カスタマーハラスメントへの対応
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 営業者が宿泊しようとする者から、無制限に対応を強いられた場合には、宿泊者の衛生 に必要な措置をはじめ、旅館業の施設において本来提供すべきサービスが提供できず、旅 館業法上求められる業務の遂行に支障を来すおそれがあります。このため、今回の法改 正において、新たに、宿泊を拒むことができる事由として特定要求行為が行われたときが 追加されました。
 「負担が過重」については、営業者において、個別の事案ごとに、以下の要素等を考慮 し、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要です。
 
(考慮すべき要素)
・ 事務・事業への影響の程度(事務・事業の目的・内容・機能を損なうか否か)
・ 実現可能性の程度(物理的・技術的制約、人的・体制上の制約)
・ 費用・負担の程度
・ 事務・事業規模、財政・財務状況
 
 営業者が、宿泊しようとする者から、旅館業法施行規則第5条の6に該当する要求を求められ、その要求に応じられない場合は、まずは、「そうした要求には応じられないが、宿泊自体は受け入れること」を説明し、こうした説明を行ってもなお、当該要求を繰り返し求められる場合は、宿泊を拒むことができます。
カスタマーハラスメント画像
社会的障壁の除去の求め それ以外の求め
要求内容が過重でない負担 法第5条第1項第3号の対象外(※)

〇障害者差別解消法第8条に基づく合理的配慮の提供の求めに当たる。
「合理的配慮」:個々の場面において、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、社会的障壁の除去の実施について、必要かつ合理的な配慮

例)下肢障害者に対し出入口付近の駐車スペースを確保した
法第5条第1項第3号の対象外(※)

例)モーニングコールやアメニティの交換など、通常のサービスで対応が可能と想定されるもの
要求内容が過重な負担 法第5条第1項第3号の対象外(※)

〇省令で適用対象外であることを明確化。
例)深夜で業者に連絡がつかない中で社会的障壁の除去を繰り返し求める場合など
法第5条第1項第3号の対象

〇省令で適用対象外としない。
(「繰り返し」等のその他の要件を満たす場合は第5条第1項第3号に該当)
例)従業者に対し、宿泊料の不当な割引や不当な部屋のアップグレード等、他の宿泊者に対するサーピスと比較して過剰なサーピスを行うよう繰り返し求める場合
(※)これらにおいても、方法が粗野又は乱暴な言動その他の従業者の心身に負担を与える言動を交えた要求であり、かつ、当該要求をした者の接遇に通常必要とされる以上の労力を要することとなるものであって、他の宿泊者に対する宿泊に関するサービスの提供を著しく阻害するおそれのあるものの場合は、法第5条第1項第3号に該当し得ます。
特定要求行為の具体例
 特定要求行為に該当すると考えられるものとしては、例えば、以下が考えられます。

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1 宿泊しようとする者が、宿泊サービスに従事する従業者に対し、宿泊料の不当な割引や不当な慰謝料、不当な部屋のアップグレード、不当なレイトチェックアウト、不当なアーリーチェックイン、契約にない送迎等、他の宿泊者に対するサービスと比較して過剰なサービスを行うよう繰り返し求める行為
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2 宿泊しようとする者が、宿泊サービスに従事する従業者に対し、自身の泊まる部屋の上下左右の部屋に宿泊客を入れないことを繰り返し求める行為
特定要求行為の具体例画像
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3 宿泊しようとする者が、宿泊サービスに従事する従業者に対し、特定の者にのみ自身の応対をさせること又は特定の者を出勤させないことを繰り返し求める行為
特定要求行為の具体例画像
4
4 宿泊しようとする者が、宿泊サービスに従事する従業者に対し、土下座等の社会的相当性を欠く方法による謝罪を繰り返し求める行為
特定要求行為の具体例画像
5
5 泥酔し、他の宿泊者に迷惑を及ぼすおそれがある宿泊者が、宿泊サービスに従事する従業者に対し、長時間にわたる介抱を繰り返し求める行為
特定要求行為の具体例画像
6
6 宿泊しようとする者が、宿泊サービスに従事する従業者に対し、対面や電話、メール等により、長時間にわたって、又は叱責しながら、不当な要求を繰り返し行う行為
特定要求行為の具体例画像
7
7 宿泊しようとする者が、宿泊サービスに従事する従業者に対し、要求の内容の妥当性(※1)に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が不相当なもの(※2)を繰り返し求める行為

※1 「宿泊しようとする者の要求の内容が妥当性を欠く場合」の例

○ 当該旅館・ホテルの提供するサービスに瑕疵・過失が認められない場合

○ 要求の内容が、当該旅館・ホテルの提供するサービスの内容とは関係がない場合

 

※2 「要求を実現するための手段・態様が不相当な言動」の例
 これらの言動の中には、旅館業法第5条第1項第2号に該当し得るものも含まれます。(同号に該当する場合は、特定要求行為とは異なり繰り返し要求はありません)こちらも参照ください。

 

(要求内容の妥当性にかかわらず不相当とされる可能性が高いもの)

○ 身体的な攻撃(暴行、傷害)

○ 精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言)

○ 土下座の要求

○ 継続的な(繰り返される)、執拗な(しつこい)言動

○ 拘束的な行動(不退去、居座り、監禁)

○ 差別的な言動

○ 性的な言動

○ 従業員個人への攻撃、要求

 

(要求内容の妥当性に照らして不相当とされる場合があるもの)

○ 商品交換の要求

○ 金銭補償の要求

○ 謝罪の要求(土下座を除く。)

参考:宿泊しようとする者
「宿泊しようとする者」は、
ア)これから1泊目の宿泊をしようとする者
イ)既に1泊以上宿泊していて2泊目以降の宿泊をしようとする者
のいずれも含みます。
参考:カスタマーハラスメント対策企業マニュアルについて
厚生労働省では、関係省庁と連携の上、顧客等からの著しい迷惑行為(いわゆるカスタマーハラスメント)の防止対策の一環として、「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」等を作成しており、カスタマーハラスメントを想定した事前の準備、実際に起こった際の対応など、カスタマーハラスメント対策の基本的な枠組みを記載していますので、幅広くご活用ください。
カスタマーハラスメント対策企業マニュアル
特定要求行為にあたらないもの
 例えば、以下については特定要求行為に該当しないと考えられます。

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1 障害者が宿泊に関して社会的障壁の除去(※1)を求めること。例えば、以下のものが挙げられます。

(ⅰ) 聴覚障害者への緊急時の連絡方法としてスマートフォン(又はフードコート等で普及している「振動呼び出し機」)の利用やフロント近くの客室の用意を求めること

(ⅱ) フロント等で筆談でのコミュニケーションを求めること

(ⅲ) 視覚障害者の部屋までの誘導を求めること

(ⅳ) 車椅子で部屋に入れるようにベッドやテーブルの位置を移動することを求めること

(ⅴ) 車椅子利用者がベッドに移動する際に介助を求めること

(ⅵ) 車椅子利用者が高いところの物を従業員に代わりに取ってもらうよう求めること

(ⅶ) 精神障害のある者がエレベータや階段等の人の出入りがあるエリアから離れた静穏な環境の部屋の提供を求めること

(ⅷ) 発達障害のある者が待合スペース含む空調や音響などについて通常設定の変更を求めること

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2 医療的な介助が必要な障害者、重度の障害者、オストメイト、車椅子利用者、人工呼吸器使用者の宿泊を求めること
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3 介護者や身体障害者補助犬の同伴を求めること
4
4 障害者が障害を理由とした不当な差別的取扱い(※2)を受け、謝罪等を求めること
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5 当該行為が障害の特性(※3)によることが、本人又はその障害者の同行者にその特性について聴取する等して把握できる場合(※4)
6
6 旅館業の施設側の故意又は過失により、宿泊しようとする者又はその家族等の関係者が損害を被り、何かしらの対応を求めること(ただし、要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が不相当なものであれば、その行為は合理的な理由を欠くこととなり、特定要求行為に該当し得ます。)
特定要求行為にあたらないもの画像
特定要求行為にあたらないもの画像
特定要求行為にあたらないもの画像
特定要求行為にあたらないもの画像
※1 社会的障壁の除去とは
社会的障壁とは、障害者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念等をいいます。
 
社会の中にある障壁の除去を求める例

・ フロント等で筆談でのコミュニケーションを求めること

・ 車椅子利用者がベッドに移動する際に介助を求めること

 

※2 障害を理由とした不当な差別的取扱いについては、コラム2旅館業法と障害者差別解消法との関係を参照ください。

 

※3 障害によっては、一見すると障害があることが分からないものの、障害の特性により、例えば、気になったところを何度も従業者に質問することや、場に応じた声の音量の調整ができないまま従業者に声をかけること等により、従業者との円滑なコミュニケーションができないことも想定されますが、それらが障害の特性によることが把握できる場合であるにもかかわらず、営業者側が「他の宿泊者に迷惑がかかる」等の理由で、特定要求行為に該当するとして宿泊を拒むことはできません。障害の特性を踏まえた対応と合理的配慮の提供については、コラム2旅館業法と障害者差別解消法との関係を参照ください。

 

※4 営業者は、従業者が適切に把握・対応できるように、研修の中で障害の特性について従業者にしっかり習熟させることが重要です。