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障害者雇用問題研究会報告書
−障害者の就業機会拡大をめざして−


平成16年8月

障害者雇用問題研究会



目次


 はじめに


 障害者雇用の直面する課題

(1)精神障害者の雇用促進

(2)多様な就業形態への対応

(3)地域における障害者雇用の促進


 今後の方向

(1)精神障害者の雇用率の適用と雇用支援策の充実

(2)在宅就業等多様な就業形態に対する支援策

(3)地域における協働による障害者雇用の支援



1 はじめに
   近年、障害者の社会参加が進む中、障害者の就業に対するニーズは高まりをみせている。こうした中、平成14年末に策定された「障害者基本計画」、「重点施策実施5か年計画」は、障害者の地域における自立を進めるための施策をさらに進めることとしており、この傾向は今後とも一層強まることが見込まれる。
 特に、精神障害者については近年、有効求職者数、就職者数ともに増加しており、精神障害者の雇用率制度の適用について、諸課題を早期に解決し実施することが求められている。
 また、近年、ITの進展等により、通勤が困難な重度障害者がインターネット等を活用して在宅で就業するといった例がみられており、ITを活用した在宅就業が障害者の就業機会の拡大を図る上での重要な方策の一つとなる可能性が指摘され、支援策の必要性が問われている。
 これらの課題については、先般、有識者等からなる研究会から提言がなされたところである。また、本年6月に閣議決定された「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2004」においては、「障害者の雇用・就業、自立を支援するため、在宅就労や地域における就労の支援、精神障害者の雇用促進、地域生活支援のためのハード・ソフトを含めた基盤整備等の施策について法的整備を含め充実強化を図る」とされたところであり、障害者の雇用の促進等に関する法律(以下「障害者雇用促進法」という。)の改正を視野に入れた施策の充実強化を早急に実施することが求められている。
 本研究会は、このような障害者の雇用・就業に関する当面の課題について、具体的な制度改正のあり方を中心に検討を行ってきたが、ここにその検討結果をとりまとめたので報告する。


(注)  本報告書では、原則として雇用、非雇用といった就業形態にかかわらず、障害者の職業的自立が可能となるような働き方を指して「就業」という語句を用い、慣用的な用法が存する場合等においては適宜「就労」等の語句を用いている。



2 障害者雇用の直面する課題
 (1) 精神障害者の雇用促進
 近年、医療、福祉の進展等により精神障害者の社会参加が進み、精神障害者の就業意欲は一層高まりをみせている。また、経済、産業構造が転換期を迎え、労働者の就業意識の変化、働き方の多様化等がみられる中で、仕事、職業生活に対する強い不安、悩み、ストレスを訴える労働者や精神疾患の外来患者数が増加してきており、企業に採用されてから精神障害を有するに至った者の雇用の継続も課題となっている。
 精神障害者の雇用の促進については、障害者雇用促進法に基づき各般の施策が講じられてきており、平成14年の改正においては身体障害者、知的障害者と並んで精神障害者が同法上に定義されるに至った。
 今後の課題は身体障害者、知的障害者と同様、精神障害者を雇用義務制度の対象とすることであり、「精神障害者の雇用の促進等に関する研究会」(座長:高橋清久国立精神・神経センター名誉総長)は、本年5月に「精神障害者の雇用を進めるために−雇用支援策の充実と雇用率の適用−」と題する報告書をとりまとめ、採用後精神障害者対策をはじめとする雇用支援策の充実や、精神障害者保健福祉手帳の所持者の実雇用率への算定等について提言を行ったところである。
 (2) 多様な就業形態への対応
 経済、産業構造の変化を背景として、労働市場も需給両面において構造変化が進展してきており、労働者の就業意識とともに働き方も多様化する傾向にある。労働者がライフスタイルにあわせて多様な働き方を選択でき、自己の能力を十分発揮できるような就業環境の整備が求められているが、働き方の多様化は、障害者にとって、就業場所や就業時間といった面での選択可能性が広がることにより社会参加の制約要因を克服し、就業機会の拡大をもたらす可能性を有する点で大きな意義を持つといえる。
 ITの普及が在宅就業という働き方に新たな可能性をもたらしていることはつとに指摘されているところであるが、通勤が困難な重度障害者がインターネットを活用して在宅で就業するといった例が多くみられるようになってきており、働き方の選択肢の一つとして、障害者の在宅就業に対して、適切な支援策を講じることが求められている。この点については、本年4月、「障害者の在宅就業に関する研究会」(座長:諏訪康雄法政大学大学院政策科学研究科教授)が「多様な働き方による職業的自立をめざして」と題する報告書をとりまとめ、障害者の在宅就業に対して、雇用支援策との関係に留意しつつ、仕事の発注に対する奨励策や在宅就業支援団体の育成、障害者の在宅勤務の普及等について提言を行ったところである。
 また、障害特性を踏まえた多様な働き方の環境整備による就業機会の拡大という観点からは、短時間労働への対応も重要であり、雇用率制度上の位置付けについて整理が必要とされている。
 (3) 地域における障害者雇用の促進
 障害者基本計画に基づき障害者が地域で自立した生活をおくることができるよう支援していくことが極めて重要な政策課題となっているが、雇用や就業に対する支援は、障害者の地域生活を支える上での重要な柱の一つである。
 現状では、授産施設や作業所といった福祉施設の利用者の多くは企業に雇用されることを望んでいるものの、実際に雇用に移行する割合はごくわずかである。
 授産施設や作業所における就労から雇用への移行を促進していくためには、送り出す側であるこれら福祉施設を機能別に再編成し、移行支援機能を高めていくことが肝要であるといわれているが、あわせて、雇用部門と福祉部門の資源、人材が相互に連携して、適切な支援を行っていくことが求められる。
 また、各地域の経済、産業活動の中で、障害者雇用の浸透を図っていくための取り組みも重要であり、地域的に近接している企業どうしが協働して障害者の雇用の場を創出するといった発想も必要となってきている。



3 今後の方向
 (1) 精神障害者の雇用率の適用と雇用支援策の充実
@  雇用率の適用
 雇用義務制度は、障害ゆえに職業生活上の制約を有する障害者の雇用は企業の社会的責任であるという考え方から成り立っており、精神障害者についても障害者雇用促進法上に定義されたこともあり、将来的には、これを雇用義務制度の対象とすることが考えられる。
 しかしながら、現段階では、精神障害者の雇用に対する企業の理解と雇用管理ノウハウの普及を図る必要があり、企業の社会的責任を果たすための前提として、精神障害者の雇用環境をさらに改善していく必要があることを踏まえれば、雇用義務制度の本格的な実施を図る前に、まずは何らかの形で雇用を奨励し、精神障害者を雇用している企業の努力に報いるような仕組みを整備することが適当である。
 具体的には、現在の雇用率制度では、精神障害者を雇用していても実雇用率に算定されないが、これを算定することとするとともに、納付金制度の取扱いも身体障害者、知的障害者と同様の取扱いにすることにより、採用後精神障害者を含め、精神障害者を雇用している企業の努力を評価する制度を整備し、その雇用の促進を図ることが適当である。
 また、精神障害者を実雇用率に算定するに当たっての対象者の把握・確認方法は、精神障害の特性やプライバシーへの配慮、公正、一律性等の観点から、精神障害者保健福祉手帳(以下「手帳」という。)の所持をもって行うことが適当であるが、その場合には、本人の意に反した雇用率の適用が行われないよう、プライバシーに配慮した対象者の把握・確認のあり方について、企業にとって参考となるものを示す必要がある。その内容としては、スムーズな把握確認の事例や手帳取得の強要の禁止といった禁忌事項を示すことなどが考えられるが、企業にとってわかりやすいものとなるよう、専門家による検討を行う必要がある。
 さらに、手帳所持による雇用率適用に当たっては、手帳への写真貼付等の様式の見直しを行うとともに、心の健康問題の正しい理解のための普及啓発指針(「こころのバリアフリー宣言 〜精神疾患を正しく理解し、新しい一歩を踏み出すための指針〜」(厚生労働省心の健康問題の正しい理解のための普及啓発検討会))や精神障害者職業自立等啓発事業の活用等により、本人、家族や関係者、医療関係者に対し手帳制度と職業リハビリテーションサービスの利用についての周知を図っていくことが重要である。
A  雇用支援策の充実
ア. 在職精神障害者に対する支援
 精神障害者の雇用支援策は年々充実が図られてきており、有効求職者、新規就職者ともに伸びてきているが、さらに企業の精神障害者の雇用に対する理解を浸透させ、全体として精神障害者雇用の促進を図るためには、企業が直面する在職精神障害者の雇用管理上の諸課題に適切な支援策を講じる必要がある。
 精神障害者に限らず広く心の健康に問題を抱えることにより休職した者の復職に関しては、復職可能性の判定や、業務内容、労働時間、労災の取扱いなど、その方法について試行錯誤の状態である企業が多い。メンタルヘルス対策としては、まずストレスの予防等をはじめとする心の健康づくりが重要であり、セルフケア、ラインによるケア、事業場内産業保健スタッフ等によるケア、事業場外資源によるケアが継続的、計画的に行われることが重要である。そして、心の健康に問題を抱えることにより休職した者については、円滑に職場復帰し、業務が継続できるよう、社内体制を整備しながら、それぞれの企業の実態に即した職場復帰支援のためのプログラムを作成することが重要であって、各企業がプログラム作成に当たって参考となるようなマニュアルを策定し、普及していく必要があり、在職精神障害者対策もこうした再発予防も含めたメンタルヘルス対策との密接な連携を図りながら実施される必要がある。
 具体的には、例えば、採用後精神障害者の復職に当たり、医療機関、事業主、精神障害者の三者の密接な連携のもと、復職の各段階に応じた相談支援が適切に行われるよう、現在、一部の地域障害者職業センターが行っている精神障害者職場復帰支援事業(リワーク事業)をさらに発展させ、総合的な支援を全国各地のセンターで実施することが考えられる。また、企業内において、本人、主治医、産業医、上司等復職に関わる関係者や主治医、地域障害者職業センター等の外部の支援機関等との間の連絡調整を行いながら支援を行うスタッフを配置することに対して助成を行うなど、復職過程における企業の負担感の軽減を図ることが考えられる。
 また、復職者を含めた在職精神障害者が長期間にわたって継続雇用されるためには、企業が雇用管理を適切に行うことが必要不可欠であり、そのために地域障害者職業センターや就労支援専門機関が定期的に事業所を訪問して雇用管理に関する助言や定着指導を行うなどの専門的支援を実施することが適当である。
 障害者職業カウンセラーによる専門的な相談支援や、ジョブコーチ、障害者就業・生活支援センターをはじめとする各種事業など、既存の職業リハビリテーションサービスも一層の充実を図り、これまで以上に、採用後精神障害者をはじめとする在職精神障害者に対する支援に重きを置くことが適当である。
イ. 新規雇用に対する支援
 精神障害者の雇用に対する企業の不安を払拭し、本人の円滑な職場適応を図るためには、実際に職場において訓練ないしは試行的に雇用される機会が設けられることが重要であり、就職後も最初から長時間働くことが困難な者や職場環境に慣れるまでに時間がかかる者にあわせた労働時間の配慮を行うとともに、症状の変化に応じ、生活面も含めた相談支援を行うことにより、職場定着を図っていく必要がある。
 このため、訓練時間、訓練期間も精神障害者の特性にあわせて柔軟な設定を行うことが可能な企業等を委託先とする委託訓練の活用を図るとともに、再就職も含め就職をめざす精神障害者の職業能力開発を効果的に実施するため、職業能力開発校における効果的な職業訓練内容、カリキュラム、指導方法等を早急に確立し、普及することが求められる。また、企業からの利用希望が多く期間終了後に本格的に雇用へ移行する可能性が高い障害者試行雇用事業のさらなる拡充に努める必要がある。
 また、精神障害者の中には疲れやすく長時間働くことの困難な者もいることから短時間労働に対する支援の充実も必要であり、実雇用率の算定に当たって週20時間労働から0.5とカウントするとともに、週15時間労働からの雇用支援策をさらに充実させることが適当である。
 さらに、常用雇用への移行段階として、数人の精神障害者のグループが援助を受けながら職業準備性を高めるグループ就労も有効であり、期間を限定し一人一人の状況にあわせた計画的な援助が行われることや、一定の就職実績を上げていることを条件とした上で、このような常用雇用に移行するための取組みに対して支援を講じることが適当である。
 就職後は、日によって仕事の出来や体調に波があるといった障害特性にあわせ、周囲とのコミュニケーションをはじめとする環境調整や労働時間への配慮、生活面を含めた相談支援などを行うことによって職場定着を図っていく必要があり、障害者職業カウンセラーによる専門的な相談支援や、ジョブコーチ、障害者就業・生活支援センターをはじめとする各種事業などの充実を図るとともに、上記アの企業内の支援スタッフなどが中心となって、これらの職業リハビリテーションの各種サービスの活用を進めていく必要がある。このような雇用継続のための支援に当たっては、雇用、福祉、医療等の関係機関が適切な連携を図りながら実施していくことが重要であり、例えば、都道府県レベルでは、労働局と精神保健担当部局、地域障害者職業センター、精神保健福祉センターが、地域のレベルではハローワークと保健所、福祉事務所、障害者就業・生活支援センター、精神障害者地域生活支援センターといった各領域の専門機関のスタッフが相互に密接な連携を図りながら、本人はもとより企業も交えて個別ケースに応じたきめ細かな支援を行っていく必要がある。
 なお、精神障害者の新規雇用を促進するためには、精神障害者の雇用経験の乏しい企業においても社内のコンセンサスを得て具体的な採用計画を立案できるように支援を行うことが重要であり、地域障害者職業センターや就労支援専門機関において専門的な技法を活用したコンサルティングを行うことが適当である。
 (2) 在宅就業等多様な就業形態に対する支援策
@  在宅就業に対する支援策
 地域において生活する障害者が、自律的に働き、主体的に働き方を選択することを可能とするためには、多様な働き方の選択肢を用意し、就業機会の拡大を図っていく必要がある。働き方の多様化が障害者の職業生活にもたらす意義を踏まえると、障害者の在宅就業について、就業機会の増大や、キャリア形成、能力開発機会の提供のための支援策を講じることは重要であるが、働き方全般についての就業環境、あるいは働き方に中立的な社会制度が未だ整備の途上にある現段階における障害者の職業的自立のための支援策は、雇用支援策を基本とし、これに多様な働き方に対する支援策を組み合わせる形をとることが適当であり、雇用への道が狭まることなく、真に働き方の選択肢が増える方向で講じるべきである。
ア. 障害者の在宅就業への発注に対する奨励
 仕事の安定的な確保は、在宅就業を営む障害者が抱えている最も大きな問題であり、仕事を発注する側に障害者の在宅就業への発注の動機付けを与えることが必要である。
 障害者雇用促進法は、障害者が職業生活において自立することを促進するための措置を総合的に講じることを目的としており、同法において、障害者の在宅就業に対して企業が仕事を発注することを奨励するような仕組みを設けることが考えられる。
 その具体的な方法としては同法の体系上概ね以下のような選択肢が考えられる。
 当該企業の雇用率の算定に当たり、一定額(例えば、障害者一人分の稼得を生み出すに足るという考え方に基づき設定された金額)以上の外注を一人分の雇用とみなして評価する方法
 雇用率未達成企業が支払うべき納付金を減額したり、雇用率達成企業等が受け取る調整金、報奨金に加算を行う方法
 雇用率算定、納付金減額等とは別に同法上何らかの経済的な奨励措置を講じる方法
 雇用率に基づく雇用義務制度は、企業が障害者に雇用の場を提供する社会的な責任を有しているという考え方に基づき、各企業がその雇用する労働者数に応じて障害者の雇用の場を分担するという仕組みである。
 このような基本的な枠組のもとでは、障害者の職業的自立のための支援策は、働き方に中立的な社会制度が構築の途上にあるということも考慮すると、労働基準など労働者に対する事業主としての様々な責任が及ぶ働き方である雇用形態を基本に据えることが適当である。
 したがって、障害者の在宅就業に対する発注奨励策(以下「発注奨励」という。)については、企業が自ら障害者を雇用する意欲を阻害することなく、これを評価する形をとるべきであり、少なくとも現段階においては、外注をもって雇用義務と完全に同等に評価するというAの方法を採用することは適当ではないと考えられる。
 雇用義務に代替するほどの効果は付与しがたいとすれば、残る選択肢としてはBやCのように、障害者雇用に伴う経済的負担の調整のために企業から徴収した納付金を、雇用との関係に留意しつつ、雇用以外の方途をもってする障害者の職業的自立の道の開拓に貢献する企業にも還元するような用い方をすることが考えられる。
 これについては、労働市場の構造変化が進む中で働き方が多様化しており、障害者の職業的自立のための支援策についても、多様な働き方の選択肢を準備し、就業機会の増大を図るという観点から制度の見直しや充実を図っていくことが求められていることに鑑みれば、発注奨励については、障害者雇用促進法上、雇用義務に準ずる根幹的な仕組みである経済的負担の調整の中で位置付けることが適当であると考えられる。また、納付金拠出の主な趣旨は障害者雇用に伴う経済的負担の調整であり、この趣旨を踏まえれば、発注奨励の対象企業の範囲についても経済的負担調整の対象企業の範囲との整合性を保つ必要がある。
 以上のような点を総合的に勘案すると、発注奨励の具体的なあり方としては、納付金の減額や調整金、報奨金の加算という形であるBの方法をとることが適当と考えられる。
 具体的な奨励効果額の設定は、一人分の稼得を生み出すに足ると考えられる金額との擬制のもと、一定の基準金額(年間)を設定し、年間の発注額が基準金額を満たす場合に一定の奨励、即ち納付金の減額、調整金、報奨金の加算を行うことが考えられる。
 発注奨励の運用に当たっては、納付金の減免、調整金等の加算申請手続きが企業にとって過度の事務負担とならないよう留意する必要がある。例えば下記イに述べる法律上の要件にあてはまる支援団体に発注した場合には、発注業務や金額、実際に業務を行った障害者等の証明を支援団体が行うなど、悪意者の排除に意を払いつつも、手続きが煩瑣なものとならないよう工夫し、利用しやすい仕組みとすることが適当である。
 なお、このような発注奨励の仕組みは、従来はなかった新しいものであることから、その施行状況を継続的に把握、評価し、これを適宜制度運営に反映させていくことが適当である。
イ. 在宅就業支援団体の育成
 在宅就業障害者と発注元の企業との間に立つ在宅就業支援団体(以下「支援団体」という。)は在宅就業の市場において有効な機能を果たしているといわれている。
 即ち、障害者に代わる仕事の受注、技術の進展、在宅就業の業務内容の変化に応じた最新の知識技能の習得機会の提供、基本的な労働習慣の付与や技術上のトラブルへの相談支援、さらには健康面での相談支援などの面で支援団体の存在意義は極めて大きく、障害者の働く意欲に応え、就業環境の向上に寄与しているといえる。
 一方、発注元の企業にとってみれば、納期、品質に対する保証を支援団体が担うことにより、発注先が障害者であることによる健康上の問題等に起因する納期、品質についての不安に応える効果があるものと考えられる。
 そこで、事業内容や人員等、一定の要件等を満たし、障害者の在宅就業支援を適正に行っていると認められる支援団体については、障害者雇用促進法上の位置付けを行うことによって、企業が当該支援団体に仕事を発注した場合には、障害者に直接発注したものと同様に取り扱うこととし、上記アの発注奨励策の対象とすることが適当である。
 また、支援団体を全国各地で育成していくことも重要であり、現在、独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構を通じて、全国9か所の支援団体に委託して、在宅就業を営む障害者の技術の習得方法や仕事を確保する方法等についての相談、支援を実施しており、実績を挙げていることから、こうした支援策をさらに充実していくことが重要である。これまで各地域において障害者の就業・生活支援を行ってきている既存の団体が、在宅就業障害者の支援を行うことも、支援を効果的に行う上で重要であり、福祉施策との連携を図りながら新たな支援事業を整備していくことが適当である。
ウ. 在宅勤務の環境整備
 障害者の就業機会の拡大のためには、企業に雇用されて働く場合についても、事業所勤務だけではなく、在宅での勤務が可能となるよう進めていくことが重要である。
 在宅勤務の場合、事業所と離れた場所に勤務していることに伴う雇用管理上の負担が必然的に生じる。特に、障害者の在宅勤務の場合、在宅勤務者の障害特性、健康状態等を念頭に置きつつ、業務の配分、調整を行い、在宅勤務障害者との日常的な業務連絡や社内関係部門や取引先との連絡調整を行う必要があり、こうした役割を担う者の存在が不可欠である。
 そこで、企業がこのような在宅勤務障害者の雇用管理、業務管理を行うコーディネーターを配置することについて支援を行うことが適当である。
 また、在宅勤務に関しては、在宅勤務が適切に導入及び実施されるための労務管理のあり方を明確にした「情報通信機器を活用した在宅勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」(平成16年3月)を策定し周知を図っているところであり、事業主に対して今後さらにその周知を図っていく必要がある。
A  短時間労働と雇用率
 障害者の多様な働き方の選択肢として、短時間労働は重要である。障害特性を踏まえた短時間労働はもとより、今後は、長く企業に在籍した障害者が加齢に伴い、フルタイムから短時間労働へ移行するといったことも考えられるところである。
 現行の障害者雇用促進法は、週20時間以上30時間未満の短時間労働について、重度の身体障害者、知的障害者について特例的に実雇用率に算定しているのみであるが、障害者の多様な働き方の選択肢を準備し、主体的に選択が可能となるような環境づくりを行う観点からは、これを特に重度障害者に限定することなく、重度以外の身体障害者、知的障害者にも適用し、フルタイム労働との差異を踏まえつつ現行の重度障害者のみの特例的な適用から法定雇用率の算定上にも身体障害者、知的障害者の短時間労働を反映させることが考えられる。また、納付金等の算定に当たっても同様の取扱いとすることが考えられる。
 (3) 地域における協働による障害者雇用の支援
@  関係機関の連携による福祉施設等から雇用への移行の促進
 授産施設や作業所の利用者が企業における雇用へ移行していくことを効果的に支援していくためには、各地域における雇用と福祉、医療、教育などの分野の関係機関が相互に連携してネットワークを構築し、きめ細かな支援を行っていくことが求められる。
 その際、本人を取り巻く関係各機関が本人を交えて就労可能性についての適切な評価を行った上で、準備段階から実習、就職後の職場定着まで、本人や企業に対する各種サービスを効果的かつ計画的に組み合わせるケアマネジメントの手法を用いて雇用へのステップアップ、就業・生活両面における連携・支援を行っていくことが重要である。即ち、ハローワークが中心となって、本人、本人が在籍する福祉施設、地域障害者職業センター、就労支援専門機関、職業能力開発施設、都道府県福祉事務所、身体及び知的障害者更生相談所、精神保健福祉センター、盲・ろう・養護学校等の関係者からなる就労支援のためのチームを各地域に設置し、障害者一人一人を潜在的な可能性も含めて適正に評価し、これを最大限引き出す方向で、障害者の主体的な職業生活の設計、選択を支援する個別的なプログラムを作成し、サービス調整の視点も含め様々なメニューを効果的に組み合わせて一般雇用に向けた総合的な支援を行うことが考えられる。このような支援を行うに当たっては、福祉施設での訓練(作業)と職場実習を組み合わせた支援や地域における多様な委託先を活用した委託訓練等をはじめとした種々の支援策を効果的に組み合わせて行っていくことが有効である。また、このプログラムに基づき障害者が就職した場合、障害者が在籍していた福祉施設も参加することにより、十分な定着指導を行っていくことも重要であり、離職した場合にも再挑戦が可能となるような支援も考えられる。
 さらに、雇用への移行支援に当たっては、福祉現場への障害者の職業的自立についての理解の浸透や雇用への移行に対する不安感の除去とともに、障害者の雇用管理に豊富な経験を有し、福祉現場に対して雇用への移行のための助言を行うことのできるような人材を発掘・育成し、人材を活用していくことが重要である。具体的には、福祉施設の就労支援関係者に対してハローワーク等が研修を実施し、雇用への移行に向けた意識の醸成を図るとともに、特例子会社、重度障害者多数雇用事業所などにおいて、障害者の雇用管理に豊富な経験を有する者が、雇用現場の説明を行い理解の浸透を図ることが効果的であると考えられる。
A  工業団地等における障害者雇用の推進
 地域における関係機関の連携による本人の支援にあわせ、障害者雇用の受け皿づくりも各地域それぞれの特色を活かした経済、産業活動の中で開拓していく発想が求められる。
 例えば、工業団地のような企業密集地において、障害者雇用に理解を有する企業どうしがそれぞれ業務の再編、集約によって仕事を出し合い、障害者の雇用の場を生み出すといった取組みも一つのモデルとして推奨していくことが考えられる。


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