労働政策審議会
会長 西川 俊作 殿
雇用均等分科会 分科会長 若菜 允子 |
本分科会は、標記について、平成14年9月17日以降、平成15年3月18日までの間に11回にわたり検討を重ねてきたところであるが、今般、その結果を別紙のとおり取りまとめたので報告する。
なお、労働者委員から意見書が提出されたので添付する。
別紙
パートタイム労働者は近年著しく増加し、平成13年には1,200万人を超え、雇用者総数に占める短時間雇用者の割合は2割強となっている。このようにパートタイム労働が我が国の経済社会に欠くことのできないものとなる中で、パートタイム労働を労働者の能力が有効に発揮できるような就業形態としていくことが一層重要となっている。
パートタイム労働者の増加の背景には、柔軟で多様な働き方を求める需給両面のニーズがあり、少子高齢化の進展の中で、パートタイム労働等の働き方が拡大していくのは不可逆的な流れといえる。ただ、こうした動きが進行している背景には企業の経営環境の厳しさによる影響もあり、コスト要因でパートタイム労働者を雇用する企業の割合は増加し、通常の労働者が減少する中で、通常の労働者が行っていた役割の一部をパートタイム労働者が担うなど基幹的役割を果たすパートタイム労働者も増加している。一方で、パートタイム労働者の平均所定内給与を通常の労働者と比較すると、職種による違いがみられるものの、マクロの数字でみて職種や勤続年数を調整しても、なお格差が残っており、その拡大傾向がみられる。
このような中で、通常の労働者とパートタイム労働者の処遇の違いについて、個別企業において合理的な説明が困難な事例もみられ、通常の労働者と同じ仕事をしているパートタイム労働者等について、処遇の改善の必要性を認識する事業所も約半数を占めるとの調査結果もある。また、中長期的にみて多様な働き方が労働市場全体の著しい不均衡をもたらすことのないよう、労使双方にとって「望ましい」形で広まっていくことが重要である。そのための環境整備の観点からも、通常の労働者とパートタイム労働者との間の「働きに応じた公正な処遇」の実現に向けた取組が重要になってきている。
このような考え方に基づき、労働政策審議会雇用均等分科会においては、通常の労働者とパートタイム労働者との間の公正な処遇問題を中心に、今後のパートタイム労働対策の方向について、平成14年9月17日から検討を行ってきたところである。
その検討結果は、下記のとおりであるので報告する。
この報告を受けて、厚生労働省において、必要な対策を講ずることが望まれる。
1 | 通常の労働者とパートタイム労働者との間の公正な処遇を実現するための方策について
平成5年に制定された「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(以下「パートタイム労働法」という。)は、事業主による雇用管理の自主的な改善を基本的枠組みとしており、これに基づき「事業主が講ずべき短時間労働者の雇用管理の改善等のための措置に関する指針」(以下「指針」という。)が定められているとともに、各種の施策の拡充・整備が行われてきた。例えば、平成10年の労働基準法の一部改正による労働条件の明示に関する規定の改正や、平成12年の雇用保険法の一部改正に伴う短時間労働者の適用基準の年収要件の廃止など、事業主に対する雇用管理の改善を促すための基盤整備の意味を有するものも含まれている。
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2 | 関係行政機関等の役割 都道府県労働局では、法定労働条件の履行確保を図ることはもとより、健全なパートタイム就労の促進を図るべく、パートタイム労働法及び指針に基づき、事業所に対して、受入体制の改善、職場環境の整備等を進めるとともに、パートバンク、パートサテライト等による的確な労働力需給調整、地域の労働市場のきめ細かな情報提供等地域の労働市場の機能を高めることが重要である。また、企業におけるパートタイム労働者の雇用管理改善を積極的に推進していくようパートタイム労働法及び指針の一層の周知徹底を図ることが必要である。 都道府県等では、パートタイム就労の機会を増やし、労働市場への参入を容易にするため、公共職業能力開発施設では、パートタイム就労を希望する労働者に対して、短期の職業訓練を実施しているところであり、訓練期間・時間等に配慮した職業訓練を実施することが重要である。 短時間労働援助センターにおいては、パートタイム労働法に基づき、各種の情報提供、相談援助を実施しているところである。上記「1」を踏まえつつ積極的にパートタイム労働者の処遇の改善に取り組む企業に対し、好事例の情報提供等のアドバイスを行う等、同センターの一層の活用が図られるべきである。あわせて、パートタイム労働者の雇用管理改善に関する企業の取組を促すためには、事業主団体等の民間機関との連携も積極的に図られるべきである。 これらの対応に加え、相談者への行政サービスの観点から、パートタイム労働法及び指針を施行する都道府県労働局、労働基準監督署、公共職業安定所等の担当業務について周知徹底を図ることが重要である。また、短時間労働援助センターを含む関係諸機関においては、企業における関係労使が通常の労働者も含めた処遇のあり方について全体的な見直しを十分に行うことも重要であることに配慮しつつ、連携の強化を図ることにより、パートタイム労働法及び指針のより効果的な施行に努める必要がある。 なお、個々のパートタイム労働者と事業主との間の紛争でパートタイム労働法及び指針の指導等の対象とはならないものについて、紛争当事者から都道府県労働局に申請がなされた場合には、紛争調整委員会におけるあっせん制度によって、その迅速かつ適正な解決を図ることが重要である。 | ||||||||||||||||||||
3 | その他の雇用管理改善に係る事項等
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4 | パートタイム労働の就業に影響を及ぼしている税、社会保険制度 パートタイム労働者の中には、収入が一定額を超えないように自ら就業を調整する者が見られるところであるが、事業主から就業調整を促されている場合もある。このような就業調整行動は、パートタイム労働者の能力向上意欲にもマイナスとなり、パートタイム労働者の賃金水準の改善が進まない構造となっている。 また、多様なライフスタイルが選択できるような社会制度や慣行が望まれているため、税制及び年金保険、医療保険などの社会保障制度に関し、就業調整が起こりにくい、働き方に中立的な制度への見直しに向けた検討が求められる。男女共同参画社会基本法第4条においても「男女の社会における活動の選択に対して及ぼす影響をできる限り中立なものとなるように配慮されなければならない」とされており、このような観点からの検討にもなるものである。 今後の税制の見直しに当たっては、就業調整との関連も考慮しつつ、公正・活力・簡素の原則を踏まえることが求められているところである。なお、就業調整をしているパートタイム労働者の中には、課税されること自体に抵抗感を持っている層も多いが、現行の税制に対する誤解から就業調整を行っていると考えられる者もおり、手取りの逆転現象が解消されている現在の税制についての理解を促していくことが重要である。 年金保険及び医療保険の見直しについては、平成16年の年金改革に向けて、「年金改革の骨格に関する方向性と論点」(平成14年12月)において、多様な働き方への対応の観点から、短時間労働者等に対し厚生年金の適用を行う方向で検討を進めるとともに、医療保険における取扱いについても検討を進めるとされたところであり、国民的な議論の下に検討が行われることが期待される。
一部の使用者委員から、パートタイム労働者への適用拡大については、付随する多くの検討課題も含め幅広い観点から議論すべきであり、特に煩雑な企業の事務手続きも含め雇用コストの増大などが、重い負担になることを懸念するとの意見があった。 | ||||||||||||||||||||
5 | その他 パートタイム労働者の処遇改善に当たっては、既に述べたとおり、通常の労働者も含めた総合的な働き方や処遇のあり方について、労使での議論が積み重ねられていくべきものである。したがって、今後のパートタイム労働対策をさらに効果的に推進していくためには、企業の雇用管理、労使の取組、パートタイム労働者の就労状況等、改正指針の社会的な浸透状況を含めた実態把握を指針改正の一定期間経過後行うことが必要である。これらの状況を踏まえ、社会的制度等の影響も考慮しつつ問題点の分析を行い、パートタイム労働対策として求められる施策について、幅広い検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずることが重要である。 なお、使用者委員から、上記の検討に当たっては、企業における雇用管理のあり方については、企業労使が自主的に取り組むことが原則であり、企業活動に対する諸規制の過度な強化とならぬようにすることが重要であるとの意見があった。 |
労働者委員 秋元 かおる 岡本 直美 片岡 千鶴子 佐藤 孝司 吉宮 聰悟 |
1993年の現行パート法制定以降、行政による施策は行われてきているにもかかわらず、フルタイム労働者とパートタイム労働者との賃金や労働条件等の処遇格差がむしろ拡大しているのは、法律のあり方に問題があることにほかならない。
フルタイム労働者とパートタイム労働者との賃金や労働条件等の処遇格差をそのままにしておけば、企業の人件費コスト削減圧力も加わって、フルタイム労働者から安上がりで雇用が不安定なパートタイム労働者への置き換えがますます進む。また、労働組合等の反対を押し切って解雇ルール・有期雇用や労働者派遣などの労働基準等に関する規制を緩めようとしているが、これらが「均等待遇原則」の確立もなく強行されれば、労働市場全体の著しい不均衡や処遇条件の低下だけをもたらすことになりかねない。
賃金等の処遇のほかに、パートタイム労働対策にあたっての重要な課題のもうひとつが、有期雇用契約のあり方である。パートタイム労働者の多くは有期雇用契約で、契約を反復更新し、雇用が不安定なものになっている。また、雇い止めをめぐる個人等の紛争を惹起している。当分科会で私たちは、有期雇用契約のあり方についてパートタイム労働の立場からの検討を求めたが、労働基準の問題という理由で当分科会では一切、議論がされなかったことは極めて遺憾である。
政府にいま求められているのは、ILO175号パート条約やわが国が批准しているILO100号同一価値労働・同一報酬条約、ILO156号家族的責任条約を踏まえた早期の「均等待遇原則の法制化」である。それは、労働者がライフスタイルの中でパートタイム労働を安心して選択できることにもなり、わが国の経済社会の安定的発展に貢献するものと考える。
この考え方にたって、報告に反対する以下の意見を提出する。
1.均等待遇原則の法制化を明記しておらず、反対である
報告は、均等待遇原則の法制化を明らかにしておらず、パートタイム労働者の期待を裏切るものになっている。私たちは、均等待遇原則の新たな法律または現行パート法の改正を直ちに行い、段階的に施行していくことを、報告に明記すべきとの意見を述べてきたが受け入れられなかった。
私たちが求める法律は、「合理的な理由がある場合を除いて、短時間労働等を理由に通常の労働者との差別的取扱いを禁止する」という均等待遇原則を明記したものである。この目的を果たすために、法律には、(1)賃金などの均等待遇原則、(2)「合理的理由」に関する立証責任を事業主に課す、(3)フルタイムからパートタイム、パートタイムからフルタイムへの転換権、(4)就業規則の作成・変更に関する意見聴取の義務づけ等を定め、「合理的な理由がある場合」の考え方は厚生労働大臣が定める指針で明らかにすべきである。
2.現行パート法第3条をそのままにした「指針の改正」は容認できない
現行パート法が事業主に雇用管理の改善を促す行政指導の根拠法にすぎないこと、および現行パート法第3条が「均衡考慮に努める」という努力義務規定であることが、処遇改善の実効があがってこなかった原因である。施行後10年たった見直しのこの時期になお、強制力をもたない努力義務規定の法律のまま、どんな「立派な指針」と力説されても、処遇改善に効果をもたらすことは期待できない。
平成15年3月1日現在 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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◎分科会長 ○分科会長代理 |