(1) | 検討の視点
労働者の中には、仕事を通じたより一層の自己実現や能力発揮を望む者であって、自律的に働き、かつ、労働時間の長短ではなく成果や能力などにより評価されることがふさわしいものが存在する。これらの労働者については、企業における年俸制や成果主義賃金の導入が進む中で、その労働者本人が、労働時間に関する規制から外されることにより、より自由で弾力的に働くことができ、自らの能力をより発揮できると納得する場合に、安心してそのような選択ができる制度を作ることが、個々の労働者の更なる能力発揮を促進するとともに、日本の経済社会の発展にも資することとなる。
なお、諸外国において参考となる制度を見てみると、労働時間の割増賃金の適用除外制度として米国のホワイトカラー・エグゼンプションがあるが、米国は、労働時間自体の上限を設定しない規制の仕組みとなっていることや、労働事情、特に、我が国と比べた場合、転職が容易であることにより、過剰な長時間労働を強いられることを自ら防ぐことができる状況にあるという点が我が国と大きく異なるため、同制度をそのまま我が国に導入することは適当でないと考えられる。
また、新たな制度を設計するに当たっては、労働者の心身の健康が確保されることが、労働者が能力を発揮するための前提であることに留意し、新たな労働時間規制の適用除外の枠組み(以下「新しい自律的な労働時間制度」という。)が導入されたことにより、結果として過重労働が増加するような事態が起こらぬよう配慮が必要である。加えて、新たな枠組みについては、必要かつ十分な検討を行い、予定していた労働者が確実にその対象となるようにするとともに、他方で、予定外の労働者がその範疇に入ることにより制度又は運用について新たな問題が生じないよう留意すべきである。
さらに、企画業務型裁量労働制、専門業務型裁量労働制、管理監督者の適用除外といった現行制度との関係について、現場の労使が納得した上で、円滑にそれぞれの制度を活用できるよう、それら諸制度との調和や対象者の重なりについて整理しながら、検討を進める必要がある。
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(2) | 新しい自律的な労働時間制度の要件
( | 要件)
(1)を踏まえ、次の(1)から(4)までのいずれにも該当する労働者を対象として、労働時間に関する規定を適用除外する制度を創設することが考えられる。
(1) | 勤務態様要件
@ | )職務遂行の手法や労働時間の配分について、使用者からの具体的な指示を受けず、かつ、自己の業務量について裁量があること。
対象労働者は、職務遂行の手法や労働時間の配分(使用者による一律の出退勤時刻の設定がされないことだけでなく、あらかじめ決められた出勤日数の枠内での出勤日と休日の設定についての選択も含む。)について、幅広くその労働者の裁量に任されていること、すなわち、これらの点について使用者からの具体的な指示を受けないことが必要である。あわせて、上司からの過重な業務指示があった場合の対応について、自らの判断にゆだねられていることや、個々の業務のうちどれを優先的に処理するかについて判断することができるなど、自己の業務量のコントロールができることが必要である。
また、本要件の外形的な指標として、例えば、一定以上の職位・職階にあることや職務内容などが考えられるが、これらは企業ごとに多種多様であることや、これらの指標がなじみにくいケースもあることに留意すべきである。
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A | )労働時間の長短が直接的に賃金に反映されるものではなく、成果や能力などに応じて賃金が決定されていること。
対象労働者は、労働時間の長短が直接的に賃金に反映されるのではなく、成果や能力などに応じて賃金が決定されるものであることから、出退勤時刻を守らなかったことを理由とする減給が行われないこととされていることが必要である。なお、対象労働者の賃金制度は、他の通常の労働者の賃金制度とは区別されたものとなることが通常であると考えられる。 |
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(2) | 本人要件
@ | )一定水準以上の額の年収が確保されていること。
個々の労働者が対象労働者となるか否かについては、次に述べるように労働者本人の同意が要件とされるべきであるが、年収額の水準が相当程度高いことは、本人の同意が真意によるものである、そして、労働時間規制による保護を与えなくても自律的に働き方を決定できると考えるための重要な要素となるため、一定水準以上の額の年収が確保されていることが必要であると考えられる。
なお、この年収額は、通常の労働時間管理の下で働いている労働者の年間の給与総額を下回らないことが通常であると考えられる。
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A | )労働者本人が同意していること。
労働者本人が、自律的に働き、かつ、労働時間の長短ではなく、その成果や能力などにより評価されることを自ら望んでおり、それが実現可能であると納得していることが、新しい自律的な労働時間制度が適用される前提であり、さらに、個々の労働者が自律的な働き方を望むとしても、労働条件の大きな要素である労働時間規制を外すということは労働者の権利義務に大きな影響を与えるものであることから、本人にその意思があるか否かを確認するため、個別の同意を必要とすべきである。このように、働き方とそれに対する評価方法について本人が納得して、選択できるようにすることは、多様な働き方がある中で自らが仕事と生活の調和を図るための環境作りに資することにもなる。
その際、労働者本人による同意が適正に行われていること等を担保するため、労働者が同意しなかった場合の不利益取扱いを禁止するとともに、使用者と対象労働者の間で所定の事項(上記(1)@)の勤務態様要件、年収の額、休日の日数、出退勤時刻を守らなかったことを理由とする減給が行われないこと等)を記載した合意書を作成し、当該合意書を事業場に保管することを義務付け、事後的に適正な同意があったことを確認できるようにすることが適当と考えられる。
また、合意書に盛り込まれた内容は契約上の権利義務関係となり得るものと考えられ、当該内容に反する行為が使用者により行われた場合や当該内容の履行がなされなかった場合には、それをもとに労働審判等で争うことができると考えられる。 |
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(3) | 健康確保措置
・ | 実効性のある健康確保措置が講じられていること。
対象労働者については、労働時間の上限規制による過重労働の抑制の枠組みが働かないことから、その代償措置、いわば健康確保のためのセーフティネットとして、適切かつ実効性のある健康確保のための措置が講じられていることが必要不可欠である。
具体的には、職場内において健康状況をチェックし、必要に応じて適切な措置を講じる体制が整備されていることや、必要な休日が確保されていることが考えられる。
なお、この健康確保措置の担保については、当該事業場全体において労使協定または就業規則等により対象労働者に対する適切な健康確保措置が講じられていることが担保されていることが必要であるが、これに加えて、対象労働者ごとに個別に労働契約で当該健康確保措置の内容を定めることを求めることも考えられる。 |
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(4) | 導入における労使の協議に基づく合意
各企業において新しい自律的な労働時間制度を導入するに当たっては、現行の企画業務型裁量労働制や専門業務型裁量労働制と同様に、各企業の実態を把握している労使が話し合った上で導入を決定し、合意することを要件とすることが適当である。
以上の対象労働者の要件については、公平性及び客観性の観点から、法令にその要件の詳細を定め、すべての企業において一律に対象労働者の範囲を画定するという考え方がある一方、企業ごとの実態に応じた対象労働者の範囲の画定を可能とするため、法令に基本的な要件を定めた上で、具体的な対象労働者の範囲について、労使の実態に即した協議に基づく合意により決定することを認めることも考えられる。後者の場合、具体的な対象労働者の範囲について労使の協議にゆだねるとしても、(2)@)の年収額の下限や、同じく労働時間規制が適用除外となる管理監督者として取り扱われる者と対象労働者の数の合計の各企業の労働者数に対する割合の上限を設け、この制度の対象労働者としてふさわしくない者にまで適用除外を及ぼすような不適切な運用がなされないよう、制約を加えることも考えられる。その際、例えば、純粋持株会社で、ほとんどの労働者が新しい自律的な労働時間制度の対象者となり得ると考えられる場合など、その割合の上限を設けることが不適切と考えられるケースもあることにも留意すべきである。
なお、(1)から(3)までの要件を満たす者のうち、(2)@)の年収要件について、極めて高額の年収が保証されている労働者については、使用者に対し相当の交渉力を有し、かつ、働き方の決定について高い自律性を有するとも考えられることから、(4)を満たさなくとも新しい自律的な労働時間制度を受けられることとすることも考えられる。
また、(1)から(2)@)までの要件は、対象労働者を画定する上での基本的な要件であるが、具体的な運用を検討するに当たっては、事務系職種と技術系職種との違い(職位、職階、賃金制度、職務内容など)などを考慮に入れることが適当であると考えられる。
さらに、(1)から(3)までの要件をすべて満たす場合であっても、労働時間の長短と成果の大小の間の相関が強い業務など、新しい自律的な労働時間制度の対象とすべきでない業務が存在することが考えられることから、同制度の対象としてふさわしくない業務をネガティブリスト化することについても実態を踏まえて検討すべきである。 |
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( | 対象者の具体的イメージ)
これらの要件をすべて満たす者として、例えば、
イ | 企業における中堅の幹部候補者で管理監督者の手前に位置する者 |
ロ | 企業における研究開発部門のプロジェクトチームのリーダー |
といった者が対象労働者となり得ると考えられる。
個々の労働者について対象労働者となるか否かについて判断する際には、各事業場においてより客観的な基準が設けられるものと考えられるが、イ・ロを例として、考えられる具体的な指標を例示すると次のようなものが考えられる。
イについては、
@ | )職務遂行の手法や労働時間の配分につき、使用者からの具体的な指示を受けず、成果や能力などに応じて賃金が決定されていること |
A | )事業の運営に関する企画業務等に従事していること |
B | )一定以上の職位・職階にあること、又は、組織がフラット化した企業においては、一定年数以上の職務経験があること(必ずしも同一企業での勤続年数を指すものではなく、転職した場合でも同種の職務であれば経験年数を通算することも考えられる。) |
C | )一定水準以上の年収が保証されていること |
D | )本人が同意していること |
E | )週休2日制に相当する日数の休日を実際に取得していること |
F | )適切な健康確保措置が講じられていること |
ロについては、
@ | )職務遂行の手法や労働時間の配分につき、使用者からの具体的な指示を受けず、成果や能力などに応じて賃金が決定されていること |
A | )その者が一定以上の技能又は技術を有しており、一定のまとまりを持った範囲の研究開発を任されていること |
B | )一定水準以上の年収が保証されていること |
C | )本人が同意していること |
D | )プロジェクト終了後の連続休暇等の特別の休暇が付与されていること |
E | )適切な健康確保措置が講じられていること |
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(3) | 法的効果
以上の必要な要件を満たし、適正な手続を経て新しい自律的な労働時間制度が導入された場合、対象労働者については、現行の法第41条の管理監督者の場合と同様、法第4章、第6章及び第6章の2に規定する労働時間及び休憩に関する規定が適用されないとすることが考えられる。
また、同制度は自律的な働き方をする労働者を対象とするものであり、対象労働者自らの判断で深夜に業務を行うことが考えられるところ、適切な健康確保のための措置が担保されていることを前提として、深夜業に関する規定(割増賃金に関する規定等)もその適用を除外することが考えられる。
ただし、法第35条の法定休日の規定については、現行の管理監督者の場合には適用が除外されているが、休日取得の実効性の確保を図る観点から、同制度においてはこの規定の適用を除外しない(すなわち、労働者に法定休日を与えなかったこととなる場合には法第35条違反となる。)ことも考えられる。
なお、これらの規定については、要件等を満たした場合、一律にすべての規定が適用除外されることとすることが考えられる一方、各企業の勤務実態等に応じて、労使の合意によりこれらの規定のうち適用除外とする規定を選択できる仕組みとすることが考えられる。
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(4) | 健康確保措置
( | 健康状況のチェック等)
対象労働者に対する健康確保措置については、対象労働者は自律的に働き方を決定できるとも考えられるものの、場合によっては過剰な長時間労働を行うことが考えられることから、そのために心身の健康が阻害されることを防ぐため、健康を維持する上で適切かつ実効性あるものとすべく検討を行うことが必要である。
具体的には、対象労働者全員に対して、定期的に健康状況をチェックし、必要に応じて適切な措置を講じる等の何らかの健康確保措置を講ずることを義務付け、その実施状況について、事業場においてその記録等を保管するとともに、行政官庁への報告を義務付けることが考えられる。また、その適切な履行を担保するため、実施されていない場合には罰則を科すことも考えられる。
さらに、対象労働者の心身の健康確保は重大な課題であることから、上記の措置の履行状況について労使による恒常的なチェックができるような仕組みを作ることも必要であると考えられる。なお、その際、衛生委員会を活用することも考えられる。
また、対象労働者が同制度の適用を望まなくなった場合には、本人の申出により、通常の労働時間管理に戻すこととする仕組みを検討することが必要である。
以上に加え、健康確保措置が実施されていることは新しい自律的な労働時間制度を導入する際の前提となることから、企業における対象労働者のうち相当の者について当該措置が実施されておらず、行政官庁による度重なる指導にかかわらず当該措置の実施状況が改善されない場合など、同制度の適正な運用が期待できないと考えられる場合に、当該対象労働者を通常の労働時間管理に戻すのみならず、当該企業における同制度の扱いを認めず、対象労働者全員を通常の労働時間管理に戻すこととする仕組みや、当該措置が適切に実施されなかった場合に、使用者に対する制裁として、年収額の一定割合を支払うことを義務付けるといった仕組みについても、同制度の適正な運用の確保という観点から、検討する必要がある。
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( | 休日の確保)
対象労働者については、労働時間管理による過重労働の防止ができないことから、通常の労働時間管理を受ける労働者に比べ、休日を実際に取得することがその心身の健康確保のためにより一層重要となる。
その際、法第35条の法定休日に加え、一定日数以上の休日を取得させることや、そのうち一定日数について連続して取得させることも考えられる。さらに、休日の日数についてあらかじめ個々の労働契約で定めることを義務付けることにより履行確保を図ることも考えられる。
なお、対象労働者は、使用者から出退勤時刻を含めた労働時間の管理を受けない者であり、休日の日数がその労働者の総労働時間の代用指標となり得ると考えられるため、使用者が対象労働者の出勤の有無については把握できるような仕組みとすることが考えられる。
また、出勤が予定されていた日に出勤しなかった場合の取扱いについて、それが当該労働者の成果に影響を及ぼす場合には評価の段階で適切に評価されることとなるが、出勤しなかったことが直ちに懲戒等の対象とはならず、それ自体がマイナス評価の対象とされないこととすることも考えられる。その際、会議に参加すること等、その勤務態様について一定の制約を受けることが当該職務の遂行上当然に必要となるケースもあることには留意すべきである。
さらに、労働時間の配分について具体的な指示を受けないこれらの労働者については、使用者が年次有給休暇の時季変更権を行使し得る範囲もおのずと限定されると考えられる。
以上に加え、休日の確保が健康確保に欠かせないものであることを重視し、健康確保措置と同様、当該企業において対象労働者による休日の取得が適切に行われていないことが次々と明らかになった場合など、制度の適正な運用が期待できないと考えられる場合には、当該対象労働者を通常の労働時間管理に戻すのみならず、当該企業における新しい自律的な労働時間制度の扱いを認めず、対象労働者全員を通常の労働時間管理に戻すこととする仕組みや、休日が適切に取得されていない場合に、使用者に対する制裁として、年収額の一定割合を支払うことを義務付けるといった仕組みについても、同制度の適正な運用の確保という観点から、検討する必要がある。 |
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(5) | 労使の協議の役割
労使の協議については、現行の企画業務型裁量労働制においては労使委員会制度が、また、専門業務型裁量労働制においては労使協定制度がとられている。この違いは、制度の対象者の範囲が明確でないものについては、企業の実態に即しつつ労使が対等な立場で協議して決めることが必要であるとの考え方によるものである。
新しい自律的な労働時間制度における労使の協議においては、対象労働者の具体的な範囲の画定等を行うこととなるため、労働者の意見を適正に集約するとともに、労働者の交渉力を補完することにより、労使が実質的に対等な立場で協議を行う仕組みを担保することが重要である。
また、労使の協議に係る手続が確実に行われていることについて、行政による事後的なチェックを適時適切に行うことができるようにする趣旨から、労使の協議に係る合意書等をその事業場に保管させるとともに、行政官庁に届け出ることを求めることも考えられる。
なお、労使の協議の具体的な在り方については、現行制度における労使の協議の在り方も含め、検討することが必要であると考えられる。
いずれにしても、これらについて、関係審議会において、労働契約法制の検討の中で、労働時間制度の在り方の検討と時期を同じくして検討が進められることが必要であると考える。
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(6) | 適正な運用の確保
( | 苦情処理措置)
上記の健康確保のための措置を講ずるほか、新しい自律的な労働時間制度の適正な運用を担保するため、現行の企画業務型裁量労働制と同様に、対象労働者からの苦情に対応するための措置を講ずることが考えられる。この際、苦情処理措置が実効性のあるものとなるよう、企画業務型裁量労働制の苦情処理措置の運用実態や問題点を踏まえて、企画業務型裁量労働制における見直しの方向性に沿って検討を加えるべきである。
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( | 要件・手続に違背があった場合の取扱い)
新しい自律的な労働時間制度の運用に当たり、法律で定める要件又は手続に違背があった場合の民事上、労働基準法上の効果については、実労働時間を把握しない制度であることに着目し、独自の法的効果を定めることも考えられるが、当面、次のように整理することが適当である。
<労使合意を導入の要件とした場合>
・ | 労使合意について、その内容に法で定める必要的記載事項が含まれていない場合や、その内容が法が定める水準に達していなかった場合は、適用に係る重大な瑕疵があると認められ、事業場全体及び個々の労働者に対する適用除外の効果が認められず、法第32条違反等の問題が生じ得る。 |
・ | 労使合意の内容は適法だが、要件に該当しない労働者を新しい自律的な労働時間制度の対象として取り扱っていた場合(例えば、同意の不存在や、年収要件違反など)は、当該労働者に対する適用除外の効果は認められず、法第32条違反等の問題が生じ得る。 |
・ | 労使合意の内容は適法で、要件に該当する労働者を対象としている(同意も得ている)が、その合意内容(例えば、健康確保措置の実施、休日の取得など)が適切に履行されなくなった場合は、その時点から、個々の労働者に対する適用除外の効果が認められなくなり、法第32条違反等の問題が生じ得る。 |
・ | なお、労使合意がない場合は、個別に労働者と合意しても適用除外の効果は生じず、法第32条違反等の問題が生じ得る。 |
<導入に当たり労使合意が不要とされる場合>
・ | 本人との合意書に必要的記載事項が含まれていない場合や、その内容が法が定める水準に達していなかった場合及び同意以外の要件(例えば年収要件)を満たさない労働者について本人の同意を得て対象として取り扱っていた場合は、当該労働者に対する適用除外の効果は認められず、法第32条違反等の問題が生じ得る。 |
・ | 合意書の内容が適正に履行されなくなった場合は、その時点から当該労働者に対する適用除外の効果が認められなくなり、法第32条違反等の問題が生じ得る。 |
・ | なお、そもそも対象労働者の同意がない場合は、当然当該労働者に対する適用除外の効果は認められず、法第32条違反等の問題が生じ得る。 |
なお、上記のいずれのケースについても、法第32条違反等とは別に、新しい自律的な労働時間制度の手続違反について、その根拠規定の違反として別途罰則を科すことにより、適正な運用を確保するという手法についても検討する必要がある。
また、法律で定める要件又は手続の違背はあるが、その内容が軽微なものである場合の取扱いについては、速やかに改善がなされた場合に(3)の法的効果を否定しない等の取扱いを行うことや、判断基準の明確化の観点からそのような取扱いを法令に明記すること等についても検討を行う必要があると考えられる。
さらに、法律に定める要件又は手続違背によって法32条違反等が生じ得ると整理した場合、不適正な取扱いがなされていた期間中に生じた法定時間外労働について、使用者は、その時間数に応じて割増賃金を支払わなければならないこととなる。しかし、いったん新しい自律的な労働時間制度の適用を受けることになれば、使用者は労働者の労働時間を把握しなくなるということを前提にした上で、労働者の賃金の取扱いをどのようにするか検討する必要がある。
この場合、例えば、以下の点について検討することが必要であると考えられる。
(1) | 不適正な取扱いがなされた場合の労働者への支払額をあらかじめ労使で取り決めておく(割増賃金の額に相当する額として年収の一定割合の額を含んだ額)ことを義務付ける。(この場合、「支払額」を一定額以上とすることを法定することや、算定方法を法定することも考えられる。) |
(2) | 不適正な取扱いがなされた場合における労働に従事したと推定される時間をあらかじめ労使で取り決めておくことを義務付ける。 |
いずれにしても、不適正な取扱いがなされた場合の救済措置については、新しい自律的な労働時間制度の本旨を踏まえた運用が阻害されることのないようにしつつ、勤務実態が事後的に明らかになった場合も含め、救済が迅速かつ適切に行われる仕組みを用意する必要がある。
このほか、法律の定める要件又は手続の違背はないが、対象労働者が、配置転換等により、新しい自律的な労働時間制度の要件を満たさなくなった場合等の賃金の取扱い等についても同様に整理する必要がある。
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( | 履行確保のための行政の役割)
新しい自律的な労働時間制度については、対象労働者の具体的な範囲の画定をはじめとしてその導入及び運用において、各企業の労使自治が大きな役割を果たすこととなるため、労働者の交渉力を補完し、労使が対等な立場で実質的な協議を行うことができるような仕組みが有効に機能していることが重要である。
行政官庁としては、このような対等かつ実質的な労使の協議が担保されているかという点を含め、同制度の導入手続が適正に行われているかという側面から適時適切に確認することが適当である。このほか、各事業場ごとに、賃金台帳等により対象労働者が明らかにされていることが求められるとともに、実際に健康確保措置が実施されているか、実際に休日が確保されているかなどについても書面に基づき確認を行い、こうした手続等が適切に行われていなかった場合は改善を求め、改善されないときは制度を廃止させることができることとする仕組みについて検討する必要がある。 |
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(7) | 現行制度との関係
( | 現行裁量労働制との関係)
現行の企画業務型裁量労働制は、そもそも、実際の労働時間の長短と賃金との関係を切り離すことにより、労働者に自律的な働き方を促すための制度として創設されたものであり、当然、その対象労働者には新しい自律的な労働時間制度の対象労働者となるべき者も相当数含まれていると考えられる。したがって、その制度目的や対象労働者が重なることから、新制度の創設に伴い、企画業務型裁量労働制を廃止することも考えられる。
しかし、現に企画業務型裁量労働制を導入している事業場における人事労務管理上の支障を考慮すると、実態を踏まえつつ、当面の間現行制度を維持することも考えられる。その際、中小企業においては、労使委員会の設置が負担になる場合があり、労働者が少数で、全員から意見を聞くことにより、合意の形成を図れる場合については、労使委員会の設置を求めないこととすることも考えられる。
また、同制度の対象労働者の裁量性を確保しつつ過重労働に陥ることを防ぐため、上司による裁量性を阻害するような具体的指示や過度の追加業務の指示がなされている場合に、速やかに当該労働者を同制度の対象から外すといった仕組みが必要である。そのための方策として、現行の苦情処理措置について、単に個々の苦情への対応にとどまらず、対象業務や対象労働者の範囲の見直しの実施まで行うなど、苦情処理措置をより実効あるものとすることが考えられ、このような苦情処理措置の運用改善の具体的方法を指針等において例示することが考えられる。
他方、現行の専門業務型裁量労働制については、業務の性質上、通常の方法による労働時間の算定が適切でない業務がその対象であるが、新しい自律的な労働時間制度の要件設定の仕方によっては対象労働者が一部重なることも考えられる。しかし、現行の専門業務型裁量労働制は新しい自律的な労働時間制度とは異なる要件の下で、現在多くの労働者がその適用を受けており、新制度を創設してもなお、専門業務型裁量労働制に対するニーズもあると考えられることから、同制度を維持することが適当と考えられる。
その際、同制度の対象労働者が過重労働に陥ることを防ぐため、企画業務型裁量労働制と同様に、業務量の適正化を図るための所要の運用改善を行うことが必要である。
また、現行の企画業務型裁量労働制の対象労働者のうち、新しい自律的な労働時間制度に移行しない労働者については、その対象業務の範囲が限定的かつ明確なものを専門業務型裁量労働制の一類型として整理・統合し、あわせて、導入手続を変更することも考えられる。
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( | 管理監督者との関係)
現行の解釈では、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にあり、労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない重要な任務と責任を有し、現実の勤務態様も労働時間等の規制になじまない立場にあるという要件を満たすものを管理監督者としてきたところである。今後ともこれらの労働者について引き続き管理監督者として労働時間規制の適用を除外すべきものと考えるが、他方で、労働基準法制定時にあまり見られなかったいわゆるスタッフ職のうちに、処遇の程度等にかんがみ管理監督者として取り扱うべき者が出てくるなど、企業における人事労務管理の在り方が変化してきており、現行の管理監督者の要件では、その適正な運用を図ることが困難となっている。
このため、労働時間規制の適用除外という同様の法的効果をもたらす新しい自律的な労働時間制度の創設にあわせ、本来の制度趣旨に照らして、その要件の明確化及び適正化を図り、例えば、同制度の対象労働者となることがふさわしいスタッフ職については、管理監督者から除くこととし、円滑に同制度への移行が図れるようにするなどの整理が必要である。その際、管理監督者は、同制度の対象労働者に比べ、より経営者に近い立場にあることに留意しつつ、要件の明確化及び適正化を図るべきである。
また、各企業において、人事異動等により、管理監督者として扱われる者が変わる場合においても、その適正な取扱いを担保するため、その範囲について各事業場ごとに賃金台帳等により明らかにしておくといったことが考えられる。
さらに、管理監督者がそもそも労働時間規制の適用を除外され、時間管理がなされていないことにかんがみ、深夜業に関する規定(割増賃金に関する規定等)についても適用除外とすることが考えられる。
このとき、管理監督者の健康に配慮することは当然であり、時間管理がなされない新しい自律的な労働時間制度における健康確保措置の内容の検討に併せて管理監督者の健康確保措置の在り方について検討することも必要である。
あわせて、管理監督者の労働条件を決定する際、対象となる管理監督者の意向が反映される仕組みの在り方についても検討する必要がある。 |
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