厚生労働省

  • 文字サイズの変更
  • 小
  • 中
  • 大

1. 家庭用品等に係る皮膚障害に関する報告

(1)原因製品の種別の動向

皮膚障害に関する報告の事例は62件報告された。これらの事例のなかには、1事例に対し原因と推定される家庭用品や皮膚障害の種類が複数あげられているものが含まれている。

原因と推定された家庭用品をカテゴリー別に見ると、装飾品等の「身の回り品」が51件で最も多く、次いで下着等の「衣料品」が11件、洗剤等の「家庭用化学製品」が9件であった (表1)。

家庭用品の種類別では「装飾品」が15件(17.6%)で最も多く報告された。次いで「時計バンド」が7件(8.2%)、「時計」及び「ベルト」が各6件(7.1%)、「下着」が5件(5.9%)、「めがね」、「革靴」、「洗剤」及び「スポーツ用品」が各4件(4.7%)、「くつ下」及び「ゴム手袋」が各3件(3.5%)の順であった(表2)。従来、報告件数の上位3品目に、洗剤、装飾品、ゴム・ビニール手袋があがることが続いていた。昨年度、今年度は品目ごとの報告数にあまり差が見られず、また全体の件数が従来より減少したため、順位が異なったと考えられる。

これまでの報告内容と統計的な比較は適当でないものの、装飾品が上位3品目に入っており(図1)、またそれ以外の製品についても、報告数、割合に変動があったものの概ね過去の上位10品目と同様の品目で占められていた。

注 「洗 剤」:野菜、食器等を洗う台所用及び洗濯用洗剤

「洗浄剤」:トイレ、風呂等の住居用洗浄剤

(2)各報告項目の動向

患者の性別では女性が44件(71.0%)と大半を占めた。そのうち20、30、50歳代が各10件であり、他の年代は、これらに比較して少なかった。 皮膚障害の種類は、「刺激性皮膚炎」が31件(46.3%)と最も多く、次いで「アレルギー性接触皮膚炎」が30件(44.7%)であった。

症状の転帰については、「全治」と「軽快」を合計すると53件(85.5%)であった。なお、本年も「不明」が6件あったが、このような転帰不明の報告例は、症状が軽快した場合に受診者が自身の判断で途中から通院を打ち切っているものと考えられる。

(3)原因製品別考察

1)装飾品

平成19年度における装飾品に関する報告件数は15件(17.6%)であった。前年度18件(27.3%)と比較すると、件数、割合共に減少していた(表2)。

 

原因製品別の内訳は、ネックレスが7件、指輪が2件、ブレスレットが1件、複数によるものが5件であった。

障害の種類では、アレルギー性接触皮膚炎が14件(93.3%)と最も多かった。

 

金属の装飾品について、11件でパッチテストが施行され、コバルト(8件)、ニッケル(7件)にアレルギー反応を示した例が多かった(表3)。他にはパラジウム、金、銅、白金でパッチテストによりアレルギー反応が観察された。

このような金属による健康障害は、金属が装飾品より溶けだして症状が発現すると考えられる。そのため、直接皮膚に接触しないように装着することにより、被害を回避できると考えられる。しかしながら、夏場や運動時等、汗を大量にかく可能性のある時には装飾品類をはずす等の気を配ることが被害を回避する観点からは望ましい。また、ピアスは耳たぶ等に穴を開けて装着するため、表皮より深部と接触する可能性が高い。このため、初めて装着したり、種類を変えたりした後には、アレルギー症状の発現などに対して特に注意を払う必要がある。重症化し、治療が長期にわたることもありうるので、症状が発現した場合には、原因と思われる製品の装着を避け、装飾品を使用する場合には別の素材のものに変更することが症状の悪化を防ぐ上で望ましい。さらに、早急に専門医の診療を受けることを推奨したい。

ある装飾品により金属に対するアレルギー反応が認められた場合には、金属製の別の装飾品、めがね、時計バンド、ベルト、ボタン等の使用時にもアレルギー症状が起こる可能性があるので、同様に注意を払う必要がある。例えば、症例の多いニッケルアレルギーの場合、金色に着色された金属製品はニッケルメッキが施されている場合が多いので注意が必要である。また、歯科治療や骨固定等に用いる医療材料の使用の可否に影響することもあるため、装飾品により金属に対するアレルギー症状が判明した場合には、歯科診療時等に、医療従事者に対しこれまでの既往症を的確に伝えることが必要である。

◎事例1【原因製品:ネックレス】
患者

62歳女性

症状

20年前にイヤリングでかぶれたことあり。6月に、1日ネックレスをつけて汗をかいた。翌日から紅斑、浮腫がみられた。

障害の種類

アレルギー性接触皮膚炎

パッチテスト

コバルト(++)、クロム(++)、白金(++) ニッケル、水銀、金、銀、鉄、インジウム、イリジウム、パラジウム、チタンは全て陰性

治療・処置

ステロイド薬外用

転帰

全治(10日)

<担当医のコメント>

金属によるアレルギーは接触皮膚炎と考える。

◎事例2【原因製品:ネックレス、指輪、時計バンド(金属)】
患者

31歳女性

症状

2年程前に手にそう痒が出現し、拡大してきた。1年程前より、足にもそう痒、水疱が出現した。近医皮膚科にて外用処方されたが改善しない。以前より、メッキのアクセサリーにかぶれることがあった。

障害の種類

異汗性湿疹(注)

パッチテスト

コバルト(++)、亜鉛(+?)

治療・処置

抗アレルギー薬内服、ステロイド外用

転帰

軽快

「異汗性湿疹」:手掌、指の間、足蹠に痒みを伴う小水疱を生じ、通常2〜3週間で消失する。当初は汗の貯留が原因で発症すると考えられたためこの名称がつけられたが、現在では金属アレルギーなど種々の原因によって起こる湿疹・皮膚炎の一形態と考えられており、発汗との関係は必ずしも明らかではない。春・夏に好発する。

<担当医のコメント>

異汗性湿疹の臨床像である。装飾品の経皮感作のみではなく、歯科金属、食品経由の全身性金属アレルギーと考える。

◎事例3【原因製品:指輪】
患者

38歳女性

症状

平成18年度に結婚し、リングをはめた。毎日はめている。9か月後に1度赤くなり、リングを外すと治った。再び5日後につけたところ、また紅斑あり。そう痒を伴った。

障害の種類

アレルギー性接触皮膚炎

パッチテスト

未実施

治療・処置

ステロイド薬外用

転帰

全治(10日)

<担当医のコメント>

パッチテストを行っていないため原因は不明であり、アレルギーとも断定できない。

◎事例4【原因製品:ブレスレット】
患者

50歳女性

症状

ブレスレット(漆入り)を10月に購入し、10月9日に6時間、11日に6時間、12日に4時間装着した。13日より左手首に発疹が出現した。なお、従来から、マンゴーにかぶれるとのこと。なお、パッチテスト未実施のため、漆が原因かどうかは不明。

障害の種類

アレルギー性接触皮膚炎

パッチテスト

未実施

治療・処置

ブレスレットの使用中止、ステロイド外用

転帰

全治(20日)

<担当医のコメント>

感作をおこしやすい漆をブレスレットなどに塗るのは不適当と思われる。

2)時計・時計バンド

平成19年度における時計に関する報告件数は6件(7.1%)、時計バンドに関する報告件数は7件(8.2%)であった(表2)。

内訳を見ると、時計では、金属が5件、不明が1件、時計バンドでは、金属が3件、革が3件、金属・革双方に関するものが1件であった。

時計・時計バンドが原因となった健康障害の種類は、双方ともアレルギー性接触皮膚炎が最も多く、時計では5件(83.3%)、時計バンドでは6件(85.7%)であった。

これらの症状は皮膚と時計及び時計バンドの成分とが接触することにより発現するので、症状が発現した場合には、すみやかに別の素材のものに変更することにより被害を防ぐことができる。金属バンドでアレルギー症状が発現した場合には、イヤリング、ピアス、ネックレス等の他、金属製品の使用に際しても注意が必要である。

◎事例1【原因製品:時計・バックル(金属)】
患者

22歳男性

症状

腹部に滲出液を伴う紅斑あり。左手首の時計にあたるところにも同様に、そう痒を伴う紅斑を認める。

障害の種類

アレルギー性接触皮膚炎

パッチテスト

未実施

治療・処置

抗ヒスタミン薬、ステロイド薬外用

転帰

軽快

<担当医のコメント>

金属によるアレルギー性接触皮膚炎が考えられる。ただし、パッチテスト未実施のため確定できない。

◎事例2【原因製品:時計バンド(革)】
患者

69歳男性

症状

以前より時々、革製の時計バンドでかぶれる。左手首の紅斑を主訴に来院した。

障害の種類

アレルギー性接触皮膚炎

パッチテスト

未実施

治療・処置

金属の時計バンドに替え、外用ステロイド薬を処方して症状が消失した。

転帰

全治(14日)

<担当医のコメント>

パッチテストを施行しておらず、クロムが原因か否かは不明

3)洗剤

平成19年度における洗剤に関する報告件数は4件(4.7%)であった(表2)。

内訳を見ると、原因は、台所用洗剤が3件、不明が1件であった。

洗剤が原因となった健康障害の種類は、4件とも刺激性皮膚炎だった。

皮膚を高頻度で水や洗剤にさらすことにより、皮膚の保護機能が低下し、手の湿疹や刺激性皮膚炎が起こりやすくなっていたり、また高濃度で使用した場合に障害が起こったりというように、症状の発現には、化学物質である洗剤成分と様々な要因(皮膚の状態、洗剤の使用法・濃度・頻度、使用時の気温・水温等)が複合的に関与しているものと考えられる。基本的な障害防止策としては、使用上の注意・表示をよく読み、希釈倍率に注意する等、正しい使用方法を守ることが第一である。また、必要に応じて、保護手袋を着用することや、使用後、クリームを塗ることなどの工夫も有効な対処法と思われる。それでもなお、症状が発現した場合には、原因と思われる製品の使用を中止し、早期に専門医を受診することを推奨したい。

◎事例1【原因製品:台所用洗剤】

患者

49歳女性

症状

3年前より台所用洗剤を使用するたび両手の乾燥、亀裂、痒みがみられ、軽度の時は保湿クリームで改善するが、症状によっては、2週間ぐらい続くことがある。

障害の種類

刺激性皮膚炎

パッチテスト

未実施

治療・処置

ステロイド薬外用

転帰

全治(7日)

<担当医のコメント>

手の防護の指導(ポリウレタン尿素樹脂製手袋の着用、保護オイル(注)の使用等)を行い、症状は改善している。

保護オイル:ポリエーテル変性シリコンで皮膚を被い保護する製品

◎事例2【原因製品:台所用洗剤】

患者

30歳女性

症状

1週間前、台所用洗剤を変更し、手指に乾燥、紅斑がみられるようになった。全体に痒みを伴う。

障害の種類

刺激性皮膚炎

パッチテスト

未実施

治療・処置

ステロイド薬外用

転帰

軽快

<担当医のコメント>

台所洗剤の変更と、手の防護指導で軽快した。

4)眼鏡

平成19年度における眼鏡に関する報告件数は4件(4.7%)であった(表2)。

障害の種類では、アレルギー性接触皮膚炎が3件、刺激性皮膚炎が1件であった。

また被害を発症した原因を見ると、フレーム部分によるものが1件、パッチテストにより金属アレルギーが判明し、眼鏡全体によるものと考えられるものが2件、不明が1件であった。

◎事例1【原因製品:眼鏡(金属)・ベルトのバックル(金属)】
患者

32歳男性

症状

平成19年9月より、眼鏡が触れる部分、ベルトのバックルが当たる部分に紅斑出現。金属アレルギー精査のため来院。

障害の種類

アレルギー性接触皮膚炎

パッチテスト

コバルト(++)、ニッケル(++)、クロム(+)、銅(+)、パラジウム(+)、白金(+)、チウラムmix(++)

治療・処置

ステロイド薬外用、抗アレルギー薬内服

転帰

軽快

<担当医のコメント>

眼鏡はチタンフレームに変更。金属製品使用中止の生活指導をした。

◎事例2【原因製品:眼鏡(金属)】
患者

73歳女性

症状

数年前より眼鏡を使用するようになった。1年前より眼鏡が当たる鼻の部分にそう痒がみられ、その後色素沈着となったときに乾燥し、紅斑がみられることもある。眼鏡は同一のものを使用している。

障害の種類

刺激性皮膚炎

パッチテスト

未実施

治療・処置

抗アレルギー薬内服、ステロイド薬、非ステロイド薬外用

転帰

軽快

<担当医のコメント>

パッチテストを行っていないため、アレルギー性の反応かは不明である。

5)下着

平成19年度における下着に関する報告件数は5件(5.9%)であった(表2)。

障害の種類としては、刺激性皮膚炎が4件、アレルギー性接触皮膚炎が1件であった。

下着は長時間にわたって直接皮膚に触れているため、何らかの障害が認められた場合には、原因と思われる製品の使用を中止し、専門医を受診することを推奨したい。

◎事例1【原因製品:下着】
患者

23歳女性

症状

数年前に、インターネットで購入したブラジャー(ヒモ・留め金等がなく皮膚に直接貼り付けるタイプのもので、主にポリウレタン、シリコン等で表面をコーティングしているものがある)を1日着け、紅斑、水疱、そう痒がみられた。

障害の種類

刺激性皮膚炎

パッチテスト

下着(+?)

治療・処置

ステロイド薬外用

転帰

全治(10日)

<担当医のコメント>

成分テストを施行できず、アレルギー性皮膚炎であるのか、刺激性皮膚炎であるのかは不明である。

◎事例2【原因製品:下着・ネックレス】
患者

21歳女性

症状

平成18年秋頃より、ネックレスや下着の金具があたるところ が赤くなる。後頸部、背部に皮疹を認める。

障害の種類

アレルギー性接触皮膚炎

パッチテスト

未実施

治療・処置

ステロイド薬外用

転帰

軽快

<担当医のコメント>

パッチテストを行っておらず、アレルギー性皮膚炎であるのか、刺激性皮膚炎であるのかは不明である。

◎事例3【原因製品:下着】
患者

25歳女性

症状

1週間程前より、躰幹に痒みを伴う紅斑見られ、徐々に広がっている。ややしめつけるタイプの下着を使用するようになった。

障害の種類

刺激性皮膚炎

パッチテスト

下着(+)

治療・処置

ステロイド薬外用

転帰

全治(14日)

<担当医のコメント>

下着を変更し症状軽快し、回復した。

6)その他

その他、被害報告件数が多かったものはベルトが6件、革靴、スポーツ用品が各4件、ゴム・ビニール手袋、くつ下が各3件、ナイロンタオルが2件であった。また、今までに報告されたことのなかったものとして、つけ爪による健康被害が2件報告された。本年10月に出された国民生活センターのつけ爪による危害に関する報告書によると、近年、施術による危害事例のほか、つけ爪の用具等によるやけどやかぶれ等の健康被害が数件報告されているということである。

近年、次々と新商品が発売されており、それに伴い人体に暴露される化学物質の種類も多様化しているが、家庭用品が原因となって長期治療を要する症状も起こりうるということを認識し、製造業者において化学物質の安全性についてあらかじめ十分に点検することとともに、消費者も、特に皮膚に直接触れるような製品を新しく使用する場合には、注意して使用することが必要である。

◎事例1【原因製品:つけ爪】

患者

27歳女性

症状

4年前よりつけ爪をしている。つけ爪に専用の接着剤を塗って、両手の全ての手指の爪の甲に1日中貼っていたということ。2週間程前から、右の第2、4指の爪周囲に滲出を伴う紅斑が出現し、同時期より、口唇の上、前額にも紅斑を認めた。

障害の種類

刺激性皮膚炎

パッチテスト

未実施

治療・処置

ステロイド薬外用・内服

転帰

軽快

<担当医のコメント>

おそらく、つけ爪の接着剤が原因と考えられる。口唇の上、前額に認められた紅斑は、爪で顔に触れたことが原因と考察される。

◎事例2【原因製品:家庭用手袋】
患者

54歳女性

症状

数年来、両手の甲に痒みのある皮疹が続いている。3か月前より増悪し、全身に湿疹が拡大した。手が最も重症である。

障害の種類

アレルギー性接触皮膚炎

パッチテスト

家庭用手袋(成分不明)(++)

治療・処置

手袋の使用中止、ステロイド薬外用

転帰

軽快

<担当医のコメント>

患者自らの判断で適切でない治療を行ったため手以外にも拡大し悪化したと考えられる。

◎事例3【原因製品:ラテックス手袋】
患者

39歳男性

症状

平成11年頃より、手袋をした直後に手に蕁麻疹が出現。軽快を繰り返す。

障害の種類

接触蕁麻疹

パッチテスト

ラテックス手袋(−)、ダーマプレン(ノンパウダー)(−)
※ラテックス手袋pricktestは++、ラテックスIgEは強い陽性(クラス4)

治療・処置

ラテックス手袋の使用中止、ステロイド薬外用

転帰

軽快

◎事例4【原因製品:弾性ストッキング】
患者

39歳女性

症状

出産に伴い、弾性ストッキングや産褥パンツを着用したら、臀部から大腿部に発赤を認め、そう痒が出現した。そう痒部にメンソレータムを外用したら赤くなった。

障害の種類

刺激性皮膚炎

パッチテスト

実施したが、全ての項目で陰性

治療・処置

ステロイド薬内服・外用

転帰

軽快

<担当医のコメント>

圧縮のないストッキング使用で問題がなくなった。

◎事例5【原因製品:革靴】
患者

75歳女性

症状

1か月程前に山へ行き、3日間湿潤した状況で、くつ下をはいたまま、黒い革靴(靴底も革)をはき続けていたところ、足底、趾背に皮疹が出現した。

障害の種類

アレルギー性接触皮膚炎

パッチテスト

コバルト(+)、ニッケル(+)、クロム(+)、水銀(+?)、白金(+?) 金、銀、カドミウム、銅、鉄、インジウム、イリジウム、マンガン、モリブデン、パラジウム、アンチモン、錫、チタン、タングステン、亜鉛は全て陰性。ただし、7日後にパラジウム(+?)

治療・処置

ステロイド薬外用

転帰

軽快

◎事例6【原因製品:革靴(合成革)】
患者

27歳女性

症状

1週間程前より、足背に赤い皮疹が出現した。足底が赤く痒くなり、ステロイド薬を外用するも改善しないため受診。

障害の種類

刺激性接触皮膚炎

パッチテスト

合成革(+?)、スポンジ外側合成革(+?)、カインmix(+)、フラグランスmix(+?)、コバルト(−)

治療・処置

ビタミン剤、抗プラスミン薬内服

転帰

軽快

<担当医のコメント>

パッチテストではアレルギー反応を説明し得ず、刺激反応の可能性がある。

◎事例7【原因製品:ナイロンタオル】
患者

65歳女性

症状

ナイロンタオルを数十年使用している。両肩に色素沈着が出現してきた。

障害の種類

色素沈着

パッチテスト

未実施

治療・処置

ナイロンタオルの使用中止、ステロイド薬外用

転帰

軽快

<担当医のコメント>

ナイロンタオルの長期使用が色素沈着の原因となることを引き続き啓発する必要がある。

◎事例8【原因製品:トロンボーン】
患者

47歳女性

症状

3年前頃より、そう痒を伴い、鱗屑、小水疱を混じる紅斑が両手に認められており、頸部、躰幹、四肢にも紅斑を認めた。皮疹の改善がないため受診。 障害の種類自家感作性皮膚炎(注)

パッチテスト

レゾルシン(7日後に+)、ホルムアルデヒド(7日後に+) コバルト、ニッケル、クロム、水銀、金、銀、カドミウム、銅、鉄、イリジウム、マンガン、モリブデン、パラジウム、白金、アンチモン、錫、チタン、亜鉛は全て陰性

治療・処置

抗ヒスタミン薬内服、ヘパリン類似物質軟膏外用(保湿剤)、ステロイド薬外用

転帰

軽快

(注)「自家感作性皮膚炎」:もとの湿疹性病変が悪化することに伴い、その周辺 から全身に丘疹または紅斑が広がる状態

<担当医のコメント>

皮疹がトロンボーンに触れる部位により始まり拡大していった経緯よりトロンボーンによる症状であることが疑われた。

◎事例9【原因製品:ゴーグル】
患者

42歳男性

症状

1ヶ月前頃より、両眼周囲に落屑性紅斑が出現。10年前より水泳でゴーグルを使用しており、現在使用しているゴーグル(黒いゴム)は1年前より使用している。

障害の種類

刺激性皮膚炎

パッチテスト

水銀(+)

MBT、MOR、CBS、TMTM、TMTD、DPG、IPPD、DPPD、コバルト、ニッケル、クロム、銅、カーボンは全て陰性

治療・処置

ステロイド薬外用

転帰

軽快

◎事例10【原因製品:サポーター】
患者

72歳女性

症状

15年程前から種々のサポーターを膝に使用している。1か月程前からサポーターを替えたところ、数日後に、両膝に痒みを伴う紅斑、丘疹がみられた。

障害の種類

刺激性皮膚炎

パッチテスト

未実施

治療・処置

ステロイド薬外用

転帰

全治(7日)

<担当医のコメント>

サポーターを変更し、ステロイド外用により速やかに症状回復した。

◎事例11【原因製品:携帯電話】
患者

31歳男性

症状

1年程前、右頬、両耳に紅斑、時に膿痂疹様皮疹となり、ステロイド薬外用すると一時軽快していた。携帯電話を頻繁に使用しているということ。特に右は、電話がよくあたり、皮疹が治りにくい。金属のものからプラスチック製のものに替えて、皮疹はやや軽快した。

障害の種類

刺激性皮膚炎

パッチテスト

未実施

治療・処置

ステロイド薬外用

転帰

軽快

<担当医のコメント>

パッチテストは仕事の都合で実施できず、今までに時計などの金属製品での皮膚トラブルはない。コーティング剤が原因である可能性がある。

(4)まとめ

平成19年度の家庭用品を主な原因とする皮膚障害の種類の内訳は、刺激性皮膚炎を生じていたものが31件、アレルギー性接触皮膚炎を生じていたものが30件であった。アレルギー性接触皮膚炎の中では、装飾品、めがね、ベルト(留め金等)、時計や時計バンド等で金属アレルギーが判明したものが約5割を占めた。

家庭用品を主な原因とする皮膚障害は、原因家庭用品との接触によって発生する場合がほとんどである。事業者においては家庭用品に使用する化学物質の種類、経時変化等に留意して、事故の未然防止に努める必要がある。また、消費者においても家庭用品を使用することによって接触部位に痒み、湿疹等の症状が発現した場合には、原因と考えられる家庭用品の使用は極力避けることが望ましい。

気付かずに原因製品の使用を継続すると、症状の悪化を招き、今回紹介した事例にも見られるように後の治療が長引く可能性がある。症状の重症化及び遷延化を避けるためにも、原因製品の特定が重要と考えられる。症状が治まった後、再度使用して同様の症状が発現するような場合には、同一の素材のものの使用は以後避けることが賢明であり、症状が改善しない場合には、専門医の診療を受けることが必要である。さらに、日頃から使用前には必ず注意書きをよく読み、正しい使用方法を守ることや、化学物質に対して感受性が高くなっているアレルギー患者等では、自分がどのような化学物質に反応する可能性があるのかを認識し、使用する製品の素材について注意を払うことも大切である。

なお、平成19年5月14日に施行された改正消費生活用製品安全法に基づく消費生活用製品の使用に伴う重大製品事故(死亡、治療に要する期間が30日以上の負傷・疾病等 消費生活用製品安全法施行令第4条で定める要件に該当するもの)について事業者から経済産業省への報告制度が開始された。そのうち製品に使用されている化学物質が発症原因と考えられるものについては、経済産業省から厚生労働省に通知されるため、厚生労働省から適宜情報提供を行っていくこととしている。皮膚障害関連の重大製品事故としては、平成19年度中に、本制度に基づき、デスクマットによるアレルギー性接触皮膚炎等について情報提供を行ったところである。本報告とともに、このような情報も家庭用品の事故防止に有用である。


トップへ