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血液製剤のウイルスに対する安全性確保を目的とした核酸増幅検査(NAT)の実施に関するガイドラインについて

血液製剤のウイルスに対する安全性確保を目的とした核酸増幅検査(NAT)の実施に関するガイドラインについて
(平成16年8月3日)
(薬食発第0803002号)
(日本赤十字社社長あて厚生労働省医薬食品局長通知)

 血液製剤のウイルスに対する安全性確保を目的とした核酸増幅検査(NAT)の実施については、これまで「血漿分画製剤のウイルスに対する安全性確保に関するガイドラインについて」(平成11年8月30日付け医薬発第1047号貴職あて厚生省医薬安全局長通知)の別添「血漿分画製剤のウイルスに対する安全性確保に関するガイドライン」の「3.1 工程前検査」において、ミニプール血漿及び原料プール血漿におけるHCV、HBV及びHIVに対するNATの実施について規定するとともに、「生物学的製剤基準の一部を改正する件」(平成12年厚生省告示第427号)及び「生物由来原料基準」(平成15年厚生労働省告示第210号)第2血液製剤総則において、血液製剤の原材料として用いる血液について、B型肝炎ウイルスDNA、C型肝炎ウイルスRNA及びヒト免疫不全ウイルスRNAに対するNATを行うことを義務付けてきたところである。
 今般、血液製剤の安全性確保を目的としてNATを行う場合において適切な精度管理が実施されるよう、検査精度の確保及び試験方法の標準化のための方策等に関する基本事項を示すため、平成16年7月7日(水)に開催された平成16年度第1回薬事・食品衛生審議会血液事業部会において、標記ガイドライン(別添)が取りまとめられた。
 ついては、今後、生物由来原料基準に規定されるNAT並びに「医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理規則」(平成11年厚生省令第16号)第7条及び「医薬品及び医薬部外品の輸入販売管理及び品質管理規則」(平成11年厚生省令第62号)第4条に規定する品質管理基準書におけるNATの実施に関する手順は、本ガイドラインに規定された方法を遵守するよう、貴職におかれても御了知の上、貴管下製造所に対し周知徹底願いたい。
 なお、標準品の所有者は国立感染症研究所であるが、その配付については現在保管している埼玉県赤十字血液センターから必要量を送付することとしたので、別紙申請書に必要事項を記入し、当局血液対策課あて必要量を提示願いたい。また、上記部会においては、今後定期的にNATの品質管理に係るコントロールサーベイを実施することとされており、具体的な方法については、同課を中心として今後検討を行う予定であるため、当該サーベイの実施に当たっては協力方願いたい。


血液製剤のウイルスに対する安全性確保を目的とした核酸増幅検査(NAT)の実施に関するガイドラインについて
(平成16年8月3日)
(薬食発第0803002号)
((社)日本血液製剤協会理事長あて厚生労働省医薬食品局長通知)

 血液製剤のウイルスに対する安全性確保を目的とした核酸増幅検査(NAT)の実施については、これまで「血漿分画製剤のウイルスに対する安全性確保に関するガイドラインについて」(平成11年8月30日付け医薬発第1047号貴職あて厚生省医薬安全局長通知)の別添「血漿分画製剤のウイルスに対する安全性確保に関するガイドライン」の「3.1 工程前検査」において、ミニプール血漿及び原料プール血漿におけるHCV、HBV及びHIVに対するNATの実施について規定するとともに、「生物学的製剤基準の一部を改正する件」(平成12年厚生省告示第427号)及び「生物由来原料基準」(平成15年厚生労働省告示第210号)第2血液製剤総則において、血液製剤の原材料として用いる血液について、B型肝炎ウイルスDNA、C型肝炎ウイルスRNA及びヒト免疫不全ウイルスRNAに対するNATを行うことを義務付けてきたところである。
 今般、血液製剤の安全性確保を目的としてNATを行う場合において適切な精度管理が実施されるよう、検査精度の確保及び試験方法の標準化のための方策等に関する基本事項を示すため、平成16年7月7日(水)に開催された平成16年度第1回薬事・食品衛生審議会血液事業部会において、標記ガイドライン(別添)が取りまとめられた。
 ついては、今後、生物由来原料基準に規定されるNAT並びに「医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理規則」(平成11年厚生省令第16号)第7条及び「医薬品及び医薬部外品の輸入販売管理及び品質管理規則」(平成11年厚生省令第62号)第4条に規定する品質管理基準書におけるNATの実施に関する手順は、本ガイドラインに規定された方法を遵守するよう、貴職におかれても御了知の上、貴会会員に対し周知徹底願いたい。
 なお、標準品の所有者は国立感染症研究所であるが、その配付については現在保管している埼玉県赤十字血液センターから必要量を送付することとしたので、別紙申請書に必要事項を記入し、当局血液対策課あて必要量を提示願いたい。また、上記部会においては、今後定期的にNATの品質管理に係るコントロールサーベイを実施することとされており、具体的な方法については、同課を中心として今後検討を行う予定であるため、当該サーベイの実施に当たっては協力方願いたい。



(別紙)
核酸増幅検査用標準品交付申請書


 品名
 数量
 交付を必要とする理由



下記の書類を添付して上記のとおり交付を申請します。
 1. 病原体取扱い規則コピー  2部
 2. 取扱い責任者の氏名及び取扱い場所の配置図(別添)  2部



確認事項
 上記理由による使用のみに限定し、また、他への譲渡はしないこと。
 感染事故等の危険があるので、使用、保管、廃棄等における取扱いには十分注意すること。また、感染事故等が発生した場合の対応は、取扱い責任者の責務とし、事前に対応方針を決めておくこと。
 廃棄する場合は、法令に従って適切に処理すること。


上記のことを 確約します。
 
平成  年

  月  日

住所(法人にあっては、所在地)

氏名(法人にあっては、名称及び代表者の
氏名)
 



厚生労働省医薬食品局血液対策課 御中



(別添)


使用施設所在地

使用施設及び室名

使用施設の概略図(安全キャビネットとオートクレーブの設置場所を明示すること)






設備(安全キャビネットの形式及びクラス等)


供与された標準品を使用する施設について、上記のとおり相違ありません。

平成  年  月  日

使用施設(又は室)管理責任者

役職名  氏名              印

標準品受け取り責任者(取扱い責任者)  氏名              印



血液製剤のウイルスに対する安全性確保を目的とした
核酸増幅検査(NAT)の実施に関するガイドライン

1. ガイドラインの目的及び適用範囲

 1-1)目的
 ウイルス遺伝子の検出法として用いられる核酸増幅検査(Nucleic Acid Amplification Test、以下「NAT」という。)は、目的とするウイルス遺伝子の有無を陽性又は陰性として判定する定性的な検査手法であり、数コピーから数十コピーのウイルス遺伝子の検出が可能とされている。特に、このような微量のウイルス遺伝子の検出が要求されるNATをスクリーニング検査として用いる場合、検出感度等に係る精度管理が適切に行われていることが極めて重要である。
 本ガイドラインは、血液製剤の安全性確保を目的としてNATを行う場合において適切な精度管理が実施されるよう、検査精度の確保及び試験方法の標準化のための方策等に関する基本事項を示すことを目的とするものであり、「血漿分画製剤のウイルスに対する安全性確保に関するガイドライン(平成11年8月30日付け医薬発第1047号)」を補完するものとして位置付けられるものである。
 なお、血漿分画製剤の製造工程におけるウイルスクリアランスを評価する場合や国際あるいは国内ウイルス標準品から自社の標準品を作製する場合など、ウイルス遺伝子の定量的な検出にもNATは利用されることがある。このため、本ガイドラインにおいては、NATは原則的に定性的な検査法として用いられるものとして記載しているが、必要に応じ定量的に用いる際に考慮すべき必要事項についても言及することとしている。

 1-2)適用範囲
 本ガイドラインは、国内で使用されるすべての輸血用血液製剤及び血漿分画製剤に係るドナースクリーニング検査、原料血漿の製造工程への受入れ時の試験、さらには必要に応じて行われる血漿分画製剤の製造過程における工程内管理試験や最終製品のウイルス検査としてNATを行う場合に適用されるものであるが、他のヒトあるいは動物から抽出した生物由来の医薬品についても参照することができる。また、対象となるウイルスは、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、C型肝炎ウイルス(HCV)及びB型肝炎ウイルス(HBV)とするが、その他のウイルスについても準用可能な点については参照することができる。

2. 検査精度の確保及び試験方法の標準化のための方策
 ウイルス遺伝子の検出を目的として定性試験であるNATを採用する場合、その分析法を検証するための重要な項目は特異性と検出感度の2点である。特に、プール血漿のスクリーニング検査にNATを採用する場合には、特異性と検出感度の確保はより一層重要なものとなる。特に、検査機関等において、NATを恒常的に実施し検査法として確立するには、ウイルス遺伝子の抽出、目的塩基配列の増幅、検出、定量、及びこれらを行うための機器の設定と試験に関する最適化した規格・基準を定めておく必要がある。
 さらに、NATの場合、分析条件の小さな変動が結果に大きな影響を与えることもあるため、分析法の頑健性についても、分析条件を小さい範囲で変化させても測定値が影響されないという信頼性を示すことで評価する必要がある。具体的には、塩化マグネシウム、プライマー、dNTPのような試薬の濃度を小さい範囲で変動させて最適な条件を求めるなど、試験する方法を確立していく過程で示すことができる。市販キットを用いる場合には、これらのデータについては、試薬製造メーカーのデータをもって代えることができる。
 具体的に頑健性を示すためには、陰性試料(目的とするウイルスが陰性のプール血漿、あるいは試験を行うのと同様の組成の試料)及び陽性試料(目的ウイルスが陰性の血漿プールあるいは試験を行うのと同様の組成の試料に検出感度(95%の確率で検出されるウイルス量)の3倍量のウイルスをスパイク(添加)したもの)を、それぞれ少なくとも20検体を用いて試験を実施し、すべての陰性試料が陰性となり、すべての陽性試料が陽性となることによって示すことができる。ウイルス遺伝子の抽出前に超遠心を使用する方法などでは頑健性に関して特に注意を払う必要がある。この場合、可能であれば目的とするウイルスに対する特異的抗体を持たないが目的とするウイルス遺伝子について陽性を認める複数の血漿を使用して試験することにより示すことができる。

 2-1)施設・設備の整備等に関する事項
 NATは、数コピーから数十コピーのウイルス遺伝子を検出できるため、増幅産物による汚染等に細心の注意を払う必要がある。このため、NATに用いる施設については、原則として下記の条件を満たしていることが望まれる。(*1
(1)  核酸抽出を行う場所
 可能な限り独立した施設ないしは設備を用いて行うこと。
(2)  試薬の保管場所及び試薬の調製場所
 可能な限り独立した施設ないしは設備を用いて行うこと。
(3)  核酸増幅を行う場所
 可能な限り独立した施設ないしは設備を用いて行うこと。
(4)  増幅産物の検出を行う場所
 増幅前の試料を取り扱う部屋と増幅産物を取り扱う部屋とを区別すること。

 また、NATでは、感染性のある標準品や陽性試料を取り扱うことから、試験・検査は、製造区域とは明確に区別された場所で行うことが必要である。

 2-2)機器,器具の保全、管理に関する事項
 ピペット、サーマルサイクラーの校正等、機器操作による検査結果の変動に関して評価を行うこと。この評価に加え、分析法全体の有効性と信頼性について評価を行うこと(システム適合性試験)。また、重要な装置(例えば自動抽出機やサーマルサイクラーなど)を何台か使用する場合、検査精度の確保及び試験方法の標準化に準じ各装置のバリデーションを行っておくこと。

 2-3)(被験)検体の移送・保管、試薬の保管・管理に関する事項
(1)  検体の移送・保管に関する事項
 検体の移送あるいは保管中の温度等がNATの結果に与える影響についてあらかじめ評価をしておくこと。また得られた結果に基づいて、移送や保存中の温度等について条件設定をしておくこと。
 また凍結保存を行う場合には、凍結融解がNATの結果に及ぼす影響について評価しておくこと。
(2)  試薬の保管・管理に関する事項
 核酸の抽出やNATに用いる試薬について、後述する品質確保の他、保存期間中の安定性について評価を行いその実測値に基づいて保存条件を決めておくこと。
 市販キットを使用する場合は、試薬製造メーカーのデータをもって代えることができる。(*2

 2-4)核酸の抽出・増幅及び増幅産物の検出に関する事項
(1)  抽出に関する事項
 スパイク実験等により、用いる抽出法について評価を行うこと。
 市販の試薬を用いる場合には、試薬メーカーによる解析結果をもって代えることができる。
(2)  プライマー及びプローブに関する事項
 プライマー及びプローブ(以下「プライマー等」という。)は核酸検出系の中心的役割を果たしており、その品質がNATの重要な要素となっている。このため、選択したプライマー等の科学的合理性を説明できることが必要であり、プライマー等の大きさ、GC含量、Tm値、想定されるヘアピン構造や2次構造についての情報を明らかにしておくとともに、次のような情報も明らかしておくこと。
 ・ 目的とするウイルス遺伝子(亜)型(ジェノタイプ)等(*5)への対処として、採用しようとしているNATが目的とするウイルスについてできる限り多くのサブタイプ/バリアントを検出できるようにデザインされていることを示す情報。
 ・ 検出しようとするウイルス遺伝子の最も共通する配列の選択等、どのように複数のサブタイプ/バリアントを検出できるようにしているのかを説明する情報。
 ・ 使用濃度等の条件設定に関する情報
市販の試薬を用いる場合には、試薬メーカーによる解析結果をもって代えることができる。
(3)  プライマー等の純度、ロット間差等の品質の確保に関する事項
 プライマー等の純度について適切な測定法を用いて解析し、解析結果を示すとともに、必要に応じてその規格値を定めておくこと。さらに、プライマー等の最適量について、段階的希釈法での検出能を指標とするなどして解析するとともに、ロット間の一定性についての情報や、複数のロットの合成プライマー等の特性解析結果やイールド等についての詳細な情報を明らかにしておくこと(*3)。なお、プライマー等の化学修飾を行う場合には、その詳細に係るデータを含む説明資料を作成しておくこと。
 市販の試薬を用いる場合には、試薬メーカーによる解析結果をもって代えることができる。
(4)  使用する酵素の品質の確保に関する事項
 NATに用いるすべての酵素について、その由来と機能を明らかにしておくこと。酵素の純度、力価,比活性について受入れ規格を定めておくこと。調製した酵素について、エクソヌクレアーゼ活性、DNA及びRNA依存性のポリメラーゼ活性等を明らかにしておくこと。市販の試薬を用いる場合には、試薬メーカーによる解析結果をもって代えることができる。

(5)  受入れ基準の設定
 試薬や反応液の受入れ規格を、適切な評価に基づいて作成しておくこと。

 2-5)試験の最適化と特異性の確認、非特異的反応の除去に関する事項
(1)  特異性の確認(目的とする遺伝子の検出)
 NATにおける特異性とは、試料中に共存すると考えられる物質の存在下で、目的とする核酸を確実に検出する能力をいう。NATの特異性は、プライマー等の選択、プローブの選択(最終産物の検出に関する)、試験条件の厳密さ(増幅及び検出工程の両方)に依存している。プライマー等をデザインする際には、用いるプライマー等が目的とするウイルス遺伝子のみを検出できるとする根拠を示せること。
 さらに、検出しようとする核酸の配列については、遺伝的によく保存されている配列が用いられる。検出しようとする核酸の配列、GC含量の程度、さらには長さなどについて科学的合理性を説明できる必要がある。また、複数種のジェノタイプを検出できる根拠を、説明できること。定量的なアッセイを行う場合には、プライマー等のデザインと定量のための標準品の性質について説明できること。(*4

(2)  交差反応性(非特異的反応)の除去
 類似ウイルスへの交差反応性の可能性についても特に注意すること。この場合、公開されているデータバンクにより、選んだ全ての配列をデータ検索する方法が有効である。さらに、解析に用いたソフト、解析条件についても説明できること。なお、多くの場合、通常プライマー等を設計する際には、遺伝的によく保存されているウイルス遺伝子の領域が用いられる。(*4

(3)  増幅産物が特異的である確認
 増幅した産物は、ネスティド・プライマーによる増幅、制限酵素による解析、シークエンシングあるいは特異的なプローブによるハイブリダイゼーション等の方法によって確実に同定できることを示すこと。
 NATにより目的とするウイルスの種々の遺伝子型を検出できる能力はプライマー等、反応条件に依存する。これは適当な参照パネルを使用することによって証明すること。
 分析法の特異性をバリデートするために目的とするウイルスについて陰性の血漿又はミニプール血漿を少なくとも100検体を試験し、陰性であることを確認し、記録を保存しておくこと。
 ・ ウイルス遺伝子(亜)型(ジェノタイプ)等(*5)に対する検出感度 複数のジェノタイプ等のウイルスパネルを用いて試験を行い、各ジェノタイプ等に対してどれほどの検出能があるか評価しておくべきである。ウイルスパネルの選択にあたってはウイルスの分布と流行に関する地理的な疫学データ等を参照すること。(*4

 2-6)検出感度に関する事項
(1)  検出感度
 検出感度とは、試料中に含まれる目的ウイルス遺伝子の検出可能な最低の量で、定量できるとは限らない量のことをいう。NATによるウイルス否定試験は通常定性試験であって、結果は陰性か陽性のいずれかである。NATでは95%の確率で検出される検体一定量あたりのウイルス遺伝子の最低量である陽性カットオフ値を検出感度として設定する。検出感度は、検体中のウイルス遺伝子の分布や酵素の効率のような因子により影響され、個々のウイルスNATでそれぞれの検出感度が存在する。

(2)  検出感度の求め方
 ・ 希釈系列の作製
 標準品の希釈系列を作製すること。希釈液の数を処理しやすい数にするためには、予備試験(例えば指数段階的に希釈を作製するなど)を行い予備的な陽性検出感度値(すなわち陽性シグナルが得られる最大希釈倍率)を決定する。希釈範囲は、予備的な検出感度値付近を選択する(希釈液として陰性血漿を用い、希釈率として0.5logまたはそれ以下を使用する。)。あるいはバリデートされた定量的NATを用いることも可能である。95%の確率で検出されるウイルス遺伝子の量は適切な統計学的な手法等により算出し、その妥当性について説明できること。
 NATにおいては、各試験の精度や感度を管理するためには標準品あるいは標準物質(参照品)が必須である。通常、NATの開発過程における、ウイルス濃縮、遺伝子の抽出、増幅、ハイブリダイゼーション、定量、汚染をモニターするための標準品又は参照品、ランコントロールを用いた解析を行う必要がある。
 ランコントロールにおいては、95%の確率で検出される検出感度の3倍量のウイルスを含む陽性コントロール(strikethrough:標準検体)を用いることが推奨される。試験では、この陽性コントロール(strikethrough:標準検体)は必ず陽性にならなければならない。このように陽性コントロール(strikethrough:標準検体)を用いることにより、各試験の成立をモニターすることが可能となる。

 ・ 3回以上の独立した試験の実施
 少なくとも3つの独立した希釈系列を用い、充分な回数の試験を繰り返し、各希釈段階での総試験回数が24になるように試験を実施する。例えば、3つの希釈系列を別々の日に8回行う、4つの希釈系列を別々の日に6回行う、6つの希釈系列を別々の日に4回行うなどである。これらの結果は試験法の日差変動を示す役目も果たしている。
 交叉汚染が防止できていることを示すために、陰性プール血漿と高い濃度で目的とするウイルスをスパイクした陰性プール血漿(濃度としては95%の確率で検出されるウイルス量の100倍量以上)を、少なくとも20検体をランダムに配置するなどして、試験することにより確認しておくこと。(*6

 ・ 使用する標準品
 (1)  国際標準品、
 (2)  国際標準品とのデータの互換性が保証された国内標準品
 (3)  国際標準品又は国内標準品とのデータの互換性が保証された自社標準物質等(参照品)
 等のいずれかを使用すること。

 2-7)判定基準の設定に関する事項
(1)  陽性及び陰性の判定基準の文書化
 陽性及び陰性の判定基準を文書化しておく必要がある。
(2)  再試験を行う時の基準及び判定基準の文書化
 再試験を行うときの基準、再試験での判定基準についても文書化しておく必要がある

 2-8)従事者の技術の標準化と向上に関する事項
 NATは、数コピーから数十コピー(*7)のウイルス遺伝子の検出が可能とされる高感度検査であるため、操作中の汚染やピペット操作や試験チューブの開閉等を含め従事者の技能がその試験の成否を大きく左右する。市販のキットを試験法の一部または全てに使用する場合で、キットの製造元で実施されたバリデーション資料がある場合はユーザーによるバリデーションデータに加えることができる。しかし、その目的に応じたキットの性能を示す必要がある。
 例えば、二人以上の者が試験を実施する場合、試験者ごとに、目的とするウイルスを、95%の確率で検出される3倍量の標準品あるいは標準物質等をスパイクした陰性プール血漿あるいは試験を行うのと同様の組成の陰性試料について試験を実施すること。この試験(8本の試験検体)を別々の日に3回繰り返すこと(すなわちのべ3日の試験により計24試験が実施されることになる)。その結果が全て陽性になることを確認し、結果を保存しておくこと。
(1)  作業手順の標準化と作業手順書の作成
 NATのような試験は、分析法のバリデーションや試験結果そのものが種々の要因の影響をうけ易いので、試験操作法を標準化し、正確な作業手順書を作成すること。作業手順書は以下の項目を含むものとする。
サンプリングの方法(容器の種類等)
ミニプールの調製方法
試験までの保存条件
交叉汚染やウイルス遺伝子・試薬・標準検体の劣化を防止するための試験条件の正確な記述
使用する装置の正確な記述
統計解析を含む結果の詳細な計算式

(2)  検査従事者を対象とした教育・訓練、技能検査の実施
 NATの恒常性を担保するには検査従事者の教育と技能向上が非常に重要である。NAT従事者に対して教育・訓練を行うとともに必要に応じて定期的にその技能検査を行うことが推奨される。

(3)  作業記録の作成、保管・管理
 作業記録を作成し、必要に応じ照会できるよう必要な期間にわたって適切に保管・管理を行うこと。

 2-9)汚染防止に関する事項
(1)  試験操作中の器具などを介した汚染の防止策
 試験操作中において器具などを介した汚染の防止策を講じておく必要がある。
(2)  着衣、履物等を介した汚染拡大の防止策
 着衣、履物等を介した汚染の防止策を講じておく必要がある。
(3)  増幅産物の飛散等による汚染の防止策
 増幅産物の飛散による汚染の防止策を講じておく必要がある。

3. 試験、検出結果の意義づけ
3-1)「陽性」と判定した結果の意義
 NATで「陽性」と判定した際に、取るべき手順を文書化しておくこと。
3-2)「陰性」と判定した結果の意義
 NATで「陰性」と判定した結果について、検出限界を考慮したその意義を考察しておくこと。また、他の事由から結果が偽陰性の可能性がでてきた場合、取るべき手順を文書化しておくこと。
3-3)必要とされる検出限界値*8について
 必要とされる検出限界値については、対象となるウイルス毎に別途に示す。

4. 新技術の導入に関する事項
 NAT及びNAT関連技術の進歩は急速であるため、可能な限り最新の科学的水準に基づいた技術導入を図ること。なお、その際には、導入される新技術について適切な評価を行っておくこと。



(付録)
【用語集】
 標準品
 国際的ないしは国内の公機関によって策定された国際標準品あるいは国内標準品
 標準物質(参照品)
 標準品に対して校正された標準となる物質



注意事項*1
 「原則として下記の条件を満たしていることが望まれる」とは、自動化された閉鎖系での抽出装置を用いるなど、交差汚染を防ぐ装置が用いられていたり、交差汚染を防ぐ適切な手段が採用されている場合などでは、そのような手段を用いることによって「下記の条件」を満たすことが可能な場合もあることを意味している。この場合、そうした対策の妥当性を説明するとともに、必要に応じて交差汚染防止が充分に成されていることを示すデータの提示が求められるであろう。言い換えれば下記の4条件を満たすようなどのような独自の対策とその妥当性を示すことによって、用いる施設や装置についてはケースバイケースで判断できるということである。

注意事項*2
 2-3)及び2-4)等で試薬製造メーカーのデータを提出することによって必要とされるデータに代えようとする場合にどの程度のデータが必要とされるかは採用しようとしている試験法等に依存するためにケースバイケースで判断する必要がある。しかし、少なくともガイドラインの趣旨に添ったデータが提出される必要があり、もし充分なデータが試薬製造メーカーによって提供されない場合には各申請者が必要なデータを作成しなくてはならないケースも想定される。また企業の知的財産等の関係で試薬製造メーカーから全てのデータが申請者に提出されない場合、診断薬等としてすでに承認を受けている場合には、その承認書に関するデータを試薬製造メーカーより直接規制当局へ提出するか、あるいはドラッグマスターファイルに準じた取り扱いが必要となると考えられる。但し、診断薬としての承認に必要とされるデータと血漿分画製剤のNATにおいて必要とされるデータは必ずしも同一ではない可能性があり、追加のデータが必要となることも考慮すべきである。

注意事項*3
 ここで述べられている詳細な情報とは、プライマー等の特性解析結果としての純度、最適量、ロット間の一定性等を含めた情報であり、さらにロット間のイールド等のデータも含めて情報を明らかにしておくことにより、イールド等がその基準に達しないときには製造されたプライマーの品質が何らかの問題がないか検討する必要性を指摘したものである。

注意事項*4
 2-5)試験の最適化と特異性の確認や2-6)検出感度はNATによるウイルス検出の根幹であり、市販試薬等でその製造メーカーからの情報ではその妥当性が立証されない場合が想定され、必要に応じて複数のウイルスジェノタイプ等の検出能や国内あるいは国際標準品を用いた検出感度の評価が必要になることもあると思われる。この点に関して、試薬製造メーカーからガイドラインで求められている程度に必要充分なデータが提供される場合には、それで代えることも可能である。

注意事項*5
遺伝子型の分類として、HBVとHCVではジェノタイプが、HIVについては主としてサブタイプという表現が使用されている。
ここでの記載の目的は、NATによるウイルスゲノム検出に当たって、ウイルスゲノムの塩基配列の差異によらずできる限り多くのジェノタイプやサブタイプを検出できることを示すことを求めているものである。従ってここでは、それらを全て包含することを目的として「等」としている。

注意事項*6
 陰性血漿とウイルスをスパイクした血漿を合わせて20本以上を適切な比率でならべて試験を行う。具体的な比率については自動化された機器をもちいるのか、用手法によるのか等によって異なると考えられる。

注意事項*7
 ここで述べる数コピーから数十コピーのウイルスゲノムの検出は、一般的なNATに関する情報を示すものであり、検出感度の設定に当たってコピー数での表示を求めるものではない。

注意事項*8
 NATによる検出感度について、安全技術調査会で議論を行いHCVについてはプール前の原血漿で5000IU/mLとするとの結論を出している。HBV、HIVについても別途定める必要がある。これらの検出感度については、プールサイズの変更、NATの技術進歩、周辺技術の改良等により適宜見直しをすることが必要と考えられる。従って、最新の科学技術の進歩に応じて柔軟に設定すべきものと考えられるので、指針本体ではなく別途定め通知するものとする。

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