職業安定局雇用政策課

課    長  小川  誠

課長補佐  蒔苗浩司

TEL 5253-1111(内線5732)

厚生労働省発表

平成20年2月29日(金)

雇用政策基本方針
−すべての人々が能力を発揮し、安心して働き、安定した生活ができる社会の実現−

本格的な人口減少社会の到来、グローバル化や技術革新等がもたらした課題を乗り越え、経済社会の持続的な発展を強固なものとするとともに、人々の「雇用・生活の安定」の確保を目指し、当面5年程度の間、我が国が取り組むべき雇用政策の方向性を示した雇用政策基本方針が本日告示されたところである。

厚生労働省としてはこの雇用政策基本方針に基づき、雇用政策を迅速かつ着実に展開していくこととしている。


(平成二十年二月二十九日)

(厚生労働省告示第四十号)

○雇用政策基本方針

雇用対策法施行規則(昭和四十一年労働省令第二十三号)第一条の規定に基づき、雇用政策基本方針を次のように定めることとしたので、同条の規定により告示する。

平成20年2月29日

雇用政策基本方針
〜すべての人々が能力を発揮し、安心して働き、
安定した生活ができる社会の実現〜

目次

はじめに

第1 労働市場を取り巻く変化と課題

1 日本経済の変化と雇用失業情勢の概観

2 労働市場を取り巻く変化と課題

(1)労働市場を取り巻く変化

[1] 企業側の変化

[2] 労働者側の変化

(2)労働市場を取り巻く変化により生じた課題

第2 今後の雇用政策の基本方針

1 雇用政策の基本的考え方

(1)安定の確保

(2)多様性の尊重

(3)公正の確保

2 雇用政策の基本的な方向性

(1)誰もが意欲と能力に応じて安心して働くことのできる社会の実現

(2)働く人すべての職業キャリア形成の促進

(3)多様性を尊重する「仕事と生活の調和が可能な働き方」への見直し

3 今後重点的に展開していく具体的な施策の方向性

(1)誰もが意欲と能力に応じて安心して働くことのできる社会の実現

[1] 若者の雇用・生活の安定と働く意欲・能力の向上

[2] 女性の意欲・能力を活かした職業キャリアの継続と再就職・起業の実現

[3] いくつになっても働ける社会の実現

[4] 障害者等様々な事情・困難を克服し、就職を目指す人たちへの支援

[5] 地域における雇用創出の推進

[6] すべての人々の就業意欲を活かす労働力需給調整機能等の強化

(2)働く人すべての職業キャリア形成の促進

[1] 職業キャリアを支援するインフラの充実

[2] 職業生涯を通じた職業キャリア形成支援

[3] 専門的・技術的分野の外国人の就業促進と外国人の就業環境の改善

[4] 中小企業や福祉・介護分野の人材確保対策

(3)多様性を尊重する「仕事と生活の調和が可能な働き方」への見直し

[1] 仕事と生活の調和の実現に向けた企業の取組の促進・支援と労働者に対する意識啓発

[2} 労働者が多様な働き方を主体的に選択できるような就業環境の整備

はじめに

我が国は、2005年から人口減少に転じ、将来も一層の少子化・高齢化の進行によって、本格的な人口減少社会が到来する見通しとなった。仮に、各般の雇用施策が今後実施されず、2006年の労働力率と同水準で推移した場合の労働力人口は、2030年において約1,070万人減少することが見込まれており、こうした労働力人口の大幅な減少は、経済成長については、供給側の制約要因となるとともに、需要面でみてもマイナスの影響を与えるおそれがある。

また、経済のグローバル化や技術革新等の進展に伴い、国内労働市場において、コスト削減圧力により低賃金労働者や不安定な就労形態の者が増加するとともに、正社員においても、企業が中核的人材を絞り込んだ結果、長時間労働が問題化している。この結果、働くことの充実感が得にくくなり、またメリハリの効いた働き方ができないことによって、労働生産性が低下するおそれがある。

これらの課題を克服し、労働者の雇用・生活の安定と生産性の向上による経済社会の持続的な発展を可能とするためには、若者、女性、高齢者、障害者等の働く意欲と能力を持つすべての人々が、生涯を通じ、その能力を蓄積しつつ、十分発揮し、仕事や地域への社会参加を行うことにより、充実感を得ることができ、人生の各段階に応じて仕事と生活の調和が図られ、かつ、公正で多様性に満ちた豊かな社会を実現することが重要となってくる。

こうした意欲と能力を持つすべての人々が働くことのできる社会においては、仮に、各般の雇用施策が今後実施されず、2006年の労働力率と同水準で推移した場合の労働力人口と比較して、2030年に、若年層が約90万人増加、女性を中心として中年層が約270万人増加、高齢層が約240万人増加するなど、全体で約600万人増加し、2006年の労働力人口から比較すると、約480万人の減少にとどまることが見込まれ、将来的な労働力人口減少とそれに伴う経済成長の低下圧力を一定程度抑制することが可能となると見込まれる。

この雇用政策基本方針の役割は、こうした2030年までの経済社会の姿を展望した上で、当面5年程度の間、我が国が取り組むべき雇用政策の基本的な方向性とともに、具体的な施策の方向性について明らかにすることにある。

なお、今後の雇用政策の展開に当たっては、適切なマクロ経済運営の下で、労働者の雇用・生活の安定に必要な役割を果たす社会保障政策、産業政策、教育政策、少子化対策等とも連携し、相互に整合性を保ちつつ、その着実な実施を図ることとする。

第1 労働市場を取り巻く変化と課題

1 日本経済の変化と雇用失業情勢の概観

我が国の経済は、バブル経済の崩壊以降、資産価格の下落とともに企業と金融機関の財務状態も悪化し、国内需要が減退する中でデフレ状態に陥るなど、長期的に低迷する状態が続いていた。こうした中、1990年代末から2000年代初めにかけての厳しいリストラの過程を経て、雇用・設備・債務の3つの過剰を解消することによって経済成長が可能となる環境が整った結果、2002年初めからの長期間にわたる景気の回復が実現されている。

こうした我が国の経済の変化の中で、雇用失業情勢については、1997年の大型金融破綻を契機に、中高年層及び若年層の失業問題が深刻化し、2002年には完全失業率が既往最高の5.4%となるなど、統計開始以来、最も厳しい情勢となった。しかしながら、2002年以降の景気回復期間において、有効求人倍率は2007年には1.04倍と、1992年以来、2006年に続き二年連続で1倍を上回るとともに、完全失業率についても2007年に3.9%と、1997年以来約10年ぶりに3%台となるなど、全般的には改善傾向が続いている。ただし、足下をみると、有効求人倍率が約2年ぶりに1倍を下回るなど、改善の動きが弱まっている。

2 労働市場を取り巻く変化と課題

しかしながら、これらの長期不況期に行われた調整を経た我が国の経済社会においては、過去の10数年間と比べると、企業側と労働者側の双方に、以下のような変化と課題が生じている。

(1)労働市場を取り巻く変化

[1] 企業側の変化

(グローバル化等の影響)

グローバル化による国際競争や国内小売産業等における競争の激化等の中で、企業の将来予測可能性の低下や短期的な需要の変動の増大に対応するために、企業が外部労働市場を通じた雇用量の調整の動きを強めるようになり、さらには海外投資家の参入や企業合併・買収の増大に伴って、株主に対する利益還元を以前よりも重視する経営がみられるようになってきている。こうした中で、特に、敵対的な企業合併・買収は、長期的にみると、従業員の人的資本や企業特殊的資本の低下によって、企業の効率性を低下させる可能性があるとの指摘がある。

(技術革新、知識経済化の進展)

IT化を中心とした技術革新の進展、また、付加価値を生み出す知識や知恵を源泉とする知識経済化の進行によって、企業の中核を担う高付加価値人材や高度技術者、熟練技能者のニーズが高まる一方で、定型的な業務を担う中間層ホワイトカラーのニーズが相対的に低下し、さらに、そうした定型的な業務については外部人材を活用する傾向がみられる。

(産業構造の変化)

サービス産業を始めとする第三次産業が増加するなど、産業構造が変化するとともに、消費者の趣向が短期化・多様化していることから、多様な消費者の趣向を捉えることができる感性を持つ労働者のニーズが高まっている。

(人材マネジメントの変化)

こうした時代の変化を受け、企業の雇用管理に変化が生じており、人件費の変動費化や将来の不確実性の対応のため、外部人材を含む正社員以外の者を活用することで、正社員の割合が低下している。さらに、正社員については、企業が自社で長期育成する中核的人材の絞り込みを行っている。また、年功主義的賃金から成果主義的賃金への移行を徐々に進めているが、その評価に当たっては、業務の短期的評価による弊害が指摘されるなど、見直しの動きもみられている。こうした中で、正社員については長期雇用を基本的な雇用方針とする企業が依然として多数である一方で、正社員以外の者の積極的な活用を図ろうとする企業もみられる。

[2] 労働者側の変化

(長寿化の進展)

平均寿命は1990年から2005年にかけて、男性で75.92歳から78.56歳へ、女性は81.9歳から85.52歳へと着実に延びており、またWHOの報告によれば健康寿命については2002年時点で男性72.3歳、女性77.7歳となっている。

(正社員以外の働き方の増加)

企業の人材マネジメントの変化や働く者の価値観が多様化することにより、正社員中心だった働き方から、パート、派遣、契約社員等といった多様な雇用形態の増加が目立ち、2006年においては雇用者全体の約3割を占めるに至っている。なお、これら正社員以外の者のうち、正社員として働く会社がないため現在の雇用形態で働いている者が2割強存在している。

(職業生涯の長期化)

我が国の高齢者は就業意欲が高く、労働力率も国際的にみて高水準となっている。また、希望する就業の引退時期をみると、男女ともに「いつまでも働きたい」とする割合が最も高く、高齢期になっても働く意欲は持続されるなど、職業生涯の長期化がみられる。

(キャリア意識の変化)

企業の即戦力志向の動き等を背景に、労働者についてもキャリア意識醸成の必要性が高まってきている中で、学校教育段階でのキャリア教育や職業に接する機会の確保等の重要性がより高まっている。

(入社の動機、生活観の変化)

入社の動機について、自分の能力を活かせることを重視する者の割合が上昇するとともに、就職後も成長や達成感が感じられず離職する者の割合が増加している。

また、仕事か生活のどちらか一方のみを重視するのではなく、仕事と生活の調和を重視するという者の割合が上昇している。

(世帯構造の変化)

世帯の就業構造をみると、夫が働き、妻が専業主婦である世帯(以下「専業主婦世帯」という。)が減少し、1997年以降は共働きの世帯が専業主婦世帯を上回っており、さらにその差が拡大している。

(2)労働市場を取り巻く変化により生じた課題

(ニート・フリーター等と所得格差拡大等の懸念)

フリーターの数は、2003年の217万人をピークに、2006年は187万人と3年連続で減少するなど改善の動きが続いているものの、就職活動の時期が新卒採用の特に厳しい時期、いわゆる就職氷河期に当たり正社員となれず、フリーターにとどまっている若者(年長フリーター(25歳から34歳まで))は改善の動きが鈍い。また、ニートについても改善の動きが鈍く、これらフリーターやニートについては、正社員となることを希望しても就職が難しい状況にある。さらに、恒常的に、日々又は30日以内の期間を定めて雇用される派遣労働者(以下「日雇派遣労働者」という。)については、雇用の不安定さや職業能力の蓄積不足といった点が懸念される。

これらの者の中には、自己啓発もままならず、雇用や将来の見通しについて不安を感じる者もおり、また正社員と比べて結婚することが困難といった状況がみられる。

こうした状況を背景として、若者の間には所得格差の拡大や格差の固定化、さらには未婚化による少子化の加速が懸念されている。

(女性、高齢者に対する就業環境の整備)

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和47年法律第113号。以下「男女雇用機会均等法」という。)の施行から20年を超え、女性の社会進出が着実に進んでいるものの、管理職や役員に占める女性の比率は国際的にみていまだに低い状況にあるなど、実質的な機会均等が確保されたとは言い難い状況がみられる。また、就業継続を希望しながらも仕事と子育て・介護の両立の難しさ等から、離職を余儀なくされるなど、出産、子育て等により離職する女性が依然として多く、いったん退職すると正社員としての再就職・再就業が難しい状況もみられる。

高い就業意欲を持つ高齢者がいる一方で、高齢者は雇用・就業機会が十分でない上、転職に際して賃金が低下する場合が多く、転職や再就職が難しい状況にある。こうした中で、高齢者の高い就業意欲を活かしつつ、職業生涯の長期化に対応した就業環境の整備が急務となっている。

これらの人々の意欲と能力に応じた労働市場の参加が実現しない場合、将来的に労働力人口が大きく減少する要因となり、さらに経済成長の制約要因となることが懸念される。

(新たな働き方の出現に伴う課題)

グローバル化、技術革新の進展等によって企業の将来予測可能性が低下している影響を受け、人件費の変動費化や将来の不確実性の対応を目的として外部人材を活用する企業が増加するなど、企業の雇用管理の変化がみられる。一方、こうした外部人材の中には、日雇派遣労働者等のうち、特に雇用が不安定な者もおり、また、教育訓練機会の差から職業キャリア形成にも差が生じるなどの懸念が指摘されている。

(正社員の絞り込みとその影響)

正社員においては、企業が中核的人材を絞り込んだ結果、週60時間以上の長時間労働者の割合が高水準となっており、特に30代男性の21.7%が長時間労働者となっている。長時間労働により、健康を損なう者が出るとともに、肉体的・精神的な疲労によって労働者の生産性にも影響を及ぼすおそれがある。また、男性の家事・育児時間が長時間労働等により短くなることによって、女性の負担を高めている。

また、同一企業内でも、雇用形態により職業能力開発機会を享受できる者とできない者が分かれるとともに、正社員間でも、職業能力開発機会の多寡や質が異なるなど、将来の社会全体の人的資本の蓄積不足が懸念される。

(学校教育や職業能力開発に対する産業界のニーズとのミスマッチ)

学校教育は教養教育等様々な目的を有しているものの、産業界からは、学校教育が産業界のニーズに合致していないとの指摘がある。また、在学中のキャリア教育が十分でなく、基礎的な職業能力が形成されていない者や適職の選択が行えない者、また職業意識が十分に醸成されていない者が存在している。さらに、就職してからの自己啓発について時間的余裕がない者が多い。

(雇用失業情勢の地域差)

これまで公共事業を中心とする政府や地方公共団体の財政支出に依存していた地域には、地域産業が弱体化しているため、雇用創出力が乏しい地域もみられる。このような地域は、このところの長期的な景気回復を享受できず、雇用失業情勢の改善に遅れがみられる状況にある。

第2 今後の雇用政策の基本方針

1 雇用政策の基本的考え方

人口減少時代を迎えた今、経済社会の活力や競争力を生み出す源泉である人の重要性はますます高まっている。今後、人口減少が本格化する2030年に向けて、活力ある経済社会を実現するためには、人材こそ経済社会の発展の礎であるとの理念の下、労働者の「雇用・生活の安定」と「生産性の向上による企業競争力の強化」とを同時に実現するとともに、労働者一人一人の仕事と生活の調和を実現し、働く希望を持つすべての人が自ら希望する働き方により安心・納得して働けることを目指すことが重要である。

そのためには、適切なマクロ経済運営の下で、以下の雇用政策の基本的考え方に立って、中長期的に一貫性の高い雇用政策を策定し、社会保障政策との整合性を相互に保ちつつ、産業政策、教育政策、少子化対策等とも連携し、その着実な実施を図ることとする。

(1)安定の確保

労働者の生活の安定や技能蓄積等の観点から雇用の安定を確保するとともに、労働者が、自らの職業キャリアをより開発・向上し、能力を発揮できるよう、職業能力開発等の職業キャリア形成支援や外部労働市場の整備等を行い、これらを通じて職業キャリアの発展、安定を確保する。

(2)多様性の尊重

性別、年齢、障害の有無を問わず、労働者が、生涯を通じ、個人の価値観に基づき、人生の各段階に応じ、多様な働き方を主体的に選択できることにより、自らの能力を十分発揮できるようにする。

(3)公正の確保

多様な働き方が可能となっていく中で、働き方に中立的な仕組みや制度の下、豊かな活力ある経済社会にふさわしい公正な働き方を確保する。

2 雇用政策の基本的な方向性

今後の雇用政策を推進するに当たっては、雇用政策の基本的考え方を念頭に置きつつ、第1で指摘した、格差の拡大・固定化や未婚化に伴う少子化の加速のおそれ、労働力人口減少が経済成長に及ぼすマイナスの影響、仕事と生活の調和への障害等の課題を克服することを目指し、当面5年程度の間、次に掲げる雇用政策の基本的な方向性を3本の柱とした雇用政策を展開していく。

なお、それぞれの柱は相互に密接に関連しており、相乗効果が期待できることから、雇用政策を最大限実効性あるものとするためには、個々の具体的な施策における相乗効果が発揮されるよう、相互に連携しつつ一体となった政策の展開が重要である。

(1)誰もが意欲と能力に応じて安心して働くことのできる社会の実現

経済社会の持続的な発展の観点から、就業を希望しているにもかかわらず、様々な事情により就業できない若者、女性、高齢者、障害者等について、就業を阻害している要因を取り除き、意欲と能力に応じた働き方を可能とすることにより、働く意欲と能力を持つすべての人の労働市場への参加を実現し、就業率の向上を図る。

なお、将来の労働力不足の懸念に対して外国人労働者の受入れ範囲を拡大した方がよいといった意見もあるが、労働市場の二重構造化が強まるおそれがあることに加え、労働条件等の改善や、それを通じたマッチングの促進・人材確保を阻害しないためにも、安易に外国人労働者の受入れ範囲を拡大して対応するのでなく、まずは国内の若者、女性、高齢者、障害者等の労働市場への参加を実現していくことが重要である。

(2)働く人すべての職業キャリア形成の促進

経済社会の激しい変化により様々なリスクが増大する中、労働者の職業能力開発等職業キャリア形成の基礎となる「雇用・生活の安定、向上」と、職業人生の発展が図られるよう「職業キャリアの発展、安定」を確保する。

そのため、労使の信頼関係に基づき、長期的視点に立った雇用安定機能と人材育成機能を有しつつ、労働条件の調整に柔軟に対応する長期雇用を基本とすることが引き続き重要であるとともに、国として不安定就労者の正規雇用化の支援を実施することにより、労働者の雇用・生活の不安定化を防止するほか、福祉から雇用・就業へ向けた総合的な支援等を推進する。

また、労働者が、自らの職業キャリアをより開発・向上することができるよう、職業能力開発等の職業キャリア形成支援や外部労働市場の整備等を通じて職業キャリアの発展、安定を図っていく。こうした取組を通じ、労働者一人一人の生産性の向上が図られるとともに、我が国の競争力を確保することが可能となる。

(3)多様性を尊重する「仕事と生活の調和が可能な働き方」への見直し

労働者の多様な価値観やニーズに的確に対応するため、労働者が人生の各段階に応じた多様な働き方を主体的に選択できる社会を目指す。こうした社会において、企業は多様な労働者の能力を最大限に活用し、生産性の向上や競争力の確保を図ることが可能となる。

そのため、労働者が、生涯を通じ、人生の各段階に応じた多様な働き方を主体的に選択できるよう、多様な働き方の間を行き来できる柔軟な働き方の普及促進、また多様かつ公正な働き方に対応した子育て支援等の社会的な基盤整備等を推進する。

3 今後重点的に展開していく具体的な施策の方向性

当面5年程度の間に取り組むべき雇用政策の基本的な方向性を踏まえ、次に掲げる具体的な施策の方向性に沿った雇用施策を実施していく。また、これらに加え、急激な雇用失業情勢の悪化に対しては、機動的かつ強力な雇用政策の展開を図ることとする。

なお、これらの雇用政策の推進に当たっては、政策が実効あるものとなるよう、効果的な政策評価を実施するとともに、その評価手法については不断の見直しを行っていく。  

(1)誰もが意欲と能力に応じて安心して働くことのできる社会の実現

労働力人口が減少する中で、経済社会が持続可能な成長を続けていくためには、第1に、性別、年齢、障害の有無にかかわらず、誰もが意欲と能力に応じて働くことのできる「全員参加型社会」の実現を目指す。

[1] 若者の雇用・生活の安定と働く意欲・能力の向上

将来の社会を担う若者の雇用・生活の安定は、少子化対策の観点からも重要であり、新卒一括採用の持つ機能・役割は維持しつつも、新卒採用に限定されない形での若者の将来性や潜在能力に着目した応募機会の拡大への取組を進めるとともに、ニートが円滑に就労し、フリーターや35歳以上の者等を含む不安定就労者が安定した生活を送れるよう、各種の就職支援も併せて進めていく。

このため、次代を担う若者の雇用・生活の安定を図るべく、フリーター常用雇用化プランを強力に推進することにより、正社員を望むフリーターや派遣労働者等の正規雇用化を支援するとともに、雇用対策法(昭和41年法律第132号)及び青少年の雇用機会の確保等に関して事業主が適切に対処するための指針(平成19年厚生労働省告示第275号)に基づき、若者の応募機会の拡大等について、事業主への周知・啓発、指導を着実に実施する。 

また、キャリア・コンサルティングを経て実践的な職業訓練を受講し、評価を受けることによって常用雇用を目指すジョブ・カード制度について、産業界・経営者団体とも連携し、全国的な普及に向けて強力に推進する。さらに、都道府県の主体的な取組により設置される若年者のためのワンストップサービスセンター(通称:ジョブカフェ)において、地方公共団体と産業界、学校等との連携の下、地域の実情に応じた様々な就職支援を展開するとともに、35歳以上の不安定就労者に対しても公共職業安定所において担当制による一貫した就職支援を行う。加えて、住居を失い、ネットカフェ等で寝泊まりする不安定就労者の安定的な雇用機会の確保を図るため、職業相談・職業紹介、技能講習、住居確保の相談等を行っていく。

さらに、若者の職業意識の形成支援として、小学校段階から児童生徒の発達段階に応じた組織的なキャリア教育とも十分な連携を図りつつ、中高生を対象に職場体験を行うジュニア・インターンシップや、企業人が学校を訪問し、職業講話を行うキャリア探索プログラム等に取り組むことにより、早い段階から若者の職業意識の形成支援を行う。また、ニートを始めとする若者に生活訓練等を実施し、社会人としての基礎的能力の獲得、本人の状況に合わせた職場適応能力の向上支援を通じた自己評価の向上等によって働く意欲を高めること等を目的とした若者自立塾の実施や、若者の置かれた状況に応じた専門的な相談を行い、地域の若者支援機関のネットワークを活用した自立支援を実施する地域若者サポートステーションを拡充する。

これらの施策の展開とともに、少子化が進行する我が国における経済社会の持続的な発展を支える人材の有効活用を図る観点から、企業側においても、中長期的な労働者の人材育成等、人を大切にする視点を念頭に置き、若者の雇用の安定を図るよう努めることが求められる。

[2] 女性の意欲・能力を活かした職業キャリアの継続と再就職・起業の実現

女性が職業人生における明確な展望を描きつつ働き続けることをより容易にすること、すなわち働き続けることを希望する者が就業意欲を失うことなくその能力を伸長・発揮できる環境を整備する。

また、女性が妊娠・出産を経験しながら安心して働き続けることができるよう、男女双方が仕事と子育て等とを両立することができる働き方の見直し、保育の充実等を行うとともに、子育て・介護等のために一度離職した女性がその能力を活かし再就職・起業することを可能とするための支援を強化する。その結果、育児期・壮年期の女性の就業率が高まることによって、当該世代が高齢期に至った場合でも、就業を継続することによる高齢女性の就業率の向上も期待できる。 

このため、男女雇用機会均等法の一層の履行確保を図るとともに、女性の能力発揮のための支援を行っていく。また、ポジティブ・アクションを積極的に推進している企業を表彰するとともに、ポジティブ・アクションに関する企業の取組を支援する。

併せて、育児期・介護期にも離職せずに継続就業できるよう、育児・介護休業だけでなく、短時間勤務制度等の柔軟な働き方のための制度を活用しながら、安心して働き続けることができる職場環境づくりを進めるとともに、ファミリー・フレンドリー企業の一層の普及促進を図る。また、多様な保育サービスを始めとする子育て支援サービスの充実や介護サービスの充実等、子育て中や、家族に介護が必要な者がいる場合にも安心して働くことができるための環境整備を図っていく。

さらに、子育て等により離職した者が希望に応じて早期に再就職できるよう、マザーズハローワーク等におけるきめ細かな就職支援を行うとともに、再就職に向けた情報提供や具体的なプランの策定支援等を行うほか、ジョブ・カード制度を推進する。加えて、女性起業者等に対しては、起業に関する情報提供、メンターからの助言、相談等の支援を行う。

[3] いくつになっても働ける社会の実現

高い就業意欲を持つ高齢者は、長年の職業生涯で蓄積された職業能力を持つ貴重な人材であり、高齢化が今後ますます進行する中、特に2012年にはいわゆる団塊の世代が65歳に到達し始めることなどから、高齢者の能力を活かすための取組を早急に進めることが必要である。

こうした高齢者が当たり前に働ける社会の実現に向けた取組を進めることは、高齢者本人にとって生きがい・自己実現や健康の維持増進につながり、社会全体としても、これまで社会に支えられる側であった高齢者が支える側に回ることにより、経済社会の活力維持につながるとともに、現役世代の社会保障負担増の緩和にも資することとなる。また、今後、人口減少が進む中で、特に若年労働者の大幅な減少が見込まれることから、これまで若者を活用してきた企業においては、豊富な技能や技術を有する高齢者が活躍できるような場を創出することが求められる。

このため、まずは、65歳までの雇用の確保を図ることが不可欠であり、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(昭和46年法律第68号)に基づく高年齢者雇用確保措置の導入を中小企業への重点的な指導等により着実に実施するとともに、これに加えて、継続雇用制度において希望者全員を対象とする企業の増加を図るなど、より充実した措置が講じられるように取組を進める。

また、意欲と能力があれば65歳までに限らず、65歳を超えても働ける社会の実現に向けた取組を進めていくことが必要であり、年齢にかかわりなく働き続けることができる社会を目指す取組の一環として、「70歳まで働ける企業」の普及・促進を図るなど、60歳代半ば以降の高齢者が働ける職場を増やしていくとともに、雇用対策法に基づき、労働者の募集・採用における年齢制限禁止の義務化について事業主への周知を徹底し、応募の機会を拡大していく。

さらに、高齢期には、個々の労働者の意欲、体力等個人差が拡大し、その雇用・就業ニーズも多様化することから、これに併せて、多様な雇用・就業機会の確保を図るとともに、高齢者の再就職の促進の強化を図るほか、シルバー人材センターにおいて、地域の多様なニーズに応じた就業機会の確保・提供を通じた事業の活性化を図るなど、高齢者の雇用・就業機会を増大していく。あわせて、いわゆる団塊の世代の旺盛な活動意欲に応えるボランティアや、子育て支援や学習支援を行うNPO等の雇用以外の就業・社会参加等、地域密着型の活動の環境整備を図っていく。

これらの取組を進めることによって、意欲と能力のある限り年齢にかかわりなく働き続けることができる社会の実現を目指すとともに、こうした施策を進める中で、いくつになっても働ける社会に応じた必要な雇用のセーフティネットの適切な整備についての検討を行う。

[4] 障害者等様々な事情・困難を克服し、就職を目指す人たちへの支援

障害者等が意欲や適性に応じ、福祉サービスを受ける立場から就労状態へと移行することは、本人の生活力の向上にとどまらず、社会の活性化にもつながることであるため、雇用と福祉の連携等を通じて、能力に応じた就業機会の確保を進めるとともに、就労を通じた社会参加への支援を行う。

障害者については、その就労意欲が着実な高まりを見せる中で、より多くの障害者の就職希望を実現するとともに、一人一人がいきいきとした職業生活を送ることができるようにするため、障害者の就労支援について質・量ともに一層の強化を図る。また、国連総会本会議において2006年に採択された障害者の権利に関する条約(仮訳)を受け、雇用分野における必要な環境整備等を図っていく。

あわせて、様々な事情により困難を抱えている者に対しては、福祉政策、教育政策とも連携した包括的な支援を行う。

このため、障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和35年法律第123号)に基づく障害者雇用率制度を中心として障害者雇用の一層の促進を図るため、法定雇用率の未達成企業への指導を引き続き厳格に実施するなど、当該制度を柱として障害者の雇用機会を拡大する。

また、障害特性や障害の程度によって生ずる課題に応じて、一人一人の希望に応じた働き方を実現するため、多様な就労形態を選択できるような環境整備を行い、障害者の働き方の選択肢を広げるとともに、精神障害、発達障害、難病による障害等のそれぞれの特性に応じた支援や中途障害者の継続雇用に向けた支援等の充実、地域障害者職業センターを中核とした職業リハビリテーションの充実・強化、障害の態様や企業のニーズに対応した多様な職業能力開発機会の拡充等を行う。

さらに、福祉から雇用への移行を一層促進するためには、公共職業安定所を中心としたチーム支援等の各種の施策を実施すること等により福祉・教育・医療機関との連携を進め、それぞれの機能に応じた役割分担の下で、各地域において、一貫した総合的な支援を行う。加えて、働く障害者を支えるためには、身近な地域において就業面及び生活面における一体的な相談・支援を行う体制の整備を早急に行う。

これらの取組と相まって、企業の経営者、労働組合、従業員、福祉サービス関係者等から国民一般に至るまで幅広い層の障害者雇用に係る意識改革を進め、相互の協力関係の構築を図ることにより、障害者雇用の一層の促進を図っていく。

また、生活保護受給世帯や母子世帯に対して、福祉事務所等と公共職業安定所とが連携した就労支援チームの体制、支援機能の強化等により、支援対象者の就労支援を推進するほか、さらに母子世帯の就業に向けた一貫した支援を行う母子家庭等就業・自立支援センター事業の拡充等により、母子世帯に対する効果的な就業支援施策の実施を図る。加えて、刑務所出所者等については、法務省と連携した就労支援を推進する。

児童養護施設等を退所し、就業する児童等に対しては、自立援助ホームで共同生活を送りながら生活支援を行う児童自立生活援助事業の拡充、生活や就業に関する相談とともに施設退所者等同士が意見交換等を行う場を提供する拠点事業の実施により、自立・就業に向けた支援を推進する。

[5] 地域における雇用創出の推進

急速に進む少子化・高齢化は、地方においてより加速して進むことが予想され、これまでの地域の在り方が大きく変化しつつある一方で、我が国全体の活力には地域の活力が欠かせないことを踏まえ、地域ごとに特色ある自然や独自の産業を活かし、地域の担い手の創意工夫や発想を最大限尊重した個性と活力にあふれる地域社会の構築を目指す。

このため、雇用創造に向けた意欲が高い地域における地域の特性を活かした自発的な雇用創出の取組を支援するとともに、雇用失業情勢が特に厳しい地域における事業所の設置・整備に伴う雇入れ等を行う事業主に対し助成を行うことにより、地域における雇用創出を推進する。

また、コンパクトシティの推進等によって豊かで住みやすい地域の環境づくりが進められる中、地方へ就職を希望する者や地方への移住を希望する退職者等に対し、公共職業安定所による相談・援助や広域職業紹介等の充実・強化を通じたU・Iターンの促進により、地方における人材の確保を図る。このことは同時に、地方における生活サービス需要を生み出すこととなり、こうした地域の更なる雇用機会の創出につながることが期待される。

さらに、雇用失業情勢の改善の動きの弱い地域における特定分野において創業する事業主に対し、創業等に係る支援を進めるとともに、各府省庁と連携した地域活性化のための取組を推進する。

[6] すべての人々の就業意欲を活かす労働力需給調整機能等の強化

労働力の需給調整を円滑・的確に行い、需給のミスマッチの解消を図るため、公共職業安定所と民間の労働力需給調整機関がそれぞれの特性を十分活かしつつ、その機能を十分発揮できるようにするとともに、誰もが安心・納得して働くことのできる環境整備を図る。

このため、働くことを希望するすべての者に対し、働く機会を公平かつ公正に提供することが必要であることから、国の責務として、利用者の視点に立った公共職業安定所の効率的な運営やサービスの質の向上を図るなど、そのパフォーマンスの更なる向上を図る。あわせて、全国ネットワークによる公共職業安定所の需給調整機能を雇用のセーフティネットとして充実・強化するとともに、求人者・求職者の双方がその良質なサービスを享受できるようナショナル・ミニマムとしての体制を整備する。

官民の求人情報等へのアクセスの円滑化を図るなど情報提供体制を整備するとともに、官民相まった適正な需給調整機能の充実等により、専門性の高い人材を始めとした外部労働市場の整備を図る。また、労働者派遣事業については、偽装請負や禁止業務への派遣等法令違反に対する厳正な指導監督を行い、適正な運営の確保を図るとともに、日雇派遣労働者等様々な問題が指摘されていることを踏まえ、労働力需給の迅速かつ的確な結合を図りつつも、派遣労働者の雇用の安定と福祉の増進を図る観点から、労働者派遣制度を見直し、派遣労働者が安心・納得して就業できるような環境整備を図る。

なお、変化の激しい経営環境の中で、今後も生じうる会社更生、営業譲渡、会社分割等の活発化する企業組織の再編に当たっては、会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律(平成12年法律第103号)や投資ファンド等による企業買収の際に良好な労使関係を構築するための指針(平成18年8月4日付け政発第0804001号厚生労働省政策統括官通知)等に基づき、企業が講ずべき措置や配慮すべき事項等に関する周知・徹底を図るとともに、離職者等が生じる場合は、公共職業安定所において離職者の早期再就職に努める。

さらに、雇用保険を始めとした労働・社会保険制度については、今後とも適正な加入が図られるよう事業主への指導の徹底や労働者への周知を図ること等によって労働者の雇用・生活の安定を図るとともに、公共職業安定所における職業紹介と一体となった雇用保険制度の運用を図ることによって求職活動を容易にするなど、更なる就職の促進を図る。また、労働基準法(昭和22年法律第49号)や最低賃金法(昭和34年法律第137号)等の法令遵守を徹底する観点から、引き続き法令の周知徹底・的確な監督指導等を実施するとともに、成長力底上げ戦略推進円卓会議における生産性の向上を踏まえた最低賃金の中長期的な引上げの方針についての政労使の合意を踏まえ、産業政策と雇用政策の一体運用を図る。

こうした労働者の雇用・生活の安定を支える幅広いセーフティネットの確保を図ることにより、誰もが安心・納得して働ける環境を整備していく。

(2)働く人すべての職業キャリア形成の促進

第2に、人々の意欲と能力に応じた適切な職業キャリア形成が行われ、能力が十分発揮できるような環境の整備を図る。

[1] 職業キャリアを支援するインフラの充実

人口減少という局面を迎える中、経済社会の持続的な発展を維持するためには、就業率の向上により、労働力人口の趨勢的な減少を抑制するほか、一人一人の能力を高めることによって生産性を向上させていくことが不可欠であることから、労働市場のインフラ整備の充実を図る。

労働者の職業キャリアの形成は、企業の事業運営において重要なものであり、OJTが引き続き大きな役割を果たしていくことから、企業内における職業能力開発に係る支援を進める。加えて、企業外におけるOFF‐JTや自発的な職業能力の開発及び向上も重要性を増していくことから、多様な教育訓練を提供する教育訓練機関の育成を目指し、民間企業、中小企業団体・業種別団体等の事業主団体、公益法人、大学・専修学校等の学校等を教育訓練の受け皿として活用すること等により、各機関の特性を活かした教育訓練機会の確保を図る。

一方、国の責務として、失業者の再就職のための公共職業訓練を実施し、雇用のセーフティネットとしての役割を果たすとともに、我が国の競争力の源泉であるものづくり分野を担う人材を育成するなど公共職業訓練の充実を図る。

また、労働者の職業能力及び教育訓練の成果に対する適正な評価を実現するため、職業能力評価制度について、企業内外を通じた職業キャリアの円滑な展開を図るための指針としての役割を果たすことができるよう、企業等のニーズを踏まえた整備・充実に努める。

あわせて、職業キャリアの円滑かつ持続的な発展を実現するため、労働者や求職者はもとより、出産・子育て・介護等により職業キャリアを中断した者等、条件が整えば就業可能な潜在求職者に対して職業能力開発に関する情報提供に努める。

さらに、職業キャリア形成の促進のための支援システムの整備を図るため、キャリア・コンサルタントの養成や資質向上に努めるとともに、資格試験の統一化の検討、資格取得後のフォローアップのための仕組みの構築、企業や教育機関等といったキャリア・コンサルタントの活動の場ごとに求められる能力や役割に係る検討を進めることにより、キャリア・コンサルティングの普及を図る。

[2] 職業生涯を通じた職業キャリア形成支援

少子化・高齢化等が進行する中にあって、働く者一人一人が生涯にわたり職業キャリアを持続可能かつ発展性のあるものにすることは、本人のみならず企業や経済社会の発展にとって極めて重要であることから、働く者の職業生涯を通じた持続的な職業キャリア形成への支援を進める。

このため、企業に依存した職業キャリアや意識から、自律できる方向への支援として、キャリア・コンサルティングを行う人材の育成、キャリア・コンサルティング機会の確保のほか、教育訓練システムの充実・強化、職業能力評価制度の整備、職業能力開発に関する情報収集・情報提供の充実強化等、職業キャリアを支援する労働市場インフラ整備の充実に努める。

また、長い職業生涯における職業キャリアの転機や節目において、今後の職業キャリアを考える機会やまとまった職業能力開発機会等を確保するため、教育訓練休暇の取得等企業内における各種職業キャリア形成支援策の導入促進を図るほか、職業キャリアの見直しを行う機会を確保するなどの施策を検討する。

さらに、フリーター等職業能力形成機会に恵まれなかった者等が、再度職業キャリア形成を図ることのできる環境を整備するため、年長フリーター向けの企業実習先行型訓練システムやジョブ・カード制度等を推進する。

[3] 専門的・技術的分野の外国人の就業促進と外国人の就業環境の改善

国際競争力強化を図る観点から、専門的・技術的分野の外国人について、我が国での就業を積極的に推進するとともに、質の高い留学生の確保や就職支援を進める。あわせて、外国人労働者の就業環境の改善を図る。

このため、我が国が専門的・技術的分野の外国人労働者を積極的に受け入れていることについて、広く海外に情報発信するとともに、専門的・技術的分野での外国人労働者の就業促進を図るために、雇用対策法に基づき、マッチング機能の強化や雇用管理改善の促進を図る。

また、質の高い留学生の確保に留意した外国人留学生制度の充実を図るとともに、質の高い留学生の国内就職の促進を図るために、大学、経済団体等との連携を強化し、留学生向けのインターンシップや企業における雇用管理の改善の推進等、マッチングしやすい環境を強力に整備していく。

さらに、平成18年12月25日に外国人労働者問題関係省庁連絡会議において取りまとめられた「生活者としての外国人」に関する総合的対応策や、雇用対策法に基づき定められた外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針(平成19年厚生労働省告示第276号)等に基づき、外国人労働者の就業環境の改善を図っていく。

あわせて、外国人研修・技能実習制度については、規制改革推進のための3か年計画(平成19年6月22日閣議決定)に基づき、一部の研修生が実質的に低賃金労働者のように扱われているという事例があるなどの実態の適正化を図るため、実務研修中の研修生の法的保護の在り方を中心に見直しを進めていく。

[4] 中小企業や福祉・介護分野の人材確保対策

我が国の経済社会の活性化のためには、競争力の向上を担う人材の育成・確保が重要である。特に、労働者の大半が属する中小企業が活力を維持・向上させていくことは、変化の早い経済環境の中で、我が国の経済が柔軟に対応し、安定的に高い付加価値を生み出していくために必要不可欠である。また、国民生活と密接に関わりのある福祉・介護分野においては、利用者の立場からみると、安定的な労働力供給がなされることが重要である。しかしながら、中小企業や福祉・介護分野においては、大企業との人材確保競争、あるいは労働者の処遇面の問題等により、人材確保が困難となっている現状があるため、雇用環境の改善を図るなどにより効果的な人材確保対策を講じる必要がある。

このため、ものづくり産業の国際競争力を支える人材を育成するための高度な知識と技能・技術を兼ね備えた実践的技能者を養成するとともに、我が国の競争力の源泉である優れた技能の維持・継承を図るため、高度熟練技能者を始め、いわゆる団塊の世代の指導能力を有する優れた技能者等の情報をデータベース化し、中小企業等の技能継承支援や若年技能者の育成支援等に活用する。

また、中小企業における労働力の確保及び良好な雇用の機会の創出のための雇用管理の改善の促進に関する法律(平成3年法律第57号)に基づき、生産性向上に資する人材の確保及び職場への定着を支援するほか、中小企業が労働者の能力を有効に発揮させ生産性を向上するための支援を実施していく。

さらに、中小企業におけるものづくり人材の確保・育成、技能継承が促進されるよう、若者を現場の中核となる人材として育成する実践型人材養成システムの普及・定着を推進する。

福祉・介護分野については、高齢化の進展に伴いニーズ増大が見込まれる産業であり、国民生活の観点から、計画的な人材の育成を図る。あわせて、人材確保の観点から、給与や労働時間等の雇用環境の改善、IT技術・福祉用具の積極的な活用等を通じた業務の省力化を図るとともに、福祉・介護分野における従事者のキャリアパスを構築していく。さらに、潜在的有資格者やいわゆる団塊の世代の高齢者等福祉・介護分野における多様な人材の参入・参画を促進していく。

(3)多様性を尊重する「仕事と生活の調和が可能な働き方」への見直し

第3に、誰もが、生涯を通じ、人生の各段階に応じて、多様な働き方が主体的に選択可能となるとともに、仕事と生活の調和のとれた働き方ができる社会を実現していく。こうした社会の実現により、長時間労働により生じる健康被害の防止や少子化の流れを変えることが期待できる。

仕事と生活の調和の実現に当たっては、労働者側は、自らの働き方を見直し、将来を見据え、生涯を通して自己啓発・職業能力開発を行うとともに、企業側は業務の見直しや職場風土改革に努めることによって労働者の自発的な取組を支援するなど、労使の自主的な取組が基本ではあるが、国や地方公共団体においても、そうした取組を積極的に支援するとともに、多様な働き方に対応した子育て支援や介護等のための社会的基盤づくりを積極的に行っていく。

なお、企業側が労働者の仕事と生活の調和の実現に取り組むことで負担が生じ、短期的なコストが生じるといった指摘もあるが、仕事と生活の調和の実現によって、メリハリある効率的な働き方が可能となることによる労働生産性の向上や、優秀な人材の確保が可能となるなど企業にとってもメリットがある。

さらに、労働者の健康保持だけでなく少子化対策にもつながる側面が期待できるなど、社会の担い手となる人材確保による持続可能な経済成長を達成する観点から、政府としても、平成19年12月に経済界、労働界、地方の代表者、関係会議の有識者から構成されるワーク・ライフ・バランス推進官民トップ会議で策定された仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章及び仕事と生活の調和推進のための行動指針を踏まえ、仕事と生活の調和の実現に向けた取組を強力に推進していく。

[1] 仕事と生活の調和の実現に向けた企業の取組の促進・支援と労働者に対する意識啓発

労働者が実際に働く企業での仕事と生活の調和が実現されるよう、労使の自主的な取組が基本ではあるが、国においてもそうした取組を支援するとともに、労働者・企業双方の意識啓発を行う。

このため、仕事と生活の調和の実現に向けて、全国、地方レベルでの国民の理解や政労使の合意形成を促進するとともに、労働時間等の設定の改善に関する特別措置法(平成4年法律第90号)に基づく、労使による長時間労働の抑制、年次有給休暇の取得促進等、労働時間等の設定改善等に向けた労使の自主的な取組を促進する。あわせて、時間外労働の限度に関する基準(平成10年労働省告示第154号)を含め労働時間関係法令が遵守されるよう、労働基準監督機関において、労働時間管理の適正化や時間外労働協定の適正化のための監督指導等を重点的に行う。

また、企業における次世代育成支援の取組を促進するための対策の検討を進め、一般事業主行動計画の公表の推進、中小企業における一般事業主行動計画策定の取組の促進、次世代育成支援対策推進法(平成15年法律第120号)に基づく認定に向けた企業の取組の促進を図る。あわせて、仕事と生活の調和を目指した先進的な取組を行う企業の情報を広く周知すること等を通じて、社会的気運の醸成を図るなど、仕事と生活の調和を実現するための取組を政労使一体となって推進する。

過重労働対策については、時間外・休日労働の削減、長時間労働者に対する医師の面接指導等労働者の健康管理に係る措置の徹底等の事業者が講ずべき措置について、過重労働による健康障害防止のための総合対策(平成18年3月17日付け基発第0317008号)に基づき、事業者に対する指導等を実施する。また、メンタルヘルス対策については、労働者の心の健康の保持増進のための指針(平成18年3月31日厚生労働大臣公示第3号)の普及啓発により、相談体制の整備等事業場における取組を推進するとともに、その支援措置を実施する。

また、労働者が中高年齢期に至っても健康を保ち、能力を十分発揮できるよう、事業場における労働者の健康保持増進のための指針(昭和63年9月1日労働大臣公示第1号)に基づき、事業場における労働者の心身両面にわたる健康の保持増進の取組を高齢者医療保険サービス等との連携の下に普及・定着を図るとともに、産業保健推進センターを始めとした専門機関等との連携を図りつつ、メンタル面も含めた労働者の健康確保対策の充実を図る。

[2] 労働者が多様な働き方を主体的に選択できるような就業環境の整備

雇用以外の働き方も含め、多様なニーズに対応した働き方を主体的に選択でき、人生の各段階に応じて様々な働き方の間を行き来することができるよう、働き方に中立的な豊かな活力ある経済社会にふさわしい公正な労働条件等の確保を図る。

このため、短時間正社員制度、テレワーク等個人の置かれた状況に応じた柔軟な働き方を支える制度の整備、それらを利用しやすい職場風土づくり等、企業と働く者の取組を積極的に支援する。あわせて、在宅就業の適正化を推進するための環境整備に向けて、その実態把握を行い、必要な施策の検討を行う。加えて、男性の育児休業の取得促進方策の検討等を進めるとともに、男性の仕事と家庭の両立に関する意識啓発の推進等男性の子育て参加の支援・促進を図る。

また、パート労働者が有する能力を一層有効に発揮することができる雇用環境を整備するため、通常の労働者との均衡の取れた待遇の確保、通常の労働者への転換を推進する。あわせて、有期契約労働者についても正社員への転換支援を進めるとともに、有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準(平成15年厚生労働省告示第357号)に基づき助言・指導を行うなど、有期契約労働者の処遇の改善を図る。

さらに、労働者が安心・納得して働くことができるようにするため、労使対等の原則や就業の実態に応じた均衡考慮等の理念、合意原則、就業規則変更法理等、労働契約に関する基本的ルールを明確化する労働契約法(平成19年法律第128号)の内容の十分な周知を図る。あわせて、個別労働関係紛争について、総合労働相談コーナーにおいて、労働問題に関する相談、情報の提供を行うとともに、都道府県労働局長による助言・指導、紛争調整委員会によるあっせんを行うことによって自主的解決を促進する。

トップへ