは、生殖医療技術をはじめとする先端医療の持つ様々な問題、特にこれらがはらむ生命操作や優生思想の問題について発言し、活動している女性と障害者の市民グループである。生殖補助医療は、女性の体を通して行われるものであり、また、この報告書にもあるように「人間を人為的に誕生させる技術」で、優生思想に利用されうる技術でもある。したがって、女性と障害者にとって大きな影響を及ぼす問題であるので、下記の通り意見を述べる。

御意見

ア.生殖補助医療に関しての国としての対応は、あまりにも遅すぎたといわざるを得ない。すでに、約5万人の子が生殖補助医療によって誕生していることは、報告書も指摘するとおりである。この間、国としての基準を制定することなく、一民間団体である日本産科婦人科学会の自主規制にまかされてきたのである。まず、その反省の上に立ち、AIDや夫婦間の体外受精を含んだ、現在行われている生殖補助医療全般について、その危険性、副作用等も含め国として正確な実態調査を行い、それを広く公表し、その上で十分な議論が尽くすべきである。
 現在行われている生殖補助医療(不妊治療)は、これまで社会的議論は全く行われておらず、また、当事者、特に女性の心身に大きな負担を強いる技術である。(特に、体外受精においては、排卵誘発剤の使用による卵巣過剰刺激症候群等によって生命の危険にさらされることさえあるのである。また、女性に治療すべき疾患がない、男性不妊の場合にも体外受精は行われ、女性に大きな負担を強いている。男性に対する治療を女性に行うということをはたして治療と呼べるのか、といった点についての議論もなされるべきである。)にもかかわらず、本報告書では、AIDや夫婦間の体外受精などは「着実に普及してきている」(<I はじめに>記載)ものとして議論の対象外に置いてしまっている。

イ.そうした検討がほとんどなされないまま、本報告書は、体外受精技術を前提とした第3者の配偶子・胚の提供による生殖補助医療の是非の検討に移っている。配偶子・胚をその人から切り離し、別途に利用する道を開くことは、生命操作に直結するものであり、配偶子・胚の産業利用につながり、人の体を切り売りする方向に向かうものである。

ウ.しかも、第3者の配偶子・胚の提供による生殖補助医療においては、提供を受ける女性のみならず、提供する女性も心身に大きなリスクを負うにもかかわらず、本報告書では代理懐胎以外のすべてを認可するという暴挙に至っている。これは、本報告書中<II意見集約に当たっての基本的考え方>記載の「安全性に十分配慮する」「人を専ら生殖の手段として扱ってはならない」にも反するものである。

エ.そもそも本報告書には、不妊をどう考えるのかという根本的な議論が抜け落ちている。不妊とは何かは、その時代の家族観、女性観に大きく左右されている。結婚すれば、子ができて当然とする家族観や、女性は子を産んで一人前とする女性観が、多くのカップルや女性を不妊治療に追い込んでいくのである。不妊に悩むカップルや女性たちの多くは、単に、自分たちの子が欲しいのにできない、という悩みだけでなく、子がいないことに対して周囲が圧力をかけたり、差別したりすることに悩んでいるのである。そういった不妊の問題を、不妊の当事者に多大な負担を強いる生殖補助医療を行うことだけで解決しようとするのは、画一的な家族観の押しつけであり、女性差別の助長に他ならない。
 まず行われるべきは、広く不妊当事者の声を聞くことである。また、生殖補助医療に頼らない不妊問題施策も、図られなければならない。夫婦と子どもがいる家族を、社会の基本的な単位に据えるという考え方の再考、子を得るための別の方法、たとえば養子縁組をもっと容易にするといった制度改革の推進、また養親子関係に対する社会的な偏見をなくすための施策、子がいなくても充実した生活が送れるよう、女性の社会参加の推進等、制度政策面での改革が押し進められなければならない。本報告書には、そういった方向性が全く見られない。

オ.また、本報告書を作成した生殖補助医療技術に関する専門委員会における会議は、そのほとんどが非公開であり、議事録の公表も大幅に遅れ、市民が情報を得ることが困難であった。しかも、最終報告書を出してからパブリック・コメントを求めるという形は、市民の意見を本当に反映しようとしているとは言えずとうてい認めることができない。本報告書はいったん白紙に戻すべきである。その上で、今回のパブリック・コメントを公表し、不妊治療に関する実態調査を行い、それらを公表の上、再度、当事者を含めた委員会を開催することを求める。なお、本委員会には、日本産科婦人科学会の会告にも抵触する、夫の父の精子による人工授精を行った医師が委員として参加している。これでは、とうてい公正、中立な議事進行は望めない。

カ.多胎減数手術については、別途委員会を作り、検討するべきである。本委員会は、本報告書を見る限り、今以上に生殖補助医療を推進しようとしている。それは、多胎妊娠を増加をさせることに他ならず、公正な観点から多胎減数手術を論じる資格があるとは言えない。

[III 本論] について

1.精子・卵子・胚の提供等による各生殖補助医療について

(1)精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療を受ける条件について
この技術を受けられるのは、法律上の夫婦に限る、とあるが、その理由が差別的である。「生まれてくる子の親の一方が最初から存在しない」「生まれてくる子の法的な地位が不安定」であることをもって、生まれてくる子の福祉の観点から問題が生じやすいと断じているが、その根拠は何か。これは明らかに、母子家庭、父子家庭、事実婚家庭、及び独身者に対する偏見、差別である。また、「生まれてくる子の法的な地位が不安定」とはどういうことか。法的な両親がそろっていないことを「不安定」というのは、独断に過ぎない。そういった独断と偏見に強く抗議するとともに撤回を求める。

(2)各生殖補助医療の是非について

ア.生殖補助医療の是非についての問題点は、前項で述べたとおり多々あるが、ここでは問題となる点を「両親あるいは一方の遺伝的要素が受け継がれないこと」のみとしている。

イ.AIDについて、「50年以上の実績を有し…大きな問題の発生はこれまで報告されていない」としている。しかし、生殖補助医療は、世代を越えた技術である。50年程度で、問題がないとはいいきれない。しかも、「誕生しているといわれるが」という表現に見られるように、きちんとした調査がなされたわけではないことは明らかである。正確な調査がまずなされるべきであろう。

ウ.生殖補助医療で生まれ、夫の遺伝的要素を受け継がない子の場合、夫が嫡出否認の訴えをする可能性があって法的地位が不安定であるが、それは法整備により解消できるから問題ないとしている。前項で、法律婚の夫婦以外では子の法的地位が不安定だから生殖補助医療の対象にならないといいながら、この項では法的地位の不安定さは解消できるといっていて、考え方に統一性がない。。

エ.「…血縁主義的な考え方は、絶対的な価値観として人々を拘束するものではなく… 遺伝的要素を受け継がないということのみをもって、当該生殖補助医療が子の福祉に反するものとは言えない…」としている。家族に血縁主義を押しつけず、新しい価値観を見いだそうとしているように見えるが、(1)において、法律上の夫婦以外では「子の福祉の観点から問題が生じやすい」と断じ、独断に基づく古い家族観を展開している。また、血縁を重視しないことを肯定的にとらえるなら養子縁組の充実をこそ図るべきであるのに、1の(2)の(5)や2の(2)の(1)において、養子縁組に否定的な言質を述べている。

オ.以上のように、生殖補助医療を認める理由は裏付けがなく、また、全般に統一性がなく、理由として不合理であり、生殖補助医療を進めるための詭弁に過ぎないといわざるを得ない。

カ.代理母を認めないとした点は評価できる。

(1)AID(提供精子による人工授精)
 前項で述べたように、すでになされているから、ということは理由にならない。

(2)提供精子による体外受精
 体外受精によるリスクはあるが、それを負うのはそれを希望する当事者に限られていて、リスクの程度も禁止するほどではないから、容認するとしている。その根拠は何か。不妊治療における女性の苦痛は、子どもが欲しいならそのくらい我慢するべきだ、といった医療者の姿勢に沈黙せざるを得ない場合も多いと聞く。リスクを詳しく調査し、その結果を公表した上で再度、広く当事者を含めた市民の意見を求めるべきである。

(3)提供卵子による体外受精
ア.卵子の提供は、提供者及び提供される人の心身に多大な負担をかけ、提供者の卵子をその人から離して利用し、また、提供される人にとっては他人の卵子によって妊娠・出産するわけで、基本原則「安全性に十分配慮する」「人を専ら生殖の手段として扱ってはならない」にも反し、とうてい認めることはできない。

イ.にもかかわらず、本報告書においては、「…提供者がリスクを正しく認識し、それを許容して行う場合」という条件を掲げ「…禁止するのは適当ではない」としている。しかし、体外受精に関する社会的議論のない現在、提供者が正しい情報を得ているとはいいがたい。しかも、(3)の(6)の(イ)にあるように、提供者にリスクの説明するのは、提供を受ける医療施設である。これでは、公平で中立な情報が提供者に与えられるとは言えず、報告書における条件をも満たしていないので、この点においても認められない。

ウ.また、不妊治療を受けている夫婦から卵子の提供を受けることも容認しているが、不妊治療を受けている当事者にとって、当該医療施設から卵子の提供を依頼されることは、何らかの心理的圧力になる恐れがあり、当事者の自由な意志決定が守られない可能性があるので、この点からも認められない。

エ.なお、不妊治療を受けている夫婦から卵子の提供を受ける場合、「採卵の周期に要した医療費等の経費の半分以下を負担して受け・・・」とあるが、不妊治療が高額であることを考えると、治療費を捻出するために卵子を「売る」夫婦が出てくる可能性がある。これは、卵子の商品化であり、基本原則「商業主義を排除する」からも大きく逸脱するものでありとうてい認められない。

(4)提供胚の移植
ア.胚は、不妊治療当事者にとって心身ともに大きな負担のもとに作られるものである。
 「余剰胚」などないという認識をするべきである。そういったことも含め、まず、不妊治療当事者の意見を聞くべきである。

イ.卵子の提供の場合と同様、当該医療施設からの提供の依頼は、自由な意志決定を阻む恐れがある。

ウ.最初に、胚の提供を受けられるのは「胚の提供を受けなければ妊娠できない夫婦」としながら、卵子の提供が見込みにくいから、「卵子の提供を受けなければ妊娠できない夫婦」にも「余剰胚」の提供を受けることを認める、としている。卵子の提供が見込みにくいのは、それだけ大きなリスクがあるからだということを報告書自体認めているのに、なお卵子提供を容認するのは矛盾しており認められない。

エ.また、「余剰胚」は、提供者に新たなリスクを負わせるわけではないというが、提供夫婦と提供を受ける夫婦が同じ医療施設で不妊治療を受けている場合、提供夫婦が最初から提供を前提に胚を余分に作ることを当該医療施設から求められる可能性もあり、その場合は提供者のリスクは当然高くなる。「余剰胚」だから新たなリスクはないという理由での容認は、全く認められない。

オ.一方、「余剰胚」は提供夫婦の遺伝的要素を受け継いでいるので提供に抵抗感があり、「余剰胚」の提供が十分行われない可能性もあり、胚の提供を受けなければ妊娠できない夫婦で「余剰胚」を得ることができない場合は、卵子と精子、両方の提供を受けて新たに胚を作り移植することができるという。これは全く人為的に胚を作る行為であり、恣意的な選別や遺伝子操作等の門戸を開くものであり、もはや生殖「補助」医療とは言えず、まさに生命操作に他ならない。基本原則の「人を専ら生殖の手段としてはならない」及び「人間の尊厳を守る」に反していて、とうてい認められるものではない。

カ.また、「余剰胚」の提供を受けることが困難な場合、という表現はきわめてあいまいで、医療者側の恣意的判断で、「余剰胚」を得る前に、卵子と精子を得て胚を作る可能性がある。生命操作に結びつく行為の条件基準としてはあまりにも安易である。

キ.胚の提供は、提供する側の卵子・精子・胚を切り離して利用することであり、提供を受ける女性にとっては、全くの第3者の胚を移植されることで、これは「人を専ら生殖の手段としてはならない」に反し、この点からも認めることはできない。

(5)代理懐胎(代理母・借り腹)
ア.代理懐胎の禁止は、評価できる。
イ.報告書は、その禁止理由の一つとして「…自己の胎内において約10カ月もの間、子を育むこととなることから…母性を育むことが十分考えられ…」と述べている。妊娠によって母性が生まれるという決め付けは、養子縁組の否定につながるもので、撤回を求める。
ウ.なお、卵子提供・胚の提供は、形態として代理懐胎と変わらないので、代理懐胎だけ禁止しても、歯止めにはならない。

 以上のように、第3者の精子・卵子・胚の提供によるすべての生殖補助医療については、再度の検討が必要であり、現段階では認めることができない。従って、以下の点については論外であるが、問題点の大きい点について看過することができないので、意見を申し述べる。

(3)精子・卵子・胚を提供する条件等について

(2)精子、卵子、胚の提供に対する対価
 精子、卵子、胚の提供に伴う金銭の授受は原則的には禁止しているものの、「実費相当分についてはこの限りではない」として当初から大きな抜け道を用意しており、実質的に、営利目的での流通を可能とする内容になっている。
 すでに、米国等では精子バンクや卵子バンクがあって、高額で取り引きされていること、さらには、ES細胞研究や再生医学研究など卵子や胚を用いた研究や産業利用が進められ、卵子や胚の需要が急速に増えていることを考えれば、精子、卵子、胚の商業利用への流れは今後ますます強まると考えられる。罰則を伴う法律によって営利目的での精子・卵子・胚の授受や斡旋を禁止したとしても、「実費相当分」の名目で、これらの商業的流通が行われるおそれは濃厚である。

(4)兄弟姉妹等からの精子・卵子・胚の提供
ア.兄弟姉妹等からの提供では匿名性は守れず、子の身近な人間関係が複雑になり、兄弟姉妹への心理的な圧力も考えられる。また、「等」は極めて曖昧な言い方で、際限なく範囲が広がっていくおそれがあり、匿名性の原則はもはや存在しないも同然である。

イ.匿名性の原則に反してまで、兄弟姉妹等を認める理由の一つに、「…我が国においては、血のつながりを重視する考え方が根強く存在している…」から、としている。しかし、「はじめに」において、血縁主義的なものは絶対的なものではないと述べているのである。一方で、生殖補助医療を認める理由として血縁主義に懐疑的姿勢をとり、一方で、兄弟姉妹からの提供を認める理由として血縁主義を擁護するのは、矛盾していて、なりふりかまわず生殖補助医療を推進しようとしているとしか思えない。

ウ.(3)では、匿名性を保持する理由の一つに、「…提供を受ける側が…提供する人の選別を行う余地を与える…」からということがあげられているが、血縁重視の観点から兄弟姉妹を選ぶということは、提供を受ける側が提供者の選別を行うことに他ならず、匿名性の特例に値するものではない。

エ.なお、兄弟姉妹等からの提供の場合、医療施設は、その内容、理由等を公的管理運営機関に申請して、事前の審査を受けなければならないとしている。しかし、IIIの2の(2)の(3)にあるように、公的管理運営機関は「生殖補助医療の実施に関する管理運営の業務を行う」所である。実施するかしないかも含め「生殖補助医療の利用に関して、倫理的・法律的・技術的側面から検討を行う」、公的審議機関がその業に当たるというべきであろう。

(5)書面による同意
 生殖補助医療によるリスクに関しては、今までなおざりにされてきたといわざるを得ない。今回の報告書においても、提供を受ける側のリスクについて、保障や責任の所在等の議論がなされていない。提供者のリスクについては、「(同意書に)…卵子の提供により受ける可能性がある不利益について誰がどのように責任を負うかを予め定めておくことも必要である」とコメントされている。何らかの理由により、採卵しても使用しない場合で不利益が生じた場合、あるいは、卵子の凍結が可能になり、採卵から提供まで一定期間保存される間に何らかの不利益が判明した場合等、提供者と提供される側だけでなく医療施設も責任を負わなければならない事態が考えられるが、提供者の同意書は公的管理運営機関に提出されるわけではなく、医療施設内で管理されるのみである。リスクについての明確な責任体制、及び提供された精子・卵子・胚の所有権、管理責任体制が公的に示されるべきである。

(6)十分な説明の実施、及び(7)カウンセリングの機会の保障
 当該医療施設による説明だけでは、公平、中立な情報は与えられない恐れがある。カウンセリングは、単に「機会を与える」程度ですませられるものではない。必ず、当該医療施設以外の場でのカウンセリングが必要である。中立の立場でのカウンセラーの養成が間に合わないのであれば、養成されるまで、少なくとも第3者の精子提供による体外受精、卵子・胚の提供による生殖補助医療の実施は行うべきでない。

(8)精子・卵子・胚を提供する人の個人情報の提出・保存
 配偶子・胚の提供を得るとき、血液型を合わせる必要性などから、提供者の一定の個人情報が必要になる、ということだが、その範囲が明確でない。1の(2)の(1)<AID(提供精子による人工授精)>の項では、「HIV等の感染症の危険があることから…十分な検査等の予防措置が講じられるべきである」としていて、提供者の疾病に関する検査が行われることが示唆されている。多くの市民の反対にも関わらず、日本産科婦人科学会において受精卵の着床前遺伝子診断が容認されたことを考えると、この検査が、配偶子・胚の遺伝子検査につながるおそれもある。そのようなことがないよう、配偶子・胚の検査内容、個人情報の内容等については、市民も含め徹底した議論がなされるべきである。

2.規制及び条件整備について

(1)条件整備

(1)親子関係の確定
 コメントの中に、「…その子を約10ヶ月の間自己の胎内に置いて育てることにより、その子に対する母性を育み、…こうした妊娠による母性の確立の過程は、子の福祉の観点から極めて重要なものと考えられる。」とある。妊娠によって母性が確立するというのは独断に過ぎず、子の福祉にとって極めて重要という言い方は養子縁組を否定し、養親子に対する偏見を助長するものであるので撤回を求める。

(2)出自を知る権利
 子が知ることができるのは、提供者個人を確定できないもので、提供者が同意したものに限るとされているが、そういう中途半端な情報で、子のアイデンティティは確立するのだろうか。また、子にとって何が必要かという調査等がなされた形跡もなく、きわめてお為ごかしな項目であるといわざるを得ない。

(3)提供された精子・卵子・胚による生殖補助医療に実施に関わる体制の整備
 公的審議機関は、「専門家を参集し」とあるが、不妊治療当事者の参加が不可欠である。また、生殖補助医療が女性の体を通して行われることから、審議官の少なくとも半数以上は女性でなければならない。

[多胎・減数手術について]

ア.「…減数手術については、母体保護法の人工妊娠中絶の定義規定に該当する術式でない…その指摘は適当である」としながら、「規定の解釈や見直しも含め検討すべきとの意見もある」「…減数手術が厳格に守られるためには、行政又は学会において、これをルール化することが必要である」として、法改定や、ガイドライン策定を視野に置いていることが見受けられる。
 しかし、多胎妊娠の増加は生殖補助医療の増加の結果であることは明らかである。であるなら、まずしなければならないのは、生殖補助医療そのものの見直しである。そのためには、速やかに、多胎妊娠・減数手術の実施状況を含めた生殖補助医療に関する国としての実態調査を行い、その情報の公開するべきである。その上で、不妊治療当事者を交えて、広く生殖補助医療に関する社会的な論議を進め、多胎妊娠・減数手術の防止に努めなければならない。そのことなしに、多胎妊娠・減数手術を前提とした「規定の解釈や見直し」や「ルール作り」などはもってのほかである。

イ.その意味からも、生殖補助医療をいっそう推進させる今回の報告書の作成は、言語道断である。

ウ.遺伝子診断や性別診断等によって減数児の選別を行ってはならない、というのは当然であるが、その実行の担保を明確にするべきである。

(※以下の受付番号27〜31の御意見は、今回の結果発表までに提出された受付期間外の御意見ですが、参考として掲載します。)

受付番号:27
受付日時:平成13年4月19日
年齢:不明
性別:女性
職業:不明
氏名:(匿名化の要否不明)
所属団体:不明
この問題に関心を持った理由:不明

御意見

 現在、2歳10か月になる男児の双子を育てています。私の両卵管がつまっていたため、34歳の時から不妊治療をはじめ、体外受精2回失敗し、顕微受精2回目でようやく妊娠することができました。費やしたお金は、約200万円。それでも、4年間という短い間で、2人の元気な男の子を授かることができて、幸せだと思っています。
 主人と話し合ったことは、「40歳(私が)まで、不妊治療を続けて、お金の上限は、5百万まで。その結果、子どもが出来なかったとしたら、2人の生活を楽しむことにしよう。」また、「障害のある子供だとしても、大切に育てよう。」「2人の間に子供が出来なかったとしても、養子はもらわない。」など、3点、重要だと思われることについて、話し合い、結論を出しました。こうした話し合いが、とても大切だと思いますが、ともすると、どちらかの考えが押し通され、また、夫が検査に協力しないという例もたくさんあります。
 夫婦間であるならば
 (1)顕微受精までは、許されると考えています。
 (2)しかし、代理母や、卵子や精子を他人からもらうというのは、反対です。
 なぜなら、「子供が欲しい」と思う人の中に「障害児はいらない」と考える人もいるからです。卵子や精子が他人のものだとすると、かりに障害児を授かった場合、他人のせいにして責任を放棄する親がでてくるかもしれないからです。健康な子供が生まれる保障はないのです。
 (3)義父や自分の兄弟、姉妹から、精子や卵子の提供を受けることも反対です。なぜなら、あれほど望んだ子供たちなのに、出産してから、育児の大変さゆえに、私と夫の間には、想像もできなかった亀裂が入りました。妊娠、出産前には考えられなかった事です。「人間の心」というものは、時と場合応じて変化するものだということを痛感しました。「人間の心」ほど、危ういものはありません。あくまで、産まれてまた子どもの安全を最優先に考えなければなりません。もし、義父の精子をもらった子ならば、義父は、孫を孫として扱うことができるでしょうか。もし、自分の姉の卵子だったら、ただのおばとして接することができるでしょうか?今の日本の社会では、法の整備がととのっていないので、無理だと思うし、アメリカなどのように「養子でも、子どもはかわいい、大切に育てる」という土壌でなければ、子供の幸せは、保障できないと思います。
 夫婦間であってもつまづくのですから、まして、他人の精子や卵子を、代理母をということまで許されたら、子供がそれを知った時ショックを受けると思います。
 夫婦間でできなっかたのなら、2人の生活をエンジョイして、あきらめるべきなのです。
 (4)「卵子の若返り」「精巣から精子をとりだす」などの技術が進歩し、安全性が確立されたのなら、夫婦の遺伝情報が伝えられた子どもなのだから良いと思います。
○双子・三つ子等、多胎児の出産・育児は、想像を絶する大変さがあります。その大変さを、みなが知らなさすぎます。そういう情報を、不妊治療をしている夫婦に説明すべきです。体外受精にはお金がかかりすぎるので、そちらの整備をお願いします。


受付番号:28
受付日時:平成13年4月19日
年齢:41歳
性別:女性
職業:大学教員
氏名:柘植あづみ
所属団体:いくつかありますが、これは個人としての意見です。
この問題に関心を持った理由:
 生殖医療技術と社会の相関関係について調査研究を行なっているから。

御意見

《総論》

【1】6項目の基本的考え方について

 まず、報告書の内容に矛盾している箇所が見られます。その矛盾は「生まれてくる子の福祉を優先する」、「人を専ら生殖の手段として扱ってはならない」、「安全性に十分配慮する」、「優生思想を排除する」、「商業主義を排除する」、「人間の尊厳を守る」という専門委員会の基本的考え方として合意された6項目に関して熟考されていないことから生じる問題だと考えます。そこでまず、この6項目に関する疑問を述べます。

1)何が「生まれてくる子の福祉を優先する」ことになるのか。

 この答えを得るには、第三者が係わる体外受精を認める以前に、これまで1万人以上生まれているとされるAIDによって生まれた人やその親たちの状況を知る必要があると考えます。議論の土台となる関連データが無い状況で、「生まれてくる子の福祉」とは何なのかが理解できるとは思いません。

2)「人を専ら生殖の手段として扱ってはならない」ことに関して、生殖の手段として扱うとはどこまでをそのように判断しているのか。

 代理母(代理出産)が「生殖の手段として扱っている」と判断し、それを禁じることは理解できます。しかし、精子提供者や卵子提供者は手段として扱われていないのでしょうか?さらに、考えようによっては、子どもをもちたい理由、不妊治療を受ける理由如何によっては、不妊治療を受けている女性も「生殖の手段として扱」われている、といえます。つまり、貴委員会が「生殖の手段として扱う」ということの意味を深く検討されていないのではないか、と思います。

3)「安全性に十分配慮する」というのが明確ではありません。

 私が知るかぎりでは、現在、不妊治療の排卵誘発剤による卵巣過剰刺激症候群という副作用に関する医療過誤訴訟が2件行われています(新潟大学の例は死亡、秋田大学の例は脳血栓による半身不随となった。)このいずれも、排卵誘発剤の副作用が生じた早い時点で医療者が危険性を認識し対処していれば大事に至らなかった、と考えられます。ところが、不妊治療に特に体外受精や顕微授精の際に過排卵状態にしてできるだけ多くの卵子を採卵するのが当然のことのようになっており、少々の卵巣過剰刺激症候群に対しては医師は何の対処もしません。私がインタビュー調査した不妊治療の患者のうち、AIHや体外授精、顕微授精をした人々の大半が、吐き気や腹痛等の症状だけではなく、卵巣が腫れる、腹水が溜まるといった経験をしています。そして、それを医師に伝えた際に、何人かの医師は「卵巣過剰刺激症候群がでる時には妊娠している可能性が高い」と説明し、何の処置もしなかった、ということです。結局、全員がその時には妊娠はしていなかったのです。
 また、卵子提供が実行されるようになれば、通常のホルモン分泌がある女性に排卵誘発することになります。排卵誘発または採卵の際の麻酔や採卵手技によってもしも事故が生じ、卵子提供者が傷害されるようなことになった際に、誰がそれを保障するのでしょうか。専門委員会が考えておられる「安全性に十分配慮する」ために、一体、具体的にどのような対策を出される予定なのでしょうか。少なくとも「十分に配慮する」ため になすべきことの例を示すべきではないでしょうか。

4)「優生思想を排除する」。

 ここでの「優生思想」が指す範囲、定義は何でしょうか? 精子や卵子、胚をその遺 伝的な性質で選別しない、ということを含意しているのでしょうか。
 すでに実施されている某大学のAIDを推進している医師は、精子提供者が「その大学の医学部の学生で体育会サークルに属し、遺伝的疾患がない家系であることを審査して いる」と様々な媒体で発言されておられます。さらに、この大学のAIDによって生まれた子どもの発達(IQも含む)は、通常の妊娠によって生まれた子どもの平均値よりも高い、という論文さえ出されております。これは「優生思想」ではない、と判断されているのでしょうか。貴委員会が考えておられる「優生思想」とはどのようなものなのでしょうか。「優生思想を排除する」と明記すれば、それで批判がかわせるとでもお考えなのでしょうか。

5)「商業主義を排除する」。

 これについても、何を商業主義とするのかが明確ではありません。すでに、不妊治療 を専門的に実施しているクリニックや病院が利益を多く得ていることは患者でも知っています。
 また、精子や卵子、胚を提供した人に何の金銭的対価を支払わないとすれば、それを 提供する人の動機は何になるのでしょうか? 博愛・奉仕精神、それとも同情でしょうか。確かに、脳死o臓器移植における臓器提供の状況を見ると、博愛・奉仕・同情の精神から提供する人も存在するだろうと思われますが、逆に、兄弟姉妹や近親者が「私が提供しなければ提供する人がいない」という立場に置かれて提供を申し出る状況、つまり、提供への圧力がかかる状況が強まる可能性があります。これは生体肝移植や腎臓 移植にすでに見られます。「自由な意思」という名の圧力の存在について、どのように対処できるのでしょうか。それとも、たとえ圧力があってのことだとしても本人が自発的に名乗り出たのだとしたら、それは「自由意思」と認め、何の問題もない、という判 断されるのでしょうか。

6)「人間の尊厳を守る」についても賛成ですが、人間の尊厳とは一体何でしょうか。

 不妊治療を経験した女性たちの話しを聞いていると、治療の現場では人間の尊厳が守られていない、と感じることが多々あります。例えば、カーテンやパーティションだけで仕切られた診察室にいくつもの内診台が並べられ、患者はその台の上であお向けで下腹部をあらわにした姿勢で、タオルや膝掛けのようなものもかけられないまま、待たされ、隣の処置の会話が聞こえてくる。人工授精の際に、看護婦さんが「この人はディ(AID の隠語)です」とか「先生、それはこの方のではありません」などという声されも聞こえる。私は、こういう状態も「人間の尊厳が守られていない」と感じます。そうなると、現在のARTの実施現場そのものから変革しないと、人間の尊厳が守れる状況にはなりませんが、委員の方が考えておられる「人間の尊厳」というのはどのようなものでしょうか?

 以上のように、この6項目の曖昧さと、さらにこの6項目間での優先順位が明確にされていないために、報告書において矛盾が見られます。これでは、報告書の一部の修正では済みません。

【2】報告書にみられる委員の価値意識

 この報告書を読んで、上記の6点以外に貴専門委員会委員が有されている「思想」と「価値意識」、不妊治療という医療への「認識」についても疑問を抱きました。

1)まず、「子を持ちたいという希望」にはできる限り応えるべきであり、そのために実施される技術を拡大すれば良い、とする考えについて述べます。

 「子を持ちたいという希望」にできるだけ応えようとすることについては、個人の価値観の違いになってきますから、ここでは詳しくは述べません。ただ、1点だけ、不妊の人たちは、「子どもが妊娠/出産できない」からではなく、「結婚していて子どもが欲しいのにいない」という社会的状況によって苦しんでいる、という認識をもっていた だきたいと思います。つまり、不妊の悩みや苦しみの解決策は、不妊治療だけでは解決できないのです。[詳しくは柘植あづみ「生殖技術と女性の身体の間」、『思想』2000年2月号を参照ください。]

2)また、ARTの応用を拡大すれば「子を持ちたいという希望」に応えられる、と考えることは、あまりにも不妊治療およびその成功率についての認識が低いと思います。
 不妊治療の成功率は、医師が報告する際には不妊治療をしている人の5割以上は出産できるとするかなり高い数値が示される傾向にあります。しかし、私が、20歳代から40歳代で当初不妊治療をしていた10名に長期間(7−9年)に継続の聞き取り調査をしてきた結果では、不妊治療によって妊娠・出産できた人は,検査中1名、AIH1名、AID1名の3名で、さらに体外授精をやめて1年後に自然妊娠・出産した人1名でした。不 妊治療の成功率は3割です。人数が少ないからという反論が出るかもしれませんので、厚生科学特別研究「生殖補助医療技術に対する医師及び国民の意識に関する研究」研究 報告書を引用し、検討します。

  排卵誘発剤 人工授精 体外受精 顕微授精 その他 合計
(治療を)現在受けている 165,500 35,500 17,700 14,500 51,600 284,800
(治療を)過去に受けた 709,000 271,500 99,900 14,500 340,000 1,434,900
治療して子どもが生まれた 314,500 37,800 35,500 35,500 190,000 613,300
合 計 1,189,000 344,800 153,100 64,500 581,600 2,333,000

注:表の縦方向は回答に重複はなく、横方向は回答に重複がある。報告書の縦報告の合計が若干計算が間違っていたため、それを修正した。総合計の2,333,000は同じである。

 上の表から、不妊治療の成功率を求めてみます。横の集計には重複して治療している人が含まれていること、現在不妊治療をしている人のうち、将来、何人に子どもが生まれるのかが不明であることから、精確な数値ではありませんが、治療して子どもが生まれた613,300人を合計である2,333,000人で割ると成功率は26%、治療して子どもが生まれた613,300人を過去に治療を受けた人と治療して子どもが生まれた人の合計2,048,200人で割っても30%という成功率であることがわかります。

 さらにフィンレージの会という自助グループが会員への調査結果を見てみましょう。

不妊治療の結果(治療結果について回答した人798人)

タイミング指導または排卵誘発+タイミング指導で出産に至った*1 53人
その休止中に妊娠・出産に至った 30人
AIHによって出産に至った*2 38人
その休止中に妊娠・出産に至った 33人
GIFT・ZIFTで出産に至った*3 4人
体外受精・顕微授精で出産に至った*4 70人
その休止中に妊娠・出産に至った 17人
体外受精・顕微授精の間または止めた後にAIHにて妊娠・出産 5人
AIDで出産に至った*5 3人
不妊治療によって出産に至った合計A 173人
不妊治療の休止中または止めた後に出産に至った合計B 80人
*1: 結果の無回答者7人。
*2: AIH実施回数1-3回144人、4-6回127人、7-9回76人、10-14回92人、15-19回35人、20回以上52人、他10回以上1人計527人中。結果の無回答者12人。
*3: 27人中。回数統計は載せられていない。
*4: 体外受精・顕微授精実施回数1-3回208人、4-6回97人、7-9回31人、10回以上24人計360人中。結果の無回答者0人。
*5: AID実施回数1-3回11人、4-6回3人、7-9回4人、10回以上6人計24人中。結果の無回答
者2人。

 ここからわかるのは、何らかの不妊治療を受けた・受けている人、798人中、すでに不妊治療によって出産した人が173人(22%)、直接的には不妊治療によってではなく出産した人が80人(10%)だということです。現在も継続中の人は205人(26%、ただし出産した後に再度治療をしている人も含まれる)。残りの人は子どもができなかったが治療を止めた人です。一度出産して再び治療継続している人の重複があるため、この表から読み取れることの限界はあります。また、入会動機が、不妊治療をしてもなかなか妊娠しないために悩んでいる、情報が欲しい、という人も少なくないと思われるため、出産率が低くなっていることも考えられます。それでも、厚生科学特別研究から求めた結果、最低で26%、最高が30%と大きくは違いません。
 排卵誘発剤による妊娠・出産を除くと、両調査から求められる成功率はさらに下がります。
 不妊治療の成功率が低く、不妊治療を経験した人の3割程度だろうということは、私がインタビュー調査をした医師の何人かが認めています。[柘植あづみ『文化としての不妊治療』1999、松籟社をご参照ください。]
 つまり、精子・卵子・胚の提供による体外受精を認めたとしても、何年も不妊治療をしても出産に至らない人が多いのです。
 次に、AIDや精子・卵子・胚提供による体外受精などの第三者が係わる不妊治療を望む人々は不妊治療を受けている人においても少ない、ということです。
 もちろん、少数派だからといってその人たちの希望を無視すれば良い、とは考えません。しかしながら、前述のように、夫婦間の不妊治療において妊娠・出産できると診断された人においても、出産に至らず、あきらめて行く人たちが少なくない現状で、なぜ、第三者が係わる不妊治療を認めるという技術の応用の拡大だけが検討されるのか、を熟考していただきたいのです。
 不妊治療には限りませんが、強く希望していても、どこかであきらめなければならないことがあります。医療技術の進展は、このあきらめなければならない線を単に時間的に後ろにずらしているだけだと思います。これは出産できた人にも言えるのです。私の調査からは、不妊治療で一人子どもが生まれた方が、その次に、二人目はまだなの、とか、一人っ子はかわいそうよ、という周囲からの言葉に傷つき、苦しんだことを話されていました。また、他の出産された方2人の例では、子どもが未熟児で生まれたこと、アトピー性皮膚炎があったこと、それぞれの理由から「母親の責任」を強く感じて悩まれました。
 貴報告書を読むと、出産すればそれでめでたしめでたし、とお考えになられているようですが、それについて疑問でなりません。不妊治療をやめて子どもをあきらめた時点で、新しい仕事や生き方を見つけて、いま楽しい、とおっしゃる方もいらっしゃいます。養子縁組を選択して、大変だけれど子育てがとても楽しいとおっしゃる方もいらっしゃいます。
 医療技術が進展しつづけるために、あきらめるという選択肢が見えなくなり、次の新しい選択肢へと進めない、という現状があることも知っておいていただきたい、と思います。

3)日本の医療における問題

(1)インフォームドコンセントの不十分さ
 不妊治療においては、インフォームドコンセントの充実のためと考えてか、時間の節約のためか、集団での体外受精等の説明会、ご自分の著書やを読むとかビデオを見るようにいわれる、という説明方法が多いようです。しかしこれは医師・医療機関側のインフォームドコンセントへの無理解を示していると思います。

(2)医師の診断の不統一
 「精子の提供を受けなければ妊娠できない」「卵子の提供を受けなければ妊娠できない」などを、誰がどんな基準で判断をするのかが不明です。現状でも、医師・医療機関によって判断は異なっています。これは私自身が行なった調査において不妊治療をしていた人たちが転院すると不妊原因の診断から異なり、治療も当然異なってきた例がいくつも見られたこと、また、東京女性財団による「女性の視点からみた先端生殖技術」においても男性12名、女性42名の各1回のヒアリング結果からも指摘されております(東京女性財団「女性の視点からみた先端生殖技術」2000年P184)。
 あるクリニックでは排卵誘発とタイミング指導で実施しましょうとかAIHを行ないましょう、と判断されたのに、違うクリニックでは即、体外受精(IVF-ET)や顕微授精と判断されることは少なくありません。私の調査事例の1例に、IVF-ETの適応とされてそれを2回受けたが妊娠せず、あきらめて違うクリニックで軽い排卵誘発剤をもらい、漢方薬も飲んでいるうちに自然妊娠・出産し、さらにその数年後に再度、自然妊娠・出産した方がいらっしゃいました。これは、不妊治療の患者にとってもできるだけ身体への侵襲の少ない、そして「自然」に近い方法で妊娠・出産したい、という気持ちが尊重されているか、という問題に加えて、医療費の問題にも係わります。当然、ART の方が医療費がかかり、患者の負担が大きいからです。また、将来的に日常医療の範疇にARTが入ってきたときの保険診療にするか否かの問題とも係わります。
 つまり、医師によって診断および必要とする治療の判断が異なるという日本の状況において「誰が診断するのか」、「それが適切な診断か」には問題があることが大きな問題となります。提供精子・卵子・胚で早く妊娠させられるのなら、と、そちらを奨める医師の存在を否定できないでしょう。
(3)誰が管理や運営をするのか
 さらに、特に気になるのは、第一にこれらの提供にかかわる生殖補助医療の総合的な管理や運営を誰がするのか、監査は誰がするのかが現時点でがはっきりとしていないことです。私は公的管理運営機関による一元化管理が必要だと考えます。特に医師以外の専門的知識を有し、トレーニングを受けたスタッフを揃えた第三者機関の設立が必須だと考えます。
 以上の理由から、各論の検討をする以前になすべきことがあり、今回、このままの状態で各論の検討に進むべきではない、と考えます。
 最初に、国内で実施されている不妊治療の実態に関してこれまで調査されてきた資料を十分に読み込み、それでは不備な箇所を実際に調査する。
 特に、これまで調査されていないAIDに関する家族関係や子どもに事実を伝えるか否か、子どもに隠していた事実がわかったときにどのような問題・課題が生じたが、離婚や親の死亡(この際、特に父親の死亡)によって生じる問題・課題、などについての実態調査が行われるべきです。
 日本で実施するには限界がある際には海外調査でも代替できると思われますが、日本の社会・文化的土壌が存在することを考慮した場合にやはりこれまで実施されてきたAIDやまた、認められていないにもかかわらずいつくかのクリニック等で実施されてきた提供精子・卵子による体外授精の実態調査を行なうべきです。
 次に、兄弟姉妹等からの配偶子・胚の提供を認めるか否かの検討をする場合に、それは「匿名性」の原則から外れているわけですから、事前にこのような調査が必須であると考えます。
 また、報告書では、生まれた子が抱える可能性のある問題や出産する親の側が抱える可能性のある問題には、一定程度配慮されておりますが、精子・卵子・胚の提供者側が抱える可能性のある問題についての検討が不足しています。これについても、国内・外での資料収集や一時データの収集と分析が必要だと考えます。
 したがって、現時点で「三年後に精子・卵子・胚の提供による生殖補助医療の実施を開始する」と明言するのではなく、必要な実態調査を基に、問題・課題の検討を十分にされてから、あらためてたたき台が作成されることを要望します。

受付番号:29
受付日時:平成13年4月19日
年齢:30歳代〜60歳代
性別:女性2名、男性7名
職業:大学教員(各専門分野; 医学(外科医師)、哲学・倫理学、法学(刑法)、生物学、神経生理学、畜産学)
氏名:匿名希望
所属団体:日本科学者会議 生命倫理研究委員会
この問題に関心を持った理由:
 当研究委員会にとって重要な検討課題を含んでいるため。

御意見

●報告書をまとめる以前に検討すべきこと。

 AIDはすでに50年も実施されているにもかかわらず、追跡実態調査を行わないで、報告書をまとめることは問題である。 そこで、早急にAIDの追跡実態調査を実施し、出自を知る権利などの問題点を検討した上で、報告書を提出すべきである。

●II 基本的考え方について

1)第1項「生まれてくる子の福祉を優先する」とあるが、この「福祉」の内容はどのように定義されるのか不分明である。とりわけ第6項「人間の尊厳を守る」と言うこととの関連はどうなるのか。
2)「人間の尊厳を守る」と言うことは、第1項から第5項までの根底にある考え方ではないのか。つまりこの6項目が同等な権利を持って主張できるものではなく、むしろ他5項目の根拠に位置すべき考え方ではないか。

●III-1-(1)最初の丸について

 AID以外の生殖補助医療については、必要な制度の整備がなされるまで実施されるべきでない、として、AIDについては禁止していないことに、反対である。AIDについても禁止すべきである。早急にAIDの追跡実態調査を実施して、問題点を検討すべきである。

●III-1-(1)7番目の丸は正確に記述されるべきである。

 2行目「生まれてくるこの親の一方が最初から存在しない」というのはやはり「法律上」という言葉を入れるべきである。理由は、私自身「法律上の夫婦」に限定するという考え方に賛成するが、しかしそれは今日の時点でということである。将来「事実婚」が法律上も「法律上の夫婦」と同等の権利を持つような承認を得ることになった場合、あるいは「事実婚」の子どもが「法律上の夫婦」の子どもと同等の法的権利を持つようになった場合に、これを除外する必要はなくなるからである。理由の2番目は、この(1)全体で、「生物学上の親」と「法律上の親」を厳格に分けて、法律が保護するのは「法律上の親子関係」であることを鮮明にすることによって、成り立つ考え方ではないかと思われることである。

●III-1-(2)3番目の丸について

 AIDによる大きな問題の発生はこれまで報告されていない、としているが、実態調査を実施しないでこのようなことはいえないだろう。 早急に実態調査を行って、当事者でなければわからないような問題点を明らかにすべきである。 AIDが夫や妻や子にどんな影響をおよぼしたか、また、子の出自を知る権利に関してどのような問題があったかなど。
 AIDの実態調査を行い、AIDの問題点を検討した上で、報告書をまとめるべきである。

●III-1-(2)-(1)

 AIDに関しての項目であるが、この記述にはまったく反対である。 理由1 すでに過去50年を超える「実績」があるわけで、そうするとこの50年間のきちんとした「総括」を行うべきである。(2)は全般的に技術的に問題がないということが前提になっていると思われるが、この丸2で「6つの基本的考え方に照らして」とあるが故に少なくともこの報告が「子供の親」を「法律上の親」として確定し「子どもの法的身分」を安定させることが下で主張されるわけであり、こういう問題を含んでいるのではないか。「特段問題があるとは言えない」などと安直な文章で済ませるべきではない。少なくとも「法的身分」の動揺性をペンディングしたまま進めてきた医師群の責任をきちんとさせるべきではないか。そうでなければ、既成事実を作ってからそれを検証することなく承認させるという形に歯止めがかからなくなるのではないか。
 さらに問題なのは、AIDで産まれた子供たち(すでに50歳を超えている)の追跡調査、AIDで問題が生じないのかどうか、を検証することがなされていないことである。それぬきに「特段問題がない」と言えないのではないか。

●III-1-(2)-(2)、(3)

 精子提供、卵子提供の「体外受精」に関しても世界的には1978年以後のことであるとしてもすでに23年経っているわけであり、技術的な問題についての検証、あるいは、子どもの成長・及び子どもの権利(すなわち子どもの福祉)にかんする検証が「体外受精」に関してなされていないことは重視すべきである。したがって「特段問題がない」というような文章ではなく、やはり追跡調査のような研究が行われていない現実にたいして厳しい態度を取るべきである。認めるにしてもやはり、きちんとそういうプロジェクトを他面で進める必要があるのではないか。
 また次の(4)で始めて「凍結卵子による体外受精が技術的に確立されておらず、」と技術的な問題に言及しているが、「体外受精」そのものが、その技術的な検討抜きに承認されるのははなはだ疑問である。
 なお「人工授精」及び「体外受精」がどの程度の成功率を持ち、どのような影響を夫婦に与えるかに関しての言及がないのは問題である。少なくとも「専門委員会」でAID及び体外受精にかんする聞き取りを行ったわけであり、そういう不妊治療そのものの厳しさに関して言及しないのは、あたかもこれらの不妊治療を受ければ子どもがもてるというような幻想を与えかねないものである。
 本報告書が、不妊治療を推進するという「意図」のもとで作成されている印象を与えるのは問題ではないかと思われる。むしろ、子供が産まれないと言う「夫婦」のあり方にたいして、選択肢はいくつかあるわけでそれらの選択しにニュートラルな報告になるようにすべきである。

●III-1-(2)-(4)

 余剰胚の使用に関しては、もっと慎重な取り扱いが必要である。また例外として、「整理・卵子の提供を受けて得られた胚の移植」を認めるとなっているが卵子提供が女性の体にたいして甚だしい影響を与えることを考慮すると、これは認めるべきではないと思われる。

●III-1-(2)-(5)

 賛成

●III-1-(3)

 卵子提供に関しては、きわめて影響が大きいことを考慮に入れて禁止すべきであろう。

●III-1-(3)-(3)

 「精子・卵子・胚を提供する場合には匿名とする。」これは、提供者と提供を受ける人の間での「匿名性」の確保と言うことに限定すべきである。三つ目の○に関しては、これは少なくとも報告書はこういうことを言う学問的な権利を持っていないと考える。なぜなら、先に述べたようにここで述べられた認識を前提にして一切の検証を行ってきている「人工授精」「体外受精」に関して厳しい反省を行っていないからである。少なくとも子どもの方が自己の出自を知らないが故の自己喪失感を持つこと、あるいはルーツをさがそうとすることはすでに「養子」問題の側から報告されている。こういう点に関して、検証を抜きにして、進められたのがこの専門委員会の議論であったことを忘れてはならない。
 さらに言えば、「その子や当該精子・卵子・胚を提供した人の家族関係などに悪影響を与える」云々とされているが、「その子」と「提供者」とを対等に並べるのは、きわめておかしいのではないか。「その子」は通常の親子関係と同様に何らの同意も抜きにそういう決定をされているわけで、それに対して「提供者」は説明を受け同意しているわけであり、自己責任の問題が生じるのではないか。少なくともここの(3)において「子どもの出自を知る権利」を制限する根拠は、「提供者のプライヴァシー」の問題と「ドナー減少」という生殖医療を進める側の論理であって、子どもに即して、子どものうちに根拠を持っていないと言えよう。そうすると「子どもの出自を知る権利」を制限する正当性はないと言わねばならないのではないか。責任のある側が責任を免れようとする論理でしかないのではないか。この「子どもの出自を知る権利」を否定する論理は成り立たないのではないか。通常の親子関係、そして「特別養子縁組」による子どもも「子どもの出自を知る権利」は守られている。そのなかで不妊治療によって産まれた子供だけはこの権利を否定される。これはきわめて危険な状況を生み出すのではないか。そして不妊治療を受ける親、提供者だけがこのような特権的地位を与える根拠はないだろうと思われる。少なくともこのような「特権的な扱い」の正当性はどこにも示されていないのではないか。
 まして今日「自己情報コントロール権」という積極的な「プライヴァシー権」も主張されている時代である。そうすると生殖補助医療技術によって産まれた子供もまたこの権利を正当に認められるべきではないか。それを「提供者のプライヴァシー」の名の下に否定することは、結局「自己の出自」ついて自分は知らないけれども医師と提供者(あるいは医師だけ)は知っているという奇妙な事態を現出することになる。これは甚だしい人権侵害ではないか。
 積極的に提案すれば、「子どもの側が一定の年齢になれば、知ろうとすれば知りうる条件を作っておくこと」が必要で、この子どもの親には子供の生物学上の親を知る権利を否定すること、また子どもの法律上の地位を確定しておくことで十分に「子どもの権利」を否定することなく「ドナー」をも守れるのではないか。

●III-1-(3)-(4)まったく反対。それ以上にナンセンスである。これはまったく憤りを感じるものである。これではあまりに何とか不妊治療のを促進したいという動機だけが根拠となっているものでしかないだろう。
 (3)で、「子どもの出自を知る権利」を否定してまで守ろうとした「ドナーのプライヴァシー」が簡単に否定されてしまうようなこの項目は何なのだろうか。まったくレシピアント-ドナー間の匿名性あるいは、「商業化」を否定する報告にもかかわらず、特別の力が働く(ましていまだ個人の独立よりも家族の維持の方に比重がかかる文化状況を払拭できていない)日本の国でこんなことをやれば、まったくプライヴァシーは守られないし、家族関係破壊につながるだろうと思われる。まして女性をもののように扱う事態が現出するだろう。これは「人間の尊厳」という基本的な考え方、そして人権にたいして、きちんと認識し直して再検討すべきである。
 ○を4つも使ってこの場合の弊害を述べながら、あっさりと「十分な説明・カウンセリング弊害の認識」などと言えるならば、これはそもそも生殖医療技術の前提とされた「ドナーのプライヴァシー」など完全に吹っ飛んでしまうのではないか。それだったら、「ドナーに」きちんと「十分な説明・カウンセリング・来るべきリスク」を説明して、「匿名性」などはまったく必要なくした方が筋が通っていると言えるだろう。
 精子・卵子・胚の提供は、匿名を原則としているのだから、兄弟姉妹等からの提供についても匿名とすべき。腎臓や肝臓の生体からの移植では、患者本人の生命を救うために兄弟姉妹や親や子から臓器が提供されているが、一方、生殖補助医療では患者は不妊症で悩んではいるが本人の生命が脅かされてはいないので、匿名にしないで、兄弟姉妹等からの精子などの提供は認めるべきではないだろう。


受付番号:30
受付日時:平成13年4月22日
年齢:30歳代から50歳代
性別:男性10名、女性2名 現在計12名
職業:哲学、倫理学、生命倫理学、法医学
氏名:日本医学哲学倫理学会・国内学術交流委員会
所属団体:同上
この問題に関心を持った理由:
 第1に、国内学術交流委員会は、生命倫理関係の社会的に問題になっている懸案にたいする学会の意見のとりまとめを課題の一つとしているため

御意見

1.今回は2ヶ月の意見公募期間がありましたが、やはり学会として組織の意見をまとめるのは、この程度の期間が必要だと考えます。

2.全体の基本的なスタンスの取り方について

 1)まずこの点で、今回の報告書は、「生殖補助医療」という子どもの産生に限定した報告になっておりますが、すでに科学技術庁などで、受精卵の研究利用などの問題で、報告がなされ、クローンの研究利用及び産生に関しての禁止などについては法的規制がなされています。そうしますと、例えば、フランスの「生命倫理法」のような法的規制、あるいは包括的なガイドラインなど、生殖医学全般にかんする包括的な議論を日本でも行い、その上で決定されるべきだと考えます。
 とりわけ、「ヒト胚」の委員会では、「いつから人間か」という問題が提起されたにもかかわらず、問題が限定されていることを理由にこの問題は議論されないまま・未解決のままになりました。今回は「子どもの産生」にかかわるものとなっております。
 それぞれ限定的に議論することによって、その「生殖医学」の問題群のなかで、すり抜けてしまう問題が生じるのではないかと危惧するものであります。
 できるだけ速やかに生殖医学にかかわる問題点に関して、包括的に議論していくことが望まれるのではないかと考えます。

 2)今回の報告書は「生殖補助医療のあり方」についての報告のはずであり、本来「不妊治療」を進めるための報告書であってはならなかったのではないかと考えます。ですが結果として出てきたものは、「あらゆる機会を通じて不妊治療を押し進める」ためのものになっている印象を与えます。「子供が産まれないが子どもを望む夫婦」にとって、「不妊治療」は一つの選択肢でしかありません。その点をきちんと押さえて、夫婦、産まれてくる子供の「人間の尊厳」を尊重する議論がなされる必要があると考えます。

 3)今回の報告書は、以下で具体的に述べますが、子どもの権利-夫婦の権利-ドナーの権利についての優先順位に関して混乱が見られます。それとの関連で「医師の義務および権利」に関してきわめて甘いものになっていると考えます。
 この点では、まず「子どもの権利」が最優先されるべきことです。その点で、「子どもの出自を知る権利」はほかの二つの権利との関係では最優先であり、ドナーの権利との権利と衝突する場合には「子どもの出自を知る権利」が優先されるべきだと考えます。その結果ドナー減少を引き起こし、「不妊治療」が難しくなったとしてもそれはやむを得ないことだと考えます。

3.以下で逐条、意見を述べさせていただきます。

II 基本的考え方について

1)第1項「生まれてくる子の福祉を優先する」とありますが、この「福祉」の内容はどのように定義されるのか不分明です。とりわけ第6項「人間の尊厳を守る」と言うこととの関連はどうなるのでしょうか。

2)「人間の尊厳を守る」と言うことは、第1項から第5項までの根底にある考え方ではないで しょうか。つまりこの6項目が同等な権利を持って主張できるものではなく、むしろ他5項目の根拠に位置すべき考え方であると考えます。

III-1-(1)説明部分の4番目の丸は正確に記述されるべきです。

 2行目「生まれてくるこの親の一方が最初から存在しない」というのはやはり「法律上」という言葉を入れるべきです。
 理由は、「法律上の夫婦」に限定するという考え方に賛成しますが、しかしそれは今日の時点でということです。将来「事実婚」が法律上も「法律上の夫婦」と同等の権利を持つような承認を得ることになりました場合、あるいは「事実婚」の子どもが「法律上の夫婦」の子どもと同等の法的権利を持つようになりました場合に、これを除外する必要も理由もはなくなるからです。
 理由の2番目は、この(1)全体で、「生物学上の親」と「法律上の親」を厳格に分けて、法律が保護するのは「法律上の親子関係」であることを鮮明にすることによって、成り立つ考え方ではないかと思われることです。
 全体として(1)はその意味で賛成です。
 第1に、それはさまざまな大人の場合には、事実婚とか、あるいはホモセクシュアリティの方の権利としての「結婚」などは現実にあるわけですが、それはまだ決着が付いていない問題ですし、決着が付いていない段階で「子どもの福祉」、「子どもの権利」を最優先することは当然であると考えるからです。
 第2に、ここでの考え方として理解できるのは、「遺伝上の親」と「社会上の親」の分裂という歴史的にも社会的にも存在する(たとえば、養子縁組の場合、さらに精子提供にもとづく事例を挙げることができます)ことを承認し、そのうえで「社会上の親」を正当に法律上も承認するという考え方と思われます。これは日本の「血統主義」にたいして正当な前進を示すものと思われるからです。

III-1(2)-(1)AID(提供精子による人工授精)

 AIDに関しての項目であるが、この記述にはまったく反対です。
 理由1 すでに過去50年を超える「実績」があるわけで、そうするとこの50年間のきちんとした 「総括」を行うべきです。(2)は全般的に技術的に問題がないということが前提になっていると思われますが、この丸2で「6つの基本的考え方に照らして」とあるが故に少なくともこの報告が「子供の親」を「法律上の親」として確定し「子どもの法的身分」を安定させることが下で主張されるわけであり、こういう問題を含んでいるのではないでしょうか。「特段問題があるとは言えない」などと安直な文章で済ませるべきではありません。少なくとも「法的身分」の動揺性をペンディングしたまま進めてきた医師群の責任をきちんとさせるべきではないか。
 そうでなければ、既成事実を作ってからそれを検証することなく承認させるという形に歯止めがかからなくなるのではないか。
 理由2 さらに問題なのは、AIDで産まれた子供たち(すでに50歳を超えている)の追跡調査、AIDで問題が生じないのかどうか、を検証することがなされていないことです。それぬきに「特段問題がない」と言えないのではないでしょうか。
 とりわけ、「養子縁組」ではそういう研究も行われていることを考慮に入れると、AIDで産まれた子供に関してもこのような研究ができないことはないのではないかと思います。

III-1-(2)-(2)、(3)体外受精について

 精子提供、卵子提供の「体外受精」に関しても世界的には1978年以後のことであるとしてもすでに23年経っているわけであり、技術的な問題についての検証、あるいは、子どもの成長・及び子どもの権利(すなわち子どもの福祉)にかんする検証が「体外受精」に関してなされていないことは重視すべきです。
 したがって「特段問題がない」というような文章ではなく、やはり追跡調査のような研究が行われていない現実にたいして厳しい態度を取るべきです。認めるにしてもやはり、きちんとそういうプロジェクトを他面で進める必要があるのではないしょうか。
 また次の(4)で始めて「凍結卵子による体外受精が技術的に確立されておらず、」と技術的な問題に言及していますが、「体外受精」そのものが、その技術的な検討抜きに承認されるのははなはだ疑問です。
 なお「人工授精」及び「体外受精」がどの程度の成功率を持ち、どのような影響を夫婦に与えるかに関しての言及がないのは問題です。少なくとも「専門委員会」でAID及び体外受精にかんする聞き取りを行ったわけであり、そういう不妊治療そのものの厳しさに関して言及しないのは、あたかもこれらの不妊治療を受ければ子どもがもてるというような幻想を与えかねないものです。
 本報告書が、不妊治療を推進するという「意図」のもとで作成されている印象を与えるのは問題ではないかと思われます。むしろ、子供が産まれないと言う「夫婦」のあり方にたいして、選択肢はいくつかあるわけですから、それらの選択しにニュートラルな報告になるようにすべきです。

III-1-(2)-(4)

 余剰胚の使用に関しては、もっと慎重な取り扱いが必要です。また例外として、「精子・卵子の提供を受けて得られた胚の移植」を認めるとなっていますが、卵子提供が女性の体にたいして甚だしい影響を与えることを考慮すると、これは認めるべきではないと思われます。さらに注意すべきは「胚の地位」の議論はまったく日本で話されておらず、それが未決着の課題であるということです。
 余剰胚に関しては「研究利用」の射程に入ってきていることがあります。ですから、ここで「不妊治療」に関してのみと限定したとしても、他人のために利用することを認めたとすれば、親の同意があれば、ほかに利用できると言うことになってしまい、なし崩しに「研究利用」まで進んでしまう可能性を含みます。これは本意見書の最初に述べた「包括的な議論」を回避して進めてきた危険性を象徴するものではないでしょうか。
 さらに言えば、次の項目で、サロゲートマザーを禁止する理由は、「ヒトをもっぱら生殖の手段として扱ってはならない」、「安全性に十分配慮する」「生まれてくるこの福祉を優先する」の三つが記載されています。これは、結局この方法の場合に生じてくる倫理的問題が生じてくると言うことから許容されないと言うことだと考えられます。そうであるとするなら、受精卵、卵子の提供の場合も、同じ問題が生じてきます。たとえば、産まれてきた子供が障害を持っていたらどうなるのでしょう。もちろんこの場合、提供された親が引き受けるべきですが、このとき、この障害が遺伝的なものなのかどうか、結局は胎児診断が行われることになるのではないでしょうか。そして最終的には、胎児診断から胚の診断への道が開かれていくことになるでしょう。不妊治療を受けている人自身がその結果を利用しないと言うことはあり得ないでしょう。このときこそ、まさに「人をもっぱら生殖の手段として取り扱うことになる」のではないでしょうか。

III-1-(2)-(5)

 賛成
 理由は上記と同じ。

III-1-(3)

 卵子・胚の提供に関しては、きわめて影響が大きいことを考慮に入れて禁止すべきであろう。
 理由1.上述の通り
 理由2.この案では、胚の移植は、そうでなければ妊娠できない夫婦に適用するとしながら、「卵子の提供を受けることが困難である場合」にも適用でき、さらには「余剰胚」の提供を容認することを足場に、「精子・卵子両方の提供」による胚移植も容認するとしておりますが、ここに「生殖補助医療の推進」の立場からの便宜主義的な主張に思われます。

III-1-(3)-(3)

 「精子・卵子・胚を提供する場合には匿名とする。」
 これは、提供者と提供を受ける人の間での「匿名性」の確保と言うことに限定すべきです。
 三つ目の○に関しては、これは少なくとも報告書はこういうことを言う学問的な権利を持っていないと考えます。なぜなら、先に述べたように、ここで述べられた認識を前提にして一切の検証を怠っている「人工授精」「体外受精」に関して厳しい反省を行っていないからです。
 少なくとも子どもの方が自己の出自を知らないが故の自己喪失感を持つこと、あるいはルーツをさがそうとすることはすでに「養子」問題の側から報告されている。こういう点に関して、検証を抜きにして、進められたのがこの専門委員会の議論であったことを忘れてはならないでしょう。
 さらに言えば、「その子や当該精子・卵子・胚を提供した人の家族関係などに悪影響を与える」云々とされているが、「その子」と「提供者」とを対等に並べるのは、きわめておかしいのではないか。「その子」は通常の親子関係と同様に何らの同意も抜きにそういう決定をされているわけで、それに対して「提供者」は説明を受け同意 しているわけであり、自己責任の問題が生じると思います。
 少なくともここの(3)において「子どもの出自を知る権利」を制限する根拠は「提供者のプライヴァシー」の問題と「ドナー減少」という生殖医療を進める側の論理であって、子どもに即して、子どものうちに根拠を持っていないと言えるでしょう。そうすると「子どもの出自を知る権利」を制限する正当性はないと言わねばならないの ではないでしょうか。責任のある側が責任を免れようとする論理でしかないので はないでしょうか。その意味で、この「子どもの出自を知る権利」を否定する論理は成り立たないのではないでしょうか。通常の親子関係、そして「特別養子縁組」による子どもも「子どもの出自を知る権利」は守られています。そのなかで不妊治療によって産まれた子供だけはこの権利を否定されるというのは、きわめて差別的な処遇と言わねばなりません。それを法によって正当化することは、きわめて危険な状況を生み出すのではないかと思います。
 そして不妊治療を受ける親、提供者だけがこのような特権的地位を与える根拠はないだろうと思われる。少なくともこのような「特権的な扱い」の正当性はどこにも示されていないのではないとおもわれます。
 まして今日「自己情報コントロール権」という積極的な「プライヴァシー権」も主張されている時代です。そうすると生殖補助医療技術によって産まれた子供もままたこの権利を正当に認められるべきではないかとおもわれます。それを「提供者のプライヴァシー」の名の下に否定することは、結局「自己の出自」ついて自分は知らないけれども医師と提供者(あるいは医師だけ)は知っているという奇妙な事態を現出することになります。これは甚だしい人権侵害であるとおもわれます。
 積極的に提案すれば、「子どもの側が一定の年齢になれば、知ろうとすれば知りうる条件を作っておくこと」が必要で、この子どもの親には子供の生物学上の親を知る権利を否定すること、また子どもの法律上の地位を確定しておくことで十分に「子どもの権利」を否定することなく「ドナー」をも守れるのではないかと思われます。

III-1-(3)-(4)

 まったく反対。不整合の最たるものです。
 これはまったく憤りを感じるものです。これではあまりに何とか不妊治療のを促進したいという動機だけが根拠となっているものでしかないということを述べるようなものです。
 理由は、(3)で、「子どもの出自を知る権利」を否定してまで守ろうとした「ドナーのプライヴァシー」が簡単に否定されてしまうようなこの項目は何なのでしょう。
 まったくレシピアント-ドナー間の匿名性あるいは、「商業化」を否定する報告にもかかわらず、特別の力が働く(ましていまだ個人の独立よりも家族の維持の方に比重がかかる文化状況を払拭できていない)日本の国でこんなことをやれば、まったくプライヴァシーは守られないし、家族関係破壊につながるだろうと思われる。まして女性をもののように扱う事態が現出するだろう。
 これは「人間の尊厳」という基本的な考え方、そして人権にたいして、きちんと認識し直して再検討すべきです。
 理由2。○を4つも使ってこの場合の弊害を述べながら、あっさりと「十分な説明・カウンセリング弊害の認識」などと言えるならば、これはそもそも生殖医療技術の前提とされた「ドナーのプライヴァシー」など完全に吹っ飛んでしまうのではないか。それだったら、「ドナーに」きちんと「十分な説明・カウンセリング・来るべきリスク」を説明して、「匿名性」などはまったく必要なくした方が筋が通っていると言えるだろう。

III-1-(3)-(7)カウンセリングの機会の保障

 この位置に「カウンセリングの機会の保障」とあるのはこのカウンセリングをすでに「不妊治療」を促進するためのカウンセリングと方向づけてしまっているようなものです。
 すでに述べたことでもありますが、本来この報告書は、不妊治療にたいして「ニュートラルな報告」になるべきであると考えます。
 そうしますと、この場合、カウンセリングの第1義的な課題は、まず子供が産まれない夫婦にたいして不妊治療を勧めるのではなく、「子供が産まれない」という自体にたいしてその夫婦がきちんと自分たちで立ち向かうことを支援することにあると思います。
 そのうえで、不妊治療というのはそのような夫婦にとっての一つの選択肢でしかないということをきちんと踏まえたカウンセリングになると思います。簡単にいって、選択肢としては「子どもがいない二人」として自らの人生を形成していく、第2に、「養子縁組」をする、第3に不妊治療を行う、ということになると考えます。
 そういうカウンセリングが何よりもまず必要なのではないでしょうか。
 そのうえで、それぞれの夫婦の選択肢に即してのカウンセリングが必要になることでしょう。ですから、一番最後に「カウンセリングの機会の保障」が置かれるのではなく、不妊治療の一番最初にこれが位置づけられることが必要ではないかと考えます。
 もちろん、こう言いますと、これは「精子、卵子、胚……」の提供に関する報告書なのだからといわれるかもしれません。しかし、この「生殖補助医療技術」専門委員会は、当然そのために、Iで述べられているように「促進」が課題ではないはずである「適性」に行われることが課題のはずです、その点で、このカウンセリングに関しては述べております。
 そしてこの項目の「専門団体などによる当該生殖補助医療に関する専門知識を持つ専門カウンセラーの認定制度が創設され、そうした専門カウンセラーの育成が推進されることが望まれるところである」とされておりますが、この推進は重要であり、上のような視角から推進されるように望みます。

III-1-(3)-(8)精子・卵子・胚を提供する人の個人情報の保護

 保留ただし、囲み内の「公的管理運営機関」の設立は賛成です。
 理由1。「卵子・胚」に関しては先に述べた意見に基づき、これを入れた形に関しては保留せざるをえません。
 理由2。「精子・卵子・胚を提供する人のプライバシーが守られなければ、当該生殖補助医療のための生殖補助医療のための精子・卵子・胚の提供の減少を招き、当該生殖補助医療の実施を実質的に困難にする恐れがある」
 これは「個人情報」の「適正な管理」の理由にはならないのではないでしょうか。そもそも「提供者のプライバシー」という観点からだけならば、提供した後でただちに廃棄すること、あるいは「個人情報」は提供しないでもらい、「精子」だけを提供してもらうことがもっともよいわけです。実際のところ個人情報抜きの「精子提供」では何故いけないのでしょう。「プライバシー」にとってもっともよい手段だと思うのですが。おそらくここでそれではそういう「精子」を受け取る夫婦がいなくなるという「生殖補助医療技術を担う医師」が登場するはずです。これが結局この報告の理由になってしまう印象を与えてしまいます。
 「提供者の個人情報」を提出させ保存管理する理由は、このような「生殖補助医療技術の促進」と言った観点や「提供者のプライバシー」と言った観点ではなく、この「個人情報」に関する(8)、(9)でほぼ完全に無視されている「出自を知る権利」との関係で 初めて問題になると思います。
 そして「守秘」の根拠は子どもの権利の側から基礎づけられるべきではないかと思います。つまり養子縁組もまたそうですが、子どもの両親は誰なのかということは子どものプライバシーにはいるわけです。そうすると「子どもの許可」なくして、「同意」なくしてプライバシーを暴露することは許されないことになります。それは「子どものプライバシー」「子どもの権利」を侵害するからです。
 どうも議論が反対になっているように考えます。

III-1-(3)-(9)精子・卵子・胚を提供する人の個人情報の提出・保存

 これも保留です。ただし保存および「公的管理運営機関」の設立は重要であり、必要だと考えますので、賛成です。「卵子・胚」に関しては上述しましたように反対ですので、そういう意味も保留には含んでおります。
 賛成・保留の理由は理由付けが逆だはないかと考えます。(8)、(9)、は(「子どもの出自を知る権利」を含め)論理展開が逆ではないかと考えます。すなわち「子どもの(出自を知る)権利」の問題があるがゆえに、提供者の個人情報の提出が必要であり、かつ保存すべきなのだと考えます。そのうえで、「提供者の権利・プライバシー」の問題が来るのではなく、「子供の親」は誰なのか、が問題となり、そこで親子関係が確定するとすれば、「提供者の権利・プライバシー」はどのように守られるべきかという議論が来ると考えます。ですが、この報告書では逆の展開をしておられますから、保存・管理なども正当性を持たなくなってしまうことになり、むしろ「生殖補助医療技術」を施行する医師の願望・欲望が前面に出てきてしまっていると考えます。
 こうなりますとこの「医者」とは何ものなのでしょうか。自分だけを安全なところに置いてお金儲けする集団のごとき印象を与えてしまいます。
 しかし、この「個人情報」に関する(8)、(9)に関してまったく「子どもの出自を知る権利」に関しては触れられておりません。これでは、ここの議論の正当性を与えることができないと考えます。

III-2-(1)

 賛成
 ただし、「胚、卵子の提供」に関しては先の1に関する意見を前提にしております。
 理由は「商業主義」の否定の観点からです。

III-2-(2)-(1)

 保留
 少なくとも現在「胚」、「卵子」の提供までを承認する方向をとろうとするからこれだけ複雑な書き方をせざるをえないと考えます。
 ですが、そもそも「卵子」、「胚」の提供がかなりの問題を含み、まして「胚」に関しては「いつから人間か」の議論そのものを回避したところで進んできていることを考慮に入れるなら、「精子提供」だけに限って(これもすでに述べたように問題を含みます)、法的な規定もすっきりと「生んだ女性」が母親、「その夫が父親」として「親子関係」を確定し、現実に産まれてきている子供の地位をはっきりさせて守ることが重要だと考えます。

III-2-(2)-(2) 出自を知る権利

 反対

 理由1。「提供者のプライバシー」とは「子どもの自己情報コントロール権」の一部を構成することになるわけで、「知る」ことに関しては、子どもの権利を制限することは正当性を欠いていると考えます。

 理由2.少なくとも「子ども」はおしなべて生まれてくることを自分の判断で行うことができないわけです。しかし「提供者」は提供するか田舎の判断は、彼の自由の範囲にはいるわけです。そうすると自由の実現が提供となるわけで、そうすると当然行使した自由の責任として彼が親であることを「自分の自由の権利の実現の行使」の結果にたいしてとるべきです。それを自らの自由とは無関係に生み出された子どもの法に責任を押しつけるのは頂けません。

 理由3.「生殖補助医療の実施を実質的に困難にしかねない」と言うことが理由に挙げられるに至っては、あまりに「子ども」を犠牲にしながら、成人者が自分の自由を行使するということになるのではないでしょうか。
 この「報告書」は実際理由3があまりにも前面に出すぎるものだと思います。もっとニュートラルな報告にすべきです。

III-2-(3)、(4)体制の整備など

 この点もまた「子どもの権利」を中心に体制をつくるというように整理し直すべきです。
 最後になりますが、専門委員会の先生方が、2年以上の年月をかけて議論された努力には敬意を表させていただきます。しかし、現在「子どもの虐待」など子どもの置かれている情況があまりにもひどい状況を報道されております。
 そういう子ども、新しい日本の未来を担うべき子どもたちの将来にかかわる問題だと思います。そうしますと子どもの置かれている現実をもう一度再調査され、とりわけ、「非配偶者間人工授精」によって生まれてきた方々の聞き取り調査などももうできる状況にあるのではないかという気がします。実際養子縁組の場合にはそういう方々が発言をし始めていることもさまざまな本などで目にしますし研究書も出されております。
 「生殖補助医療技術」で子供を作られた方々に関しては、報告も一部なされております。しかし、ドナーになった方々、それによって生まれてこられた方々に関して本当に調査することは不可能なのでしょうか。
 そこからもう一度やり直されることを望みます。


受付番号:31
受付日時:平成13年5月1日
年齢:28歳
性別:女性
職業:不明
氏名:不明
所属団体:不明
この問題に関心を持った理由:不明

御意見

専門委員様

 「第三者からの精子・卵子の提供について」

 私は28才の女性です。結婚して3年ほどになります。
 子供をもうけたいのですが、病気のために卵巣の機能がなく妊娠するためには卵子の提供を受けなければなりません。アメリカへ渡って卵子提供を受けようか真剣に考えていましたが、昨年12月の報道によると第三者からの精子・卵子の提供が認められるとのことで迷っています。多額の費用がかかることもありますが、やはりコーディネートしてくれる会社やアメリカの病院が本当に信頼がおけるかどうか大きな不安があるからです。それ以前にそもそも人の命に手を加えていいのか、養子をもらうとか、2人での生活を楽しむことを考えようかとか、もし子供を産めてもDNAは受け継がれないんだなど、いろいろ思いを巡らしましたが、やはり子供を産みたいのです。
 日本で実施されるようになるまで約3年ほどかかるとのことですが、不妊に悩む女性にとってはたいへん長い年月です。
 もちろん慎重に検討していただく必要があると思いますが、一日も早く日本で実施されるようになることを切にお願いします。
 本当によろしくお願いします。


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