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労災病院の再編計画


 趣旨
 平成13年12月19日の閣議決定「特殊法人等整理合理化計画」により、労災病院を再編して業務の効率化を図ることとされた。
 これに基づき、労災病院が労働政策として期待される役割を適切に果たし得るよう機能の再編強化を図るため、「労災病院の再編計画」を策定するものである。

 労災病院の今後の位置付け
(1)労災病院の役割
 労災病院は、被災労働者の早期職場復帰及び勤労者の健康確保という労働政策の推進に寄与するため、労災疾病に関する予防から治療、リハビリテーションに至る一貫した高度・専門的な医療(=勤労者医療)において、他の医療機関に対して中核的役割を担う。
 なお、労災病院が地域医療の中で現に果たしている役割も考慮しつつ、勤労者医療の充実を図る中で地域にとって期待されている医療にも適切な役割を果たす。

(2)労災病院が重点的に担う労災疾病の範囲
 労災病院が担う役割に鑑み、労災疾病をめぐる状況や労災病院が擁する医学的知見、医療資源の活用等を踏まえ、具体的な労災疾病として現在対象とすべきものとしては別紙1の12分野とする。

(3)勤労者医療において中核的な役割を担う上で強化すべき機能
(1) 勤労者医療に関する効果的、効率的な研究・開発を推進するため、労災病院群として全国的・体系的な症例の蓄積及び臨床研究機能の集約化等の整備を図る。
(2) 一般診療を基盤としつつ、民間医療機関等では対応が困難な高度・専門的医療の提供体制を確立するとともに、労働災害発生への対応を踏まえた救急医療に対する体制の整備等を図る。
(3) 労災指定医療機関等に対して研究開発の成果の普及体制や病病・病診連携を通じた被災労働者等の受入体制を強化するとともに、産業医等の臨床研修への積極的な対応を行う等、勤労者医療の地域支援機能の整備を図る。
(4) 労災疾病に対する新たな予防手法の普及等事業場における産業保健活動を支援するとともに、脳・心臓疾患、メンタルヘルス等の予防に関する相談・指導の支援を行う。
(5) 労災保険給付に係る業務上外の決定等における医学的判断に係る協力体制を強化するとともに、労働安全衛生行政の推進や労災認定基準の策定への寄与等、行政機関等への積極的な貢献を行う。

 労災病院の機能強化を図るための再編
(1)再編に当たっての基本的視点
(1) 労災病院が上記2に掲げた役割・機能を十分かつ効果的に果たすことができるようにするため、全国の労災病院を再編成し、勤労者医療に関する全国的なネットワークを構築する。
 すなわち、労災病院のうち臨床研究機能を集約的に担う病院を「中核病院」と位置付け、それ以外の病院との間で、症例の蓄積、勤労者医療に関する研究・開発、検証等体系的な研究体制を整備する。
(2) 勤労者医療における地域支援機能を的確に担い得るよう、地域的にバランスのとれた配置となるよう考慮する。

(2)再編の具体的内容
(1) 再編に当たって、次の諸点を考慮しつつ、各労災病院を総合的に評価する。
 現に有する診療・研究機能
 労災病院群としての効率的な機能発揮の観点から、勤労者医療に関する研究・開発実績、高度・専門的医療の提供実績、勤労者医療の地域支援実績等を考慮。
 経営の収支状況
 今後の経営の健全性確保の観点から、これまでの収支状況等を考慮。
 地域的配置状況
 労災病院のバランスのとれた配置の観点から、地域における労災病院の配置状況、二次医療圏における医療事情等を考慮。
(2) この結果、全国的なネットワークを構築する労災病院として現在の37病院を30病院に再編成する。
 この再編成に伴い、5病院を廃止するとともに4病院を2病院に統合することとし、廃止又は統合の対象病院及び廃止等の時期等は別紙2のとおりとする。
(3) なお、再編の実施に当たっては、平成16年4月1日に設立される独立行政法人労働者健康福祉機構において「労災病院統廃合実施計画」を策定し、同計画により順次再編を進めていくものとする。

 労災病院の廃止等に当たっての留意点
(1)地方公共団体等関係者との協議
 労災病院の廃止等に際しては、関係地方公共団体の長その他地元の関係者と協議し、当該地域における医療の確保、産業保健活動の推進等に十分配慮することとし、当該地域医療において必要不可欠との判断から存続を要望する労災病院に関しては、地方公共団体又は民間への移譲を積極的に進めていくものとする。
(2)患者への配慮
 廃止等によって患者の診療及び療養に支障を来すことのないよう、今後における診療・療養先の確保等に努める。
(3)職員への配慮
 廃止等の対象となった労災病院の職員については、他の労災病院等への配置転換、又は移譲先への再就職等による雇用の確保に十分配慮する。


(別紙1)

労災病院が重点的に取り組む12分野


対象疾病分野 課題等
 四肢切断、骨折等の職業性外傷
 製造現場や建設現場等で多発する四肢の損傷等のうち、手指切断、開放性骨折等緊急手術が必要なケースについて、神経接合を図るマイクロサージャリー(手術顕微鏡装置)等専門的な機器等による高度な医療が必要。
 せき髄損傷
 職場での転倒・転落、交通事故等による頸椎・せき髄損傷は、脊椎・泌尿器・リハビリテーション専門医、看護師、理学療法士等の専門スタッフの横断的、総合的な医療が必要。
 騒音、電磁波等による感覚器障害
 騒音作業による難聴、VDT作業による疾患、溶接、炉前作業等の紫外線・赤外線や通信業務等のレーザー光線等による眼疾患などが多数発生しており、エキシマレーザー等専門的な機器等による専門的な治療と、的確な検査・治療方法の研究開発が必要。
 高・低温、気圧、放射線等の物理的因子による疾患
 高温環境下での熱中症、物流現場における凍傷、高圧作業による潜水(潜函)病、放射性物質取扱現場での放射線障害等は、専門的な機器・設備による複数の診療科にわたる総合的な診断・治療等が必要。
 身体への過度の負担による筋・骨格系疾患
 職業性腰痛症や頸肩腕症候群等は、物流、介護、オフィス等多数な現場で依然多数発生しているが、その要因は多岐にわたり、また悪化・再発を繰り返すことが珍しくないことから、適正な療養管理と労災保険給付の観点からも、的確な診断方法の開発、職場の作業態様に応じた専門的な治療と予防策の確立、普及が必要。
 振動障害
 林業はもとより、建設業、製造業等でも依然多数発生しているが、加齢等の影響等未解明な点も多く、また療養が長期化する実態にあることから、適正な療養管理と労災保険給付の観点からも、一層有効かつ的確な診断・治療方法の研究開発が必要。
 化学物質の曝露による産業中毒
 化学物質による中毒症、がん等は、55,000種類以上の既存の多様な化学物質に加え、新規化学物質が次々と生成されることから、様々な職場、職域で発生する可能性があり、近年ではシックビル(シックハウス)といった事務系職場での問題の発生もみられるなど、これらの生体への影響分析と専門的な治療が必要。
 粉じん等による呼吸器疾患
 粉じんを発散する職場・業務は、セラミックス製造、金属切断・研磨等多数あり、じん肺及び肺がん等合併症は依然として多数発生しているが、じん肺は初期診断が難しい疾病であり、症例の集積を活用し、専門的な診断・治療と一層有効な診断・治療方法の研究開発とともに、全国の専門医の育成に貢献することが必要。
 業務の過重負荷による脳・心臓疾患(過労死)
 高血圧・糖尿病等の生活習慣病を抱える勤労者が業務の過重負荷により、脳・心臓疾患を発症し、いわゆる過労死に至るケースが増えており、社会問題化。
血管内の手術等専門的な機器等による専門的な治療と、症例の集積に基づいて業務と脳・心臓疾患との因果関係等を分析し、予防策の確立、普及が必要。
10 勤労者のメンタルヘルス
 労働環境の変化に伴い、強い不安やストレスなど、業務による心理的負荷で精神障害を発症する勤労者の増加、3万人を超える自殺者など、勤労者のメンタルヘルス対策(心の健康問題)は喫緊の課題。
的確なカウンセリングなど職場状況を踏まえた専門的な治療と、精神障害の予防、診断、職場復帰、再発防止策に関する研究開発が必要。
11 働く女性のためのメディカル・ケア
 女性の職場進出の拡大に伴い、職域の拡大、夜勤・交替制等勤務形態の多様化などが女性勤労者の健康に及ぼす影響を研究・解明し、女性が安心して働くことができるよう複数の診療科による医療面のサポートが必要。
12 職場復帰のためのリハビリテーション
 円滑な職場復帰を図るため、それぞれの患者の障害の状況、職場での作業内容等に対応した職場復帰プログラムに基づくリハビリテーション医療が必要。


(別紙2)

廃止・統合対象の労災病院について


 廃止対象病院
 現に有する診療・研究機能、経営の収支状況、地域的配置状況といった要素を総合的に勘案し、下表の労災病院を廃止の対象とする。

病院名 予定時期 備考
霧島温泉労災病院 平成16年度
 大牟田労災病院の廃止に当たっては、その設置経緯、「炭鉱災害による一酸化炭素中毒症に関する特別措置法」の趣旨及びCO中毒患者の療養の現状を踏まえた対応を検討する。
珪肺労災病院 平成17年度
大牟田労災病院 平成17年度
岩手労災病院 平成18年度
筑豊労災病院 平成19年度

 統合対象病院
 同一の二次医療圏に設置されていることから、下表の労災病院をそれぞれ統合の対象とする。

病院名 予定時期 備考
美唄労災病院及び
岩見沢労災病院
平成19年度
 統合に当たっては、一方の労災病院を分院として存続させ、機能の効率化・高度化を図る。
九州労災病院及び
門司労災病院
平成19年度


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