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フィブリノゲン製剤によるC型肝炎ウイルス感染に関する調査報告書(概要)

はじめに

 ○ フィブリノゲン製剤について、過去の事実関係を明らかにするとともに、関係者の当時の状況認識も踏まえつつ、過去の旧厚生省等の対応について検証。
 ○ 調査に当たっては、調査の網羅性、客観性の確保、情報公開の徹底等に留意しつつ、省内等調査、海外調査、文書調査等を実施。

1.フィブリノゲン製剤

 ○ フィブリノゲン製剤は、血漿中のフィブリノゲン低下による出血傾向に対する補充療法に使用される。現在、我が国で製造・販売されている三菱ウェルファーマ社製のフィブリノゲン製剤の効能・効果は「先天性低フィブリノゲン血症の出血傾向」であり、品質及び安全性の確保の観点から、原料血漿及び最終製品におけるHIV、HBV及びHCVのNAT試験やウイルス不活化処理(SD処理及び加熱処理)を実施している。
 ○ 諸外国においては、現在、ドイツ、オーストリア等で承認・販売されており、英国、フランス、カナダ等においても必要な患者に対し供給されている。

2.旧厚生省及び旧ミドリ十字社の対応

(1) 米国におけるフィブリノゲン製剤の承認取消しについて

 ○ 昭和52年、米国FDA(食品医薬品庁)は、B型肝炎のリスクを考慮し、同国で販売されていたフィブリノゲン製剤の承認を取り消した。FDAによると、当時の米国の製剤は、ウイルス不活化処理が実施されていなかった。
 ○ この米国の措置は、昭和53年に旧ミドリ十字社で、昭和54年に旧予研の一部職員によりそれぞれ認識されていたが、当時の旧厚生省本省が認識していたか否かは確認できなかった。
 ○ しかしながら、旧厚生省本省は、遅くとも旧ミドリ十字社がフィブリノゲン製剤の再評価基礎資料を提出したとする昭和59年9月には、米国の措置を認識し得る状況にあったと考えられる。また、昭和60年1月の再評価調査会の記録には「米国で副作用(肝炎)のため販売が禁止されており安全性に問題がある」との記載がある。

(2) フィブリノゲン製剤に関する安全対策

 ○ 昭和62年3月、旧厚生省は、青森県三沢市の診療所からの非加熱製剤による肝炎発生の通報を受けて、旧ミドリ十字社に対し全国調査の実施を指示。
 ○ 昭和62年4月に加熱製剤が承認され、6月より販売開始。
 ○ 昭和62年11月、旧厚生省の調査指示に対し、旧ミドリ十字社は加熱製剤による非A非B型肝炎3例の発生を報告したが、実際には、この時点までに、同社は加熱製剤との関連の可能性がある少なくとも30例の情報を入手していたと思われる。
 ○ 昭和63年5月、旧ミドリ十字社から報告された34例に対する血液製剤評価委員会の検討結果に基づき、旧厚生省は、同年6月、旧ミドリ十字社に対し、緊急安全性情報の配布等を指示し、フィブリノゲン製剤はやむを得ない場合に必要最少限量を使用するよう徹底。以後フィブリノゲン製剤の販売数量は激減。
 ○ 平成2年には国内原料血漿、平成4年には輸入原料血漿につき、それぞれ抗HCV抗体ドナースクリーニングを実施。平成5年には原料血漿をすべて国内での献血由来のものに切り替え、平成6年にはSD処理を追加。

(3) フィブリノゲン製剤に関する再評価

 ○ フィブリノゲン製剤は、昭和60年10月に再評価指定。
 ○ 昭和62年7月、旧厚生省は、再評価調査会の審議結果を踏まえ、旧ミドリ十字社に対し、効能・効果を「先天性低フィブリノゲン血症」に改める等の内示を伝達。同社は、産科婦人科領域の団体からの要望も踏まえ、当初、「後天性低フィブリノゲン血症」の効能・効果の存続を要請し、有用性立証のための臨床試験計画書を提出したが、最終的に平成2年3月、臨床試験実施を断念。
 ○ 平成7年1月、再評価調査会は、「後天性低フィブリノゲン血症」について、臨床上の必要性を再度確認するため、旧ミドリ十字社に資料提出を要請。同社は調査計画案等を提出するが、平成9年2月、旧厚生省に対し、「後天性低フィブリノゲン血症」についての特別調査を断念する旨を報告。
 ○ 平成10年1月、再評価調査会は審議結果を取りまとめ、3月、適応を「先天性低フィブリノゲン血症」とする再評価結果を公表。

3.旧厚生省及び旧ミドリ十字社の対応に関する評価

(1) 米国におけるフィブリノゲン製剤の承認取消し後の対応

 ○ 昭和52年当時、海外情報に関する製薬企業の報告制度や、旧厚生省が自ら外国情報等を収集する仕組み、本省と施設等機関との間の情報伝達の仕組みなどが構築されておらず、情報収集体制が不十分であったと言わざるを得ない。
(注)現在では、研究所も含めた危機管理体制が構築されており、外国情報も本省が遅滞なく把握できる体制が構築されている。
 ○ フィブリノゲン製剤の再評価基礎資料が提出され、再評価調査会で審議された昭和59〜60年当時においては、次のような点を考慮すると、特段の措置を講ずべきとの判断に立つ状況にはなかったと考えられる。
昭和61年以前の状況として、(1)旧厚生省が認識していたフィブリノゲン製剤による肝炎発症例は極めて少なかった可能性が高い、(2)医療現場において肝炎のリスクを勘案してもなお有用性が高く評価されていた、(3)非A非B型肝炎の予後に関する知見の詳細は必ずしも明らかでなかった、ことが考えられること
昭和61年2月に旧ミドリ十字社から提出された再評価申請資料によると、米国で取消しの理由となったB型肝炎については、同社の製品ではHBVスクリーニングの導入等により既に対応しており、米国とは状況が異なると説明されていたこと

(2) フィブリノゲン製剤の安全対策に関する対応

 ○ 昭和62年3月の青森県の肝炎集団発生の報告を受けて、旧厚生省は、安全対策として加熱製剤への早期の切替えを指導し承認を行った。結果的には、加熱製剤によっても肝炎の発生を防止することはできなかったが、HCVが同定できていなかった当時としては、やむを得ない判断であったと考えられる。
 ○ 昭和63年6月に、加熱製剤による多数の肝炎発生報告を踏まえて、旧厚生省は緊急安全性情報の配布を指導する等の措置を行ったが、旧ミドリ十字社からの最初の報告の段階(昭和62年11月)で同社が保有していた情報を正確に旧厚生省に伝えていれば、より早い段階でこうした措置をとった可能性は否定できない。

(3) フィブリノゲン製剤の再評価に関する対応

 ○ フィブリノゲン製剤については、昭和60年10月の再評価指定以降、平成10年の最終決定まで長期間を要しているが、これは以下のような事情によるものである。
再評価は既に承認され臨床現場で使用されている医薬品の見直しであり、臨床データを基に客観的に検討される必要があり、最終決定までにある程度の時間を要すること
特にフィブリノゲン製剤の場合、安全対策のために、非加熱製剤から加熱製剤へ、更にSD処理製剤へと改良が行われ、実質的な再評価の対象製剤が変更されたこと
 ○ しかしながら、最終決定までの期間をできるだけ短縮するため、現在では、以下のとおり改善されている。
再評価指定時に再評価申請資料の提出期限を設定し、提出された資料の範囲内で評価を行う(平成8年〜)。
再評価調査会を廃止し、厚生労働省が専門家と協議して最終結果を取りまとめる(平成11年〜)。

まとめ

 ○ 医薬品等の安全確保対策については、これまでの取組により充実した体制が構築されているが、今後とも制度の適切な運営や、医学・薬学の知見の向上を踏まえた不断の見直しが必要。
 ○ 肝炎対策については、平成14年度から、検査の実施、治療法の研究開発、診療体制の整備など総合的な対策を実施しており、今後とも公衆衛生上の観点から肝炎の発生防止に向けた取組を強力に推進する。


フィブリノゲン製剤によるC型肝炎ウイルス感染に関する調査報告書


(別紙)

フィブリノゲン製剤の承認以降の主な経緯

# 今回の調査の中で三菱ウェルファーマ社から報告されたもの
昭和39年 6月9日 (株)日本ブラッド・バンク、「フィブリノーゲン−BBank」の承認取得。
10月24日 (株)ミドリ十字(以下「旧ミ社」)への社名変更に伴い「フィブリノーゲン−ミドリ」に販売名変更。
昭和40年 11月頃 旧ミ社、不活化処理法として紫外線照射に加えBPL処理を追加実施。#
昭和49年 5月 旧ミ社、旧厚生省の指導に基づき、フィブリノゲン製剤の添付文書を改訂。BPL処理に関する記述は削除。#
昭和51年 4月30日 旧ミ社、生物学的製剤基準名の変更に伴い、販売名を「フィブリノゲン−ミドリ」(以下「非加熱製剤」)に変更。
昭和52年 12月7日 FDA、当時米国で販売されていたフィブリノゲン製剤の承認を取消し。
昭和59年 6月6日 旧厚生省、再評価基礎資料提出を指示。
9月6日 旧ミ社、旧厚生省に再評価基礎資料を提出。#
昭和60年 1月31日 再評価調査会、非加熱製剤について再評価の必要があると判断。
8月21日 旧ミ社、BPL処理に代え抗HBsグロブリンを添加した製剤を製造開始。#
10月1日 旧厚生省、非加熱製剤を再評価指定。
昭和61年 2月1日 旧ミ社、再評価申請。
昭和62年 3月24日 旧厚生省、非加熱製剤による肝炎の集団発生を報告してきた青森県三沢市の医師に報告を求める。(医院への聴き取りによる)
3月26日 旧厚生省、旧ミ社に対し青森県下の肝炎事故に関する調査を指示。#
4月20日 旧ミ社、非加熱製剤の回収開始。同日、加熱製剤の承認申請。
4月30日 血液製剤調査会、加熱製剤を審議。同日、旧厚生省は加熱製剤を承認。
5月20日 旧ミ社、非加熱製剤を承認整理。
5月26日 血液製剤評価委員会、非加熱製剤の肝炎症例を検討。
6月25日 再評価調査会、非加熱製剤の適応を「先天性」に限定する結果を提示。
7月2日 旧厚生省、再評価調査会の審議結果を旧ミ社に伝達(内示)。
8月12日 旧ミ社、内示に対する反論を提出。
9月25日・10月1日 産科婦人科領域の団体、旧厚生省に「後天性」の適応を残すよう求める要望書を提出。
11月5日 旧ミ社、加熱製剤使用による肝炎発症例3例を旧厚生省に報告。
昭和63年 5月12日 血液製剤評価委員会、緊急安全性情報の配布・加熱製剤返品等を決定。
6月6日 旧ミ社、旧厚生省の指示に基づき緊急安全性情報の配布を開始。#
平成2年 3月12日 旧ミ社、旧厚生省に内示了承を報告。
11月1日 旧厚生省、加熱製剤を再評価に指定。
平成5年 7月9日 旧ミ社、SD処理製剤の承認事項の一部変更を申請。
平成6年 8月12日 旧厚生省、SD処理製剤を承認。
平成7年 1月23日 再評価調査会、「後天性」の有用性につき旧ミ社に資料提出を指示。
平成9年 2月17日 旧ミ社、旧厚生省に対し「後天性」の臨床試験を断念することを報告。
平成10年 3月12日 旧厚生省、再評価結果を公表し、効能・効果を「先天性」のみに限定。


【照会先】
 厚生労働省医薬局監視指導・麻薬対策課
木下(内2763)
西辻(内2760)


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