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3.多様就業型ワークシェアリングの企業事例
 多様就業型ワークシェアリングについては、平成14年3月の政労使合意の中で、次のように整理された。個々の企業の労使がワークシェアリングの手法を活用して多様な働き方を適切に選択できるようにすることは、働き方やライフスタイルの見直し、経営効率の向上、生産性向上と少子高齢化社会の支え手の増加、労働力需給のミスマッチの縮小といった効果が期待される。労働者がその能力を十分発揮できるようにし、企業の活力を高めていくためには、多様な働き方が適切な選択肢として位置づけられることが必要である。
 長い職業生涯にわたり、雇用の安定と職業生活の充実を図っていくためには、職業生涯を通じて、円滑なキャリア形成が図られるよう、働き方を選択できる仕組みを整備していくことが、一層重要となると考えられる。
 そのため、個々の企業において、従来の雇用慣行や制度の検討・見直しに取組み、多様な働き方のための環境整備を進めていくことが必要となる。平成14年12月に行われた「多様な働き方とワークシェアリングに関する政労使合意」(巻末資料参照)では、具体的な取組として、多様な働き方の推進、仕事に応じた公正な処遇の推進、労働時間管理の適正化及び多様な働き方を推進するための環境整備(人材育成・能力開発)が挙げられた。

(1)事例の類型化と概要
 多様就業型ワークシェアリングの実践は、まさに多様である。そこで、多様な働き方が、どのようなテーマの下で推進され、どのような働き方が導入されているかに着目して企業の事例を整理する。
 テーマは、(1)高齢者雇用の推進(これには高齢者の新規雇入、継続雇用、定年延長が含まれる)、(2)多様なキャリア支援(従業員自身のライフコースやキャリアに関する展望に基づいて、その実現を支援するための多様な働き方の導入)、(3)仕事と生活の調和(仕事と家庭生活やより広く個人の生き方との調和を図るための施策)、(4)パート均衡処遇(本格的なパートタイム雇用の基幹化と均衡な処遇制度の整備)の四つである。これに対して、働き方の多様化方法は、(1)短時間勤務、(2)在宅勤務、(3)兼業・副業、(4)独立・自営を取り上げる。
 こうしたテーマと働き方の多様化方法に着目して、企業の取組み事例を整理したのが次図である。例えば、短時間勤務制度は、高齢者雇用の推進、多様なキャリア支援、仕事と生活の調和、パート均衡処遇という各テーマに登場することになる。
 ここで紹介する企業事例は、テーマ別にみると、高齢者雇用の推進では、プレス加工のE社、都市ガスを製造・供給するF社、百貨店のG社の3社、多様なキャリア支援の例としてH社、仕事と生活の調和では、コンピューターのI社、コンピューターのソフトウェアを開発・販売するJ社に加え、前出のH社とG社の4社、パート均衡処遇の事例ではK社を紹介する。
 これら多様就業型ワークシェアリングとして紹介する企業のうち、E社は高齢者パートの導入により新規雇入を行った事例である。他の企業事例は、基本的には在籍している従業員を対象に多様な就業形態を導入し、従業員の働くことのニーズと経営上のニーズの相互充足を目指したものである。

多様就業型の施策類型

多様就業型の施策類型

高齢者雇用の推進
 E社は、工場の稼働日を増やし生産性と売上げ・利益をあげるため、土日に勤務する60歳以上の高齢者を新たに雇い入れることにより、平成13年4月、従来休日であった年間110日の工場稼動を実現した。高齢パート社員を活用することによって、人件費の圧縮を図りながら工場の稼働率をあげて低コスト化を進め、顧客の要望に柔軟に対応する「年中無休のコンビニエンスファクトリー」を目指している。同社は、従業員100名足らずの中小企業でありながら、明確な経営ビジョンに基づき意欲のある高齢者を活用し、地域の雇用機会の創出に貢献している事例である。
 F社は、平成9年7月「選択と自立」をキーワードとして、60歳定年以降の雇用機会の確保・創出のため、複数の働き方・生き方の選択肢を提供する「セカンドライフ制度」を導入した。このうち定年後の再雇用制度は、ワークシェアコースと名づけられ、週3日勤務で概ね二人で一人分の業務を担当する。高齢者どうしで仕事と賃金を分かち合うことにより、雇用機会の確保を図っている。この他、55歳以降週4日勤務として兼業を認めるコース、定年後に長年培った専門性を活かして独立開業し会社から業務委託を受けるコースなど、通常の60歳定年を含め6つのコース選択が用意されている。高齢者雇用の推進を、多様なキャリア支援と結び付けて展開する実践例といえる。
 G社は、平成10年3月に定年年齢を65歳に引上げるのに合わせて、実力主義を徹底する賃金制度を導入した。具体的には、50歳以上の社員はフルタイムで働き実力次第で年齢にかかわらず管理職に就ける「チャレンジコース」か、フルタイムの8割ないし6割の短時間で働く「オプションコース」を選択する仕組みである。一方、同社は育児などの家庭責任との両立のための短時間勤務制度を中心に、仕事と生活の調和に関する施策を充実させてきた。この面でも先駆的な取組みを行っており、様々な視点から多様な就業形態を活用している好事例である。

多様なキャリア支援
 H社は、50歳代の社員を対象として、多様な働き方の選択肢を提供する「New Work 支援プログラム」を平成15年7月より導入した。このプログラムは、社内・社外での兼業や独立支援などNew Work 支援プログラムと呼ばれる6種類の人事制度を用意し、短時間勤務制度や長期休暇制度など就業形態の多様化を行っている。団塊の世代を含む50歳代の従業員に対し自己実現を促進する一方で、早期退職などのリストラを行わず、社内外での流動化と活性化を図っている。
 なお、同社は昭和63年に経営革新運動として「New Work Way」を提唱し、社員の個を尊重し多様な生き方を支援するため、様々な休暇制度と勤務時間短縮制度を導入している。これらは、仕事と生活の調和を図る先駆的な取組みである。

仕事と生活の調和
 I社は、平成15年、育児・介護・自己啓発など私生活の充実を求める社員が、仕事と生活の調和を図れるよう支援する短時間勤務制度を導入した。週あたりの勤務時間を8割または6割に短縮する仕組みで、1日の勤務時間を短縮する方法と週あたりの出勤日数を4日または3日とする方法がある。申請理由には原則として制限はない。また、同社では、従来から「e-ワーク制度」と呼ばれる在宅勤務制度を導入している。これも事由の制限や在宅勤務割合の規定はない。柔軟な勤務形態の採用で社員の多様な要望に応え、高度な知識や経験をもつプロフェッショナルな人材集団を目指す取組みである。
 J社は、成果主義の徹底を柱にしながら、成果の出しやすい環境・機会を提供するために、多様な働き方を認める取組みを進めている。平成11年に、通常勤務の75%を基本とする短時間勤務制度を、さらに、平成15年には在宅勤務制度「Work @ Home」を導入した。在宅勤務制度は、原則として週1日は出勤することを要件としている。いずれも、取得事由を育児や介護などに限定せず、様々な事由により短時間勤務を希望する者、あるいは疾病・障害を含めて通勤が困難な者を対象とする点が特徴である。

パート均衡処遇
 K社は、営業力の回復に向けて「できる人・やりたい人」にやらせることを基本方針に、人事制度の大幅な改革を進めている。この根幹となるのが、パートタイマーの本格的な基幹労働化を進め、正社員とパートタイマーの雇用区分を廃止して、均衡な処遇制度を確立する「CAP(Contract of All Partner)」の導入である。平成16年1月までにすべての社員の新制度への移行を完了した。CAP制度は、勤務形態がフルタイムかパートタイムか、異動範囲について転宅ができるかできないか、という働き方の違いに着目して、契約区分を4つに分けるとともに、全従業員共通の資格体系を導入して、社員の配置、育成と処遇を統合した。均衡処遇を確保しつつ多様な働き方の選択肢を整備することによって、能力と意欲のある人材の活用を進める好事例といえる。

(2)E社 「高齢者の土日勤務による年中無休のコンビニ・ファクトリー」
はじめに
 E社は、工場の稼働日を増やし生産性と売上・利益をあげるため、土日に勤務する60歳以上高齢者を新たに雇い入れることにより、平成13年4月、従来休日であった年間110日の工場稼動を実現した。高齢パート社員の活用により人件費の圧縮を図りながら工場の稼働率をあげて低コスト化を進め、顧客の要求に柔軟に対応する「年中無休のコンビニエンスファクトリー」をめざす取組みである。
 働く意欲ある高齢者を有効活用する「攻め」のワークシェアリングの取組みといえる。

会社概要
 E社は、明治21年に鍛冶屋「かじ幸」として創業し、戦後は3代目の現社長が後を継ぎ、大手電機メーカーの協力会社として事業を行ってきた。現在では、自動車部品、住宅建材、環境装置等取引分野を拡大し、多品種、少量生産対応をはじめレーザー加工機、ロボット、大型プレスラインなどによる薄物から厚物までの板金加工を幅広く行っている。
 オリジナリティーを大切にしており、自社独自の専用機械の開発、特許、実用新案による自社開発の設備、機器などを使い、古くからの技術集団としてのこだわりを持った経営を進めてきた。あわせて、技術技能の継承をはじめとする人材の育成や、バリアフリーの推進など職場環境の改善にも積極的に対応してきている。

会社概要
・所在地 岐阜県中津川市
・資本金 2000万円
・売上高 17億円(平成14年度実績)
・業種 金属製品製造業
・社員数 84名(内、正社員47名、60歳以上のシルバー32名)
年齢 18〜30歳 30〜40歳 40〜50歳 50〜60歳 60歳〜
人数 10 12 7 23 32

平成14年度 全国高年齢者雇用開発コンテスト 厚生労働大臣賞最優秀賞受賞

 同社の労務構成は上の通りである。60歳の定年後希望者全員を65歳までパート社員として雇用する継続雇用を実施している。60歳以上のシルバーのうち、現在の継続雇用者は8名、最高齢者は75歳である。

ものづくりのコンビニをめざす経営革新
 順調に業績を拡大してきた同社であったが、バブル崩壊を機に急速に低コスト・短納期の要求が急速に進み、さらに受注量全体の伸び悩みを解決する必要に迫られた。既存の取引先を大切にしながら、新しい顧客開拓を進める一方、自慢の技術力による品質と信頼を維持しながら低コスト要求に対応していくためには、固定費をできるだけ減少させることが課題となっていた。このため、工場の稼働率をあげて売上の増加と利益の確保を図る方策として考えられたのが、受注を前提として年間110日の休日に機械を稼動させることによる年中無休のコンビニエンスファクトリーの実現である。
 しかし、正社員で土日稼動に対応することは物理的に無理であるばかりでなく、固定費の削減にもつながらない。そこで、パート社員の活用によって人件費を圧縮し、低コストを実現することが考えられた。当時(平成12年)に中津川市が地元の大学に委託実施した高齢者の意識調査によれば、市内に在住する者の中で、働く意欲があり就職したいと考えている60歳以上の高齢者が1,000人近くいるということであった。週日は地域での活動や孫の面倒をみている高齢者も、土日は勤務による幾らかの収入と年金で、より一層のゆとりと人生に張り合いが生まれるはずと考えたのである。
 ちょうどその頃、取引先から建材部品の増産の引き合いがあり、今まで以上に多くの数を低コストで生産するため、土日勤務の高齢者パートの導入に踏み切ることとなった。こうして、同社は(1)「働きたくても雇用の場がない」いう高齢者を対象に地域の雇用の場づくり、(2)高齢者の生きがいづくりと収入の道、(3)低コスト・短納期という顧客ニーズへの対応を同時に実現する一石三鳥の取組みとして、ものづくりのコンビニエンスストア化を推進したのである。

土日勤務の高齢者パート社員の導入
 同社では意欲のある高齢者を一般から募集するため、平成13年2月末『土日は、わしらのウィークデイ。』というキャッチコピーを作成し新聞の折込広告を実施した。
 この募集広告には、「意欲のある人求めます。男女問わず。ただし年齢制限あり。60歳以上の方」と印刷され、同社が安全面で平成8年岐阜労働基準局長優良賞、平成9年同局長功労賞を受賞したことと合わせ、シルバー世代に現役で活躍してほしい、当社はその先駆けとなりたいと呼び掛けた。
 市内約2万5千部配布されたこの広告は大きな反響を呼び、50人近い応募者の中からほぼ男女半々の15人を採用することとなった。採用者の平均年齢は65歳、最高齢者は79歳であった。この15名には板金加工業務の経験者は1名もいなく、前職は事務系の職種に就いていた者も多い。3月中に2週間の訓練期間を設けて、平日に社員について仕事に慣れてもらったうえで、同年4月から土日稼動をスタートさせた。
 平成13年10月には第二次募集を行っているが、このときの折込広告には第一次募集で入社をされた高齢者パートの方が働いている明るい笑顔が掲載されている。第二次募集時の採用者は5名、その後は同社に寄せられた採用希望者リストから随時必要に応じて採用しており、日々問い合わせも多い。現在では同社で定年を迎えた社員の継続雇用者8名を含めて、高齢者パートは32名に増加している。

土日高齢パート社員の雇用制度概要
・雇用契約期間 1年
・勤務時間 8:00〜17:00までの4時間以上の勤務
・所定勤務日数 土曜日、日曜日、祝祭日(正月、お盆を除く)、または平日の月10日程度
・給与 時給制800円以上
・仕事内容 簡単な組立作業、NC機械のオペレーターなど

土日稼動に合わせた勤務体制
 こうして始まった土日稼動であるが、作業指導や段取りを行うため、導入当初は高齢パート社員2名に正社員1名が出勤する必要があった。このため、正社員はA班とB班の2班制として、交替で土日勤務を行う体制とした。
 次の図表は平成13年6月度の勤務体制である。これにより月間の稼働日数は28日となり、平成13年度の年間稼動日は、ゴールデンウィーク、お盆、年末年始等の合計16日の全休日を除く349日となった。高齢パート社員の年間出勤日数は90日となる。

勤務編成の例
平成13年5-6月
27 28 29 30 31 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23
シルバー                                          
A班           × ×                       ×          
B班 ×                     × ×                       ×
 * 正社員A班・B班の×は指定休日。その他に選択休日をA班5日、B班4日をそれぞれ取得。

 その後、高齢パート社員が業務に習熟してきた段階で、作業指導や段取を行う正社員は、プレス部門と組立部門にそれぞれ1名ずつ配置する体制となった。
 さらに、最近では土日の稼動は、単価のより高い製品の製造を行うプレス部門のみとし、男性を中心とする高齢パート社員とそれを指導する正社員1名の体制に変更している。組立部門は平日にシフトし、受注量が増えた場合には土日出勤を設定して顧客ニーズに即応することができる体制をとっている。
 勤務時間は、土日の社員の昼食準備を担当するパート(12:00〜14:00勤務)を除いて、8:00ないし9:00〜16:00ないし17:00となっている。勤務日数は、年金全額受給を考慮して、週あたり平均3.5日程度である。
 具体的な出勤日の設定は毎月末に行われるが、平日のみ出勤する者、土日のみ出勤する者、曜日指定で出勤する者など、本人の希望を踏まえて柔軟な出勤日の調整が行われている。

高齢パート社員の勤務表の例
平成16年2月
勤務時間 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 25 27 28 29
1 8-17                                
2 8-17                          
3 8-17                                          
4 8-17                                  
5 8-17                              
6 8-17                                
7 8-17                                  
8 8-16                            
9 8-16                          
10 8-17   × ×   × ×     × ×     × ×    
11 8-17                              
12 8-17   × ×     × ×     × ×     × ×    
13 *                                                
14 8-17   ×                                  
15 8-17   ×                 ×              
16 8-17                                    
17 8-16                          
18 *                                                    
19 9-17                          
20 9-17                          
21 9-16   × × ×     × × ×     × × ×     × × ×    
22 9-17                              
23 9-16   ×                   ×      
(注) *は昼食準備担当、出勤時間は12:00-14:00。×は本人申告による出勤できない日。有は有給休暇取得日

職場環境の改善と能力開発施策
 同社では、高齢パート社員の土日稼動と並行して、高齢者でも安全で容易に作業できるよう職場環境づくりも同時に進められた。これは、「高年齢者のための職場バリアフリー助成金(脚注参照)」約2000万円を受けたもので、自動化の独自ラインの導入、畳敷きの休憩室や冷暖房設備の改善などを実施している。また、平成16年にISO9001およびISO14001を取得し、定型的な作業の標準化を進め、社内業務の6割程度は高齢者パートで対応できる体制をつくっている。
 従来から「“人財”育成」を経営方針の一つとしてきた同社であったが、高齢者パートの導入に伴い、作業指導・教育訓練を強化した。その一つに月一回実施している、同社の所在する地名にちなんで名づけられた「駒場村塾」がある。これには、パートを含め全社員が参加する。新入社員、一般社員、管理・監督リーダーの三コースに分かれて実施され、カレーハウスのCoCo壱番屋、サークルK、100円ショップのダイソーなど異業種から学んだり、会社の経営状況について話し合うほか、各自が自己啓発目標を立てるといった人づくりの場として定着している。技術・技能の伝承を目的とした「かじや学校」では、溶接、図面、測定具、プレスなど様々なコースでOJTを中心とした技術指導が行われている。

高齢パート社員導入の成果と今後の課題
 高齢者パートの導入はすでに職場に定着し、現場の要請もあって、土日のみの出勤から平日にも出勤してもらう体制へと拡大している。財務的な成果をみても、高齢者パート導入前の平成11年度と比較して、平成14年度の従業員1人当たり(パートは200時間で1人と計算し62.5人で算出)の付加価値額は、106%と6%改善している。平成14年度の人件費総額は、平成13年度の98.6%で平成12年度水準に抑制されている。
 このようにE社は、高齢者の短時間雇用を導入することによって、地域の雇用の場をつくりだし高齢者の働く意欲を活かしながら、短納期・高品質・低コストといった顧客ニーズに応えるまさに「攻め」のワークシェアリングを実践した事例といえる。
 同社には現在50歳代の正社員が23名おり、今後、社員の高齢化は一層進むことになる。今後は定型的な業務は高齢者パートに担ってもらい、正社員は企画・設計、改善・トラブル処理など判断や管理の業務を中心に担当させていく方針としている。平成13年には正社員の人事賃金制度を改定し、職能等級制度に基づく評価・育成の仕組みが動き出している。今後正社員の能力をどう伸ばしていくか、さらには女性にも来てもらえるような職場づくりをどう進めるかが次の課題としている。
 同社では海外進出は全く考えていないという。厳しい経営環境を勝ち抜き、地域の企業としてその責任を果たしていこうという意気込みが現れている。高齢パート社員の導入は、同社の専務が発案し、安全とバリアフリーの推進に注力されてきた社長とともに推進された。経営者のリーダーシップの重要性が再認識される事例である。

(注)  平成12年度に廃止された制度であり、類似の趣旨目的の制度として現在、「高年齢者雇用環境整備融資」制度がある。

(3)F社 「多様な選択肢を提供し高齢者の就業を支援するセカンドライフ制度」
はじめに
 F社は、「選択と自立」をキーワードとして、平成9年7月に50歳以上あるいは定年後の社員の生活と仕事について複数のコースを設定し、社員の自立的な選択を可能とする「セカンドライフ制度」を導入した。
 高齢層の働き方を複線化し、仕事のプロに働く場を提供できる環境を整備した好事例である。

会社概要
 同社の創立は1885年である。同社では従業員の高年齢化が進んでおり、2010年には、同社の50歳以上の従業員は1/3を超えることが予想されている。同社は、65歳まで雇用を確保するという社会的要請は認識しているが、同社で確保できる就業先は限られている。しかし、定年後に再就職を希望する従業員も増加しており、4人に3人が再就職を希望しているため、自力解決を図る従業員に手厚く支援している状況である。

会社概要
・所在地 東京都港区
・資本金 1,418億円
・売上高 9,922億円(平成15年度実績)
・業種 ガスの製造・供給および販売、ガス機器の製作・販売およびこれに関連する建設工事、冷温水および蒸気の地域供給、電気供給事業
社員数 11,338名(単独、平成15年3月)

セカンドライフ制度の概要
 セカンドライフ制度は、「出向再就職コース」「ワークシェアコース」「フリー契約コース」「スタンダードコース」「マイプランステップコース」「マイプランコース」の6種類で構成されている。
 出向再就職コースは、定年後出向先に再就職し最長65歳まで勤務が可能な制度である。ワークシェアコースは、実質週3日勤務で定年後、同社に先任契約社員として再雇用される。ワークシェアコースとしているのは、二人で概ね一人分の仕事を担当することにより、継続雇用の機会を分かち合うという狙いからである。フリー契約コースは、会社との業務委託契約による自営的コースである。委託業務としては電気設備管理や教育インストラクターなどがある。専門性に見合った処遇と柔軟な働き方ができる。スタンダードコースは通常の60歳定年コースである。マイプランステップコースは、55歳以降、社員資格のまま週4日勤務を行う。原則として兼業が可能である。他社への再就職や独立・企業の準備のための短時間勤務制度となる。マイプランコースは、50歳以降、早期退職をする。退職一時金に加え、60歳までの期間「マイプラン支援年金」を支給する。

セカンドライフ制度の概要1

セカンドライフ制度の概要1の図
資料出所:「人事労務管理事例集」労働政策研究・研修支援機構ホームページ

セカンドライフ支援策

 同社のセカンドライフ制度の特徴は定年後のコースを複数設定して選択の自由度を高めただけではなく、社員が50歳に達した時期から反復的にカウンセリング等を行い社員自らにセカンドライフをしっかり設計してもらう支援策を充実させた点にある。
 マイプラン支援年金はいくらもらえるのか、ワークシェアコースを選んだ場合には厚生年金と企業年金を含めて年収総額はどれくらいか、あるいは関連会社や取引先の出向先としてどういうところを斡旋してもらえるのか、など社員には具体的、個別的に知りたいことがある。そういう問い合わせに対応するために、人事部内に「セカンドライフ支援室」を設けた。室長は社員であるが、室員はワークシェアコースを選択して先任契約社員として同社に再就職した者である。自分自身がこのワークシェアコースに載っているという立場からいろいろな質問に答えているとのことである。
 同社の取組みは、雇用延長・雇用創出のみならず、独立開業支援のための制度等、多様な働き方の整備により就業機会を拡大しているワークシェアリングの実践例であるといえる。

セカンドライフ制度の概要2
コース コースの概要
出向再就職コース

定年前早期出向を前提とした再就職コース
55歳以降、出向先が見つかり次第出向する。定年後出向先に再就職し最長65歳まで勤務可。週休2日のフルタイム勤務。60歳以降の処遇は出向先との雇用契約(毎年契約更改)により決定。
出向先である関係会社や取引先等で活かせる技術・技能・知識・経験、さらには意欲や人柄を有しており、再就職先で業績があげられることが前提。
コース希望者は54歳面接での申告が必須。
ワークシェアコース

定年後、先任契約社員として同社に勤務するコース
仕事と処遇を分かち合う観点から勤務は実質週3日(勤務日程、1日当たり勤務時間は部門、事業所裁量)。処遇は定年時の職能資格に応じて一律(年間で200〜300万円程度)。
コース希望者は先任契約社員として希望する職種、活かせる経験・知識・技能等を申告する。
フリー契約コース

会社との契約による自営的コース
在職中に培った専門性や公的資格、特技を活かし、会社から業務委託。契約金額は年間百数十万から1千万円超まで。
勤務時間、勤務日数等にとらわれず、専門性に見合った処遇と柔軟な働き方を提供する。
コース希望者は希望する業務、活かせる経験・知識・技能等を申告する。処遇は委託業務の内容により決定。
スタンダードコース 通常の60歳定年コース。
マイプランステップコース

定年前週4日の短時間勤務を行う定年軟着陸コース
60歳定年後の生活へのソフトランディングを目的に、55歳以降、社員資格のまま週4日勤務を行うコース。
原則として兼業可。給与・賞与等は4/5。60歳以降の再就職斡旋は行わない。
コース希望者は、コース選択の理由を申告する。
マイプランコース

自らの計画実現のために早期退職して新分野へ転進するコース
50歳以上、自らの計画実現のために早期に第2の人生をスタートするコース。退職一時金に加え、60歳までの期間「マイプラン支援年金」を支給する。
同社の取引先等へ自力で再就職したものは、「マイプラン支援年金」対象外。
退職時点と定年時点との厚生年金・企業年金の支給差額を、退職時点から60歳まで、全く別の会社原資の中から出す。早期退職でも定年退職でも退職時の受取額が同じになる仕組み。

(4)G社 「短時間勤務も選択できる65歳までの定年延長を進める65歳現役制」
はじめに
 G社は、平成10年3月に百貨店業界に先駆けて65歳現役制を採用するとともに賃金制度の改訂を行い実力主義を浸透させた。これに伴い、55歳以上の社員は、フルタイムで働く「チャレンジコース」と短時間勤務で働く「オプションコース」を選択できるようになった。制度導入当初は55歳からの選択であったが、平成12年には50歳からコース選択できるように制度を改訂している。
 さらに同社では、従業員の仕事と生活の調和をめざして、法定水準を上回る出産・育児・介護に関連する短時間勤務制度を中心としたさまざまな制度を導入している。非常に充実した制度であるため、採用時にも同社の制度をPRしており、優秀な人材の採用につなげている。
 賃金制度を改訂し、勤務時間を選択できるようにすることで、高齢者の雇用を継続させるとともに、従業員の仕事と生活の調和をめざす先駆的な取組みである。

会社概要
 同社は、大正8年に設立された老舗百貨店である。百貨店事業を核として商品、文化、サービスを提供している。同社の人事制度の特徴は自立した個人を念頭に置いて、多様な選択肢を提供していることである。例えば、販売専門職、売場の管理責任者のマネージャー、バイヤー等の職務につくためには事前にその職務になるための研修を受講し、「ライセンス」を取得する必要があるが、取得は本人の意思にまかされている。

会社概要
・所在地 東京都中央区
・資本金 71億円
・売上高 811億円(平成14年度実績)
・業種 百貨店業を中核とした総合サービス業
・社員数 930名

勤務時間の選択
 同社は、昭和53年には、定年年齢を60歳に延長するとともに、65歳までの再雇用制度を導入している。平成3年には、再雇用制度をエルダー・クリエーター制度に改め、55歳以上の貢献を処遇に反映する仕組みや60歳以降の貢献に見合った処遇制度について検討を重ねていた。
 単純に雇用延長をするだけでは高齢層のモラールの維持・向上はできないとの経験から、役職定年制度のない「65歳現役制」を展開している。
 同社の現在の「チャレンジコース」と「オプションコース」は、50歳から選択することができる。「チャレンジコース」は従来どおりのフルタイム型(所定労働時間1,800時間)である。管理職になるためには「チャレンジコース」を選択しなければならないが、年齢を理由とする役職からの離脱はない。
 「オプションコース」は短時間勤務のコースで、勤務時間がフルタイムの8割(所定労働時間1,440時間)になるコースと6割(所定労働時間1,080時間)になるコースがある。各職場で支障がないかぎり、出勤日を減らすことも1日あたりの勤務時間を減らすことも可能である。また、いったんコースを選択した後も、本人が希望すればコース転換は可能となっている。なお、同社では兼業禁止規定はなく、業務に支障がなければ兼業は可能である。

賃金の取り扱い
 同社では、職能給制度を基本としているが、50歳時点からは職務給と業績給のみで構成される賃金制度となる。「オプションコース」選択者の賃金は、職務給の時間比例となっており、「チャレンジコース」選択者と同じ職務・業績であれば、労働時間に応じた減額が実施されることになる。
 「オプションコース」を選択したからといって、退職金の減額はしない。また、同社の退職金制度では、55歳で金額が確定するため、55歳以降、いつ退職しても不利のない制度となっている。

出産・育児・介護関連制度
 同社の仕事と生活の調和をめざす制度は、中高齢者に対するオプションコース以外にも多くの制度があり、大きく分けると(1)短時間勤務(残業なし)、(2)休暇、(3)休職の3つになる。
 短時間勤務には、「産前勤務」、「育児勤務」、「母性健康管理の措置」、「介護勤務」、「特別短時間勤務」がある。勤務時間が選択できるうえに、定時勤務となるため残業はない。休暇には、「出産休暇」、「育児時間」、「介護休暇」、「子の看護休暇」がある。休職には、「育児休職」、「介護休職」がある。休職者は原職復帰が前提であるため、欠員は基本的にはパートタイマーで補充しているが、専門的知識が必要な業務を担当している従業員が休職した場合には、異動で補充する。
 なお同社では、短時間勤務や休職が取得しやすい雰囲気であり、制度取得者も非常に多い。

その他の仕事と生活の調和に関する制度
 同社には、昭和57年から研修休暇制度が導入されている。これは、自己啓発を目的としたセミナー等に連続した5労働日以上参加する場合、3,4年前に失効した有給休暇の日数の範囲内で有給休暇を付与する制度である。

出産・育児・介護関連制度
制度 対象者 適用期間 その他
産前勤務 妊娠中で産前勤務を希望する社員 母子手帳交付後、出産休暇前まで 7時間5分の定時勤務で勤務する時間帯を選択できる
出産休暇 出産予定があり休暇を希望する社員 産前8週と産後8週 給料の60%を2週間分、会社が支給する
給料の60%を14週間分、健保が支給する
育児休職 子ども満4歳未満で休職を希望する社員 1子につき3年以内で満4歳まで 休職中に出産した場合は、次子が満4歳到達まで休職できる
育児勤務 子ども満4歳未満で短時間勤務を希望する社員 1子につき4年以内で満4歳まで 4時間50分、5時間5分、6時間5分の定時勤務で勤務する時間帯を選択できる
育児時間 子ども満1歳未満で育児時間を希望する社員 子ども満1歳まで 1日30分×3回の中座または1時間半の出退勤の便宜をはかる
母性健康管理の措置 妊娠中・出産後の女性で便宜を希望する社員 妊娠中および出産後1年未満 健康診断受診のために遅刻や早退の便宜をはかる
6時間40分の定時勤務(医師等の指示が必要)
つわり・補食等の場合の休憩
業務軽減、職場の完全分煙等
介護休暇 父母・配偶者・祖父母・子や同居親族が要介護状態で、介護のための休暇を希望する社員 有給休暇の範囲内 連続して5労働日以上休業する場合に、3,4年前に失効した有給休暇の日数を有給休暇として付与
介護休職 父母・配偶者・祖父母・子や同居親族が要介護状態で、介護のための休職を希望する社員 同一事由につき1年以内  
介護勤務 父母・配偶者・祖父母・子や同居親族が要介護状態で、介護のための休職を希望する社員 同一事由につき1年以内 4時間50分、5時間5分の定時勤務で時間帯選択できる
賃金は時間按分
子の看護休暇 未就学児を養育しており、当該子女の看護のために休暇を希望する社員 年間5日以内  
特別短時間勤務 休職・短時間勤務期間満了後、通常勤務が困難な場合((1)育児、(2)介護) (1)就学するまで最長3年
(2)最長1年で通算2年
5時間5分、5時間35分の勤務を選択できる
賃金は時間按分

 また、実労働時間の削減と不払い残業の禁止のために「勤務時間の精緻化」を実施している。これは、各職場での繁閑にあわせたシフトを組んだり、フレックスタイム制度でのコアタイムの廃止を実施し、労働時間の自己管理意識の喚起を促している。
 同社の取組みは、賃金制度を改訂し、勤務時間を選択できるようにすることで、高齢者の雇用を継続させるとともに、従業員の仕事と生活の調和をめざす好事例である。さらに、多様就業型ワークシェアリングを導入するうえで重要なポイントとなる短時間正社員の導入・活用に参考となる事例であろう。

(5)H社 「50歳代社員に多様な働き方を提供するNew Work 支援プログラム」
はじめに
 H社は、50歳代の社員を対象に、多様な働き方の選択肢を提供する「New Work支援プログラム」を制定、2003年7月より順次導入した。このプログラムは、公募・FA制、兼職や独立支援などNew Work支援プログラムと呼ばれる6種類の人事制度と、それらの制度を支える仕組みから構成されている。団塊の世代を含む50歳代の社員に対し自己実現を支援する一方で、早期退職などのリストラを行わず、社員の社内外での流動化と活性化を図る包括的な取組みである。
 兼業や独立支援も含めて多様な働き方の選択肢を提供する先駆事例といえる。

会社概要
 H社は、1962 年、富士写真フィルム株式会社と英国ランク・ゼロックス社(現ゼロックス・リミテッド社)との合弁により創立され、複写機をはじめとするオフィス機器と関連システムの製造・販売および関連サービスを幅広く提供する会社である。同社は福祉、環境、地域活性化など社会貢献活動にも積極的に取組んでおり、このほど第一回企業フィランソロピー大賞「企業市民賞」を受賞した。
 また、同社は1988年に経営革新運動として「New Work Way」を提唱し、社員の個を尊重し、多様な生き方を支援するための様々な制度を導入した。育児休職制度、半日有給休暇制度、ソーシャルサービス制度、教育休暇制度、家族介護休職制度などである。こうした休暇・休職制度をはじめとする仕事と家庭の両立支援への取組みにより、2002年にはファミリーフレンドリー企業厚生労働大臣最優秀賞を受賞している。

会社概要
・所在地 本社 東京都港区
・資本金 200億円
・業種 オフィス機器(カラー複写機、プリンター、複合機、ワークステーション等)の製造・販売
・売上高 9,620億円(2002年度、連結)
・社員数 14,601名(2003年3月末現在、単体。連結ベース33,913名)
決算期 1999年 2000年度 2001年度 2002年度
売上高(億円、連結) 8,767 9,056 9,428 9,620
経常利益(億円) 408 377 393 465

富士フィルム社と英国ランク・ゼロックス社の合弁により1962年創立

社員のキャリア自律による事業活性化
 H社は、全社員のうち50歳代の者が約3,500人、25%を占め、2007年には35%まで上昇する見込みである。同社では、こうした社員をリストラせず、もっと会社に貢献してもらうという考え方から、活性化とモチベーション向上策を模索していた。また、このうちの約半数が間接部門に配属されており、よりお客様に近い直接部門への配置を促進することで、基幹事業であるドキュメント・サービスを推進する戦力を増進し、高付加価値化を加速させることが課題となっていた。
 そこで、2002年10月に「New Work開発センター」を設置し、社員の働き方の面からこの実現を図り、社員のキャリアの自律を促進することにより個人と会社のWin-Win関係をめざすこととした。
 同センターでは、2003年1月、50歳代の社員を対象に「将来の人生設計に関する意識調査」を実施し、働き方、働きがい、能力発揮、キャリア形成、ライフプラン、会社の支援などに対するニーズを調査した。調査結果では、7〜8割の社員が現在の仕事にやりがいを感じており、定年まで今の会社で勤め上げたいとする者が75%と圧倒的に多かった。その一方で、20%の者は転職、独立・起業やNPO活動などを希望していることがわかった。こうした社員の声を踏まえて、同センターに所属する50歳代の社員が、自らの問題として多様な働き方を提供するための制度設計を進めた。
 同社が1988年にニューワークウェイを提唱し導入を進めてきた休暇・休職関連の諸制度は、個人の生活基盤の充実を支援する仕組みであったが、今回の多様な働き方に対する支援策は、個人の働き場所や働き方を開発する「仕事版」として、ニューワークウェイを進化させたものといえる。

ニューワーク支援プログラム
 こうしてニューワーク開発センターによって開発されたのが、50歳代の社員を対象に多様な働き方・選択肢を提供する「New Work支援プログラム」である。2003年7月〜12月に順次導入されたこのプログラムは、New Work支援制度と呼ばれる6種類の人事制度と、それらの制度を支える仕組みから構成されている。
 導入された制度は、「活き活き公募」「ダブルジョブ・プログラム」「フレックス・ワーク制度」「活き活き匠FA(フリーエージェント)制度」「シニア・テーマ休職制度」「独立支援制度」の6種類の制度である。
 活き活き公募制度は、既存の公募の仕組みを活用するものであり、12月に導入して以来4〜5名の応募実績がある。ダブルジョブ・プログラムは、社内の求人情報に本人が応募する形で、現職を離れることなく、1年以内の一定期間、自分の専門性を活かす仕事や新たな仕事にチャレンジできる制度である。兼務の業務量は最大3割となっており、人事評価もこの割合となる。これまでに環境評価、キャリア相談員、トレーナーをはじめとして、利用者は20数名となっている。

New Work 支援プログラムの概要
  制度名・狙い 制度内容 導入時期
恒久制度 【活き活き公募】
50歳以上であれば新しい仕事にチャレンジできる
(1)  既存の公募の仕組みを使って募集する
2003年
12月〜
【ダブルジョブ・プログラム】
現職を離れることなく、ある期間自分の専門性を活かす仕事、新たな仕事にチャレンジできる。独立への足がかりとなる
(1)  これまでの業務命令による兼務ではなく、自らの意志で、ダブルジョブに応募できるオープンな出会いの場を提供する
(2)  兼務の業務量は30%以内
(3)  受け入れ部門は正員を増やさず50歳代社員の経験・知識を活用できる
2003年
7月〜
【フレックス・ワーク制度】
社員の身分のままで、兼業・自己啓発のための時間を確保でき、独立への準備を始めることが可能
(1)  副業は、1日単位の曜日で設定。隔週の設定も可。副業比率は40%以内
(2)  利用時間分の給与をカット
2003年
7月〜
【活き活き匠FA(フリーエージェント)制度】
自分の専門性・経験を活かすために、匠として、希望部門への異動にチャレンジできる
(1)  FA候補部門とのマッチングが成立すれば異動
(2)  申請先部門の新たな価値創出に貢献してもらうことを目的とする
2003年
9月〜
【シニア・テーマ休職制度】
教育、NPO、独立準備などのテーマで休職を取ることができる
(1)  期間は最長2年間
(2)  休職後、独立という選択もあり
2003年
7月〜
期間限定 【独立支援制度】
富士ゼロックスを離れて、独立・起業・転職できる
(1)  1年以下の休職を経て、復職か退職かを判断する
(2)  独立・転職支援のためのサービスメニュー(コンサルテーション、研修あり)
(3)  独立後は来春設立予定の個人事業主協同組合が提供するサービスを受けることができる
2003年
7〜8月
(期間限定)

 フレックス・ワーク制度は、関連会社や競合会社を除き、社外での副業を週2日まで認める制度であるが、まだ利用者はでていない。活き活き匠FA制度は4名の申請があったが、実現には至っていない。シニア・テーマ休職制度は、月収の6割を補償し2年間の休職を認めるものである。休職後は独立して退職する選択肢もあるが、原職復帰を基本としている。現在までに、将来の生活をより充実したものとするため4ヶ月間の語学研修を目的に休職に入った社員がいる。
 一方、「独立支援制度」は、制度利用希望者がどのようなライフプランを設計しているのかを審査した上で、当該社員の起業や転職を支援する制度である。2ヶ月間の募集で95名の社員がこの制度へ応募しており、そのうち12名が転職、その他はコンサルタント業、司法書士・弁理士など専門職や趣味を活かした事業での独立・自営を希望しているもの、NPOなどでの社会貢献活動を希望するもの、家業を継ぐものなどもいる。審査に合格した社員は、起業や転職を実現するためのコンサルテーションや研修を受けながら、10月から1年以内の休職期間を経て、退職または復職を選択することになっており、復職の道が用意されているのも特徴である。なお、休職期間については、賞与はないが、従前の月収相当額を準備休職中支援金として支給している。

制度を支えるサポート体制
 こうした制度を支えるサポート体制として、キャリア相談体制の充実、各種カレッジの開校、個人事業主協同組合の設置がある。
 まず、50歳代の社員がこれからやりたいことを見つけ、自ら人生を設計することを支援するため、50歳向けにライフプラン研修を2泊3日で実施(他に40歳、30歳向けも実施)しているほか、個人のキャリア相談(全社員対象)に応じるキャリア・アドバイザーを各拠点に配置することをめざして、現在養成中である。
 直接部門への配置を円滑に行うため、知識やスキルを見直し顧客の要望や期待に応えられる人材を育成するのがカレッジである。第一弾となる「ドキュメントカレッジ」は、客先で同社の事業開発、サービス提供を担う人材を養成する。この他エコカレッジ、特許カレッジ、経営品質賞を推進するクオリティーカレッジも検討中である。こうしたカレッジを修了し能力が認定されれば、独立後にビジネスパートナーとして活動できるようなフレームも想定している。
 同社で培ったノウハウやスキルを活かして独立・起業した社員を支援するため、2004年には、個人事業主協同組合の設立も検討中である。これを仕事情報の交換など各種のサービスを提供するプラットフォームとし、同社との緩やかな関係を維持しながら、個人事業主(パートナー)として、会社の企業力向上に貢献するものと位置付けている。

ニューワーク支援プログラムの示唆するもの
 同社人事担当の専務取締役は、今回の制度について「豊富な知識や経験を持つシニア層をいかに活性化し、その能力を現場で発揮してもらうことができるかが重要なポイントになります。さらに一歩進んで、第二の人生の設計についても会社が支援し、雇用関係がなくなったあとでも仕事を通じて緩やかな関係を保つ、これは企業の社会的責任の一環でもあります」と述べている。今後、多くの企業が抱える問題である社員の高齢化に対し、リストラではなく、社員の自己実現を支援し多様な働き方を提供する方策として注目される。
 開発センターのホームページへのアクセス数は、この半年で4万件にのぼる。社員の自律への意識の高まりとともに、幅広い年代の社員からの関心の強さを示すものでもある。New Work開発センターのキャリア相談室長は、このプログラムはまず50歳代から導入したが、今後なるべく若い世代にも対象を拡大していきたいと考えている。兼業や独立支援のための短時間勤務や休職など、多様な働き方の整備により就業機会を拡大するワークシェアリングの実践といえる。

仕事と生活の調和をはかる諸制度
 昭和63年に「New Work Way」が提唱され、「New Work支援プログラム」に先駆けて、個人の生活基盤の充実を支援する諸制度が昭和63年から平成5年にかけて同社に導入されている。

個人の生活基盤の充実を支援する諸制度
導入年 制度
昭和63年 (New Work Way 導入)
育児休職制度
半日有給休暇制度
フレックスタイム制度
平成2年 ソーシャルサービス制度
教育休職制度
家族介護休職制度
テーマ休暇制度
平成4年 育児のための勤務時間短縮制度
平成5年 介護のための勤務時間短縮制度

(1)勤務時間短縮制度
 育児のための勤務時間短縮制度では、子ども満4歳までと小学校入学後半年間もしくは子ども満3歳半までと小学校入学後1年間、勤務時間を30分から最大2時間まで短縮できる。介護のための勤務時間短縮制度では、最長2年間、勤務時間を30分刻みで選択することができる。
 さらに、毎日の短縮は不必要だが、月度で見た場合に一定時間の短縮が必要という場合等に月度清算型フレックスタイム制度を導入しており、使い勝手のいい短時間勤務制度となっている。
 勤務時間短縮制度で働く場合、仕事を決められた時間で終えなくてはならないため、仕事の効率が良くなったと同社では見ている。また、個人の生活基盤の充実を支援する制度を進めるのはリテンション効果にメリットがあるとしている。
(2)育児休職制度
 原則としては子供が1歳まで取得可能で、保育所に入所できないなどの場合には、最長半年まで延長することができる。また、夫婦同時に取得することも可能である。さらに、失効した有給休暇を60日まで積み立てておき、最大3ヶ月利用できる「積立て休暇(積休)制度」を利用することができる。
(3)家族介護休職制度
 本人・家族のヘルスケアを目的として原則として1年、最長2年まで取得できる。月5日まで1日単位で休職可能な「1日介護休業制度」や「勤務時間短縮制度」、「積立て休暇(積休)制度」があるため、介護の場合、いきなり「家族介護休職制度」を利用するよりも、これらを利用することにより対応することが可能である場合が多い。
(4)その他の個人の生活基盤の充実を支援する制度
 国内外の大学・大学院・公的研究機関等への自費留学、研修受講などについて会社にとって必要と認められた従業員のための「教育休職制度(2年まで)」、国や地方公共団体等の社会福祉機関において社会奉仕活動を希望し認められた従業員のための「ソーシャルサービス制度(2年まで)」、社員がキャリア設計を踏まえ、自己の専門分野において資質向上を目指してテーマに取り組み、そのテーマが会社として将来も含め有用と認められた場合の「テーマ休職制度(1〜2ヶ月)がある。

(6)I社 「仕事と生活を両立させる短時間勤務制度の導入と在宅勤務制度」
はじめに
 I社は、育児・介護・自己啓発など、生活の充実を求める社員が仕事とのバランスを図れるよう支援する短時間勤務制度を導入した。柔軟な勤務形態の採用で社員の多様な要望に応え、高度な知識や経験をもつプロフェッショナルな人材集団からなるグローバル企業をめざす取組みである。
 育児や介護に限らず、社員が仕事と生活の両立を図れるよう多様な勤務形態の選択肢を提供する先駆事例である。

会社概要
 I社は世界規模で事業を展開しているIグループの日本子会社として昭和37年に設立されたコンピューターメーカーである。事業内容は、かつてのハード生産中心からコンピューターシステムの運用やソフトウェアの開発・販売などサービス業に軸足を移し、多くの社員がパソコン一つで仕事を完結できるようになってきている。

会社概要
・所在地 本社 東京都港区
・資本金 1,353億円
・業種 汎用コンピューター・システム、サーバー等の販売、システム構築・運用・コンサルティングサービス
・売上高 1兆5千億円(平成15年12月期、連結)
・社員数 20,656名(平成14年12月現在)

 米国のIグループの本社では、全世界の社員を対象に「ワーク・アンド・ライフ・イシューズ・サーベイ」をほぼ3年ごとに実施している。これまでの調査では、成績が良く地位の高い社員ほどワーク・ライフ・バランスの悩みが大きいという結果が出ている。
 こうした動きに対応し、I社では、勤務場所に柔軟性をもたせる「モバイル・オフィス」や「e−ワーク制度」などの「ワーク・フレキシビリティー」の実現を図ってきた。同社では、今後、社員が仕事と生活の両立を図れるよう「ワーク・ライフ・バランス」を重視し適切に対処していかなければ、人材が流出してしまうこともあると考えている。

短時間勤務制度の概要
 同社は、通常「週5日38時間」の勤務体系をとっている。短時間勤務制度では、一週間あたり(1)3日勤務、(2)4日勤務、(3)5日勤務で労働時間は通常の6割、(4)5日勤務で労働時間は通常の8割、の4つの勤務体系から短時間勤務制度を希望する社員はいずれかを選択することになる。
 報酬はそれぞれの勤務体系で異なり、(1)(3)の場合は通常の5割、(2)(4)の場合は通常の7割となる。制度利用中も福利厚生制度は通常勤務の社員と変わらないため、勤務時間に比例した待遇になると同社では説明している。

短時間勤務制度の概要
勤務日数、時間 報酬
(1)週3日勤務 通常の5割
(2)週4日勤務 通常の7割
(3)週5日勤務で労働時間6割 通常の5割
(4)週5日勤務で労働時間8割 通常の7割

 同制度の対象となるのは、役員・出向者を除く新入社員から部課長などの管理職までの約18,000人。申請理由には原則制限はなく、育児や介護、仕事に役立つ勉強や就学などと仕事を両立させる必要性が高いと会社側が判断すれば制度を利用できる。適用期間は1年ごとの更新になるが、同社では2〜3年の利用期間を想定している。育児の場合は、子どもが中学に入学するまで利用可能になっている。期間終了後は通常勤務に戻る。
 同社では、伝統的に「ラインの人事管理」を重視しているため、社員が短時間勤務の時間内で無理なく仕事をこなせるかどうか、所属長が判断し承認する。制度利用者がいることで生じる仕事は、各職場で知恵を出し合い、バックアップ体制を構築することが前提となっている。

e-ワーク制度の概要
 e-ワーク制度の適用対象者は、自らの判断で業務遂行可能なバンド6(副主任レベルに相当)以上の社員であり、営業・サービス部門を除いた5000名弱である。同制度の利用を希望した場合、まず本人の仕事や業務内容等をもとに所属部門で在宅勤務が可能かどうか判断され、可能であれば制度が適用される。
 同社では、社外のどこからでも社内LANにつなげる在宅支援システムを以前から確立しており、ADSL等のブロードバンドの普及に伴い、その活用がさらに進んでいる。これに加えて、e-ミーティング(遠隔会議システム)、e-ラーニング(インターネットを利用した遠隔研修システム)等の社内ITインフラの充実により、e-ワーク制度の利用が促進されている。社内との通信に必要となる費用については個人負担となっており、とくに費用補助はしていない。
 また、同社の場合では、社員はもともと自分の専門性を生かした仕事、あるいは自分の専門性を高める仕事につくという考え方をもっているため、e-ワーク制度を利用するためにとくに仕事や部門を変わるといったことはしていない。

e-ワーク制度利用期間中の処遇
 在宅でも通常と同様の勤務をすることが条件であるため、業績評価、給与処遇等も通常の勤務者と同じである。
 適用期間は毎年12月31日まで、延長を希望する者は再度申請し、審査を受ける。更新回数については、対象が育児・介護のみであった時には、子供が中学に入学するまでの最大12年と規定していたが、現在はそういった規定はない。また在宅勤務の割合についても、とくに規定はないが、同制度の利用者の大多数は週2、3日を在宅勤務としており、全く会社に出勤せずに毎日在宅勤務という者は数名しかいない。通常は制度利用申請前に、曜日ごとに在宅勤務日を決めている。
 この制度を活用することにより、これまでは育児休職を満2年取得する社員が圧倒的に多かったが、2年未満で復職し、復職後は週数日の在宅勤務によって仕事と育児を両立するといった社員が増えている。

プロフェッショナルの育成
 最後に、同社では、社員と会社が共同でスキルとキャリア育成を効果的に継続し、推進する「プロフェッショナル・プログラム」を実施しており、グローバルな戦略的社員の育成に取り組んでいる。今後、短時間勤務制度を利用し高度な専門知識の習得に励む社員がでてくれば、このプログラムを補完するものとしても期待される。今後は、学習・自己啓発についてもいかに社員と会社のニーズを両立させ、会社として支援していけるかが重要である。社員がキャリアを積んで能力を発揮できるようなビジョンや環境づくりが必要となってくる。
 同社の取組みは、勤務時間と勤務場所に柔軟性を持たせることで、従業員の仕事と生活の調和をすすめる先進的な事例である。

(7)J社 「短時間勤務制度とWork@Home制度で成果を出しやすい環境・機会を提供」
はじめに
 同社の人事制度は、成果主義の徹底を柱にしながら成果を出しやすい環境・機会の提供のために、多様な働き方を認めている。従業員一人ひとりの異なる個性を尊重しながら主体的な経験の積み重ねができるようなチャンスを提供し、個人の目標の実現やキャリアアップを支援していくことを重視している。

会社概要
 同社は、平成2年に日本国内での事業を開始し、平成11年に外資系のソフトウェア会社としては初めて株式の店頭公開を行い、名実ともに日本に根付いた日本企業としてのスタートを切り、現在はデータベースカンパニーからソリューションカンパニーへの変革を進めている。同社は、個性的でスペシャリティを持った人材に活躍の場を提供し続けている。

会社概要
・所在地 東京都千代田区
・資本金 221億円
・売上高 862億円(単体、平成15年5月)
・業種 ソフトウェアプロダクトの販売及び当該ソフトウェアプロダクトの利用を支援する各種サービスの提供
・社員数 1,440名(単独、平成15年5月)

短時間勤務制度の概要
 同社の短時間勤務制度は、育児や介護だけでなくさまざまな事由に基づいて申請できる。適用期間も決まってはおらず申請事由が消滅するまでが原則であるが、1年ごとに見直しをする。勤務時間は通常の勤務時間の75%を基本としている(所定勤務時間は7h)。

在宅勤務制度の概要
 同社の在宅勤務制度は、育児、介護、療養などの事情により出勤が負担となる社員を対象としている。制度導入の条件として、在宅勤務希望者の仕事が明確な成果物によって「成果」の判断を客観的に行うことができること、および上司による業績考課が正常に行えることがあげられている。原則として週1日の出社が必要となる。
 適用期間は短時間勤務制度と同様で、申請事由が消滅するまでが原則であるが、1年ごとに見直しをする。
 専門的な技術が必要な仕事では、休職などで完全に実務から離れてしまう期間が長いとその後の復帰が困難になるため、休職より在宅勤務を望む社員が多いとのことである。
 同社の取組みは、専門性の高い人材に柔軟な制度運用により多様な働き方を認めることで、従業員の仕事と生活の調和をはかりながら能力発揮を促す事例といえる。

(8)K社 「営業力回復にむけて正社員とパートの雇用区分をなくす新契約区分CAP制度」
はじめに
 近年、大手スーパーは売上げの伸び悩みや競合の激化により構造改革を迫られ、それを背景にパートタイマーと正社員の垣根を取り払い、やる気と実力次第では店舗の幹部になる道を開くといったパートタイマーを重用する人事制度改革に乗り出している。「新3ヶ年計画」の達成を掲げて経営再建に取組んでいるK社は、営業力回復にむけて、「できる人・やりたい人」にやらせることを基本方針に人事制度の大幅な改革を進めている。経営成果にむすびつく柔軟な人材配置を可能にするため、正社員とパートタイマーの雇用区分をなくし、全ての従業員が契約で結ばれる新しい契約区分「CAP:Contract of All Partner」制度を導入した。
 均衡処遇を確保しつつ多様な働き方の選択肢を整備することによって、能力と意欲のある人材の活用を進める好事例といえる。

会社概要
 K社は、昭和32年に主婦の店K社として設立され、チェーンオペレーションによる流通革命を先導し、昭和47年に東証1部に株式上場するとともに、同年8月には三越を抜き小売業売上高日本一となった。K社の平成14年度の売上高は、単体で約1兆5,000億円、連結で約1兆9,600億円である。単体売上高を部門別にみると、食料品が全体の約57%、衣料品・身の回り品が約23%、家庭用品他が約20%の構成比となっている。

会社概要
・所在地 本店 神戸市中央区。店舗数267店
・資本金 1,170億円
・業種 小売業(GMS、SMチェーン)
・売上高 連結昭和32年,947百万円、単体1,498,848百万円(平成15年2月期)
・社員数 10,678名(平成15年8月現在)
東証1部上場

経営と人事の構造改革
 K社は現在、経営再建のための新3ヵ年計画を進めている。この計画は(1)不採算事業の整理・統廃合・リストラ、(2)事業売却による連結有利子負債の圧縮、(3)経営資源の集約を基本方針とし、赤字店舗の閉鎖や人員削減、子会社の清算などを進めている。このうちヒトの面では、希望退職者の募集と自然減等により、正社員数は平成10年の16,929名から平成15年8月には10,687名に削減されている。また賃金カットも実施しており、一般職では年齢による昇給の凍結と基本給の5%カット(賞与の削減で対応)が行われた。
 同社は、こうした危機を乗り切る対策に加えて、経営体力改善に向けて平成13年3月に発表したCVC(カテゴリーバリューセンター)構想を実現するため、前向きの人事制度の改定に乗り出している。これが「できる人・やりたい人」にやらせる人材重視型の人事制度である。
 これまでの人事制度は処遇中心の制度であったため、雇用区分別、勤務地区分別に人材をどう配置するかが重視され、能力とやる気のある人材の活用にとって制約条件となっていた。そこで新しい人事制度では雇用区分、勤務地区分に関係なく、できる人、やる気のある人に仕事の機会を与え、仕事の幅を拡大できるようにし、賃金等の処遇制度は、年功要素を排除し仕事・成果・相場に基づき配分する仕組みをめざすこととした。つまり人事制度の改革は、正社員かパートタイマーかにかかわらず、仕事に求められる要件にマッチする人材、できる人材を配置、登用するという明確な考え方に基づいて進められた。

図

 新しい人事制度は、すべての従業員が会社と契約で結ばれるということから、CAP(Contract of All Partner)制度と名づけられた。管理職など幹部社員からパートタイマーまで一貫した考え方で人事管理を行うことを基本方針とし、平成14年3月に制度の大枠を確定し、平成16年1月までに全従業員の新制度への移行が完了している。

CAP制度の概要
 CAP制度は、従来の雇用区分を廃止し、仕事の要件と希望する働き方の調和を考えて、会社と社員の間の契約を区分するという新しい考え方をとっている。従業員は勤務形態と異動範囲の違いによって4つの契約区分に分類され、働き方の変化によって契約区分の変更が可能となっている。なお、労働時間より営業時間が長くシフト勤務が通常の勤務形態であるため、フルタイムの概念は1日8時間労働であるかどうかではなく、シフト(早番・遅番)勤務が可能か、土日、祝日でも出勤可能かどうかによって分類されている。
 まず、フルタイムで働けて転宅が可能なゼネラルキャップは、従来の正社員に相当し、管理職については職務価値に基づく年俸制、一般職については年功要素を排除し、役割・仕事の発揮度による賃金体系(実質年俸制)がとられている。
 つぎにフルタイムで働けるが転宅が不可能なキャリアキャップは、有期(1年)契約であり、賃金は役割・仕事の発揮度で決まり、退職金は賞与にて前払いとなる。賃金の支払形態は日給月給制としている。これは、例えば週3日勤務といったような「短時間正社員」の可能性も念頭においているからである。
 さらにパートタイム勤務で転宅が不可能なアクティブキャップは、従来のパートタイマーに相当する。有期(1年)契約で支払形態は時間給であるが、賃金は同等の能力をもつゼネラルキャップと同水準に設定され、課長までの昇進が可能となっている。
 最後のプロフェッショナルキャップは、例えばパートタイム勤務で転宅が不可能であっても、企業側が特別に契約したいと考える高度な技術、技能をもつ人材を対象とするタイプである。契約は有期(1年)の個別契約であり、賃金形態は市場価値で決定する完全年俸制である。具体的には、薬剤師や生鮮の職人などが中心である。
 アクティブキャップとキャリアキャップ、キャリアキャップとゼネラルキャップとの間は、働き方の変化に応じて自由に行き来できる仕組みになっている。パートタイマーとして入社しても、フルタイムで働けるようになればキャリアキャップに、さらに転宅が可能となればゼネラルキャップに移れることから、現場で働くパートタイマーのやる気の向上につながると考えられている。

契約区分別従業員構成(平成15年8月)
  人数(頭数) 構成比 備考
ゼネラルキャップ 10,116名 15.60% うち雇用延長者3名含む
キャリアキャップ
312
0.5
 
アクティブキャップ
54,057
83.3
短期契約アルバイト3,196名含む
プロフェッショナルキャップ
386
0.6
パートタイム勤務者133名含む

 なお、育児短時間勤務者や家族介護により一時的に転宅が出来ない正社員は、ゼネラルキャップにとどまるが、育児短時間勤務の期間を終えた後にアクティブキャップに転換した者が1名いる。また、転宅可でパートタイムという区分については、一定の勤務実績のある従業員が一旦退職する時に退職時資格証明を発行し、再就職を希望する場合や転居先の店舗での勤務を希望する場合に、再格付けにより再雇用を行うものである。

全従業員共通の資格体系
 次の図は従来の制度とCAP制度における資格体系を示したものである。従来の制度の下では、雇用区分、勤務地区分によって職位制限が設けられており、定時社員(組合員)、パートタイマー、自宅通勤者であるH(ホーム)社員はAmgr(アシスタントマネージャー)、ショップマスターレベルまでしか昇格できず、課長クラスの売り場責任者にはなれなかった。

図

 それに対して新しい制度は、仕事に求められる要件に適合する優秀な人材を配置、登用できるように作られている。アクティブキャップをみると、A1からA5までの資格体系をもっており、A5になると売り場の責任者である課長クラスの職位につくことができる。同様にキャリアキャップについても、課長までの昇進が可能になっている。現在、アクティブキャップのA5級に格付けられている者は350名おり、レジの責任者1名と代行者2名がでている。アクティブキャップで優秀な人を課長に登用する場合には、フルタイム勤務のキャリアキャップに転換してもらうケースが多く、現在までに10名の登用者がいる。
 また、プロフェッショナルキャップとして契約する場合には、パートタイマーであっても管理職クラスにあたる副店長、店長、支配人クラスまで昇進可能な仕組みとなっている。これまでにパート出身の副店長登用者が1名でている。
 また、前述のようにアクティブキャップからキャリアキャップ等への区分間の移動を可能とするために、新しい制度の下ではゼネラルキャップ、アクティブキャップ、キャリアキャップの資格要件はすべて同じである。各5級には共通の昇格試験がある。
 従業員の選抜と登用については、できる人・やりたい人にチャンスを与えるという考え方から、従来の会社が任命する人事異動ではない。本人が手を挙げる機会を増やすため、公募、アセスメント、社内FA制度からなるキャリア自律型登用システムを導入している。このうち公募制度では、平成13年度と平成14年度に接客教育担当に登用された15名のうち9名、平成15年度にスタッフ22名の募集に応募した36名のうち5名がパートタイマーであった。またアセスメントによって、顧客サービス担当課長にパートタイマー4名が合格・登用されている。

処遇の均衡を確保する賃金システムの整備
 CAP制度は働き方の変化によって契約区分を変えることを可能としているが、そのためには賃金面でも区分間の整合性をとる必要がある。そこで同社は新しい契約区分の導入に際して、まず雇用区分ごとに設定されていた管理職、一般職、パートタイマーの賃金を、市場相場、仕事、成果といった賃金の構成要素に分解し、比較分析を行った。管理職、一般職については、退職金まで含めた賃金総額を時間給に割り戻すことによって、パートタイマーと比較を行った。その結果、雇用区分間の賃金格差は全国のどの地域においてもプラスマイナス5%以内の範囲で収まっていることが分かり、新しい契約区分の導入が比較的円滑に行われた。

各契約区分における賃金体系

各契約区分における賃金体系の図

 ベース部分をみると、アクティブキャップは店舗別に基本時間給が設定され、それに勤務時間帯の加給と職種による加給が加わる。キャリアキャップ、ゼネラルキャップは、全国を5つに分割した地域ごとにベース賃金が設定されており、さらにゼネラルキャップについては、勤務地限定(R)か勤務地限定なし(N)かによって、異なる賃金がベース賃金に上積みされる。
 ついで資格給は、契約区分にかかわらず資格ランクに対応して設定されている(支払形態が異なる場合でも時間割賃金は同じ)。なおゼネラルキャップについては、昇給期間が長くなるように、昇給レンジが広く設定されている。これは期間の定めのない契約であることを考慮して、入社から定年までのキャリアを考えて昇給レンジを設定しているためである。それに対して、キャリアキャップやアクティブキャップの場合には、有期契約であるため昇給レンジが狭く設定されている。最後の役割給は役割に基づく賃金部分であり、契約区分にかかわりなく同一の役割に対しては同一の賃金が設定されている。

CAP制度の運用と今後の課題
 平成16年1月、正社員を含めCAP制度への移行は完了した。評価制度や人材育成の仕組みも整備されたが、今後の運用で、いかに新制度の理念を達成していくかが重要となる。
 同社では、5万人を超えるパートタイマーのうち、毎年2万人が入れ替わる。労働集約産業として他社と差のある賃金水準の設定は難しい。地域の労働市場との整合性をとりながら、パートタイマーの定着を図りアクティブキャップを強くしていくことが、第一のポイントである。CAP制度は、上昇志向を源泉としたシステムであるが、全ての従業員が上昇志向をもって働くことを目的とするのは非現実的である。価値観の多様化に応じた動機付けを行っていく仕組みづくりも課題となる。できる人、やる気がある人を登用するためには、配置と評価が鍵となる。できることをどう見極めていくか、客観的な判断の仕組みを整備することが人事システムの信頼性を高めるであろう。
 最後に、CAP制度は、K社が営業力の強化と企業再生をめざして、人材と働き方の多様化に対応すべく導入された。「できる人・やりたい人」にやらせることを基本方針として、従来の正社員とパートタイマーという雇用区分を廃して、均衡処遇を確保しつつ多様な働き方の選択肢を整備することによって、能力と意欲のある人材の活用を進める仕組みである。今後、経営戦略として多様就業型ワークシェアリングを推進する企業にとって、示唆に富む事例といえる。


本章の参考文献等
「事例にみる雇用延長と処遇制度」 藤村博之監修 社会経済生産性本部 平成13年
「日本型ワークシェアリングの実践」 樋口美雄編著 社会経済生産性本部 平成14年
「ワークシェアリングがやってくる!」別冊宝島編集部編 宝島社新書 平成14年
「短時間労働の活用と均衡処遇」社会経済生産性本部 平成15年
「仕事と生活の調和に関する調査研究報告書」 社会経済生産性本部 平成16年
「エルダー」高年齢者雇用開発協会 平成15年4月号、平成16年3月号
「日本経済新聞」平成15年1月21日朝刊
「生産性新聞」平成16年3月5日号


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