第2  平成17年度地方労働行政の課題
 1  厳しい雇用情勢下における雇用の安定、労働条件の確保に向けた総合的な対応
 改善が進んでいるものの、厳しさが残る雇用情勢の中で、離職者の早期再就職の促進や新たな雇用機会の創出等とともに、適正な労働条件の確保を図ることが引き続き課題となっている。
(1)  雇用のミスマッチ縮小と雇用機会の創出等
 完全失業率は4%台で推移する一方、有効求人倍率は着実に回復し、1倍を超える地域が増えるなど、厳しさが残るものの、改善が進んでいるところである。求人が急速に増加している雇用環境の下で、職種、年齢、能力、賃金等における雇用のミスマッチの縮小に努め、的確な求人と求職のマッチングの実現を図ることが重要である。このため、公共職業安定所の特性、ノウハウを最大限に活かし、求職者の個々の状況に的確に対応した就職支援の実施、未充足求人のフォローアップなどの求人者サービスの充実に全力で取り組むことが必要である。また、職業能力のミスマッチに対応し、離職者の早期再就職促進を実現するためには、職業紹介と公共職業訓練との一体的な運用が重要である。
 また、公共職業安定所において有為な民間人材の積極的活用を図るとともに、公共職業安定所と民間や地方公共団体との共同・連携による就職支援や情報提供を効果的、効率的に実施することが必要である。その中で、キャリア交流プラザ事業の公設民営などの市場化テストのモデル事業を円滑に実施する。
 経済や雇用には大きな地域差があるが、「地域再生推進のためのプログラム」(平成16年2月)に基づき、それぞれの地域が主体的に地域再生に向けた取組を進めている。こうした中で、地域の雇用情勢の改善を図るためには、地域が主体的に雇用創造に取り組み、地域再生の核となる産業の育成を図ることが必要である。このため、雇用創造に自発的に取り組む市町村等に対し、総合的な支援を実施することが重要である。
 また、障害者が社会の支え手の一人として誇りを持って自立できるような環境を整備するため、福祉施設での就労から雇用への移行の促進、精神障害者に対する雇用対策の強化など、障害者の雇用・就業支援を充実させることが重要である。
 このほか、生活保護受給者、児童扶養手当受給者、ホームレス等に関しても、福祉から就労へとの観点のもと、就労による自立を支援することが必要である。
(2)  労働条件の確保・改善
 依然として、会社都合等による解雇、労働条件の引下げ等が行われ、こうした動きに関連した賃金の不払、賃金不払残業、解雇手続の不履行等の法定労働条件の履行を確保する上での問題も生じている。
 しかしながら、いかなる経済・雇用情勢下においても、法定労働条件は確保されなければならないものであり、特に現下のような状況においては、労働条件の確保に関する国民の関心と期待は高く、その期待に的確に応えていくことが求められている。
 このように、労働条件の確保を図るために労働基準行政が果たすべき役割が重要となっていることを踏まえ、一般労働条件の確保・改善対策について、これを積極的に推進するとともに、これにより企業の法令遵守意識を高めていくことが肝要である。

 2  健康で安心して働ける環境の整備
 労働環境が変化する中で、全ての労働者が健康で安全に働くことができ、また性別等にかかわりなく安心して働ける環境づくりを推進することが課題となっている。
(1)  労働者の安全と健康の確保
 業務請負等のアウトソーシングの増大、成果主義の導入など人事労務管理の変化、就業形態の多様化等、企業を取り巻く社会経済情勢が変化する中、爆発災害等が頻発し、脳・心臓疾患、精神障害等の労災認定件数も依然高水準で推移していることから、引き続き、第10次の労働災害防止計画を踏まえ、労働安全衛生関係法令の遵守をはじめとした労働安全衛生面の対策を的確に推進するとともに、健康で安心して働ける職場を実現するための施策を積極的に推進する必要がある。特に、重大災害が頻発している製造業における安全管理の徹底を図るとともに、建設業をはじめとした業種別労働災害防止対策、交通労働災害等の特定災害防止対策、事業者及び労働者による自主的な安全衛生活動を推進するための労働安全衛生マネジメントシステムの普及促進等を引き続き推進する必要がある。
 また、社会的問題となっている「過労死」等を防止するため、過重労働による健康障害防止対策を引き続き推進するとともに、地域産業保健センターの機能を充実させるなど小規模事業場対策の強化を図る必要がある。また、職場におけるメンタルヘルス対策については、地域・職域の連携を念頭に置いたさらなる対策の充実が求められている。併せて、石綿使用建築物の解体作業等における健康障害防止対策等の労働者の健康を確保するための施策を積極的に推進していく必要がある。
(2)  労災補償の迅速・適正な実施及び公平性の確保
 労災保険制度について国民の強い関心が向けられる中、脳・心臓疾患、精神障害等事案といった調査・判断の難しい事案の労災請求件数が依然として高水準で推移していることを踏まえ、事務処理能力の向上や組織的対応の一層の推進・徹底を図ることにより、迅速・適正な労災補償の実施に引き続き努めていく必要がある。また、費用徴収の的確な実施、第三者行為災害に係る求償債権の確実な回収等に努めていく必要がある。
(3)  男女雇用機会均等の確保
 働く女性が性別により差別されることなく、その能力を十分に発揮できる雇用環境をつくるため、「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」(以下「男女雇用機会均等法」という。)の履行確保を図るとともに、女性の能力発揮のための企業の積極的取組(ポジティブ・アクション)を促進すること等により、実質的な男女の均等確保の実現を目指すことが重要となっている。
(4)  労働保険制度の適正な運営
 労働保険が、労災保険給付や失業等給付を通じた労働者の福祉の増進に寄与する制度として的確な役割を果たしていくため、これまで以上に、制度の健全な運営、費用負担の公平性等が求められているところであり、適用徴収業務については、(1)未手続事業の一掃、(2)労働保険料の適正徴収、(3)労働保険事務組合制度の充実・発展などの取組が必要である。
(5)  個別労働紛争の解決の促進
 企業組織の再編や企業の人事労務管理の個別化、就業形態の多様化等を背景として増加する個別労働紛争について、その実情に即した迅速かつ適正な解決に向け、都道府県労働局において、的確な相談・情報提供、助言・指導及びあっせんの実施等の個別労働紛争解決制度の積極的な運用に努めるとともに、企業内における紛争の自主的な解決を促進する必要がある。

 3  少子・高齢化の進行と多様な働き方への対応
 急速な少子化の進行で、今後、労働力人口が減少することが予想される中で、経済社会の活力を維持し、労働力人口を確保するためには、若年者の職業意識啓発と就職支援、仕事と家庭の両立支援、高齢者の雇用環境の整備といった対策が重要である。また、平成16年12月に策定された「少子化社会対策大綱に基づく重点施策の具体的実施計画について」(「子ども・子育て応援プラン」)では、今後5年間に講ずる具体的な施策内容と目標が掲げられているが、この中においても、若者の就労支援の充実、仕事と家庭の両立支援と働き方の見直しなどの労働施策も含まれている。このため、都道府県労働局としても各行政が連携して強力に取組を進める必要がある。
(1)  若年者の職業意識啓発と就職支援
 若年者の雇用環境は厳しい状況にあり、働く意欲が不十分な若年者が増加しているが、若年者が意欲を持って働き、経済的にも自立できるようにすることが喫緊の課題となっている。このため、関係者が一体となって若年者の雇用問題に取り組むことが必要であり、新たに「若者の人間力を高めるための国民運動」を展開することとしている。
 こうした中、経済界、労働界、地域社会等との連携、協力の下で、働く意欲が不十分な若者、無業者(ニート)の増加などの課題に対応するため、若者の働く意欲や能力を高める総合的な対策として「若者人間力強化プロジェクト」を推進するとともに、引き続き「若者自立・挑戦プラン」の着実な実施によりすべてのやる気のある若年者の職業的自立を促進することが重要である。
(2)  仕事と子育ての両立支援
 平成16年12月に改正された「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(以下「育児・介護休業法」という。)及び平成17年4月1日に全面施行となる「次世代育成支援対策推進法」(以下「次世代法」という。)について、その円滑な施行を図るとともに、その実効を確保していく必要がある。
(3)  高齢者の雇用の確保
 少子高齢化の急速な進行により、今後、労働力人口の減少が見込まれる中で、我が国経済社会の活力を維持していくためには、高齢者の高い就業意欲が活かされ、その有する能力が十分に発揮されることが不可欠となる。このため、平成16年6月に改正高年齢者雇用安定法が成立し、平成18年4月から段階的に65歳までの定年の引上げ、継続雇用制度の導入等の措置が義務づけられたところであり、これを踏まえ、当面は65歳までの雇用の確保に取り組みつつ、将来的には年齢にかかわりなく意欲と能力のある限り働き続けることができる社会の実現に向けた環境整備を進めることが重要である。また、高齢期には、個々の労働者の意欲、体力等の個人差が拡大することから、労働者の多様なニーズに対応した雇用・就業機会を確保することも併せて重要である。
(4)  多様な働き方への対応
 急速な少子・高齢化、労働者の意識やニーズの多様化が進む中で、多様な働き方の選択肢の整備を図るとともに、その担い手である労働者が職業生涯を通じて意欲と能力を十分発揮できるようにしていくことが必要である。
 これを踏まえ、多様な働き方の選択肢の整備を図るため、ワークシェアリングの普及・啓発を進めるとともに、雇用・就業形態の多様化に伴う課題に対応するため、パートタイム労働者と通常の労働者との均衡等を考慮した適正な労働条件の確保及び雇用管理の改善、派遣労働者の就業条件の整備、在宅ワークの健全な発展のための施策の推進等が求められている。
 また、「労働力調査」により労働時間の動向をみると、雇用者全体に占める週労働時間60時間以上の雇用者と35時間未満の雇用者の割合が同時に高まる「労働時間分布の長短二極化」が進展している。さらに、年次有給休暇の取得率の低下も続いている。こうした中で、労働時間、休日及び休暇が個々の労働者の健康や生活に配慮して定められるよう、これまでの取組も踏まえつつ、長時間労働者の所定外労働の削減、年次有給休暇の取得促進等に向けた事業場ごとの労使の自主的取組を一層促進していくことが必要である。

トップへ