平成14年7月26日
厚生労働大臣 坂口 力 殿中央最低賃金審議会
会長 神代 和俊
平成14年5月14日に諮問のあった平成14年度地域別最低賃金額改定の目安について、下記のとおり答申する。
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平成14年度の地域別最低賃金額改定の目安については、累次にわたり会議を開催し、目安額の提示の是非やその根拠等についてそれぞれ真摯な論議が展開されるなど、十分審議を尽くしたところである。
2 労働者側見解
労働者側委員は、6月の月例経済報告、日銀短観や経営者の業況判断、供給サイドの指標を見る限り、景気は底打ちの方向にあるが、経済の自立的回復には内需の拡大が大きなウェイトを占めており、勤労者の賃金が改善されなければ、消費が伸びず、足元の回復も維持できないという考え方を表明した。
また、グローバル化との関係でも、単に賃金水準で国際競争力をうんぬんすることは適切ではなく、広く高コスト構造などの改善と中小零細企業の活性化策の強化を図る一方、賃金秩序を形成する上でもっとも基本的なルールとしての最低賃金について存在感のある水準が必要であると考えている旨主張した。
さらに、全雇用者に占めるパート労働者の比率は徐々に高まってきており、パート労働者の賃金が不安定な状況にあるからこそ、不当な格差がある賃金の下支えが必要であり、底上げを図るためにも、また勤労者の生活実感からも最低賃金の引上げは不可欠である旨主張した。
特に、最低賃金の水準は、一般労働者の水準の35〜36%程度であり、長期にわたって改善傾向が見られず、また、生計費の観点からも最低賃金の改善が求められており、初任給と比較しても最低賃金は低位にあることから、その水準の改善が必要である旨主張した。
今日の目安制度の下では、組織労働者の取組みと同様に上げ幅のみに準拠した取組みをした結果、対象者の生活水準向上や格差縮小につながってこなかったものであり、今後は上げ幅だけでなく、あるべき水準を重視した審議にしていくべきである旨主張した。
今年は、時間額による目安提示のスタートの年であり、働き方の多様化に対応した公正さの確保と、存在感のある最低賃金、その水準の改善に向けて、時間額表示がスタートする年にふさわしい、目に見える改善を行うべきであると最後まで強く主張した。
3 使用者側見解
使用者側委員は、経済状況及び雇用失業情勢は昨年、一昨年と続いている厳しい状況から少しも改善されずに更に悪い方向に進み、日本経済は危機的な状況であって、このような厳しく悪化している状況のもとでは、賃金を上げていく必要はなく、最低賃金もその例外ではないという考えを表明した。
また、今年は民間賃金の動向に大きな変化が起きていると主張した。民間企業では、賃上げを据え置いただけではなく、賃金カーブの修正など実質的な賃金切下げ措置を行い始めているものであり、ほとんどの産業で初任給の引上げを止めるなども、民間賃金の新しい動きを示すものであって、最低賃金の判断も、このような民間賃金全体の動向と無関係であってはならない旨主張した。
さらに、賃金コストのこれ以上の引上げは、中小企業は耐えられないものであり、最低賃金の改定によって、さらに人件費負担を増やすことはますます中小経営者を窮地に追い込むものであるため、最低賃金の改定には慎重でなければならないと考える旨主張した。
加えて、平成14年の賃金改定状況調査が報告されたが、現下の厳しい状況を反映して、第1表の賃上げ凍結事業所がついに過半数超えの55%となっていることや、第4表の賃金上昇率が0.1%であったことからみて、今年果たして目安の議論は必要なのか、はなはだ疑問であると主張した。
また、今年については、地域別最低賃金の表示単位期間の時間額単独方式への一本化という要素が加わることから、日額で見て実質プラスアルファが出る地域があるということも考慮すべきと主張した。
以上のような全体状況を踏まえると、すべての事象がかつての右上がりから右下がりの時代になっており、最低賃金だけが毎年引き上げられていくことはすでに不可能になっているのであることから、異常で危機的でもある今日の経済情勢に鑑み、今年の目安改定については、据置きにとどまらずむしろ、引下げ額の提示が必要なときではないかと最後まで強く主張した。
4 意見の不一致
本小委員会としては、これらの意見を踏まえ目安を取りまとめるべく努めたところであるが、労使の意見の隔たりが大きく、遺憾ながら目安を定めるに至らなかった。
5 公益委員見解及びこれに対する労使の意見
公益委員としては、地方最低賃金審議会における円滑な審議に資するため、賃金改定状況調査結果を重要な参考資料として目安額を決定するというこれまでの考え方を基本としつつ、極めて厳しい経済状況における小規模企業の経営実態等の配慮及びそこに働く労働者の労働条件の改善の必要性に関する意見等にも表われた諸般の事情を総合的に勘案し、公益委員による見解を下記1のとおり取りまとめ、本小委員会としては、これを公益委員見解として地方最低賃金審議会に示すよう総会に報告することとした。
また、同審議会の自主性発揮及び審議の際の留意点に関し、下記2のとおり示し、併せて総会に報告することとした。
なお、下記1(1)の公益委員見解については、労使双方ともそれぞれ主張と離れた内容となっているとし、不満の意を表明した。
(以下、別紙1と同じ。)
平成14年4月2日
地域別最低賃金額の表示単位期間については、中央最低賃金審議会が最低賃金額の決定の前提となる基本的事項の一つとして、できるだけ全国的に統一的な処理が行われるよう、その考え方を整理しこれを地方最低賃金審議会に提示することとされ、目安制度創設以来、数度にわたり検討が行われた結果、平成12年12月15日に中央最低賃金審議会で了承された「中央最低賃金審議会目安制度のあり方に関する全員協議会報告」において、表示単位期間については、現行の日額・時間額併用方式から時間額単独方式へ一本化することが適当である旨の報告が全会一致でまとめられたところである。
1 時間額単独方式への移行について
(2) この移行に当たっては、具体的にどのような金額で地域別最低賃金額の時間額を単独表示とするかという問題があるが、これまで各地域で自主的に定め適用している、現行の時間額からの移行を基本とするのが適当と考える。
大方の地域においては平成14年度から時間額単独方式に移行が進められることを念頭におくと、地域別最低賃金額の金額改定に係る目安は平成14年度から時間額で表示することが適当と考える。
(参考)
しかし、同報告においては「各都道府県において定められている最低賃金額の日額と時間額との関係をどのように考えるかという課題があり、この他現在のランク別に金額で示す表示方式が適当かどうか等の論点も考えられる」とされ、時間額単独方式への移行に当たっての条件整備を図っていくため、具体的な検討を行う必要があるとされたところである。
本時間額表示問題全員協議会は、地域別最低賃金額の時間額単独方式への移行に当たって、そのための課題を整理、検討したところであるが、今般、下記のとおり「時間額表示問題全員協議会報告」として取りまとめたので報告する。
2 目安の表示方法について
この場合、多くの地域においては移行に当たっての支障はないと考えられるが、これまで日額と時間額がそれぞれ地域の実情を踏まえて定められてきた経緯もあり、直ちに移行するのが困難な地域もあり得るので移行に向けての検討及び準備のための期間を設けることとし、それら地域においてはその期間を利用して、遅くとも平成16年度の地域別最低賃金額改正時からは時間額単独方式に移行できるよう地域における所定労働時間や賃金支払形態の状況等を勘案して必要な準備を進めることが適当である。
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