ここに掲げる測定方法は、室内空気中のクロルピリホスを対象とする。室内空気の採取は、新築住宅における場合と居住住宅における場合では異なる方法による。基本的にVOCの採取方法に準拠するが、防蟻剤の使用状況と性質を考慮し、新築の場合の採取時間は概ね2時間、採取の高さは目的に応じ床上約30cm〜1.5mの範囲内とする。室内空気採取は、居間(リビング)および寝室で採取し、いずれかの高い値を記載し、評価する。また外気の影響を考慮するため、同時に外気も採取する。試料は、固相吸着−溶媒抽出法によって採取し、基本的にガスクロマトグラフ/質量分析計と連動した装置によって測定する。(注1)
1.1.1.測定方法の概要
捕集装置に室内空気及び外気を一定流速で吸引して、測定対象物質を捕集する。捕集装置から測定対象物質を溶媒で溶出させ、これをキャピラリーカラムに導入してGC/MSにより分離、定量することを基本とする。
1.1.2.試薬
(1) アセトン:1μl程度をGC/MSに注入したとき、測定対象物質及び内標準物質のクロマトグラムに妨害を生じないもの。
(2) 標準物質:クロルピリホスは残留農薬分析用標準物質、またはこれと同等以上のもの。
(3) 標準原液(1000μg/ml):各メスフラスコ10mlに標準物質10mgを精秤し、アセトンを加えて10mlとする。この溶液1mlは各々の標準物質1000μgを含む。(注2)(注3)
(4) 標準溶液(100μg/ml):標準原液の一定量をアセトンを用いて10倍に希釈する。この溶液1mlは各々の標準物質100μgを含む。(注2)(注3)
(5) 高純度窒素ガス:測定対象物質及び内標準物質のクロマトグラムに妨害を生じないもの。(注4)
1.1.3.器具および装置
(1) 抽出瓶:ガスクロマトグラフ用バイアル(容量0.1〜2ml)
(2) マイクロシリンジ:容量1〜10μlまたは10〜100μlが計りとれるもの。
(3) 共栓付き試験管:10mlの目盛りがあり、かつ0.5mlが正確に計りとれるもの。(注5)
(4) 試料採取装置:試料採取装置は、捕集装置、マスフローコントローラ、ポンプ、ガスメータとを連結したものから成り、その例を図1に示す。
試料採取装置に使用する器具類は十分に洗浄して汚染に注意する。試料採取に当たって装置を組み立てた後、漏れのないことを確認する。
(5) ガスクロマトグラフー質量分析計(GC/MS)
測定対象物質 | 測定質量数 |
クロルピリホス | 197, 199 |
2) GC/MSの分析条件の設定と機器の調整
GC/MSの分析条件の例を以下に示す。これを参考にして適宜設定する。分離及び定量が十分であればこの限りではない。測定対象物質を検証試験で確認する。
カラム温度 : | (20℃/min) (30℃/min) 80℃(1min保持)−−−−→230℃(1min保持)−−−−→300℃ |
注入口温度 : | 280℃ |
試料注入法 : | スプリットレス |
インターフェース温度: | 300℃ |
イオン源温度: | 200℃ |
*MSに質量校正用標準物質(PFTBA またはPFK)を導入し、質量校正用プログラムにより、マスパターン、分解能{質量数(m/z)=18〜300程度の範囲で1質量単位(amu)以上}等を測定目的に応じて所定の値に校正する。質量校正結果は測定結果と共に保存する。
1.1.4.試料採取および試験液の調製
(1) 試料採取
空気試料の採取は、室内では居間と寝室の2カ所、ならびに外気1カ所についてそれぞれ2回ずつ採取する。試料採取に際しては、トラベルブランクとして捕集装置を密栓したまま状態で試料採取と同様に持ち運ぶ。
(2) 試験液の調製
1.1.5.試験操作
(1)測定
(2) 検量線の作成
混合標準溶液を用いて、GC/MSの感度に合わせて混合標準濃度系列を調製する。共栓付き試験管に標準溶液(100μg/ml)を0.2〜10μl、内標準溶液1μlを添加し、ついでアセトンを加えて0.5mlとして5段階程度の混合標準濃度系列を調製する。
1.1.6.検出下限値、定量下限値の測定
検量線作成時の最低濃度(定量下限値付近)の混合標準濃度系列について、1.1.5の(1)の1)操作を行って測定値(A:ng)を求め、(As-At)にAを代入して、1.1.7の濃度の算出式より空気濃度を算出する。(ただし、V=1440L、t=20℃、P=101.3kPaとする)5試料以上を測定して求めた標準偏差(s)から次式により、各測定対象物質の検出下限値及び定量下限値を算出する。ただし、操作ブランク値のある物質では操作ブランク値を測定し、混合標準濃度系列と操作ブランク値のうち、大きい方の標準偏差を用いて計算する。(注22)
この測定は機器の分析条件を設定した場合など必要に応じて必ず1回以上行う。
検出下限値 = 3s (mg/m3)
定量下限値 = 10s (mg/m3)
目標定量下限値は指針値の1/10とする。
1.1.7.濃度の算出
1.1.5の(1)で得られた結果から次式を用いて空気中の各測定対象物質の濃度を算出する。
C: | 20℃における空気中の各測定対象物質の濃度 (mg/m3) |
As: | GC/MSに注入した試料中の各測定対象物質の重量(ng) |
At: | 各測定対象物質のトラベルブランク値(ng) 操作ブランク値と同等と見なせる場合は操作ブランク値を用いる。 |
E: | 試験液量(ml) |
v: | GC/MSへの注入液量(μl) |
V: | ガスメータで測定した捕集量(L) |
t: | 試料採取時の平均の気温(℃)。湿式型積算流量計を使用しているときには、積算流量計の平均水温(℃) |
P: | 試料採取時の平均大気圧(kPa)。湿式型積算流量計の場合には(P-Pw)を用いる。 ここで、Pwは試料採取時の平均気温tでの飽和水蒸気圧(kPa) |
結果には個々の測定値と各場所における平均値の両方を記載する。
注 1: | 精度が保証されているならば検出器として炎光光度検出器(FPD)を用いることも可能である。物質の同定はリテンションタイムによることになるが、検出感度はこちらのほうが高い。この場合内標準物質はリンを含んだ物質を利用する。 |
注 2: | 試料採取量、濃縮操作及びGC/MSの条件等によって測定感度は異なるので、ここに示した濃度を目安に適宜変えてもよい。 |
注 3: | FPDを用いて測定する場合は、保持時間等を標準溶液を用いて確認する。 |
注 4: | 精製空気を使用してもよい。有機化合物を含有しないことが重要であり、測定対象以外の物質については全炭化水素で0.01ppm以下、一酸化炭素0.05ppm以下、二酸化炭素0.3ppm以下、水分濃度2ppm以下(露点-70℃以下)で純度99.999%以上のものが望ましい。 |
注 5: | 3000rpm程度の遠心ができ、目盛りが付いているものが望ましい。 |
注 6: | 十分な性能を有する市販品を利用してよい。この場合の捕集物の抽出法に関しては説明書を参照すること。捕集装置がフィルター状の場合、フィルターを通気漏れのないよう吸引部に固定できるフィルターホルダーを使用する。 |
注7: | 捕集管の形状や測定対象下限値を考慮して採取時間をある程度前後させてもよい。 |
注 8: | 感度を得る目的で大容量注入法を用いてもよい。 |
注 9: | 室内より外気の化学物質濃度が高いと考えられる事情があるときは、トラベルブランクは室外で行う。 |
注10: | 採取は2回ずつ行うが、分析について2重に行うのは10%の頻度でもよい。指針値近傍の測定値が得られた場合などは採取した2本とも分析する必要がある。 |
注11: | 必要に応じて超音波抽出装置等の装置を利用する。抽出液は必要に応じてメンブレンフィルターもしくは遠心分離器にかけ、浮遊粒子などの夾雑物を取り除く。 |
注12: | 分析環境から試験操作過程で汚染されることがあるので、操作ブランクを一連の測定操作の中で少なくとも一回以上実施する。 |
注13: | 空気試料の測定に際して、その準備−機器の運搬−試料採取−持ち帰り−前処理−測定の過程で化学物質で汚染された空気で捕集管が暴露する可能性があるので試料採取時の記録を参考にして試験の頻度を考慮する。 |
注14: | 定量用質量数のピークに対する他イオンからの影響を判断するために行う操作であり、強度比が検量線作成時と大きくかけはなれている場合は、まず、装置の性能を確認するために再度標準試料を測定して強度比を算出する。その強度比の変動が±20%の範囲内であれば、測定済み試料のクロマトグラムのベースライン等を再検討したり、かけ離れた原因をチェックして再分析を行い、その強度比が検量線作成時と大きくかけはなれないことを確認する。 |
注15: | 試料空気の測定値が作成した検量線の直線範囲からはずれている場合は、分析の諸条件を検討したうえで検量線を作成し直し、再度測定する。 |
注16: | 操作ブランク試験は試料測定に先立って行い、操作ブランク値を大気濃度に換算した値が目標定量下限値を超える場合には、再洗浄や機器の調製を行った後、再度測定し、操作ブランク値を十分低減してから試験液を測定する。 |
注17: | 測定対象物質のトラベルブランク値が操作ブランク値と同等(等しいか小さい)とみなせる場合には移送中の汚染は無視できるものとして試料の測定値から操作ブランク値を差し引いて濃度を計算する。移送中の汚染がある場合には、3試料以上のトラベルブランク値を測定した時の標準偏差(s)から求めた定量下限値(10s:大気濃度への換算値)が目標定量下限値以下の場合、およびトラベルブランク値による定量下限値が目標定量下限値より大きくても試料の測定値が、トラベルブランク値による定量下限値以上の場合には、試料の測定値からトラベルブランク値を差し引いて濃度を計算する。 しかし、移送中に汚染があり、またトラベルブランク値による定量下限値が目標定量下限値より大きく、しかも試料の測定値がトラベルブランク値による定量下限値より小さい場合は原則として欠測扱いとする。この場合には、汚染の原因を取り除いた後、再度試料採取から行う。 |
注18: | 内標準物質の感度が検量線作成時の感度と大きく異ならないことを確認する。また、内標準物質との相対感度が検量線作成時の相対感度に対して±20%以内の変動であることを確認し、これを越えて感度が変動する場合には、その原因を取り除き、それ以前の試料を再測定する。さらに、保持時間については、比較的短い間に変動(通常、1日に保持時間が±5%以上、内標準物質との相対保持比が±2%以上)する場合には、その原因を取り除き、それ以前の試料の再測定を行う。 |
注19: | 定量下限値以上の濃度の測定対象物質に対して、測定値平均とそれぞれの測定値の間に±15%以上の開きがある場合は、原則として欠測扱いとして、その原因をチェックし、再度試料採取を行う。 |
注20: | FPDを用いる場合はリテンションタイムで測定対象物質を確認する。 |
注21: | 測定対象物質のいずれかの強度比の変動が(b)で算出した±20%の範囲を超える場合は、その濃度の混合標準濃度系列を再度測定する。 |
注22: | 測定対象物質のいずれかの定量下限値が目標下限値より大きい場合には、試薬、器具、機器等をチェックして、目標定量下限値以下になるよう調整する。 |