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厚生労働省発表

平成15年1月24日
レク終了後解禁
職業能力開発局技能振興課
課長    久保村 日出男
課長補佐 徳田  剛
電話    5253-1111(内線5943)
夜間直通 3502-6958

「ものづくり人材育成研究会報告書」について
−ものづくり人材育成投資が企業の生き残りの分かれ目−


 今般、厚生労働省の委託研究として開催された「ものづくり人材育成研究会」(座長唐津一東海大学教授)において、産業集積地域におけるものづくり人材育成に関する報告書を取りまとめたので、その内容を公表する。

 研究会設置の背景と目的
 製造拠点の海外移転や製品輸入の拡大、大企業の下請け再編等の産業構造の変化や、若年者を中心としたものづくり離れや技能離れといった傾向が続く中で、高度な熟練技能をもつ技能者の製造業から他の産業への移動や就業自体をやめてしまうことなどにより、中小製造業においては、我が国の経済発展に重要な役割を担ってきた優れた技能者の確保や、その後継者の育成が困難となってきている。
 しかしながら、高い技術力をもつ中小製造業は、今後、高付加価値化等により新規成長分野を担うとともに、独立開業により新たな雇用を生み出すなど、日本の雇用の創出の観点からも期待が寄せられている。
 そこで、今までの地域における産業雇用の創出やものづくり基盤を形成してきた中小製造業について、その技術・技能の特質と経済環境の変化への対応の状況、技術・技能の継承と若年労働者の確保・育成の状況等を把握するとともに、中小製造業の地域ごとの集積状況に係る実態、集積における技術・技能の空洞化への対応、効果的な人材育成の方法等について職業能力開発の側面から把握・分析し、その結果を踏まえてものづくりに係る職業能力開発施策に係る現状と課題について検討を行うこととした。
 このため、厚生労働省は、株式会社三菱総合研究所に委託し、平成14年5月より学識経験者等(別添1)を構成員とした「ものづくり人材育成研究会」を開催し、産業集積地のメリットを活用したものづくりに係る人材育成や技能継承等について、専門的な立場から検討いただいた。

 研究の方法
(1)集積地域内の中小製造業へのアンケート調査の実施
10の集積地域(山形県村山、茨城県北部、多摩北部、東京南部、長野県諏訪、長野県坂城、静岡県西遠、愛知県尾張北部、大阪府中河内、福井県鯖江)に所在する8業種(工業用プラスチック、鉄鋼、非鉄金属、金属製品、一般機械、電気機械、輸送用機械、精密機械)の企業(従業員5人以上300人未満)へのアンケート調査の実施
(2)集積地域の現地ヒアリング調査の実施
(3)有識者へのヒアリング調査の実施
(4)研究会での調査結果の検討・分析及び政策提言

 研究会のスケジュール
 平成14年5月〜12月

 報告書の要旨

1 アンケート調査結果
 (1) 経営状況
  1995年調査と比べ悪化しているとする企業が増加しており、厳しい経営環境となっている。
 (2) 取引状況
 特定企業(親企業)の協力会への加盟状況から、親企業からの脱皮やケイレツ崩壊が進んでいることが分かる。
 近い将来の競争相手は、中国をはじめとしたアジアをあげる企業の割合が高い。
 (3) 労務・人材確保
 最も不足傾向が高いのは「技術者」である。
 自社の技能者を4つの類型別(多能工、高度熟練技能者、マネジャー型技能者、テクノワーカー)で見ると、「多能工」割合が38.2%で最も高い。
 (4) 人材育成・能力開発
 基幹的従業員に求められる知識・技能は、「生産工程を合理化する知識」が最も多い(61.1%)。
 高いレベルの技能を持つ技能者の評価・処遇は、「給与等の金銭面で優遇」が圧倒的に多く、約7割(69.4%)の企業で行われている。
 (5) 地域での取り組み
 地域におけるネットワーク活動について、現在、「参加していない」企業が34.0%、「参加している」企業の中で参加しているネットワーク活動については、「技術的な情報交換をしている」(33.5%)が最も多い。
 集積地域のメリットを生かして生産現場の基幹的従業員の能力向上を地域で図っていく方策としては、「熟練技能者の人材バンクやOB組織を作り、必要な時にアドバイスを受けられたり、若い技能者を教えてもらったりできるようにする」が最も高い。
 基幹的従業員の育成を進める上での問題点としては、「地域内の企業間での交流が少ない。」が最も多い(40.5%)。

2 特定テーマ分析
 (1) 取引関係の変化と人材問題
 売り上げを伸ばしている企業は、不況期では早々に事業再構築に取り組み、研究開発に力を入れた企業であり、現場の技能者レベルでは高度な技術的知識を身につけたテクノワーカーの割合を高めた企業。
 (2) 集積地域における中小製造業のIT戦略と人材ニーズ
 営業力や技術力を背景に高付加価値分野にシフトしながら、成長を続けている勝ち組群、受注の低迷に悩んでいる企業群との二極化が一層加速。
 (3) ものづくり人材の育成と確保−企業と地域における取組
 現在の地域における人材育成の取組は活発とは言い難い。その背景には、集積地域が各企業にとって有効な企業間交流の場として機能していないという点に加え、人材育成は地域における企業間交流によるものではなく企業の自主的な取組によるものであるという根強い通念が存在。
 (4) 技能者類型による分析
 テクノワーカー型企業では「成長中」「安定している」とする企業が多く比較的好調と推測される。

3 現地調査結果
 (1) 大阪府中河内地域:都市部開発企業型地域の事例として
 地域全体としてはまだまだ国際競争力を保持している。また、公共団体と地元企業との連携がかなり緊密であり、強みとなっている。
 「技術者と技能者の中間的な人材」が必要とされている。
 (2) 山形県村山地域:地方工場誘致型地域の事例として
 地域内企業の(横の)交流・ネットワークは十分行われているとは言えず、人材育成面でも同様。この原因としては、このような地域内企業のネットワーク化の旗を振る人材が見当たらないことを指摘。
 (3) 茨城県北部地域:企業城下町型地域の事例として
 タテ型構造の維持が難しくなっている状況の中で、個別企業の自立化への取組が行われ始めている。
 合目的的に企業間連携を通じて販路拡大や新分野進出に挑戦する試みが誕生している。
 (4) 静岡県西遠地域:好調な地域の事例として
 ものづくり人材の育成は、系列の中で親メーカーが行う講習及び自社内でのOJTを主体とした教育によって行われてきたケースが一般的。
 地域の支援機関が行う取組は、「先端技術産業の発展」に力点を置いたものが目立つ。

4 これからのものづくり人材育成の方向性
 第1 ものづくり人材育成の重要性と地域の視点の導入の意義
  (1) 人材育成投資の重要性
   ・ 人材育成を投資として捉え、人材育成に対して積極的な投資を行うかどうかが、その企業の生き残りの分かれ目となる。
  (2) 地域(集積)を活用した競争力強化
   ・ 従来の縦のケイレツは確実に崩壊しつつあり、中国の「最新設備+コスト(人件費)安」に対して、日本は「(技術+技能)+地域集積」により対抗していくスキームに転換することが必要。

 第2 競争を生き抜いていくためのものづくり人材育成への取り組み方
  (1) 企業としての取り組み
   ・ ものづくり企業が生き残っていくための一番の方法は、“オンリー・ワン”企業となること。“オンリー・ワン”の製品づくりを可能にしているのは、その企業の持つ技術力・開発力であり、それを支えるものづくり人材の力である。
  (2) 地域としての取り組み
   1) 都市部開発企業型
 人材育成をよりシステマチックに行うことの効果について意識啓発することがまず必要。
 熟練層には技術革新への対応を積極的に図るように務めてもらい、若年層には新しい技術技能の基礎となる基本技能の習得を求める。
   2) 地方工場誘致型
 地域内の企業の交流を深め、互いに支え合う形で地域のものづくり人材育成に取り組んでいかなければならない。
   3) 企業城下町型
 親会社にも下請中小企業の面倒を見るまでの体力がなくなりまた取引関係もケイレツに頼らなくなってきた。
 提案することができる技能者、いわゆる「考える技能者」を育成することが必要。
 技能教育は地域の企業が共同して行うなどの展開が求められる。
   4) 地場産業型
 技能者のマルチ技能者化の促進。
 「地域の熟練技能者の経験を生かす/伝える」ことが重要。
 地域内の中小企業が共同企画して、熟練技能者の持つ技能を地域として継承していくことが求められる。
  (3)  国としての取り組み
   1) ものづくり技能が適正に評価される社会づくりに向けた施策
 職業能力評価制度は、今後も一層充実させていくことが必要であり、技術・技能レベルに応じた適正な対価が支払われるような社会環境づくりを誘導していくことが必要。
 「ものづくり教育」(若年者に対する意識啓発等)は、次の世代を担う子供達にものづくりの正しい姿を理解してもらう点で重要。
   2) 人材育成に対する企業の意識改革のための施策
 好業績をおさめている企業の事例を始めとして、「技能者を適正に処遇している事例」などの情報提供を積極的に行っていくことが必要。
 「人材育成投資減税」「人材育成控除」のような誘導策を用意し、中小製造業が主体的に人材育成に取り組むように仕向けていくことも求められる。
   3) 技能レベルに応じたマッチングのための施策
 ハローワークにおいて技能の客観的なレベルに応じた適切な職業紹介を実施するなど、技能レベルに応じたものづくり人材のマッチングを図るべき。
   4) ものづくり技能者の育成支援のための施策
 民間が担えない基礎基盤技能の習得への公的職業能力開発施設における取組の強化や技能者の団体等が行う人材育成や処遇改善への取組の促進など、ものづくり技能者の育成支援のための施策を積極的に展開していくことが必要。
   5) 地域におけるものづくり人材育成を支援し、促進するための施策
 今後国は、地域レベルにおいて、ものづくり人材の育成を具体的に推進する事業にも力を入れていくことが必要。
 ものづくり産業の集積地域等において、事業主団体を活用し、傘下企業に対してものづくり人材の育成を奨励・促進する事業などについて要検討。
   6) 今後の日本のものづくりの発展に資する技能の育成のための施策
 技能の進歩に応じて新たに出現してきた技能にも配慮し、どのような技能が存在しているかを明確にし、その技能が支えているものづくりは何か、その技能の国際的優位性はどうか等を調査把握して、日本のこれからの産業発展に必要と考えられた技能については重点的に育成支援を行う。
 またその結果に応じて、ものづくり現場のニーズ・進歩に応じた職種の改廃や高度のレベル設定などの技能検定制度の適正な運営を図っていくことが必要。


別添1

ものづくり人材育成研究会

(委員)
大木 栄一 日本労働研究機構 副主任研究員
尾上 正人 奈良大学社会学部 助教授
加藤 秀雄 福井県立大学 教授
鎌田 彰仁 茨城大学人文学部 教授
 ◎唐津 一 東海大学 教授
藤本 真 日本労働研究機構 臨時研究助手
 ○八幡 成美 日本労働研究機構 統括研究員
(◎:座長、○主査)

(事務局) 
株式会社 三菱総合研究所
(敬称略五十音順)



ものづくり人材育成研究会報告書(概要版)


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