第2 平成20年度地方労働行政の課題

1 地域活性化と成長力強化に向けた雇用対策・職業能力開発等の推進

(1)地域雇用対策の充実

雇用失業情勢は、地域別にみると、堅調に推移している地域もある一方で、依然として、雇用の改善の動きが弱い地域が存在しており、地域差がみられる状況である。このような状況に対応するためには、地域が自発的に創意工夫をし、雇用機会の創出に取り組んでいくことが重要である。このため、雇用創造に向けた意欲が高い地域における取組に対する支援を強化するなど、雇用失業情勢の厳しい地域に対する支援を重点化し、地域の雇用創出を効果的に促進する必要がある。

また、地方再生戦略(平成19年11月30日地域活性化統合本部会合了承)に基づく取組にも積極的に参画していく必要がある。

(2)母子家庭、生活保護世帯、障害者等の福祉・雇用両面の支援による自立・生活の向上

ア 公共職業安定所と福祉事務所等との連携による就労支援の機能強化
 生活保護受給者等については、受給者の大幅な増加とともにその抱える問題の多様化、受給期間の長期化などの問題がみられることから、その自立を図るため、個々の状況に応じた就労支援が重要となっている。
 また、格差の固定化を防止する等の観点から打ち出された「再チャレンジ支援総合プラン」や「成長力底上げ戦略」の中に、生活保護受給者等の福祉と雇用の連携による就労支援が位置付けられ、その一層の充実が求められていることから、福祉事務所等との連携強化を図り、就労支援をより一層推進する必要がある。

イ 障害者の雇用の確保
 障害者の社会参加が進展し、就業に対する意欲も高まる中で、障害者の雇用機会の拡大を図っていくために、雇用率達成指導の厳正な実施、きめ細かな職業相談・職業紹介、各種の雇用支援策等を効果的に実施していく必要がある。
 また、障害者の一人一人が地域で自立した生活を営むことができるよう、福祉・教育施策や職業能力開発施策などとの連携を図っていくとともに、精神障害、発達障害等、障害の特性に応じたきめ細かな支援を充実していくことが必要となっている。

ウ 困難な状況を克服し、再就職や安定的雇用への転職を目指す人たちへの支援の実施
 住居を失い、インターネットカフェ等で寝泊まりしながら不安定な就労を行う者の存在が指摘されているが、これらの者は、低収入であるために住居が確保できず、逆に住所がないために安定的な就労先や収入を確保できないという悪循環に陥っている者が多い状況にあるため、住居の確保に向けた支援を行いつつ、できるだけ早期により安定的な就労機会が確保できるように支援する必要がある。
 また、35歳以上の不安定な就労を繰り返す傾向がある者に対して、格差を固定化させない社会を構築していく上でも、一貫したきめ細かな就職支援を行う必要がある。
 さらに刑務所出所者等に対する就労支援策は、その再犯を防止し、改善・更生を図る上で重要であるが、刑務所出所者等は多くの場合、就労経験が少なく、また、その前歴がゆえに社会から排除されやすいことなどにより就労機会が制約されていることから、刑務所・保護観察所等との連携強化を図り、その就労支援を推進する必要がある。

(3)中小企業の人材確保等への支援と最低賃金制度の充実

ア 中小企業の生産性向上等に向けた人材面からの支援・雇用対策の充実
 人口減少下において、生産性の向上が成長力強化のカギとなる中で、中小企業においては、大企業と比較し、生産性や雇用管理の面において依然として格差がみられ、成長力の底上げを図る上で基盤となる人材を確保するとともに、職場への定着を円滑に進めていくことが重要かつ喫緊の課題となっており、これに向けた取組に対する支援を実施する必要がある。

イ 技能継承問題への対応
 「団塊の世代」の引退時期が迫る中で、熟練技能者が有する優れた技能を失うことなく、次の世代へ円滑に継承していくことが重要であり、技能継承・技能者育成に取り組む中小企業等への支援や若者を現場に誘導するための取組が必要である。

ウ 改正最低賃金法の円滑な施行
 最低賃金制度は、賃金の低廉な労働者の労働条件の下支えとして重要なものであり、就業形態の多様化等といった社会経済情勢の変化に対応して、セーフティネットとして一層適切に機能することが求められていることから最低賃金法改正法の円滑な施行が必要である。

(4)若者の雇用・生活の安定と働く意欲の向上

年長フリーターやニートが依然として多い中、若者が意欲を持って働き、安定した収入を得られるようにすることは、格差を固定化させない社会を構築していく上でも重要な課題である。このため、フリーター常用雇用化プラン等の各施策を着実に実施することにより、我が国の将来を担う若者が、安心・納得して働き、その意欲や能力を十分に発揮できる社会の実現を目指すことが重要である。

(5)能力発揮社会の実現

人口減少下においても持続的な経済成長を可能とするためには、生産性の向上が重要であり、そのための基盤づくりが喫緊の課題となっている中、一人一人が職業能力を開発する機会を持ち、その職業能力を発揮できる社会に向けて本格的な取組を実施することが必要である。

特に、フリーター、母子家庭の母等、子育て終了後の女性等正社員を希望しても正社員以外の雇用形態にとどまらざるを得なかったことにより、職業能力形成の機会に恵まれなかった者に対し、支援を行う必要がある。

2 働く人たちの安全・安心の確保と公正かつ多様な働き方の実現

(1)安全・安心な職場づくり

近年、国民生活の安全・安心の確保が大きな課題となっている。このため、労働行政においても、こうした観点から果たすべき役割の重要性を踏まえ、一般労働条件の確保・改善対策を積極的に推進し、企業における基本的な労働条件の枠組み及びそれらに関する管理体制を適正に確立させ、これを定着させていくことが重要である。

また、平成20年度は第11次の労働災害防止計画の初年度に当たるが、本計画は、近年の労働災害、社会・経済の状況等を踏まえ、労働災害全体を減少させるため事業場におけるリスク低減対策を促進するとともに、重篤な労働災害に対する具体的な防止対策の充実を図り、これを的確に推進することを基本としており、本計画の目標を達成するためには、都道府県労働局及び労働基準監督署(以下「局署」という。)における本計画に基づく各施策の確実な実施が重要となる。

さらに、企業組織の再編や企業の人事労務管理の個別化、就業形態の多様化等を背景として増加する個別労働紛争について、その実情に即した迅速かつ適正な解決に向け、都道府県労働局において、的確な相談・情報提供、助言・指導及びあっせんの実施等の個別労働紛争解決制度の積極的な運用に努めるとともに、企業内における紛争の自主的な解決を促進する必要がある。

(2)公正かつ多様な働き方を実現できる労働環境の整備

ア 労働契約に関する基本的なルールの周知徹底
 個別労働紛争が増加傾向にある中で、労働者が安心・納得して働くことができるようにするため、労働契約に関する基本的なルールを定める労働契約法の趣旨に沿って、合理的な労働条件の決定又は変更が円滑に行われることが重要である。

イ パートタイム労働者の均衡のとれた待遇の推進等
 パートタイム労働者は近年増加しており、また、男性や若年者の増加といった従来とは異なる傾向もみられる中、企業における基幹化の動きが進行し、我が国の経済社会に欠くことのできない存在になっている。しかしながら、賃金など待遇面においては、正社員とパートタイム労働者との間に不合理な格差がみられることから、パートタイム労働者について、働き・貢献に見合った公正な待遇を確保し、その能力を一層有効に発揮できる雇用環境を整備する必要がある。また、多様な働き方の選択肢の整備を図るため、短時間正社員制度の導入促進、在宅ワークの健全な発展のための施策の推進等が求められている。

ウ 男女雇用機会均等の更なる推進
 仕事と生活に対する考え方が多様化する中で、労働者が性別により差別されることなく、かつ、働く女性が母性を尊重されつつ、その能力を十分に発揮することができるような公正な待遇を確保する必要がある。

エ 労働者派遣事業の適正な運営の確保
 近年、労働者派遣の中でも日々又は30日以内の雇用期間の者を派遣する日雇派遣等、特に雇用が不安定な働き方が出てきていることや、いわゆる偽装請負や禁止業務への派遣等違法派遣が増加しており、また、これらが、正社員以外の不安定な雇用の象徴として論じられている状況にかんがみ、派遣労働者の雇用の安定を図るとともに、派遣労働者が安心・納得して働くことができるような環境を整備することが課題となっている。

オ 有期契約労働者の処遇の改善等
 正社員以外の者は若年層を中心として増加傾向にあり、中長期的な生産性・競争力の低下、不安定就労の増大や社会保障システムの脆弱化等の諸問題を引き起こす恐れがあるが、フリーター25万人常用雇用化プラン及びパートタイム労働法に基づく関係施策等において明確に支援対象として位置付けられていない契約社員や期間工等の有期労働契約を締結している労働者(以下「有期契約労働者」という。)については、雇用管理の改善への取組が十分に行われていない等の状況にある。 また、雇用対策法及び地域雇用開発促進法の一部を改正する法律案に対する附帯決議(平成19年5月31日参議院厚生労働委員会)においては、「有期労働契約を締結している労働者についても、その雇用管理の改善や通常の労働者への転換を支援するための施策を講ずる」ことが求められていることから、有期契約労働者の処遇を改善する必要がある。

(3)持続的なキャリア形成の実現

ア 女性の職業キャリアの継続が可能となる環境整備
 少子化・高齢化による本格的な人口減少が見込まれる中、女性労働力の活用は一層重要となっている。このような中で、女性の継続就業を取り巻く現状をみると、就業の継続を希望しながらも、出産、育児等により離職する女性が依然として多く、また、一旦離職すると再就職・再就業が困難になっていることから、働き続けることを希望する者が就業意欲を失うことなくその能力を伸長・発揮できるための環境を整備するとともに、出産・育児等により離職した女性について、その能力を活かした再就職・再就業を支援していくことが必要である。

イ 高齢者の雇用対策
 少子化・高齢化の急速な進行による人口減少が見込まれる中、働く意欲と能力を有する高齢者が、長年にわたり培った知識や経験を活かし、社会の支え手として活躍していくことが重要である。また、再チャレンジ支援総合プランの行動計画では、「60歳以上の労働力人口を2005年から2015年に160万人増加させる」ことを目標としているため、高年齢者雇用安定法に基づく高年齢者雇用確保措置の着実な実施等により、65歳までの雇用確保を図るとともに、65歳を超えても働ける社会の実現に向けた取組を進め、意欲と能力のある限り、年齢にかかわりなく働き続けることができる社会を構築する必要がある。

3 仕事と生活の調和の実現

仕事と生活の調和の実現に向けた取組については、「ワーク・ライフ・バランス推進官民トップ会議」において、平成19年12月に「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」(以下「憲章」という。)及び「仕事と生活の調和推進のための行動指針」(以下「行動指針」という。)が策定され、社会的気運の醸成や企業の取組の促進、多様な働き方に対応した子育て支援や介護の基盤作りなどに、官民一体となって取り組んでいくこととなった。

また、同じく12月に取りまとめられた「『子どもと家族を応援する日本』重点戦略」においても、「働き方の見直しによる仕事と生活の調和の実現」と、その社会的基盤となる「包括的な次世代育成支援の枠組みの構築」を「車の両輪」として取り組むことが必要不可欠である等とされ、関係者(企業と働く者、国民、国及び地方自治体)それぞれが憲章に明示された役割に沿って、行動指針に定める具体的取組を推進することとなった。

さらに、我が国が議長国となる本年のG8労働大臣会合においては、はつらつとした持続可能な社会の実現が主要課題となっており、仕事と生活の調和の実現は、この主要課題に応える中心的政策として議論が予定されている。この議論では、働く者一人一人の仕事と生活の調和の実現はディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の確保に欠かせない要素でもあり、その推進に努めるべきことを、各国が再確認することが見込まれる。このような状況の下、労働行政の第一線において、仕事と生活の調和の実現、ひいてはディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の実現に努めることは、その閣僚レベルの国際合意に向けた動きにもかなうものである。

こうしたことから、都道府県労働局においても、仕事と生活の調和に関する施策を強力に進める必要がある。

特に、正社員以外の労働者が大幅に増加する一方で、正社員の労働時間の高止まりが続く状況や、年次有給休暇の取得率も低い状況の中で、労働時間、休日及び休暇が個々の労働者の健康や生活に配慮して定められるよう、所定外労働の削減、年次有給休暇の取得促進等の取組に加え、仕事と生活の調和の実現のための社会的気運の醸成、企業の取組の促進等に取り組んでいく必要がある。

また、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(以下「育児・介護休業法」という。)及び「次世代育成支援対策推進法」(以下「次世代法」という。)について、引き続きその実効を確保していくことが必要である。


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