厚生労働省

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このサイトは、2009年に発生した新型インフルエンザ(A/H1N1)に関する情報提供のために厚生労働省が制作し、新型インフルエンザ発生時の参考資料として当面掲載しているものです。
このサイト内で「新型インフルエンザ」と記載しているものは、基本的に新型インフルエンザ(A/H1N1)を指しており、掲載している情報も主に発生当時から2011年3月31日までのものであることにご注意ください。
インフルエンザに関する最新の情報は、2011年4月1日から厚生労働省ホームページのインフルエンザ情報サイト(https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/index.html)に順次掲載してまいりますので、以前の新型インフルエンザ対策関連情報サイトをお気に入り登録されている方は、ご変更をお願いいたします。

別紙 3

新型インフルエンザ (A/H1N1)
積極的疫学調査実施要綱
(平成21年7月版)

平成21年7月22日


目 次

第1章 積極的疫学調査実施要綱
1.はじめに
2.調査の目的
3.調査の原則
4.調査の準備
5.調査する事項
6.調査の実際
7.調査の継続と終了について
8.その他(血清疫学調査について)
第2章 参考資料
1.感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律
2.患者滞在場所に対する環境整備・消毒について

第1章 積極的疫学調査実施要綱
1.はじめに

平成21年3月下旬よりメキシコや米国においてnovel Influenza A/H1N1(以降、新型インフルエンザ)のヒト感染例の発生およびヒト−ヒト感染事例の発生が相次いでおり、その後、他国において感染事例の発生報告が出てきており、世界各国へ感染が拡大している。このことを受けて、我が国において疫学調査に資することを目的として、新型インフルエンザの症例定義や、日本国内外におけるこれまでの発生例から得られた知見をもとにした積極的疫学調査実施要綱を作成することとした。

本要綱は、新型インフルエンザの感染拡大を可能な限り阻止し、本格的な流行の発生を抑制するための積極的疫学調査の実施方法について示したものである。本要綱が各公衆衛生機関等において、新型インフルエンザに関連する積極的疫学調査が必要な場合に参照され、有用な対策の実行に寄与することを願う。

なお、本要綱は平成21年7月時点の知見をもって改定したものであるが、今後、さらなる知見等の集積により、適宜修正する場合がある。

2.調査の目的

 積極的疫学調査の目的は一般に、以下に大別される。

(1)発生事例について、その全体像の速やかな把握に努めるとともに、感染源・感染経路・感染危険因子の特定を行い、事例を通じた感染リスクの評価を行うこと。

(2)調査の実施主体が、発生事例に対する調査及びその分析によって得られた情報を、事例に関係する市町村、都道府県、厚生労働省、医療機関等へ速やかに提供すること。(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成10年法律第114号)(以下「感染症法」という。)第15条第5項)

(3)感染の危険性が高いと考えられる者に対する感染予防策、感染例の早期発見と迅速な治療開始等による感染拡大の防止を図ること。

(4)調査結果の分析によって得られた情報から、国内での感染拡大を防止するために必要とされている感染拡大防止策や医療機関・施設・家庭等における感染防止対策等の効果的な実施に繋げていくこと。

3.調査の原則

(1)調査実施主体

1)都道府県、保健所を設置する市又は特別区(以下「都道府県等」という。)の保健所を含む衛生部局(以下「保健所等」という。)(感染症法第15条第1項)

2)厚生労働省および国立感染症研究所等の国の機関(感染症法第15条第2項)

3)厚生労働省は、都道府県等の要請があった場合には、専門家を派遣するなど当該自治体を積極的に支援する。(感染症法第15条第6項)

(2)調査対象
 新型インフルエンザ患者のクラスター(集団発生)を探知した場合における、新型インフルエンザ患者及びその関連で必要と認められる者等

(3)外出自粛及び健康状態報告の要請
 保健所等は、調査によって感染の可能性があると判断され、リストアップされた濃厚接触者に対して、外出自粛など感染拡大防止行動の理解と協力を求めるとともに、発熱等の症状が出現した場合に、保健所への連絡を行うよう要請する。

(4)人権への配慮
 調査にあたっては、人権に配慮した対応を行う。

(5)情報の透明性確保と国際連携
 都道府県等は、情報が確定する以前から、国と積極的に情報共有を図る。(感染症法第15条第5項)さらに患者が確定した場合は、国は国際保健規則(IHR)に基づき、世界保健機関(WHO)に迅速に報告する等、速やかな情報共有・連携を図る。

(6)情報の共有と調査結果の公表

1)新型インフルエンザへの対策は、関係各機関との連携の上で迅速に行われる必要があり、都道府県等や保健所等は調査中においても関係する他の自治体や国等と状況や知見等の情報を共有する。(感染症法第15条第6項)

2)国は最新の情報を速やかに国民へ広く還元する。

3)今般の新型インフルエンザウイルスの感染経路、潜伏期間等を考慮すると、地域において急激な患者数の増加が見られ、感染の拡大が急速に、広域に進む可能性があり、あらかじめ調査対象地域が複数の都道府県等にわたることも考慮に入れて、調査方法・調査票の統一化によってスムーズな情報共有を図っておく必要がある(添付の各種様式参照)。加えて患者・接触者の情報の登録と共有化を迅速に実施するために、感染症サーベイランスシステム(NESID)疑い症例調査支援システムについても必要に応じて利用する。

4)調査の結果等については、個人情報の保護に十分留意しつつ、特に、報道機関等の協力を得ながら適時適切に公表を行うことが望ましい(感染症法第16条)これら情報の発信・還元等に関するリスクコミュニケーションについては、あらかじめ専任担当者等を設置することが望ましい。

4.調査の準備

(1)疫学調査員の決定

1)新型インフルエンザ疑い事例が発生して調査対応が必要となることが決定した場合に備えて、保健所等は直ちに疫学調査に着手できるように、平常時においてあらかじめ疫学調査に専従することになるスタッフ(以下「疫学調査員」という。)を決定しておくことが望ましい。

2)疫学調査員数は、接触者調査を迅速に実施することを考慮し、可及的速やかに接触者に対して訪問・面接が可能であるように設定することが適当である。

3)疫学調査員の構成の中心は疫学調査及び感染防御策に関する専門的知識を有している公衆衛生専門職者(医師、保健師、食品衛生監視員等)が適当であるが、発生の規模が大きくなることも想定し、一定の研修等を行った上での他の適切な人材を活用する枠組みも考慮する必要がある。

(2)疫学調査員の感染防御

1)保健所等は、疫学調査員への二次感染を防止するために防護具(マスク、手袋、等)、速乾性アルコール手指消毒剤等が必要数揃っているかをあらかじめ確認・常備しておくことが望ましい。

2)保健所等は、基本的な感染予防対策として、標準予防策、飛沫感染予防策、接触感染予防策、飛沫核感染(空気感染)予防策等の感染防御に関する十分なトレーニングを実施した上で調査に臨む体制を確保するべきである。

3)上記トレーニングには、個人防護具(personal protective equipment)(以下、「個人防護具(PPE)」とする。)の取り扱い、衛生学的な手洗い方法の実施、汚染箇所や環境の適切な消毒、感染性廃棄物の収集と破棄等が含まれる。

4)本調査において疫学調査員が最低限着用すべき個人防護具(PPE)とは、サージカル(不織布性)マスク、手袋である。

(3)研修
 上記感染防御に加えて、疫学調査員に対しては、本疫学調査実施要項に添付されている調査票を用いた正確な聞き取り、調査票への転記等の疫学調査のレベルアップと情報の共有化に向けた研修が実施されることが望ましい。

(4)検査機関、医療機関との連携

1)都道府県等は地方衛生研究所を中心に、新型インフルエンザ感染発病例が国内で発生した場合に備えて検査体制を整備しておく必要がある。このために保健所、地方衛生研究所、国立感染症研究所への連絡体制を確認するとともに国立感染症研究所等で実施される研修を積極的に受講しておくべきである。

2)調査が始まれば、多数の疑似症患者等が特定される可能性があり、都道府県等はこれらに対して対応できる必要な検査体制を確保しておく必要がある。

3)都道府県等は、新型インフルエンザ患者が発生した場合に備えて、患者を収容する医療機関の確保に努めておくと共に、発生時の対応について、医療機関と連携して準備・訓練を行っておく。

(5)学校、施設等との連携
 都道府県等は、クラスターの発生している同一の集団(学校、施設等)における積極的疫学調査を実施する場合、学校、施設等の関係者と十分に連携することとし、学校、施設等の関係者が入手した感染状況(患者の周囲のインフルエンザ様症状を呈する者の有無等)に係る情報を迅速に情報共有できるよう、事前に調整することとする。

(6)患者、接触者及びその関係者への説明に関する準備

1)保健所等は、患者、接触者及びその関係者等の調査対象者に対しては、目的等に関する理解を得た上で調査を実行することが望ましい。

2)保健所等は、感染症法に基づく調査の必要性や、移送、入院措置、就業制限、経過観察、接触者管理などについて、その必要性を説明する際の資料、あるいは同意書等についても準備しておくことが望ましい。

5.調査する事項

 積極的疫学調査は、基本的には症例調査と接触者調査がある。集団の中で複数例の患者が発生している場合には、それぞれ複数の症例調査とそれに関連した接触者調査が存在する形となる。これに集団全体を一つの単位とした調査が必要となり、感染源、感染経路と伝播効率の評価が重要な検討項目となる。

(1)症例調査(感染症法第15条第1項)

1)症例基本情報・臨床情報調査
症例に対して、疫学情報や臨床情報などに関して直接情報収集を行うもの。

2)症例行動調査
症例の行動に関する詳細な情報の把握とその間の接触者のリストアップを行うもの。

3)感染源調査
症例の感染源が、国内の感染か国外における感染かを特定するもの。ただし、詳細な感染源調査については、原則として実施しない。

(2)接触者調査(感染症法第15条第1項)
症例の接触者に対する調査であり、以下の順に段階を経て行われていく。

1)接触者の定義

2)接触者のリスト作成

3)接触者状況確認調査

4)接触者に対する初回面接または電話調査および保健指導

5)追跡調査

6)接触者追跡の中止

6.調査の実際

 平成21年6月25日付厚生労働省新型インフルエンザ対策推進本部事務連絡「新型インフルエンザの国内発生時における積極的疫学調査について」における別紙及び表において示したとおり、以下の項目のうち(※)の項目については、自治体における発生状況に応じて、弾力的な運用を行っていただくことが可能となっているので、これを十分に踏まえて対応することとし、以下の記述は、必要に応じて参考として活用されたい。

(1)症例定義
 新型インフルエンザの積極的疫学調査の対象となる「症例」は、以下の通りである。なお、症例定義については、平成21年7月22日健感発第0722002号厚生労働省健康局結核感症課長通知「新型インフルエンザ(A/H1N1)に係る症例定義及び届出様式等について」を参照し、改定がなされた場合は新たな定義を基に疫学調査を行うものとする。

1) 定義
 新型インフルエンザウイルスの感染による感染症である。

2) 臨床的特徴
 咳、鼻汁又は咽頭痛等の気道の炎症に伴う症状に加えて、高熱(38℃以上)、熱感、全身倦怠感などがみられる。また、消化器症状(下痢、嘔吐)を伴うこともある。
 なお、国際的連携のもとに最新の知見を集約し、変更される可能性がある。

3) 届出基準

ア 患者(確定例)
 2)の臨床的特徴を有する者のうち、38℃以上の発熱かつ急性呼吸器症状*1のある者を診察した結果、症状や所見から新型インフルエンザが疑われ、かつ、次の表の左欄に掲げる検査方法により、新型インフルエンザと医師が診断した場合とする。ただし、年齢、基礎疾患、服薬状況などの影響によって、38℃以上の発熱を呈さない場合もあることに留意する。
 この場合において、検査材料は、左欄に掲げる検査方法の区分ごとに、それぞれ同表の右欄に定めるもののいずれかを用いること。

検査方法 検査材料
分離・同定による病原体の検出 鼻腔ぬぐい液・鼻腔吸引液・咽頭ぬぐい液・その他
検体から直接のPCR法(Real-time PCR法、Lamp法等も可)による病原体の遺伝子の検出
中和試験による抗体の検出(ペア血清による抗体価の有意の上昇) 血清

イ 疑似症患者
 疑似症患者は2)の臨床的特徴を有する者のうち、38℃以上の発熱かつ急性呼吸器症状*1のある者を診察した結果、症状や所見から、医師が新型インフルエンザを疑った場合とする。ただし、年齢、基礎疾患、服薬状況などの影響によって、38℃以上の発熱を呈さない場合もあることに留意する。

*1.急性呼吸器症状:

 急性呼吸器症状とは、最近になって少なくとも以下の1つ以上の症状を呈した場合をいう。

ア)鼻汁もしくは鼻閉
イ)咽頭痛
ウ)咳嗽

(2)症例調査

1)症例基本情報・臨床情報調査
 保健所は、新型インフルエンザの確定患者の報告を受け、速やかに症例調査(症例基本情報・臨床情報調査)を行う。(調査は症例基本情報・臨床情報調査票(添付1(Excel:51KB))を用いて行う)

2)症例行動調査:(感染症法第15条第1項)(※)

[1]保健所等の疫学調査員は、患者行動調査票(添付2(Excel:34KB))に基づき、患者の行動及びその間の接触者に関する聞き取りを行う。

[2]原則的に、患者の発症前日(現時点での発症の基準は発熱か又は急性呼吸器症状の有無とするが、今後発症例から確認される病態に応じて変更される可能性がある。)より医療機関を受診し、新型インフルエンザと診断の上、入院かまたは自宅での療養が開始された時点までの行動の詳細について調査を行う。本調査は、後に続く接触者調査の根幹をなすものである。

3)感染源調査:(感染症法第15条第1項)(※)
 保健所等は、必要に応じて感染源の特定を目的とした感染源調査(症例さかのぼり調査)を実施する。ただし、詳細な感染源調査については、原則として実施しない。

4)疫学調査員の感染防御

[1]疫学調査員は、新型インフルエンザ患者(疑似症患者を含む。)との接触については、直接の面談は個人防護具(PPE)を装着した上で行い、面談時間、回数は必要最小限のものとするべきである。原則として、疫学調査員は1人の患者に対して最低1回は対面調査を行うべきであるが、患者発生数の急増等によって、対面による調査ではその効率性に問題が生じる場合には、対面とは異なる聞き取り調査(電話調査等)を実行することもあり得るものとする。

[2]疫学調査員が適切な感染防御をせずに患者に接触した場合については、当該調査員を濃厚接触者とみなすこととする。

(3)接触者調査(感染症法第15条第1,2,3項)
 接触者の調査を迅速に行い、適切な対応を実施することは新型インフルエンザの封じ込めや早期対応にとっては極めて重要である。以下に患者との接触者の定義及びその対応について記述する。

1) 患者との接触者の定義(※)
 患者との接触者とは、新型インフルエンザ発病者(疑似症患者を含む。)が発症した日の1日(発症時刻が特定できる場合は24時間)前より、発症した日を0日目として発症後7日目までに接触した者とする。
 接触者の分類は以下の通りである。なお、「適切な感染防御をせずに」については、「[1]濃厚接触者−イ患者処置に携わった医療関係者」を除いて、他は全て適切な個人防護具(PPE)(4−(2)−4)疫学調査員が最低限着用すべき個人防護具(PPE)と同等のもの)を装着せずに接触した場合をさす。

[1]濃厚接触者
「新型インフルエンザ患者のクラスター(集団発生)を探知した場合における、新型インフルエンザ患者(疑似症患者を含む。)との濃厚接触者」

ア.世帯内居住者
 患者と同一住所に居住する者。

イ.患者処置に個人防護具(PPE)☆を適切に装着しなかった医療関係者(感染防御なし)
 患者処置に適した個人防護具(PPE)を装着しなかったかあるいは正しく着用せずに、患者の処置(検体採取、気管支鏡検査、挿管、観血的処置等)に直接携わり曝露の可能性のある医療関係者。

☆患者処置に適した個人防護具(PPE)とは、気管支鏡検査・気管内挿管などエアロゾル発生のリスクの高い処置にあっては、N95マスク+眼の防護+手袋(+ガウン)、それ以外の処置で顔面に血液・体液・分泌液などが飛散するおそれのあるものにあっては、サージカル(不織布性)マスク+眼の防御+手袋、それ以外の処置にあっては、サージカル(不織布性)マスク+手袋を指す。

ウ.比較的長時間の直接対面接触者(感染防御なし)
 手で触れること、会話することが可能な距離(2メートル以内の距離)で、適切な感染防御をせずに、上記患者と対面で長時間の会話等の接触のあった者。患者の咳の激しさ等の状況にもよるが、時間の目安は患者の感染可能期間内に累積で10分以上とするが、患者が対面中に咳またはくしゃみをし、周囲に飛沫を飛散させ、その飛沫を浴びたかまたは吸い込んだ可能性が考慮される場合には、時間に関係なく濃厚接触者として対応すべきである。学校、幼稚園、保育園等のクラスメート、職場等で席が近い者、親しい友人関係で上記の条件を満たす者等がこれにあたる。

※ただし、この場合の感染防御には、患者自身の感染防御も含まれる。具体的には、患者自身が対面中に不織布性のマスクを装着している場合は、周囲への感染性は大幅に減少すると考えられ、上記ウにおける接触者は「[2]軽度接触者(濃厚接触者を除く)」の扱いとする。その際には、患者が適切にマスクを装着していたこと(厚生労働省ホームページ「新型インフルエンザ流行時の日常生活におけるマスク使用の考え方」(PDF:243KB)参照)が前提となる。

[2]軽度接触者(濃厚接触者を除く)
「新型インフルエンザ患者のクラスター(集団発生)を探知した場合における、新型インフルエンザ患者(疑似症患者を含む。)との接触者(濃厚接触者を除く)」

ア.比較的短時間の直接対面接触者(感染防御なし)
 手で触れること、会話することが可能な距離(2メートル以内の距離で)で、適切な感染防御をせずに、上記患者と対面で比較的短時間の会話や挨拶等の接触のあった者。この間に当該者は、不織布性のマスクを適切に装着していない患者の咳やくしゃみによる飛沫を浴びていないことが前提となる。施設等の受付、個人防護具(PPE)なしでの短時間の診察、電車やバスに乗り合わせて短い時間会話を交わした者等がこれにあたる。

イ.閉鎖空間の共有者(感染防御なし)
 患者と会話や挨拶など直接ことばを交わすことはなかったものの、比較的閉鎖された空間において、適切な感染防御をせずに2メートル以内の距離で空間を共有した者。

→バス、列車等の交通機関内や、ホテル、レストラン、映画館、ホール等で会話をせず、行動もともにしていなかった近距離接触者がこれにあたる。

※ イ.は不特定多数の接触者にあたり、通常の疫学調査ではその特定は困難である。従って、調査には交通機関の運営者(バス会社や鉄道会社等)や報道機関等の協力が必要となる場合が想定されるが、同時に不正確な情報に基づいたパニックや風評被害による混乱も予想されるため、正確な情報の発信、説明等の対策も考慮しなければならない。

ウ.汚染物質への接触者(感染防御なし)
 患者由来の血液、体液、分泌物(汗を除く。)、排泄物などに、個人防護具(PPE)なしで接触した者。具体的には手袋、マスク、手洗い等の防護対策なしで患者由来検体を取り扱った検査従事者、患者の使用したトイレ、洗面所、寝具等の清掃を行った者等。

エ.比較的長時間の直接対面接触者(感染防御あり)
 本人か、または患者のいずれかが、サージカル(不織布性)マスクを適切に装着した状態で、2メートル以内の距離で、患者と対面で長時間会話等の接触のあった者。時間の目安は患者の感染可能期間内に累積で10分以上とする。以下、マスクをした状態で接触した学校、幼稚園、保育園等のクラスメート、職場等で席が近い者、長時間の診察、親しい友人関係等がこれにあたる。

2)接触者に対する調査と対応:
 新型インフルエンザ患者との接触者に対する調査及び主な対応については以下の通りである。

[1]濃厚接触者のリストアップ(※)
 保健所等は、定義されている濃厚接触者を確実にリストアップする。

[2]リストアップされた濃厚接触者の状況確認及び追跡調査(※)
 保健所等は、リストアップされた濃厚接触者に対しては、一定期間に発熱等の症状が出現した場合、保健所へ連絡するよう要請する。(感染症法第44条の3第1項)。
 原則として、患者との接触状況に関する調査および毎日の健康観察(観察開始日より、最終曝露日を0日として7日目に至るまで)については実施しないこととするが、濃厚接触者のうち、基礎疾患を有する者等の予防投与実施者については、必要に応じて実施することが望ましい。
 接触者調査および健康観察を実施する場合においては、調査担当者は「インフルエンザ接触者調査票(添付3(Excel:31KB))」に調査対象者となる接触者の情報を記録するが、調査対象者にはあらかじめ「体温記録用紙(添付4(Excel:30KB))」を渡しておき、自己記録又は家族による記録を依頼する。

[3]リストアップされた濃厚接触者に対する抗インフルエンザウイルス薬の予防投与(接触者予防投与)
 原則として、全ての濃厚接触者に対しての一律の予防投薬は行われないが、濃厚接触者のうち、基礎疾患を有する等の理由により、新型インフルエンザの発症後重症化の危険性があると判断される者等に対しては、予防投薬の実施について考慮する。なお、本予防投薬は感染拡大防止ではなく、個人の重症化防止の観点から行われるものである。

[4]リストアップされた濃厚接触者に対する説明および協力依頼(※)
 保健所等は、リストアップされた濃厚接触者に対して、外出自粛など感染拡大防止行動の重要性をよく説明し、協力を求める(感染症法第44条の3第2項)。
 また、新型インフルエンザの感染症状(38℃以上の発熱、急性呼吸器症状等)が認められた場合には、直ちに保健所等へ健康状態の報告を行うことについて事前に説明を行っておく。保健所等は、当該濃厚接触者からの報告を受けた後、必要と判断した場合は、速やかに新型インフルエンザ患者の受診について予め対応している医療機関の受診を指示する。発熱については重要な指標であり、発熱のある濃厚接触者に対しては、受診することを強く指導するべきである。また、医療機関を受診する場合には可能な限り公共の交通機関の利用は避けるべきである事も指導する。また、人の集まる場所での活動を可能な限り避けるべきであることをあらかじめ指導しておく。

[5]軽度接触者への対応
 調査によって軽度接触者であることが判明した者に対しては、保健所等は可能な範囲で新型インフルエンザウイルスの感染の可能性、症状、潜伏期間等に関する説明を行い、基本的には自己観察を依頼することが望ましい。必要に応じて体温記録用紙(添付4(Excel:30KB))を渡して体温測定と記録を促すこととする。また、健康観察期間中(曝露日を0日目として7日目終了まで)に38℃以上の発熱、または、急性呼吸器症状等が出現した場合は、管轄の保健所等に直ちに連絡し、今後の生活様式、他者との接触や医療機関受診等について相談するように依頼することが望ましい。

7.調査の継続と終了について

 積極的疫学調査は、新型インフルエンザの国内での発生早期においては、可能な限り積極的にこれを継続的に実施して、流行の抑制・遅延に努めるものとする。以下に、積極的疫学調査の継続と終了の目安について記述する。

(1)調査の継続について

1)本調査は、クラスターにおける新型インフルエンザの感染拡大予防対策にとって重要であり、可能である限りその継続を図る。

2)濃厚接触者としてどの範囲までをリストアップするかは、ウイルスの性状、患者発生数等を総合的に勘案して判断する。

(2)調査終了の目安

 原則的に、地域内で多数の新型インフルエンザ患者が発生し、積極的疫学調査による感染者の追跡実施の意義がなくなったときに、本調査は終了となる。都道府県等は、国と協議を行った上で調査終了の判断を行う。

8.その他(血清疫学調査について)

 新型インフルエンザに関しては、その発病率、病態、無症候性病原体保有者の存在の有無等の事象については、現時点では、不明な点が存在する。
 血清疫学調査は、本疾患を解明するための有効な手段の一つであると考えられており、患者発生地域において、血清疫学調査の必要性があり、かつその機会が存在する場合には、同調査を実施することを考慮する。

第2章 参考資料
1.感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律

(平成十年十月二日法律第百十四号)

(感染症の発生の状況、動向及び原因の調査)

第十五条  都道府県知事は、感染症の発生を予防し、又は感染症の発生の状況、動向及び原因を明らかにするため必要があると認めるときは、当該職員に一類感染症、二類感染症、三類感染症、四類感染症、五類感染症若しくは新型インフルエンザ等感染症の患者、疑似症患者及び無症状病原体保有者、新感染症の所見がある者又は感染症を人に感染させるおそれがある動物若しくはその死体の所有者若しくは管理者その他の関係者に質問させ、又は必要な調査をさせることができる。

2   厚生労働大臣は、感染症の発生を予防し、又はそのまん延を防止するため緊急の必要があると認めるときは、当該職員に一類感染症、二類感染症、三類感染症、四類感染症、五類感染症若しくは新型インフルエンザ等感染症の患者、疑似症患者及び無症状病原体保有者、新感染症の所見がある者又は感染症を人に感染させるおそれがある動物若しくはその死体の所有者若しくは管理者その他の関係者に質問させ、又は必要な調査をさせることができる。

3   一類感染症、二類感染症、三類感染症、四類感染症、五類感染症若しくは新型インフルエンザ等感染症の患者、疑似症患者及び無症状病原体保有者、新感染症の所見がある者又は感染症を人に感染させるおそれがある動物若しくはその死体の所有者若しくは管理者その他の関係者は、前二項の規定による質問又は必要な調査に協力するよう努めなければならない。

4   第一項及び第二項の職員は、その身分を示す証明書を携帯し、かつ、関係者の請求があるときは、これを提示しなければならない。

5   都道府県知事は、厚生労働省令で定めるところにより、第一項の規定により実施された質問又は必要な調査の結果を厚生労働大臣に報告しなければならない。

6   都道府県知事は、第一項の規定を実施するため特に必要があると認めるときは、他の都道府県知事又は厚生労働大臣に感染症の治療の方法の研究、病原体等の検査その他の感染症に関する試験研究又は検査を行っている機関の職員の派遣その他同項の規定による質問又は必要な調査を実施するため必要な協力を求めることができる。

7   第四項の規定は、前項の規定により派遣された職員について準用する。

8   第四項の証明書に関し必要な事項は、厚生労働省令で定める。

(情報の公表)

第十六条   厚生労働大臣及び都道府県知事は、第十二条から前条までの規定により収集した感染症に関する情報について分析を行い、感染症の発生の状況、動向及び原因に関する情報並びに当該感染症の予防及び治療に必要な情報を新聞、放送、インターネットその他適切な方法により積極的に公表しなければならない。

2   前項の情報を公表するに当たっては、個人情報の保護に留意しなければならない。

(感染を防止するための協力)

第四十四条の三   都道府県知事は、新型インフルエンザ等感染症のまん延を防止するため必要があると認めるときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該感染症にかかっていると疑うに足りる正当な理由のある者に対し、当該感染症の潜伏期間を考慮して定めた期間内において、当該者の体温その他の健康状態について報告を求めることができる。

2   都道府県知事は、新型インフルエンザ等感染症のまん延を防止するため必要があると認めるときは、厚生労働省令で定めるところにより、前項の規定により報告を求めた者に対し、同項の規定により定めた期間内において、当該者の居宅又はこれに相当する場所から外出しないことその他の当該感染症の感染の防止に必要な協力を求めることができる。

3   前二項の規定により報告又は協力を求められた者は、これに応ずるよう努めなければならない。

4   都道府県知事は、第二項の規定により協力を求めるときは、必要に応じ、食事の提供、日用品の支給その他日常生活を営むために必要なサービスの提供又は物品の支給(次項において「食事の提供等」という。)に努めなければならない。

5   都道府県知事は、前項の規定により、必要な食事の提供等を行った場合は、当該食事の提供等を受けた者又はその保護者から、当該食事の提供等に要した実費を徴収することができる。

2.患者滞在場所に対する環境整備・消毒について

 新型インフルエンザの感染経路が、通常の季節性インフルエンザに準じるとすれば、その感染経路は『飛沫感染』および『接触感染』が主であると考えられており、その他の感染経路として、特殊な条件下(医療機関においてエアロゾルを発生させるような患者に対する処置や検査等を実施した場合等)における『空気感染(飛沫核感染)』が考慮されている。この『空気感染(飛沫核感染)』は、稀に、特殊な条件下以外における発生は否定されてはいないが、原則として、患者が退出した後の部屋においては、考慮する必要はないと思われる。
 新型インフルエンザの感染経路、感染対策に関する詳細は『医療施設等における感染対策ガイドライン』を参照されたいが、以上のことを踏まえて、患者が滞在していた場所に対する環境整備・消毒の方針を示す。公衆衛生関係者には、これらを踏まえて患者の家族や関係者に対する指導を実施されたい。

(1)環境整備

1)床の清掃
 患者が滞在した場所の床は濡れたモップ、雑巾による拭き取り清掃を行う。また、明らかに患者由来の血液、体液、分泌物(汗を除く)、排泄物などが存在している箇所は消毒を行う。

2)患者が接触した箇所の消毒
 患者が頻回に接触したと考えられる箇所(ドアノブ、トイレの便座、スイッチ、階段の手すり、テーブル、椅子、ベッド柵等)については、消毒薬で十分に湿らせた濡れタオルや雑巾で拭き取り消毒を行う。

3)壁、天井の清掃
 患者由来の血液、体液、分泌物(汗を除く)、排泄物などが明らかに付着していない場合は通常以上の清掃の必要はない。患者由来の血液、体液、分泌物(汗を除く)、排泄物などが付着している場合は消毒を行う。

4)食器・衣類・リネン
 食器・衣類・リネンは通常の洗浄・清掃でよい。衣類やリネンに患者由来の血液、体液、分泌物(汗を除く)、排泄物などが付着しており、洗濯等が不可能である場合は、当該箇所を消毒する。また、可能であれば熱水消毒(80℃、10分間以上)を実施する方法もある。

5)物品
 患者が使用していた物品は、適宜拭き取り清掃を行う。

(2)消毒について

1)次亜塩素酸ナトリウム溶液
 濃度は0.02〜0.1w/v%(200〜1,000ppm)の溶液を用いる。30分間の浸漬かあるいは消毒液を浸したタオル、雑巾等による拭き取り消毒を行う。消毒剤の噴霧は不完全な消毒や、ウイルスの舞い上がりを招く可能性があり、また消毒実施者の健康障害につながる危険性もあるため、推奨されない。

2)イソプロパノールもしくは消毒用エタノール
 70v/v%イソプロパノールもしくは消毒用エタノールを用いて消毒を行う。消毒液を十分に浸したタオル(ペーパータオル等)、脱脂綿を用いた拭き取り消毒を行う。消毒剤の噴霧は不完全な消毒、ウイルスの舞い上がりを招く可能性があり、推奨されない。

3)その他の消毒薬
 については、「医療施設等における感染対策ガイドライン」を参照する。

(3)環境整備の際に着用すべきもの

 清掃、消毒等の環境整備を行う際に、実施者はマスク(原則的に不織布製マスク)、ゴーグルもしくは眼を防御するもの、手袋を着用する。手袋は滅菌である必要はなく、頑丈で水を通さない材質のものを使用する。

(4)手指衛生について

 環境整備後あるいは消毒後には手袋を外した後に流水・石鹸による手洗いかもしくは速乾性擦式消毒用アルコール製剤による手指衛生を必ず実施する。手指衛生はあらゆる感染対策の基本であり、室内で患者の所有していた物品を触った後、食事配膳前、食事摂取前、排便・排尿後にも手指衛生を実施すべきである。また、患者発生後地域において新型インフルエンザの流行が発生する可能性があり、外出からの帰宅後にも必ず手指衛生を実施するように指導する。

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