厚生労働省

  • 文字サイズの変更
  • 小
  • 中
  • 大

ご覧の施策内容について多くの皆さまのご意見をお待ちしております。意見を送信する


このサイトは、2009年に発生した新型インフルエンザ(A/H1N1)に関する情報提供のために厚生労働省が制作し、新型インフルエンザ発生時の参考資料として当面掲載しているものです。
このサイト内で「新型インフルエンザ」と記載しているものは、基本的に新型インフルエンザ(A/H1N1)を指しており、掲載している情報も主に発生当時から2011年3月31日までのものであることにご注意ください。
インフルエンザに関する最新の情報は、2011年4月1日から厚生労働省ホームページのインフルエンザ情報サイト(https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/index.html)に順次掲載してまいりますので、以前の新型インフルエンザ対策関連情報サイトをお気に入り登録されている方は、ご変更をお願いいたします。

大阪府、神戸市における新型インフルエンザの臨床像 (第2報)

平成21年6月10日

新型インフルエンザ対策推進本部事務局

1.対象

(1) 大阪府

調査対象110例の内訳

A中学・高等学校:105名(※)、B小学校:5名

※ 以下は、A中学・高等学校のみについて記載する

A中学・高等学校:105名

・ 患者の年齢:12〜53歳(中央値:16歳)

・ 生徒103名(高校生99名、中学生4名)、教職員2名

・ 患者の性別:男性83名、女性22名 (男女比 1:0.27)

・ 入院の有無:入院加療18名、自宅療養87名(※)

※ 入院患者には入院先の病院にて対面調査を行い、自宅療養患者には学校側の協力を得て、調査票に基づいて担当教員による電話での聞き取り調査を行った。

(2) 神戸市

調査対象49例(※)の内訳

・ 患者の年齢:5〜60歳(中央値:17歳)

・ 患者の性別:男性23名、女性26名 (男女比 1:1.1)

・ 在院日数:1〜8日(中央値3日)

※ 5月25日までの神戸市内における確定例約150例のうち、神戸市内の2つの医療機関において入院フォローされた症例49例。対面、携帯電話、インターホン等を用いた聞き取り調査およびカルテ情報の閲覧により調査を実施した。

2.入院時の臨床像

(1)大阪府 

・ 80〜90%:高熱(38℃以上)、咳

・ 60〜80%:熱感、咽頭痛

・ 50〜60%:鼻汁・鼻閉、全身倦怠感、頭痛

・ 20%前後:筋肉痛、下痢(※第1報より増加:12.7%→19.8%)

・ 10%未満:腹痛、結膜炎、嘔吐

(2)神戸市

・ 約90%:高熱(38℃以上)

・ 60〜80%:倦怠感、熱感、咳、咽頭痛

・ 約50%:鼻汁・鼻閉、頭痛、筋肉・関節痛

・ 約25%:嘔気

・ 10%未満:嘔吐、下痢、結膜炎

※ 神経学的症状や異常行動を認めた者はいなかった。

3. 治療の内容

(1)大阪府(105名について)

・ 抗ウイルス薬の投与あり:101名(96%)

・ タミフル:62名 (59%)

・ リレンザ:37名 (35%)

・ リレンザからタミフルへの変更2名(2%)

・ 抗ウイルス薬の投与なし: 4名( 4%)

(2)神戸市 (49名について)

・ 抗ウイルス薬の投与あり:48名(98%)

・ タミフル:22名 (45%)

・ リレンザ:26名 (53%)

・ 抗ウイルス薬の投与なし: 1名( 2%)

4.臨床経過

(1) 大阪府

・ 105例全例が、肺炎、意識障害等の合併症がなく、重症化したと思われる症例はなかった。(※)

・ 臨床的に入院を要すると評価された症例はなかった。

(2)神戸市

・ 49例全例が、人工呼吸管理を行った症例はなく、死亡例も発生しておらず、重症化したと思われる症例はなかった。(※)

・ 臨床的に入院を要すると評価された症例はなかった。

・ 臨床上、肺炎を疑われた症例はなかったため、胸部レントゲンは撮影されていない。

※ 重症化した症例がなかったことについては、大阪府、神戸市ともに、今回の調査対象となった新型インフルエンザ患者のほとんどが若くて健康な10代男女であったことを考慮すべきである。

5.有症状期間の検討(90名について):大阪府のみ

・ 全体の平均有症状期間:5.0日間(1〜12日間)

・ 発症後2日目以内に抗ウイルス薬投与された62名の平均有症状期間:4.6日間

・ 発症後3日目以降に投与、もしくは未投与の12名の平均有症状期間:6.3日間

・ タミフル投与群52名の平均有症状期間:4.7日

・ リレンザ投与群34名の平均有症状期間:5.2日

6.基礎疾患の有無(49名について):神戸市のみ

・ 気管支喘息6名(12%)


新型インフルエンザの大阪府下の2つの学校における臨床像(第二報)

2009年6月5日時点における調査結果報告

国立感染症研究所感染症情報センター、大阪府

[はじめに]

前回、2009年5月20日までの調査結果から、大阪における2つの学校における新型インフルエンザ確定例の臨床像を提示したが、その後の調査により、更に明らかとなった知見について第二報として追加報告を行う。

[背景]

2009年5月中旬、兵庫県、大阪府において新型インフルエンザ患者の発生があり、両府県を中心に国内の患者報告数は6月1日現在で13都府県から371名となっている。大阪府内では6月1日現在までに政令指定都市である大阪市、堺市、中核市である高槻市を含めて158例の確定例の報告があり、内訳はA中学・高等学校での発生患者およびその関係者111名、同校との疫学的リンクが疑われる者28名、同校とのリンクが明らかではない集団発生13名(八尾市内の小学校関係者7名、大阪市内飲食店関係者6名)、孤発例4名、兵庫県での発生と関連のある者2名となっている。大阪での新型インフルエンザ患者発生報告の発端となったのは、A中学校・高等学校生徒の患者発生報告であり、その後5月中にみられた大阪府内の発生例の多くは、同校かまたは同校に関係するものであった。これらの疫学的関連については、現在詳細な解析を行っているところである。

大阪府内の高等学校、中学校を中心とした学校閉鎖等の対策により、上記5月中の大阪における患者発生数は急速に減少し、6月4日には、全ての患者の経過観察期間(発症日を0日目として発症後7日目まで)が終了した。6月以降これまでのところ、大阪府内の新型インフルエンザ発生報告は、海外からの帰国者のみとなっている。本稿では、前回A中学校・高等学校の64例、八尾市内のB小学校の5例に対する臨床像について呈示を行ったが、その後の調査により、A中学校・高等学校での発生例105例全例の臨床像の詳細が明らかとなったので、その他に得た知見と合わせて以下に報告する。

[A中学・高等学校の調査結果]

1.調査対象・方法:

A中学・高等学校の生徒1934名、職員143名において、2009年6月1日までに新型インフルエンザと確定診断された105名に対して調査を行った。

生徒103名(高校生99名、中学生4名)、教職員1名、非常勤職員1名

男性83名、女性22名

年齢中央値16歳(12-53歳)

全員に2009年4月以降の海外渡航歴はなし

18名の入院患者には入院先の病院にて対面調査を行い、87名の自宅療養患者には学校側の協力を得て、調査票に基づいて担当教員による電話での聞き取り調査を行った。

2.A中学・高等学校の特徴:

A中学・高等学校は大阪府茨木市内に位置する私立学校であり、中学校、高等学校を合わせると1900名以上の生徒が在籍している。生徒は北大阪地区、兵庫県西部等広範な地域から登校している。各学年によって校舎が分かれているが、食堂が高校・中学校共通であり、また約1500名の生徒が利用しているスクールバスは、学年を区別することはせず、ほぼ満員の状態で運行されていた。

3.事例経過:

ゴールデンウイークの翌週の2009年5月11日月曜日より、A中学・高等学校において高校2年生を中心に発熱者が目立つようになった。翌12日には2年生全体で20名の欠席者となった。翌13日には36名の欠席者となり、またインフルエンザA型に罹患している者が増加しているとの情報により、同学年は5月13〜15日の3日間に渡って学年閉鎖となった。5月15日になって、神戸市内の高校生が日本国内で初めて新型インフルエンザ患者発生例として報告されたことを受けて、5月16日にインフルエンザA型と診断されていた生徒への新型インフルエンザウイルスに関するRT-PCR検査の依頼が大阪府立公衆衛生研究所に対してなされ、同日、同研究所の検査結果が陽性であることが判明し、国立感染症研究所にて行われた確認検査でも陽性と確認された。感染拡大防止対策として、A中学・高等学校では、5月16日以降学校閉鎖することとなり、同校の生徒、職員からは、その後5月23日までに105例が確定診断され、報告されたが、以降の発生報告はなくなった。この結果を受けて、同校は2週間以上経過した後の6月1日に再開された。

4.臨床像について:

A中学校・高等学校の生徒および職員で、RT-PCR検査で新型インフルエンザ発生が確定した入院患者18名、自宅療養患者87名の計105名の臨床像を示す。入院か自宅療養かの区別は、臨床症状によるものではなく、患者数の増加に対応して途中から入院措置を必ずしも行わないこととした方針の転換に起因している。38℃以上の発熱は89.5%、咳は82.7%、熱感66.7%、咽頭痛65.4%、鼻汁・鼻閉59.6%、全身倦怠感57.7%、頭痛52.1%、関節痛34.0%、筋肉痛19.8%、下痢19.8%、腹痛6.6%、結膜炎6.4%、嘔吐5.3%であった(表1)。38℃以上の発熱は90%近くと最も高く、急性呼吸器症状の中では咳が80%を超えて高い頻度を示している。その他の急性呼吸器症状である咽頭痛、熱感・悪寒、鼻汁・鼻閉も60%前後の患者にみられている。下痢は19.7%と、前回の報告(12.7%)よりも大きく増加した。これは、症例数の増加により、新型インフルエンザ発生患者における下痢の頻度が米国等の報告(Emergence of a Novel Swine-Origin Influenza A (H1N1) Virus in Humans, New England Journal of Medicne: http://content.nejm.org/cgi/content/full/NEJMoa0903810)に近づいたとも考えられるが、今回新たに加えられた調査結果の中には、下痢の判定基準について統一されていないものも含まれている可能性があり、今後更に検討を要すると思われる。前回までの調査と同様であるが、ほとんどすべての症例が季節性インフルエンザに類似した臨床像を呈しており、重篤な状態となった患者はなかった。また、インフルエンザの典型的な症状である突然の高熱(38℃以上)で発症する例が多いものの、全ての発生例で高熱をきたすわけではなく、咳や咽頭痛等の急性呼吸器症状や、下痢等の症状が先行する場合もみられた。なお、2008/09年シーズンの季節性インフルエンザワクチンの接種歴について行ったアンケートでは、確定患者90名を含む学校生徒、職員774名から回答があり、接種歴ありと回答した者407名中の新型インフルエンザ確定例55名(罹患率13.5%)、接種歴なしと回答した者367名中の確定例35名(罹患率9.5%)であった。

5.治療:

105例全例が意識障害や合併症等なく、発病後の経過観察期間を終了した。治療薬については、確定患者105名中リン酸オセルタミビル投与62名、ザナミビル投与37名、入院によりザナミビルからオセルタミビルへの変更2名、抗インフルエンザウイルス薬の投与なし4名であった。投薬のなかった4名中、新型インフルエンザと判明した時点で症状が消失していた者が1名、および発病後6日目に診断された者が1名、投薬拒否1名、検査結果通知の遅れが1名であった。発熱以外の急性呼吸器症状も含めた有症状期間が明かな90名における検討では、その期間は平均で5.0日間(1〜12日間)であったが、発病後2日目以内に抗インフルエンザ薬を投与されていることが明らかな62名での平均有症状期間は4.6日であり、発病後3日目以降に投与されたか、未投与の12名の平均は6.3日であった。また、リン酸オセルタミビル投与群50名の平均有症状期間は4.7日、ザナミビル投与群34名では5.2日であった。

[八尾市内のB小学校の調査結果]

1.調査対象・方法:

B小学校の生徒で、2009年5月18日までに新型インフルエンザと確定診断された5名に対して調査を行った。患者は全て自宅療養であり、各家庭を訪問して対面調査を行った。

生徒5名

男子2名、女子3名

年齢:9歳1名、11歳3名、12歳1名

全員に特記すべき既往歴はなし

2.B小学校の特徴:

大阪府八尾市内に位置する市立の小学校であり、生徒数は624名である。

3.事例経過:

大阪府内で海外渡航歴のない新型インフルエンザ患者が発生し、警戒が続けられていた。5月16日に発熱で休日診療所を受診した小学校6年生の女児がインフルエンザ迅速抗原検査にてA型陽性と判明してザナミビルが処方されたが、その後同女児から採取された検体に対して新型インフルエンザウイルスに関するRT-PCR検査が大阪府立公衆衛生研究所にて実施され、5月17日に新型インフルエンザ陽性と判明した。また、その後、同小学校の新型インフルエンザの確定患者は増加し、5名となった。

4.臨床像について:

小学生の集団発生は現時点では日本国内ではまだ少ない。咳、咽頭痛、熱感・悪寒は全員が経験していた。全身倦怠感は80%、頭痛80%、咽頭痛、鼻汁・鼻閉、関節痛はそれぞれ60%に認められた。下痢、腹痛、嘔吐等の消化器症状は認められなかった(表2)。調査対象者数は5名と少ないものの、重篤な状態となった患者はなく、診断・治療後には比較的速やかに解熱していた。また、2名は急性呼吸器症状が数日間先行した後に38℃以上の高熱を呈していた。

5.治療:

抗インフルエンザウイルス薬として2名がリン酸オセルタミビルを、3名がザナミビルを処方されていた。異常行動や意識障害をきたした症例はなく、抗インフルエンザウイルス薬を投薬後比較的速やかに解熱等諸症状の改善を認めていた。発熱以外の急性呼吸器症状も含めた有症状期間は平均で6.7日間(3〜9日間)、発症後2日以内に抗インフルエンザ薬を投与された4名の平均有症状期間は6.2日であり、発症後3日目に投与1名の有症状期間は9.0日であった。

[インフルエンザ迅速抗原検査について]

大阪府内の確定患者158名の内で、患者本人への直接の聞き取り調査等によって詳細が明らかとなった35名のインフルエンザ迅速抗原検査結果を表3に示す。全体の陽性率は77.0%であり、発症日から1日後の陽性率が82.4%と高く、発症日は75.0%、2日後は60.0%であった(表3)。

[まとめ・考察]

・A中学・高等学校の105名、B小学校の5名の110名は、全て意識障害や他の合併症等なく、臨床的に入院を要するとは評価されず、発病後の経過観察期間を終了していた

・38℃以上の高熱、咳・咽頭痛・鼻汁・熱感等の急性呼吸器症状はA中学・高等学校、B小学校の調査対象患者で共に高率に認められた

・検討症例数が105例と増加したA中学・高等学校の結果からは、前回の報告とは異なって下痢症状を呈した者が19.8%と増加した。米国等の報告に近いとも考えられるものの、腹部症状の発現率については、今後さらに詳細な検討が必要である。

・2008/09年シーズンの流行前に接種された季節性インフルエンザに対するワクチンは、接種時期の問題等もあり、正確な評価をすることは困難である

・多くは突然の高熱で発症しているが、中には急性呼吸器症状や腹部症状を前駆症状として数日後に高熱を発する患者も認められた。季節性インフルエンザでもそのような経過を認めることがあり、今回の新型インフルエンザでもこれと同様に様々な病態をとる可能性があることを示しているものと考える

・A中学・高等学校における検討では、抗インフルエンザウイルス薬を発症後2日以内に投与された群の方が、3日目以降に投与された場合よりも有症状期間が短くなる傾向が認められた

・インフルエンザ迅速抗原検査の検討例数も35例と増加したが、前回の報告と同様に、発症1日後では比較的高率に陽性を示し、次いで発症日、発症2日後の順であった

・検査キットの種類は不明であり、検体採取方法の検討もされていないため、インフルエンザ迅速抗原検査の新型インフルエンザスクリーニングに関する有用性は本検討では評価はできないが、少なくとも臨床現場で同検査が陰性であっても、新型インフルエンザを簡単には否定すべきではないと思われた

[謝辞]

本調査を実行するに当たり、全面的に協力をいただいた厚生労働省健康局結核感染症課、大阪府各保健所、大阪市保健所、堺市保健所、高槻市保健所、大阪市立総合医療センター、市立豊中病院、市立堺病院、関係教育機関等に深謝いたします。

表1.新型インフルエンザPCR陽性症例の症状
学園生徒・教職員の全陽性者
(N=105, 2009年5月11日‐5月31日発症)

38℃以上の発熱 94/105 89.5%
86/104 82.7%
熱感、悪寒、
38℃以下の発熱
66/99 66.7%
咽頭痛 68/104 65.4%
鼻汁・鼻閉 62/104 59.6%
全身倦怠感 56/97 57.7%
頭痛 50/96 52.1%
関節痛 32/94 34.0%
筋肉痛 19/96 19.8%
下痢 19/96 19.8%
腹痛 6/91 6.6%
結膜炎 6/94 6.4%
嘔吐 5/94 5.3%

表2.新型インフルエンザ確定症例の症状
M小学校(N=5, 2009年5月19日‐)

38℃以上の発熱 5 100%
5 100%
熱感、悪寒、
38℃以下の発熱
5 100%
咽頭痛 3 60%
鼻汁・鼻閉 3 60%
全身倦怠感 4 80%
関節痛 3 60%
頭痛 4 80%
下痢 0 0%
嘔気 0 0%
筋肉痛 3 60%
呼吸困難感 1 20%
嘔吐 0 0%
意識混濁 0 0%
痙攣 0 0%
結膜炎 0 0%

表3.新型インフルエンザPCR陽性例での初回インフルエンザ迅速診断キット使用成績(N=35)

  発症日 1日後 2日後 3日後
陽性 9 14 3 1 27
陰性 3 3 2 0 8
陽性率
(%)
75.0 82.4 60.0 100 77.0

神戸市における新型インフルエンザ臨床像の暫定的なまとめ(第二報)
- 2009年5月25日現在 -

国立感染症研究所感染症情報センター、神戸市保健所

本報告は、国立感染症研究所感染症情報センターホームページに掲載された『2009年5月20日 2009年5月19日現在の神戸市における新型インフルエンザの臨床像(暫定報告)』(http://idsc.nih.go.jp/disease/swine_influenza/2009idsc/clinical_epi_kobe.html)より、さらに情報を収集し、解析したまとめであり、第二報としての位置付けを有する。若干症例数を加えたことと、さらに経過を追う中で症状の推移を追ったこと、などが加わった点である。

背景

2009年5月16日、日本国内で初めてとなる新型インフルエンザA(H1N1swl)の最初の3例が神戸市によって報告された。その後、新型インフルエンザは、兵庫県北部や西部、あるいは近隣の大阪府にて検出が相次ぎ、2009年6月2日午前9時現在、国内で379例に上っている。本まとめは、5月25日現在まで神戸市内において確定例となり、入院にてフォローされた49例に対して対面式もしくは携帯電話、インターホンを用いて行った聞き取り調査およびカルテのレビューを行い、国内事例の臨床像に関する情報を提供し、新型インフルエンザの診療に資することを目的としている。

なお感染症法上、新型インフルエンザ等感染症は2類相当とされ、5月16日時点では、入院の上での治療を行うことが必要とされていた。そのため、新型インフルエンザ患者全例に対して、神戸市でも当初入院による治療が行われた。本稿においても、感染症法対象疾患として法的に入院を要したこれらの患者を対象としている。しかしながら、医療機関における対応病床が満床になるなどの状況が直ぐに発生し、かつ、臨床的に軽症である患者が多いことが示唆されたことから、5月18日より神戸市や大阪府などでは、臨床上入院を必要とする患者についてのみの入院へと切り替えた。5月22日に厚生労働省から出された「基本的対処方針」に基づく、「新型インフルエンザ患者の入院等の取扱いについて」によれば、重症者や基礎疾患を有する者等に入院治療の必要性を検討されることとなった。

本稿をまとめるにあたり、実際の患者の診療に多忙を極める、神戸中央市民病院、西神戸医療センターの全面的な協力をいただいた。

入院時における概要

患者属性・基礎疾患の有無

入院患者計49例に対して聞き取り調査を施行し、年齢中央値は17歳(5〜60歳)、79.6%が高校生であり、今回の感染の中心が高校生であったことが示唆された。男女比は1:1.1(23例:26例)であった。基礎疾患について呼吸器疾患として気管支喘息を挙げた者が6例(12.2%)、アトピー性皮膚炎を挙げたものが2例(4.1%)、アレルギー性鼻炎を挙げた者が1例(2.0%)あった。糖尿病、心疾患、免疫不全、悪性腫瘍などの背景を持つ者はいなかった。26例の女性の中で、妊娠の可能性があると答えた者はいなかった。

季節性インフルエンザワクチン接種歴および2008-2009年シーズンのインフルエンザ罹患

インフルエンザワクチン接種歴と冬のインフルエンザ罹患歴との関係をみたところ、情報の得られた43例中22例(51.2%)において昨シーズン(2008-2009年)前の季節性インフルエンザワクチンの接種歴が認められた。また、2008-2009年冬季のインフルエンザ罹患歴については、情報の得られた45例中4例(8.8%)が、インフルエンザに罹患したと患者本人が答えた。

臨床像

何らかの症状を呈してから入院するまでの期間は0〜7日(中央値 1日)であった。49例の症例の中で約90%(43/49)に38℃以上の高熱を認めた。また60〜80%と高頻度で咳(38/48)、咽頭痛(35/49)、倦怠感(34/43)、熱感(32/43)が認めた。筋肉・関節痛(27/49)、鼻汁・鼻閉(25/47)、頭痛(25/48)は約半数において認められた。嘔気(12/49)は約25%に、下痢(7/49)や嘔吐(6/49)の消化器症状は約10%弱に、結膜炎(3/43)は7%に認められた。神経学的症状や異常行動を認めた者はいなかった。(表2参照)

表2.
症状 症状の有無を確認しえた症例数 有症状者数 %
38℃以上の発熱 49 43 87.8%
48 38 79.2%
全身倦怠感 43 34 79.1%
熱感 43 32 74.4%
咽頭痛 49 35 71.4%
筋肉痛・関節痛 49 27 55.1%
鼻水・鼻閉 47 25 53.2%
頭痛 48 25 52.1%
吐気 49 12 24.5%
嘔吐 49 6 12.2%
下痢 49 7 14.2%
結膜炎 43 3 6.9%

臨床経過

入院患者49例中、経過中に38度以上の発熱が認められた43例に関して以下の2点を検討した((1)各症状の有症状期間、(2)38度の発熱を最初に認めた日を便宜的にDay0と定め、聞き取り調査およびカルテレビューにて、経過中発現および消失が同定しえた症状に関する出現日)。(1)および(2)のそれぞれについては情報を追跡しえた症例数が違うことにより、母数が異なっている。

それぞれの有症状期間に関しては、上気道症状、特に咽頭痛、咳は中央値が4日と38度以上の発熱に比べて長かった。一方、消化器症状は38度以上の発熱に比べ短かった。但し退院時に存在した症状についてはその後消失日について聞き取りが出来ておらず、有症状期間の長い者についての情報が一部抜けている。そのため最大値、中央値が過小評価されている可能性がある。

咳、咽頭痛は発熱より先行して認められる傾向があった。鼻汁・鼻閉は発熱出現日及びその翌日に多かったが1週間程度前より発症している例もあった。頭痛、筋肉痛・関節痛は発熱と同じ日に出現する傾向があった。消化器症状に関しては、嘔気は発熱出現日及び翌日に多かったが、嘔吐、下痢に関しては分散していた。本情報はあくまで38度以上の発熱がみられた日を中心に臨床症状を追ったもので、ウイルスへの曝露や感染の成立および発症などを示しえるものではないことに注意されたい。

(1) 有症状期間(図2)(38度以上の発熱がみられた43例において検討)
  症例数 中央値(日間) 分布(日間)
38°C以上の発熱 41 2 1-5
頭痛 15 2 1-4
鼻汁・鼻閉 13 2 1-3
咽頭痛 18 4 1-8
25 4 1-7
嘔気 7 1 1-2
嘔吐 4 1 1
下痢 4 1 1-2
筋肉痛・関節痛 12 1 1-4
(2)  38度以上の発熱の出現日と、発熱以外の症状の出現日(横軸)と発症者数(縦軸)の関係(図3)(38度以上の発熱がみられた43例において検討)
38度以上の発熱の出現日と、発熱以外の症状の出現日(横軸)と発症者数(縦軸)の関係(図3)

入院時の検査所見

データの得られた患者に関して入院時の代表的な検査所見をまとめた。末梢白血球 3200〜11400(中央値5100)/mm3(n=26)、CRP 0〜9.2(中央値1.2)mg/dl(n=28)、GOT 12〜64(中央値17)IU/dl(n=24)、GPT 7〜168(中央値11.5)IU/dl(n=24)、BUN 6〜15(中央値10)mg/dl(n=24)、Cre 0.53〜0.98(中央値0.76)mg/dl(n=24)であった。臨床上、肺炎を疑われた症例はなかったため、胸部レントゲンは撮影されていない。CRP高値、頻回の下痢と下腹部痛を認めた1症例があったが、後に便検体よりキャンピロバクターが検出された。この便検体からは新型インフルエンザウイルスは分離されなかった。

治療の概要

治療として、49例中48例に対して抗インフルエンザ薬が投与されていた。投与の内訳は、タミフル(オセルタミビル)が22例、リレンザ(ザナミビル)が26例であった。年齢群別にみると、9歳以下の1例にはタミフルが投与されていた。10歳代の40例に対してはタミフルが14例(35%)、リレンザが25例(62.5%)に投与され、非投与が1例(2.5%)であった。20歳以上の8例のうち、7例に対してタミフルが(87.5%)、1例にリレンザが投与されていた(12.5%)。発症から抗インフルエンザウイルス薬投与にいたる日数は0-4日(中央値 1日)であった。

38度以上発熱のあった43例においては全例が抗インフルエンザウイルス薬の投薬を受けていた(タミフル19例、リレンザ24例)。タミフル投与群における38度以上の有熱期間は1-4日(中央値2日)、リレンザ投与群は1-5日(中央値2日)であった。うち、投与日に関する情報が得られた41例について以下のようにまとめた。

タミフルを内服した19例の内、Day0(38度の発熱を最初に認めた日)に内服を開始した者が6例、Day1(Day0の翌日)に内服を開始した者が13例認められた。38度以下へ解熱するまでの期間は、Day0に開始した群では1-4日間(中央値 1.5日間)、Day1に開始した群では2-5日間(中央値 3日間)であった。

リレンザを吸入した22人の内、Day0(同上)で吸入を開始した者が11例、Day1(同上)に吸入を開始した者が10例、Day3(Day0の3日後)に吸入を開始した者が1例認められた。38度以下へ解熱するまでの期間は、Day0に開始した群では1-5日間(中央値 1日間)、Day1に開始した群では2-5日間(中央値 3日間)、Day3に開始した者では4日間であった。

入院適応

今回の調査での在院日数は1〜8日(中央値3日)であった。その多くは感染症法に基づく入院であり、患者の大半は入院を要する臨床状況ではなかった。実際5月18日より神戸市では、臨床上入院を必要とする患者についてのみの入院へと切り替えたところ、5月19日以降は5月25日までの時点で新規の入院例はなかった。6月2日現在、人工呼吸管理を要した症例は無く、また、死亡例も発生していない。臨床的な観点から大半は直ぐに退院となり、自宅における健康観察を行う対象となっている。長期的な予後については不明だが、現時点までの状況では、全例を入院させる医学的必要性はなかったことが示唆される。ただし、今回神戸市において臨床情報を追跡した症例数は約50と非常に少なく、また通常基礎疾患の少ない若年層に患者が集中していたこともあり、新興感染症である本感染症の臨床像全体を反映しているとは言いがたい。今後、コミュニティーなどに感染が伝播してくる状況の中では重症例の発生も必至であろうことから、注意深い情報の収集と対応が引き続き必要である。


トップへ