厚生労働省:今後の生活衛生関係営業の振興に関する検討会中間報告について

厚生労働省


今後の生活衛生関係営業の振興に関する検討会
−中間報告−

平成21年8月7日
健康局生活衛生課


今後の生活衛生関係営業の振興に関する検討会中間報告

I はじめに

昨今の厳しい経済情勢や国民の生活の変化の中で、今後、生活衛生関係営業(以下「生衛業」という。)をいかに振興し、衛生水準の維持向上を図り、国民生活の安定に寄与していくかが課題となっている。

こうした中で、都道府県生活衛生営業指導センター(以下「都道府県センター」という。)による生活衛生関係営業者(以下「生衛業者」という。)への支援の強化の必要性が高まっており、関係者からの期待に十分応えられるよう、都道府県センターの運営のあり方等を検討することが必要となっている。さらに、平成20年10月に発足した株式会社日本政策金融公庫(以下「日本公庫」という。)の生活衛生貸付制度の活用策や生活衛生同業組合(以下「組合」という。)の活動の促進等についても検討が必要となっている。

以上の状況を踏まえ、今後の生衛業の振興について有識者等関係者の参加を求めて本年4月から本検討会を開催し4回にわたり議論を行ってきた。これまでの議論から、当面取り組む事項をとりまとめたので、以下のとおり報告する。

II 生活衛生関係営業の特性と現状

1 生活衛生関係営業の特性

・  生衛業は、国民生活に密着したサービスを提供する営業であり、飲食・食品関係の飲食店営業、喫茶店営業、食肉販売業及び氷雪販売業、サービス関係の理容業、美容業、興行場営業、旅館業、公衆浴場業及びクリーニング業からなっている。生衛業の最大の特性としては、国民に対して常に衛生的で安心できるサービスの提供が求められていることであり、飲食・食品関係については食品衛生法による衛生規制、サービス関係については営業6法(興行場法、公衆浴場法、旅館業法、理容師法、美容師法、クリーニング業法)による衛生規制の下で感染症の発生防止等衛生管理を行い、衛生水準の維持向上を図ることを基本として営業を行っている。

・  また、生衛業は国民生活に不可欠で身近なサービスであることから、商店街や住宅地などに店舗を構えるものが多く、地域に密着したサービスを提供しており、地域社会との共生の中で営業を行っている。我が国の国民生活の中から形成され定着してきた営業であることから、文化と伝統を引き継いでいる業態も多い。

他方で、身近な地域社会の中で営業するものが多いことから、営業活動に伴う水質汚濁、大気汚染、騒音、悪臭等の公害発生の防止や食品残さ等の廃棄物の適正な処理

など環境の保全にも注意して営業を行うことが求められている。

・  さらに、生活水準の向上に伴う見合った消費者ニーズの高度化・多様化に対応した質の高いサービスの提供とともに、低価格のサービスを求めるニーズへの対応、日本社会の高齢化によるニーズの変化への対応など、日常生活の中での消費者・利用者のニーズに合致したサービスの提供が求められ、消費者・利用者のニーズの変化に対応できなければ取り残されてしまう厳しい分野でもある。

・  以上のように、衛生水準の維持向上を図り適切なサービスを提供するためには、生衛業の経営の健全化が必要であることから、「生活衛生関係営業の運営の適正化及び振興に関する法律」(以下「生衛法」という。)に基づき、組合による自主的活動の促進、生活衛生営業指導センターによる経営指導等が実施されている。

2 経営の状況

・  我が国において、生衛業に携わる事業者数は、総務省「平成18年事業所・企業統計」によると、約121万事業所で全事業所の21%を占めており、飲食店72万事業所、美容業18万事業所、理容業12万事業所、クリーニング業10万事業所、旅館業6万事業所等となっている。従業者数も約628万人で民営の全産業のうち12%に達しており、飲食店412万人、旅館業75万人、美容業46万人、クリーニング業44万人、理容業24万人等となっている。

・  生衛業の収入額は、総務省「平成16年サービス業基本調査」によると、一般飲食店14.6兆円、宿泊業6.6兆円、洗濯業2.4兆円、理容業0.8兆円、美容業2兆円、公衆浴場業0.2兆円、映画館0.3兆円で合計26.9兆円になりサービス業全体の収入額152兆円の18%を占めている。その他の調査(※)において、食肉販売業6.5兆円、食鳥肉販売業0.5兆円、料亭・バー等3兆円であり、前記とあわせると36.9兆円に上る。

・  このように、生衛業は我が国の経済活動の中でも相当の規模を持った分野であり、雇用の面でも大きな役割を担っている。全体として労働集約型産業の側面もあり、新規の就業のハードルも高くなく、女性や高齢者雇用の受け皿にもなっている。一方、理容業、美容業、クリーニング業などの資格を必要とする業種もあり、良質なサービスを提供するために技能を高めていくことが必要な分野である。

・  生衛業の事業の規模は、7割が従業員5人以下の小規模事業者であり、かつ個人経営が9割近くを占めている。家族経営で堅実に営業しているところが多いが、小規模の資本でも開業できることから、需要が伸びている分野を中心に新規参入が多くなり過当競争になりやすい傾向にある。また、大資本が参入した場合には、小規模の生衛業者は厳しい状況に追い込まれる可能性もある。一方、時代の変遷や新たな代替手段の登場により、消費者のニーズが変化して需要が大幅に減少してしまった分野もある。このような厳しい状況の中においても生衛業は、提供するサービスの衛生水準の確保が必要であり、このためにも経営の健全化が重要である。

・  生衛業の最近の経営環境を見ると、昨年の石油等原材料価格の高騰に続き、世界的な金融危機を発端として景気が停滞し、企業倒産の増加や生産縮小、解雇や賃金カットなどの影響による消費の低迷が見られ、生衛業を取り巻く環境は非常に厳しい状況となっている。日本公庫の景気動向調査においても、平成21年の第1四半期(1月〜3月)は、比較できるデータのある平成9年以降で最低の水準を示している。

*食肉・食鶏肉販売業の収入額は、経済産業省「平成19年商業統計」より出典
料亭・バー等は(社)日本フードサービス協会「19年外食産業市場動向調査」より出典

3 生活衛生同業組合の現状

・  組合は、生衛法に基づき、生衛業者が自主的に衛生措置の基準を遵守し、衛生施設の改善向上を図るために、政令で定める業種毎に都道府県単位で組織されるものである。適用業種は、飲食店営業(すし、めん類、中華料理、社交、料理、一般飲食)、喫茶店営業、食肉販売業(食鳥肉、食肉)、氷雪販売業、理容業、美容業、興行場営業、旅館業(旅館・ホテル、簡易宿所)、公衆浴場業、クリーニング業の17業種となっており、平成20年12月末現在で576組合設立されている。

・  組合は、[1]組合員に対する衛生施設の維持及び改善向上、経営の健全化の指導、[2]組合員の営業に関する共同施設、[3]組合員に対する施設・設備の改善、営業の健全化のための資金のあっせん、[4]組合員の営業に関する技能の改善向上、H組合員の福利厚生、共済事業等が事業内容となっている。また、組合員の振興事業に関する計画を策定して、計画に基づく事業も実施している。なお、昭和32年に環境衛生関係営業の運営の適正化に関する法律(以下「環衛法」という。)が制定された当初は、過当競争による正常な経営の阻害、衛生措置の低下を防止するため、料金、営業方法等について制限を定め、組合員がこれを遵守するという適正化基準・適正化規程を定めることが組合の重要な役割であったが、規制緩和の流れの中、個々の適正化規程制度は平成10年に全廃され、生衛業は、いわゆる護送船団方式から自由競争原理の下での営業へと転換されている。

・  また、組合の地域内の一部の区域において共同施設を行うために、生活衛生同業小組合を設立することができるが、現在、一般飲食業2小組合、食肉販売業で1小組合の3小組合のみの設立にとどまっている。

・  各業種ごとに全国単位の団体として、生衛法に基づき、生活衛生同業組合連合会(以下「連合会」という。)が設立され、各都道府県の組合が加入しており、平成21年4月末現在で16の連合会が設立されている。連合会は、[1]振興計画の作成に関する指導、[2]組合に対する衛生施設の維持・改善向上、経営の健全化に関する指導、[3]組合の組合員に営業に関する技能の改善向上、[4]組合の組合員の福利厚生、共済等が事業内容となっている。

・  組合及び連合会については、衛生水準の維持向上を業界自らの努力で進める上での中核になるものであり、また今後の業界の進むべき方向を示すとともに、共同事業や共済事業の実施、振興計画を基にした融資制度の活用や経営指導、資格制度や研修などによるサービスの質の向上、就業者や後継者の育成・確保の支援等により営業者にメリットを提供するとともに、消費者・利用者に対しては業に関する必要な情報提供や啓発を行い、安全で質の高いサービスの提供を通じて国民生活の向上に貢献し、業界の地位向上を図る上で重要な役割を担っている。

・  各組合が共通に抱える問題としては、組合員の高齢化、新規開業者の組合未加入による組合員の減少が見られており、今後の組合活動に影響しかねない状況が見られる。また、このことにより、組合を通じて各業界における衛生水準の維持向上を図ることが困難な事態にもなりかねないことが懸念される。

III 生活衛生営業指導センターについて

1 生活衛生営業指導センターの役割

・ 生活衛生営業指導センターは、昭和54年に環衛法の一部改正により、経営健全化のための指導の充実強化、消費者・利用者の苦情への対処などを行う第三者的機関として設けられたものであり、都道府県単位で都道府県センターが設けられ、さらに都道府県センター及び連合会の健全な発達を図るため、全国生活衛生営業指導センター(以下「全国センター」という。)が設けられている。

・  都道府県センターは、[1]衛生施設の維持及び改善向上、経営健全化に関する相談・指導、[2]利用者・消費者の苦情処理、当該苦情に関し営業者及び組合の指導、[3]標準営業約款に関する営業者の登録、[4]講習会等の開催・あっせん、[5]情報の収集・提供等が事業内容となっている。中小企業全般にわたっては、商工会、商工会議所による指導が行われているが、これでは十分な指導が期待できないとされた生活衛生関係の小規模なサービス業を対象に経営指導を行う役割を担ってきたと言える。

・  全国センターは、[1]生衛業全般に関する情報収集・提供、[2]調査研究の実施、[3]都道府県センターの事業の連絡調整及び指導、[4]連合会相互の連絡調整及び事業の指導等が事業内容となっている。

2 都道府県センターの現状と課題

(1)財務状況

・ 都道府県センターの平成20年度の収支状況を見ると、最大は約9,900万円、最小が約1,800万円となっており各都道府県で非常にバラツキはあるが、平均すると約4,000万円となっている。

・ 一部の都道府県センターを除きそのほとんどが運営の7割以上を補助金に依存しているが、都道府県に一つという唯一の指定団体で他に代わる機関もない一方、生衛業は小企業の零細事業者がほとんどで有償による支援が行いがたい状況から、衛生水準の維持向上を図るという都道府県センターの役割において、こうした財務状況はやむを得ないものと考えられる。

・ しかし、地方自治体の財政が危機的状況の中で十分な予算措置が講じられない状態が見られ、事業の実施に支障をきたす状況となっている。

(2)都道府県センターの認知度

・ 都道府県センターの業務は、営業者に対する経営相談・指導等を中心としているが、平成19年3月の全国センターの「生活衛生同業組合等に関する意識調査報告書」によると、営業者のうち組合員の認知度は76%と高いものの、非組合員は8〜16%とかなり低い状況にある。また、消費者・利用者の苦情処理も業務内容としているが、この面での活動は低調であり、消費者・利用者の認知度は低いものと考えられる。

・ 都道府県センターの活動が対組合員に偏っていることもひとつの要因と推測されるが、本来果たすべき役割から、地域での存在意義を高めるための努力をする必要がある。

(3)相談・指導事業

・ 都道府県センターの体制は、平成21年4月現在、各県経営指導員135名、補助員49名、相談指導顧問(税理士、中小企業診断士、弁護士等)は、全国で47名(平成21年度全国センター調査)となっている。一都道府県あたり、3名の経営指導員、1名の補助員の体制であり、職員数の最多は6名で最小は2名となっている。

・ 相談・指導事業の方法は、[1]都道府県センターの相談室における来所相談、電話相談、[2]保健所等を使用して開設する地区生衛業相談室における来所相談、[3]各営業者を個別に訪問する巡回相談により事業が実施されており、全都道府県センターの合計で年間約5万件の相談実績となっている。

・ 相談・指導内容は、平成16年度〜平成20年度実績(平成21年度全国センター調査)によると、融資が56%と最も多く、経営が18%、衛生が7%となっており、その他税務、労務等と多岐にわたり、融資の相談と併せて他の様々な相談が行われる場合もある。このため、経営指導員も金融分野と衛生分野、経理・税務分野等のバランスのとれた構成による配置が望ましいが、財務状況の悪化により、巡回指導の中止や経営指導員の非常勤化を行っている都道府県センターもある。一方、標準以上の経営指導員を配置して積極的に相談指導業務に対応している都道府県もある。

・  また、経営指導員は、原則、都道府県センターの長が任命することとなっており、その配置は、衛生分野では環境衛生監視員経験者等の経験者が配置されているものの、相談・指導内容の半数以上を占める金融関係については、日本公庫出身者(旧国民生活金融公庫出身者含む)、民間金融機関出身者等の金融関係の経験者が配置されている都道府県センターは全体の半数程度にとどまっている。ほとんどが2〜3年という短期間で交替しており、相談指導のスキルの向上や事業の継続性の確保、地域の抱える課題への積極的な取組という視点から不十分な状況の都道府県センターもある。

・ 他方、都道府県センターにおいては、専門知識を有した税理士、中小企業診断士、弁護士等を相談指導顧問として雇い上げ、無料相談会等が行われているが、雇上げ費用が高額であることもあって年間5日以下の雇用がほとんどであり、年間を通じて顧問契約を行っている都道府県センターは一部に限られている実態である。

・ なお、各組合ごとに、生活衛生営業経営特別相談員(以下「特相員」という。)が置かれ、生衛業者に対する[1]経理、税務、金融、労務管理等の経営指導、[2]営業設備の近代化、合理化に関する指導、[3]生活衛生関係営業経営改善資金融資制度(以下「生活衛生改善貸付(衛経)」という。)に係る申請書の審査及び当該営業者に対する相談、指導、[4]生活衛生営業の許可申請、営業の届出等の手続きに関する助言、[5]都道府県が行う生活衛生関係営業指導事業に対する協力など地域における 重要な活動を無償で行っている。特相員は各組合理事長の推薦により各都道府県 知事が委嘱しているものであり、特相員の配置状況は、全国で3,546名が委嘱を 受けており、最多は北海道の278名で、最少は山梨県の23名となっている。都 道府県センターにおいては、特相員に対し講習会、研修会を毎年開催しており、 営業者の抱える課題や生衛業の苦情事例等についての研修会等を実施している  が、一部都道府県では、名誉職的色彩を帯び形骸化している状況もある。

(4)都道府県が行う生活衛生営業指導事業に対する協力

・ 都道府県センターにおいては、都道府県若しくは保健所が実施する食中毒や感染症の予防対策についての講習会、保健所・各組合との意見・情報交換会、特相員養成講習会の開催やクリーニング師研修及び業務従事者講習委託、日本公庫の貸付制度に係る都道府県知事の推薦事務 の受託等が行われている。クリーニング師研修、業務従事者研修については、クリーニング業法の規定により、3年に1回の受講が義務付けられているが、例年、参加者が低調となっていることから、制度上、運営上問題となっており、制度の趣旨についての普及を図るとともに研修方法等の改善を図る必要がある。

・ また、日本公庫の一般貸付制度に係る都道府県知事推薦事務は、設備資金の使途について、生衛業を直接指導している都道府県知事の意見を融資に反映させることが、地域における生衛業の振興及び適正な営業の確保に資するものとして最も効果的であることから行われているが、現在、30県がその事務を都道府県センターに全部委託、11県が自ら実施、6県については一部都道府県センターに委託して実施している。平成20年度推薦書交付数のうち都道府県センターでの交付数は、3,487件であった。都道府県センターでこの業務の委託を受けることにより、組合員以外の者が都道府県センターで手続きを行う際に組合の説明等が可能になり、組合の存在を認識させることにもつながっている。

(5)標準営業約款登録事業

・ 標準営業約款制度(以下「約款制度」という。)は、消費者の利益の擁護の観点から、昭和54年の環衛法改正により、提供する役務の内容又は商品の品質、施設又は設備の表示の適正化、損害賠償の実施の確保等を図ることによって、利用者や消費者が営業者からサービスや商品を購入する際の選択の利便性を図ることを目的として制定されたものである。

・ 当該約款は全国センターが厚生労働大臣の認可を受けて定め、都道府県センターにおいて審査と登録業務を行っており、都道府県センターは、これら登録店に対する苦情処理の窓口としての役割も担っている。

・ 約款制度は、昭和58年にクリーニング業が最初に導入し、その後、昭和59年に理容業、美容業、平成16年にめん類飲食業、一般飲食業の5業種において導入されている。登録者数は、平成21年3月現在、理容業45,633件、美容業20,323件、クリーニング業3,811件、めん類飲食業317件、一般飲食業353件となっており、業種において登録率にバラツキがあるが、めん類飲食業と一般飲食業の登録率は極めて低調であり、安心・安全を求める消費者の志向が強まっている中、当該約款制度の普及が課題となっている。

(6)各種振興事業の実施

・ 都道府県センターにおいては、生衛業が地域の実情に応じた社会的役割を果たすことを支援するため、「生活衛生営業健康推進等事業」を実施しており、国は予算の範囲内で事業費の1/2を国庫補助している。事業の内容は、健康入浴推進事業、飲食店健康増進等普及支援事業、生衛業地域生活支援事業、クリーニング包装材等リサイクル推進事業、まちおこし推進事業である。事業の実施状況を見ると各事業10カ所〜20カ所程度の都道府県センターでのみ実施している状況となっている。

・ また、都道府県センターでは国庫補助事業以外に県単独事業の補助により事業を実施しているものがあり、20年度で36事業、21年度で33事業となっている。いくつか事例を挙げると、生活衛生営業者感染症予防対策事業、ふれ愛入浴事業、省エネ資源リサイクル推進事業等がある。

・ なお、全国センターにおいては、連合会及び組合の自主的な活動を促進する振興推進事業、後継者育成支援事業、経営改善推進事業、生衛業情報ネットワーク事業、生衛業振興調査・研究事業等を国庫補助事業として実施している。

(7)組合加入の促進

・ 都道府県センターには、その活動を通じて新規開業者や組合未加入事業者に対して組合加入を促進する役割が期待される。これまでは、組合未加入事業者が知事推薦等の手続で都道府県センターを訪れる機会に加入勧奨が行われている場合が多いが、この時点では申請者の側に時間的な余裕がないこともあって、加入勧奨の効果がほとんど現れていない状況にある。このため、一部の都道府県センターにおいては、加入勧奨そのものが行われなくなってきている。

IV 生活衛生貸付制度について

1 日本政策金融公庫の経緯と役割

・ 戦後の混乱期の中で、中小企業に対する金融の支援として、昭和24年に国民金融公庫が設立され生衛業者にも融資を実施していた。その後、昭和32年に「環衛法」が成立したが、零細企業の多い生衛業者に資金が回らない等の議論の中、昭和42年に生衛業者のために環境衛生金融公庫が設立され、設備資金の融資を一元的に実施し、運転資金については従来からの国民金融公庫で実施する仕組みでスタートした。

・ その後、貸付制度は幾多の変遷を繰り返し、組織としては、平成11年に環境衛生金融公庫は、国民金融公庫と統合し国民生活金融公庫となった。さらに、平成20年に国民生活金融公庫、農林漁業金融公庫、中小企業金融公庫及び国際協力銀行(国際金融等業務)の政府系4金融機関が統合し日本公庫となり、この中で国民生活事業本部の生活衛生部門において生活衛生貸付制度を担っている。

・ 生活衛生貸付制度は大きく分けて次の3つの制度がある。

ア 一般貸付制度
一般の生衛業者を対象にした衛生上の措置、設備の近代化を支援する貸付制度

イ 振興事業貸付制度
厚生労働大臣から振興計画の認定を受けた組合の組合員に対して振興計画に基づき実施する事業を支援する貸付制度

ウ 生活衛生改善貸付制度(衛経)
組合又は都道府県センターの実施する経営指導を金融面から補完し、経営指導事業の実効性を確保するため、小規模事業者が経営改善を行うに当たって必要とする小口資金を組合の長又は都道府県センターの長の推薦に基づき、日本公庫から無担保、無保証人で低利に融資し、小規模事業者の経営の改善を支援するための貸付制度

・ その他、景気悪化に伴う資金繰り対策として生活衛生関係営業セーフティネット貸付制度や、感染症又は食中毒の発生により著しい衛生環境の変化が生じた際に発動される衛生環境激変対策特別貸付制度もあり、今回の新型インフルエンザ発生時にも発動されている。

・ 以上のように、生活衛生貸付制度は、経営基盤の脆弱な生衛業の経営にとって不可欠な融資制度として重要な役割を担っている。

2 生活衛生貸付制度の現状と課題

・ 生活衛生貸付の貸付規模は、平成10年度の3,200億円に対し平成20年度は1,750億円となっている。貸付実績は、平成10年度2,271億円が平成20年度693億円と70%減少しており、貸付規模に対する貸付実績の比率でも71%から40%に低下している。この間、日本公庫の国民生活事業(従来の国民金融公庫の事業部分)の事業資金貸付全体の貸付実績は3割程度の低下にとどまっていたことから、事業資金貸付に占める生活衛生貸付のシェアは6.2%から3.2%に低下している。

・ 生活衛生貸付の平成20年度における貸付実績の内訳を見ると、振興事業貸付が315億円、一般貸付が316億円、生活衛生改善貸付(衛経)が46億円となっており、資金使途別では設備資金が91.1%、運転資金が8.9%の割合となっている。これに対して、同年度における日本公庫の国民生活事業の中の中小企業一般向けの普通貸付制度における生衛業者に対する貸付実績は1,293億円となっており、資金使途別では設備資金が33.1%、運転資金が66.9%の割合となっている。生活衛生貸付の貸付実績の減少要因として、昨年 の世界的な金融危機を発端とした景気の停滞により消費の低迷がみられる中で、生衛業者においては設備投資をする余力がなく、生活衛生貸付制度の大部分を担っている設備資金への需要が低くなっている可能性がある。加えて、景気低迷局面においては運転資金に対する資金需要が増大するものの、生活衛生貸付の一般貸付には運転資金がないため、生活衛生関係営業者が普通貸付で運転資金を借りていることも、生活衛生貸付の貸付実績が伸びていない原因の一つとなっている。

・ 生活衛生改善貸付制度(衛経)は、都道府県知事が委嘱している特相員の経営指導の効果を高めるという補完的な側面から昭和48年に創設されているが、同業者である特相員に経営内容が知られることについて抵抗感をもつ営業者が多く、また、事故率も高い水準を示していることから推薦自体を控える組合もあるという問題も指摘されている。

・ なお、都道府県や都道府県センターで実施している知事の推薦等の事務手続の中には、全国的な貸付制度であるにもかかわらず、申請に必要な書類や手続が都道府県でまちまちといった状況がある。

V 当面取り組むべき事項

1 基本的方向

・ 組合の活動は、衛生水準の確保のため生衛業者自らの自主的努力を進めることが重要であり、このための専門性の向上、経営支援、情報発信等が必要である。

また、連合会や組合においては、消費者・利用者のニーズに対応し、需要を喚起するなど業界全体の活性化に向けた取組が望まれる。

・ 都道府県センターの活動については、全般的に見ると都道府県の財政状況が厳しい中で予算措置が減少したり職員の削減が行われたりすることにより活動に支障が生じかねない状況となっている。こうした状況を打開するために、都道府県センターにおいては、設立の趣旨に立ち返って、組合の活動への支援強化、生衛業者への経営指導の充実、消費者・利用者の苦情処理対応の充実、補助事業の有効活用等を行い、事業の活性化を図ることが望まれる。各組合においても、都道府県センターを活動の拠点として連携協力を強め、日常的に事業の活性化を促していくことが望まれる。

・ 全国センターにおいては、組合活動の促進を図るため、連合会及び組合に対する振興助成事業等の拡充、都道府県センター職員の研修や情報提供の充実等を行うことが必要である。

・ 生活衛生貸付制度については、生衛業者に十分活用されるように、制度面や運用面の改善を図る必要がある。また、制度を運営する日本公庫においては、都道府県センターや組合と連携しながら、より一層制度の周知や情報提供などを図ることが必要である。

・ 国及び都道府県においては、全国センター及び都道府県センターに対する予算措置について効果的なものとなるよう努めることが必要であり、また、組合及び連合会に対して最新の行政施策や衛生関係等の情報について、積極的に提供するよう努めることが必要である。

2 具体的方策

(1)都道府県センター関係

[1] 都道府県センターにおける経営指導支援体制の強化

・ 現在、都道府県センターで行っている経営指導において、窓口相談指導、地区相談室の開設、巡回指導により年間約5万件の相談指導を実施しているが、その中でも、融資相談がその半分以上を占めているため、融資に精通した経営指導員の確保が不可欠である。そのためには、外部からの実務経験者の登用や専任職員の育成が考えられるが、育成に当たっては、全国センターが中心となった支援の取組が必要である。なお、貸付制度の研修については、日本公庫による支援が期待される。

・ 現代社会の多様化した中小企業のマーケティング診断指導への対応は非常に難しくなってきている中で、都道府県に1カ所しかないという都道府県センターの地理的環境や経営指導の専門家が少ないという抜本的な問題を解決するため、生衛業の支援に対する意欲の高い人材の確保・育成を図るとともに、Eメールを活用したインターネットによる相談指導を構築し、非常勤等の経営指導員の活用や中小企業診断協会等の外部専門機関との連携・活用も含め、営業者が利用しやすい相談・指導体制を確立する必要がある。

・ また、相談・指導の充実を図るためには、振興指針の内容や各組合の振興計画の事業内容を把握することが、より効果的な営業指導が可能になると推察される。なお、各都道府県組合においては、策定振興計画について都道府県センターに情報提供することが適切である。

・ 一方、現状では一人の経営指導員が全ての生衛業の相談等に対応するには非常に難しい面もあるので、業界別又は目的別に経営指導員に役割分担して配置する等の見直しや資質向上のための研修の強化等も検討する必要がある。

・ さらに、各保健所と連携しながら、営業者自らが実施する自主的な衛生管理への取組や営業施設の衛生水準の維持向上を図っていく事業(自主的衛生管理事業)についての支援や環境衛生監視員等との連携協力が必要である。

・ また、相談・指導事業の実施にあたって、経営指導員等の配置については、国から示された基準人数等にとらわれず、各都道府県の実情に応じ適宜増員を図るなど弾力的な運用により組合員の要望に応える必要もある。

[2] 都道府県センター等による組合加入に係る支援強化

・ 都道府県センターにおいては、組合未加入者に対する加入促進を図るため、新規開業を予定している営業者に対し、生活衛生貸付の知事推薦手続の機会を捉えるだけでなく、より早い段階から経営指導員等による開業に関する相談や講習会の開催、衛生基準や手続きに対する支援の機会を設け、その中で生衛法の趣旨の周知及び各種支援情報の提供と合わせて組合への加入勧奨を行うなど、組合加入活動を「ウエイト(待ち)」から「アクション(行動)」へ転換していくことが必要である。

・ また、保健所窓口においても、各組合のパンフレットの配置など組合の周知に協力することが望まれる。

[3] 地域実情を反映した活性化促進事業の推進

・ 現在、補助事業として実施している都道府県センターの活性化促進事業は、 まちおこし推進事業、生活衛生営業健康推進事業(健康入浴推進事業、飲食 店健康増進等普及支援事業等)に限定しているため、各地方の実情を反映し ておらず、使いにくいものとなっていることから実施率が低くなっていると 考えられる。このため、事業をメニュー化することにより各都道府県の生衛 業の実情に応じた事業に対応できるようにすることが必要である。また、地 域での実情に応じた事業が実施できるよう事業のメニューを都道府県や組合 が実施している事業を参考に拡大することが必要である。

・ また、都道府県センターには、まちおこし、環境保全、食の安全・安心、福祉、ボランティア活動等において、地域の活性化につながる生衛業に関するアドバイザー又はコーディネーターとしての役割も期待される。

[4] 消費者・利用者の苦情処理を円滑に行う体制の整備

・ 現在、都道府県センターに消費者・利用者からの苦情相談はほとんど寄せられていない状況にあり、消費者・利用者が都道府県センターで苦情相談を実施してることを認知していないのが大きな理由であると思われる。生衛業は、対面サービスであることから消費者・利用者がその場では苦情を表明しづらいため、不満足顧客はその店舗を再び利用しないという対応を取り、顧客の不満が顕在化しにくい傾向がある。

・ 本年10月より消費者庁が設置されることからも、苦情はサービスの質を高めるために重要なファクターであり、特に生衛業は国民生活に密着したサービスであることから、より消費者・利用者の目線に立ったサービス提供が必要であるという認識の下、消費者・利用者の苦情に適切に応対ができるよう、窓口機能のあり方やマニュアル作成など体制整備のために、消費者相談員をはじめ消費者団体との協力を得るとともに、各分野の専門知識を有する組合との連携による対応が必要である。また、消費者に対しては、ホームページ等による情報発信やイベント等の開催により都道府県センターを認知してもらうよう努めなければならな い。併せて、消費者団体等からの意見を踏まえて、消費者・利用者の生衛業に対するニーズの把握を行うことも期待される。

・ また、営業者が抱える消費者・利用者からの苦情に対する悩みについても経営相談の一環として対応できる仕組みが必要である。

[5] 地域社会への貢献に対する支援

・ 生衛業は、国民の日常生活に欠かせない営業であり、家事負担の軽減、高齢者の安心した暮らしの実現、単身世帯の拠として、地域社会を支える公共性を持つとともに、地域経済活動を側面から支えている重要な営業である。特に、世界でも希な超高齢化社会を迎える我が国にとって、その営業の特性を生かした取組は欠かせないものである。

・ 自治体及び都道府県センターは、生衛業を重要な地域資源として認識し、豊かで文化的な国民生活の実現のため、在宅高齢者への配食サービス、糖尿病やアレルギー疾患のある方に配慮したメニューの提供や表示、訪問理容美容サービス、独居高齢者への入浴機会の確保、地域の旅館・ホテルを活用したデイサービスや託老機能での活用、食品リサイクルやCO2削減など省エネ対策の実施、認知症サポーターの養成などについて組合と連携協力して、その取組を積極的に推進することが必要である。

・ 各県の組合も都道府県センターと連携して、自治体に対して積極的に働きかける必要がある。その際、個々の事業者や組合の活動であって他の参考となる優良事例については、都道府県センターとしても積極的に情報を収集するとともに、それらを他の都道府県センターとの間でも共有化し、生衛業全体で広く活用できるようにしていくことが望まれる。

[6] 地方交付税財源の活用

・  生活衛生営業振興助成交付金が平成11年度に廃止され、その後、「生活衛 生関係営業振興対策費」として約4億円が交付税措置されているが、約2億 円強の執行にとどまっている状況であり、平成20年度においては、全国の7 県で予算確保ができていない状況にある。都道府県センターとしても都道府 県担当者及び各組合と連携を密にし、効果的な事業の予算確保に努めること が必要である。

(2)全国センター関係

[1] 組合の振興事業の充実

・ 生活衛生振興推進事業は、現在、全国センターにより各連合会及び各都道府県組合の事業に助成しており、各組合等の創意工夫により事業を実施していて組合の活性化に寄与しているが、全ての組合の要望に対応できない状況もあるので、事業の拡大を図るとともに、意欲を持った取組に対する一層の支援の強化が必要である。

・ また、後継者確保に苦慮する業界を支援するための後継者支援事業、 省エネ ルギー実施促進事業など喫緊の課題に対する事業の充実が必要である。

[2] 約款制度(Sマーク)の普及拡大

・ 現在、「理容業」「美容業」「クリーニング業」「一般飲食業」「めん飲食類業」の5業種で導入しており、理容業、美容業、クリーニング業については、制定以来約25年経過し登録店舗数もある程度あるが、一般飲食業、めん類飲食業は制定後5年ほどであることもあり少数にとどまっている。全般的にSマークの認知度が消費者に低く、営業者においてもよく理解されていない部分があることから認知度を高める必要がある。そのための方策として、全業種において約款制度を制定して普及させることが考えられ、策定されていない業種においても策定に向けた検討が必要である。

・ すでに、約款制度を導入している業界においても、その後の環境規制の強化、サービス内容・技術の進展などが十分に反映されているとは言い難いため、見直しを行うことが必要である。

・ なお、約款制度を消費者、営業者へ周知することは、もちろん重要であるが、消費者センターの相談員にも周知し、消費者とのトラブル解決のための一つの方法として活用してもらうことが重要と考える。

[3] 「生衛業情報ネットワークシステム」等の活用

・ 全国センターの運営している生衛業者の経営相談等の情報提供システムである「生衛業情報ネットワークシステム」の機能を活用し、各都道府県センターの相談・指導業務や情報共有化等の充実を図る必要がある。また、外部専門機関と連    携して営業者が利用しやすい相談指導体制の方策を検討することも必要である。

・ また、情報発信の内容についても、環境保全、CO2削減対策等の営業者が活用できる情報を選択するとともに、関連ホームページとのリンク等によりきめ細やかな情報発信が行われるようにすることも望まれる。

(3)生活衛生貸付制度関係

[1] 生活衛生貸付制度の利用促進のための運用の改善等

・ 生活衛生貸付制度の利用を促進するためには、他の貸付制度と比べた制度面の優位性を確保するとともに、提出書類や手続の必要性を再度確認して簡素化するなど申請時の負担を軽減していくことが必要である。その際、都道府県によって申請に必要な書類がまちまちな状況については、国として最低限必要なものを示すことにより、できるだけ共通化していくことが期待される。

[2] 生活衛生改善貸付制度(衛経)の手続の改善

・ 生活衛生改善貸付制度(衛経)については、審査にあたる特相員が同業者であることから詳細な経営状況を知られてしまうことが、利用が進まない要因の一つとして指摘されている。このことから、従来の方法に加え、組合からの要請に基づき都道府県センターの経営指導員が審査を行うなど、組合と都道府県センターが連携を図り、利用者にとって利用しやすい貸付制度にすることが望まれる。また、組合事務局職員を特相員に指名することも一つの方法と考えられる。

[3] 振興事業貸付制度の充実

・ 平成21年度より振興事業貸付は、事業計画書を作成し、組合の検証を受けた場合には、利率が更に引き下げられる措置が講じられたが、当面は21年度限りの時限措置とされているので、より有効に活用し、組合員の振興事業への取組の支援とするために恒久的な措置となるよう取り組む必要がある。

[4] 制度の周知及び情報提供

・ 日本公庫の融資制度は、歴史的な経緯もあって複雑多岐であり、生衛業者にとってわかりづらい貸付制度となっていることから、日本公庫は、都道府県センターや組合と連携しながら生衛業者に対して説明会や相談会を開催するなどして、より一層制度の周知に努める必要がある。

・ また、生衛業者の営業や組合の事業の参考となるよう、日本公庫は、生衛業に係る経済金融事情等を把握、分析し都道府県センターや組合等を通じて広く情報提供していくことが期待される。

(4)国や都道府県の対応

[1] 財政的支援

・ 国(厚生労働省)は、国庫補助を通じて全国センターや都道府県センターの事業を支援しており、引き続き、都道府県センターや各連合会等の要望を踏まえつつ、事業の充実が図られるよう財政的支援を行うことが必要である。

・ 都道府県も、都道府県センターが実施する国庫補助事業及び都道府県単独事業への積極的な財政支援を行うことが重要である。

[2] 振興計画のフォローアップ

・ 現在、国において、生衛業の振興を計画的に推進して、公衆衛生の向上及び利用者の利益の増進を図る目的で、各業種の振興指針を5年サイクルで策定し、それを基に各組合において振興計画を策定し、国(各地方厚生局)の認可を受けている。

・ 国においては振興計画の実施状況をフォローアップし、その情報を各都道府県及び各組合に提供する等により、着実な事業の推進や必要な支援に活用できるようにすることが必要である。

[3] 各種情報提供

・ 国や都道府県は、新型インフルエンザ等に関する衛生関係の情報等、都道府県センターや連合会、組合が必要な行政施策等に関する正確な情報を、引き続き迅速に提供することが求められる。

VI おわりに

今回の報告書をもとにして、生衛業の振興のための施策に生かされるとともに、生衛業関係者などにおいて、今後の生衛業振興のための議論が活発に行われることを望むものである。


トップへ